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--  安全情報  --

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「航空安全」「ヒューマンファクター」の

第一人者が「トップダウン思考」

により様々な「社会問題」を考察・点検

 

 

トップダウン思考とボトムアップ思考

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 本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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--- 目次 ---

 

 ヒューファク安全情報:MH370便事故の裁判開始 2023-12-01    New!

 ヒューファク安全情報:医療のデジタル化 2023-11-06     

 ヒューファク安全情報:ビル建設現場で転落事故 2023-10-06

 ヒューファク安全情報:読者からのご質問 2023-08-17 

 ヒューファク安全情報:御巣鷹山事故の謎解き 2023-08-12 

 ヒューファク安全情報:暗中模索の米航空界 2023-07-18

 ヒューファク安全情報:繫華街でガス爆発 2023-07-07 

 ヒューファク安全情報:自動運転で事故急増 2023-07-06 

 ヒューファク安全情報:潜航艇が行方不明 第二報 2023-06-25

 ヒューファク安全情報:潜航艇が行方不明 2023-06-21

 ヒューファク安全情報:原発稼働の条件 2023-06-18

 ヒューファク安全情報:イエティ航空ATR72-500が墜落 第2報 2023-05-10

 ヒューファク安全情報:日本人のDNA  2023-05-04

 ヒューファク安全情報:ANA松山沖事故の真実  2023-04-29

 ヒューファク安全情報:保津川下りで水難  2023-04-06

 ヒューファク安全情報:罪深い半導体の誤動作  2023-04-02

 ヒューファク安全情報:H3ロケット打上げ失敗  2023-03-13

 ヒューファク安全情報:ギリシャで列車が正面衝突  2023-03-03

 ヒューファク安全情報:意見交換会の開催  2023-03-01

 ヒューファク安全情報:プリウスがまた暴走  2023-02-18

 ヒューファク安全情報:AIの能力と限界  2023-02-17

 ヒューファク安全情報:過熱する半導体競争  2023-02-13

 ヒューファク安全情報:JR西が寒波で立ち往生  2023-01-27

 ヒューファク安全情報:中国が民間航空機を開発  2023-01-24

 ヒューファク安全情報:マイクロソフトCEOの記者会見  2023-01-19 (2016/12/10作成)

 ヒューファク安全情報:イエティ航空 ATR72-500 が墜落  2023-01-17

 ヒューファク安全情報:ボトムアップ思考の事故調査  2023-01-06

 ヒューファク安全情報:増え始めた理解者  2022-12-12

 ヒューファク安全情報:航空ショーで空中衝突  2022-11-22

 ヒューファク安全情報:揺れ動く航空界  2022-10-31

 ヒューファク安全情報:読者からのコメント  2022-09-04 

 ヒューファク安全情報:読者からの質問  2022-08-27 

 ヒューファク安全情報:リニア新幹線の意外な目的  2022-08-20 

 ヒューファク安全情報:リニア新幹線のアキレス腱  2022-08-12 

 ヒューファク安全情報:羽田への都心上空飛行_第2報  2022-07-28 

 ヒューファク安全情報:羽田への都心上空飛行  2022-06-16

 ヒューファク安全情報:知床観光船が沈没  2022-05-20

 ヒューファク安全情報:ロシアのウクライナ侵攻  2022-05-15

 ヒューファク安全情報:中国東方航空機が墜落  2022-03-27

 ヒューファク安全情報:みずほ銀行銀行でシステム障害  2022-02-20

 ヒューファク安全情報:米国の苦渋の選択  2022-01-10

 

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HuFac Solutions, Inc.

MH370 便事故の裁判開始

2023-12-01

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: マレーシア航空 MH370 便は旧マレーシア航空所有のボーイング 777 型機で、2014 年 3 月 8 日にマレーシアのクアラルンプー ルから北京に向かう途中で消息を絶ちました。搭乗者 239 人のうち、154 人が中国人乗客でした。 2015 年 1 月 29 日、マレーシア民間航空局は MH370 の墜落で搭乗者 239 人全員が死亡して、事故原因は 不明であると発表しました。この航空運送損害賠償責任訴訟が 27 日、北京市朝陽区人民法院で 開廷し審理が始まりました。乗客約 40 人の家族が訴訟を起こしており、北京の朝陽法院で 27 日 から 12 月 6 日にかけて、それぞれ法廷が開かれて審理が行われます。乗客家族の代理人弁護士 によると、訴訟を起こした 40 人以上の乗客家族の要求はそれぞれ異なるものの、主に審理を通 じて MH370 便の消息不明の真相究明を求めることと、賠償問題の 2 点に集中しているということ です。この訴訟の被告は、マレーシア航空など 5 社です。まず再編前のマレーシア航空、次に再編後の新マレ ーシア航空、さらに航空機の製造元である米ボーイング社、航空機エンジン製造元の英ロールスロイス社、マレーシア 航空に保険を提供した独アリアンツ社です。乗客遺族が提起した民事賠償額は 1000 万~8000 万元(2 億 880 万~16 億 7000 万円)です。賠償額の大部分は精神的損害に対する慰謝料で、高いもので は 3000 万~4000 万元(6 億 2600 万~8 億 3500 万円)となっています。今回、北京朝陽法院に訴 訟を起こした 40 人余りの乗客家族のほか、110 人余りの乗客の家族はいずれも既に被告 5 社と和 解しています。受け取った金額は 250 万~300 万元(5220 万~6260 万円)ということです。 

図.1 訴訟に備える乗客遺族と弁護士

 

Q: MH370 便事故とはどのような事故ですか?

 

A: 2014 年 3 月 8 日、乗客 227 名と乗務員 12 名を乗せたクアラルンプール発北京行きのマレーシア航空 MH370 便 (ボーイング 777-200)が消息を絶ちました。当局や報道などによる事故の経緯を時系列で整理する と次のようになります。(時刻はマレーシア現地時間)

 

00:41 MH370便がFL350(巡航高度35,000フィート)を目指してクアラルンプール国際空港の滑走路32Rを離陸 する。その後の飛行経路はウェイポイントIGARI(注.1)に向けた25°の方向(図.2の赤線)。 

 

01:01 巡航高度35,000フィートに到達。

 

01:07 30分毎に送信されるACARS(注.2)の最後のメッセージを受信。

 

01:19 マレーシア航空管制との最後の交信。機はIGARIに接近しており、副操縦士が「All right, good night」(注.3)と口頭で管制官に挨拶。

 

01:21 IGARIで経路変更した後の北緯6°55′15″東経103°34′43″(図.2の赤丸)でマレーシア航空 管制の2次レーダー(注.4)がトランスポンダー(注.5)からの最後の電波を受信。

 

01:22 トランスポンダーからの電波が途絶えたことを確認。

 

01:30 ベトナム航空管制の求めに応じて他機がMH370便に呼びかけたが、意味不明の音声と無線の雑 音が聞こえるのみであった。

 

01:37 30分毎のACARSのメッセージが届いていないことを確認。

 

02:11 インマルサット-3 F1 人工衛星を経由した最後のACARSメッセージ以後の7回のPing信号(注.6)のう ちの1回目を受信。

 

02:15 マレーシア軍の1次レーダー(注.7)がMH370便をペナン島の北西200マイル(320キロメートル)の位置で最後 に捕捉。

 

06:30 MH370便が所定時刻に到着しないことを北京空港当局が確認。

 

07:24 マレーシア航空がMH370便の消息途絶を正式に報道発表。

 

08:11 インマルサット-3 F1 人工衛星を経由した最後のPing信号を受信。

 

注.1 : この辺りは戦前に日本が統治していた関係から、ウェイポイントに日本語の名称が多く付けら れている。IGARI(猪狩?)もその一つ。

注.2 : 空地デジタル・データリンク・システムとして、必要な運航情報をAIRINCの通信網を介して航空機か ら地上へ、または地上から航空機へ自動的に提供するシステム。出発・到着時刻や出発地・ 目的地、便名、搭載燃料などのデータはデータリンクの無線通信系を介して地上のACARS無線局 に送信される。

注.3 : この種の挨拶は通常でもパイロットと管制官の間でよく交わされる。後にマレーシア航空が関係者 の感情を慮って若干修正じたが、本質には影響しないので当初の発表を表示する。

注.4 : 物体の反射電波を受信して映像化するタイプのレーダーを1次レーダーというのに対して、トランス ポンダーがレーダーからの電波を増幅して中継した電波を映像化するタイプのレーダーをいう。

注.5 : 2次レーダーが発した電波を受信して、航空機のデータを追加するとともに増幅などしてレーダ ーに応答する航空機の通信中継機器。

注.6 : インマルサット社が航空機や船舶の所在を確認するためにインマルサット衛星を通じて定期的に(このケースでは1時間毎)航空機や船舶に送信している電波信号。航空機や船舶からの電波との 照合を行うことから「Handshake(握手)」ともよばれる。 注.7 : 物体の反射電波を直接受信して映像化する一般的なレーダーをいう。

 

図.2 MH370 便の飛行経路

 

Q: 当局は原因不明と結論しましたが、これまでどのような可能性が云々されたのですか?

 

A: これまで原因を特定できるような機体残骸や飛行記録装置(FDR と CVR)が回収されていないこ とから、さまざまな可能性が唱えられました。そのうち主なものは、機材故障説、乗員によるハイ ジャック説、リチウムイオン電池などの搭載物の発火による火災説などです。いずれも確定的な原因とは確 認されていません。フライトレーダー 24 が音信不通の直後のわずかな時間に南方への方向転換を記録し ていることと、軍関係者の情報などから、関係者は MH370 便がインド洋に向かってしばらく飛行を 続けたものと考えてしまったようです。

 

Q: 事故調査にはマレーシアの事故調査当局だけでなく多くの航空技術専門家が関わったと思いますが、 事故原因を特定できなかった最大の理由は何だと思いますか?

 

A: 航空機のシステムは複雑であり、事故原因を特定するのは極めて難しいといえます。そのため、近年 の航空機には飛行記録装置(FDR と CVR)の搭載が義務づけられています。この事故では、残念 ながら広範囲の海中捜索にもかかわらず機体残骸と飛行記録装置を回収できませんでした。ボトム アップ思考の分析しかできなければ、機体残骸や飛行記録装置のような物的証拠がなければ真実を 究明できません。それどころか、情報を誤解してしまう可能性もあります。この事故の調査に関 わった航空技術の専門家がボトムアップ思考の分析しかできなかったことが、事故の真因を特定でき なかった最大の理由ではないかと思っています。

 

Q: 御社はトップダウン思考の分析で事故原因を特定できたのですか?

 

A: 真因と断定できるわけではありませんが、事故発生直後の 2014 年 4 月 11 日にかなり説得力があ ると思える原因を導きだしています。

 

Q: 紙面の都合で分析の詳細をここで披露することはできないかも知れませんが、その一端だけでも 話していただけませんか?

 

A: 先ず、トップダウン思考の観点から「MH370 便はインド洋方面にしばらく飛行を続けた」という誤解を払 拭しました。そして、関係者の間で唱えられていた原因説が蓋然性をもたないを 1 つひとつ説明 しました。その後、誰もが納得できると思われる可能性を導きだしたのです。それは、パイロットによ る「ある些細なエラー」が MH370 便をスピン(錐揉み旋回)に陥らせてウェイポイント IGARI 近辺の海にほぼ 垂直に墜落させたというものです。この分析は、これまでの関係者の推測をすべて根底から覆す ドラスティックなシナリオといえます。海中捜索はインド洋を中心に行なわれましたが、もし IGARI 近辺の南シ ナ海を重点的に行なわれていれば、事故機の残骸や飛行記録装置を回収できたかも知れません。

 

Q: MH370 便事故の裁判は今後どのように展開すると思いますか?

 

A: 中国人の乗客の遺族は、当局の結論にまったく納得していません。そのため、中国では乗客の遺 族によるデモすら行なわれています。中国の裁判がわが国のように証拠重視主義であれば、物的 証拠が何も得られていない現状では裁判所も判決に苦慮するかも知れません。中国の裁判が米国 のように陪審員制度を採用しているとは思えませんが、状況証拠を積み重ねて物的証拠を補完す るには弊社のようなトップダウン思考の分析能力が必要になります。中国の司法関係者や知識人にそ のような能力があるのか、弊社は関心をもって今後を注視しています。中国がトップダウン思考の分 析ができる能力を発揮できるのであれば、航空安全に貢献できるものと期待しています。

 

Q: トップダウン思考の分析ができる航空の専門家が裁判に関与できる可能性はあるのですか?

 

A: 米国をはじめ欧米先進国には訴訟支援(Litigation Support)という職業があり、多くのコンサルタン トが裁判に関与しています。技術や知的所有権などの専門知識が必要な訴訟では、法律を主に学 んだ弁護士では審理に適切に対応できないからです。弊社代表も、かつて米国における裁判に専 門家として関与して勝訴に貢献したことがあります。わが国の技術者がコンサルタントとして訴訟支援 に関与するには、トップダウン思考の分析能力が不可欠といえます。 

 

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HuFac Solutions, Inc.

医療のデジタル化

2023-11-06

 

Q: 医療のデジタル化とはどういうことですか?

 

A: 医療のデジタル化とは、コンピュータや AI などのデジタル技術を活用することにより、医療従事者の業務 負担(Workload)の軽減や医療業務の効率化、患者へのサービスの向上などをはかることです。デ ジタル技術の発達の兆しが見え始めた現在、社会は産業界だけでなく医療の分野にもデジタル化を拡 げて人々の福利(Wellbeing)に資することを望んでいます。米国のアマゾン社やマイクロソフト社創始者 のビル・ゲイツ氏、テスラ社 CEO のイーロン・マスク氏なども、この分野へのビジネス進出を目指しています。わ が国にも、医療のデジタル化を積極的に推進している民間医療機関がいくつかあります。 

 

図.1 医療のデジタル化

 

Q: わが国の医療のデジタル化の歴史はどういうものですか?

 

A: わが国では、医療のデジタル化が意外に早く始まっています。1980 年代には、診療報酬請求業務の 効率化のためにレセプトコンピュータ(レセコン)が普及し始めました。1990 年代になると電子カルテが登場し て、1999 年には当時の厚生省が電子カルテのガイドラインを作成しています。政府が 2000 年に IT 基本 戦略を発表すると、わが国も世界的なデジタル化・IT 化に追従し始めました。それ以降、医療現場 ではデジタル化が加速しています。厚生労働省の調査によると、2020 年の電子カルテの一般病院での 普及率は 57.2%でした。2008 年には 14.2%でしたので、12 年間でデジタル化が 4 倍まで進んだこ とになります。

 

Q: わが国では主にどのような分野で医療のデジタル化が進んでいるのですか?

 

A: 主に下記のような分野でデジタル化が進んでいます。

・ 電子カルテ

・ オンライン診療やオンライン問診票

・ システムのクラウド化

・ 患者データの共有

・ スマホなどを活用した予防医療

 

Q: 医療のデジタル化は今後どのような方向に向かいますか?

 

A: 1つ考えられるのは、デジタルツイン(Digital Twin)というデジタル化技術の採用です。この技術 は、人体のように安全に実験がしにくい対象に対して、特性を数学的に数値化することにより解 析を容易にする技術です。航空工学や建築・土木工学、原子力工学などの分野でも、リスクが大き い実験を避けるために数値解析という名称で活用されています。AI が発達している現在では、数 値解析やデジタルツインの応用範囲がますます広がっています。

 

Q: わが国の医療のデジタル化は欧米先進国にくらべてどうなのですか?

 

A: 残念ながら遅れているといわざるを得ません。その理由は、わが国の国民性と保守的な医療制度 に関係しているといえます。

 

Q: わが国の国民性とはどういうことですか?

 

A: わが国では、医療のデジタル化だけでなく、マイナンバー制度やデジタル貨幣の普及なども諸外国にくらべ て遅れています。専門家は理由を明確に指摘しませんが、弊社は日本人の脳の特異性と無関係で はないと考えています。あえて反論を恐れずにいえば、日本人の脳はデジタル情報の処理にはあま り向いていないといえます。

 

Q: 日本人の脳がデジタル情報の処理に向いていないといえる根拠はあるのですか?

 

A: 理論的な根拠を示すのは難しいのですが、具体的な事例で示すことができます。かつて、わが国 でもデジタル腕時計が流行ったことがあります。米国などの欧米先進国でも同じでした。ですが、 現在では日本人の多くがデジタル腕時計に馴染めずにアナログ腕時計に戻っています。欧米先進国で も同じかというとそうではありません。弊社代表が米国における会議で出席者に聞いてみたとこ ろ、出席者の半数以上がまだデジタル腕時計を使っていました。この状況からも、日本人の脳が欧 米人のそれにくらべてデジタル情報の処理に向いていないといえそうです。 

 

図.2 アナログ腕時計とデジタル腕時計 

 

Q: 他にも事例があるのですか?

 

A: より顕著なのは、数量の表現の違いです。米国製の航空機では、長さや重量の単位にメートル制では なくフィートポンド制が採用されています。例えば、設計図面や整備マニュアルでは部品や装備品の長さを 表わすために 1/2 インチとか 1/4 インチ、1/8 インチといった二進法の表現が多く用いられています。米国 の通貨でも、25 セント(1/4 ドル)という十進法では半端な通貨が多用されています。このことは、 米国人の脳が十進法よりも二進法、つまりデジタル情報を好む傾向にあることを示しています。

 

Q: 逆に、日本人の脳がデジタル情報処理よりもアナログ情報処理を好むという事例があるのですか?

 

A: あります。漢字は朝鮮半島を経て中国から日本に伝わりましたが、現在では元来の漢字を使って いる国民は日本人だけといわれています。元来の漢字は象形文字の一種でありアナログ情報です。 対して、アルファベットやハングルなどの多くの文字は表音文字でデジタル情報です。このことからも、日 本人は他の民族にくらべてデジタル情報よりアナログ情報を好む民族といえそうです。

図.3 象形文字に由来する漢字

 

Q: わが国の保守的な医療制度で医療のデジタル化が遅れているというのはどういうことですか?

 

A: 医療だけなく、社会でデジタル化を推進するには論理的で合理的な制度が不可欠です。ですが、保 守的なわが国は論理的で合理的な制度とはいえません。例えば、わが国の金融や財政の政策で は、政府は資本主義の根幹である複式簿記を採用していません。複式簿記が保守的なわが国の諸 制度に馴染まないことが理由の1つともいわれています。わが国では、技術者や医療関係者が保 守的な医療制度に頓着せずに医療のデジタル化を進めようとしているようです。

 

Q: わが国が医療のデジタル化を推進するうえで、どのようなリスクが予想されますか?

 

A: デジタル化が最も進んでいる産業分野は民間航空業界といえます。民間航空業界は、早くからデジ タル化のリスクを予想して対策を研究してきました。その対策が、トップダウン思考のリスクマネージメントである ヒューマンファクター(Human Factors)です。ヒューマンファクターは、FAA を中心とする米国の民間航空業界が世界 をリードしています。米国の医療界も、FAA が推進するヒューマンファクターの政策を参考にして医療のデジタ ル化を推進しています。航空システムのデジタル化で FAA や米国の民間航空業界が予想している主なリスク は以下のようなものです。 

 

  ① デジタル機器が発生する電磁波や外部からの電磁波により、デジタル機器が誤作動する。

  ② システムに関与する人間が、潜在意識でデジタル情報を処理してエラーをする。

  ③ システムに関与する人間が、デジタル情報の影響で機能低下ないしは機能不全に陥る。

 

Q: ①はどういうことですか?

 

A: 航空技術者は、以前は機器の電磁シールドや光ファイバーの採用などで電磁波の影響を防げると考えて いました。ですが、その後の研究で電磁波の影響を完全に防ぐことは不可能であることがわかり ました。そこで発想を変えて考え出したのがフォールトトレランス設計(Fault Tolerance Design)という ヒューマンファクターの新技術です。わが国の医療デジタル機器の技術者がこの技術を理解して実践できてい るかどうかは不明です。

 

Q: ②はどういうことですか??

 

A: 「潜在意識でデジタル情報を処理してエラーをする」ということはあまり知られていません。わが国 におけるマイナンバー制度の普及などで現場の担当者が経験しているエラーの多くはこのエラーです。このエ ラーを防ぐ新しい手法が弊社が開発したヒューファク訓練です。現在、米国の医療研究者からも関心が寄 せられています。

 

Q: ③はどういうことですか?

 

A: 元来、人間の脳は自然界に存在するアナロク情報しか処理できないようにできています。人間の脳が 慣れないデジタル情報を処理しようとすれば、さまざまな精神的や身体的な弊害が顕在化するのは 当然のことです。例えば、医師が AI による医療の自動診断に過度に依存するようになれば、医 師としての思考能力が低下していきます。それだけでなく、医師が自動化による潜在的なストレスで 精神異常に陥る可能性もあります。この分野の改善にもヒューファク訓練が役に立ちます。

 

Q: 医療のデジタル化によるさまざまなリスクが予想されることはわかりましたが、社会はどうすればよ いのでしょうか?

 

A: 医療のデジタル化には多くのメリットがあり、人類が諦めることはもはや不可能でしょう。医療のデジ タル化を健全に進める手段はヒューマンファクターしかありません。ヒューマンファクターは、人間とコンピュータや AI との 調和を目指して「人間中心の自動化設計」を提唱しています。弊社は医療界にもヒューマンファクターを理 解していただくべき努力してきましたが、なかなか難しいのが実情です。 

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HuFac Solutions, Inc.

ビル建設現場で転落事故

2023-10-06

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 9 月 19 日午前 9 時 20 分ごろ、JR 東京駅の八重洲口から約 200m 離れたビル建設現場で、 作業員 5 人が鉄骨とともに落下する事故が発生しました。現場周辺は、オフィスビルや飲食店などが 建ち並び、人通りもかなり多い場所です。 警視庁と東京消防庁によると、事故当時 5 人の作業 員が、ビルの 7 階部分で、はりにあたる鉄骨の組み立て作業を行っていました。 警視庁による と、鉄骨は長さ 30m、重さは 15t ほどです。作業員 5 人は、クレーンのワイヤで吊るされた鉄骨の上に 乗って作業を行っていたとみられます。 その際、ワイヤで固定されていた鉄骨が何らかの原因で外 れ、作業員とともに約 20m 下の 3 階部分に落下しました。 この事故で作業員 2 人が死亡、3 人が 負傷しました。上空から事故現場を撮影した映像を見ると、いくつもの大きな鉄骨が倒れ、足場 らしきものが散乱しているのがわかります。

 

図.1 上空から見た事故現場

 

Q: 事故発生時にはどのような作業をしていたのですか?

 

A: 警察当局がマスコミに図.2 で事故の発生状況を説明しています。

 

図.2 事故の発生状況

 

Q: 図.2 はどういうことですか?

 

 A: ① クレーンで吊り下げた鉄骨を土台の骨組みに合わせて、鉄骨に乗った作業者が仮止めします。② 鉄骨には「玉がけ」作業者も乗っていて、仮止めを確認した後にクレーンの吊り下げワイア(Sling)を 外します。③ その直後、鉄骨が骨組みから外れて落下し、乗っていた作業者も転落して死傷し ました。その際、他の箇所の鉄骨の仮止めも外れて骨組みが崩壊しました。

 

Q: 事故の原因は何だと思いますか?

 

A: 図.2 の①および②の作業が確実に実施されていれば、転落事故が起きるはずはありません。事故 の原因は、①の仮止めが確実に実施されていなかったためであると考えられます。警察当局も、業 務上過失致死の嫌疑でその点を捜査しています。

 

Q: ①の作業で鉄骨の仮止めを失念したという可能性はないのですか?

 

A: その可能性はないと思います。なぜなら、鉄骨の仮止めを失念していればクレーンのワイアが張っていて 鉄骨から外せないからです。

 

Q: 鉄骨の仮止めとはどのようなものですか?

 

A: 最近のビル建設では、図.3 のように鉄骨どうしをボルトで結合して、さらに溶接で接合します。従 来は、ボルトの一部を緩いトルクで締めて仮止めしていました。仮止めでねければ全体の骨組みが最 終的にうまく組めなくなる可能性があるからです。すべてのボルトは、骨組みがうまく組めること を確認した後に規定のトルクに増し締めされます。 

 

図.3 従来の仮止め作業(イメージ)

 

ですが最近では、作業の簡便化と工期の短縮のために、図.4 のようにボルトを仮ボルト不要接合治具 (クランプ)で代行する簡便法を採用する建設会社が増えているようです。

 

図.4 最近の仮止め作業(イメージ) 

 

Q: 事故を起こした建設会社が図.4 の仮止め作業を採用していたことは確認されているのですか?

 

A: 警察当局による捜査の詳細がまだ公表されていませんので、確認はできていません。ですが、 図.3 のようにボルトで仮止めされていれば外れる可能性が低いことから、図.4 の仮止めが採用さ れていた可能性が大きいといえます。そうであれば、他の箇所の鉄骨も同じように仮止めされて いた可能性があります。

 

Q: トップダウン思考のリスクマネージメントであるヒューマンファクター(Human Factors)では、このような事故をどのよ うに考えているのですか?

 

A: 「利潤や効率、快適性を優先させて安全を軽視する技術は事故や災害を生むことがある」と考え ています。安全を優先するための具体的な方策がトップダウン思考のリスクマネージメントです。

 

Q: 御社はこれまで、建設業界にトップダウン思考のリスクマネージメントを提唱したことはあるのですか?

 

A: あります。建設業界の団体や建設会社の依頼で、弊社代表がトップダウン思考のリスクマネージメントであるヒ ューマンファクターに関する講演を何回か行っています。

 

Q: 講演の内容は概ねどういうものだったのですか?

 

A: 先ず、わが国における労災事故の状況を図.5 で説明しました。1970 年頃までは、産業界では不 幸にも毎年約 6,000 名もの労働者が労災事故で死亡していました。その後、機械化や自動化、省 力化などの技術開発や発展途上国への工場の移転で死亡者数は大幅に減少しています。その間、 建設業の死亡者は常に産業界で最も多い数になっています。

 

図.5 労災死亡事故者数の推移

 

Q: 建設業の死亡者数が多い理由は何だと説明したのですか?

 

A: 建設業における作業は他の産業界とは異なり、マニュアルは適用しにくい非定型的な作業が多いから と説明しました。定型的な作業はマニュアルを重視するボトムアップ思考でもできますが、非定型的な作 業な作業ではトップダウン思考が必要になります。事故や災害を効果的に防ごうと思えば、トップダウン 思考のリスクマネージメントであるヒューマンファクターの知識が不可欠と説明しました。

 

Q: この事故を効果的に防ぐには、どのようなヒューマンファクターの知識が必要なのですか? 

 

A: 図.4 のように仮止めの簡便法が適用されていたとすれば、クランプの取り付けに細心の注意を要す るという知識です。クランプの取り付けが不適切であれば、僅かな衝撃で外れてしまいます。クランプ を適切にかけようと思えば、作業環境や作業性にも配慮しなければなりません。作業環境や作業 性を研究する学問がエルゴノミクス(Ergonomics)です。わが国では欧米先進国にくらべてこの分野の 研究と啓蒙が大きく遅れています

 

Q: 仮止めのやり方については警察当局も捜査していると報じられていますが、警察当局の捜査に期 待できるのですか?

 

A: 残念ながら、あまり期待できません。なぜなら、警察の捜査は責任追及を目的とするというボトム アップ思考だからです。事故の調査は、再発の防止を目的にするトップダウン思考が必要になります。 警察は、責任者を特定して検察への送致を検討することを職務としていて、再発防止のために建 設業界に本格的なヒューマンファクターの導入を勧告することは求められていません。

 

Q: 建設業だけでなくわが国の産業界は、なぜ本格的なヒューマンファクターの導入に消極的なのでしょうか?

 

A: 産業界だけでなく学界までもが、トップダウン思考のリスクマネージメントを理解できないからだと思いま す。例えば、かつてわが国でヒューマンファクターの先駆者を自認していたある学者(故人)は、「ヒューマンフ ァクターは ABC である」と公言して憚りませんでした、つまり、「当たり前のことを(A)、ボンヤリせ ずに(B)、ちゃんとやる(C)」ことが事故防止の極意であると信じていたようです。この考え は、「マニュアルを守っていればエラーもなく事故もない」というボトムアップ思考の産業界には歓迎されま した。ですが、ボトムアップ思考は定型的な作業が少ない建設業では通用しません。現在、この事故 の原因や対策が不明であることで全国のビル建設作業者の多くは不安感を抱いています。この状 況は、わが国の経済にとって決して好ましいことではありません。弊社は、わが国の建設業界に 対して、本格的なヒューマンファクターを導入して作業者の不安感を速やかに払拭するよう、是非ともお勧 めしたいと思っています。 

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ビル建設現場で転落事故
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読者からのご質問

2023-08-17

 

Q: 読者の方から質問をいただいたのですか?

 

A: ヒューファク安全情報_23-08-12_御巣鷹山事故の謎解き を読まれた読者の方から、質問をいただきまし た。弊社がかつてお世話になった航空界のある重鎮の方(故人)から、この方に安全情報を配信す るよう依頼されていました。この方は、公的な研究所で活躍された後に、現在は大学で航空工学の 教授を務めておられます。このような方でも弊社の情報に疑問をもたれるのですから、読者の多 くの方々も同じような疑問をもっておられるのではないかと思います。下記にメールをそのまま引用 させていただき、質問にできるだけ応えさせていただきたいと思います。

 

 

 いつも有益な記事をお送りいただき感謝申し上げます。 今回の「御巣鷹山事故の謎解き」につ いて、納得できない個所があるので3つ質問いたします。 公式の事故調査報告に4つの疑問が あり、原稿にはその内容が記されています。特に②では、「7000メートルの高度で急減圧が起これば 人間は5分と生存できないのに、事故機の搭乗者は30分近く意識を保って生存できた」とありま す。 つまり事故機は、「急減圧が起こらなかった」ことを意味しています。 ここで疑問です。 では、事故機は何故垂直尾翼の先端部を失ったのでしょうか。 この破壊のメカニズムを説明頂けま せんでしょうか。 また、疑問④の回答として、文中には「墜落前に戦闘機が周辺を飛んでいた とか、ミサイル飛行物体が飛び交っていたというのは、おそらく事実だと思います」と記されて います。 青山透子氏の著「日航123便墜落の新事実」によれば、非番の自衛隊員や多くの市民の 証言によると、ファントム2機が事故機に追尾し墜落を確認にして、埼玉方向に飛び去ったことが記 されています。 墜落現場の特定と救助隊到着に14時間以上費やしました。自衛隊のファントム機は現 場を確認しているのですから、これほどの時間はかかるはずはありません。もっと迅速な救助が できたらもっと尊い生命が救われたはずです。 ここで疑問です。時間がかかった理由は何でし ょうか。 「おそらく事実だと思います」に対して、「これらは事故原因とはまったく関係あり ません」と断言されています。 最後の疑問は、関係ないないことを確信している根拠をご存じ なのでしょうか。「別の目的」のためのようですが、差し支えない範囲で回答をお願いします。 以上です。よろしくお願いいたします。

 

Q: 「つまり事故機は、「急減圧が起こらなかった」ことを意味しています」と書かれていますが、そ うなのですか?

 

A: それは違います。この方は「事故機の搭乗者は 30 分近く意識を保って生存できた」という事実を もとに「急減圧が起こらなかった」と考えておられるようです。弊社の説明が足りなかったのかも知れませんが、急減圧は確かに起こりました。ただし、これまで知られている急減圧とはまったく 異なる急減圧です。急減圧が起きた証拠として、搭乗者が残した機内の写真があります。非常用酸 素マスクが落下している様子が明確に映されています。非常用酸素マスクは、急減圧が起きて機内の気 圧が規定値以下にならなければ絶対に落下しません。

 

図.1 酸素マスクが急減圧で落下した写真

 

Q: 「事故機は何故垂直尾翼の先端部を失ったのでしょうか」、「この破壊のメカニズムを説明頂けません でしょうか」という質問にはどう応えますか?

 

A: 事故調査報告書は、図.2 のように、「圧力隔壁が破損して漏れた空気が胴体後部を膨らませて破壊 するとともに、垂直尾翼へのアクセス口を通じて垂直尾翼に流入して垂直尾翼を破壊した」と説明し ています。ですが、弊社の分析はまったく異なります。つまり、圧力隔壁が爆発的に破損した際に 発生した衝撃波が、胴体後部を一気に吹き飛ばし、胴体後部に結合されている垂直尾翼も破壊し たと分析しています。衝撃波にはそれほど強大な破壊力があります。垂直尾翼の桁は、胴体後部の フレームにしっかりと結合されています。ですが、垂直尾翼の桁は軽量化のために先端ほど弱く造ら れています。そのため、胴体後部のフレームより後ろの部分と垂直尾翼の桁より後ろの部分と先端部 分が吹き飛ばされたものと分析しています。 

図.2 事故調査報告書が説明する破壊メカニズム 

 

Q: 「時間がかかった理由は何でしょうか」という質問にはどう応えますか? 

 

A: 自衛隊のファントム機が出動したのは、墜落地点の確認ではなく「別の目的」であったと考えられます。 自衛隊機のパイロットは命じられた任務の遂行に忙殺されていたと思われます。墜落地点を目視でき たとしても、目的が異なっていたために、地理学的に精確な場所や詳細な緯度・経度を確認して報 告することは難しかったと推測されます。それに、当時の御巣鷹山に夜間に登ることは極めて困 難でした。弊社代表も事故後まもなく捜索担当の役員とともに御巣鷹山に登りました。道のない 急斜面を登るのに大変な思いをしました。悪条件の下で、救助活動の開始までに 14 時間を要した のは致し方なかったと思っています。

 

Q: 最後の「(事故原因とは)関係ないないことを確信している根拠をご存じなのでしょうか」という 質問にはどう応えますか?

 

A: 申し上げておきますが、弊社が政府中枢から「別の目的」を聞いているわけではありません。トップ ダウン思考で広い視野と深い洞察力で考えれば、「別の目的」はすぐにわかります。なぜか、世界の 各国はそれを明らかにしようとはしていません。安全情報に書いたように、正当で必要な対応で あるにもかかわらずです。各国の政府中枢でも、「別の目的」を承知している人物はごく限られて いると思います。従って、弊社が文章にすることは残念ながらできません。読者の方々のご推察に 委ねたいと思います。ただ、「別の目的」は事故原因とはまったく関係がないということだけはあ らためて強調させていただきます。 

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読者からのご質問
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御巣鷹山事故の謎解き

2023-08-12

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 1985年8月12日にJAL123便(ボーイング747-100SR)の御巣鷹山事故が起きました。早いもので、本日で 38年になります。弊社代表は、切っ掛けとなった伊丹空港でのいわゆる尻餅事故からこの事故に 深く関わりました。事故当日に経営トップの特命で徹夜で原因究明に当って以来、永年にわたって 事故の真因を探り続けてきました。その結果、事故の真因は、尻餅事故で損傷した後部圧力隔壁 (Aft Pressure Bulkhead)を修理する際にJALの整備技術陣がトップダウン思考で判断できなかった ことであることがわかりました。このことは公式の事故調査報告書には書かれていません。公式 の事故調査にはわが国の多くの科学技術者が関わりましたが、トップダウン思考で調査できなかった ために多くの疑問が残されています。そのため、事故調査の結論に納得できずに「米軍と自衛隊に よるミサイル実験か戦闘機の実機訓練で誤って撃墜された」などという陰謀論を唱える人がいます。 陰謀論はインターネットやSNSをにぎ合わせるだけでなく、書物でも出版されて多くの人々に読まれてい ます。この事故は単独では世界最悪の航空機事故です。この事故の事故調査に多くの疑問を残し ていることは、国家としても好ましいことではありません。亡くなられた多くの搭乗者の方々も、 安らかには眠れないのではないかと思われます。事故後38年を迎えるにあたって、人々の疑問を すべて晴らしてみたいと思います。 

 

図.1 事故現場の惨状

 

Q: 公式の事故調査にはどのような疑問があるのですか?

 

A: 次のような疑問が投げかけられています。

 ① ボーイングが事故直後に率先して自社の AOG(Aircraft On Ground)チームの修理ミスを公表したのに、 ボーイングは修理ミスの

  詳細を具体的に説明していない。

 ② 高度 7,000 メートルの上空で急減圧が起きれば人間は 5 分と生存できないのに、事故機の搭乗者は 30 分近く意識を

  保って生存できた。

 ③ 通常の急減圧なら白い霧が発生することはないのに、生存者の証言と残された写真によれば、 事故機の客室では

  白い霧が発生していた。 ④ 墜落の直前に戦闘機が周辺を飛んでいたとか、ミサイルと思われる飛行物体が飛び交って

  いたとい う情報があるのに、事故調査報告書はまったく触れていない。

 

図.2 乗客が残したメモ

 

Q: トップダウン思考では、これらの疑問にどう応えるのですか?

 

A: 先ず、④の疑問に応えたいと思います。墜落の直前に戦闘機が周辺を飛んでいたとか、ミサイルと思わ れる飛行物体が飛び交っていたというのは、おそらく事実だと思います。ですが、これらは事故原 因とはまったく関係がありません。別の目的によるものです。

 

Q: 「別の目的」とはどういうことですか?

 

A: 残念ながら、「国家のハイレベルのリスクマネージメントによる政治判断」としか言えません。条約のように明文 化はされていない、「暗黙の国際的取り決め」です。最終的な決断は各国の政治のトップに委ねられ ています。当時のわが国の首相は、マスコミの取材に「墓場までもっていく」と応えたまま他界しまし た。「別の目的」とは、決して陰謀などではありません。国民の生命と財産、つまり国益を守るう えで正当かつ必要な対応といえます。海外ではこの目的が現実に遂行されたこともあります。

 

Q: 陰謀論は①~④の疑問があるから生まれるのでしょうか?

 

A: そう思います。先ず②と③の疑問を解くには、超音速空気力学と大脳生理学の知識をトップダウン思 考で融合させる必要があります。

 

Q: 「超音速空気力学の知識」とは、どのような知識ですか?

 

A: 高々度で圧力隔壁が爆発的に破損すれば、衝撃波(Shock Wave)が発生してその背後に膨張波 (Expansion Wave)が伝播するという知識です。わが国には数多くの超音速空気力学の専門家や 研究者がいますが、そのことに気づいた人はいないようです。

 

Q: 衝撃波の発生と膨張波の伝播が、なぜ②と③の疑問を解くことにつながるのですか?

 

A: 自衛隊の航空医学実験隊ではパイロットの急減圧訓練が行なわれています。この訓練では、衝撃波が発生することはなく、②と③の現象も起きません。つまり、事故機で起きた急減圧は通常の急減圧 とは異なるといえます。いわば、「人類が有史以来初めて体験した急減圧」といえます。具体的に は、人類が初めて衝撃波の背後の膨張波に晒された体験です。弊社が目にした最新の大脳生理学 の研究論文に、「人間は膨張波の中では比較的長く生存できる」と説くものがあります。

 

図.3 衝撃波と膨張波の伝わり方

 

Q: その論文には、人間が膨張波の中で長く生存できる根拠が書かれているのですか?

 

A: 残念ながら、書かれていません。弊社は次のように推測しています。つまり、太古に起きたといわ れるビッグバン(Big Bang)では、隕石の衝突や火山爆発で発生した衝撃波で多くの人類が死滅しま した。ですが、洞窟の中に潜んでいて膨張波にしか晒されずに生き残った人類もいるはずです。本 来、人類の DNA には膨張波に対する耐性があるからと考えられます。ビッグバン以後、人類が膨張 波に晒されたことがないために、そのことに気づかなかったものと思われます。この事故の急減 圧でほとんどの搭乗者が 30 分近く生存できたことが、何よりの根拠といえます。

 

Q: 衝撃波が発生したと考えれば、③の現象の白い霧も説明できるのですか?

 

A: 説明できます。超音速空気力学では、膨張波の中で断熱膨張が起きて、水蒸気が凝結して白い霧に なることが知られています。因みに、弊社代表は大学院で超音速空気力学を専攻していました。

 

Q: これまでの説明は圧力隔壁の爆発的な破損で衝撃波が発生することを前提にしていますが、衝撃 波が実際に発生したといえる根拠はあるのですか?

 

A: 根拠は2つあります。①事故機で異常が発生した時刻に、駿河半島の東岸にいた人がたまたま爆 発音を録音していたことと、②ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。修理 断面図は事故調査報告書にも掲載されています。

 

Q: ①がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 大気の密度は低空ほど蜜になります。通常の音波であれば、高度 7,000 メートルから地上に届くまで に減衰してしまいます。地上で録音された爆発音は通常の音波ではなく、俗にソニックブーム(Sonic Boom)といわれる衝撃波であったと考えられます。

 

Q: ②がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 図. 4が、ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。ボーイングは「新しい下半分の 圧力隔壁を古い上半分の圧力隔壁に結合する際に、図.3 の左図のように指示したのに、修理チーム が誤って右図のように結合してしまった」と説明しています。ですが、トップダウン思考で深く洞察 すれば、右図のような修理は現実には考え難いことがわかります。つまり、事故機の圧力隔壁は 左図のように指示通りに修理されていたのに破損したと考えざるを得ません。

 

図.4 圧力隔壁の修理断面図 

 

Q: その論文には、人間が膨張波の中で長く生存できる根拠が書かれているのですか?

 

A: 残念ながら、書かれていません。弊社は次のように推測しています。つまり、太古に起きたといわ れるビッグバン(Big Bang)では、隕石の衝突や火山爆発で発生した衝撃波で多くの人類が死滅しま した。ですが、洞窟の中に潜んでいて膨張波にしか晒されずに生き残った人類もいるはずです。本 来、人類の DNA には膨張波に対する耐性があるからと考えられます。ビッグバン以後、人類が膨張 波に晒されたことがないために、そのことに気づかなかったものと思われます。この事故の急減 圧でほとんどの搭乗者が 30 分近く生存できたことが、何よりの根拠といえます。

 

Q: 衝撃波が発生したと考えれば、③の現象の白い霧も説明できるのですか?

 

A: 説明できます。超音速空気力学では、膨張波の中で断熱膨張が起きて、水蒸気が凝結して白い霧に なることが知られています。因みに、弊社代表は大学院で超音速空気力学を専攻していました。

 

Q: これまでの説明は圧力隔壁の爆発的な破損で衝撃波が発生することを前提にしていますが、衝撃 波が実際に発生したといえる根拠はあるのですか?

 

A: 根拠は2つあります。①事故機で異常が発生した時刻に、駿河半島の東岸にいた人がたまたま爆 発音を録音していたことと、②ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。修理 断面図は事故調査報告書にも掲載されています。

 

Q: ①がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 大気の密度は低空ほど蜜になります。通常の音波であれば、高度 7,000 メートルから地上に届くまで に減衰してしまいます。地上で録音された爆発音は通常の音波ではなく、俗にソニックブーム(Sonic Boom)といわれる衝撃波であったと考えられます。

 

Q: ②がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 図.4 が、ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。ボーイングは「新しい下半分の 圧力隔壁を古い上半分の圧力隔壁に結合する際に、図.3 の左図のように指示したのに、修理チーム が誤って右図のように結合してしまった」と説明しています。ですが、トップダウン思考で深く洞察 すれば、右図のような修理は現実には考え難いことがわかります。つまり、事故機の圧力隔壁は 左図のように指示通りに修理されていたのに破損したと考えざるを得ません。

 

図.4 圧力隔壁の修理断面図

 

Q: 左図のように指示通りに修理されていても、破損した際に衝撃波が発生するのですか?

 

A: 発生します。なぜなら、左図のように修理しても、圧力隔壁の本来の構造強度を復元できていな いからです。圧力隔壁に限らず、航空機の与圧構造はフレームやストリンガー、スティフナーといった骨構造で 一次的に内圧に耐えるように設計されています。外板は二次的に内圧に耐える構造部材に過ぎま せん。左図の修理のように外板を結合するだけでは、元の骨構造は復元されません。外板の結合 が分離すれば、圧力隔壁の構造が一気に破損して衝撃波が発生することになります。

 

Q: そうであれば、冒頭の①の疑問、つまり「ボーイングが事故直後に率先して自社の修理チームの修理ミス を公表した」という理由も理解できる気がしますね?

 

A: その通りです。ボーイングは、指示通りの左図の修理で圧力隔壁が破損したことを知って驚愕した と思います。自社の修理チームに航空機の与圧構造の基本に反する修理を指示していたことが誤り であったことに気づいたからです。当時のボーイングは、この根本的な誤りをそのまま公表するこ とが世界の民間航空界を大混乱に陥らせると考えたと思います。世界の民間航空界は、ボーイング やエアバスなどに絶大な信頼を寄せています。その信頼を失うことは、大局的には民間航空界にと って好ましいことではありません。当時のボーイングが大混乱を避けるために①のように行動した としても、致し方なかったのかも知れません。ボーイングは、今では圧力隔壁の部分的な修理はやめて、圧力隔壁全体を交換するようにしています。わが国の航空関係者は、誰も当時のボーイング の苦悩を理解できませんでした。

 

Q: 陰謀論を唱える人達がこれまでの説明を聞いて、陰謀論を棄てると思いますか?

 

A: 人間はそれほど理性的で柔軟ではないと思っています。ですが、陰謀論を唱える人達には「真実 を知って再発防止を目指す」という原点に立ち戻っていただきたいと願います。真実とは、「世 界の民間航空界の信頼を集めるボーイングといえども、根本的な考え間違いをすることがある」と いうことです。当時の JAL 技術陣はボーイングを盲目的に信頼していました。航空機の技術を深く 考えることもなく、ボーイングの考えやマニュアルに従順に従うだけでした。

 

Q: 冒頭の「圧力隔壁の修理の際に JAL の整備技術陣がトップダウン思考で判断できなかった」というの はどういうことですか?

 

A: 航空会社がボーイングやエアバスに信頼を寄せることは必要ですが、「彼らが根本的な考え間違いをす るはずはない」と盲信するのはボトムアップ思考です。航空会社の技術者としても独自に航空技術や 航空安全を深く考えて、ボーイングやエアバスの誤りを指摘できるのがトップダウン思考です。トップダウン思 考で考えれば、圧力隔壁を部分的に修理するだけでは済まないと容易に気づいたはずです。

 

Q: 事故後の JAL では、トップダウン思考を目指す試みはされたのですか?

 

A: 技術部門の上層部に、航空会社としては世界で初めての技術研究所を設立する構想が生まれまし た。ボーイングを盲信するだけのボトムアップ思考ではなく、トップダウン思考で独自に航空技術や航空安 全を深く考えられる人材が必要という考えです。その考えは一部で数十年前から唱えられていま した。その構想が事故後に実現されたわけですが、現実はそう甘くはありませんでした。技術研 究所の本来の設立趣旨は外部はおろか所内でも理解されず、技術研究所はわずか 10 年で消滅し ました。改革が難しいことは単に一企業の問題ですが、疑問の多い事故調査報告書をそのまま後 世に残してよいかどうかは国家的な問題といえます。読者の中でも「38 年も経って、何を今さ ら」と眉をひそめる人が多いと思います。ですが、この問題に勇気をもって正面から対峙できな ければ、停滞したわが国の社会を活性化させることも難しいと思います。航空界の現役の皆さん の勇気と決断に期待しています。

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御巣鷹山事故の謎解き
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暗中模索の米航空界

2023-07-18

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 順を追って説明しますが、先ずは読者の方からのメールを紹介させていただきます。「ヒューファク安全 情報-23-07-06_自動運転で事故急増」を読まれて、下記のようなメールを寄せてくださいました。 世界を代表する航空宇宙技術の雑誌である AWST(Aviation Week & Space Technology)の記事を 引用されています。この方は、航空界の要職で活躍された後で、現在も大所高所から航空宇宙技 術の動向に関心を注いでおられます。

 

 

 いつも楽しみに、かつ考えさせられながら読んでおります。今回の自動運転事故については、こ んなところが原因になっているとは知りませんでした。根が深いですね。先日の AWST に貴兄の 言う「人間のための自動制御」への取り組みが出ていました。(AWST April 24 Moving Target) 機械が故障したときに、パイロットがどう反応し、それに対して機械がどう対応すべき か。Manual Control でもいろいろ人により定義が異なり、どう対応すべきか。真面目な議論です が、大変だなあと思いました。貴兄が言っていることが、やっと世界中で議論され始めたという ことでしょうか。日本は、ますます対応が遅れ、TC(弊社注: Type Certificate、型式証明)ど ころの話しでは無くなります。AWST April 24 Digital Divide で AI を使った自動制御の話が 出ていますが、経営者は One-man Operation に行くのでしょうね。制御が駄目になったとき、パ イロットはどうすべきか(反応も含めて)の解析が出来ないうちに、機械化されるようで、空恐ろし いです。現在 AI はどうして、そういう結論になったかわからないので、尚更です。ため息が出 ます。頑張ってください。 

 

図.1 AWST 誌の記事の一部

 

Q: AWST というのはどのような雑誌ですか?

 

A: 米国で出版されている航空宇宙技術の専門誌です。わが国にも似たような雑誌がいくつかありま すが、内容のレベルの高さと信頼性においては AWST に遠く及びません。世界の航空宇宙界で活躍する政府機関や企業のリーダー、研究者、学生などに広く愛読されています。紙の出版物だけでな く、インターネットでも一部を読むことができます。

 

Q: AWST の記事によれば米航空界の FAA やボーイングが「人間中心の自動化」に関心を持ち始めている ようですが、わかりやすく解説していただけませんか?

 

A: FAAやボーイングが「人間中心の自動化」に関心を持たざるを得なくなった切っ掛けは、ボーイング 737MAX の安全問題です。図.1 の AWST 誌の記事にある「MOVING TARGET(弊社注: 移り行く目標)」という 表題は、航空機の設計や安全対策の目標をこれまでの「技術中心の自動化」から「人間中心の自動 化」に変えるという意味です。737MAX の安全問題は2件の悲惨な墜落事故で顕在化しました。そ のうちの1件では多くの中国人が犠牲になりました。そのため、中国が米国に事故原因の究明と対 策を強く要求しました。そのせいか、FAA は直ちにすべての 737MAX(約 370 機)を運航停止にしま した。この問題については、添付の「ヒューファク安全情報_21-04-14_737MAX 問題の総括」で詳しく解 説しています。  

 

図.2 長期停留されている 737MAX

 

Q: 添付の安全情報にも書かれていると思いますが、737MAX の墜落事故の原因分析を要約していただ けませんか?

 

A: 原因分析を要約すると、次のようになります。

 ① 機首の胴体部分に取り付けられている迎角(Angle of Attack)センサーが誤信号を出力した。

 ② 迎角センサーの誤信号により、737MAX の MCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)という

  自動化失 速防止システムが暴走(Run-away)した。

 

図.3 737MAX の MCAS

 

 ③ MCAS が「技術中心の自動化」であるために、パイロットが暴走にうまく対応できなかった。

 

Q: FAA やボーイングが「人間中心の自動化」に関心をもち始めたということを、上記の「原因分析の要約」に照らし合せて説明していただけませんか?

 

A: FAA やボーイングが「原因分析の要約」の②に関心をもち始めたということです。MCAS が「技術中 心の自動化」であるためにパイロットが暴走にうまく対応できなかったことに気づき、MCAS を「人間 中心の自動化」にすべく研究を開始したということです。また、パイロットが「人間中心の自動化」 にどのように対処すべきかという研究も始めました。

 

Q: FAA とボーイングが「人間中心の自動化」の研究を急いでいる理由は何だと思いますか?

 

A: 米国の航空界が置かれている現在の状況に因るものです。ボーイングの 737 シリーズは、エアバスの A320 シリーズと並んで世界で最も多く運航されている民間航空機です。ボーイングはエアバス A320Neo に対抗 して 737MAX を開発しました。ところが、就航後間もなく 737MAX の深刻な安全問題が顕在化して しまいました。米国の国益のためにも、ボーイングは安全で信頼される 737 シリーズを製造し続けなけ ればなりません。FAA も 737 シリーズの製造を支援しなければならない立場にあります。そのため に、これまで敬遠してきた「人間中心の自動化」を目標とする決断をせざるを得なかったものと 思われます。

 

Q: FAA とボーイングの方針転換を「暗中模索の米航空界」と表現していますが、どういうことですか?

 

A: 上記の「原因分析の要約」で説明すればわかりやすいと思います。737MAX の事故を防止するには ①~③の事象の連鎖(Chain of Events)をどこかで断ち切ればよいのですが、FAA とボーイングは ③の事象を解消しようと考えたようです。そのためには、「人間中心の自動化」を目指す必要が あります。ですが、「人間中心の自動化」を目指すのは容易ではありません。常識で考えれば、 事象の連鎖の根源である①を解消することが優先されるべきです。

 

Q: FAA とボーイングはなぜ①の事象の解消を目指さないのでしょうか?

 

A: 「目指さない」というよりも、「目指せない」のだと思います。なぜならば、ボトムアップ思考では ①の事象の原因が解明できないからです。

 

Q: 添付されている「ヒューファク安全情報_21-04-14_737MAX 問題の総括」には①の事象の原因が書かれて いますが、トップダウン思考で原因を解明したということですか?

 

A: その通りです。トップダウン思考で解明すれば、①の事象の原因は電磁干渉(EMI)ということにな ります。EMI を発生させる原因は、737MAX に採用されているわが国の一流企業の「ある技術」と 考えています。

 

Q: ボーイングは 737MAX の安全問題に悩まされているようですが、エアバスはどうなのですか?

 

A: エアバスも過去に同じ問題に悩まされました。トップダウン思考で考えれば、737MAX の墜落事故は本質 的に 1994 年に名古屋空港で起きた中華航空のエアバス A300-600 の墜落事故とまったく同じといえ ます。この事故ではわが国の政府事故調査委員会が調査を担当しました。ですが、パイロットエラーと 結論するだけで、「技術中心の自動化」の失速防止システムや EMI の発生源にはまったく言及できま せんでした。A300-600 で EMI の発生源となった「ある技術」は、737MAX のものとは別のわが国 の一流企業が開発したものでした。エアバスがこのことに気づいているかどうかはわかりません。エ アバスは当初 A350 にも「ある技術」を採用していましたが、設計の最終段階で採用を取りやめま した。すでに「ある技術」を採用している A380 でも、製造を早期に中止しました。弊社代表は、「ある技術」の採用を予定していた A350 と「ある技術」を採用していた A380 の購入を控え るよう退職前に懇意の JAL 経営トップに密かに進言しました。JAL は「ある技術」を断念した A350 を運航していますが、A380 は購入していません。判断は間違っていなかったと自負しています。

 

Q: 「ある技術」とは何かを明確にしてほしいという要望があるのではないですか?

 

A: 読者の何人かの方からそのような要望を聞いています。ですが、「残念ながらそれはできませ ん」と丁重に断っています。EMI は再現性がなく証拠を一切残さないために、「根拠のない誹謗中 傷」と誤解される恐れがあるからです。

 

Q: 世界の航空界が悩まされている「ある技術」がよりにもよってどちらもわが国の一流企業のもの というのは、どう考えればよいのでしょうか?

 

A: 弊社も永年にわかってその理由を考えてきました。結局のところ、行き着いたのが「日本人の国 民性ではないか?」ということです。日本人は、狭い視野と浅い洞察力による考えを無批判に実 行に移してしまい、途中で修正あるいは断念することがなかなかできないようです。「考え出し た技術」だけでなく、「模倣した技術」でも同じです。この安全情報でも指摘してきましたが、 「自動車の自動運転」や「ChatGPT の導入」、「マイナンバー制度の導入」がその実例です。わが国の技 術者は、これらが「ある技術」と同じように社会構造や文化、ひいては経済までも棄損すること を理解できないようです。わが国の「ある技術」が米航空界を暗中模索に陥らせていることは、 決して「対岸の火事」と看過すべきではありません。その影響は必ずわが国にも及びます。対策 は、日本人の考え方をボトムアップ思考からトップダウン思考に変えていくことしかありません。その変 革は社会のリーダーが率先すべきです。弊社は永年にわかって、トップダウン思考ができるリーダーの養成 の必要性を社会に訴え続けています。  

 

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暗中模索の米航空界
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繫華街でガス爆発

2023-07-07

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 7 月 3 日、東京都港区新橋のビルの 2 階に入る飲食店で爆発があり、店内で開店準備をし ていた男性店長と女性従業員、それに通行人の男性がやけどや飛散したガラスで大けがをしたほ か、別の通行人の男性が軽いけがをしました。この店はガスの契約をしておらず、店長が「調理 の際は電気を使っていた」と説明していることがわかっています。その後の調べで、1 つ上の 3 階にある歯科医で内装工事が行われていて、作業者がガス管の蓋を外そうとしたところ、床下の 都市ガス配管の接続部分がずれてガスが漏れる状態になっていたことがわかっています。

 

図.1 新橋の繁華街でのガス爆発

 

Q: この事故の原因をトップダウン思考で分析するとどうなりますか?

 

A: 現在、警察当局が原因を調査していると思います。警察はボトムアップ思考で調べると思いますの で、弊社のトップダウン思考の分析とは結論がかなり異なると思います。

 

Q: ボトムアップ思考による警察当局の結論はどうなると思いますか?

 

A: 警察は刑法の業務上過失傷害罪を視野に入れて調査します。調査の対象はガス漏れをまねいた作業 者と作業監督者で、刑法の性格からも調査の目的は責任追及になると思われます。

 

Q: トップダウン思考の分析はどう異なるのですか?

 

A: トップダウン思考の分析では、対象は人ではなくエラーという行為とその背景要因です。分析の目的 は、責任追及ではなく事故の再発防止です。

 

Q: トップダウン思考でこの事故を分析するとどうなりますか?

 

A: これまでの情報をもとに事故の態様を図示すると図.2 のようになります。

 

図.2 事故現場でのガス配管 

 

作業者は内装工事のために床板を撤去する必要があると考えたようです。床板を撤去するにはガ ス管の蓋が障害になります。ガス管の蓋のネジ(図.2 のネジ部 A)をレンチで反時計周りに回して外そう としましたが、錆で固着しているせいか、ネジを緩めることができませんでした。作業者はさら に力を込めて蓋に何度もトルクをかけてみました。ですが、そのトルクは蓋ではなくガス分岐管を回し てしまい、床下のネジ部 B を緩めることになってしまいました。床板があるために、ネジ部 B が緩 んだことは作業者にはわかりませんでした。ネジ部 B が緩んだために、ネジ部 B からガスが漏れ出 しました。ネジ部 B と作業者の間は床板があったために、運悪くガスの臭いは作業者の鼻には届か なかったようです。

 

Q: 作業者は、ガス管の蓋と知りながら、なぜ外そうとしたのでしょうか?

 

A: おそらく、「階下の飲食店ではガスは使われていない」という情報を作業者が誤解してしまった ものと思われます。作業者は「階下の飲食店のガス管にはガスが通っていない」と思っていたと供 述しています。ところが実際には、飲食店のガス管にはガスが通っていて、ガス分岐管の末端が蓋 されて使えなくなっているだけでした。

 

Q: ガス分岐管をレンチで抑えて回らなくすることはできなかったのでしょうか?

 

A: 通常はそうします。そのためのパイプレンチという大きいレンチもあります。ですが、蓋と床板の間隙 が小さいために、パイプレンチが使えなかったのだと思います。

 

Q: 作業ミスの態様はよくわかりましたが、これで作業者と作業監督者の責任を問えるのでしょうか?

 

A: わが国の裁判では、検察は業務上過失傷害罪を問うと思われます。ですが、陪審員制度を採用し ている米国の裁判では別の責任が問われると思います。それは、製造者責任(PL: Product Liability)です。米国の陪審員や裁判官は、わが国のようなボトムアップ思考ではなくトップダウン思 考で判断します。作業者の責任を問うよりも、製造者、つまりガスの配管の設計者の責任を問う 方が事故の再発を防止するうえで効果的であるからです。

 

Q: 「ガスの配管の設計者の責任」とはどういうことですか?

 

A: ひと言でいえば、図.2 のガスの配管にはヒューマンファクター設計が施されていないということです。

 

Q: ますますわかりにくくなりましたが、「ヒューマンファクター設計」とはどういうことですか?

 

A: この事故のように、ガス爆発という深刻な事態をまねくようなエラーが起きる可能性をあらかじめ想 定して、それを極力防げるように設計することです。そのためには、トップダウン思考のリスクマネージメン トであるヒューマンファクターの知識が必要になります。

 

Q: ここで必要な「ヒューマンファクターの知識」とは具体的にどういうことですか?

 

A: わが国ではあまり知られていませんが、逆ネジ(逆タップ)という技術です。欧米では一般的な技 術です。図,2 のネジ部 A とネジ部 B を互いに逆ネジにすれば、ネジ部 A を不用意に緩めてもネジ部 B が緩むことはありません。欧米で設計、製造される航空機の油圧系統や燃料系統、高圧空気(ニュ ーマティック)系統には、逆ネジの技術が採用されています。逆ネジのようなヒューマンファクター設計がなされて いない航空機は、FAA や EASA の型式証明を取得することは難しいといえます。

 

Q: 逆ネジという技術は、わが国では一般的でないのですか?

 

A: ヒューマンファクター設計のような斬新な技術の話をすると、「わが国でも同じような技術を採用してい る」と言い訳する技術者がいます。わが国で一般的な逆ネジとは、固着したネジやヘッドがなくなっ たネジを外すためにネジの内側に逆のネジを切ることであったり、ナットの緩みを防ぐためにもう1つ 逆ネジのナットを追加するダブルナットのことです。上記のように作業者のエラーの防止を目的とした逆ネジ は、わが国ではほとんど採用されていません。

 

Q: ヒューマンファクター設計を採用していないのはガスの配管だけではなく、気体や液体を輸送するあらゆる 種類の配管も同じといえませんか?

 

A: すべての配管にヒューマンファクター設計を採用するのは現実的ではありませんが、作業者のエラーで深刻な 事故が起きる箇所を選んで優先的に採用すべきと思います。

 

Q: わが国の企業が海外で同じような事故を起こした場合、わが国のように作業関係者の業務上過失 傷害や過失致死では済まないということですか?

 

A: その通りです。米国の陪審員裁判で製造者責任と判決されれば、青天井の賠償額を請求されま す。賠償額の支払いで困窮するのは製造者だけではありません。保険会社にも相応の被害が及び ます。欧米の大手の保険会社は、クライアントにヒューマンファクターの手法をアドバイスするために、ヒューマンファクター の専門家を雇用するとか、ヒューマンファクターのコンサルタントと契約しています。 

 

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繫華街でガス爆発
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自動運転で事故急増

2023-07-06

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2023 年 6 月 22 日、高速道路の工事現場で衝突事故が多発しているとして、NEXCO 中日本が事故 発生時の映像を You Tube に公開しました。「走行中は前を見て運転してください」と警鐘を鳴 らしています。映像は工事現場に配置された作業車両に取り付けられたカメラが記録したもので、 現場手前に置かれている矢印が描かれた表示板を吹き飛ばしながら迫る車両や、ノーブレーキで作業 車両に衝突するトラックなど、高速道路上で発生した交通事故の瞬間がまとめられています。事故の 多くは「前方不注意」が原因とみられ、スマホなどを見ながら運転していた「ながら運転」による 事故のほか、自動車に搭載されている運転支援機能(ACC など)を過信しすぎて事故を起こした 人も多いとしています。実際に映像を確認してみると、案内板に接触した直後に慌ててハンドルを 操作しているような車両が目に付きます。NEXCO 中日本は「ACC などの運転支援機能は、工事規 制材箇所の矢印板に反応しませんので、運転の補助機能として活用し、走行中は前を見て運転し てください」と呼びかけています。

 

図.1 NEXCO 中日本が公表した事故映像

 

Q: ACC とはどのような自動運転ですか?

 

A: 一般的には Auto Cruise Control の略ですが、Adaptive Cruise Control を指す場合もありま す。Adaptive Cruise Control とは、Auto Cruise Control に自動でブレーキがかけられる機能を追 加した自動運転です。どちらも、前を走る車両との間隔を検知してアクセルやハンドルを自動制御する ことで、衝突を回避する機能ももっています。「レベル 2 の自動運転」に分類されています。

 

図.2 ACC の概念図

 

Q: NEXCO 中日本による映像の公表をどう思いますか?

 

A: 自動運転の普及にともなう高速道路管理会社の嘆きとも聞こえます。これまで、わが国のマスコミや 知識人はこぞって自動運転を礼賛してきました。テレビに頻繁に出演するあるコメンテーターは、「自動運 転こそがわが国が目指すべき自動車の安全技術」とまで礼賛しています。ですが、弊社はこれまで 一貫して、自動運転の可能性を否定してきました。今般の NEXCO 中日本の嘆きは、弊社の主張の 妥当性を裏づける物語のほんの序章に過ぎません。

 

Q: 自動運転には多少の問題があっても、よく整備された高速道路なら安全に利用できると予測する 専門家も多いようですが、どうなのですか?

 

A: そのような専門家は自動車の自動運転、ひいてはシステムの自動化の本質をよく理解できていないと いえます。おそらく、「航空機も自動操縦を活用できているのだから、自動車も自動運転ができ ないはずはない」などと安易に考えているのだと思います。

 

Q: 航空機の自動操縦はうまくいっていないのですか?

 

A: 自動操縦の実態をよく知らない一般の人々がうまくいっていると誤解するのも無理はありませ ん。航空会社の社員でさえも、自動操縦の実態を知っている人はあまりいません。運航現場で は、自動操縦に関わる深刻な事故やインシデントが数多く起きています。そのほとんどは、「自動化シ ステムに関わるヒューマンファクターの問題」に起因するものです。

 

Q: 「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」とは、わかりやすくいえばどういうことですか?

 

A: システムの自動化とは、人間の脳の機能の一部をコンピュータに代行させることです。自動化のやり方に は大別して2種類あります。技術しか考えずに人間の脳とのバランスを無視する「技術中心の自動 化(Technology-centered Automation)」と、技術と人間の脳の最適なバランスを目指す「人間中 心の自動化(Human-centered Automation)」です。脳の視覚や聴覚が限られた周波数の範囲の 光や音しか感じられないように、脳が顕在意識で処理できる情報量(ワークロード)の範囲は図.3 の ように限られています。ワークロードが過大あるいは過少であれば、脳は顕在意識で情報を処理でき ずに潜在意識で処理します。そうなると、エラーしやすくなります。ワークロードが過大であると、多く の技術者は自動化でワークロードを減らしてエラーをなくそうとします。ですが、そのやり方が「技術中 心の自動化」であると、ワークロードを減らし過ぎて再び脳を潜在意識にしてしまいます。ヒューマンファクタ ーでは、そのような状況を退屈(Boredom)とか警戒心の欠如(Complacency)と称しています。 これが「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」です。この問題を解決するには、自動化のやり 方を「人間中心の自動化」にして、人間が顕在意識で行動できるようにするしかありません。 

 

図.3 自動化による意識レベルの変化

 

Q: 現在の航空機の自動操縦は「人間中心の自動化」とはいえないのですか?

 

A: 残念ながら、そうはいえません。世界のヒューマンファクターの専門家は、現在の自動操縦を「技術中心の 自動化」と考えています。そのため、国連の国際航空機関(ICAO)は新造の航空機を「人間中心 の自動化」の原則で設計することを義務づけています。わが国の航空界にはヒューマンファクターの専門家 がほとんどいないために、航空機の自動操縦に問題があることや、ICAO が「人間中心の自動化」 を義務づけていることは知られていません。

 

Q: ICAO が「人間中心の自動化」を義務づけているということは、「人間中心の自動化」を意識せず に設計された航空機は承認されないということですか?

 

A: その通りです。「人間中心の自動化」を意識して設計しているかどうかは、審査国の当局が設計 責任者に面接して、「人間中心の自動化」の原則を理解しているかどうか確認して判断します。

 

Q: 自動車の自動運転が航空機の自動操縦を模して開発されているとすれば、「技術中心の自動化」 ということになるのですか?

 

A: そういうことになります。世界最大の自動車技術の団体である SAE(Society of Automotive Engineering)では、航空のヒューマンファクターの専門家も交えて自動車の自動運転のあり方を議論して います。ヒューマンファクターの専門家は自動運転も「人間中心の自動化」にするよう提唱していますが、 現実には受け入れられていません。世界の主要自動車メーカーは、ヒューマンファクターなど無視して自動車の 電動化や自動運転の開発を競っています。今般の NEXCO 中日本の嘆きの根源は、「技術中心の自 動化」の自動運転にあるといっても過言ではありません。

 

Q: 航空機の自動操縦には「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」があるということですが、具体 的な事例でわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: わかりました。ただし、それにはタブーを破るための若干の勇気が必要になります。多くの航空会 社が、乗客に不安感を持たせないために運航の実態の公表を躊躇しているからです。

 

Q: 「運航の実態」とはどういうことですか?

 

A: 以前は2人のパイロットを「機長(Captain)」と「副操縦士(Co-pilot)」と称していましたが、自 動化が進んだ最近の航空機では「操縦パイロット(PF: Pilot Flying)」と「監視パイロット(PM: Pilot Monitoring)」と称するようになっています。多くの人は、2人のパイロットが PF と PM を交互に務 めながら自動操縦を運用していると思っているでしょう。ですが、現実は少し違います。「技術 中心の自動化」である現在の自動操縦が、パイロットに激しい退屈感と眠気を及ぼしているからで す。パイロットの多くは、巡航中に2人で談笑するとか、交替で仮眠をとりなから何とか飛行を続け ています。中には2人のパイロットの脳が潜在意識になる場合もあります。中華航空のボーイング 747SP では、前縁フラップの故障で 90 度傾いたまま飛行していることに気づかず、空中で機体を大破させ たこともあります。危うく墜落するところでした。欧米のある航空会社は、最終の着陸段階で顕 在意識を維持できなければ極めて危険であるとの考えから、「管理された仮眠(Controlled Nap)」という現実的な制度を導入しています。この問題については、ここでは文章にできない事 例もいくつかあります。

 

Q: 「技術中心の自動化」の問題を解決するには「人間中心の自動化」を目指すしかないということ ですが、これまでそれを自動車業界に訴えたことはあるのですか?

 

A: もちろん、あります。弊社代表が JAL に在籍していた 1997 年に、愛知県豊田市のトヨタ技術研究所 でわが国最大の自動車技術学会である自動車技術会(JSAE)の創立 50 周年大会に招請されて、 基調講演をさせていただきました。その際、自動車の自動運転を「人間中心の自動化」にする必 要があると切に訴えました。その後も、JSAE の論文校閲委員として、論文の校閲の際に同じこと を訴え続けました。残念ながら、弊社代表の切実な訴えは自動車業界には届いていないようで す。自動車技術会の上部組織である SAE の研究者とは、これまで何度も議論してきました。

 

Q: 「人間中心の自動化」が必要という局面は、他にもあるのですか?

 

A: 自動化とかデジタル化という局面では、常に「人間中心の自動化」が必要になります。ホットな事例 としては、政府が目指している「マイナンバーの導入」と「ChatGPT の導入」があります。どちらもデ ジタル化であり、広義の自動化といえます。「マイナンバーの導入」では、関与する人間の意識や自動 化の対象を考慮しなかったために、さまざまなエラーが起きています。「ChatGPT の導入」では、わ が国の技術者や知識人は ChatGPT が「人間中心の自動化」ではないことに気づいていません。近 い将来に多くの深刻な問題に遭遇すると予測されます。いずれにしても、わが国にとっては「ヒュ ーマンファクターの導入」が国益のための喫緊の課題といえます。 

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潜航艇が行方不明 第二報

2023-06-21
2021-06-25

第1報

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 6 月 18 日、1912 年に氷山に衝突して沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を海底に見に行 く観光用ツアーの潜水艇タイタンが行方不明になりました。現在、米国やカナダの当局が北大西洋を捜索 しています。ツアー会社は海底探査やツアーなどを企画する米国のオーシャンゲート社で、搭乗者は操縦士含 む 5 人でした。うち 1 人は英国人実業家です。ツアーは 1 人当たり 25 万ドル(約 3500 万円)で、カナ ダ東部ニューファウンドランド島のセントジョンズから南へ約 700 キロの海底約 3800 メートルにあるタイタニック号の残 骸を探索する予定でした。未確認情報として、海中で 30 分ごとに物を叩くような音が聞こえる との情報があります。タイタンは内側からは開けることができず、内部の酸素量は限られています。 

 

図.1 行方不明になった潜航艇タイタン

 

Q: 難しいとは思いますが、これまでの情報で事故の態様と原因を推測できますか?

 

A: 信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下では故障樹分析(FTA; Fault Tree Analysis) と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)が行なわれます。この事故につ いても、トップダウン思考で FTA と FMEA を行なえば、事故の態様と原因をある程度推測することがで きると思います。

 

Q: FTA を行なえば、事故の態様はどのように推測できますか?

 

A: タイタンの構造が水圧で破壊された可能性も否定できませんが、海中で物を叩く音が聞こえたという のが事実であれば除外できます。タイタンは高性能電池(おそらくリチウムイオン電池)を電源として4つ のスクリューで海中を移動します。母船を離れた後には、台座を兼ねたバラストを錘として海中に沈みま す。浮上する際にはバラストを切り離します。異常事態には緊急に浮上する必要があるために、バラ ストを自動的に切り離す安全装置も装備されています。タイタンには操縦士が乗務して、ソニーのゲーム機

「プレーステーション」のコントローラーを使って移動やバラストの切り離しなどを操作します。そこで考えられる のは、機器の故障でバラストを切り離せなくなる事態です。水深 3800 メートルでそのような事態になれ ば、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。水深 3800 メートルでは電波通信はできませんが、母 船が真上にいればソナーによる通信は可能なようです。ですが、バラストの機器の故障と同じ原因でソナ ー通信もできなくなれば、タイタンは行方不明ということになってしまいます。ただ、生存する搭乗 者がタイタンの外壁を叩けば、音波が地上の約 10 倍の速度で海中を伝わる可能性はあります。

 

Q: FMEA を行なえば、事故の原因はどのように推測できますか??

 

A: 操縦士の操作や安全装置の作動はすべて電気的に行なわれます。当然、電気系統には半導体を用 いたマイクロコントローラー(Micro Controller)が組み込まれています。バラストを切り離すマイクロコントローラーの 半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動(この場合には不作動)すれば、バラストを切り離せなくなっ て、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。この事故原因は、JAXA の H3 ロケットの打ち上げ失敗 や米国スペース X 社のスペースシャトル打上げ失敗、北朝鮮の監視衛星打ち上げ失敗と共通しています。

 

Q: なぜ「共通している」といえるのですか?

 

A: 弊社が常々言っていることですが、わが国の大企業が開発した「ある技術」がすべての事故に関 連しているからです。「ある技術」は驚くほどの勢いで世界に広がっていて、わが国に莫大な外 貨をもたらしています。

 

Q: なぜ、ここで「ある技術」を明らかにできないのですか?

 

A: 「ある技術」で発生しやすくなる EMI には再現性がなく、証拠を一切残さないからです。「ある 技術」が世界で否定されることになれば、わが国は甚大な経済的損失を被ることになります。弊 社とて、確たる証拠なしに事故原因と断定することはできません。読者の方々には、独自に想像 して判断していただきたいと思います。

 

第2報

 

Q: 他の無人潜航艇による探索でタイタンの破片らしきものが見つかったそうですが、第1報での推測に 変化はありますか?

 

A: 特にはありません。なぜなら、第1報での推測は FTA でさまざまな可能性を考慮しうたうえでの 推測だからです。

 

Q: タイタンのプロジェクトでは、過去に関係者の1人が「のぞき窓の強度が水深 1300 メートルでの水圧しか保 障されていない」ことを指摘していたそうです。のぞき窓が水圧で壊れたことが事故原因とは考 えられませんか?

 

A: 第1報での FTA では、のぞき窓だけでなくタイタンの構造のどこかが疲労による経年劣化で壊れた可 能性も考慮しています。ですが、構造が水圧で壊れる前には何らかの兆候があります。兆候が認 められた際には、操縦士はバラストを手動で切り離して直ちに浮上することになっています。タイタン の潜航は観光だけでなく試験潜航の目的も兼ねています。操縦士や他の搭乗者がそういった兆候 を見逃したとは思えません。

 

Q: 操縦士や搭乗者も人間ですので、兆候を見逃すこともあるのではないですか?

 

A: その可能性は否定できません。兆候を見逃さなくても、直ちにバラストを切り離して浮上する決断 をできなかった可能性もあります。そのために、兆候を自動的に感知してバラストを自動的に切り 離す自動化安全装置が装備されています。

 

Q: 安全装置はのぞき窓や構造の破壊の兆候をどのように感知するのですか?

 

A: タイタンの設計を確認してはいませんが、常識的には、破壊の兆候が予想されるのぞき窓や構造の部 分に歪みセンサー(Strain Sensor)を取り付けます。センサーがある閾値(しきい値、Threshold)以上 の歪みを感知すれば安全装置が自動的に作動するようにします。一般的に、歪みセンサーはごくわず かな歪みでも敏感に感知できます。 

 

図.2 歪みセンサー

 

Q: のぞき窓や構造の破壊は事故の直接の原因ではないということですか?

 

A: 事故の原因ではなく、結果ではないかと考えています。事故調査でよく見られるエラーに、事故の 結果を原因と考えてしまうエラーがあります。先日わが国で起きた知床遊覧船の沈没事故でも、運 輸安全委員会(JTSB)は「ハッチの蓋のヒンジ部分の破壊が事故原因」と半ば結論づける初期報告を 公表しました。ですが、ヒンジ部分の破壊は脆性破壊であり、事故以前から進行していた疲労破壊 ではないことは確認されています。つまり、ヒンジ部分の破壊は事故の原因ではなく結果に過ぎな いといえます。最近になって、JTSB は初期報告の結論を考え直そうとしているとの情報を得てい ます。JTSB が公式の報告を訂正するというのは異例の事態ですが、その勇気を示していただきたいと思っています。タイタンの構造の破壊も、事故の原因ではなく結果に過ぎない可能性もありま す。事故当局には慎重に調査してもらいたいと願っています。

 

Q: 第1報で推測されている原因でタイタンが 3800 メートルの深海で身動きがとれなくなっていれば、構造 が破壊される可能性はあるのですか?

 

A: 身動きがとれなくなっているだけでは、直ちには構造は破壊されません。ですが、その時間が長 くなれば可能性はあります。先ず、構造の最も弱い部分が破損します。その破損が急激であれ ば、周辺の空気の流れが音速を超えて衝撃波が発生します。その衝撃波が構造内部に伝播して、 構造を一気に破壊します。衝撃波にはそれほど膨大なエネルギーがあります。この破壊モードは疲労破 壊ではなく脆性破壊ですので、タイタンの残骸を回収して破面分析すれば確認できます。

 

Q: 第1報の推測の根拠として「ほぼ 30 分の間隔で物を叩くような音を感知した」という情報があ りますが、どう考えていますか?

 

A: 海中にはさまざまな音源があると思います。ですが、「ほぼ 30 分の間隔で」という情報に注目し ています。この情報が真実であれば、搭乗者は一定の時間内で生存していたことになります。そ の真偽については、さらなる情報を待ちたいと思っています。

 

Q: タイタンにわが国の大企業の「ある技術」が採用されていると推測していますが、その根拠は何です か?

 

A: タイタンのプロジェクトを進めているオーシャンゲート社が米国ワシントン州のエベレットにあるということです。同地に はボーイングの本社と主要工場があります。ボーイングは「ある技術」を航空機やロケットに全面的に採用 しています。タイタンの設計、製造に際して、オーシャンゲート社がボーイングの影響を受けている可能性は否 定できません。そうだとすれば、ボーイングはオーシャンゲート社に設計に関するさまざまなアドバイスをし た可能性があります。ですが、ボーイングも「ある技術」と EMI の関わりまではアドバイスできなかっ たと思っています。もしかしたら、タイタンの事故の真因は「オーシャンゲート社のボーイングに対する過 信」、さらには「ボーイングのわが国の技術に対する過信」なのかも知れません。弊社はこの問題を さらに深堀りしていこうと考えています。

 

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潜航艇が行方不明

2023-06-21

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 6 月 18 日、1912 年に氷山に衝突して沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を海底に見に行 く観光用ツアーの潜水艇タイタンが行方不明になりました。現在、米国やカナダの当局が北大西洋を捜索 しています。ツアー会社は海底探査やツアーなどを企画する米国のオーシャンゲート社で、搭乗者は操縦士含 む 5 人でした。うち 1 人は英国人実業家です。ツアーは 1 人当たり 25 万ドル(約 3500 万円)で、カナ ダ東部ニューファウンドランド島のセントジョンズから南へ約 700 キロの海底約 3800 メートルにあるタイタニック号の残 骸を探索する予定でした。未確認情報として、海中で 30 分ごとに物を叩くような音が聞こえる との情報があります。タイタンは内側からは開けることができず、内部の酸素量は限られています。

 

図.1 行方不明になった潜航艇タイタン

 

Q: 難しいとは思いますが、これまでの情報で事故の態様と原因を推測できますか?

 

A: 信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下では故障樹分析(FTA; Fault Tree Analysis) と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)が行なわれます。この事故につ いても、トップダウン思考で FTA と FMEA を行なえば、事故の態様と原因をある程度推測することがで きると思います。

 

Q: FTA を行なえば、事故の態様はどのように推測できますか?

 

A: タイタンの構造が水圧で破壊される可能性も否定できませんが、海中で物を叩く音が聞こえたという のが事実であれば除外できます。タイタンは高性能電池(おそらくリチウムイオン電池)を電源として4つ のスクリューで海中を移動します。母船を離れた後には、台座を兼ねたバラストを錘として海中に沈みま す。浮上する際にはバラストを切り離します。異常事態には緊急に浮上する必要があるために、バラ ストを自動的に切り離す安全装置も装備されています。タイタンには操縦士が乗務して、ソニーのゲーム機 「プレーステーション」のコントローラーを使って移動やバラストの切り離しなどを操作します。そこで考えられる のは、機器の故障でバラストを切り離せなく事態です。水深 3800 メートルでそのような事態になれば、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。水深 3800 メートルでは電波通信はできませんが、母船が 真上にいればソナーによる通信は可能なようです。ですが、バラストの機器の故障と同じ原因でソナー通 信もできなくなれば、タイタンは行方不明ということになってしまいます。ただ、生存する搭乗者が タイタンの外壁を叩けば、音波が地上の約 10 倍の速度で海中を伝わる可能性はあります。

 

Q: FMEA を行なえば、事故の原因はどのように推測できますか??

 

A: 操縦士の操作や安全装置の作動はすべて電気的に行なわれます。当然、電気系統には半導体を用 いたマイクロコントローラー(Micro Controller)が組み込まれています。バラストを切り離すマイクロコントローラーの 半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動(この場合には不作動)すれば、バラストを切り離せなくなっ て、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。この事故原因は、JAXA の H3 ロケットの打ち上げ失敗 や米国スペース X 社のスペースシャトル打上げ失敗、北朝鮮の監視衛星打ち上げ失敗と共通しています。

 

Q: なぜ「共通している」といえるのですか?

 

A: 弊社が常々言っていることですが、わが国の大企業が開発した「ある技術」がすべての事故に関 連しているからです。「ある技術」は驚くほどの勢いで世界に広がっていて、わが国に莫大な外 貨をもたらしています。

 

Q: なぜ、ここで「ある技術」を明らかにできないのですか?

 

A: 「ある技術」で発生しやすくなる EMI には再現性がなく、証拠を一切残さないからです。「ある 技術」が世界で否定されることになれば、わが国は甚大な経済的損失を被ることになります。弊 社とて、確たる証拠なしに事故原因と断定することはできません。読者の方々には、独自に想像 して判断していただきたいと思います。

 

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原発再稼働の条件

2023-06-18

 

Q: 政府は 3.11 の災害で停止していた原発を原子力規制委員会による安全確認の後で順次再稼働す る方針ですが、規制委員会の再稼働の条件に問題があるということですか?

 

A: その通りです。詳細について述べる前に、ある方からのメールを下記に紹介させていただきます。 この方は、本年 3 月 31 日に弊社代表がある会合で講演した際に聴講された方です。わが国を代 表する企業の研究所に勤務された後に、大学教授や民間の研究所所長、コンサルタントなどで活躍され ています。メールの公表については、ご本人の承諾を得ています。

 

 

○○と申します。さる 3 月 31 日の「デジタル化社会のリスクマネージメント」と題する講演で質問させてい ただきましたが、追加のコメントをさせていただきます。それは福島第一原発に関わることです。国民 全体が事の真相を正しく認識すべき歴史的大事故であるにもかかわらず、事故原因調査すら曖昧 模糊という情けない事態を放置してよいはずはありません。講演は、刺激の多いレクチャーであり、考 えさせられることが多々ありました。中でも最も印象に残った話題を採り上げ、感じた事を申し ます。

 

■ 福島第一原発のメルトダウン:

 

   この原因について 2019 年 9 月に文芸春秋に公表された現場の技師による暴露記事があります。お 読みになったかも知れませんが、注目すべき記事と考えるので、添付します。(弊社注:著作権の 関係で記事の添付は控えます) 投稿者は事故当時福島第一の現場の「炉心屋」と呼ばれる技術者 として働いていた木村俊雄氏です。木村氏によれば、4 つの事故調査団が出した報告書はいずれも 事故の真相解明に至っていません。文春の記事では、ジェットポンプ計測配管破損⇒燃料棒冷却用水 自然循環停止⇒気泡発生⇒冷却不能⇒ドライアウト⇒メルトダウンという経過で炉心破壊に至ったとありま す。つまり炉心メルトダウンの切掛けは、地震発生1分 30 秒後の冷却水循環系統の破損であり地震動 そのものの最初の衝撃で起こっている。これは「想定外の津波被害に基づく電源喪失によるメルトダ ウン」という東電の公式発表とは大違いである。そしてこれは、原子炉の設計不備であり、大地震の 振動そのものに耐えられない脆弱な構造であったということなので、全ての原子炉に共通する設 計欠陥であり、明確な人為ミスということ。原子炉内微細配管系統の安全確保の設計変更が必要で あり、これは巨額のコストとなり実現不可能と断じている。つまり、原発にはもともと無理があると いうのが経験豊富な現場技師の認識。「想定外の津波被害による過失致死」の裁判で東電幹部の刑事責任が問われることはなく無罪となった。たいへん多くの国民に甚大な被害を与えた人為ミスに よる事故の訴訟において無罪になったという「茶番劇」と言える。何重にも積み重なった嘘の上に 居座る会社幹部の姿は、死神とも貧乏神ともつかない情けないものであった。ただひたすら「多大 な迷惑を掛けて申し訳ない」と形式的に言い続ける姿が馬鹿々々しい。3.11 以前にも度重なる原 発事故において、東電は嘘の報告を平気で行うことを繰り返し、その隠蔽体質は公然の秘密と言 える。リスクマネージメントもへったくれもないなあというのが筆者の印象です。「人は嘘をつく」、「人は真 実を突き詰めない」、「人は嘘にまみれて平気で暮らす」というリスクをどうやって遮断できるであろ うか?以下は蛇足ながら・・・。貴兄の内容豊富で重い講演内容に対して、質疑応答時間が余りに も不足、十分な討議ができなかったのが残念でした。

 

Q: このコメントを読んで、どのように感じましたか?

 

A: わが国の知識人の方々が福島第一原発の事故に対する政府や東電の対応に激しい不満をもってお られることがわかります。弊社代表の講演を切っ掛けとして、本音のコメントを寄せてくださったこ とに感謝しています。この方は、東電の原発現場で「炉心屋」と呼ばれる技術者である木村俊雄氏 の記事を読んで、「原発にはもともと無理がある」と考えておられます。ですが、そう断言する前 に事故の真因を精査する必要があると思います。弊社の分析によると、炉心メルトダウンは必ずしも原 発の設計不備が原因とはいえず、東電の技術者が原発の設計理念(Design Concept)を理解してい なかったことによる「致命的なエラー」が原因と考えられます。

 

Q: 「原発の設計不備が原因ではない」といえる根拠は何ですか?

 

A: 原発の設計理念を考えてみる必要があります。すべての原発は、信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下で入念に故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)と故障モード・影響分 析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)を実施したうえで設計されます。FTA では、原発 の構造が地震や津波、航空機の墜落、ミサイル攻撃などで破損して炉心冷却の全電源が失われること は十分に予測されています。そのため FMEA による対策として、電源なしでも炉心を冷却できる 緊急炉心冷却装置(ECCS: Emergency Core Cooling System)が装備されています。ECCS は、ま さにトップダウン思考のフォールトトレラント(Fault Tolerant)設計の理念に基づく装備といえます。福島第 一原発1号炉では「非常用復水器(IC: Isolation Condenser)」と称されていました。全電源 喪失が起きても、東電の運転員が非常用復水器をうまく活用できていれば、最悪の炉心メルトダウン は回避できました。木村氏は「全電源喪失の原因は地震による原発内部の破損」と考えています が、必ずしもそうはいえないことがわかります。原子力の分野では、トップダウン思考のリスクマネージメントである信頼性監視体制は MORT(Management Oversight and Risk Tree)と称されています。 MORT を有効に実践するには、ヒューマンファクター(Human Factors)を含む科学技術の幅広い知識をも つ、FTA や FMEA の分析をできるトップダウン思考の人材が必要になります。国連の国際原子力機関 (IAEA)は、福島原発事故の前に加盟国に MORT の実践を強く勧告していました。それなのに、 わが国の政府原子力組織と東電は「すべて実施済み」と回答して無視していました。

 

図.1 福島第一原発1号炉の非常用復水器(IC) 

 

Q: 「全電源喪失の原因は地震による原発内部の破損ではない」といえる根拠は何ですか?

 

A: 実は、事故直後の 2011 年 5 月 16 日に、東電が原発敷地内の盛土斜面に建てた送電鉄塔(図.2 の 「夜の森線」の No.27 鉄塔)が地震で倒壊したことを公表しています。送電鉄塔の倒壊が全電源 喪失の主原因であることは間違いありません。木村氏が言うように原発内部の破損があったこと は否定できませんが、主原因ではないと思われます。地震による送電鉄塔の倒壊が原因となると 都合が悪いのか、政府と東電はその後に「津波が事故原因」と強調するようになりました。送電 鉄塔倒壊の現場は放射能レベルが高いために、事故調査団は精査しなかったようです。木村氏も送 電鉄塔の倒壊を知らないようです。原発への送電鉄塔は数多くあります。送電鉄塔の倒壊で全電 源喪失が起きる可能性は決して小さいとはいえません。送電鉄塔の倒壊以外にも、全電源喪失に つながる要因はいくつかあります。

 

図.2 地震で倒壊した原発敷地内の送電鉄塔(No.27) 

 

Q: 「東電の技術者が原発の設計理念を理解していないための致命的なエラーが炉心メルトダウンの原因」と いうのはどういうことですか?

 

A: 事故後の2011年12月9日に毎日新聞がある記事を載せています。下記のような記事です。

 

 

 東京電力福島第一原発事故で、1 号機の原子炉を冷却する非常用復水器(IC)が津波襲来から 1 時間 以内に再稼動した場合、炉心溶融に至らなかつたことが 8 日、原子力基盤安全機構(JNES)の解析 で分つた。IC は電源が失われても動く唯―の冷却装置だが、IC につながる配管の弁が閉じ、機能 を果たせなかった。迅速に弁を開ける方法を準備していれば、炉心溶融は避けられた可能性があ る。(中略)電源喪失に伴ない弁がすべて閉まるよう設計されており、地震発生後は断続的に動い たが津波後に開じた。2 時間 40 分後の午後 6 時 18 分、蓄電池が復旧して弁が開き 7 分だけ稼動し たものの、運転員が IC の冷却水不足を懸念し手動で停止、再稼動はさらに 3 時間後だつた。

 

Q: 「(IC は)電源喪失に伴ない弁がすべて閉まるよう設計されており」とはどういうことですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば理解できます。原発は原子力平和利用の1例です。ウランやプルトニウムなどの 核分裂で発生する膨大なエネルギーを、核兵器としてではなく、臨界を巧妙に避けることで発電に利 用しています。いわば原発は、コンピュータで核反応を自動制御するための「巨大な自動化システム」と いえます。コンピュータは電力がなくなれば使えなります。システム工学では、コンピュータが電力喪失で使え なくなる事態を想定して手動バックアップを準備するのは常識とされています。それに、手動バックアッ プは自動ではなく人間の意思で開始されなければならないというのもシステム工学の常識です。ECCS や非常用復水器はまさに原発の自動化システムの手動バックアップといえます。そのため、自動ではなく 人間の意思で弁を開けて作動開始されるように設計されています。

 

Q: 「東電の技術者が原発の設計理念を理解していなかった」といえる根拠は何ですか?

 

A: 毎日新聞の記事に「迅速に弁を開ける方法を準備していれば、炉心溶融は避けられた可能性があ る」と書かれています。つまり、東電の運転員は非常用復水器の弁を(手動で)迅速に開ける方法 を準備していなかったといえます。弁を手動で開ける方法を準備していなかったことが、「原発の 設計理念を理解していなかった」根拠といえます。実は、弁は全電源喪失でも手動で開けられるよ うに設計されています。弁を手動で開けるには、放射能レベルが高い原発建屋内部にある手動用ハン ドルにアクセスする必要があります。それに、炉心を通った 400℃の高温水で加熱された手動用ハンドルを 開けるには専用のツールが必要です。残念ながら、東電の運転員には手動用ハンドルを操作する勇気と 準備がありませんでした。東電の技術者が原発の設計理念を理解できていれば、事前に訓練で準備できたと思います。航空界ではその種の訓練を CRM(Crew Resource Management)訓練と称して しています。

 

Q: 毎日新聞の記事には詳しく書かれていませんが、東電の運転員が最終的に非常用復水器の弁を閉 じてしまった「致命的なエラー」とはどのようなエラーですか?

 

A: 全電源喪失の後で、東電の運転員は非常用復水器が作動しているかどうか不明のため、通称「豚 の鼻」と称される水蒸気排出口を点検してみました。その時、排出口からは水蒸気が出ていませ んでした。運転員はその状況を見て、復水器の水がすでに蒸発してしまったと思い込んでしまい ました。「空焚き」のままでは復水器が破損して放射能漏れをまねくと恐れた運転員は、慌てて 僅かに残る蓄電池の電力で弁を閉じてしまいました。直後に電力が完全になくなり、弁を再び開 けられなくなってしまいました。それが「致命的なエラー」ですが、その後のわが国の運命を大き く変えることになってしまいました。実は、「豚の鼻から水蒸気が出ていない」という現象には 2つの意味があり、曖昧なデジタル情報といえます。2つの意味とは、①水が沸騰してすべて蒸発 してしまったか、②水がまだ沸騰せず水蒸気が出ていない、ということです。「人間が非常時に 曖昧なデジタル情報を潜在意識で処理すれば、エラーしやすい」というのはヒューマンファクターの定説です。 東電の技術者にヒューマンファクターの知識があれば、「致命的なエラー」を防ぐことができたはずです。

 

図.3 通称「豚の鼻」の水蒸気排出口

 

Q: 他にも「東電の技術者が原発の設計理念を理解できていない」といえる根拠があるのですか?

 

A: あります。木村氏が文春の記事の中で「炉心冷却のための自然循環」と書いていることです。ここ でいう「自然循環」とは非常用復水器のことです。非常用復水器を「自然循環」と称している木村 氏は、非常用復水器が自然に(自動的に)作動するものと誤解しているようです。しかも、「自然 循環が地震で破損して使えなくなった」と書いています。非常用復水器はいたって単純なシステムで あり、地震では容易に破損しません。非常用復水器を「自然循環」と誤解していたのは木村氏だけ でなく、東電の技術者の多くも同じ誤解をしていたものと思われます。

 

Q: 文春の記事の中で木村氏は「4 つの事故調査団が出した報告書はいずれも事故の真相解明に至っ ていない」と書いているそうですが、どう思いますか?

 

A: 原発事故に限らず、関連分野の専門家が適切な事故調査をできるとは限りません。適切な事故調 査を行なうには、関連分野の知識だけでなくヒューマンファクター(Human Factors)を含む幅広いリスクマネージ メントの知識が必要です。米国の南カルフォルニア大学や英国のクランフィールド大学などには、各国政府や民間企 業の事故調査担当者を対象とした事故調査のスキルの養成講座が設けられています。福島原発事故を 調査した 4 つの事故調査団には、事故調査のスキルがある学識経験者や技術者が参加していなかった ようです。木村氏自身も、適切な事故調査のスキルをもっているとは思えません。

 

Q: 「適切な事故調査」とは、どういうものですか?

 

A: 事故の真因を的確に解明できて、同種事故の再発を確実に防止するための有効かつ現実的な対策 を引き出すことができる事故調査のことです。適切な事故調査はボトムアップ思考ではできません。ト ップダウン思考による綿密な分析が必要になります。

 

Q: トップダウン思考で福島第一原発事故を分析すると、原因と対策はどうなりますか?

 

A: 直接原因は、①崩れやすい盛土斜面に建てた東北電力からの送電鉄塔が地震で倒壊したこと、② ディーゼルエンジンによる非常用電源が使えなかったこと、③最後の手段である非常用復水器を有効に 活用できなかったことです。間接原因は、①東電の技術者が原発の設計理念を理解していなかっ たこと、②トップダウン思考のリスクマネージメントである信頼性監視体制(原子力の場合には MORT)を構築 できていなかったこと、③内閣と東電経営幹部が原発を廃炉にしてでも炉心メルトダウンを防ぐ決断 をできなかったことです。とるべき対策は、IAEA が勧告する MORT を実践するための人材の養成 と体制の構築を急ぐことです。そのことが「原発再稼働の条件」ということになります。。

 

Q: 「MORT の実践のための人材の養成と体制の構築」はわが国では難しいのではないですか?

 

A: 率直にいって、ボトムアップ思考のわが国の原子力関係者や学識経験者には極めて難しいと思います。 福島第一原発の事故の前に、わが国の政府原子力組織と東電が IAEA の勧告を無視していたことは 前述しました。勧告に対する回答は、その場を繕うだけのいわゆる「やっている振り(Cosmetic Compliance)」でした。事故を防ぐことができなかったことからもそれは明らかです。ですが、わ が国には「難しいからできないでは済まされない」地政学上の事情があります。

 

Q: 「難しいからできないでは済まされない」地政学上の事情とはどういうことですか?

 

A: 炉心メルトダウンの影響をトップダウン思考で考えれば理解できます。偏西風の関係から、炉心メルトダウンに よる放射能拡散の影響は原発の西側よりも東側が深刻です。福島第一原発事故では、幸か不幸 か、放射能のほとんどが東側の太平洋に拡散しました。そのため、放射能拡散によるわが国の被害は比較的軽微で済みました。ですが、わが国の西側の中国では 100 基以上、韓国では 10 基程 度、台湾でも数基の原発が稼働しています。これらの原発の1基でも炉心メルトダウンを起こせば、 わが国にはより深刻な影響が及ぶことになります。国民の健康被害以外にも、経済的に想像もで きない被害が予想されます。そのような国難を防ぐには、わが国は MORT を理解して各国と協力 して炉心メルトダウンの防止に努めるしかありません。

 

図.4 原発事故による放射能拡散の影響

 

Q: わが国が原発を再稼働するかどうかに関わらず、MORT を理解して実践する必要があるというです が、何かそのための活動をしていますか?

 

A: 弊社にできる活動は限られていますが、微力ながら活動しています。本年 1 月 26 日に日本学術 会議が原子力安全に関するシンポジウムを開催しましたが、弊社代表が出席しました。わが国の原子 力安全の主要な学識経験者が一同に会すると案内されたからです。ですが、各講演者の講演の内 容があまりにも現実とかけ離れていることに落胆させられました。事故の唯一の再発防止策であ る MORT に関して講演をする人は誰もいませんでした。原子力規制委員会に関係する講演者もお られましたが、このままでは上記のわが国の地政学上の国難を効果的に防げるとは思えません。 弊社には、MORT の実践に必要な人材の育成と体制の構築について詳しく解説させていただく用意 があります。 

 

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原発稼働の条件
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イエティ航空 ATR72-500 が墜落 第2報

 

第1報 2023-01-17
第2報 2023-05-10
第1報
Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 1 月 15 日、ネパールのイエティ航空 YT691 便(ATR72-500))がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終 進入段階で墜落しました。ポカラ国際空港は本年 1 月 1 日に開港しましたが、同便は以前の空港と の間に流れるセティ川の土手に激突して炎上しました。現地の報道によると、パイロットは最初に滑走路 30 への進入を準備した後で滑走路 12 への進入を航空管制に要求したとのことです。同空港の標準 計器到着方式(SIA: Standard Instrument Arrival procedure)によれば、同便は最初に旧空港 に設置されている POK VOR をイニシャル進入位置(Initial Approach Fix (IAF))として 087°の方位 角(Heading)で通過した後に、滑走路 12 に向けて右旋回しなければならないことになっていま す。新空港は旧空港の東南東に位置しています。その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着 陸していました。1 月 12 日の YT677 便(ATR72)だけは、空港の北側を飛んだ後に滑走路 12 に着 陸していました。現時点では、搭乗者 72 名のうち 68 名の死亡が確認されています。 

図.1 イエティ航空の事故機と同型機 

 

Q: これだけの情報では事故原因を推察するのは難しいと思いますが、何か手掛かりになる情報があ りますか?

 

A: その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着陸していたというのに、YT691 だけが滑走路 30 へ の進入を準備した後で滑走路 12 への進入を要求したという情報が気になります。直前の便も滑走 路 30 に着陸したのですから、風は滑走路 30 の向かい風だったはずです。それなのにあえて追い 風となる滑走路 12 への進入を要求したというのは、大きく回り道して滑走路 30 に着陸する余裕 がなかったからだと推測されます。つまり、パイロットは滑走路の変更を要求した時点ですでに何か 操縦の困難性を認識していて、滑走路 12 にそのまま緊急着陸したかったのだと思います。

 

Q: ところで、滑走路の数字は何を意味するのですか?

 

 A: この数字は滑走路の指示標識といいます。航空機の進行方向(離着陸方向)から見た滑走路の方角 を表しています。離着陸時の航空管制とのやりとりなどで使われます。航空機の運航に重要な情 報です。例えば、滑走路 12 は真北を 0°とする時計回りの方向(120°)に向けた滑走路を意味し ます。滑走路 12 と滑走路 30 は同じ滑走路で、向きが 180°異なるだけです

 

Q: パイロットはなぜ航空管制に緊急事態を宣言しなかったのでしょうか?

 

A: 推測ですが、当日の YT691 便が置かれていた特殊な状況に関連している気がします。

 

Q: 「特殊な状況」とはどういうことですか?

 

A: 公式には確認されていませんが、当日の YT691 便では年配の女性副機長の機長昇格チェックが行われ ていたという地元消息筋の情報があります。チェックされていた副機長が操縦していたとすれば、原 因不明の操縦の異常を感じても大袈裟に緊急事態を宣言しにくかった可能性があります。副機長 が操縦の異常を審査教官に話していたとしても、プライドが高い審査教官が大袈裟に振舞うことを 躊躇した可能性もあります。副機長が操縦の異常を感じたのは、滑走路の変更を要求した時点よ りそれほど前のことではないと思われます。

 

Q: 航空機が進入時に遭遇する事故としては CFIT(Controlled Flight Into Terrain)がよく知られ ていますが、この事故は CFIT とは考えられないのですか?

 

A: CFIT とは、パイロットの錯視や錯覚といった脳の潜在意識(Subconscious Mind)で起きる事故で す。パイロットが航空管制に明確に滑走路の変更を要求している状況からは、パイロットが潜在意識で行 動していたとは考えられません。CFIT の可能性はないと思われます。

 

Q: 事故原因が CFIT でないとすれば、航空機を墜落させる原因は他に何があるのですか?

 

A: 主翼の失速(Stall)が最も疑われます。主翼を失速させる要因は2つあります。①主翼の空力 形状の異常と②パイロットによる誤操作です。

 

Q: トップダウン思考の事故原因分析では、その先どのように事故原因を絞り込むのですか?

 

A: トップダウン思考とは、事象を広い視野と深い洞察力で考えて問題解決を探ることです。広い視野で ATR 社製の機種に注目してみれば、ATR42 シリーズや ATR72 シリーズはこれまで主翼前縁(Leading Edge) の着氷が原因で何件か失速による墜落事故を起こしていることがわかります。

 

図.2 ATR72 の主翼前縁の着氷 

 

Q: ATR42 や ATR72 では、主翼前縁の着氷を防ぐ対策はとられていないのですか?

 

A: 主翼前縁の除氷ブーツ(Deicer Boots)など、さまざまな防除氷装置が装備されています。除氷ブ ーツは、主翼前縁の着氷をセンサーで感知してエンジンからのニューマティック(高温高圧空気)でゴム製のブーツを 自動的に膨らませることで着氷を除去する装置です。ところが、これまでの米国の国家運輸安全 委員会(NTSB)による事故事故調査で、ATR42 や ATR72 の除氷ブーツが機能不足であることがわか りました。主翼前縁における除氷ブーツの長さが設計時の2倍必要であるとのことです。FAA は直 ちに ATR42 シリーズと ATR72 シリーズに対して耐空性改善命令(AD)を発効して、改修と設計変更を指 示しました。

 

図.3 ATR42 と ATR72 の防除氷装置

 

Q: 事故機では AD の改修が実施されていたのですか?

 

A: 事故機は 2007 年 8 月に登録されて、その後にいくつかの航空会社で転売されています。AD の改 修が実施されていなければ転売はできません。AD の改修は実施されていたと思います。

 

Q: それなら、他に何が事故原因として考えられるのでしょうか?

 

A: 2つ考えられます。①AD の改修内容がまだ不十分であるか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入 れ忘れていた、ということです。②の原因による事故は現実に何件か起きています。

 

Q: 除氷ブーツがうまく機能しなければ、航空機の操縦にどのような影響があるのでしょうか?

 

A: NTSB による過去の類似事故の調査では、「補助翼の逆効き(Aileron Reversal)」という深刻な 操縦不能に陥ると指摘されています。

 

Q: 「補助翼の逆効き」とはどのような操縦不能ですか?

 

A: 補助翼が取り付けられている主翼部分の前縁に着氷があれば、空気の流れが乱れて後方の補助翼 の揚力に影響を及ぼします。極端な場合には、操縦輪(Control Wheel)を回して補助翼を操作 しても機体が思う方向とは逆に旋回するという現象が起きます。

 

Q: 「補助翼の逆効き」が起きると、パイロットはどのような心理になるのですか?

 

A: ヒューマンファクターの専門家はよく知っています。操縦輪を回せば航空機が所望の方向に旋回するという 現象などは、専門的には制御則(Control Law)といわれています。制御則は訓練の成果として パイロットの脳の潜在意識に刷り込まれます。パイロットが緊急時に潜在意識に反して行動することは容 易ではありません。ほとんどの場合、「補助翼の逆効き」が起きるとパイロットはパニックに陥って航 空機を失速させてしまうと考えられています。

 

Q: 報道されている一般人がスマホで撮影した映像では、機体が失速で錐揉み状態(Spin)になってい るようには見えないのですが、これはどういうことですか?

 

A: 通常は、航空機が失速すると錐揉み状態に陥って墜落します。これも推測ですが、パイロットがポカラ の市街地に墜落しないよう必死に努力していたのではないかと思います。人口が密集する市街地 に墜落すれば、地上で甚大な被害がでることになります。弊社が羽田空港の東京都心上空進入ルー トに懸念をもつのも、東京都心で同じような事故が起きる可能性があるからです。

 

Q: パイロットが除氷ブーツのスイッチを入れ忘れたとすれば、乗客が乗る通常便でパイロットがチェックされることと 関連がないのでしょうか?

 

A: 無関係とはいえないと思います。弊社代表が勤務していた JAL でも、パイロットのチェックをしていた DC-8 による通常便で進入時に空港の着陸灯に脚を接触させるという事故がありました。事故の詳 細は、公式の事故調査報告書でも報告されていて秘密ではありません。チェック飛行では、パイロットが 緊張するだけではなく飛行前の点検作業の分担が乱れる可能性もあります。このことがパイロットの エラーを誘引しないとはいえません。

 

Q: チェック飛行にパイロットのエラーを誘引する要因があるのなら、多くの乗客が搭乗する便でなぜ行なわれ るのでしょうか?

 

A: パイロットのチェックは頻繁に行なわれています。最近は一部がシミュレータで行なわれるようになっています が、機長昇格チェックのように路線の習熟度を確認するチェックはシミュレータでは行なえません。チェックだけの ために飛行させることは多大な経費を要します。それだけに、チェック飛行におけるヒューマンファクターの研 究は重要といえます。JAL における事故の調査では、この点は特に勧告されませんでした。

 

Q: ATR72 や ATR42 はわが国でも使われているのですか?

 

A: ATR72 や ATR42 は世界のコミュータ航空業界でも人気のあるリージョナルジェット機の1つです。わが国のコミュー タ航空会社もすでに使っていますし、今後も導入の計画があるようです。それだけに、わが国の航空界や社会もこの事故に関心をもつ必要があります。

 

Q: これまでのお話はすべて推測の域を出ないと思いますが、この事故の公式調査は今後どのように 行なわれるのでしょか?

 

A: シカゴ条約の付属書(ICAO Annex 13)に則って、ネパールの航空当局とフランス航空当局が事故調査を主 導します。これまでの経験から、米国の NTSB も協力すると思われます。フランスや米国の当局にはトッ プダウン思考ができる人材が揃っているはずです。これから回収される飛行記録の調査から、これ までのお話とは異なる事故の真因が明らかになる可能性もあります。ですがそうだとしても、こ れまでのお話は今後の航空安全の推進のために決して無駄にはならないと思っています。

 

 

第2報

 

Q: 事故調査に進展があったのでしょうか?

 

A: 事故機のブラックボックス(CVR と FDR)が回収され、事故調査チームにより解読されました。事故調査チーム は、本年 2 月 13 日に解読結果を含めた初期報告書(Preliminary Report)を公表しています。初 期報告書の pdf は下記 URL からダウンロードできます。

 https://www.flightradar24.com/blog/wp-content/uploads/2023/02/Yeti-Airlines-15-Jan2023-Preliminary-Report.pdf

 

Q: 初期報告書には、第1報に書かれていない事実が書かれているのですか?

 

A: 第1報に書かれていない主な事実は、降下の終盤でフラップを 30 位置に下げようとした際に、両側エ ンジンの回転数が 25%まで低下してトルクがほとんどゼロになってしまったことです。その時点で、FDR によれば両側エンジンのプロペラがフェザーリング状態に切り替わっています。その直後に、機体が急激に 左旋回するとともに失速警報(Stick Shaker)が作動するという異常が始まっています。

 

Q: 「プロペラのフェザーリング状態」とはどういうことですか?

 

A: プロペラによる空気抵抗を最小にするために、プロペラの角度を気流と平行にセットすることです。パイロ ットが手動で切り替える場合と自動的に切り替わる場合があります。

 

Q: 事故調査チームは何か原因の手がかりを把握できているのでしょうか?

 

A: まったく把握できていないようです。今後は下記の項目を重点的に調査するそうです。 ① 両側エンジンのプロペラがフェザーリング状態に切り替わった経緯(弊社注:手動か自動か?) ② ヒューマンファクター(弊社注:パイロットに何らかの操作エラーがあったのか?) ③ ポカラ国際空港を国内空港と同時運用する際の目視進入方式に問題はないか?

 

Q: 初期報告書には、第1報で推測された事故原因を否定する内容が含まれているのですか?

 

A: 弊社は事故発生のわずか 2 日後に、トップダウン思考で事故原因を①AD の改修内容がまだ不十分であ るか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入れ忘れていた、と推測しました。つまり、原因を「事故機の主翼前縁部分に図.2 のような着氷があった」ことと推測しました。初期報告書は、「事故機の 両側エンジンの推力が同時に低下した」と報告しています。このような特異な現象の原因は、「主翼前 縁部分の着氷」としか考えられません。つまり、初期報告書の内容はむしろ弊社の推測を裏づけて いるといえます。

 

Q: 主翼前縁部分に着氷があれば、なぜエンジン推力が低下するのですか?

 

A: 次のような経緯でエンジン推力が低下します。主翼前縁部分の着氷→主翼の揚力の低下→主翼の迎角 (Angle of Attack)の増加→エンジンの空気吸入口の閉塞(Choking)→エンジンの回転羽根(Blade) の失速→エンジン回転数の低下→エンジン推力の低下の順です。

図.4 ATR72-500 のエンジンの空気吸入口

 

Q: 事故調査チームはなぜ原因の手がかりを把握できないのでしょうか?

 

A: 第1報では、欧米の事故調査専門家がトップダウン思考で原因を推測できるのではないかと期待して いました。ですが、残念ながらそうはならなかったようです。第1報にも書いたように、トップダウ ン思考では「パシロットは着陸直前になぜあえて追い風の滑走路 12 に変更したのか?」ということに 着目します。そして、その理由を「パイロットが主翼前縁部分の着氷による操縦感覚の異常を感じて、 できるだけ早く最寄の滑走路 12 に着陸したいと考えた」と推測します。事故調査チームにそのよう なトップダウン思考ができなければ、この事故は「迷宮入り」するかも知れません。弊社は、事故調査 チームの専門家などにもトップダウン思考を広めていきたいと思っています。

本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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2023/05/04

HuFac Solutions, Inc.

日本人のDNA

2023-05-04

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 先日、「ANA 松山沖事故の真実」と題する安全情報を発信して、わが国の航空業界が信頼性監視体 制(Reliability Monitoring System)を構築しないまま YS-11 を設計したことで事故が起きた ことをお話しました。さらには、政府や原子力関係者が原子力の信頼性監視体制を構築しないま ま原発を再稼働、新設すれば、福島第一原発の炉心メルトダウン事故と同じような事故が起きる可能 性があるとも警告しました。その安全情報を読まれた読者のお一人が、その日のうちに早々と下 記のようなコメントを寄せてくださいました。この方はすでに現役を引退していますが、優秀な航空 技術者でした。コメントは「日本人の DNA」についても言及しています。そこで今回は、このテーマにつ いてさらに深堀りしてみたいと思います。

 

 

ご無沙汰しております。いつも配信頂きありがとうございます。唐突な返信をお許しください。ひ と言だけです。今回の安全情報の最後の4フレーズに全く同意いたします。最近、いろいろな報道で 「世界最大(級)の・・・」とか「世界初の・・・」といった、別に言わなくてもよい、もしくは 完全には確認されていない、このような修飾語をつけたがる日本人が多いことに気づきました。 これまでの Made in Japan 品質や小型・軽量化を実装する日本製品の独特性を誇りに思うことから 飛び出て、世界を知らない島国根性の発例ではないかと思っています。「TV がきれいに映るから日 本の原発は安全だ」などと飛躍してしまって、世界の原発がもっと安全上進化していたことに気 づかなかったのがあの原子力安全委員会の体たらくだったと思っています。老体に鞭打ってあえ てコメントさせていただきます。

 

Q: コメントには「Made in Japan 品質や小型・軽量化を実装する日本製品の独特性を誇りに思う」という 表現がありますが、どう思いますか?

 

A: つい最近、まさに思い当たる経験をしました。弊社の考えや活動を支援してくださる方から、「ソニ ーの DNA」という言葉を聞かされました。どうやら、「ソニーのヒット商品であるウォークマン(Walk Man)はソ ニーの DNA でしか発想できなかった」ということのようです。ウォークマンはエンジン音がうるさい航空機内 でも音楽などを楽しめるようにとの社員の発想で開発されたそうです。ソニー創業者の1人である井 深大氏の経営哲学の体現でもありました。ソニーの社員は今でも、その哲学を「ソニーの DNA」として引 き継いでいるそうです。ウォークマンに纏わる別の逸話を知っている弊社は、その話を聞いても俄かに は同意できませんでした。失礼とは思いましたが、「日本人がそういったDNAを乗り越えなければ、 日本のこれ以上の発展は望めません」とまで言ってしまいました。 

 

図.1 初期のソニーのウォークマン 

 

Q: 日本人のほとんどがウォークマンに誇りをもっていると思いますが、御社にそこまで言わせた「ウォークマン に纏わる別の逸話」とはどういうことですか?

 

A: 以前にもお話しましたが、ボーイングはボーイング 757 と 767 に初めて、小型軽量の高性能コンピュータで高 度な自動操縦を可能にできる飛行管理システム(FMS: Flight Management System)を採用しました。 ライバルのエアバスも、続いて同様の FMS をエアバス A320 に採用しました。いわゆる「ハイテク航空機時代の 始まり」です。ところが、ハイテク航空機の導入直後から深刻なトラブルが相次ぎました。電磁波の影響 (EMI)による FMS の誤作動です。トラブルの内容は、操縦室の計器類の突然の消失(Black Out)と いう程度のものから、航空機墜落事故の原因と疑われるものまでさまざまでした。EMI は一般的に は確認が困難ですが、中には明確に確証が得られたものもありました。EMI の発生源として最初に 確認されたのが、乗客が機内で楽しんでいたソニーのウォークマンでした。機長の指示でウォークマンを OFF にし たところ、トラブルが直ちに解消しました。それ以来、世界の航空界では水面下で「ウォークマンに気をつ けろ」という悪評が広まってしまいました。EMI を発生する電子製品はウォークマンだけではありません が、人気のあるウォークマンが象徴的に槍玉にあげられてしまったといえます。これらはすべて英語に よる専門的な情報ですので、わが国の航空界で知る人はほとんどいません。ソニーはウォークマンを「売れ る商品」として誇りに思っているようですが、これも世界の情勢に疎い「日本人の DNA」といえる かも知れません。ソニーは「安全な商品」を目指す DNA も後世に伝えていただきたいと思っています。

 

Q: 現在も EMI によるトラブルは続いているのですか?

 

A: 世界の航空界は、EMI によるトラブルを経験した直後に機内での電子機器の使用を厳しく規制しまし た。わが国の航空界は「ウォークマンの逸話」などを知らないために、航空会社には電子機器の規制に 激しく抵抗する技術者もいました。現在では、スマホなどの電子機器に「機内モード(Air Mode)」が 設けられたことや、FMS にフォールトトレラント設計が施されたことでトラブルは減少しています。規制も緩和 されています。ソニーや航空会社の技術者が「ウォークマンの逸話」を知らないのも、世界の情勢に疎い 「日本人の DNA」といえそうです。

 

Q: コメントには「世界の原発がもっと安全上進化していたことに気づかなかった」という表現がありま すが、どう思いますか??

 

A: このコメントは非常に重要です。弊社は安全情報の中で「わが国の航空業界や原子力業界は信頼性監 視体制を構築できていない」と指摘しました。ですが、読者の方々はわが国の技術が世界標準に どれほど遅れているのかをまだ実感できていないと思います。政府や政党、民間の事故調査チーム が福島第一原発の事故の真因をまだ分析できていないことも、その一因かも知れません。原子力 の関係者が信頼性監視体制を理解できていれば、福島第一原発の事故は間違いなく防止できてい ました。残念ながら、わが国はそれができずに現在の苦境を余儀なくされています。

 

Q: 「福島第一原発の事故を間違いなく防止できた」というのはどういうですか?、

 

A: GE などの欧米の原発メーカーは、信頼性監視体制の下、故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)で 地震や津波、ミサイル攻撃などで原発が破損して全電源喪失に至ることを予測できていました。FTA で予測される全電源喪失で炉心のメルトダウンが起きるのを防止するために、故障モード・影響分析 (FMEA: Fault Mode & Effect Analysis)で対策を考えていました。それが、緊急炉心冷却装置 (ECCS: Emergency Core Cooling System)です。ECCS は、電力がなくとも炉心を継続的に冷却 できます。福島第一原発の1号炉の型式では「非常用復水器」と称されています。ところが、わが国の原子力関係者や東京電力(TESCO)は「非常用復水器」が信頼性監視体制で考案された 「原発の命綱」であることを知りませんでした。そのため、「非常用復水器」の使い方を熟知せ ず、全電源喪失で間違って弁を閉めてしまいました。「非常用復水器」を使ってうまく時間を稼 いでいれば、廃炉はさけられないものの、海水などを使ってメルトダウンを避けることができまし た。世界の原子力業界は、ECCS に重点を置いて設計と訓練方式の改善に努めています。因みに、 1号炉と同じ型式の原子炉を運用している台湾の電力会社は、「非常用復水器」の重要性を熟知 して現場の運転員の訓練を重ねていました。

 

図.2 福島第一原発1号機の非常用復水器 

 

Q: わが国の原子力規制委員会が原発再稼働の条件にしている安全項目には信頼性監視体制の構築は おろか ECCS の訓練も含まれていませんが、どう思いますか?

 

A: これも「日本人の DNA」としか言いようがありません。原子力規制委員会の学識経験者は、原発の 信頼性監視体制などまったく念頭に置いていないようです。政治家や官僚、マスコミがそのことを批 判できないのも、「日本人の DNA」といえます。「日本人の DNA」は、無知を指摘して恥をかかせる ことや、他者の領分を侵すことを極端に嫌うようです。このような状況に甘んじなければならな いわが国の国民は、不幸といわざるを得ません。不幸に気づこうとしない国民の DNA も、やはり 「日本人の DNA」といえそうです。

 

Q: ところで、信頼性監視体制の先駆者である世界の航空界は、具体的に信頼性監視体制をどのよう に実践しているのですか?

 

A: それを知れば、わが国の航空界が世界標準から如何に遅れているかを実感することになります。 米国の FAA は、1964 年にすでに CASS (Continuing Analysis and Surveillance System、継続的 な分析による監視制度)という信頼性監視体制を法制化しています。CASS とは、熾烈な競争にさら されている民間航空業界で生き残るための唯一の経営戦略と考えられています。利潤追求だけで なく、事故防止などの安全推進や運航実績の向上、運航費用の削減といった広範な課題をトップダウ ン思考で解決できなければ、民間航空業界では生き残れません。CASS を実践できない航空会社や航 空機メーカーは、厳しい民間航空業界の中で淘汰されていきます。因みに、CASS を実践できないわが 国の JAL と ANA は、それぞれアメリカン航空とユナイテッド航空の傘下で指導されています。監督官庁であ る航空局(JCAB)も、二国間航空安全協定(BASA: Bilateral Aviation Safety Agreement)を通 じて FAA に指導されています。1964 年といえば、わが国で最初の東京オリンピックが開催された年で す。わが国の YS-11 が FAA の型式証明を取得しようとしていた頃には、FAA はすでに科学的で合理 的な信頼性監視体制の構築を考えていたことになります。CASS はその後に高度に進化していますが、国家や航空機メーカーが最新の CASS を理解できなければ FAA の型式証明を取得できないことは当 然といえます。  

 

図.3 FAA の CASS

 

Q: 最近話題のChatGPTについての見解がわが国の政府と諸外国の政府で異なるのも、「日本人のDNA」 のせいといえそうですか?

 

A: まさにそう思います。ChatGPT については、メーカーである Open AI の元開発者や著名な AI 研究者が 「核兵器に匹敵する危険な存在」と厳しく評価しています。トップダウン思考ならその意味がわかり ますが、ボトムアップ思考のわが国の政府や国民には理解できないようです。ここでは紙面の都合で 詳しい解説を割愛しますが、今後は ChatGPT に対する厳しい意見が増すものと思われます。日本 人がトップダウン思考で ChatGPT を正しく評価できないのも、「日本人の DNA」といえそうです。

 

図.4 Open AI の ChatGPT

 

Q: 「日本人の DNA」が現実にわが国の国益を棄損しているといえるのですか?

 

A: 多くの局面で国益を棄損しているといえます。ですが、「日本人の DNA」はそのことすら気づこう としません。例えば、JAXA と MHI の H3 ロケット打ち上げ失敗、米国のスペース X 社のロケット打ち上げ失 敗、古くはボーイング 787 のリチウムイオン電池の発火、ボーイング 737MAX の墜落事故には「ある共通点」が あります。そのことは「日本人の DNA」と無縁とはいえません。「ソニーのウォークマン」に似た、わが国 のある一流企業の稚拙な技術が関係しています。そのことが明らかになれば、わが国の技術は著 しく信用を失って、わが国の経済が多大な打撃を被ります。弊社とて、そのことを明らかにする ことはできません。わが国の国民が「日本人の DNA」を克服して、EV の将来やエネルギー問題など、 わが国の将来について自由闊達に議論できる日が来ることを願うばかりです。

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2023/04/29

HuFac Solutions, Inc.

ANA松山沖事故の真実

2023-04-29

Q: かなり昔の航空事故のようですが、どのような事故ですか?
A: 1966 年 11 月 4 日、大阪国際空港発松山空港行きの ANA533 便(YS-11)が松山空港へ陸側から着 陸しようとしていました。当日は雲が低く垂れ込めていたうえに霧雨が降っていた状況で、視界 も含め天候がよくありませんでした。そのうえダイヤが乱れていたことで、533 便の着陸は松山空 港の運用終了時間である午後 8 時を過ぎようとしていました。そのため 533 便は、滑走路の照明 が再点灯されるのを待つために、広島の呉上空からではなく山口の岩国上空を経由して少し遠回 りしていました。午後 8 時 28 分になり着陸しましたが、1,200 メートルの滑走路の半ば(滑走路端か ら 460 メートル地点)付近に接地したためにオーバーランの危険が生じてしまいました。そのため着陸をや り直す着陸復行をしましたが、フラップとランディングギアを格納した後の 533 便の上昇は通常より鈍く、 高度 230~330 フィートまで上昇した後に降下に転じて、左旋回の姿勢のまま空港沖 2.2 キロメートルの伊予 灘(瀬戸内海)に墜落しました。この事故で、運航乗務員 2 名、客室乗務員 3 名、乗客 45 名の計 50 名全員が死亡しました。機体は海面激突時の衝撃で粉砕されました。 
図.1 ANA533 便の墜落事故

Q: 事故から 50 年以上が経った今、なぜこの事故を話題にするのでしょうか?

 

A: 現在、地球温暖化防止のために CO2 を発生しない再生可能エネルギーや原子力の利用に期待がかけら れています。ですが、わが国は深刻な原発事故を経験したことから、原発の再稼働や新設には根 強い抵抗があります。原発の再稼働や新設をどうしても実現しようとすれば、政府や原子力業界 は国民に合理的で科学的な安全対策を示して納得させなければなりません。それができるのは、 「信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の構築」しかありません。2011 年の福島 第一原発の事故は、わが国の原子力業界が IAEA が推奨する信頼性監視体制を構築できていなかっ たことで起きました。そのことをわかっていただくには、信頼性監視体制がどういうものかを具 体的に説明する必要があります。民間航空界でも、国連の ICAO や米国の FAA、欧州の EASA は信 頼性監視体制の構築を要求しています。50 年前のこの事故は、まさにわが国の航空業界が FAA が要求する信頼性監視体制を理解できていなかったことで起きたといえます。そのことを具体的に 説明することが、信頼性監視体制を理解するうえで格好の「反面教師」になると考えた次第です。 信頼性監視体制を理解することが原発の再稼働や新設を検討するうえで必要と考えています。

 

Q: 当時の事故調査の結論はどうだったのですか?

 

A: 当時は専門の事故調査組織がなかったために、運輸省航空局の事故調査チームが調査に当たりました。 事故機にはブラックボックス(FDR と CVR)が搭載されておらず、調査は難航しました。エンジンの故障を 疑う航空専門家もいましたが、事故調査チームの公式の結論は「原因不明」でした。最近、弊社代表 が航空局のトップを務めた方とこの事故について話す機会がありましたが、航空局内では「パイロット のミスによる」という説が流布されているそうです。

 

Q: 事故調査チームは、調査に当たって信頼性監視体制を念頭に置いていなかったのですか?

 

A: 当時のわが国の航空界では信頼性監視体制がよく理解されていませんでしたので、それも無理は ありません。また、合理的なトップダウン思考の事故調査もできなかったようです。

 

Q: 信頼性監視体制とは、概略どういうものですか?

 

A: 人類はこれまでシステムを構築して生存、発展してきました。システムには人類にとってメリットもあります が、ディメリットもあります。ディメリットの代表的なものがシステムの不備による事故です。信頼性監視体制 は先ず、システムを対象に故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)を行ないます。FTA とは、どのような事故が起こり得るかを推測する 分析です。FMEA とは、FTA で推測される事故をどのような対策で防止できるかを考える分析です。 とるべき対策は、システムの設計、製造、品質管理、運用、整備点検、訓練などに反映させます。重 要なことは、システムの不備を常に監視して、必要な対策をシステムにフィードバックすることです。最近では、 ヒューマンファクターを考慮した対策を盛り込むことも要求されています。

 

Q: 信頼性監視体制はコンピュータや AI で代行できるのですか?、

 

A: できません。信頼性監視体制には人間にしかできないトップダウン思考が要求されます。コンピュータや AI にはトップダウン思考はできません。コンピュータや AI はあくまでもツールとして活用されます。

 

Q: それでは早速、人間にしかできないトップダウン思考の分析を始めていただけませんか?

 

A: 当時の事故調査チームはボトムアップ思考であったために、ブラックボックスの飛行記録がなければ原因がわか りませんでした。ですが、トップダウン思考なら広い視野でさまざまな情報をもとに原因を洞察でき ます。この事故は、事故機が 1,200 メートルの滑走路の半ば付近に接地したためにオーバーランの危険が生 じたことを切っ掛けに起きました。天候やパイロットの技量も要因として考えられますが、YS-11 の 飛行特性も要因として疑ってみなければなりません。その理由は後述することにします。

 

Q: 「YS-11 の飛行特性の要因」とは具体的にどういうことですか?

 

A: 航空機が低速で滑走路の定点に接地するには、適度な速度安定性(Speed Stability)が必要にな ります。速度安定性がマイナスやゼロ近辺の値であると、パイロットがエンジン出力を増しても速度が逆に減るという制御則(Control Law)の逆転現象が起きます。こうなると、パイロットはエンジンの操作で速 度を微調整できなくなります。低速における航空機の速度安定性は航空機の信頼性の重要な要素 の1つであり、信頼性監視体制で厳しく監視されなければなりません。FAA は、連邦航空規則(FAR) の中に速度安定性に関する厳しい基準を設けています。後述しますが、YS-11 の設計ではこの基 準が無視されていた可能性があります。余談ですが、かつての科技庁航空技術研究所(NAL、現在 の JAXA)が国産の C-1 輸送機を改造して試作した短滑走路離着陸実験機「飛鳥」でも、速度安定 性がマイナスであったためにコンピュータによる自動化システムが導入されました。このような自動化システムは安 定性補助システム(SAS: Stability Augmentation System)とよばれていますが、「飛鳥」の場合には パイロットに不評で実験は実を結びませんでした。

 

Q: 次ぎに分析で着目するのはどういうことですか?

 

A: 事故機が着陸復行(Touch & Go)した後で直進飛行できず左旋回してしまったことです。航空機 が旋回すれば重力加速度(G)が増してさらに失速しやすくなります。パイロットは、低速で旋回すれ ば失速の可能性が増すことはよく知っています。航空局内で流布されている「パイロットが低速で旋 回するミスをした」という説はまずあり得ません。低速における左旋回は、やはり YS-11 の飛行特 性が要因と疑われます。

 

Q: YS-11 の飛行特性が要因と疑われる理由は何ですか?

 

A: YS-11 の主幹メーカーである日本航空機製造(NAMC)が FAA の型式証明(TC: Type Certificate)を 取得する際に、VMCA(Minimum Control Speed in Air)の値が基準を満たしていないことを指摘 されていました。VMCAとは、片側のエンジンが停止した際に 5°以下の傾きで直進飛行できる最低の 速度です。航空機の離陸速度や着陸速度を設定するうえで重要な基準となる速度です。

図.2 VMCA(Minimum Control Speed in Air)

 

Q: VMCAの値が基準を満たさない原因は何が考えられるのですか?

 

A: 通常は、方向舵(Rudder)の効きが悪いのではないかと疑います。そこで、NAMC は YS-11 の方向舵の設計変更を試みました。ですが、思うように改善しませんでした。

 

Q: 事故機が左旋回したことと、VMCAの値が基準を満たさなかったことは関連があるのですか?

 

A: 大いに関連すると思っています。VMCA の値が基準を満たさない原因は、「方向舵の効き」以外に もう1つあります。それは、「両側の主翼の空力特性が対象になっていない」ことです。左右の主 翼の空力特性が対象でなければ、低速時にどちらかの主翼が先に失速して、機体が不意に旋回し てしまいます。YS-11 の設計ではそこまで配慮されていなかった可能性があります。

 

Q: YS-11 はそれでも型式証明を取得できたのですか?

 

A: 結論からいえば、取得できたことになります。ですが、詳細はベールに包まれています。当時、YS-11 の初号機オリンピア号は東京オリンピックの聖火運搬機として使われることを期待されていました。そこで 何らかの政治的配慮があったのではないかとも思われています。YS-11 の設計責任者であった T 氏は、晩年になって雑誌に「当時は VMCAなどの規定が FAR にあることは知らなかった」と率直に 寄稿しています。

 

Q: 設計責任者の T 氏すら VMCAの規定を知らなかったのはなぜでしょうか?

 

A: 驚くかもしれませんが、わが国の航空界には「ICAO や FAA が信頼性監視体制の構築を強く要求し ている」という認識がほとんどありません。そのため、大学の航空学科では ICAO Annex や FAR について詳しく教えられていません。わが国の航空法が ICAO Annex や FAR に準拠していないこと も、国際的に問題視されています。T 氏や NAMC の設計者は、FAA の型式証明を取得するために不 可欠な FAR や関連重要書類を参照せずに YS-11 を設計していたと考えざるを得ません。

 

Q: わが国の国民は「YS-11 は航空大国である日本が自慢できる名機」と信じていますが、これまで の話だけでは到底納得しないのではないですか?

 

A: そう思います。一般国民だけでなくや航空技術者までもそう信じ込んでいるのは、YS-11 の客観 的な安全実績が広く知られていないからだと思われます。

 

Q: 「YS-11 の客観的な安全実績」とはどういうものですか?

 

A: 世界の民間航空機の安全実績はすべて公表されています。下記が YS-11 の安全実績です。

 

 

               製造機数      180 機

               全損機数        28 機

               全損事故数    25 件

               事故死者数    254 人

 

Q: YS-11 の安全実績をどう思いますか?

 

A: 製造機数が 180 機と少ないにも関わらず、全損事故数と事故死者数がそれぞれ 25 件と 254 人とい うのは、率直にいって異例としかいいようがありません。わが国における評判にあるような「名 機」とは到底いえません。事故原因の詳細については精査する必要がありますが、信頼性監視体制の構築なしに、つまり FAR の規定を遵守せずに設計されたことが関係していることは否定でき ません。

 

Q: わが国では原子力についても「世界最高レベルの原子力技術」と自画自賛していますが、この風潮 をどう思いますか?

 

A: わが国特有の文化といえばそれまでですが、原子力業界も航空業界とまったく同じといえます。 原子力学科で原子力の専門家を育てている大学もありますが、航空学科と同じで、信頼性監視体 制などの世界標準のリスクマネージメントは教えていません。50 年前のこの事故は、わが国の技術者が信 頼性監視体制の重要さに気づくチャンスでしたが、残念ながら活かせませんでした。わが国の政府や 原子力業界が信頼性監視体制を構築しないまま原発の再稼働や新設を強行すれば、福島第一原発 と同じような炉心メルトダウン事故が再発することは必至と思われます。わが国の国民や政府は、日本 が世界最悪の原発事故を起こした国であることを謙虚に自覚する必要がありそうです。

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2023/04/06

HuFac Solutions, Inc.

保津川下りで水難

2023-04-06

 

Q: どのような水難ですか?

 

A: 2023 年 3 月 28 日、京都府亀岡市の保津川の急流で観光客 25 名と船頭 4 名を乗せた観光船が岩に 衝突して転覆しました。観光客 25 名は何とか助かりましたが、船頭 2 名が死亡しました。船が 岩に衝突したのは、後方で舵取りを担当していた船頭がいわゆる「舵の空振り」でバランスを失っ て船から転落したためと報道されています。死亡した船頭 1 名のライフジャケットは開いていない状態 で発見されました。運輸安全委員会(JTSB)が事故調査に当たっています。

 

図.1 保津川下りの水難

 

Q: わが国には急流の川の景勝地が多く、「急流の川下り」がわが国の観光資源の1つにもなっていま すが、安全対策はこのままでいいのでしょうか?

 

A: 「急流の川下り」は一般の観光とは異なり、観光客が景色を楽しむだけでなくスリルを楽しんでい る側面もあることは事実です。観光客は観光業者が相応の安全対策を講じてくれているとの信頼 の下にスリルを楽しんでいます。ですが、「急流の川下り」の事故は少なくありません。保津川下 りだけでも、過去に少なくとも 3 件の事故が起きています。事故の発端は、船頭による「舵の空 振り」というエラーと伝えられています。その結果、船が岩に激しく衝突して FRP(繊維強化プラスティ ック)製の船体がいとも簡単に損壊しました。船頭のエラーと船体構造の脆弱さは決して看過できる ことではありません。ですが、これらの問題を完全に解決することは難しく、だからといって 「急流の川下り」を禁止することは現実的ではありません。

 

Q: どうすることが現実的なのでしょうか?

 

A: 船頭のエラーをなくすことと船体を頑強にして岩に衝突しても壊れないとうにすることは、それぞ れエラーレジスタンス(Error Resistance)とフォールトレジスタンス(Fault Resistance)とよばれる安全対策で す。どちらも現実には不可能に近い対策といえます。これらに代わり現実に採られている安全対 策がエラートレランス(Error Tolerance)とフォールトトレランス(Fault Tolerance)です。完全にはなくせない人間のエラーや構造の損壊、システムの故障を許容して「最後の砦」として人命だけは守ろうという、ト ップダウン思考(目的重視型)の安全対策です。

 

Q: 水難事故に対しては、具体的にはどのように対策するのですか?

 

A: 船や航空機にライフジャケット(Life Jacket)やライフラフト(Life Raft)を装備します。装備するだけで なく、設計や製造、操作方法、整備点検についても配慮します。「急流の川下り」ではライフラフトは 使われませんので、ここではライフジャケットについてだけお話します。

 

図.2 ライフジャケットとライフラフト

 

Q: ライフジャケットとはどういうものですか?

 

A: 安全器具として国際的に承認されているものは、身体に装着して有事の際に付属のボンベに充填さ れた不活性ガス(炭酸ガスや窒素)で膨張させて身体の浮力を補完するタイプです。補完できる浮力は 10kg 程度で、大人を 24 時間ほど水に浮揚し続けることができます。

 

Q: ライフジャケットを膨張させるシステムはどのようなメカニズムになっているのですか?

 

A: 手動タイプと自動タイプがあります。手動タイプは、ヒモを手で引いてボンベに穴をあけて膨張させま す。自動タイプは、内臓の水感知センサーが水の浸入を自動的に感知して、縮めておいたバネを開放し てボンベに穴をあけます。自動タイプは手動でも膨張させることができます。

図.3 ライフジャケットの膨張システム

 

Q: 膨張システムは定期的に交換する必要はないのですか?

 

A: ボンベのガスの自然漏洩とか水感知センサーの劣化がありますので、1 年ほどで交換します。

 

Q: 水感知センサーはどのようなものですか?

 

A: 電流の変化で水を検知するために、一般のものは半導体(集積回路)と電池で構成されていま す。最近は電池を必要としないタイプも開発されているようです。

 

Q: 膨張システムには何か問題があるのですか?

 

A: いくつかの問題があります。①人間は水に放置された際にパニックになるため、手動の膨張システムで はライフジャケットをうまく膨張させられないことがある、②水感知センサーがわずかな水の浸入で反応し て、ライフジャケットを誤膨張させることがある、③水感知センサーの半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動 して、ライフジャケットを誤膨張させることがある、④水感知センサーの電池(リチウムイオン電池など)の半導体 が EMI で誤作動して、電池を過放電させることがある、などです。ただし、EMI の特性から③と ④は確認することができません。

 

図.4 ライフジャケットの誤膨張(上記②か③)の事例 

 

Q: これまでの知識をもとにこの事故をトップダウン思考で分析すれば、どのようなことが推測されるの ですか?

 

A: 先ず、観光客 25 名全員が無事に救助されていることから、観光客は自動タイプのライフジャケットを装着 していて、問題なく膨張したものと推測されます。助かった 2 名の船頭については、詳しい情報 がありません。ライフジャケットが膨張ぜずに死亡した船頭については、ライフジャケットが自動タイプでもうま く膨張しなかったか、手動タイプでパニックで膨張させられなかった可能性があります。前者だとす れば、上記②か③の理由によるかも知れません。舵を担当していて死亡した船頭については、死 因がわかっていません。もしかしたら、この船頭は「舵の空振り」でバランスを失っったのではな く、心臓疾患などに襲われたのかも知れません。死因は法医学解剖で判明するはずです。

 

Q: ライフジャケットが膨張せずに死亡した船頭が手動タイプのライフジャケットを装着していたとすれば、理由は何 が考えられるのですか? 

 

A: 船頭はプロの資格保持者ですから、上記①の問題を知らないはずがありません。それに、「急流 の川下り」の船頭は多量の水しぶきを浴びるために、水が自動タイプのライフジャケットの膨張システムに浸 入して誤膨張させやすいことを知っているかも知れません。そのために、船頭はあえて自動タイプ ではなく手動タイプのライフジャケットを装着していたかも知れません。

 

Q: 「これまでの話はあくまでも仮定の推測に過ぎない」と思う読者の方もいるのではないですか?

 

A: むしろ、そのような読者の方が多いかも知れません。ですが、そう考えるのはボトムアップ思考で す。確定的な事故原因は JTSB の事故調査を待たねばなりませんが、これまでの経験では、公式 の発表まで1年以上待たねばなりません。わが国には「急流の川下り」が数多く、その間に同種 の事故が再発するかも知れません、トップダウン思考では、「仮定の推測」にかかわらず、蓋然性が あれば何らかの対策を勧告します。それが最新の安全対策である「事前防止型対策(Proactive Countermeasure)」です。2013 年の福島第一原発の炉心メルトダウン事故は、わが国の原子力業界が 原発の全電源喪失を「仮定の推測」と軽視したために起きました。因みに、従来のボトムアップ思考 の対策は「事後処理型対策(Reactive Countermeasure)」といいます。

 

Q: 「急流の川下り」では、具体的に何を勧告すればよいのですか?

 

A: 「急流の川下り」の船頭が上記②の現象を嫌って手動タイプのライフジャケットを装着していたとして も、非難できません。ですが、知識と経験が少ない船頭は、水に放り出された際にパニックになっ て上記①のように手動タイプのライフジャケットをうまく膨張させられないかも知れません。これを防ぐ には、「急流の川下り」の船頭にもヒューマンファクターの訓練をする必要があります。また、上記②と③ のような問題を防ぐために、ライフジャケットを電磁波の影響が少ない場所に保管する必要がありま す。膨張システムの定期的な点検と交換が不可欠なことはいうまでもありません。 

 

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保津川下りで水難
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2023/04/02

HuFac Solutions, Inc.

罪深い半導体の誤動作

2023-04-02

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 順を追ってお話します。3 月 30 日の午後、ある会合で「デジタル化社会のリスクマネージメント」と題する 講演をさせていただきました。会場いっぱいの聴講者は、社会で十分な経験を積まれた方々やこ れからの日本を背負う若い方々です。皆さん、レベルの高い方々ばかりでした。講演の内容は、主 に電磁干渉(EMI)による半導体の誤作動の可能性と原因に関するものでした。幸い、皆さんか ら好評をいただき、質疑応答も大いに盛り上がりました。その日の夕刻、たまたま NHK の BS プレ ミアムで放映された「エラー 失敗の法則 - 真相 ハドソン川の奇跡」と題する航空事故解説番組を視聴し ました。NHK の番組のホームページには、概要が「失敗を恐れずに前に進む処方箋として“失敗の歴 史”を紹介する。今回は、離陸直後に全エンジンが停止した状況で、死者ゼロという結果を残した飛 行機事故“ハドソン川の奇跡”を探る。この奇跡の陰には、ある事故の失敗が関係しているとい う。“ハドソン川の奇跡”を生んだ、もう一つの知られざる事故に迫る。」と案内されています。オ リジナルは米国のテレビ局が制作したもののようで、NHK が日本人の解説者を交えて日本語版に編集し ています。番組の後半では、JAL が航空事故対策として導入している CRM(Crew Resource Management)訓練が紹介されていました。 

 

図.1 NHK の航空事故解説番組

 

 

Q: 番組の概要にある「ハドソン川の奇跡」とはどういうことですか?

 

A: 安全情報でもこれまでに紹介したことがありますが、2009 年 1 月 15 日に米国のニューヨークで起きた US エアウェーズ(現アメリカン航空)1549 便(エアバス A320-200)のハドソン川への不時着水事故のことです。離 陸してから着水までわずか 5 分間の出来事ですが、パイロットの優れた判断で乗員・乗客全員を無事 に生還させることができました。当時のニューヨーク州知事が「ハドソン川の奇跡(Miracle on the Hudson)」と称して賞賛しました。トム・ハンクス主演の映画にもなっています。

 

図.2 US エアウェーズ 1549 便の不時着水事故

 

Q: 番組の概要にある「ある事故の失敗」とはどのような事故のことですか?

 

A: 1978 年 12 月 28 日に米国オレゴン州ポートランド近郊で起きたユナイテッド航空 173 便(ダグラス DC-8-61)の 燃料切れ墜落事故です。乗員・乗客合わせて 10 人が死亡しました。着陸のために車輪を出した際 に、ランディングギアのダウンロックを示す青色ライトが正常に点灯せず点滅していました。パイロットは空中待 機(Holding)する間に故障探求と緊急着陸の手順の検討などに専念しました。その間、残燃料 が少なくなっていることに気づかず、機を燃料切れで墜落させてしまいました。事故調査に当た った米国国家運輸安全委員会(NTSB)は、パイロットの注意がランディングギアの故障に一転集中したこ とが燃料切れを失念してしまった原因と結論づけました。併せて、運航乗務員(機長と副操縦 士、航空機関士)間のコミュニケーションがよければ事故を防止できたとして、運航乗務員のコミュニケーション能 力を養成する CRM 訓練の実施を勧告しました。ユナイテッド航空は、NTSB の勧告を受けて航空会社と して世界で初めて独自の CRM 訓練を開発しました。JAL は、御巣鷹山事故の後にユナイテッド航空の CRM 訓練を購入しました。当時のユナイテッド航空の CRM 訓練は、わが国の企業も社員教育に採用して いたグリッド理論(Grid Theory)をパイロット訓練に応用したもので、内容は稚拙でした。

 

図.3 UAL173 便の墜落事故

 

Q: 番組の概要にある「ある事故の失敗が関係している」とはどういうことですか?

 

A: オリジナルの番組に登場している米国のパイロット出身の航空学専門家は、「US エアウェーズ 1549 便の機長と 副操縦士は、ユナイテッド航空 173 便の事故を教訓としてハドソン川に無事に不時着水できた」と解説し ています。別の言い方をすれば、「US エアウェーズ 1549 便のパイロットはユナイテッド航空 173 便の事故を教訓としてコミュニケーションを密にできたから死亡者を出さずに済んだ」というわけです。

 

Q: 米国の航空学専門家によるこの解説には賛同できないのですか?

 

A: 「ハドソン川の奇跡」と賞賛されている US エアウェーズ 1549 便の機長と副操縦士は、単なるコミュニケーション 能力としては表現できない優れた資質をもっていると思っています。そのため、米国の航空学専 門家の解説には違和感をもちました。弊社は、従来から「事故を防止できるパイロットの能力は抽象 的なコミュニケーション能力などではなく、具体的な問題解決能力」と考えています。「具体的な問題解 決能力」というのがトップダウン思考です。そこで、ユナイテッド航空 173 便のパイロットがなぜ墜落事故を 防ぐことができなかったのかを弊社なりにあらためて分析してみることにしました。その結果、 ユナイテッド航空 173 便のパイロットが「ある重要な技術知識」をもっていれば墜落事故を防ぐことがで きたという結論に達しました。NTSB の事故調査では、そのことはまったく指摘されていません。

 

Q: 「ある重要な技術知識」とはどのような知識ですか?

 

A: ユナイテッド航空 173 便の事故のヒューマンファクター分析を通じで説明します。パイロットは着陸準備のためにラン ディングギアを降ろした時点で初めて異常に気づきました。大きな異音がして、ランディングギアのダウン ロックを示す青色ライトが点滅し始めたのです。機長は当初、ダウンロックの指示ライトの故障ではないかとの 疑いをもったようです。

 

Q: 実際にダウンロックされていないのか、単に指示ライトの故障なのかを確認する手段はあるのですか?

 

A: あります。ランディングギアが実際にダウンロックされていれば、主翼の上面に金属棒が突起するように設 計されています。ユナイテッド航空 173 便では、航空機関士が客室に行って窓から金属棒の突起を確 認していました。

 

Q: それでも、機長はランディングギアがダウンロックされていないのではないかと疑ったのですか?

 

A: 結果からいえば、そう思わざるを得ません。機長が疑いを棄てられなかった理由は、ヒューマンファクターの 見地からは青色の指示ライトの故障モードにあると考えられます。つまり、指示ライトがまったく点灯し ていなければ、機長は断線など機械的な理由による指示ライトの故障と納得したかも知れません。で すが、実際には指示ライトは点滅を繰り返していました。機長は、指示ライトには電気が通じていると考 えて、断線などの機械的な故障を否定したはずです。いい換えれば、機長は自身では想定できない 指示ライトの故障モードに遭遇して大袈裟にいえばパニックに陥ったといえます。

 

Q: ヒューマンファクター分析では、その時の機長の心理状態を推定できるのですか?

 

A: ある程度、推定できます。人間がパニックに陥るということは、ヒューマンファクターでは脳の顕在意識が失 われて潜在意識で判断せざるを得なくなると考えます。潜在意識は顕在意識のように理性的で論 理的な判断はできません。当時の機長は潜在意識でしか判断できなくなって、航空機関士が金属 棒の突起でダウンロックを確認したという報告を納得できなくなっていたと考えられます。機長の脳 裏にはランディングギアがダウンロックされていないのままの着陸の光景が浮かんで、パニックの悪循環から ますます抜けられなくなっていた可能性があります。

 

Q: 人間が非常事態でパニックに陥ってうまく行動できなかった事例は他にもあるのですか?

 

A: 数多くあります。福島第一原発1号機の炉心メルトダウン事故もその1例です。この事故では、東電 の運転員が地震による全電源喪失でパニックに陥って、電力なしでも炉心を冷却できる非常用復水 器をうまく使えませんでした。そのため、炉心のメルトダウンをまねいてしまいました。

 

 図.4 福島第一原発1号機の非常用復水器

 

Q: 指示ライトが点滅するという故障モードの原因は何だと考えられるのですか?

 

A: 原因は「半導体の誤作動」と考えられます。ランディングギアのダウンロックの指示システムには、電気的なセン サー(Sensor)があります。このセンサーは、俗に知られているリミットスイッチといった機械的な接触型スイッチ ではありません。プロキシミティセンサー(Proximity Sensor)とよばれる非接触型センサーです。非接触型セン サーは相手の金属の接近を電磁場の変化で感知する電子部品で、内部に半導体(集積回路)が組み 込まれています。ユナイテッド航空 173 便の事故では、この半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動した ために指示ライトが点滅したものと考えられます。当時、機長や他の運航乗務員にその技術知識が あれば、ダウンロックの指示ライトの誤作動であると判断できてパニックから脱出できたはずです。表題に あるように、このことがまさに「罪深い半導体の誤作動」というわけです。

 

図.5 典型的な航空機のダウンロック・センサー 

 

Q: EMI はどのような原因で発生したと考えられますか? 

 

A: NTSB の事故調査では、ランディングギアをゆっくりと降ろすための油圧システムのボルトが腐食で折れてい たことが判明しています。このボルトが折れて油圧システムが正常に作動しなければ、ランディングギアが 急速に降りてダウンロックに激しく衝突します。この金属どうしの衝突で、火花と電磁波が発生して 周囲に伝播します。EMI はその時の電磁波の発生によるものと推測されます。

 

Q: 運航乗務員がそこまでの技術知識を習得するのは難しいのではないですか?

 

A: 一般の航空技術者も EMI を十分に理解できないのですから、運航乗務員に EMI の発生源の特定ま で要求するのは無理があるかも知れません。ですが、「電子部品に使われている半導体が EMI の 影響で誤作動することがある」ことは、デジタル化社会では一般の人々にも要求される知識です。 大勢の生命を預かるパイロットにとって、決して厳しすぎる要求とはいえません。本物の CRM 訓練と は、航空機の運航で遭遇するさまざまな難問をトップダウン思考で速やかに解決する能力をパイロットに 付与する具体的な訓練でなければなりません。単にコミュニケーション能力を養成するだけの抽象的な訓 練であってはなりません。米国では、FAA が航空会社にトップダウン思考のヒューマンファクター訓練である AQP(Advanced Qualification)の実施を要求しています。「ハドソン川の奇跡」と賞賛されている US エアウ ェイス 1549 便の二人の優秀なパイロットは、十分な技術知識をもっていて、常に冷静に判断して パニックに陥ることはありませんでした。まさに AQP を実践できていたといえます。

 

Q: ところで、講演の概要はどのようなものだったのですか?

 

A: 図.6 のような概要で問題提起させていただきました。

 

図.6 講演における問題提起の概要 

 

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罪深い半導体の誤動作
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2023/03/13

HuFac Solutions, Inc.

H3ロケット打上げ失敗

2023-03-13 

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 3 月 7 日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げよう とした H3 ロケット 1 号機が打ち上げに失敗しました。2 段目ロケットのエンジンに点火できなかったために 失敗したものです。ロケットは安全のために爆破されました。今回の失敗は、日本にとってスペース X 社が先行する宇宙開発領域での大きな挫折と指摘する声もあります。日本政府は、打ち上げ失敗 は大変遺憾との表明をしています。 
図.1 H3 ロケットの打ち上げ失敗
Q: JAXA は原因不明としていますが、原因を推定できますか?
A: 一言でいえば、わが国の宇宙開発技術者がトップダウン思考でプロジェクトを推進できなかったことが原 因といえます。直接の原因は、2 段目ロケットのエンジン点火を制御する半導体が電磁干渉(EMI)で誤 作動したことと考えられます。トップダウン思考ができなかったわが国の宇宙開発技術者は、EMI に よる半導体の誤作動を予測できなかったものと思われます
Q: なぜ、EMI による半導体の誤作動と考えられるのですか?
A: 数日前、打上げ準備のテストでブースターロケットのエンジン点火の不具合が発見されて打上げが中止されてい ました。実施されたテストは、BIST(Built-In Self Test)とか BITE(Built-In Test Equipment) とよばれる電子機器類のテストです。システムに組み込まれている半導体などをそのままでテスト用コンピュー タで検査するものです。航空機の整備でも頻繁に実施されています。当日の打上げ前にも同じテスト が実施されたはずです。その時には異常が検知されませんでした。その事実から、EMI による半 導体の誤作動ではないかと疑われるのです。なぜなら、EMI は偶発的にしか発生せず、テストをすり 抜けることがあり得るからです。トップダウン思考ができない技術者には、EMI のこのような特性が 理解できないようです。数日前の打上げ準備のテストで発見されたブースターロケットのエンジン点火の不具合も、EMI による半導体の誤作動であった可能性があります。偶々、EMI がテストの時に発生していた と考えられなくはないからです。
図.2 航空機の BITE テスト 

Q: H3 ロケットの前の H2A ロケットでは 98%の打上げ成功率を達成していたのに、後継の H3 ロケットでなぜ EMI による半導体の誤作動が起きたのでしょうか?

 

A: 原因は2つ考えられます。どちらも衛星打ち上げ競争に勝つための技術開発に関連しています。 2つの原因とは、① 打上げ経費節減のために自動車用の安価な半導体を採用したこと、② ペイロ ード増加のために「わが国のあるメーカーが開発した技術」を積極的に採用したことです。実は、か つて H2A ロケット 6 号機でブースターロケットを切り離せなかった事故が起きた時にも、弊社はトップダウン思考 で EMI によるリチウムイオン電池の半導体の誤作動を疑っていました。当時、JXA とロケットのメーカーの三菱重 工(MHI)は主エンジンの高熱噴流の漏れによる点火システムの焼損と結論づけて、EMI による半導体の 誤作動を疑ってみることはしませんでした。

 

Q: ① がなぜ、EMI による半導体の誤作動の原因になるのですか?

 

A: ハイブリッド車や EV では、EMI による半導体の誤作動による暴走事故が頻繁に起きています。自動車 用の安価な半導体には、EMI 対策としてのフォールトトレランス設計が採用されていないからです。JAXA や MHI が自動車用の半導体を H3 ロケットに採用したのは、安易なボトムアップ思考といえます。

 

Q: ② がなぜ、EMI による半導体の誤作動の原因になるのですか?

 

A: 「わが国のあるメーカーが開発した技術」が EMI 発生の確率を高めるからです。ボーイング 787 や 737MAX にも同じ技術が採用されていて、EMI による半導体の誤作動による事故が起きています。 JAXA や MHI は、そこまで視野を広げるトップダウン思考ができなかったようです。

 

Q: わが国と同じ東アジアの中国や韓国も人工衛星の打上げビジネスに参入していますが、どうなってい るのでしょうか?

 

A: 人工衛星の打上げビジネスの競争にわが国ほどは「前のめり」になっていないようです。今後、わ が国と同じように「前のめり」になって①や②を採用することがあれば、打上げ失敗を経験する かも知れません。

 

Q: わが国の宇宙開発業界が国民の夢に応えるには、これからどうすればよいのでしょうか?

 

A: 人工衛星の打上げビジネスの成果を焦るよりも、わが国の宇宙開発技術を地道に育てることに専念 すべきです。それには、これまでのボトムアップ思考を棄ててトップダウン思考の技術開発を学ぶ必要が あります。最新の技術であるフォールトトレランス設計は、トップダウン思考でなければ実現できません。

 

Q: これまでに宇宙開発の分野にトップダウン思考を広めようとしたことがあるのですか?

 

A: 弊社代表が JAL 在籍時に2度あります。1度目は、JAXA の前身である宇宙開発公団(NASDA)か ら国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟(JEM)の独立評価委員を委嘱された時です。評価に際し てわが国のメーカーから JEM の設計理念を聞きましたが、民間航空機にくらべて遅れていることに驚 きました。民間航空機に採用されている先進的なトップダウン思考の設計を参考にしていただくよう 進言しました。メーカーにはほどんど聞き入れられませんでしたが、評価会議に同席していた若い宇 宙飛行士3名からは「船外活動の安全など、宇宙飛行士の安全を真剣に考えてくれる人にこれま で会ったことがなかった」と感謝されました。2度目は、独立評価委員を務めた縁で JAXA のグル ープ会社から講演を依頼された時です。トップダウン思考によるヒューマンファクター設計の重要性を力説しま した。残念ながら、JAXA 本体には届かなかったようです。 

 

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2023/03/03

HuFac Solutions, Inc.

ギリシャで列車が正面衝突

2023-03-03 

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 2 月 28 日、ギリシャの首都アテネから北に約 380 キロのギリシャ中部のラリサ近郊の町テンピ付近で、旅客 列車と貨物列車が正面衝突する事故が起きました。旅客列車は、首都アテネを出発して北部にある 第二の都市テッサロニキに向かっていた途中で、同じ線路を逆方向から走ってきた貨物列車と衝突しま した。旅客列車には 352 人余りが乗っていて、脱線大破した後に火災が発生しました。少なくと も 57 人以上が死亡して、多数が負傷しました。現地の警察はラリサ駅の駅長を逮捕して事情を聞い ています。
図.1 ギリシャでの列車の正面衝突事故
Q: ギリシャでは政府の鉄道近代化の遅れを批判するデモが起きるなど大騒ぎになっていますが、原因に ついてどのように考えますか?
A: 当時、自動の運行管理システムが故障していて、駅員が手動で線路のポイント切り替えなどを行ってい たとの情報があります。ギリシャの鉄道が運行管理の自動化を採用していなかったわけではなく、 必ずしも近代化が遅れていたとはいえません。自動化システムが故障した際の人間のバックアップ体制に 問題があったと考えられ、ヒューマンファクターの問題といえます。鉄道のヒューマンファクターの問題に備えなかっ たのは鉄道当局や鉄道会社の経営の責任であり、現場の駅長を逮捕するのは不当といえます。
Q: ヒューマンファクターでは、この問題をどのように考えるのですか?
A: 自動化システムには半導体や電気回路が使われています。電気回路は経年劣化しますし、半導体は電 磁干渉(EMI)で誤作動することがあります。自動化システムの故障は避けられないと考えていなけ ればなりません。一方、自動化システムの便利さに馴れた人間の手動能力は時とともに劣化します。 また、自動化システムの能力と耐久性を過信した人間の監視能力は劣化します。このような事態にど う対処すればよいのか、ヒューマンファクターの専門家は永年にわたって研究してきました。
Q: 研究の結論はどうなったのですか?
A: 研究の結論は、①自動化システムの経年劣化や EMI による誤作動は避けられず、人間による監視 (Monitor)と制御(Control)が不可欠、②自動化システムは人間による監視を容易にするように設 計すべき、③自動化システムは人間による制御を容易にするように設計すべき、④自動化システムが不作 動や誤作動に陥った際に適切に監視と制御ができるように人間を訓練すべき、というものです。 ①~③が人間中心の自動化設計(Human-centered Automation)で、④がヒューマンファクター訓練です。
Q: ギリシャの鉄道当局や鉄道会社が①~④の対策を実践できなかったことが事故の原因といえるよう ですが、航空界はどうなっているのですか?
A: 航空界でも、航空機だけでなくさまざまなシステムで高度な自動化システムが採用されています。①~④ の対策は航空界のさまざまな分野で必要です。航空の国際的な組織である ICAO や IATA、FAA、 EASA は、①~④の対策を各国の航空当局や航空会社に強く求めています。ですが、わが国の航空 当局や航空会社は①~④の対策の意味を深く理解できず、外形的な実践を装っています。ヒューマンフ ァクターの問題が原因の事故やインシデントが起きても、わが国の事故調査当局である JTSB はヒューマンファクター の調査を行なう能力がありません。そのために、わが国の航空界では体系的なヒューマンファクターの対策 が実践される見込みはまったくありません。言い換えれば、旧態依然とした安全対策に甘んじて いるといえます。
Q: 鉄道界に①~④の対策を進言したことはあるのですか?
A: 2002 年に東京で開催された国際鉄道安全シンポジウムで弊社代表が基調講演を依頼された際に、①~ ④の対策を世界の鉄道当局と鉄道会社に紹介しました。ギリシャの代表も参加していたと思います が、①~④の対策を理解して実践できていれば今般の事故は避けられたと思われます。
Q: わが国の鉄道界の反応はどうだったのですか?
A: まったく反応がありませんでした。そもそも、わが国の鉄道界はヒューマンファクターにほとんど関心がな いようです。
Q: つい最近、JR 東日本の川越線で単線に2つの列車が同時に進入して 600 メートルの間隔で正面衝突し そうになったという報道がありますが、どう思いますか?
A: このインシデントは、わが国でもギリシャと同じような事故が起こり得ることを示唆しているといえま す。ヒューマンファクターの対策が遅れているという点では、ギリシャもわが国も同じです。報道によれば、 川越線ではポイントの自動切換えは正常に行なわれたものの、赤信号が正常に点灯されなかったよ うです。鉄道の運行管理では、ポイントの自動制御と信号の自動制御が別々の半導体で行なわれて います。それぞれの半導体に EMI による誤作動の可能性があり、どちらかの半導体が誤作動すれ ば列車の衝突が起こり得ます。わが国の鉄道界は、EMI による半導体の誤作動の可能性をまった く考えていないようです。そのためか、鉄道の自動化システムにはフォールトトレランス設計が採用されていません。川越線のインシデントでは、赤信号不点灯の原因が EMI による半導体の誤作動であっても、JR 東日本の技術陣は認識できずに「原因不明の信号故障」て済ましてしまうと思われます。
Q: わが国の鉄道界でも、自動化システムについて特段の考えをもつ鉄道会社があるのですか?
A: 京浜急行がその鉄道会社です。弊社代表が京急の技術系トップの方と会議で同席した際に感心した ことがあります。京急蒲田駅は現在ではかなり変わっていますが、かっては羽田空港から品川に 向かう列車と三崎行きの列車が同じホームを共用していたことがありました。線路のポイント切り替え を間違えれば、ホームで列車が正面衝突する可能性がありました。京急の技術系トップの方は、「京 急はそのリスクをよく認識していて、あえてポイントの切り替えを自動ではなく手動で行なうよう駅員 を訓練している」と話していました。経営トップが自動化システムのリスクを真摯に考えていることが京 急に事故が少ない理由の1つかも知れません。残念ながら、技術系トップの方からは①~④のヒューマ ンファクターの対策に関心をもっているということを聞くことはできませんでした。

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ギリシャで列車が正面衝突
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2023/03/01

HuFac Solutions, Inc.

意見交換会の開催

2023-03-01 

Q: どういうことですか?
A: 2023 年 2 月 13 日に「加熱する半導体競争」と題する安全情報を配信しました。安全情報では、世 界の各国が半導体の集積度を上げて高性能化すれば電磁干渉(EMI)による誤作動の可能性が高ま ると警鐘を鳴らしました。安全情報の発信は、読者のある方からトップダウン思考に関する解説を求 められたことに端を発しています。やり取りを聞いていた他の読者の方も講演会の開催に協力を 申し出て下さいました。その後、講演会の構想はトントン拍子に進んで、弊社は主催者の方から講演の 演題と要旨を求められました。弊社は下記のような演題と要旨を提案しました。コロナ禍が多少は落 ち着いているとはいえ、講演は短時間で効率的にする必要があります。弊社代表の講演時間は質 疑応答を含めて1時間 30 分となり、議論を充実させるために意見交換会にしようということにな りました。その趣旨に合わせて、安全情報で関係者の方々に講演内容を事前にお知らせることに した次第です。意見交換会は 3 月末に都内で開催されます。
演題: デジタル化社会のリスクマネージメント
要旨: 電導物質と絶縁物質の中間の性質をもつシリコンなどの半導体が発見され、トランジスタやダイオード、 集積回路(IC)など広義の半導体が発明されたことで、人類社会はコンピュータや AI を活用す るデジタル化社会に突入しています。世界は半導体の集積度など効率のみを追求して競争し ていますが、半導体には電磁両立性(EMC)という避けることができない問題があり、半導 体の集積度の増大とともに顕在化します。この問題を解決できなければ、高性能の半導体 を航空や鉄道、船舶、自動車、医療といった人命を預かる産業分野で安全に利用すること はできません。この難問の解決のために、やはりなくせないヒューマンエラーに対処するエラートレランス (Error Tolerance)をヒントに、フォールトトレランス(Fault Tolerance)というトップダウン思考の手法 が考えられています。本講では、半導体などデジタル技術の普及で避けることができない EMC の問題とそれを効果的に解決するためのフォールトトレランスについてわかりやすく概説します。
Q: 安全情報について読者の方々からコメントがあったのですか?
A: いくつかありました。その中の1つを下記にご紹介します。ご質問に対する回答を通じて、半導体 と EMC の問題についてさらに理解を深めていただけると思います。コメントを寄せて下さった方は、 わが国の鉄道業界で永年にわたって鉄道安全に貢献された方です。それだけに、コメントとご質問に は重みがあります。
ヒューファク安全情報を受講させていただいている○○です。此度は、「加熱する半導体競争」をあり がとうございました。これを読ませていただき、初めて半導体の問題点の真相を知りびっくりし ました。それは、半導体が集積度を増せば、EMI の危険性が増すということのようですが、
① 半導体の過熱競争で、何ナノくらいの集積度からが危険水域か、線は引けるのですか?
② ボーイング 737MAX はリチウムイオン電池に問題があり、池袋のプリウス事故もブレーキとアクセルの踏み間違い で、半導体の半の字も出てこなかったことは、EMI は痕跡も証拠もないので、誰も言いだせ なかったということなのですか?
③ 集積度増大競争下で EMI を無くすのは、ご主張のトップダウン思考によるフォールトトレランスがあるとし ても、現実には EMI の危険は究明されることなく増え続ける恐れがあるということになるで しょうか?
④ 半導体製造の品質管理について日本の現状は如何なのでしょうか? いずれにしても、大変重要な問題をご指摘いただきありがとうございました。また、関連事項に ついて、ご講義をお願いします。
Q: ① についてはどう応えますか?
A: 「何ナノくらい」という明確な線は引けません。集積度を上げた半導体での EMI の問題は、米ソの 宇宙開発競争で顕在化しました。ソ連の人工衛星が行方不明になる事故がありましたが、科学技 術者は EMI による半導体の誤作動が原因と考えました。2 進法の 1 と 0 で構成されるデジタル情報 の 1 と 0 がある箇所で EMI により入れ替わって、情報が一変してしまったと考えられています。 その後、米国のスペースシャトル計画でも数多くの EMI による事故やトラブルを経験しました。NASA はこれ らの経験を報告書にまとめています。報告書は、「EMI の問題を認識できたことは宇宙開発の大 きな成果で、教訓を産業界などで活かさねばならない」と提言しています。
Q: 民間航空界でも EMI の問題を経験しているのですか?
A: ボーイングが 757 と 767 に初めて飛行管理システム(FMS: Flight Management System)を導入してか ら、EMI の問題が顕在化しました。エアバスが開発した 320 でも、EMI による FMS のトラブルが相次ぎ ました。トラブルの多くは民間航空界が独自に導入している匿名安全報告制度で報告されました。 EMI による事故も数多く経験しています。FMS は、精密な飛行制御で燃料消費を低減させるため と、航空機関士(Flight Engineer)の業務を代行させるために開発されました。高集積度の半 導体の開発で可能になった小型軽量のコンピュータシステムです。EMI による事故やインシデントに危機感を抱 いた ICAO や IATA、FAA などは、人間と自動化システムのインタフェースを最適化するヒューマンファクター(Human Factors)の研究に期待をかけました。研究の成果が「人間中心の自動化設計」と「AQP などのヒュ ーマンファクター訓練」です。どちらもフォールトトレランスの概念の具現化といえます。 
図.1 航空機の FMS
Q: わが国の航空界は世界の航空界の動向に追随できているのですか?
A: まったくできていません。それどころか、わが国の航空技術者は EMI の存在すら的確に認識でき ていません。その理由は、技術者がボトムアップ思考しかできないからといえます。ボトムアップ思考の教育で育ったわが国の技術者が可視化できない EMI の問題の存在を理解できないのは無理もあり ません。
Q: ② についてはどう応えますか?
A: 先ず、「 ボーイング 737MAX はリチウムイオン電池に問題があり」というのは少し違います。737MAX の墜落 事故の原因はリチウムイオン電池の発火ではなく、MCAS という失速防止システムの EMI による誤作動です。 わが国の国民がボーイング 737MAX や 787 の事故、池袋におけるプリウスの暴走事故の原因を理解でき ないのは、やはりボトムアップ思考しかできないからといえます。そのために、公式事故調査の結論 や裁判の判決に対して自信をもって異論を唱えられないようです。
Q: 池袋の暴走事故の裁判では、EDR の記録が「動かぬ証拠」になったのですか?
A: そのように聞いています。EDR(Event Data Recorder)の記録が「動かぬ証拠」となったのは、裁 判官や検事、弁護士などの司法関係者がボトムアップ思考しかできないからと考えています。ボトムアッ プ思考では、EDR の仕組みを深く考えることなく事実を忠実に記録できる装置と誤解してしまいま す。ハイブリッド車や EV は「Drive By Wire」といって、アクセルやブレーキ、ハンドルなどの動きをトランスデューサ ー(Transducer)で電気信号に変換してパワー半導体に伝達します。EDR はそれらの電気信号を記録 しているだけで、アクセルやブレーキ、ハンドルの動きを忠実に記録しているわけではありません。
Q: トップダウン思考ではどのように考えるのですか?
A: トップダウン思考は、事実を的確に把握して論理的に判断します。EDR がアクセルの電気信号の急激な上 昇を記録していても、それが運転者によるアクセルペダルの踏み込みによるものか、EMI によるパワー半 導体の誤作動によるものかは判別できないと考えます。わが国の司法は「疑わしきは罰せず」と いう推定無罪の原則を採用しています。推定無罪の原則によれば、EDR の記録だけで被告を有罪 にする「動かぬ証拠」にはできません。米国やカナダでは、プリウスの暴走事故による裁判が数多く 提起されています。弊社が知る限り、運転者が刑事罰に処せられた事例は1件もありません。トッ プダウン思考で判断できないわが国の司法や科学技術は、欧米にくらべて大きく遅れているといわ ざるを得ません。
Q: ③ についてはどう応えますか?
A: 世界の IT 業界や民間航空界では、すでにフォールトトレランス設計が実践されています。わが国のメーカーが 製造できないパーソナルコンピュータ(PC)の CPU(Central Processing Unit)には、フォールトトレランス設計が 採用されています。CPU の製造はインテルなど米国のメーカーに限られていて、フォールトトレランス設計は企業秘 密にされています。民間航空機でも、フォールトトレランス設計はすでに採用されています。FMS が航空機 に採用された当初には、携帯電話や電子機器の機内における使用が厳しく禁止されていました。 フォールトトレランス設計が採用されるにつれ、その規定が徐々に緩和されました。
Q: EMI で発火するリチウムイオン電池でもフォールトトレランス設計が採用されでいるのですか?
A: リチウムイオン電池ではフォールトトレランス設計の採用が遅れています。その代わりに、民間航空会は運用でカバ ーしています。航空機の乗客がリチウムイオン電池やリチウムイオン電池を内蔵する電子機器類を携行して搭乗 するのを禁止することはできません。民間航空会社の団体である IATA は、それらを貨物室に搭 載することを厳しく禁止しています。その代わりに、手荷物として機内に持ち込むことは容認し ています。リチウムイオン電池が客室内で発火しても客室乗務員が何とか消火できるからです。この措
置は、リチウムイオン電池の半導体が EMI で誤作動しても深刻な火災に結びつけないというフォールトトレランス の考えによる「苦肉の策」といえます。
Q: ④ についてはどう応えますか? A: これは鋭いご質問ですが、真摯にお応えします。わが国における半導体の品質管理は、欧米にく らべて遅れているというよりも、むしろゼロといっても過言ではありません。わが国の半導体メーカ ーと IBM の合弁事業でも、わが国のメーカーは半導体の品質の中核である制御部分の製造を担当でき ません。制御部分にはコンピュータの CPU と同じフォールトトレランス設計が採用されているからです。残念な がら、わが国の技術レベルではフォールトトレランス設計ができません。半導体の日米合弁事業では、わが国 は IBM の下請けに甘んじることになります。やはり半導体の制御部分を製造できない台湾の TSMC も、米国に工場を置いて米国の傘下に入るようです。
Q: わが国の技術レベルではトップダウン思考によるフォールトトレランス設計ができないのであれば、わが国の技術 者がトップダウン思考を理解する必要はないのではないですか?
A: それは違います。EMI の問題を解決するには、フォールトトレランス設計だけでは不十分です。半導体による 自動化システムを現場で取り扱う要員にも、トップダウン思考が必要になります。現場の要員がトップダウン 思考で判断できるようにする訓練がヒューマンファクター訓練です。ヒューマンファクター訓練では、現場の要員にも EMI の問題やフォールトトレランス設計について理解してもらいます。
Q: コメントを寄せていただいた方は「関連事項」についても解説を期待されていますが、航空機の運航に 最近話題の人工知能(AI)を採用する可能性はあるのですか?
A: それは絶対にあり得ません。AI は人間の脳神経ネットワーク(Neural Network)を模したコンピュータプログ ラムですが、科学技術者が考える脳神経ネットワークの概念モデルは人間の脳の機能をすべて表現できてい るわけではありません。人間の脳には、コンピュータのプログラムなどでは模擬できない高度な機能があ ります。それがトップダウン思考です。コンピュータのプログラムが模擬できできるのはボトムアップ思考に限ら れています。航空機の通常時の運航はパイロットのボトムアップ思考や AI でもできますが、異常時には パイロットによるトップダウン思考が必要になります。人間の脳のトップダウン思考は、最新の脳科学でも解 明されていません。世界の航空界では「航空機のパイロットはゼロにできないばかりか、永久に 2 名 のままである」というのが定説になっています。世界の民間航空界は、ゼロにできないパイロットとハ ードウェアやソフトウェア、環境との調和を考えるヒューマンファクターの重要性を認識しています。AI による無人航 空機の出現などは議論すらされたことがありません。 
図.2 人間の脳神経ネットワークの概念モデル
Q: 話題になっている ChatGPT も、人間のトップダウン思考までは模擬できないのですか?
A: その通りです。弊社は、本年 1 月 15 日に起きたネパールのイエティ航空 ATR72-500 の墜落事故の原因を トップダウン思考で即座に「主翼前縁の防除氷装置のスイッチの入れ忘れ」と推定しました。現在、事故 機の飛行記録装置(DFDR)が回収されて、両側のターボプロップエンジンが停止してプロペラがフェザーリング 位置(注:フェザーリングとは、空気抵抗を減らすためにプロペラの羽の断面を気流に平行にセットするこ と)になっていたことが判明しています。この事実をボトムアップ思考で考えれば、両側のエンジンが 停止したことが原因と考えてしまいます。ですが、両側のエンジンが同時に停止する確率は極めて 低く、事故調査団も事故原因を特定しかねているはずです。トップダウン思考で「主翼前縁の防除氷 装置の入れ忘れ」が原因と考えれば、すべてが論理的に説明できます。両側のエンジンの停止は事 故の「原因」ではなく「結果」であることに気づくはずです。読者の中に関心がある方がおられ れば、ChatGPT に「イエティ航空 ATR72-500 の事故の原因は何か?」と尋ねてみてください。ボトムアッ プ思考しかできない ChatGPT は何も応えられないか、あるいは「両側のエンジンの停止による推力 不足が原因」としか応えられないはずです。事故原因分析のようなトップダウン思考を要する緻密な 作業は AI にはできません。
Q: 計画されている意見交換会では、以上のような事柄について忌憚のない議論ができると期待して いるのですか?
A: その通りです。最近の社会情勢の変化で、弊社が永年にわたって提唱してきたトップダウン思考が理 解されるチャンスがめぐってきたと思っています。意見交換会では、我々が避けることができないデ ジタル化社会を敏感に感じとれる有志の方々と忌憚のない議論ができることを期待しています。 

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意見交換会の開催
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2023/02/18

HuFac Solutions, Inc.

プリウスがまた暴走

2023-02-18 

Q: どういうことですか?
A: 2023 年 2 月 11 日、福岡県北九州市で 70 歳代の男性が運転するトヨタプリウスが暴走して、複数の車に 衝突を繰り返しました。 車を運転していた男性は警察の調べに対して「パニックを起こして操作を 誤った」と話しているとのことです。 衝突された車に乗っていた男性 2 人が首の痛みなどを訴え ていて、警察は過失運転致傷の疑いで捜査しています。
図.1 暴走するトヨタプリウス 
Q: 運転者本人が供述しているように、原因は「運転操作の誤り」ということではないのですか?
A: そうではありません。わが国の世論やマスコミはすべて「運転操作の誤り」という見解で一致していま すが、これはボトムアップ思考の典型といえます。わが国の国民がボトムアップ思考でしか判断できない のは、これまでのわが国のボトムアップ思考の教育の結果といえます。
Q: ボトムアップ思考ではなく、トップダウン思考で考えれば原因はどうなるのですか?
A: 間違いなく、原因は電磁干渉(EMI)によるプリウスの電子機器の誤作動です。プリウスのようなハイブリッ ド車や電動自動車(EV)にはパワー半導体というマイコン(Micro Controller)が装備されています。パ ワー半導体は EMI の影響を受けやすく、これまでにも数多くのハイブリッド車や EV の暴走を引き起こし ています。2019 年に池袋で起きたプリウスの暴走事故も、本当の原因は EMI によるパワー半導体の誤作 動です。
図.2 自動車のパワー半導体
Q: 運転者本人が「運転操作の誤り」と供述しているのに、なぜそうではないと断定できるのですか?
A: そうではないと断定できるのがトップダウン思考の真骨頂です。運転者は、運転の途中である出来事 に遭遇しました。その出来事というのが EMI によるプリウスのパワー半導体の誤作動です。これまで の事故情報などから、パワー半導体の誤作動がアクセルを急激に操作してエンジンの回転数を上昇させる ことがわかっています。一方、アクセルが制御できなくなったことを感じた運転者の脳は、顕在意識から潜在意識に急激に変化します。理性をともなう顕在意識なら、「アクセルが制御できなくなれば ブレーキを踏めばいい」という知恵が働きます。ですが、理性をともなわずに感性だけで反応する 潜在意識は、「制御できなくなったアクセルを何とかしよう」と無意識のうちにもがきます。それだ けではなく、手を無意識に動かしてクラッチをバック位置に入れて事態を打開しようともします。こう いった運転者の潜在意識における一連の行動が、俗にいうパニック(Panic)です。
Q: 運転者の年齢が 70 歳代ということも、パニックに陥りやすいといえるのですか?
A: そういえます。一般的に、人間は高齢になるほど顕在意識を維持しにくくなります。若ければ顕 在意識で理性を働かせて冷静に行動できますが、高齢者は有事の際に冷静に行動できなくなりま す。航空機のパイロットに年齢制限があるのはこういった理由からです。わが国ではこれまで、高齢 者による同種の自動車の暴走事故はすべて「アクセルとブレーキの踏み間違い」で済まされています。
Q: 自動車の運転免許でも 70 歳を超えると認知能力の検査がありますが、ヒューマンファクターの観点からは 適切といえるのですか?
A: 適切とはいえません。現行の認知能力の検査は顕在意識を維持できる能力を知るものではありま せん。顕在意識を維持できる能力には大きな個人差があります。特殊な訓練によりその能力を向 上させることもできます。それがトップダウン思考のヒューマンファクター訓練です。わが国の科学者はヒューマンフ ァクターを学んで交通機関の運転者の健康管理を見直す必要があります。
Q: このままでは EMI によるハイブリッド車や EV の暴走が続くことが予測されますが、どうすればよい のでしょうか?
A: 難しい問題です。なぜなら、資源のないわが国の経済は主に自動車産業の輸出に依存しているか らです。中でも、トヨタのプリウスは CO2 削減の観点から欧米で売れていて、莫大な外貨を稼いでいま す。そのため、マスコミをはじめわが国の社会にはトヨタのハイブリッド車の欠陥を表立って指摘できる人 はいません。ですが、このままではこの問題が EV にも波及することは必至です。EV の暴走が顕 在化して世界の人々が EV を敬遠することになれば、わが国の自動車産業だけでなくわが国の経 済そのものが崩壊することになります。打開策は1つしかありません。ハイブリッド車や EV を断念 するか、あるいはトップダウン思考のフォールトトレランス設計を採用して、パワー半導体などの電子機器が EMI にさらされても誤作動しにくくすることです。フォールトトレランス設計を実現するには技術者の不屈の努 力が必要です。弊社代表は以前から自動車技術会などを通じて自動車業界に発想の転換を提唱し ていますが、残念ながらまったく耳を傾けてもらえていません。この安全情報がトヨタなど自動車 業界に届くことを願っています。  

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プリウスがまた暴走
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2023/02/17

HuFac Solutions, Inc.

AIの能力と限界

2023-02-17 

 

Q: どういうことですか?

 

A: 読者のある方から、弊社が提唱している「トップダウン思考」について現在話題になっている ChatGPT に問い合わせてみたというメールをいただきました。ChatGPT の回答は、弊社にとっても驚くべきも のでした。ChatGPT はトップダウン思考について意外なほど的確に理解しています。AI 技術がここま で発達したのかと感心しました。その半面、予想通りの AI の限界も感じています。読者の方々に とって参考になると思われますので、メールのやり取りを時系列でご紹介します。

 

図.1 ChatGPT のスクリーンショット

 

Q: ChatGPT とはどういうものですか?

 

A: OpenAI という IT 企業が 2022 年 11 月 30 日に公開したチャットのための AI(チャットボット)です。幅広い 分野の質問に柔軟に回答できるから注目を集めています。柔軟で的確と思える半面で事実とは異 なるという批判があるのも事実です。ChatGPT の公開の後で、OpenAI の時価総額は 290 億米ドルと なって、公開から 2 か月でユーザー数は 1 億人に達しています。

 

Q: 読者の方からは最初にどのようなメールが寄せられたのですか?

 

A: 下記のようなメールが寄せられました。

 

 

トップダウン思考について AI チャットボット「ChatGPT」に聞いてみました。かなりまともな回答のように 思えますが、如何でしょうか?

 

質問1: トップダウン思考とは?

 

回答: トップダウン思考とは、大局的な視点から問題を捉え、その目標に向けて必要な戦略や手段を考えて いく思考方法です。つまり、全体像を把握し、その目標に向けて具体的な行動計画を立てるとい う手法です。トップダウン思考は、組織やビジネス戦略の策定、プロジェクトマネジメント、政策決定など、多くの分野で使 用されます。この手法は、問題解決のプロセスにおいて、問題の核心を正確に捉え、最も効率的な 解決策を導き出すのに役立ちます。 トップダウン思考は、問題解決のための手法として重要なものである一方で、全体像を見ることがで きる人材や視点を持つことが必要とされます。また、トップダウン思考だけでなく、ボトムアップ思考と いう下からのアプローチも併せて活用することで、より効果的な問題解決が可能となります。

 

質問2: ヒューマンファクターとトップダウン思考との関係は?

 

回答; ヒューマンファクターとトップダウン思考は、密接な関係があります。ヒューマンファクターとは、人間の特性や行動を理 解することで、システムの設計や改善に反映させることを指します。つまり、人間の能力や制限を考 慮し、設計や改善を行うことで、より使いやすいシステムを実現することができます。 一方、トップダウン思考は、大局的な視点から問題を捉え、その目標に向けて必要な戦略や手段を考 えていく思考方法です。トップダウン思考においては、システム全体を俯瞰し、問題点を洗い出し、解決 策を導き出すことが求められます。 つまり、ヒューマンファクターを考慮したシステム設計や改善は、トップダウン思考の一環として行われます。人間 中心の設計や改善は、ユーザビリティや生産性の向上など、システムのパフォーマンスに直結するため、トップダウ ン思考において欠かせない要素となっています。 したがって、ヒューマンファクターとトップダウン思考を両方活用することで、より優れたシステムの設計や改善を 実現することができます。

 

質問3; トップダウン思考を教育・普及させるたには?

 

回答: トップダウン思考を教育・普及させるためには、以下のような取り組みが考えられます。

 

1. 教育機関での啓蒙活動:学校や大学で、トップダウン思考の重要性や方法について教育すること で、若い世代に普及することができます。

2. 専門的な研修プログラムの提供:企業や組織で、トップダウン思考の研修プログラムを提供すること で、ビジネスや組織の現場で活用できる人材を育成できます。

3. メディアでの情報発信:ビジネスニュースや専門誌、SNS などを活用し、トップダウン思考について情報発 信することで、多くの人々に知ってもらうことができます。

4. 実践事例の共有:成功事例を共有することで、トップダウン思考の重要性や有効性を訴えること ができます。

5. ワークショップの開催:実際にトップダウン思考を実践しながら学ぶことができるワークショップを開催する ことで、参加者がトップダウン思考の手法や重要性を体感できます。 これらの取り組みを積極的に行うことで、トップダウン思考を教育・普及させることができます。

 

Q: このメールに対してどのような返事をしたのですか?

 

A: 下記のような返事をさせていただきました。

 

 

ChatGPT は現在話題になっていますが、これだけの回答を引き出すには具体的にどのような聞き方 をされたのでしょうか?英語版の ChatGPT に英語で聞いて回答を和訳されたのでしょうか?いず れにしても、かなりいい線をいっています。ですが、AI の限界も見られます。例えば、「トップダウ ン思考だけでなく、ボトムアップ思考という下からのアプローチも併せて活用することで、より効果的な問 題解決が可能となります。」というのは明らかに間違っています。数学の問題を解く際に演繹法と 帰納法を併用することと混同しているようです。トップダウン思考に移行するには、ボトムアップ思考と 明確に決別しなければなりません。なぜなら、トップダウン思考こそが人類の真の進化の方向といえ るからです。悲しいことですが、ChatGPT を引用すれば私の説明などより信用されるというのも現 実です。この ChatGPT の回答を利用させていただければという「邪まな考え」も持ち始めていま す。そのために、この回答を引き出した経緯の詳細をお知らせいただければ幸いです。よろしくお 願いします。

 

Q: 読者の方からはどのような返事があったのですか?

 

A: 下記のような返事がありました。

 

 

返信ありがとうございます。今回の回答を ChatGPT から引き出すためにやったことは、今回の質 問の文をいきなり ChatGPT に入れただけです。ChatGPT の回答が自分の質問の意図を知ってるかの ようでしたのでびっくりしました。今回の質問の意図は、ChatGPT の能力を知りたかったことと、 貴方がいうトップダウン思考を自分流で解釈したのがどうかと思っていたためです。今の ChatGPT は 誤ったこともいうし、2021 年以降の最新情報はまだ学習してないそうですから、ChatGPT の回答 を参考にする支援ツールとしては使えるように思いました。最後は人間がチェックするというふうに。基 本的に ChatGPT も含め今の AI には誤った情報を識別できる能力は十分ではないとか。OpenAI は ChatGPT の回答をチェックするツールも作ったが不完全だそうです。

 

Q: 他の方からも 何か感想がありましたか?

 

 A: メールのやり取りを聞いていた方から、下記のような感想が寄せられています。

 

 

○○さん(注:弊社代表)のご返信も拝読させて頂きましたが、大変に僭越ながら私が想定したご 回答の様でした。又、この ChatGPT に対しても○○さんと同様の感想です。それにしても、凄い時 代になりましたね!今までは、私等はちょっと調べる時は Wikipedia を見てましたが。

 

Q: ChatGPT がトップダウン思考やヒューマンファクターについて的確に回答していることについて、どのような感 想をもっていますか?

 

A: 率直にいって、驚いています。グーグルなどがサーチエンジンなどの AI 技術を駆使して世界のインターネットや メール交換を検索していることは知っていました。グーグルの AI は早くから弊社の活動に注目してく れていて、弊社の存在をグーグル検索の上位に位置づけてくれています。まだ確認できていません が、ChatGPT も自動的に弊社の活動に注目してくれているのだと思います。

 

Q: トップダウン思考やヒューマンファクターの重要性を提唱している存在が他にもあるのですか?

 

A: それはないはずです。以外かも知れませんが、トップダウン思考の意味を深く理解して世界に提唱し ているのは現在のところ弊社だけと自負しています。ヒューマンファクターの重要性はすでに世界で認めら れていますが、ヒューマンファクターをトップダウン思考と関連づけて説明しているのは弊社以外にはありませ ん。ChatGPT が弊社の考えを的確に伝えてくれているのは驚きというしかありません。仮に弊社 と同じような組織が他にあるのなら、それは力強く大変喜ばしいことです。

 

Q: ChatGPT の回答を寄せてくれた読者の方は、トップダウン思考の理解者にくれると期待できますか?

 

A: この方はトップダウン思考を理解しようと考えておられるから、ChatGPT に質問されたのだと思いま す。トップダウン思考の強力な支援者になっていただけるものと信じています。現在、世界はさまざ まな難問を抱えて混沌としています。難問はトップダウン思考でしか解決できません。わが国の国民 が早くトップダウン思考を理解して、世界のリーダーに加わることを期待しています。ChatGPT などの AI はそのための強力な助けになりますが、主役はあくまでも人間です。

 

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2023/02/13

HuFac Solutions, Inc.

過熱する半導体競争

2023-02-13 

 

Q: どういうことですか?

 

A: 世界におけるわが国の半導体シェアは図.1 のように凋落し続けています。この事態を打開してわが国 の経済成長を促すために、政府は米国の IBM との合弁で新たに立ち上げた国産半導体製造会社に 予算 700 億円を投じることを決定しました。半導体競争は米国と中国の間でも熾烈化していて、 台湾の半導体製造会社の TSMC をめぐって国家間の紛争すら起きようとしています。ですが、この ような半導体競争で各国が軽視している重要な問題があります。今回は、この問題について世界 に先駆けてトップダウン思考で迫ってみたいと思います。

 

図.1 世界におけるわが国の半導体シェア

 

Q: そもそも、半導体とはどういうものですか?

 

A: 物質は電気を通す電導体(Conductor)と電気を通さない絶縁体(Insulator)に分類できます。で すが、両者の中間の性質をもつとか、両者の性質を併有する物質があることが発見され ました。それが シリコン、 ゲルマニウム、 カリウムなどの半導体(Semiconductor)とよばれる物質です。 半導体には、マイナス(-)の電荷をもつ n 型半導体とプラス(+)の電荷をもつ p 型半導体があります。 近年では、これら 2 種類の半導体を組み合わせたダイオード(Diode)やトランジスター(Transistor)、集 積回路(IC: Integrated Circuit)などを半導体と総称するようになっています。

 

図.2 ダイオード(左)とトランジスター(右) 

 

Q: ダイオードやトランジスターにはどのような機能があるのですか?

 

A: ダイオードには、電気を一方向にしか流さない機能があります。その他に、光を発する発光ダイー ド(LED)や光を電気に変えるダイオード(太陽光発電)もあります。トランジスターには、電圧を増 大させる増幅機能と電流の ON/OFF を切り変えるスイッチ機能があります。これらを基板上に集積し た半導体には計算機能や記憶機能、制御機能などがあり、高度な半導体は人工知能(AI)などに 利用されています。

 

Q: 世界の各国は半導体のどのようなことで競争しているのですか?

 

A: さまざまなことがありますが、主に集積回路の集積度(Scale of Integration)で競争していま す。集積度とは、限られたスペースにどの程度の機能を収納できるかということです。わが国の半 導体製造技術では「10 ナノ」レベルの集積度しか達成できていません。台湾や米国のメーカーは「2 ナノ」 レベルの集積度を実現しています。これからは「1 ナノ」レベルの競争になるようです。

 

Q: 半導体の集積度を増大させると、どのようなメリットがあるのですか?

 

A: 集積度を増大させると、記憶容量が増し、計算速度が増大して、複雑な制御が可能になるなどの メリットがあります。高度な AI にはこれらのメリットが欠かせません。高度な AI が開発できると、人類 のさまざまな夢を実現できるようになります。

 

Q: 各国が半導体の集積度で競争する理由がわかりましたが、冒頭で述べられている「各国が軽視し ている重要な問題」とはどういうことですか?

 

A: 半導体のような電子部品には電磁両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility )が要求されま す。EMC とは、電子部品が他の部品に電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference)を及ぼさ ず、また他の部品から電磁干渉を受けても正常に動作する耐性を持つことで互いに共存できる状 況を指します。集積度が増して電子部品が互いに接近すれば、EMI の可能性が増します。今後、各 国の競争が過熱して半導体の集積度が増せば、EMC がますます問題になることになります。

 

Q: 電子部品が EMI を受けると、具体的に何が起きるのですか?

 

A: ダイオードやトランジスター、IC などの半導体が誤信号を出して、電子機器に誤作動を起こさせます。半 導体を用いた電子機器は、今や社会のさまざまな分野で利用されています。EMI が原因と思われ る深刻な事故もすでに起きています。

 

Q: 「EMI が原因と思われる」というのは、EMI が原因とは特定できないということですが?

 

A: 残念ながら、そういうことになります。EMI は、発生しても一切の痕跡を残しません。それに、 確認のために EMI を再現させることもできません。電子機器の誤作動で事故が起きても、その原 因が人間の誤操作によるものか、EMI に因るものかを判定することはできません。そのため、証拠重視主義のわが国の裁判では EMI が証拠として認められることはありません。マスコミなどでも、 事故の原因として EMI が取り沙汰された例を聞いたことがありません。

 

Q: EMI の要因は科学的に解明されているのですか?

 

A: 意外かも知れませんが、現代の科学でも解明されていません。解明するには、原子や電子などの 量子物理学にまで踏み込まねばなりません。いわば、万有引力や磁力の要因を解明できないのと 同じで、人類永遠の課題の1つといえます。EMI を根本的になくす方法も開発できていません。

 

Q: EMI が原因と思われる事故を例示していただけませんか?

 

A: 身近な例でいえば、2013 年に JAL と ANA のボーイング 787 で相次いで起きたバックアップ電源用のリチウムイ オン電池の発火事故があります。わが国の運輸安全委員会(JTSB)や米国の国家運輸安全委員会 (NTSB)、ボーイング、電池メーカーの GS ユアサが原因を調査しましたが、まったく解明できませんでした。 当時、弊社代表はいくつかのテレビ局に要請されて取材に応じました。新聞社や雑誌社からもコメント を求められました。

 

図.3 リチウムイオン電池の発火で緊急着陸したボーイング 787

 

Q: リチウムイオン電池の発火原因を解明できていたのですか?

 

A: 通常の思考では解明できませんが、トップダウン思考で解明できていました。リチウムイオン電池は高性能 電池の1つです。高性能電池には、過電流や過電圧を防ぐためにマイコン(Micro Controller)とい う半導体が内蔵されています。リチウムイオン電池のマイコンが EMI で誤作動して過電流を防げなくなった ことが発火の原因といえます。詳細は割愛しますが、787 には EMI が発生しやすい要因がありま す。JAL と ANA の 787 で起きたのは。わが国特有の気象状況にも関係しています。

 

Q: テレビや新聞社、雑誌による取材で、なぜ本当の原因を説明しなかったのですか?

 

A: 前述のように、EMI は一切の痕跡を残しませんし、確認のための再現もできません。証拠がなく実 証できないことを公の場で述べるのはかえって混乱をまねくと考えて控えました。ただ、米国の FAA が 787 の運航停止を半年後に解除した際には、新聞社の取材に対して「原因が不明のままの解 除には問題が残る」とコメントしました。ボーイングはその後、主力機として期待していた 787 の製造を 停止しました。ボーイングは本当の原因に気づいて、対応が困難であると悟ったようです。

 

Q: 2019 年に池袋で起きたプリウス暴走事故も EMI が原因と話していましたね? 

 

A: そうです。プリウスなどトヨタのハイブリッド車は、欧米で数多くの暴走事故を起こして提訴されています。 そういった情報に疎いわが国の社会や司法界は、池袋の事故の原因を「ブレーキとアクセルの踏み間違い」 としか判断できませんでした。年老いた運転者は現在も実刑に服しています。弊社は、諸状況をト ップダウン思考で考えて EMI 以外の原因はないと思っています。ハイブリッド車や電気自動車(EV)には、 電動モーターなどを制御するパワー半導体(Power Semiconductor)が採用されています。パワー半導体が EMI で誤作動すれば、ハイブリッド車や EV が暴走することは大いにあり得ます。

 

図.4 自動車のパワー半導体

 

Q: 最近、「グーグルが哲学者を経営トップに迎える」という報道がありましたが、これも何らかの関連 があるのですか?

 

A: その報道は読者の中の IT 技術者の方から知らされました。大いに関連があります。IT 業界では 報道にある「哲学者」をカントやデカルトのような哲学者と考えているようです。ですがそうではな く、「ヒューマンファクターの専門家」という意味です。弊社は 2016 年に「マイクロソフトの CEO が人間中心の AI を目指している」という内容の安全情報を発信していました。いい換えれば、マイクロソフトがヒューマンファ クターを本格的に重要視するようになったということです。それ以前に、グーグルとテスラの EV が自動 運転で暴走による死亡事故を起こしていました。マイクロソフトの CEO は、グーグルとテスラの EV が暴走事 故を起こしたのは経営トップがヒューマンファクターの原則を知らなかったためと悟ったようです。その後、 グーグルもマイクロソフトと同じようにヒューマンファクターの重要性に気づいたのだと思います。テスラの CEO はまだ 気づいていないようで、EV の販売を続けています。テスラの EV は最近、中国で相次いで暴走事故を 起こしています。

 

Q: 2019 年にボーイング 737MAX が相次ぐ墜落事故で運航停止になりましたが、この事故の原因も EMI に 関係があるのですか?

 

A: その通りです。NTSB や FAA、ボーイングは事故原因を明らかにしていませんが、EMI 以外には考えら れません。事故の切っ掛けは MCAS という失速防止のための操縦特性補助システムの誤作動であること がわかっています。MCAS は、高性能の半導体を用いた自動化電子システムです。EMI を受ければ MCAS が誤作動することがあり得ますが、それを実証することはできません。737MAX にも、EMI を発生させるボーイング 787 と同じ要因があります。FAA は、737MAX の型式証明を直ちに取り消して世界中 の 370 機以上の 737MAX を運航停止にしました。

 

図.5 運航停止になったボーイング 737MAX 

 

Q: EMI をなくすことができないのなら、どうすればいいのですか?

 

A: EMI と同じように、絶対になくすことができないものがあります。それがヒューマンエラーです。ヒューマンファ クターでは、なくせないヒューマンエラーに対処するためのエラートレランス(Error Tolerance)というトップダウン思 考の手法があります。因みに、なくせないヒューマンエラーをなくそうとする無駄な手法がボトムアップ思考 のエラーレジスタンス(Error Resistance)です。EMI に対しては、エラートレランスをヒントとしたフォールトトレランス (Fault Tolerance)というトップダウン思考の手法が適用できます。わが国の電子機器メーカーが採用 している EMI 防止策はすべてボトムアップ思考の対策です。フォールトトレランスで EMI に対処するには、IT 技 術者がトップダウン思考やヒューマンファクターを理解できなければなりません。フォールトトレランスを考慮しないで半 導体の集積度増大競争を続ければ、半導体は、航空や鉄道、船舶、自動車、医療といった人命を 預かるシステムには採用できなくなります。

 

Q: フォールトトレランスは現実に採用されているのですか?

 

A: ボーイングやエアバスは最新の航空機の飛行管理システム(FMS: Flight Management System)に採用して います。インテルなどが独占的に製造しているコンピュータの CPU にも採用されています。これらの企業 がフォールトトレランス設計の詳細を開示しないのは、企業秘密という理由だけではありません。コア技術に エラーがあることが明らかになれば、製造者責任(PL: Product Liability)を負わねばならなくな るからです。これらの技術は俗に「ブラックボックス(Black Box)」といわれています。わが国の技 術者はこれまでのように欧米の真似をするのではなく、トップダウン思考で考えて独自にフォールトトレランス 設計を開発できるようになる必要があります。 

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2023/01/27

HuFac Solutions, Inc.

JR 西が寒波で立ち往生

2023-01-27   

Q: どのような出来事ですか?
A: 2023 年1月 24 日午後7時ごろ、JR 西日本の京都線や琵琶湖線などで線路のポイントが切り 替わらなくなるという事態が起きました。京都府向日市にある向日町駅の構内に続き、 山科駅や京都駅の構内あわせて 21 か所でポイントの切り替えができなくなりました。その 結果、あわせて 15 本の列車が動けなくなって乗客が降りるまで最大でおよそ 10 時間か かったということです。同社では予想降雪量が 10 センチを超えた場合、線路の ポイントの雪 をとかす装置を使うことにしていますが、京都駅周辺では 8 センチ程度の降雪予想があっ たため、装置を使う準備をしていなかったということです。実際には想定を上回る雪が 急激に降った結果、ポイントに雪が挟まるなどして切り替えられなくなり、列車の立往生 が発生しました。また、およそ 7000 人が一時車内に閉じ込められたことについては、 乗客を駅で降ろすためにポイントを復旧させる作業を優先したものの、想定以上に時間が かかったことが要因だとしています。

図.1 寒波で立ち往生する JR 西日本 

 

Q: 線路のポイントとはどのような装置ですか?

 

A: 分岐する線路において列車の進行方向を変える装置です。一般的には電気で作動され、遠隔操作 か自動操作されます。分岐器ともいいます。ポイントの誤作動や不作動に気づかなければ、最悪 の場合、列車どうしが衝突します。ポイントを作動させても着氷や石などによるブロックがあれ ば、誤作動と同じことになります。 

 

図.2 線路のポイント

 

Q: JR 西日本は社内のマニュアルで「(気象庁の)予想降雪量が 10 センチを超えた場合に線路のポイント の雪をとかす装置を使う」と規定しているそうですが、この規定は適切ですか?

 

A: いいえ、適切ではありません。降雪量とポイントの着氷の間には科学的な相関関係がないか らです。降雪量が 10 センチ以下でも、ポイントの着氷の可能性はあります。マスコミなどで鉄道 の専門家が「降雪量の規定値を見直すべき」と コメントしていますが、この コメントも適切で はありません。鉄道会社は考え方を根本的に変える必要があります。

 

Q: そういえる根拠は何ですか?

 

A: 例えば、航空機でも地上で駐機中に主翼面などに着氷するという深刻な安全問題があります。離 陸前にエチレングリコールなどの除氷液で除氷する必要がありますが、その際の作業基準が ICAO の防除氷 マニュアルに規定されています。防除氷を開始する要件には降雪量は含まれていません。つまり、 ICAO は降雪量が機体の着氷と科学的な相関関係があるとは考えていないといえます。

 

図.3 ICAO の防除氷作業マニュアル

 

Q: 降雪量が着氷と関係がないとすれば、何が関係するとされているのですか?

 

A: ICAO の防除氷作業マニュアルでは、①気温、②湿度、③雪、霜、霧、雨などの気象現象、④着氷面の 温度、⑤風の方向と強さ、などが着氷に影響するとされています。状況の組み合わせによって は、氷点よりかなり高い気温でも着氷することがあると書かれています。

 

Q: 航空機の防除氷作業の開始と完了はどのように決定されるのですが?

 

A: 航空機の防除氷作業は、一般的に航空会社が地域の専門業者に委託しています。気象状況は空港 当局が空港に近い場所でリアルタイムで観測しています。気象庁の予報によるわけではありません。ボ ーイングやエアバスなどの航空機メーカーが ICAO の防除氷マニュアルを参考にして防除氷作業のマニュアルを作成し て航空会社に提供しています。各航空会社はそのマニュアルを参考にして独自のマニュアルを作成して、航 空当局の承認を得ています。航空機を安全に離陸させることをディスパッチといいますが、その権限 と責任は機長にあります。機長は整備確認者(Completer)を通じて防除氷作業業者の意見を聞 きながら決定します。機長と整備確認者は、それぞれ運航マニュアルと整備マニュアルに記載された防除氷 作業の詳細を学んで国家資格を取得しています。近年の航空界では、防除氷作業の有効時間 (Holdover Time)が重要であることに気づいて厳しく規定しています。

 

Q: 鉄道技術者が ICAO の防除氷作業マニュアルの規定を参照するのは難しいのではないですか?

 

A: そうでもありません。民間の国際標準化組織である ISO(International Organization for Standardization)が同様の防除氷作業に関する基準を規定しています。鉄道技術者は何時でも ISO の規定を参照することができます。

 

Q: JR や私鉄などの鉄道会社が国際的にもよく知られている ISO の規定を遵守しないことがあるので しょうか?

 

A: 弊社は、JR のいくつかの会社の経営トップと交流させていただいたことがあります。その際、航空 界の技術と経験や国際的な基準を参考にしていただくよう進言したことがあります。ですが、残 念ながらほとんど聞き入れていただけませんでした。

 

Q: 聞き入れていただけない要因は何だと思いますか?

 

A: 概ね2つあると思います。①島国であるわが国の鉄道技術者は国際的な航空と違って独自に技術 を発展させてきた側面があるために、よい意味でも悪い意味でも自信とプライドをもち過ぎてい る、②わが国の鉄道会社の事業効率と採算性が思わしくないために、鉄道会社が採算性のよいサー ビス事業や不動産事業に力を入れて本業の鉄道事業を疎かにしている、などです。最近の JR 東日 本の非鉄道事業の売り上げは5割を超えています。因みに、JAL が会社更生法を適用された際に は非航空事業のほどんどから撤退を余儀なくされました。

 

Q: 今後、どうすればよいと思いますか?

 

A: 先ずは、今般の社会的混乱の責任を痛感して、根本的な原因を科学的に分析すべきです。JR 西日 本や鉄道の専門家は「8センチという積雪量の規定を見直す」などというコメントに留めていますが、 この考えは科学的に論理性があるとはいえません。鉄道関係者は、広い視野と深い洞察力による トップダウン思考に意識を変革する必要があります。そうしなければ、次は社会的混乱だけでなく鉄 道事故をまねくことにもなりかねません。 

 

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2023/01/24

HuFac Solutions, Inc.

中国が民間航空機を開発

2023-01-24   

Q: どういうことですか?
A: 2023 年1月9日、中国の航空機メーカーである中国商用飛機(COMAC)が初の国産大型旅客機 C919 の 初号機を航空会社大手の中国東方航空(China Eastern)に引き渡しました。約 15 年間にわたる 開発が完了したことになります。中国メディアによると、中国東方航空は今後 C919 の運航現場での 確認作業を進めて、2023 年春にも実運航を始めるとのことです。COMAC は、2016 年に座席数 78 ~90 席のリージョナルジェット機 ARJ21 を国内都市間の運航に投入しています。C919 は 158~192 席と一 回り以上大きく、旅客需要がより大きな路線での運航が見込まれています。C919 の開発は、中国 共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会が 2007 年に正式承認してスタートした国家プロジェク トです。欧米メーカーがほぼ独占する民間航空機市場に楔を打ち込むための戦略機ですが、現時点で は国外での安全認証を取得できておらず、当面は主に国内向けに生産していくことになるようで す。新型コロナウィルスの流行後に厳しい感染対策を敷いた中国では、旅客市場の低迷が続いて中国東 方航空など大手航空会社も財務に打撃を受けていました。習近平(シー・ジンピン)指導部は足元で 移動制限などを大幅に緩和していて、旅行や出張需要の回復に期待しています。  

 

図.1 COMAC が開発した C919 

 

Q: C919 は ARJ21 とどこが違うのですか?

 

A: 一般的には、ARJ21 はリージョナルジェット機とよばれる中型旅客機で、C919 はボーイング 737 やエアバス A320 と同じような本格的な大型旅客機と説明されています。ですが、この説明は専門的ではありませ ん。専門的には、ARJ21 は米国 FAA の航空規則や欧州 EASA の航空規則の Part 135 で承認されるべ き航空機で、C919 は Part 121 で承認されるべき航空機です。「承認されるべき」と表現している のは、両機ともまだ FAA や EASA の型式証明(TC: Type Certificate)を取得できていないからで す。Part 121 の安全規則は Part 135 のそれよりさらに厳しくなっています。

 

Q: 中国は「欧米メーカーがほぼ独占する民間航空機市場に楔を打ち込みたい」と思っているようです が、どんな国家戦略をもっているのですか?

 

A: 中国は、スポーツの分野ですでに欧米を凌駕していて、政治や経済、軍事、宇宙開発、IT 技術など の分野でも欧米に迫っています。ですが、中国がどうしても欧米を越えられない分野がありま す。それが、世界に信頼される本格的な民間航空機を製造することです。本格的な民間航空機と して世界に信頼されるには、現実には FAA や EASA の型式証明を取得できなければなりません。 現在、そのような民間航空機を製造できるのは米国のボーイングと欧州のエアバスに限られています。 ロシアや中国も民間航空機を製造していますが、FAA や EASA の型式証明を取得できていません。そ のために、ロシアや中国の民間航空機は世界市場でほとんど普及していません。両国とも主に自国 内で運航しています。中国は、世界に信頼される民間航空機を製造できなければ真の先進国とは いえないことに気づき始めています。今や、本格的な民間航空機を製造することは中国の「国家 的な夢(National Dream)」になっているといっても過言ではありません。

 

Q: FAA や EASA の型式証明を取得するには何が必要なのでしょうか?

 

A: あまり知られていませんが、FAA や EASA の型式証明を取得するにはトップダウン思考ができる優秀な 技術者が多数いなければなりません。民間航空機は、人類最高の叡智による創造物といえるから です。さまざまな要素技術を集めた高度で複雑なシステムですが、製造にはそれぞれの要素技術を効 果的に統合(integrate)できる、広い視野と深い洞察力が必要になります。それを可能にする のがまさにトップダウン思考です。FAA や EASA は、民間航空機に型式証明を付与する際にトップダウン思 考で設計されているかどうかを審査します。

 

Q: 「トップダウン思考で設計されているかどうか」というのは、具体的にどういうことですか?

 

A: 民間航空機のような高度で複雑なシステムは、生半可な知識や技術では製造できません。ヒューマンファクター (Human Factors)でいう「4P の原則(4P’s Principle)」に則った体系的な考え方が必要にな ります。4P とは、Philosophy(理念)- Policy(方針)- Procedure(規則)- Practice(実 践)のことです。4P の原則とは、「これらを高位のレベルから低位のレベルに向けてすべて首尾一貫 させること」です。トップダウン思考の語源は、高位のレベルを優先させる 4P の原則にあるともいえ ます。逆に、「4P の原則に則らない非論理的で非効率な考え方」がボトムアップ思考です。民間航空 機がトップダウン思考で製造されているかどうかは、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部の考え方 を審査すればすぐにわかります。

 

図.2 4P の原則 

 

Q: FAA や EASA は、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部の考え方をどのように審査するのですか?

 

A: FAA や EASA には、型式証明の審査に際して意見を聴く外部諮問委員会があります。諮問委員会 は、シカゴ条約付属書(ICAO Annex 1~18)の規定に精通した航空業界のさまざまな組織や団体か らの代表で構成されます。FAA や EASA の審査担当者は、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部と の面接を行って、トップダウン思考で民間航空機の製造を指揮できる能力と資質があるかどうかを見 極めます。結果は諮問委員会に報告され、委員たちにより大所高所に立った審査が行なわれま す。審査に係わった委員や審査内容の詳細は公にはされません。

 

Q: 型式証明の審査の結果は、製造国の航空機メーカーや航空当局にどのように通知されるのですか?

 

A: 明文化はされていませんが、一般の試験や審査と違って不合格通知はされません。審査に合格し た時にのみ報告されます。審査に合格できる見込みがない場合には、製造国の航空機メーカーや航空 当局は時機をみて取得を断念して経費を節減する必要があるようです。

 

Q: 中国は C919 の型式証明を EASA に申請しているそうですが、取得できる見込みはありますか?

 

A: 中国が EASA に申請しているのは、C919 がエアバスの A320neo を意識して設計されているからだと思 います。C919 はボーイングの 737MAX とは違って、操縦システムに A320neo と同じようなサイドスティック (Sidestick)を採用しています。欧州連合(EU)が経済の面で中国に友好的であることも理由 の1つかも知れません。ただし、C919 が EASA の型式証明を取得するには越えにくい高いハードルが あります。

 

Q: 高いハードルとはどういうものですか?

 

A: FAA と EASA が型式証明の付与に関して相互承認協定(Harmonization)を結んでいるということ です。かつては、ボーイング機が操縦棹と操縦輪を採用しているのに対してエアバス機がサイドスティックを 採用するなど、FAA と EASA の間では航空機の設計方針に関する抜き差しならない対立がありまし た。そのため、米国の航空会社がエアバス機を運航できないなどという経済的な弊害を生んでいま した。FAA と EASA が技術的な対立を棚上げにして政治的に妥協したのが相互承認協定です。この 協定により、EASA は FAA の承諾なしに単独で C919 に型式証明を付与しにくくなっています。

 

Q: FAA が C919 の型式証明を審査するとすれば、どのように審査するのですか?

 

A: 4P の原則に則って、最初に中国の航空機メーカーや航空当局の幹部の Philosophy(理念)を審査す ると思います。ここでいう Philosophy とは、幹部が民間航空機の乗客や乗員、ひいては地上の 住民の生命の保護を重視する理念をもっているかということです。第二次世界大戦直後に国連の 設立とほぼ同時に制定されたシカゴ条約の付属書(ICAO Annex 1~18)は、このような Philosophy にもとづいて制定されています。FAA の外部諮問委員会が型式証明の審査に際して中国の航空機メ ーカーや航空当局の幹部の Philosophy を重視することはいうまでもありません。

 

Q: 第二次世界大戦の戦勝国でもあり国連の安保理の常任理事国でもある中国が、シカゴ条約の底流と なっている Philosophy を理解していないことがあるのでしょうか?

 

A: 安保理の常任理事国がシカゴ条約の Philosophy を理解しているとは限りません。このことは中国 自身が十分にわかっていると思います。中国のリージョナルジェットである ARJ21 が FAA の型式証明を取 得できていないことも、中国は納得していると思います。同じように、安保理の常任理事国であ るロシアの民間航空機も、これまで FAA の型式証明の対象になったことがありません。中国やロシアが 完全な民主主義ではなく専制主義に近い体制であることとも、けっして無関係とはいえません。

 

Q: 次の、Policy(方針)についてはどうでしょうか?

 

A: ICAO Annex 1~18 では、「技術中心の考え(Technology-centered Concept )」ではなく「人間 中心の考え(Human-centered Concept )」を優先する方針が貫かれています。かつてボーイングが 777 の型式証明を取得する際に、NASA のヒューマンファクターの専門家が「人間中心の設計」になっていな いことを指摘したことがあります。ボーイングは 777 の設計の全面変更を余儀なくされました。 C919 は「技術中心の設計」であるエアバス A320neo の模倣とも揶揄されています。C919 が「人間中 心の設計」であるかどうかは、ICAO や FAA が大いに関心をもっていると思います。

 

Q: Procedure(規則)についてはどうですか?

 

A: 中国はこれまで、エアバス機やダグラス機の下請け製造や JAL と ANA との合弁整備会社の設立を経験 しています。これらの経験を通じて、欧米の民間航空機の設計図面や製造工程、材料に関する情 報を入手しているはずです。これらの情報でエアショーに出展できる程度の民間航空機を製造するこ とは可能ですが、長い期間の運航に耐える安全で持続可能な機体を製造できるとは限りません。 FAA は、中国が ICAO Annex に準拠した航空法を制定しているかどうかを審査すると思います。

 

Q: 最後の、Practice(実践)についてはどうですか?

 

A: 安全で持続可能な民間航空機を製造するには、航空機メーカーと航空当局が民間航空機の運航方式や 整備方式、品質管理方式、要員の訓練方式についても十分な経験と知識をもっていなければなり ません。加えて、航空会社に対する航空機メーカーの支援体制も必要です。中国がこの分野で実力が あるかどうかは未知数です。FAA はこの分野でも厳しく審査するはずです。

 

Q: その他、中国に関して特筆すべきことはありませんか?

 

A: あります。我々が目にする視野の範囲で中国を侮ることは決してできないということです。現在 の中国は、ICAO 事務局長という ICAO のトップの職責に女性職員を派遣しています。これは、中国 がシカゴ条約の理念を理解して世界の航空界をリードしたいという意欲の現われとも考えられます。 それに、ボーイング 737MAX がたて続けに 2 件の墜落事故を起こした際にも、中国は世界に先駆けて 737MAX の耐空性(Airworthiness)の欠如を指摘しました。その後、FAA は 737MAX を運航停止せ ざるを得なくなりました。私見ですが、中国が民間航空機を製造して世界をリードできる真の先進 国になるには、トップダウン思考を極めなければならないと思っています。なぜなら、トップダウン思考 は「究極の民主主義の理念」といえるからです。その時は中国が専制主義から民主主義の国に脱 皮する時であり、平和を望む世界が期待していると思います。

 

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2023/01/19

HuFac Solutions, Inc.

マイクロソフトCEOの記者会見

2023-01-19   (2016-12-10作成)

Q: 読者の方から貴重な情報が寄せられたそうですね?

 

A: 先日、この安全情報で、弊社代表が安全工学会で「人間中心の自動化」に関する講演をするとい うお知らせをさせていただきました。その関連と思われますが、航空界で永年活躍された方から 下記のような情報をいただきました。先ずはそのまま紹介させていただきます。

 

 

 今日の日経のインターネット情報で、添付の記事が出ていました。マイクロソフトは、最近の、特に自動運転車 の開発に対して、社会的な責任を前もって表明する必要を感じたと思っています。グーグルは自動 運転車の実験で事故を起こしましたが、「やられた」と感じているのではと想像しています。日経 のインターネット情報のコピーを添付します。

 

Q: 日経のインターネット情報とはどういうものですか?

 

A: 下記にそのまま紹介させていただきます。

 

 

 人間中心の AI めざす 「代替」より「能力拡張」

米マイクロソフト CEO に聞く2016/11/29 付

 人工知能(AI)の開発レースで先頭集団の一角を占める米マイクロソフトが今夏に公表した独自の開発原則 が注目されている。人間の「置き換え」ではなく「能力の拡張」を目指す立場を鮮明にし、開発 企業としての説明責任の明確化やプライバシーの保護、偏見の排除などを掲げた。狙いや課題は何か。 英紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)との共同インタビューに応じたサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)に聞いた。 

 

図.1 マイクロソフトのナデラ CEO

 

なぜ開発原則を作り、公表したのですか。

 

「AI の開発を進めるにあたり、北極星のように動かない原則た。AI はパソコンや携 帯電話、インターネットに匹敵する『ネクスト・ビッグ・シング』だ。すべての人々、あらゆる産業を大きく変え る力がある。だが、社内には技術や応用例に関する資料はあっても、AI をどうとらえるべきかと いった高い次元で書かれたものがなかった。我々が AI を巡るすべての課題の答えを知っているわ けではもちろんないが、議論のきっかけになればと思い、公表した」

 

AI で何を目指しますか。

 

「AI の研究者は人間の『置き換え』を目指すのか、それとも『能力の拡張』を目指すのかを選択 しなければならない。我々は後者にすべてを懸ける。能力を拡張するといっても、あらゆるシステム を動かすのにいちいち人間が関わるという意味ではない。自律型のシステムは今後ますます増えてい く。人間の幸福とは何かを考え、その増進に役立つ『人間中心』の発想を核に設計するという意 味だ」

「重要なのは人間が必要と判断すれば、いつでもシステムを止められるようにすること。予想外のトラ ブルにも対応できるように、AI がどのような仕組みで動くのかを把握することも大切だ」

 

― 「人間中心」というと聞こえはいいですが、テクノロジーが得意なのは自動化。つまり、機械によ る人間の置き換えです。顧客が AI を導入するのもコスト削減が目的ではないですか。

 

図.2 マイクロソフトの AI 開発項目 

 

 「ある仕事が機械に置き換わり、コストが削減された場合、そこには余剰が生まれる。1つの解決策 はその余剰に課税し、最低収入保障として再配分する方法がある。一方で、新たに生まれる仕事や、 機械には簡単には置き換えられない仕事もある。医療の世界でいえば、“医師”の仕事は自動化で きたとしても、看護師や介護福祉士などは人が足りない。AI が普及した社会で一番希少になるの は、他者に共感する力を持つ人間だ」

 

「いつの時代も、新技術が登場すると雇用への影響が議論されてきた。今回は 2 つの点でこれまで と違う。1つは対象がホワイトカラーであること。もう1つは変化が次の世代ではなく、いまの世代が現 役の間に起きることだ。どの国も企業も抽象論ではない雇用対策や職業訓練の議論を今から始める 必要がある」

 

― IT(情報技術)業界だけで解決できない課題も多いです。

 

Q: この記事の背景をどう読みますか?

 

A: トップダウン思考で大局的に考えなければ、この記事の背景を的確に読めないと思います。従来から のボトムアップ思考で考えると、グーグルやテスラモーター、わが国の自動車メーカーが推進している技術中心の自 動運転の実験車が死亡事故を含むいくつかの事故を起こしていることから、マイクロソフトは今後の AI の開発方針を変更すると言っているとも解釈できます。その解釈は必ずしも間違っていませんが、 トップダウン思考で考えれば、もっと大きな背景が浮かび上がってきます。 

 

図.2 グーグルの自動運転実験車の事故

 

Q: ナデラ CEO は「人間中心の発想」という言葉を使い、「社内には技術や応用例に関する資料はあって も、AI をどうとらえるべきかといった高い次元で書かれたものがなかった」と述べていますが、 マイクロソフトにはこれまで「人間中心の自動化」の発想がなかったのでしょうか?

 

A: ナデラ CEO は記者会見でそのように述べたのかも知れませんが、それには謙遜の気持ちも含まれて いると思われます。彼は、欧米の報道機関を前にした別の記者会見の場で、「人間中心の自動化」 の原則の歴史を詳しく説明しています。その説明を披露する前に、ナデラ CEO が発表した「マイクロソフ トの AI 開発 10 原則」を原文のまま下記に引用することにします。これは、航空のヒューマンファクターの分 野ですでに広まっている「人間中心の自動化」の原則そのものといえます。 

 

 

・ AI must be designed to assist humanity.

・ AI must be transparent.

・ AI must maximize efficiencies without destroying the dignity of people.

・ AI must be designed for intelligent privacy.

・ AI needs algorithmic accountability so humans can undo unintended harm.

・ AI must guard against bias.

・ It’s critical for humans to have empathy.

・ It’s critical for humans to have education.

・ The need for human creativity won’t change.

・ A human has to be ultimately accountable for the outcome of a computer-generated diagnosis or decision

 

Q: 「人間中心の自動化」の原則の歴史は古いのですか?

 

A: 少なくとも 1990 年代には、ヒューマンファクターや AI の研究者の有志が熱心に議論していました。彼等は、 それまでに推進されていた「技術中心の自動化」に疑念を抱いていました。マイクロソフトの創始者であ るビル・ゲイツやアップルの中興の祖であるスティーブ・ジョブズもその一員か、少なくともその影響を受けて いるはずです。

 

 ビル・ゲイツは、インド系の研究者とも協力して、「ウィンドウズ(Windows)」というヒューマン ファクターの原則に合った OS(Operating System)を開発して、マイクロソフトを世界的な大企業に押し上げ ました。ウィンドウズは「人間中心の自動化」を実現したコンピュータと人間のインタフェースといえます。スティー ブ・ジョブズは、生前に自ら語っていますが、ヒューマンファクターの専門家です。考え方の違いで一度はアッ プルを追放されましたが、再び戻って「i-phone」という「人間中心の自動化」の原則に合ったモバ イル端末を開発しました。つまりは、ナデラ CEO はこういった先人の方針に沿って「人間中心の自動 化」の必要性を世界に訴えたとみることもできます。

 このように、「人間中心の自動化」の企業化 で大成功をおさめた企業もありますが、産業界の多くは頑なに「技術中心の自動化」に邁進して います。現在、自動車の自動運転を推進しているグーグルやテスラモーター、わが国の自動車メーカーも、その 部類に入っているといえます。

 

Q: これまで、ヒューマンファクターは事故や災害の防止といったリスクマネージメントに役立つだけのものと思っていま したが、それだけではないのですね?

 

A: 産業界の技術者や経営者がヒューマンファクターの定義や原則をよく理解できないから、ヒューマンファクターの活動 に消極的なのだと思います。理解できないことには関わりたくないというのは、人間の悪い性癖 の一つです。プライドが高い技術者や経営者は特にその傾向が強いようです。

 

Q: わが国の政府は自動車の自動運転を成長戦略の一つに掲げていますが、これは間違いなのです か?

 

A: 弊社は、これまで一貫して現在の「技術中心の自動化」による自動車の自動運転を否定してきま した。ロボティックスなどの AI の推進も同じです。政府が推進すべき真の成長戦略は、「技術中心の自 動化」ではなく「人間中心の自動化」といえます。米国社会や世界も、今般のマイクロソフト CEO の発言 でやっと気づかされるのではないかと思っています。

 

Q: ところで、「人間中心の自動化」の原則は、なぜ実践されてこなかったのですか?

 

A: 原則の記述が抽象的でわかりにくいために、技術者が現実のシステム設計に反映できないからだと思 います。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはそれを克服して企業化に成功しました。彼等と一般の技術 者との違いは、「技術中心の自動化」から脱却できるかどうかだと思います。

 

Q: 「技術中心の自動化」から脱却するにはどうすればよいのでしょうか?

 

A: 脳の機能をよく理解して、人間の能力がコンピュータにはるかに優ることを知ることから始まります。 そうすれば、「技術中心の自動化」が如何に理に適わない自動化であるかがわかります。現代社会 は、あまりにもコンピュータの能力を過信しています。

 

Q: 御社の代表はそのことについて安全工学会で講演したのですか?

 

A: 3 名の講師によるセッションでしたので、1人あたりの講演時間が 30 分と短かく、下記のような航空 界における自動化の動向を話すだけでした。それでも、話の冒頭にマイクロソフト CEO の記者会見の話を しておきました。

 

 

 コンピュータの高性能化と軽量化によって、現代の大型民間航空機は高度に自動化されている。だが、 これまでの自動化は技術中心の自動化(Technology-centered Automation)であるために、パイロ ットとのインタフェースにおいてさまざまな安全問題を惹起している。理由は、技術中心の自動化がパイロッ トを自動制御のループの外に置いているために、パイロットの脳が不活性化して新たなエラーが生まれてい るためである。世界の航空界のヒューマンファクターの専門家は以前からこの問題に気づいており、対策と して人間中心の自動化(Human-centered Automation)への転換を提唱している。しかし、その概 念がまだ抽象的にしか示されていないために、現実の航空機設計には十分に反映されていないと いえる。本稿では、脳の潜在意識にまで踏み込んだ新しいヒューマンファクター(Human Factors)の理論を 展開することにより人間中心の自動化の概念を具体的に解説するとともに自動化設計の指針にも 言及してみたい。この試みは航空機の分野だけでなく他の産業分野の技術者にも参考になるはず である。

 

Q: 安全工学会での皆さんの反応はどうだったのですか?

 

A: 極端な言いかたをすれば、わが国の研究者や技術者のほとんどが、エラーをする人間を自動化でコンピ ュータに置き換えれば安全になると考えています。つまりは、「技術中心の自動化」しか視野に入れ ていないといえます。そのために、弊社の考えに拒否反応があると思っていましたが、皆さんの 評判はそう悪くはありませんでした。さらに議論を深めたいという方もおられますので、今後に 期待しています。

 

Q: 御社は、今後どのように「人間中心の自動化」を世に広めようと考えているのですか?

 

A: とてつもない目標ですので、弊社のような一企業では難しいと思っています。ですが、今般のマイ クロソフト CEO の発言は有力な追い風となります。「人間中心の自動化」を目指そうという企業や団体 が増えれば、弊社が具体的な推進のやり方をアドバイスさせていただきたいと思っています。

 

Q: 「人間中心の自動化」の原則は、システムの自動化だけではなく、他の分野にも応用できるのですか?

 

A: 現代社会では、あらゆる分野で広い意味の自動化がなされています。一例をあげれば、マニュアルで規 定した標準手順による生産の「流れ作業」があります。その中では、作業者によるさまざまなエラ ーで問題が起きて効率が低下しています。わが国の企業は「一人屋台方式」などという工夫で対処 しようとしましたが、理論的な裏づけがないためにうまくいっていないようです。結局は、ISO9001 などのマニュアル主義の管理手法に戻っています。弊社は、すでに企業の生産工程に「人間中心の自動 化」の原則を応用する試みを開始しています。

 

Q: 「人間中心の自動化」でないために起きた事故が実際にあるのですか?

 

A: 事故例をあげれば数限りありません。わかりやすい例をあげれば、福島第一原発の核燃料メルトダウ ンがあります。意外かも知れませんが、原発は「巨大な自動化システム」です。人の手をほとんど借り ずに、主にコンピュータによる自動化システムで電力を生産しています。運転員は主に異常時のために配置 されているという、典型的な「技術中心の自動化」です。福島第一原発の事故では、地震による 全電源喪失で狼狽した運転員が誤って非常用復水器の弁を閉じてメルトダウンが起きました。被害額は とてつもない額にのぼっています。福島第一原発を「人間中心の自動化」にしていれば防げたか も知れないと思うと、やり切れない気持ちになります。原発の再稼働の議論がされていますが、 その前にそのことを冷静に考えてみなければなりません。残念ながら、「人間中心の自動化」の原 則で設計されている原発は、世界に1基も存在しません。自動車の自動運転の延長線にも多くの 深刻な事故が予想されますが、政府や自動車業界が世の中の潮流の変化に早く気づくことを願っ ています。 

 

本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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2023/01/17

HuFac Solutions, Inc.

 イエティ航空 ATR72-500 が墜落

2023-01-17

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 1 月 15 日、ネパールのイエティ航空 YT691 便(ATR72-500))がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終 進入段階で墜落しました。ポカラ国際空港は本年 1 月 1 日に開港しましたが、同便は以前の空港と の間に流れるセティ川の土手に激突して炎上しました。現地の報道によると、パイロットは最初に滑走路 30 への進入を準備した後で滑走路 12 への進入を航空管制に要求したとのことです。同空港の標準 計器到着方式(SIA: Standard Instrument Arrival procedure)によれば、同便は最初に旧空港 に設置されている POK VOR をイニシャル進入位置(Initial Approach Fix (IAF))として 087°の方位 角(Heading)で通過した後に、滑走路 12 に向けて右旋回しなければならないことになっていま す。新空港は旧空港の東南東に位置しています。その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着 陸していました。1 月 12 日の YT677 便(ATR72)だけは、空港の北側を飛んだ後に滑走路 12 に着 陸していました。現時点では、搭乗者 72 名のうち 68 名の死亡が確認されています。

図.1 イエティ航空の事故機と同型機

 

Q: これだけの情報では事故原因を推察するのは難しいと思いますが、何か手掛かりになる情報があ りますか?

 

A: その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着陸していたというのに、YT691 だけが滑走路 30 へ の進入を準備した後で滑走路 12 への進入を要求したという情報が気になります。直前の便も滑走 路 30 に着陸したのですから、風は滑走路 30 の向かい風だったはずです。それなのにあえて追い 風となる滑走路 12 への進入を要求したというのは、大きく回り道して滑走路 30 に着陸する余裕 がなかったからだと推測されます。つまり、パイロットは滑走路の変更を要求した時点ですでに何か 操縦の困難性を認識していて、滑走路 12 にそのまま緊急着陸したかったのだと思います。

 

Q: ところで、滑走路の数字は何を意味するのですか?

 

A: この数字は滑走路の指示標識といいます。航空機の進行方向(離着陸方向)から見た滑走路の方角 を表しています。離着陸時の航空管制とのやりとりなどで使われます。航空機の運航に重要な情報です。例えば、滑走路 12 は真北を 0°とする時計回りの方向(120°)に向けた滑走路を意味し ます。滑走路 12 と滑走路 30 は同じ滑走路で、向きが 180°異なるだけです

 

Q: パイロットはなぜ航空管制に緊急事態を宣言しなかったのでしょうか?

 

A: 推測ですが、当日の YT691 便が置かれていた特殊な状況に関連している気がします。

 

Q: 「特殊な状況」とはどういうことですか?

 

A: 公式には確認されていませんが、当日の YT691 便では年配の女性副機長の機長昇格チェックが行われ ていたという地元消息筋の情報があります。チェックされていた副機長が操縦していたとすれば、原 因不明の操縦の異常を感じても大袈裟に緊急事態を宣言しにくかった可能性があります。副機長 が操縦の異常を審査教官に話していたとしても、プライドが高い審査教官が大袈裟に振舞うことを 躊躇した可能性もあります。副機長が操縦の異常を感じたのは、滑走路の変更を要求した時点よ りそれほど前のことではないと思われます。

 

Q: 航空機が進入時に遭遇する事故としては CFIT(Controlled Flight Into Terrain)がよく知られ ていますが、この事故は CFIT とは考えられないのですか?

 

A: CFIT とは、パイロットの錯視や錯覚といった脳の潜在意識(Subconscious Mind)で起きる事故で す。パイロットが航空管制に明確に滑走路の変更を要求している状況からは、パイロットが潜在意識で行 動していたとは考えられません。CFIT の可能性はないと思われます。

 

Q: 事故原因が CFIT でないとすれば、航空機を墜落させる原因は他に何があるのですか?

 

A: 主翼の失速(Stall)が最も疑われます。主翼を失速させる要因は2つあります。①主翼の空力 形状の異常と②パイロットによる誤操作です。

 

Q: トップダウン思考の事故原因分析では、その先どのように事故原因を絞り込むのですか?

 

A: トップダウン思考とは、事象を広い視野と深い洞察力で考えて問題解決を探ることです。広い視野で ATR 社製の機種に注目してみれば、ATR42 シリーズや ATR72 シリーズはこれまで主翼前縁(Leading Edge) の着氷が原因で何件か失速による墜落事故を起こしていることがわかります。

 

図.2 ATR72 の主翼前縁の着氷

 

Q: ATR42 や ATR72 では、主翼前縁の着氷を防ぐ対策はとられていないのですか? 

 

A: 主翼前縁の除氷ブーツ(Deicer Boots)など、さまざまな防除氷装置が装備されています。除氷ブ ーツは、主翼前縁の着氷をセンサーで感知してエンジンからのニューマティック(高温高圧空気)でゴム製のブーツを 自動的に膨らませることで着氷を除去する装置です。ところが、これまでの米国の国家運輸安全 委員会(NTSB)による事故事故調査で、ATR42 や ATR72 の除氷ブーツが機能不足であることがわか りました。主翼前縁における除氷ブーツの長さが設計時の2倍必要であるとのことです。FAA は直 ちに ATR42 シリーズと ATR72 シリーズに対して耐空性改善命令(AD)を発効して、改修と設計変更を指 示しました。

 

図.3 ATR42 と ATR72 の防除氷装置

 

Q: 事故機では AD の改修が実施されていたのですか?

 

A: 事故機は 2007 年 8 月に登録されて、その後にいくつかの航空会社で転売されています。AD の改 修が実施されていなければ転売はできません。AD の改修は実施されていたと思います。

 

Q: それなら、他に何が事故原因として考えられるのでしょうか?

 

A: 2つ考えられます。①AD の改修内容がまだ不十分であるか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入 れ忘れていた、ということです。②の原因による事故は現実に何件か起きています。

 

Q: 除氷ブーツがうまく機能しなければ、航空機の操縦にどのような影響があるのでしょうか?

 

A: NTSB による過去の類似事故の調査では、「補助翼の逆効き(Aileron Reversal)」という深刻な 操縦不能に陥ると指摘されています。

 

Q: 「補助翼の逆効き」とはどのような操縦不能ですか?

 

A: 補助翼が取り付けられている主翼部分の前縁に着氷があれば、空気の流れが乱れて後方の補助翼 の揚力に影響を及ぼします。極端な場合には、操縦輪(Control Wheel)を回して補助翼を操作 しても機体が思う方向とは逆に旋回するという現象が起きます。

 

Q: 「補助翼の逆効き」が起きると、パイロットはどのような心理になるのですか?

 

A: ヒューマンファクターの専門家はよく知っています。操縦輪を回せば航空機が所望の方向に旋回するという 現象などは、専門的には制御則(Control Law)といわれています。制御則は訓練の成果として パイロットの脳の潜在意識に刷り込まれます。パイロットが緊急時に潜在意識に反して行動することは容 易ではありません。ほとんどの場合、「補助翼の逆効き」が起きるとパイロットはパニックに陥って航 空機を失速させてしまうと考えられています。

 

Q: 報道されている一般人がスマホで撮影した映像では、機体が失速で錐揉み状態(Spin)になってい るようには見えないのですが、これはどういうことですか?

 

A: 通常は、航空機が失速すると錐揉み状態に陥って墜落します。これも推測ですが、パイロットがポカラ の市街地に墜落しないよう必死に努力していたのではないかと思います。人口が密集する市街地 に墜落すれば、地上で甚大な被害がでることになります。弊社が羽田空港の東京都心上空進入ルー トに懸念をもつのも、東京都心で同じような事故が起きる可能性があるからです。

 

Q: パイロットが除氷ブーツのスイッチを入れ忘れたとすれば、乗客が乗る通常便でパイロットがチェックされることと 関連がないのでしょうか?

 

A: 無関係とはいえないと思います。弊社代表が勤務していた JAL でも、パイロットのチェックをしていた DC-8 による通常便で進入時に空港の着陸灯に脚を接触させるという事故がありました。事故の詳 細は、公式の事故調査報告書でも報告されていて秘密ではありません。チェック飛行では、パイロットが 緊張するだけではなく飛行前の点検作業の分担が乱れる可能性もあります。このことがパイロットの エラーを誘引しないとはいえません。

 

Q: チェック飛行にパイロットのエラーを誘引する要因があるのなら、多くの乗客が搭乗する便でなぜ行なわれ るのでしょうか?

 

A: パイロットのチェックは頻繁に行なわれています。最近は一部がシミュレータで行なわれるようになっています が、機長昇格チェックのように路線の習熟度を確認するチェックはシミュレータでは行なえません。チェックだけの ために飛行させることは多大な経費を要します。それだけに、チェック飛行におけるヒューマンファクターの研 究は重要といえます。JAL における事故の調査では、この点は特に勧告されませんでした。

 

Q: ATR72 や ATR42 はわが国でも使われているのですか?

 

A: ATR72 や ATR42 は世界のコミュータ航空業界でも人気のあるリージョナルジェット機の1つです。わが国のコミュー タ航空会社もすでに使っていますし、今後も導入の計画があるようです。それだけに、わが国の航 空界や社会もこの事故に関心をもつ必要があります。 

 

Q: これまでのお話はすべて推測の域を出ないと思いますが、この事故の公式調査は今後どのように 行なわれるのでしょか?

 

A: シカゴ条約の付属書(ICAO Annex 13)に則って、ネパールの航空当局とフランス航空当局が事故調査を主 導します。これまでの経験から、米国の NTSB も協力すると思われます。フランスや米国の当局にはトッ プダウン思考ができる人材が揃っているはずです。これから回収される飛行記録の調査から、これ までのお話とは異なる事故の真因が明らかになる可能性もあります。ですがそうだとしても、こ れまでのお話は今後の航空安全の推進のために決して無駄にはならないと思っています。

 

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2023/01/06

HuFac Solutions, Inc.

 ボトムアップ思考の事故調査

2023-01-06

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2022 年 12 月 15 日、北海道・知床沖で同年 4 月 23 日に起きて乗客乗員 20 人が死亡、6 人が行方 不明となっている知床観光船 KAZU I の事故で、運輸安全委員会(JTSB)は事故調査の経過報告 書を公表しました。報告書は、船の甲板と船底をつなぐハッチ蓋がしっかりと閉まっていなかった ことから揺れによって蓋が開き、高い波を受けた際に海水が船底部分に入り込んだと考えられる としています。船底部分はエンジンが置かれた機関室など 4 つの隔室に分かれていますが、それぞ れを区切る壁に穴が開いていたために海水が船底全体に広がって沈没に至ったと分析していま す。やがてハッチ蓋が外れて客室の窓ガラスが割れたことも、さらに大量の海水が流入した原因と考 えられるとしています。ハッチ蓋がしっかり固定できなった状態だったことについては、事故の 2 日前に行われた救命訓練の際に他の観光船運航業者の社員が認識していたとしています。JTSB は、ハッチ蓋が閉まらないまま出航した原因や改善策を検討する必要があると指摘しています。 

 

図.1 引き揚げられた KAZU I の状況 

 

Q: この経過報告書の内容が「ボトムアップ思考の事故調査」というわけですか?

 

A: そうです。JTSB が事故原因を結論づけた思考過程には著しい論理性の欠如がみられます。事故の 真因は論理的な分析によらねば探れません。そのために、事故調査には論理的なトップダウン思考が 求められます。どうやら、JTSB にはトップダウン思考で事故を分析できる適任の人材がいないようで す。この事故に限らず、JTSB による事故調査はほとんどが非論理的なボトムアップ思考で行なわれて いるように思えてなりません。

 

Q: 経過報告書の結論はどのような点で論理性に欠けているといえるのですか?

 

A: 船を転覆させた船体への浸水の原因を「船の甲板と船底をつなぐハッチ蓋がしっかりと閉まってい なかったため」と結論づけている点です。経過報告書にあるハッチ蓋の損傷状況からトップダウン思考 で分析すれば、「ハッチ蓋は閉められていた」と推定されます。

 

Q: 経過報告書では、ハッチ蓋の損傷状況はどうだったとされているのですか? 

 

A: 経過報告書の 41 ページに、外れて行方不明になったハッチ蓋のヒンジの船体に残された部分の破断面 の写真が掲載されています。破断面の状況から、JTSB はヒンジ部分の破断を「脆性(ぜいせい)破 壊」と分析しています。

 

図.2 ハッチ蓋のヒンジ部分の破断面 

 

Q: 脆性破壊というのはどのような現象ですか?

 

A: 固体材料に力を加えると変形して、加える力を大きくしていくと破壊します。材料の変形には、 力を取り除くと元の形に戻る弾性変形と、力を取り除いても変形したままの形を保つ塑性変形が あります。塑性変形を生じず瞬間的に壊れる現象を脆性破壊(Brittle Fracture)といいます。

 

Q: ヒンジ部分が脆性破壊したという JTSB の分析は納得できるのですか?

 

A: 納得できます。図.2 の破断面は典型的な脆性破壊の様相を呈しています。ですが、脆性破壊の原 因に関する JTSB の分析は納得できません。JTSB は、悪天候下の波浪でハッチ蓋がハッチ蓋煽られてヒン ジ部分のストッパーが何回か打ち付けられたためと考えているようです。

 

Q: JTSB が考えるような原因では脆性破壊は起きないのですか?

 

A: ヒンジ部分はアルミ合金で造られています。ハッチ蓋が波でストッパーまで煽られても、ヒンジ部分にアルミ合金 の弾性限界を瞬間的に超えるほどの大きな力が加わるとは思えません。JTSB が考える原因でヒンジ 部分が壊れたとすれば、破断面に何らかの痕跡が残るはずです。

 

Q: 波浪による力以外に、アルミ合金の弾性限界を瞬間的に超えさせる要因があるのですか?

 

A: JTSB が思いついていない要因が1つあります。それは、船体の内外の圧力差が大きくなることで 起きる爆発に近い現象に因るものです。そのような現象が起きたとすれば、ハッチ蓋は閉められて 部分的にでもロックされていたと考えねばなりません。JTSB が考えるようにハッチ蓋がロックされていな かったのであれば、ヒンジ部分が脆性破壊することはなかったといえます。。

 

Q: JTSB の見解とは真っ向から異なりますが、確信があるのですか?

 

A: 弊社の分析の根拠は、図.2 のヒンジ部分の破断面だけではありません。経過報告書の全体をトップダ ウン思考で俯瞰すれば、さまざまな根拠からハッチ蓋が閉められていたと考えざるを得ないことがわ かります。残念ながら、紙面の都合ですべての根拠を挙げることはできません。

 

Q: ヒントとして、大きな圧力差というのはどの程度か教えていただけませんか?

 

A: アルミ合金の弾性限界を瞬間的に超えさせるのですから、かなり大きな圧力差といえます。数値で いえば、何十気圧というレベルです。ここまでお話すると、勘の鋭い読者の方は大きな圧力差の要 因が何かイメージできるはずです。

 

Q: JTSB の分析と違ってハッチ蓋がしっかりと閉められていたとなると、海水はどのような経路で船体 に浸入したのですか?

 

A: 船底の外板破損部分からの浸水と考えざるを得ません。経過報告書では、図.3 に示す 7 箇所で船 底の外板破損が認められたとされています。JTSB は、上からの注水試験でいずれの破損も船体内 部に通じていないことを確認して、外板破損部分からの浸水はなかったをしています。

 

図.3 船底の外板破損箇所

 

Q: JTSB の分析に納得できるのですか?

 

A: 納得できません。船体内部に通じていた外板破損が少なくとも1箇所はあるはずです。過去形で 表現しているのは、JTSB の調査の前に船体内部に通じる経路が塞がってしまった可能性があるか らです。実は、トップダウン思考で考えれば図.3 からも船体の内外に大きな圧力差が生じたことがわ かります。理由については、やはり紙面の都合で割愛させていただきます。

 

Q: 「この事故に限らず、これまでの JTSB による事故調査はほとんどが非論理的なボトムアップ思考で 行なわれている」と述べていますが、類似のケースは他にもあるのですか?

 

A: 最近あった例をお話します。2008 年 6 月 23 日、千葉県犬吠埼沖 350 キロの海で福島県いわき市の まき網漁船第 58 寿和丸(135 トン)が転覆・沈没して、3 人が救助されたものの 4 人が死亡、13 が 行方不明になった海難事故があります。JTSB は事故の 3 年後に「波による転覆」と結論しました が、潜水艦衝突説が浮上するなど、関係者は現在でも JTSB の結論に納得していません。

図.4 第 58 寿和丸の海難事故

 

Q: 潜水艦衝突説についてはどう思いますか?

 

A: 事故が起きた海域では、どこかの国の潜水艦が秘密裏に潜航していた可能性も否定できません。 ですが、潜水艦を保有するほどの国が悲惨な死亡事故を黙秘しているとは考えられません。

 

Q: 関係者が JTSB の結論に納得しないのはどのような理由からですか?

 

A: いくつかあります。① 波が原因なら海水が甲板に溢れるはずですが、生存者はそのような事実 はなかったと証言している、② 生存者は事故直後に大量の燃油が水面に漂っていて泳ぎずらか ったと証言している、③ 事故当時に波はあったが、船を転覆させる三角波は認められていな い、④ 船は波の進行方向とは逆に傾いて転覆している、⑤ 生存者は事故時に構造物が壊れる音 を聞いたと証言している、などです。

 

Q: JTSB が関係者や社会を納得させる結論を出せない現実をどう思いますか?

 

A: 国連の国際民間航空機関(ICAO)は、事故防止マニュアル(Accident Prevention Manual)の中で、「政 府や航空会社は事故調査や安全管理の部署にトップダウン思考ができる優秀な人材を配置すべき」と 規定しています。トップダウン思考ができる人材しか責任追及を避けて再発防止を優先させる事故調 査や安全管理ができないからです。トップダウン思考ができる人材なら、KAZU I や第 58 寿和丸の事故 の原因が船底の外板の破損であることに気づくはずです。ICAO の事故防止マニュアルと同様のマニュアルは、 船舶の分野でも国連の IMO が発効しています。結局のところ、わが国の JTSB は国際標準(Global Standard)のレベルの事故調査をできていないといえます。JTSB が第 58 寿和丸の事故をトップダウン思 考で調査できていれば、KAZU I の事故を防止できたと残念に思えてなりません。

 

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ボトムアップ思考の事故調査
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2022/12/12

HuFac Solutions, Inc.

 増え始めた理解者

2022-12-12

 

Q: 表題はどういうことですですか?

 

A: 弊社は 2006 年に設立以来、一貫して「トップダウン思考の問題解決」を社会に提唱してきました。そ の理由は、弊社代表が JAL に在籍時に、トップダウン思考で判断できていれば JAL 御巣鷹山事故など のわが国における航空機事故の多くを防止できたという思いに至ったからです。その後、トップダウ ン思考は国家間の紛争やウィルス感染問題、憲法改正に代表されるわが国の安全保障、統一教会などの 宗教問題、地球温暖化問題などといった社会的難問の解決にも必要不可欠であることに気づきま した。そのためにヒューファク安全情報を発信してトップダウン思考の重要性を解説してきましたが、現実 には思うように理解されていません。現在、世界の科学技術者は量子コンピュータによる人工知能(AI) を社会的難問の解決に役立てようとしています。ですが、スーパーコンピュータにも優る量子コンピュータでさ えエラーが不可避であることに気づき、エラー許容ロジック(Error-tolerant Logic)の開発に躍起になっ ています。トップダウン思考とは、人間がエラーと共存して「安全で豊かに、生きがいをもって」生きて いくための人類最高の知恵といえます。人類がトップダウン思考を理解して判断、行動できれば、社会 的難問を解決するうえで量子コンピュータの開発を待つよりはるかに現実的であると考えています。最 近になって、このような弊社の考えに関心をもってトップダウン思考を真剣に理解したいと願う方々 が増えてきました。これらの方々は、弊社にトップダウン思考のさらなるわかりやすい解説を期待し ています。そこで今回は、多くの人々にとって身近な事例を引用することで、トップダウン思考とボト ムアップ思考の違いをよりわかりやすく解説してみたいと思います。蛇足ですが、トップダウン思考とは わが国の社会で流布されている「上意下達(じょういかたつ)」という意味ではありません。

 

Q: 「トップダウン思考を真剣に理解しようと願う方々」とはどのような人たちですか?

 

A: 読者のお一人から安全情報を転送されて関心をもたれた鈴木昌則氏とお仲間の方々です。鈴木氏 は、最近の安全情報を自身が主催するインターネットのサイト( https://www.it-news-pro.com/ の「安全 情報」)で多くのお仲間に拡散して下さっています。この度、同氏から下記のようなメールをいただき ましたのでご紹介します。なお、同氏のお名前の公表についてはあらかじめ了承を得ています。

 

 

いつも興味深い内容ありがとうございます。いつも「トップダウン思考」とは何かと思い読んでいます が、Google で「トップダウン思考」を検索したら、下記のような記事がありました。

*仕事が遅い人は「ボトムアップ思考」のワナに陥っている。“行き当たりばったり” が遠回りになる 理由。

 

ボトムアップ思考に対して、まず最初にゴールを確認し、そのゴールへ最速で到達するための方法、つま り “最良のルートを策定してから仕事を始める” という思考があります。これが「トップダウン思 考」です。先ほどの「求められている商品案の方向性をまずは上司に確認する」という仕事の進 め方が、こちらに該当します。では、どうしてトップダウン思考は、ボトムアップ思考よりも的確な方法 で、効率的に仕事をこなすことができるのでしょうか。トップダウン思考による問題解決を提案して いる、株式会社ヒューファクソリューションズは、トップダウン思考の必要性を次のように説明しています。 実社会の問題は、学校で習う問題のように「正解が一つだけ必ず存在する」というものとは限り ません。(中略)コンピュータやマニュアルでは代行できない脳の高度な情報処理がトップダウン思考であり、 実社会で必ず必要になる局面があるのです。 (引用元:株式会社ヒューファクソリューションズ|用語の解説-トップダウン思考とボトムアップ思考)

 

Q: 鈴木昌則氏とは、どのような方ですか?

 

A: わが国の某一流企業で活躍された技術者とうかがっています。退職後も情熱を失うことなく、社 内外のお仲間を集って最新の技術や経済に関する情報を社会に広く発信されています。このよう な優秀な方に弊社のトップダウン思考に関心をもっていただき、光栄に思っています。

 

Q: 鈴木氏からのメールの内容をどう思いますか?

 

A: トップダウン思考に関する弊社の考えを的確に理解していただいていると思います。ボトムアップ思考が 手段重視型であるのに対して、トップダウン思考は目的重視型と考えてビジネス活動に活用していただ いても差し支えありません。ですが、以下の「多くの人々にとって身近な事例」による解説を聞 いていただければ、トップダウン思考とボトムアップ思考の違いがさらに深く理解できると思います。

 

Q: 「多くの人々にとって身近な事例」とは、どのような話ですか?

 

A: 空港のチェックインカウンターで見かける、機内持ち込み手荷物(Carry-on Baggage)に関する航空会社担 当者と乗客とのやり取りの1例です。弊社代表が JAL の技術研究所で刊行したヒューマンファクター・ガイド ブックでも、トップダウン思考の説明のために引用しています。

 

図.1 空港のチェックインカウンターでの光景

 

乗客 :長さ 70cm の棒ですが、機内持ち込み手荷物として預けられますか?

担当者 :機内持ち込み手荷物の大きさはタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm と規定されています。 申し訳ありませんが、お預かりできません。

乗客 :それなら、棒をタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm のダンボール箱に入れてもらえば預かって もらえるのではないですか?

 

Q: このやり取りは、「トップダウン思考とボトムアップ思考の違い」とどのような関連があるのですか?

 

A: まず言えることは、この航空会社担当者はトップダウン思考ではなくボトムアップ思考でしか仕事をでき ていないということです。「機内持ち込み手荷物の大きさの上限はタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm」という国際民間航空輸送協会(IATA)の規定や航空会社の運送約款を紋切り型に乗客に伝 えるだけで、乗客に対するサービスについてはあまり配慮していません。

 

Q: 「棒をダンボール箱に入れれば規定をクリアできる」というアイディアを申し出た乗客は、トップダウン思考で 考えているといえないのですか?

 

A: そうとはいえません。なぜなら、機内持ち込み手荷物の大きさの規定ではそのようなアイディアを想 定していないからです。

 

Q: 結局のところ、航空会社担当者と乗客の両方とも、規定の本来の目的を知らないためにトップダウン 思考ではなくボトムアップ思考といえるのですか?

 

A: その通りです。ですが、規定の本来の目的を知らないのは必ずしも航空会社担当者と乗客の責任 とはいえません。なぜなら、わが国の航空界では規定の目的が現場に広く周知されていないから です。規定の目的が周知されていないのは、わが国の航空界にトップダウン思考の人材がいないから といえます。

 

Q: そもそも、「規定の本来の目的」とはどういうものですか?

 

A: 機内持ち込み手荷物に関する規定は、ある航空機事故を契機に厳格化されました。その事故と は、1985 年 8 月 22 日に英国のマンチェスター空港で起きたブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便(ボーイング 737-200)の 火災事故です。 

 

図.2 ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故

 

Q: この火災事故は、どうして機内持ち込み手荷物の厳格化に結びついたのですか?

 

A: 同便は、マンチェスター空港からの離陸滑走中に左側エンジンからの出火で離陸を中止しました。直ちに空 港の駐機場に戻りましたが、その途中でさまざまな失敗が続いて搭乗者をうまく緊急脱出させら れませんでした。搭乗者 137 名中 55 名が死亡しています。死亡者の多くは、火災による火傷で はなく、燃えた機内備品から発生した有毒ガスによる麻痺で脱出できませんでした。脱出を妨げた要因の1つとして、真っ暗な機内で通路に散乱した手荷物が通路の脱出誘導灯を見えにくくし たことが指摘されています。脱出誘導灯は、緊急時に向かうべき脱出ドアの方向を指示できるよ うに設計されています。乗客は、有毒ガスを避けるために低い姿勢で脱出誘導灯を頼りに通路を 這い進まなければなりませんでした。

 

Q: 英国の事故調査では、どのような勧告がされたのですか?

 

A: それまでの世界の航空界は、航空機からの緊急脱出(Emergency Evacuation)に関してあまり現 実感をもっていませんでした。航空機の型式証明を取得する際にはいわゆる「90 秒ルールの証明」 が必要ですが、火災の際の有毒ガスの発生は想定されていません。この事故で衝撃を受けた英国 の事故調査当局(AIB)は、火災時の緊急脱出に関して多くの勧告をしました。その1つに「機 内持ち込み手荷物は、頭上の収納庫に収納するか前席の下に置くこと」という勧告があります。 勧告の目的は、緊急脱出の際に機内持ち込み手荷物を通路に散乱させないことです。

 

図.3 機内持ち込み手荷物の収納場所

 

Q: ここまで聞けば乗客のアイディアもボトムアップ思考であることがわかりますが、そうなのですか?

 

A: その通りです。多くの乗客がこのようなアイディアで棒の機内持ち込みを要求すれば、頭上の収納庫 の容量が不足してしまいます。そうなれば、機内持ち込み手荷物に関する規定の目的が損なわれ てしまいます。つまり、乗客の機転が利いたアイディアもボトムアップ思考ということになります。

 

Q: 結局のところ、どうすることが機内持ち込み手荷物の規定に関するトップダウン思考の対応といえる のですか?

 

A: 規定の本来の目的をよく理解して、目的に沿って対応することです。目的をよく理解するために は、航空当局や航空会社の安全担当者がブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故の事故調査報告書を 丹念に読んで、航空界の現場にわかりやすく解説できなければなりません。

 

Q: わが国の航空界はそれができているといえるのでしょうか?

 

A: 必ずしもそうはいえません。一般の国民が頭上の収納庫に収納できない手荷物を前席の下に置か ねばならない理由を航空関係者に聞いても、ほとんどの航空関係者は「緊急脱出の際に手荷物が 歩行の障害になるから」としか回答できないでしょう。ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故の調 査報告書の内容を的確に一般国民に説明できるトップダウン思考の航空関係者がいないからです。

 

Q: 「わが国の航空界にはトップダウン思考の人材がいない」といえる根拠は、他にもあるのですか?

 

  A: 多々ありますが、空港や機内における対応に「深刻な誤り」があることもその根拠といえます。 それは、① 空港の検査場で液体入りのペットボトルなどを一律に没収していることと、② 機内サービ スで飲み物をコップで提供していることです。①については、海外の空港では早くからペットボトルの 中味の検査器が導入されています。②は、日本人の木目細かいサービス精神によるものと思われま す。例外もありますが、海外の航空会社はペットボトルで乗客に飲み物を提供しています。わが国の 航空界も最近は変わっていますが、①と②に疑問をもつ人はほとんどいませんでした。

 

Q: ①と②がなぜ「深刻な誤り」なのですか?

 

A: ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故を精査すればわかります。生存者の多くは、手持ちのペットボト ルの飲み物を染み込ませたハンカチやタオルを口に当てて有毒ガスを防いでいました。①や②の状況で は、乗客はそれができなくなります。①をやめればサービスが低下するとか、②をやめればハイジャック 対策が疎かになると指摘する人がいるかも知れません。ですが、火災による緊急脱出の際には有 毒ガスを防げるかどうかが生死を分ける分岐点になります。世界の航空界は、航空安全とサービスや ハイジャック対策を両立させる方策を真剣に模索しています。わが国の航空界も、先ずは①と②が 「深刻な誤り」であることを率直に認めて改革を進める必要がありそうです。

 

Q: これまでの解説でトップダウン思考が奥の深い考えであることがわかりましたが、冒頭の「トップダウン 思考は社会的難問の効果的な解決にも必要不可欠である」ということをもう少しわかりやすく説 明していただけませんか?

 

A: ここで挙げた国家間の紛争やウィルス感染問題、憲法改正に代表されるわが国の安全保障問題、統一 教会などの宗教問題、地球温暖化問題などについては国会の予算委員会などで与野党が討議して います。ですが、いずれも国民の誰もが納得できる解決案には至っていません。その理由を考え るには、与党を図.1 の事例の航空会社の担当者に、野党を機転を利かせた乗客にそれぞれ例えれ ばわかりやすいと思います。2つの例で共通しているのは、当事者のどちらもがボトムアップ思考で 臨んでいるためにトップダウン思考の解決ができていないということです。

 

Q: そのことを1例を挙げてわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: 憲法改正問題を例に挙げて説明します。現在、与野党は憲法 9 条の解釈をめぐって対立していま す。法律の専門家である憲法学者でさえ意見が二分しています。概していえば、憲法 9 条は太平 洋戦争の敗戦国であるわが国の武力の行使と戦力の保持を制限しています。一方、憲法 25 条は 国民の基本的人権である生存権を保障しています。政府与党は、この事実をもって自衛のための 先制攻撃が認められるとして、それを明確にするための憲法改正を主張しています。憲法改正が 戦争の抑止効果を発揮するとも主張しています。野党は、先制攻撃が憲法 9 条が禁じる武力の行 使に該当するとして憲法改正に反対しています。憲法改正が国家間の対立を助長するとも主張し ています。双方の主張がともにボトムアップ思考であるために、現在のところ国民が安心して納得で きる結論には至っていません。

 

Q: トップダウン思考で得られる「国民が納得できる結論」とはどういうものですか?

 

A: 結論を先にいえば、現行の日本国憲法を改正する必要はないということです。憲法改正より必要 なことは、憲法の目的をよく理解して正しく運用することです。それには、生存権を保障する憲 法 25 条に準じて刑法 36 条が正当防衛を認めていることに着目する必要があります。被害を受け る立場の者の行為が正当防衛か過剰防衛かについては、すでに司法界で議論されて一定の結論が 得られています。この議論を与野党が対立する先制攻撃の解釈に援用すればよいのです。正当防 衛か過剰防衛かの判断を支援する技術開発が必要になるかも知れません。

 

Q: 理解者が増えれば、トップダウン思考は社会に広まるのでしょうか?

 

A: そう楽観的には考えていません。トップダウン思考を広めるには、これまでのボトムアップ思考の学校教 育を改革することも必要です。それには大変な時間と労力を要します。この解説でトップダウン思考 の理解を深めた鈴木昌則氏とお仲間の方々がその切っ掛けをつくって下さることを願っています。 他にも弊社がトップダウン思考について出版することを提案される方もおられますが、当面は現行の やり方で理解者を増やしていくことに専念したいと思っています。

 

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2022/11/22

HuFac Solutions, Inc.

 航空ショーで空中衝突

2022-11-22

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2022 年 11 月 12 日、米国テキサス州ダラスの空港で航空ショーに参加していた P63 戦闘機と B17 爆撃機が 空中で衝突して墜落しました。連邦航空局(FAA)によりますと、いずれも第二次世界大戦時に製 造された古い機体ということです。退役したパイロットが両機を操縦していました。両機には合わせ て 5 人から 6 人が乗っていた可能性があります。 全員が死亡しました。事故を受けて航空ショーは 中止され、国家運輸安全委員会(NTSB)が事故の原因を詳しく調べています。 

 

図.1 衝突後に空中分解する両機

 

Q: 航空ショーという特殊な状況で、しかも古い機体どうしの空中衝突であるのに、なぜことさらにここ で話題にするのですか?

 

A: この空中衝突の原因は衝突コース症候群(Collision Course Syndrome)という錯覚で、典型的な潜在 意識のエラーといえます。事故時の映像からは、P63 戦闘機が後方から B17 爆撃機に接近して衝突し たことがわかります。NTSB が調査を担当するようですが、衝突コース症候群が原因であることを特定 して的確な対策を勧告できるかどうかは未知数です。潜在意識のエラーというのはそれほど現代の科 学技術でも理解しにくいエラーといえます。NTSB も理解できないのですから、わが国の航空界の科学 技術者はなおさら理解できないといえます。考えてみれば、エラーのほとんどは無意識の領域、つま り脳の潜在意識で起きていることがわかります。空中衝突に限らず、潜在意識のエラーを理解して的 確な対策を立てなければ、事故を確実に防止することはできません。今回はこの空中衝突を題材 にして、わが国の航空界や社会が目指すべき正しい安全管理についてわかりやすく解説してみた いと思います。

 

Q: 衝突コース症候群というのはどのようなエラーですか?

 

A: 図.2 のように、互いに接近する 2 機の航空機の片方あるいは両方のパイロットの脳の潜在意識で起き るエラーです。相手の航空機が近づいていることをパイロットが視認すると、恐怖心で脳の意識レベルが顕 在意識から潜在意識に変って視野が固定してしまいます。いわゆる、「恐怖心による金縛り状態」 です。視野が固定すると、パイロットは相手の航空機を追い続けることしかできなくなります。その結 果、両機は互いに接近して衝突してしまいます。このエラーは、相手の航空機が大きいほど、つまり パイロットが抱く恐怖心が大きいほど顕著になります。誰もが経験するエラーといえます。

 

図.2 衝突コース症候群

 

Q: 脳の意識レベルはどのような状況で顕在意識から潜在意識に変るのですか?

 

A: 脳の情報処理量(ストレス)が多すぎる状況と少なすぎる状況の両方で顕在意識から潜在意識に変り ます。俗にいえば、「忙しすぎても」、「暇すぎても」脳は潜在意識になります。人間の脳は、あ る量の情報量しか処理できないように進化してきたといえます。 

 

図.3 情報処理量と意識レベル

 

Q: 「誰もが経験する」ということは、日常生活でもよく経験するエラーということですか?

 

A: その通りです。狭い道で人と人が行き交う際にも経験します。一方の人がどちらかに避けようと すると、もう一方もそれにつられて同じ方向に動こうとします。子供が遊ぶ「あっち向いてホイ」 というゲームでも、子供は目の前で動かされる指と同じ方向に顔を動かしてしまいます。どちらも 衝突コース症候群によるエラーの実例といえます。

 

Q: 衝突コース症候群の原因は科学的に解明できるのですか?

 

A: 潜在意識の特性を理解できれば解明できます。ですが、現代の科学技術者の多くは潜在意識の特 性を理解できないようです。

 

Q: 一般的に科学技術者は明晰な頭脳の持ち主のはずですが、なぜ潜在意識の特性を理解できないの でしょうか?

 

A: 弊社もその理由がわからず、永年にわたって考え続けてきました。どうやら、潜在意識の特性はボ トムアップ思考では理解できず、トップダウン思考でしか理解できないためのようです。潜在意識の存在 は 19 世紀にオーストリアの精神科医のフロイト(Sigmund Freud)により発見されました。彼は当時のヨーロッ パ社会には理解されず、生涯にわたって迫害され続けました。人類がまだトップダウン思考で考える ことができなかったからだと思います。現代社会でも、トップダウン思考で考えられる人はあまりい ません。現代社会では、デジタル技術や自動化技術の発達で人々の脳が顕在意識でデジタル情報を処理してエラーをする機会が増えています。潜在意識のエラーによる事故を防ぐためには、科学技術者がト ップダウン思考で顕在意識の特性を理解して安全な社会を構築する必要があります。

 

Q: 現代の科学技術者がトップダウン思考で顕在意識の特性を理解できていないといわれても、人々を納 得させるには具体的な実例が必要ではないのですか?

 

A: 具体的な実例はあります。1971年7月30日に岩手県の雫石町上空で起きたANA 58便(ボーイング727- 200)と自衛隊の戦闘機(F-86F)の空中衝突事故です。この事故でも、22歳の自衛隊の訓練生が 操縦するF-86F戦闘機がANAの727-200に後方から接近して衝突しました。今般の空中衝突と状況 が似ています。この事故では事後に事故調査と裁判が行なわれましたが、訓練生が衝突コース症候 群に陥ったことを指摘する科学技術者は誰もいませんでした。航空事故の調査結果は国連のICAO や米国のNTSBにも報告されますが、やはり同じでした。潜在意識のエラーである衝突コース症候群が原 因とわかっていれば、事故調査と裁判の結果はかなり違っていたはずです。わが国の科学技術者 がトップダウン思考で顕在意識の特性を理解できていない証左といえます。

 

図.4  ANA 雫石事故の新聞記事

 

Q: 欧米の航空先進国では、衝突コース症候群についてパイロットに教えているのですか?

 

A: 教えているようです。カナダの航空当局が発刊しているヒューマンファクターの教科書には、衝突コース症候群に 関する説明が掲載されています。ですが、衝突コース症候群が潜在意識のエラーの一種であるというこ とまでは説明されていません。意外かも知れませんが、「潜在意識のエラー」という言葉を用いている のは世界でも弊社だけです。

 

Q: 世界の航空界は航空事故の原因が潜在意識のエラーであることにまだ気づいていないのですか?

 

A: おぼろげながら気づき始めているようです。そのことは、国際航空法ともいわれるシカゴ条約付属 書(ICAO Annex)の全編(Annex 1~Annex 18)の冒頭に「人間の能力と限界(Human Performance and Limitations )を考慮すること」という記述が追加されていることからもわかります。この 記述は、深く考えれば「潜在意識のエラーについても考慮すること」と同じ意味といえます。

 

Q: 世界の航空界では具体的な変化が起きているのですか?

 

A: もちろん起きています。航空安全は航空機のハードウェアとソフトウェアの両面で実現されますが、ハードウェア では「人間中心の設計」、ソフトウェアでは「プロフィッシェンシー(Proficiency)を重視する訓練」という新し い概念が生まれています。

 

Q: 「人間中心の設計」はともかく、「Proficiency を重視する訓練」とはどういう訓練ですか?

 

A: Proficiency は「習熟度」と和訳されますが、これだけではよくわからないと思います。欧米の航空界では、パイロットに望ましい能力をこれまで Competent と称してきました。Competent とは「知識 とスキルを総合的に兼ね備えた能力」という意味で使われてきました。ですが、このような能力だけ では潜在意識のエラーを防げないことがわかってきました。潜在意識のエラーまで防げる能力として注 目され始めているのが Proficiency という新しい概念の能力です。Competent は顕在意識で知識 とスキルを活用して問題解決できる能力ですが、Proficiency は潜在意識でも知識とスキルを活用して 問題解決できる能力です。Proficiency を養成するために開発された訓練方式が Proficiencybased Training で、米国が開発した AQP(Advanced Qualification Program)もこの種の訓練方 式です。パイロット訓練の本来の目的は潜在意識のエラーを克服して航空機事故を防ぐことですので、 Proficiency-based Training は「トップダウン思考の訓練」といえます。これに対して、潜在意識の エラーを克服できない従来の Competent-based Training は「ボトムアップ思考の訓練」といえます。今 や、世界の航空界は AQP のような Proficiency-based Training を目指しています。

 

Q: 世界の航空界の状況はわかりましたが、わが国の航空界はどうなのですか?

 

A: 弊社代表が JAL の技術研究所にいた時に、当時の航空局(JCAB)と航空 3 社(JAL、ANA、JAS)の 技術系首脳陣を前に本格的なヒューマンファクターの導入を進言したことがあります。本格的なヒューマンファクター の内容を具体的に説明するために、ヒューマンファクター・ガイドブックを発刊しました。

 

図.5  JAL のヒューマンファクター・ガイドブック 

 

Q: 技術系首脳陣を前にした進言は理解されたのですか?

 

A: 理解されたかどうかはわかりません。ですが、その後に JAL の内部で組織改革があり、技術研究 所にあったヒューマンファクターの担当部門が本社の総合安全室に移されて全社的なヒューマンファクターの活動を担 当することになりました。わが国の航空界でも、JCAB が航空輸送技術研究センター(ATEC)という外 郭組織を設立してヒューマンファクターの調査研究を開始することになりました。ATEC の活動には、わが国 の航空会社だけでなく航空機メーカーや航空機関連会社も多数参加することになりました。

 

Q: ATEC では、進言通りに本格的なヒューマンファクターが研究されているのですか?

 

A: 物事がそう期待通りに運ぶとは限りません。弊社がいう「本格的なヒューマンファクターの研究」とは、潜在 意識のエラーにまで踏み込んだヒューマンファクターの研究です。かつて潜在意識の存在を発見したフロイトがヨーロッ パで理解されなかったように、潜在意識の概念はわが国の航空界の科学技術者にも理解されませんでした。残念ながら、ATEC では今でも本格的なヒューマンファクターは研究されていません。

 

Q: ATEC が本格的なヒューマンファクターを理解していないといえる根拠はあるのですか?

 

A: あります。前述のように、米国の FAA はこれまでの Competent-based Training に換えて Proficiency-based Training である AQP を開発して世界の航空界に推奨しています。JCAB もこの ことを認識していて、ATEC に AQP に関する調査研究を委託しています。ところが、ATEC は現在も Proficiency-based Training ではなくこれまでの Competent-based Training を研究し続けてい ます。Proficiency-based Training について研究するには潜在意識を理解できなければならない からだと思われます。これでは本来の AQP を理解できているとはいえません。JCAB もそれを容認 しているようです。恐らく、ATEC の研究者は今般の空中衝突の原因を衝突コース症候群と指摘するこ ともできないでしょう。

 

Q: わが国の航空界が AQP のような Proficiency-based Training を正しく導入できねければ、どのよ うな影響があるのでしょうか?

 

A: 潜在意識のエラーは衝突コース症候群だけではありません。先進的なデジタル技術や自動化システムが航空界 に導入されれば、パイロットや整備士、航空管制官などはデジタル情報をうまく処理できずに潜在意識 でエラーをする機会が増えてきます。そうなれば、これまでとは異なる複雑で対処しにくい航空機事 故が増えて、航空界は高度に自動化された先進技術の恩恵を享受できなくなります。このことは、 わが国の国益の逸失にもつながりかねません。

 

Q: 御社のヒューファク訓練も Proficiency-based Training の一種と思われますが、その効果の一端だけで もわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: ヒューファク訓練には潜在意識におけるエラー(錯覚や錯視)を克服できる効果があります。一例を挙げれ ば、潜在意識でぼんやりと見ていれば湾曲してみえる図.6 の平行線が、ヒューファク訓練で直線に見え るようになります。もちろん、衝突コース症候群にも効果があります。

 

図.6 錯視図

 

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2022/10/31

HuFac Solutions, Inc.

 揺れ動く航空界

2022-10-31

Q: 表題はどういうことですですか?
A: 前々政権による経済成長のためのインバウンド旅客増加政策に呼応して、国交省航空局(JCAB)は 2020 年に東京都心上空の進入ルートを開設しました。インバウンド旅客はコロナ禍で減少しましたが、それでも JCAB は新進入ルート活用の方針を変えようとしませんでした。ところがここにきて、JCAB は方針を 大きく変えようとしています。9 月 21 日の日本経済新聞がその状況を淡々と報じています。です がトップダウン思考で考えれば、実態はそれほど単純ではなく航空界が揺れ動いていることがわかり ます。先ずはその記事を下記に紹介することにします。
 
 国土交通省は羽田空港を発着する航空機について、東京湾の上空を通る新たな飛行ルートを設定す る方針だ。2020 年に導入された都心の上空を飛ぶルートは騒音や安全性に関係自治体の懸念があ る。新たな飛行システムを導入して海上からの発着を増やし、陸地の上を通過する航空機を減らす。 都心の騒音問題を和らげ、訪日客受け入れ拡大の体制を整える。海上を飛ぶ新たなルートは 23 年度 中に方針をまとめる。数年内の運用開始を目指す。羽田空港では国際線の発着数を増やすため に、東京湾上空を飛ぶ主力ルートに加え、都心の上を飛ぶ複数ルートの運用を 20 年 3 月に始めた。騒 音の問題が千葉県などに集中するのを避ける狙いもある。
 ただ、騒音や落下物を心配する住民の 声は多い。国交省は羽田の飛行ルールの見直しや飛行システムの改良を進め、海上を通る新ルートを設け る。ドイツなど世界 17 カ国以上が導入している「RNP-AR」の導入などがシステム改良時の候補とな る。航空機を測位衛星からの信号をもとに自動操縦する仕組みで、多数の航空機が円滑に発着で きるようになる。
 22 年度から航空会社と連携して安全性などを検証する。関係者間の調整を経て 23 年夏~秋にもルート設計や運用に関する素案をまとめる。新しい海上ルートの運用開始後は都心の上 空を飛ぶ航空機をできる限り減らし、海上ルートに移していく。政府は首都圏空港の国際競争力を 高めるため、羽田空港と成田空港の機能強化を進めている。20 年時点の年間発着容量は計約 83 万回で、20 年代後半には計 100 万回に増やす。120 万回前後の米ニューヨーク圏や英ロンドン圏に次ぐ規 模になる。 

 

図.1 都心上空の進入ルート 

 

Q: 記事にある RNP-AR とは何ですか?

 

A: Required Navigation Performance−Authorization Required の略で「測位衛星(GPS: Global Positioning Satellite)からの信号をもとに、航空機に搭載されたコンピュータ(FMS: Flight Management System)が自機の位置を把握しながら計算して飛行する、精度の高い曲線経路を含む 進入方式」のことです。図.2 に、従来からの ILS(Instrument Landing System、計器着陸方式) との比較を図示します。ILS が地上装置からの電波を利用するのに対して、RNP-AR は地上装置を 必要としません。因みに、都心上空の進入ルートは ILS だけで運用できます。 

 

 図.2 ILS と RNP-AR の比較

 

Q: RNP-AR は国際的に承認されている進入方式ですか?

 

A: 国際航空法ともいわれるシカゴ条約付属書(ICAO Annex)の Annex 6 (Operation of Aircraft、航 空機の運航方式)で、高度に自動化された進入方式の1つとして承認されています。Annex 6 は、 これら自動化された進入方式を運用するに際して人間の能力と限界(Human Performance and Limitations)を十分に考慮するよう要求しています。

 

図.3 ICAO Annex 6

 

Q: 各国が Annex 6 が承認している高度に自動化された進入方式を導入しているのですか?

 

A: 米国やドイツ、スウェーデンなど 17 カ国が RNP-AR を導入しています。その他の高度に自動化された進入 方式も多くの国が導入しています。わが国も、離着陸数が少ない地方空港で RNP-AR を試験的に導 入しています。 

 

Q: RNP-AR にはどのようなメリットがあるのですか?

 

A: ① 着陸直前の飛行において、経路に沿った精度の高い曲線飛行ができる、② 着陸直前の直線区 間を短くすることが可能であるため、柔軟性の高い経路設定ができる、③ 着陸直前まで計器に より飛行することができるため、着陸のための最低気象条件を低く設定することができ、ある程 度の悪天時にも使用可能、などのメリットがあります。

 

Q: 曲線飛行の進入を可能にするためには、かつてマイクロ波による着陸(MLS: Microwave Landing System)が研究されていましたが、実用化されていないのですか?

 

A: MLSはほとんど実用化されていません。現在はRNP-ARに期待がかけられています。

 

Q: RNP-AR にはディメリットもあるのですか?

 

A: ① 進入方式に対応できない機種が存在する(対応機材の割合:70%程度)、② 経路を飛行するた め、特別な運航許可と乗員訓練を必要とする(運航許可取得・乗員訓練実施率:40%程度)、③ 太 陽フレア(Solar Flare)の影響を受けやすい、④ サイバーテロのリスクがある、などのディメリットがあります。

 

図.4 太陽フレアで乱れる地球の電磁場

 

Q: RNP-AR に対応できない機種とはどのような機種ですか?

 

A: ボーイング機でいえば、767 や 747-400 などの古い FMS を搭載した機種です。エアバス機も、古い A320 以前の機種では RNP-AR を利用できません。

 

Q: RNP-AR を活用すれば南風時にも羽田空港に海側から進入できるのに、JCAB はなぜこれまで地域住 民や海外航空機関の反対を押し切って都心上空の進入ルートを開設したのですか?

 

A: わが国の航空界の事情に関係していると思われます。RNP-AR のディメリット②にあるように、RNP-AR を 安全かつ効率的に運用するにはパイロットの特別な訓練が必要になります。パイロットだけでなく、パイロッ トを支援する航空管制官にも特別な訓練が必要になります。ところが、わが国のパイロットや航空管制 官はこの特別な訓練を受けることに消極的です。JCAB はパイロットや航空管制官に忖度して RNP-AR と いう高度に自動化された進入方式の導入を躊躇したのではないかと思われます。最終の進入コースが 直線である都心上空の進入ルートであれば、RNP-AR を導入しなくても従来からの ILS 進入方式でなん とか着陸できると考えたのでしょう。

 

Q: それなのになぜ、JCAB は今になって RNP-AR を必要とする海側からの進入ルートに変更しようとして いるのでしょうか?

 

A: 都心上空の進入ルートについてトップダウン思考のリスク分析を行なっていなかったことに気づいたからで はないかと思われます。審議会もある程度のリスク分析をしていたとは思いますが、弊社から見れば ボトムアップ思考による甘い分析に思えてなりません。

 

Q: 「トップダウン思考のリスク分析」というのはどういうものですか?

 

A: トップダウン思考では、リスクをリスクファクター(=リスクの発生確率(Provability)×リスクの重大性(Severity)) という指標で評価します。対してボトムアップ思考では、リスクをリスクの発生確率かリスクの重大性のどちら かでしか評価しません。

 

Q: 審議会によるボトムアップ思考のリスク分析が甘かったのはどのような点でしょうか?

 

A: 2つあります。① RNP-AR を必要としない都心上空の進入ルートではリスクの発生確率が小さいと考え たのでしょうが、騒音軽減のために急角度で降下しなければならなくなりました。急角度の降下 では FMS の VNAV(Vertical Navigation)モードが必要になります。VNAV も GPS からの信号が必要 で、太陽フレアやサイバーテロの影響を避けられません。結局のところ、都心上空の進入ルートもリスクの発生確 率はあまり小さくないことに気づきました。② 都心上空の進入ルートで墜落などのリスクがあれば、結 果の重大性はとてつもなく大きくなります。航空機が人口密集地に墜落すれば、何千人もの犠牲 者が出ます。霞が関や永田町に墜落すれば、わが国の国家としての機能が麻痺します。つまり、審 議会によるボトムアップ思考のリスク分析では、都心上空の進入ルートのリスクファクターが正しく評価されていな かったといえます。

 

Q: RNP-AR の運用に必要な特別な訓練とは、どのような訓練ですか?

 

A: RNP-AR は GPS からの信号や FMS のプログラムによる高度に自動化された進入方式です。一般的に、人 間がデジタル装置や自動化システムに関われば、脳の潜在意識(Subconscious Mind)における複雑で多 様なエラーが起きます。潜在意識のエラーは、顕在意識のエラーを防ぐためだけのボトムアップ思考の訓練では 対処できません。エラーをした後の状況認識や問題解決能力、そのためのコミュニケーション能力などが必要 になります。RNP-AR の運用では、そのような能力を養成するトップダウン思考のヒューマンファクター訓練が必 要になります。。米国の FAA や欧州連合の EASA は、パイロットや航空管制官に AQP(Advanced Qualification Program)というトップダウン思考のヒューマンファクター訓練を義務づけています。

 

Q: わが国のパイロットや航空管制官がトップダウン思考のヒューマンファクター訓練に消極的であるという根拠はある のですか?

 

A: あります。都心上空の進入ルートに対して地域の住民団体が反対していますが、この団体を支援して いる機長経験者がいます。JAL でボーイング 747-400 に乗務していた機長で、現在は航空評論家とし ても活躍しています。この機長経験者は、RNP-AR による海側からの進入ルートを「絵に描いた餅」と 評して一蹴しています。RNP-AR などの先進的な自動化システムは航空先進国の技術者が考えた単なる 理想論で、現場のパイロットや航空管制官に押付けるのは無理があるという意味のようです。RNP-AR に必要なトップダウン思考のヒューマンファクター訓練についても、抵抗を感じているようです。わが国の航空管制官も管制協会や操縦士協会などを通じてパイロットと連携していますので、この機長経験者と同 じ考えだと思われます。

 

Q: わが国の航空界ではこれまで、トップダウン思考のヒューマンファクター訓練の必要性を説く努力はなされなか ったのですか?

 

A: 弊社代表が JAL の技術研究所にいた 1995 年に、将来の AQP の義務化を予測して「ヒューマンファクター・ガイ ドブック」を発刊してトップダウン思考のヒューマンファクター訓練の必要性を説いたことがあります。ですが、時 期尚早であったためか、ガイドブックの主旨はほとんど理解されませんでした。前出の機長経験者は JAL 社員の中でもガイドブックに関心をもってくれた1人ですが、残念ながら十分には理解できなか ったようです。

 

図.5 JAL のヒューマンファクター・ガイドブック 

 

Q: わが国の航空界の歴史で、AQP が最初に導入されたトップダウン思考の訓練なのですか?

 

A: 実はそうではありません。JAL が 1970 年に導入したボーイング 747 では、SBO(Specific Behavioral Objectives)というトップダウン思考の訓練が義務化されていました。それまでのダグラス DC-8 やボーイ ング 707 にあった操縦系統の手動バックアップが 747 では廃止されたためです。最後の砦ともいえる手 動バックアップがなくなった 747 では、有事の際にパイロットが臨機応変に問題解決する必要があります。 SBO はボーイングがヒューマンファクター理論を駆使して開発した新しい訓練方式です。FAA は SBO を条件とし て 747 に型式証明(TC: Type Certificate)を付与しました。当時の JAL のパイロットは SBO の導入 に強く反対しました。SBO が合理的な訓練方式であることを理解しなかったからです。その後に開 発された機種でも、新しい訓練方式が次々に開発されました。最近開発される航空機は、ハードウェア だけでなくパイロットの訓練方式や航空管制方式といったソフトウェアを条件として承認されています。パイ ロットの訓練方式などのソフトウェアを無視して航空機を運航してきたわが国の航空界は、今になって RNPAR という大きなソフトウェアの壁に直面して苦悩しているといえます。

 

Q: 状況がこのままで推移すれば、わが国の航空界はどうなるのでしょうか?

 

A: 航空界だけの問題ではなく、わが国の国益にも関連する深刻な問題に発展する恐れがあります。 なぜなら、羽田空港の発着容量を増やすことは単にインバウンド旅客数の増加のためではなく、別の 国家的な目的もあるからです。

 

Q: 「別の国家的な目的」とはどういうことですか?

 

A: 1997 年に香港が英国から中国に返還されましたが、中国は香港に 50 年間の一国二制度を保障する という約束を破りました。ここにきて、中国は香港の支配をますます強めようとしています。米国 など西側諸国は、アジアの金融センターを香港以外のアジアの都市に移さざるを得なくなっています。わ が国の政府は、アジアの金融センターを東京に誘致して経済復興の契機にしようと考えています。その ためには、羽田空港の発着容量を欧米の主要空港と同等に増やす必要があります。日経新聞の記 事には、「羽田空港と成田空港の年間発着容量は約 83 万回で、米ニューヨーク圏や英ロンドン圏のそれは 120 万回前後」と書かれています。これまでの解説でもわかるように、発着容量を増やすには航空管制 官やパイロットを AQP で再訓練して RNP-AR を円滑に導入する必要があります。ところが、RNP-AR の導 入を提案している航空管制の研究者や学者は AQP ついて深くは研究していません。これでは、RNPAR の導入に抵抗するわが国のパイロットや航空管制官を説得することもできません。パイロットや航空管 制官を説得できなければ、東京をアジアの金融センターにすることはできません。わが国の経済大国と しての地位はますます低下していくことになります。

 

Q: 近年になって多くの面でわが国の地位が低下していることとも関連があるのですか?

 

A: その通りです。わが国の地位が低下しているのは、わが国の政府や国民がトップダウン思考で問題を 解決をできないことと無縁ではありません。わが国を取り巻く環境はますます複雑になっていま す。押し寄せるデジタル化や自動化にうまく対処するには、トップダウン思考の問題解決が不可欠です。 弊社は、時代の先を読んで以前から「トップダウン思考の問題解決」を社会に提唱しています。 

 

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揺れ動く航空界
ヒューファク安全情報_22-10-31_揺れ動く航空界.pdf
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2022/09/04

HuFac Solutions, Inc.

 読者からのコメント

2022-09-04

 

Q: どのようなコメントですか?

 

A: 「リニア新幹線のアキレス腱」に関して、読者から下記のようなコメントが寄せられました。この方は大学の 工学部の先輩で、わが国の原子力発電業界で要職に就いておられました。それだけに、コメントには重 みがあります。この場をお借りして、コメントに応えさせていただきます。この方には、忌憚のない意 見を述べさせていただく旨をあらかじめお断りしています。

 

 

 いつもヒューファク安全情報を送信していただき、ありがとうございます。毎回、興味を持って読んで います。私の専門は原子力工学です。最近のヒューファク安全情報に書かれている「リニア新幹線は航空 機の一種と考えるべし」という基本理念に目が覚める思いがしました。そして、リニア新幹線の技 術の問題とともに、もう一つ、「リニア新幹線の設計基準・安全基準・安全性評価基準の策定」が 課題であると痛感しました。航空機は、米国で設計審査を経て製造・検査された機体を購入して います。原子力発電については、設計・製造技術だけでなく、安全設計と安全性評価の方法論・ 手法を体系的に導入しました。リニア新幹線については、日本で安全設計基準、安全性評価基準、 安全性試験基準を策定しなけらばなりません。基準策定は機器・設備の術開発と並行して進めな けらばなりません。開発と並行して基準の策定が進められ、基準案が公開されて、広く一般から のコメントを求め、そして基準が開発に反映されなければなりません。リニア新幹線についても、JR 東 海、研究機関、メーカーが開発を進めるのと並行して、開発の初期段階から設計基準・製造基準・安 全設計基準・安全性評価基準(試験基準も含む)の策定を進めて、基準が設計に反映されるよう にする必要があります。基準策定は誰が行うことになっているのか、作業は進行しているのか。 日本では、この種の仕事は、大学。研究所などの専門家がパートタイムで参加して行われるのが通例 です。しかし、専任のスタッフがフルタイムで従事する体制が必要だと思います。原子力発電分野では、 米国にはそのような体制がありました。航空機では 、FAA が多数の専門家を要する大組織で、 これを行っているのではないでしょうか。日本では官庁は設計基準を策定しません。官庁の仕事 は審査と監督であり、基準を策定する体制がありません。専門家もいません。どの分野でも、企 画・設計・製造にかかわる部門のほかに、第三者の目で安全性‣経済性・将来性を評価する部門 が開発の初期段階からかかわる体制が望ましいと思います。日本のだいたいの組織では開発・設 計が終わった段階で、その成果を評価しているようです。したがって、基準があらかじめ策定さ れていません。

 

Q: 冒頭、「リニア新幹線は航空機の一種と考えるべしという基本理念に目が覚める思いがしました」 というコメントがありますが、どのような感想ですか?

 

A: 突飛とも思える弊社の考えを理解していただけたのは、身に余る光栄です。失礼な言い方かも知 れませんが、この方は流石に原子力の分野で要職に就いておられた技術者です。「リニア新幹線は 航空機の一種」という考えは、鉄道技術者はおろか、航空技術者にも理解できる人が少ないとい えます。その理由は、耐空性(Airworthiness)という概念を理解できないからです。わが国の 航空界では耐空性という言葉が軽々しく使われていますが、本当の意味について真剣に議論され ることはほとんどありません。

 

Q: 「耐空性の本当の意味」とはどういうものですか?

 

A: 耐空性とは、「エネルギーを供給し続けることにより、移動体を重力に抗してバランスよく空間に浮上さ せる能力」を指します。エネルギーを供給できなくなるかバランスを保てなくなれば、移動体は空間に浮 上できなくなります。そうなると、移動体の搭乗者や周囲の人間に危害を及ぼすことがあります。 これが事故です。航空機では、空間に浮上させるエネルギーはエンジンの推力を生み出す化石燃料の燃焼 エネルギーです。リニア鉄道では、超伝導磁石の磁力を生み出す電気エネルギーです。電気エネルギーを供給でき なくなるか、供給できても磁力を生み出せなくなれば事故が起きます。このように考えれば、リニア 鉄道も航空機と同類であることが理解できるはずです。

 

 

Q: リニア新幹線が米国に輸出されれば連邦鉄道局(FRA)に代わって連邦航空局(FAA)がリニア新幹線の 耐空性を審査することになるというのは、そういう理由なのですね?

 

A: その通りです。ボトクアップ思考のわが国の鉄道技術者は気づきませんが、トップダウン思考ができる米 国の国家運輸安全委員会(NTSB)は必ずそのことに気づくはずです。

 

Q: FAA がリニア新幹線の耐空性を審査すれば、合格する可能性はあるのですか?

 

A: 合格する可能性はほとんどありません。これまではクエンチ(Quench)の存在を強調しましたが、も っと決定的な理由があります。

 

Q: 「決定的な理由」とは、何ですか?

 

A: 航空機の耐空性は、乗客を有償搭乗させることを前提に認められます。パイロットがいない航空機で の乗客を有償搭乗はあり得ません。同じように、運転士がいないリモート制御のリニア新幹線では、耐 空性は認められません。リニア新幹線では、磁場が強すぎるために健康上の理由から運転士を乗務 させることができません。結局のところ、安全基準が厳しい米国ではリニア新幹線の運行は実現で きないと思われます。

 

Q: コメントには「航空機は、米国で設計審査を経て製造・検査された機体を購入しています」と書かれ ていますが、どういうことですか?

 

A: この方は、航空機の事情もよくご存知のようです。航空機の設計や製造、運航、整備、訓練の方 式は、故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)と故障モードと影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)というリスク分析を経て決定されます。詳細は、米国の連邦航空規則(FAR)や 欧州連合航空規則(JAR)に記述されています。わが国と米国の間では耐空性の相互承認協定が 締結されています。わが国の航空局(JCAB)は独自に FTA や FMEA を行なうことなく、米国製の 航空機の耐空性を自動承認しています。

 

Q: FTA とはどのような分析ですか?

 

A: わがりやすく言えば、対象となる型式の航空機でどのような重大な故障や事故が起きるかを予測 するための分析です。 Q: FMEA とはどのような分析ですか?

 

A: わがりやすく言えば、対象となる型式の航空機で予測される重大な故障や事故をどのような設計 や製造、運航、整備、訓練の方式で対処すべきかを決めるための分析です。FMEA の結果は、航空 機の設計や製造、運航、整備、訓練のマニュアル類に反映されます。

 

Q: わが国の航空会社は FTA や FMEA の結果を知ることができるのですか?

 

A: まったく知ることができません。FTA や FMEA の結果をまとめた書類は、航空機を航空機メーカーか ら受領する際に立ち会った JCAB の担当者に手渡されます。JCAB がその書類を航空会社に開示す ることはありません。JCAB には開示しない方針がるのようです。弊社代表は JAL に在籍時から疑 問に思っていましたが、理由を聞いたことはありません。わが国の航空会社の技術者の多くは疑 問をもたないだけでなく、FTA や FMEA の存在すら知らないようです。航空会社にとっては、FTA や FMEA の結果は「猫に小判」なのかも知れません。

 

Q: FTA や FMEA は、わが国の国産民間航空機(MRJ)が FAA の型式証明(TC: Type Certificate)を 取得する際にも必要なのですか?

 

A: もちろん必要です。最近の FTA や FMEA では、ヒューマンファクターの要件を考慮することも要求されてい ます。MRJ の審査の内容は報道でしか知り得ませんが、FAA はわが国の航空機メーカーが MRJ で適切な FTA や FMEA を行なっているかどうかを厳しく審査いるようです。FTA や FMEA は、設計や製造 だけでなく航空会社の運航や整備、訓練方式などに幅広く反映されていなければなりません。厳 しい言い方をすれば、わが国の航空機メーカーにはそこまでの認識はないようです。

 

Q: コメントには「原子力発電については、設計・製造技術だけでなく、安全設計と安全性評価の方法 論・手法を体系的に導入しました」と書かれていますが、どういうことですか?

 

A: この方は、原発の安全設計と安全性評価の基となる MORT(Management Oversight & Risk Tree) を指しておられるのだと思います。エネルギーを供給し続けなければ空間に浮上していられない航空 機と同じように、原発も電気エネルギーを供給し続けなければ炉心のメルトダウンを防ぐ冷却機能を維持 できません。世界の原子力業界は、原発にも航空機と同じような FTA や FMEA による厳しいリスク分 析が必要と考えました。その結果、航空機の FTA や FMEA の派生型として原発に特化して開発さ れたのが MORT です。原発は航空機と違って一基ごとに設計が微妙に異なりますので、国連の国 際原子力機関(IAEA)はヒューマンファクターも考慮した MORT を原発ごとに行なうよう勧告しています。

 

 

Q: わが国の原発業界は MORT の結果を実践できているのですか?

 

A: ここでは、忌憚のない意見を述べさせていただくことになります。東京電力などわが国の電力会 社は MORT の結果を実践できていません。東京電力ができていれば、福島第一原発の事故は起き ませんでした。

 

Q: 聞き捨てなりませんが、どういうことですか?

 

A: 福島第一原発の事故は、全電源が喪失して冷却機能が失われたことによる炉心のメルトダウンです。 このような事故の態様は、当然 MORT でも想定されて分析されています。とるべき対策は、①主 電源喪失を防ぐ対策を講じる、②主電源喪失後のバックアップ電源(非常用直流電源)を準備する、 ③バックアップ電源が使えない場合の最後の手段として、緊急炉心冷却装置(ECCS、当該原発では「非常用復水器」)を稼働させる、です。全電源喪失の後でも、非常用復水器の注水をうまく繰 り返していれば炉心のメルトダウンは防げていたはずです。

 

Q: ①の主電源喪失はなぜ起きたのですか?

 

A: 事故直後の東京電力の報告書には、原発敷地内の主電源送電線の鉄塔が地震で倒壊したと書かれ ていました。送電線の鉄塔は盛土の上に建てられていて、盛土が地震で崩れて鉄塔が倒壊したよ うです。東京電力の報告が事実であれば、主電源喪失を防ぐには膨大な数の送電線鉄塔の地盤を 点検しなければならなくなります。なぜか、その後の事故調査や原子力規制委員会の議論では鉄 塔倒壊の事実は無視されてしまいました。原発を再起動するうえでは都合が悪いようです。

 

Q: ②のバックアップ電源は機能しなかったのですか?

 

A: 直流の発電機とバッテリーが配備されていました。発電機とバッテリーがハリケーンや竜巻に備える米国方式 で地下に配備されていたために、津波による浸水で使えなかったとされています。他説では、発 電機とバッテリーが米国式の 400V 直流方式であったために使えなかったとも言われています。

 

Q: ③の非常用復水器は使えなかったのですか?

 

A: そのことが最も重要なことです。東京電力は「全電源が喪失して非常用復水器も使えなかった」 と HP で述べています。ですが、これは明らかに事実ではありません。非常用復水器は電力がな くとも蒸気圧だけで稼働するように設計されています。どうやら、東京電力は非常用復水器を使 えなかった事実を隠したいようです。まったく同型の原発を使用している台湾の電力会社では、 非常用復水器の活用を訓練していました。韓国の原発でも全電源喪失を何回か経験しています が、何とかメルトダウンを回避できています。おそらく、ECCS をうまく活用できたものと思われま す。米国のスリーマイル島(TMI)原発の事故でも、運転員は ECCS をうまく活用してメルトダウンを寸前で 回避しました。IAEA は福島第一原発事故の前に ECCS の有効活用を勧告していました。 Q: わが国はこのままで原発を再稼働できるのでしょうか?

 

A: 原子力規制委員会は「安全が確認できた原発から順次再稼働できる」と見解を表明していま す。ですが、安全の確認で MORT の結果を確認したという声は聞こえていません。しかも、ヒューマン ファクターについてはまったく考慮していないようです。率直に言って、わが国は原発のメルトダウン事故 に対して万全の備えをしているとは言えません。

 

Q: コメントには「開発と並行して基準の策定が進められ、基準案が公開されて、広く一般からのコメントを 求め、そして基準が開発に反映されなければなりません。」と書かれていますが、どうですか?

 

A: これも重要なコメントです。米国の航空界には、FAA が連邦航空規則(FAR)の重要な改定や緊急耐空 性改善命令(AD)の発効に関する一般社会の意見を聴くための NPRM(Notice of Proposed Rule Making)という制度があります。これは、規則の改定や命令の発効が経済活動などの社会生活に影響を及ぼす可能性があるからです。それに、多数の意見を参考にすれば間違いを防ぐこともで きます。NPRM に対しては、誰もが意見を述べることができます。因みに、弊社代表も NPRM に意 見を提出して採用されたことがあります。わが国もこのような制度をもたなければ真の民主主義 国家にはなれませんが、道のりは遠いようです。

 

Q: この方は、リニア新幹線についても安全設計基準や安全性評価基準が確立されているのか心配され ていますが、どうなのですか?

 

A: この方は、コメントの最後でわが国の安全管理体制の甘さを大所高所から指摘されています。わが国 の安全管理体制の甘さは、この方がおっしゃる通りだと思います。リニア新幹線の安全管理体制も 然りです。弊社代表はこれまで、2002 年に東京で開催された国際鉄道安全会議で基調講演をさせ ていただくなど、鉄道安全に深く関わってきました。鉄道安全では、耐空性など考えなくともよ いせいか、FTA や FMEA などのリスク分析は行なわれていません。JR 東海はそのままリニア新幹線とい う新しい技術分野に挑戦してしまったといえます。リニア新幹線が航空機の一種であり、耐空性の 要件を満たさねばならないことに気づいていれば、もっと早くリニア新幹線を断念できたと思われ ます。そうすれば、長いトンネルを掘ることによる経費の無駄や環境の破壊に対する懸念も払拭でき ていたはずです。

 

Q: わが国が航空安全や原発の安全、リニア新幹線の安全を実現できないと言い続けていれば、一部の 人から自虐思想などと批判されませんか?

 

A: そのように思う人がいることも事実です。ですが、現在のわが国ではさまざまな社会的不条理や 矛盾が噴出しています。それを正面から直視することは決して自虐思想ではありません。弊社 は、日本人は優秀な民族であると信じています。ただ、いつの間にかボトムアップ思考でしか考えら れなくなっています。いわゆる先進国病の1つの症状といえるかも知れません。先進国病の治療 は簡単です。ボトムアップ思考からトップダウン思考に考えを変えれば、すべてを克服できます。トップダ ウン思考というのはそれほど難しい発想法ではありません。人間にとって、ごく自然な発想法とい えます。ただ、物事に対して健全な疑いと不満(Healthy Discontent)をもつことから始めれば よいのです。弊社は、トップダウン思考の重要性をわが国だけなく世界に発信し続けています。この 読者の方のコメントに対する応えからも、トップダウン思考の片鱗を感じ取っていただければ幸いです。

本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

  URL: http://www.hufac.co.jp  

E-mail: info@hufac.co.jp

 

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読者からのコメント
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2022/08/27

HuFac Solutions, Inc.

 読者からの質問

2022-08-27

 

Q: どのような質問ですか?

 

A: 「リニア新幹線の意外な目的」に関して、下記のような質問が寄せられました。この方は、永年にわ たって政府の中枢で活躍された方です。あえてこの場をお借りして質問に応えさせていただきま す。項目番号と記号は弊社が追加させていただきました。

 

 

 ご無沙汰しています。毎回楽しみに読ませていただいています。私も、前々回、前回のテーマの羽 田沖の新空路とリニア新幹線については中止すべきだと思っています。新空路は事故が起こらない うちに、リニアは JR 東海が疲弊しないうちに、中止すべきだと考えています。それでいくつかの質 問等があります。時間がありましたら、差し支えない範囲でお願いします。

 

① 羽田新空路について

 

A 日本は戦後、米軍、米航空局の管理の下に航空機運航を再開したのに、なぜ FAA と協同歩調 で管理するような形にならず、独自に頑なな日本式になったのですか?技術も経験も無いの に。

 

B 新空路設定にあたり、航空局が試験飛行をした際、デルタとエアカナダは辞退しましたが、その後 実運航で外国エアラインの対応はどうなっていますか? ちょっと古いですが、A 滑走路と C 滑走路 との飛行軌跡を印したのがありました。羽田新ルート|高気温時の降下角 3.8 度を可視化 - 不 動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」 (hatenablog.com) やはり、急角度に侵入し、最後の 3 度に合わせるために苦労しているような感じがします。

 

② リニア新幹線について

 

A 私もケエンチング問題は、未解決だと思っています。 1999 年 8 月の山梨実験線での事故は、JR 東 海は発表しませんが、ケエンチングが原因だと思っています。国の実用技術評価委員会も触れてい ないのがおかしいと思います。JR 東海の元経営者がが亡くなられて、やっと JR 東海も企業と してこのプロジェクトをどう進めていくか判断できるようになったと思います。

 

B コロナで出張が減り、テレワークが代替として普及し、在来の新幹線も使用率が減ってきています。 JR 東海も今後は繁忙期だけの満席を期待する通常の JR 各社と同じになると思います。生産人 口も減るわけですから。リニア事業が中止となった後は、リニア用に掘削したトンネルを政府が核シェルター に転換すればいいのでないかと思います。隣に核巨大国が 2 ヶ国も有ながら、シェルターが無いの は日本だけですから。

 

以上、よろしくお願いいたします。

 

 

Q: ①-A の質問にはどう応えますか?

 

A: 非常に本質的でよい質問です。太平洋戦争に敗れて復興したわが国が世界をリードできる本当の先 進国に成長するには、政府批判とも思えるこのような疑問をタブー視すべきではありません。そこで、わが国の将来のために心を鬼にして率直に応えることにします。ひと言で表現すれば、「わ が国の航空界にはトップダウン思考ができる人材がいないから」ということになります。民間航空産 業は、裾野が広く奥の深い世界です。多くの優秀な人材がトップダウン思考で臨まなければ、健全に 運営できません。戦後の世界の民間航空が発展したのは、ICAO を中心に米国など航空先進国のトッ プダウン思考ができる人材が活躍したからに他なりません。彼らがトップダウン思考で築いた基盤がシカ ゴ条約の付属書(ICAO Annex 1~18)であり、米国連邦航空規則(FAR)や欧州連合航空規則 (JAR)です。

 

Q: わが国も先進国を自負していますが、民間航空の基盤造りに寄与したのですか?

 

A: わが国は財政面では国連や ICAO に多大な貢献をしていますが、民間航空の基盤造りではほとんど 貢献できていません。そのせいか、わが国の航空界は ICAO Annex や FAR 、JAR などを遵守する ことにも関心が薄いようです。

 

Q: わが国の航空界が ICAO Annex や FAR 、JAR に関心が薄くて、航空機を安全に運航できるのです か? A: わが国の航空界は、安全に運航できていると思い込んでいます。それが視野の狭いボトムアップ思考 です。つまり、ICAO Annex や FAR 、JAR を忠実に遵守しなくとも、上澄みの成果に従っていれ ば航空機を安全に運航できると信じています。 Q: 「上澄みの成果」とは、具体的には何ですか?

 

A: ボーイングやエアバスなど航空機メーカーが用意している運航マニュアルや整備マニュアルです。事故やインシデントが起 きた時にFAAやEASA(欧州連合航空局)が発効する耐空性改善命令(AD: Airworthiness Directive)も含まれます。ボーイングやエアバスがICAO Annex やFAR 、JARを遵守しているのは当然 であり、わが国の航空界はボーイングやエアバスのマニュアル類、FAAやJARのADに盲目的に従っています。

 

Q: 盲目的であっても、従っているのですから支障はないのではないですか?

 

A: そうではありません。ボトムアップ思考が楽だからと安住していれば、トップダウン思考で複雑な問題を 解決できなくなります。複雑な問題の一例が「羽田空港への都心上空進入ルートの新設」です。航 空先進国の関係者はトップダウン思考で VNAV 飛行はヒューマンファクターの観点から難しいと考えますが、ボト ムアップ思考しかできないわが国の航空界は、VNAV という自動化システムに頼れば急角度の降下や降下 角の変更を容易にできると考えてしまいます。実運航における VNAV の実績などは頓着しませ ん。航空当局がトップダウン思考で考えていれば、政治家が成長戦略のために新ルートの開設を指示し ても、自信をもってノーといえたはずです。わが国の航空界がボトムアップ思考しかできない状況は、 一部の国民を無為に苦しめるだけでなく、国益の棄損にもつながります。日本学術会議をはじめ とするわが国の学界は、わが国の成長や発展にトップダウン思考が不可欠であることに薄々気づき始 めているようです。トップダウン思考を「総合知」と称して、セミナーなどで議論しようとしています。 ですが、知識が広ければトップダウン思考ができるとは限りません。つまらない面子(めんつ)を棄 てて物事の本質に迫る勇気をもつことも、トップダウン思考の要件の1つといえます。

 

Q: ①-B の質問にはどう応えますか?

 

A: 新進入ルートの試験飛行でデルタとエアカナダが辞退したことは、この方がおっしゃる通りです。デルタとエ アカナダはどちらも航空先進国の航空会社です。トップダウン思考で新進入ルートの危険性を理解できてい ます。他にも、国際民間航空協会(IATA)や国際民間航空パイロット協会(IFALPA)、米国民間航空 パイロット協会(ALPA)などが新進入ルートの開設に反対しています。ですが、航空先進国の航空会社 が現実に羽田への乗り入れを辞退するかどうかは別の問題です。乗り入れを辞退することが利権 を放棄することになるからです。インターネットで新進入ルートの難しさがデータで表わされているのは予想 通りです。VNAV という難しい自動化システムの運用では、航空先進国と後進国で格差が生じます。航 空先進国の航空会社は、AQP などのヒューマンファクター訓練で克服しようとしているはずです。

 

Q: ②-A のコメントにはどう応えますか?

 

A: この方はクエンチ(Quench)の意味を理解されているようです。ですが、ボトムアップ思考で考えるわが 国の科学技術者の中には理解できない人が多いようです。クエンチを冷媒の欠如や電源の喪失などで 超電導磁石が冷却できなくなって磁力を失う現象と誤解しています。クエンチはそのような現象では なく、衝撃などで磁気を生み出す金属の原子構造が急激に崩壊する現象です。衝撃には、力学的 衝撃だけでなく EMI による電磁的衝撃や熱力学的衝撃も含まれます。科学技術が高度に発展して いても、人類は万有引力や重力、磁力の科学的原理を解明できていません。そのために、クエンチの 原因と思われている金属の原子構造の崩壊についても説明できません。もちろん、クエンチの防止策 もわかっていません。JR 東海の技術者が現代の科学技術ではクエンチを克服できないことを経営者を 通じて政権に説明できていれば、リニア新幹線を断念できたかも知れません。この方がおっしゃる ように、要人達の逝去で今後は事態が大きく変わるかも知れません。

 

Q: ②-B のコメントにはどう応えますか??

 

A: この方がおっしゃるように、JR 東海はコロナ禍後の経済変動を見据えてリニア新幹線を見直そうとして いるようです。同じ情報は JR に近い読者の方からもいただきました。JR 東海は掘ったトンネルを在 来型の新幹線に転用できると考えているようですが、国民がそれを容認するとも思えません。こ の方は核シェルターへの転用を提案されていますが、議論の余地がありそうです。ご承知のように、 米国やロシアは大都市の地下鉄を核シェルターにしています。一説には、わが国の国会や中央官庁に近い 営団地下鉄の永田町駅も核シェルターを意識して造られているともいわれています。リニア新幹線に反対 する識者や団体もリニア新幹線のトンネルの活用を議論していますが、「椎茸栽培にしか使えない」と いうのが結論のようです。核シェルターとしての利用についても、真剣に検討してみる必要がありそ うです。

 

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読者からの質問
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2022/08/20

HuFac Solutions, Inc.

 リニア新幹線の以外な目的

2022-08-20

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 先日の「リニア新幹線のアキレス腱」と題する安全情報を読まれた方からコメントが寄せられました。この方 は、これまで一貫して鉄道の安全を考えてこられた方です。リニア新幹線に関する弊社の考えにも賛 同され、リニア新幹線の今後を心配されています。弊社への参考として、文芸春秋の最新号(9 月号) にリニア新幹線の意外な目的について触れている記事が掲載されていることを知らせてくださいま した。今回は、その「意外な目的」についてお話させていただきます。

 

Q: どのような記事ですか?

 

A: 文芸春秋 9 月号の 220 ペ-ジ~に掲載されています。リニア新幹線プロジェクトを強力に推進して本年 5 月に他界した JR 東海の元経営者を悼む追悼文です。永年の友人であった元内閣官房副長官が寄 稿しています。記事の全般では元経営者の生前の功績が綴られていますが、「米国と手を組む以 外に道はない」と題する項目の中に、リニア新幹線プロジェクトには意外な目的があったことが書かれ ています。

 

Q: 「意外な目的」とはどういうものですか?

 

A: JR 東海の元経営者は政権中枢にも近く、生前はわが国の安全保障についても腐心していたそうで す。米国との同盟関係の中で、わが国の技術が米国から一目置かれることが米国の信頼を得て同 盟関係をより堅固にできると考えていたようです。鉄道技術では、わが国の N700 系新幹線の技術 が米国テキサス州のダラスとヒューストン間(385km)を結ぶ高速鉄道プロジェクトに採用されようとしています。 このプロジェクトには、わが国の代表的な企業も参画しています。JR 東海の元経営者は、N700 系新幹 線やリニア新幹線の技術を米国に採用させることで米国から一目置かれようと夢見ていたようです。 鉄道総研や JR 東海の技術者にとって、リニア新幹線プロジェクトに成功して元経営者の夢を実現させることは至上命令であったといえそうです。

 

Q: 元経営者の夢を実現させることは難しいのですか?

 

A: リニア新幹線の技術を MAGLEV 構想に採用させるのは容易ではないといえます。なぜなら、リニア新幹 線の技術が米国の厳しい安全基準にさらされることになるからです。

 

Q: 米国の厳しい安全基準とはどういうものですか?

 

A: その質問に応える前に、わが国の鉄道技術者の根本的な認識不足について話さねばなりません。 リニア新幹線が図.3のような走行原理で宙に浮いて高速走行することは既に説明しました。時速 500kmの高速走行でクエンチが起きれば、直ちに宙に浮けなくなって、降着装置を降ろして軌道に軟 着陸(Soft Landing)しなければならなくなります。つまり、リニア新幹線はもはや鉄道車両とは いえず、航空機の一種と考えなければならなくなります。 

 

Q: リニア新幹線を航空機の一種と考えると、どういうことになるのですか?

 

A: 耐空性(Airworthiness)という概念を視野に入れなければならなくなります。輸送機関のモード (Transport Mode)には航空や船舶、鉄道、自動車などがありますが、航空機の製造には耐空性 を考慮しなければならないという最も難しい技術が必要になります。米国では、航空、船舶、鉄 道、自動車などの安全を国家運輸安全委員会(NTSB)という議会に属する組織が厳しい眼で監視 しています。NTSB は当初、航空安全のために組織されました。耐空性を監視するには視野の広い トップダウン思考の人材が必要と考えられたからです。NTSB は、航空機の事故やインシデントの原因をトッ プダウン思考のヒューマンファクターの観点から分析しています。分析の結果を耐空性の要件に追加して、FAA や航空機メーカー、航空会社に改善を勧告しています。トップダウン思考ができる NTSB のメンバーは、 「MAGLEV は鉄道車両ではなく航空機の一種といえる」ことに早晩気づくはずです。そうなれば、 NTSB は MAGLEV の安全監査を連邦鉄道局(FRA: Federal Railway Administration)ではなく連邦 航空局(FAA: Federal Aviation Administration)に委ねるはずです。

 

Q: MAGLEV の安全監査が FAA に委ねられると、事態はどう変わるのですか?

 

A: FAA は MAGLEV にも耐空性の要件を求めることになると思います。耐空性の要件を満たすにはさま ざまな技術が必要です。耐空性の要件を明文化したものが連邦航空規則(FAR: Federal Aviation Regulations)です。

 

Q: 鉄道総研や JR 東海のリニア新幹線の技術は FAR の耐空性基準を満たせると思いますか?

 

A: ずばり、満たせないと思います。根拠はすでに「リニア新幹線のアキレス腱」という安全情報で説明し ました。そもそも、鉄道総研や JR 東海の技術者は FAR の存在すら知らないと思います。リニア鉄道 を発明したドイツは、「リニア鉄道は鉄道車両ではなく航空機の一種である」ことに気づいて早くに 実用化を断念したものと思われます。

 

Q: 鉄道総研や JR には、耐空性の要件を理解できる技術者がいるのですか?

 

A: 鉄道総研や JR は、大学の航空学科出身者を多く採用しています。ですが、わが国の大学の航空 学科では耐空性の基準である FAR などについてほとんど教えられていません。わが国の航空機メー カーにも大学の航空学科出身者が多くいますが、FAR の耐空性基準を知らないために FAA の耐空証 明(TC: Type Certificate)を取得できる国産民間航空機を開発できていません。鉄道総研や JR にも、耐空性の要件を理解できる技術者はいないと思います。

 

Q: ロシアや中国も民間航空機を製造していますが、FAR の耐空性基準を満たしていないのですか?

 

A: 満たしていません。そのために、ロシアや中国が製造する民間航空機は FAA の耐空証明を取得でき ていません。ロシアや中国の民間航空機は国際的なマーケットでは通用していません。ロシアや中国の航空 会社は、主にボーイングやエアバスの航空機を運航しています。

 

Q: ブラジルとカナダも民間航空機を製造していますが、どうなのですか?

 

A: 今となっては過去形の「製造していました」と言わねばなりません。ブラジルのエンブラエル社とカナダ のボンバルディア社はすでにそれぞれボーイングとエアバスに吸収合併されています。FAR の耐空性基準を 満たして安全な民間航空機を製造することは、人類最高の叡智といえます。それを実現できるの は、現在のところ米国と欧州連合(EU)しかありません。

 

Q: ワシントン D.C.とニューヨーク間の MAGLEV 構想にリニア新幹線の技術を採用させることはともかく、ダラスとヒュー ストン間の高速鉄道に N700 系新幹線の技術を採用させるのはどうなのですか?

 

A: ここでも大きな問題があります。以前にもお話しましたが、鉄道総研と JR の技術者は「不静定 構造の不安定性」を理解できていません。そのために、鉄道車両の空気バネの内圧を均等にする という間違った方法で調整しています。正しくは、内圧ではなくバネ定数を均等にしなければな りません。間違った調整方法は時速約 200km 以上の高速走行で弊害が顕在化します。JR の新幹線 で台車に亀裂ができて脱線寸前になるとか、地震で新幹線が容易に脱線するというインシデントがす でに現実化しています。これらはすべて空気バネの調整不良が原因と思われます。わが国の運輸 安全委員会(JTSB)や JR はまだこのことに気づいていません。ダラスとヒューストン間の高速鉄道の安 全を監査する米国の連邦鉄道局(FRA)も気づいていないようです。ですが、不静定構造の不安 定性に詳しい連邦航空局(FAA)と連携することになれば、FRA も問題に気づくはずです。

 

Q: これまでのお話を総合すると、在来新幹線やリニア新幹線の技術を米国に輸出することで米国に一 目置かせるという JR 東海の元経営者の夢は実現できないといえますか?

 

A: それどころか、わが国の鉄道技術のレベルの低さを露呈するという逆効果にもなりかねません。わ が国の鉄道技術は、これまで国際的な評価にさらされることはありませんでした。一方、航空機 の製造や運航、整備などわが国の航空技術は常に国際的な評価にさらされています。わが国の航 空技術は決して国際的に高く評価されていません。わが国の航空界は、常に米国や国際機関の厳 しい監査下で改善を求められ続けています。FAR に準ずる航空法を制定すべきとも指導されてい ます。わが国の技術者は、もっと謙虚に現実を見据えなければさらなる成長と発展は望めないと 思われます。 

 

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2022/08/12

HuFac Solutions, Inc.

 リニア新幹線のアキレス腱

2022-08-12

 

Q: 2020 年 7 月 14 日にも同様の表題で安全情報が配信されましたが、今回はどのような情報ですか?

 

A: 本年、リニア新幹線プロジェクトを積極的に推進してきた JR 東海経営者と政権与党政治家が相次いで鬼 籍に入りました。これを期に、プロジェクトの推進に何らかの変化が生じるかも知れません。弊社は 先の安全情報でリニア新幹線の危険性を示唆しましたが、説明が具体的でないために説得力に欠けて いた感も否めません。リニア新幹線には、一般には理解されにくい致命的な欠陥(Critical Defect) が潜在しています。リニア鉄道を発明したドイツは、その欠陥に気づいていたのか、早くからリニア鉄道 の実用化を断念しました。すでにリニア鉄道を実用化している中国は、その欠陥に気づいているとも 思われません。時速 500 km で高速走行する JR 東海のリニア新幹線で欠陥が顕在化すれば、とてつも ない大事故が起きます。今回は、読者の方々にリニア新幹線の安全性を冷静に考えていただくために、 航空工学の話も交えてわかりやすく解説してみたいと思います。 

 

Q: リニア新幹線の致命的な欠陥とはどういうことですか?

 

A: リニア新幹線は、図.2のように電磁石の吸引力と反発力のバランスで宙に浮きながら走行します。物理 的な抵抗がないために、航空機と同じように高速で走行することができます。電磁石は通常のも のではなく、コイルを絶対温度ゼロ(-273°C)近くまで冷却して電気抵抗をゼロにすることで実現し た超電導磁石(Superconducting Magnet)です。超電導磁石には、よく知られている欠陥があり ます。クエンチ(Quench)という物理現象で、超電導磁石の磁力が突発的に失われる現象です。原因 はまだ定かではなく、防止策も確立されていません。

 

Q: クエンチという現象は頻繁に起きるのですか? 

 

A: 超電導磁石は病院などのMRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴映像法)でも使われていま すが、クエンチが原因と思われる事故が何件も起きています。クエンチが起きる確率は決して稀とはいえ ません。

 

Q: リニア新幹線でもクエンチが起きているのですか?

 

A: リニア新幹線の運行実績は山梨の実験線でしかありません。JR 東海は公式には起きていないとして いますが、実際にはクエンチを経験しているとの内部情報もあるようです。

 

Q: JR 東海や鉄道総研の技術者は、時速 500 km の高速走行でクエンチが起きることも想定して対策をと っているのではないですか?

 

A: その疑問に的確に応えるには、弊社代表の若い頃の体験をお話する必要があります。弊社代表が まだ 30 歳半ばで JAL の技術部に在籍していた頃、鉄道総研でリニア新幹線のプロジェクトを担当してい る大学の航空学科の後輩が職場を訪れたことがあります。鉄道総研の上層部が JAL に正式に協力 要請したことによるものでした。協力要請の内容は、航空機の降着装置(Landing Gear)につい て詳しく聴きたいというものでした。当時、弊社代表は航空機の操縦系統(Flight Control)を 担当していて、降着装置は担当外でした。その弊社代表が協力要請に応じることになったのは、 JAL 技術陣の上層部の判断によるものでした。

 

Q: 鉄道総研はなぜ航空機の降着装置について詳しく聴きたかったのでしょうか?

 

A: まさに、リニア新幹線でクエンチが起きた際の対策を検討するためでした。500 km の高速走行でクエンチが 起きれば、超電導磁石が磁力を失って車体が浮上できなくなります。そのままでは車体が軌道に 接触して大事故が起きます。そこで鉄道総研が考案したのが、航空機のような降着装置を車体に装備することでした。航空機の降着装置にはさまざまな高度技術が盛り込まれています。弊社代 表はその長所と短所について詳しく解説しました。

 

Q: 航空機のような降着装置はリニア新幹線に採用されたのですか?

 

A: 不本意にも、採用されてしまいました。それが図.4 の「リニア新幹線の降着装置」です。クエンチが起 きて超電導磁石の磁力が失われれば、降着装置が自動的に降りて車体が車輪で軌道上を走行でき るように設計されています。

 

Q: 「不本意にも」とはどういうことですか?

 

A: 航空機のような降着装置はリニア新幹線には採用できないと説明したつもりですが、鉄道総研にはそ れが伝わらなかったようです。後輩は理解できたようですが、鉄道総研の上層部が理解できなか ったのかも知れません。

 

Q: 航空機のような降着装置は、なぜリニア新幹線に採用できないのですか?

 

A: 航空機の降着装置は、ボーイング 747 のように 4 本以上の主脚(Body Gear 2 本と Wing Gear 2 本) で接地する機体では問題が起きます。4 箇所以上の支点をもつ構造は「不静定構造(Statically Indeterminate Structure)」といって、支点のバネ定数を均等にしなければ不安定になるからです。 リニア新幹線では、車両当たり 4 本以上の降着装置が必要です。降着装置のバネ定数を均等に調整し なければ、不安定になって接地時に振動や発散現象が起きることになります。

 

Q: リニア新幹線の車体も、台車の空気バネで振動や発散を防いでいるのではないですか?

 

A: 確かに、図.4 の リニア新幹線の台車には空気バネが取り付けられています。ですが、空気バネの調整 に関する鉄道総研や JR の考え方は根本的に間違っています。鉄道総研や JR は、新幹線をはじめ 他の鉄道車両でも空気バネの内圧を均等にするようにしています。この考え方では、不静定構造の 不安定を防ぐことはできません。

 

Q: これは重大な指摘ですが、明確な根拠を聞かなければ鉄道総研や JR の技術者は納得しないのでは ないですか? A: そう思います。そこで示す根拠が、747の降着装置の空気バネの調整におけるボーイングの失敗談です。 ボーイングは当初、不静定構造であるボーイング747の降着装置を安定化するために、鉄道総研やJRと同じように空気バネの内圧を均等にすることを考えました。そのために導入したのが図.5に示す荷重 均等化装置(Load Evener)です。Body GearとWing Gearのオレオの間をパイプでつないで内圧を均等 にしています。

 

Q: Load Evener で問題は解決したのですか?

 

A: いいえ、事態はかえって悪化しました。Load Evenerを装備したボーイング747の降着装置で原因不明 の振動が相次いだのです。原因を精査したボーイングは、直ちにLoad Evenerを撤廃しました。空気 バネの内圧を均等にすることが間違っていることに気づいたからです。この失敗談は、JALが1970 年にボーイング747を導入する以前のことです。現在では、ボーイングは747の空気バネの内圧ではなくバ ネ定数を均等にする調整方法を整備マニュアルに規定しています。つまり、オレオの内圧と伸縮の関係が 図.6の曲線になるように窒素ガスの充填するよう規定しています。 

 

Q: 図.6 の方法で空気バネを調整することで問題は解決したのですか?

 

A: いいえ、問題はまだ解決していません。図.6 の方法で空気バネを調整することは、航空会社にと っては現実的に不可能だからです。多くの航空会社は、整備マニュアル通りの調整をせずに独自の簡便 法を用いているようです。

 

Q: 独自の簡便法で問題は起きていないのですか?

 

A: 正規ではない調整方法で問題が起きないはずはありません。わが国のマスコミはあまり報じていませ んが、ボーイング747が接地時に不安定となって起きる事故は過去に数多く起きています。図.7はた またま撮影されたものです。 

 

Q: 747 の接地時の事故がそれほど多いとは知りませんでしたが、世界で最も多く 747 を運航してい た JAL では経験していないのですか?

 

A: 御巣鷹山事故の切っ掛けとなった 1978 年の伊丹空港における尻餅事故があります。原因は、接地 時に起きたポーパシング(イルカが飛び跳ねるような動き)に航空機関士が慌てて、地上用スポイラーを引 いてしまったためと考えられました。当時は、降着装置の空気バネの調整方法に問題があることは 担当者以外には知られていませんでした。そのため、JAL の技術陣はポーパシングの原因が降着装置 の空気バネの調整不良にあるかも知れないとは考えませんでした。尻餅事故がなければ御巣鷹山事 故も起きなかったと思うと、大いに悔やまれます。

 

Q: 747 の降着装置の空気バネの調整方法に問題があることは、航空会社が 747 を使わなくなった要因 にもなっているのですか?

 

A: 最大の要因は、747 の燃料消費効率が中型の航空機に比べて劣ることとされています。ですが、 降着装置の空気バネの調整が難しいことを理由に 747 を敬遠した航空会社も一部にはあるのでは ないかと思います。

 

Q: エアバス A380 の降着装置も不静定構造ですが、空気バネの調整方法に問題があるのですか?

 

A: 状況は 747 とまったく同じだと思います。現在のところ A380 では目立った接地時の事故がないよ うですが、いずれ 747 と同じような問題に遭遇すると思います。弊社代表が JAL を退職する頃に JAL も A380 の導入を検討していました。弊社代表は退職時に「A380 の導入には慎重になっていた だきたい」と当時の経営トップに個人的に進言しました。なぜか、その後に JAL は A380 を導入せず、 エアバスは A380 の製造を終了しました。

 

Q: 新幹線や最近の鉄道車両では速度やカーブにおける車体傾斜に応じて空気バネの内圧を自動調整するシステムがありますが、これはどうなのですか?

 

A: 空気バネのバネ定数ではなく内圧を調整しているという点では、このシステムも 747 の Load Evener と 同じです。厳密な意味で正しい調整ではありませんので、新幹線などでは時速 350km 以上で振動 が始まるようです。鉄道総研や JR が考えている空気バネの内圧を均等にするという方法では、時 速 350km が振動を防げる限界速度といえそうです。

 

Q: これまでの話をまとめると、空気バネの内圧を均等にするという方法では時速 500km で走るリニア新 幹線のクエンチ現象に対応できないといえますか?

 

A: そういうことになります。そのことがまさに「リニア新幹線のアキレス腱」ということです。747 のケース でもわかるように、空気バネのバネ定数を均等にするというの方法でリニア新幹線の大事故を防ぐのは 現実的に不可能といえます。

 

Q: JR 東海はすでにリニア新幹線のためのトンネルの掘削に着手しているようですが、クエンチ現象の問題に気 づいているのでしょうか?

 

A: 一説には、すでに気づいているともいわれています。JR 東海は、リニア新幹線を実現できない場合 には長いトンネルに在来型新幹線を走らせることを考えているようです。その場合、長時間にわたっ てトンネル内を走る新幹線に乗りたいと思う乗客がいるのか、掘削したトンネルが国土の環境破壊につな がらないのかなど、国民が関心をもって議論すべき事項が数多くありそうです。

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2022/07/28

HuFac Solutions, Inc.

羽田への都心上空飛行_第2報

2022-07-28

 

Q: 第 1 報について、読者の方から何か意見が寄せられたのですか?
A: 何人かの読者の方からコメントをいただきました。その中には、わが国の航空界の第一線で活躍され ている現役パイロットの方からのコメントもありました。この方は通常とは異なる経歴をもつ極めて優秀 なパイロットです。現在、最新鋭のハイテク航空機に乗務して現場で指導的な任務を担っています。貴重 なご意見ですので質疑応答も含めて読者の皆さんに紹介することを打診したところ、快く承諾し ていただけました。下記にコメントをそのまま紹介させていただきます。
 ヒューファク安全情報、有難うございます。羽田空港の 16L,16R における(同時並行)運用の懸念事項に ついて意見を述べさせていただきます。記事内の氷塊の件、飛行経路より 350m 離れた位置への落 下につきましては物体の自由落下からその数値は想像し難いですが、後方乱気流(弊社注: 航空 機の主翼の先端が後方につくる空気の渦)というファクターが加わった場合については確かにどうなの でしょう。(すみません、答えは今のところ見つかりません) さて、羽田空港の日中帯における南 風運用(Rwy16。15 時 JST 以降 19 時の 3 時間以内)について、飛行に利用する航空機の機能(VNAV、 LNAV)はとても良くできています。しかしながら、交通の混雑状況に応じて STAR(弊社注: 空港 ごとに設定されている標準着陸経路)を全て飛ばさず Radar Vector(弊社注:管制官が航空機を レーダーで所望の地点まで誘導する管制方式)で STAR 上の Fix(弊社注:進入着陸時に基準とする 飛行空域の位置)に向けての Radar Vector や直行指示などが頻繁にあります。これをするため の航空管制の指示ミス、指示を受ける側の聞き違いミス、自動操縦システムへの入力ミス等がどの程度発生 しているのかは不明です。とかくミスをした人にばかり傾注しがちな文化ですから、なぜそのミスが 起きたのかを分析し、よりシンプルな運用を目指す必要についてはいつも根底にもっていなければな らないと考えます。(日本人に最も不得意なことですが、何かに対処するためにさらに手数が増え ていきます。KISS principle(弊社注: Keep It Simple and Stupid の略で、1960 年代に米海軍 が提唱した「システムは簡潔かつ誰にも使い易い設計にすべき」という原則) という言葉があります ね。運航する側から感じるのは、従来の Rwy22、23 の運用を Rwy16 で実施するメリットは何であるの か疑問に思うことがあります。交通量増加に対処するのに本当に必要であれば、時間を制限して 実施するのは理解しがたいですし、埼玉方面を周ることによる燃料増、都心上空を飛行すること に伴う落下物のリスク等、あまり飛行機を運航するから側からのメリットは感じられません。海外でも都 市上空に飛行経路を設定している国はたくさんありますので、可能性を否定することもありませ ん。しかしながら、決めたからやるのではなく 何のために実施するのか、データの蓄積のためで あるならそのデータをどう使って PDCA を行うのか。安全で効率的な運用のために何をすべきか、に ついて現状を知りたいとも思います。航空機の安全や効率はもとより、経済や東京、千葉の住民、 政治等のファクターが大きいのでしょう。都心上空のルートを以前の Rwy22、23 に戻すことも最早、政治的にも出来ないでしょう。騒音問題の分配ということでしょうか。航空機の技術はどんどん進歩 しており、航法精度も高いものが運用されています。しかしながら、日本への技術導入には相当 の時間がかかってしまいます。技術をただ輸入するだけではなく、自ら創造する力を持ちたいも のです。「トップダウン思考の問題解決」、AQP についてまだまだ勉強が足りないと反省しています。 今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。
Q: 「航空機の機能(VNAV、LNAV)はとても良くできています」というコメントがありますが、都心上空飛 行に使う VNAV 進入方式には特に問題がないということですか?
A: そうではないと思います。このパイロットの方は後で VNAV(Vertical Navigation)や LNAV(Lateral Navigation)の問題点についても言及しています。VNAV や LNAV は、ボーイング 757 やエアバス 320 以 降のハイテク航空機に採用された飛行制御システム(FMS: Flight Management System)という自動化システ ムで、航空技術者が開発した優秀な機能が盛り込まれています。VNAV や LNAV を活用すれば、航空 機の離陸から着陸までのすべてを自動的に運航することができます。現場のパイロットに歓迎される のは不思議なことではありません。一般的に、自動化システムは①パイロットが使いやすい設計(User Friendly)になっているか? ②パイロットがエラーをしにくい設計(Error Resistant)になっているか? ③パイロットがエラーをしても回復しやすい設計(Error Tolerant)になっているか? という観点で評 価されます。このパイロットの方は、①と②の観点で評価されています。ですが、現場で乗務してい るパイロットは③の観点ではなかなか評価できません。なぜなら、現場では③のような逼迫した状況 を経験する機会がほとんどないからです。 

 Q: ③のような状況を実際に経験せずに評価できる方法はないのですか?

 

A: あります。米国には航空安全報告制度(ASRS: Aviation Safety Reporting System)という、ヒヤ リハット事例を経験したパイロットや航空管制官が匿名で自由に報告できる制度があります。当局が報告 者を詮索して処罰しないことが保証されています。ASRS では、VNAV/LNAV 運航でインシデントや事故に 陥りそうになった事例が数多く報告されています。

 

Q: ASRS で報告された VNAV/LNAV 運航のヒヤリハット事例はどのように処理されているのですか?

 

A: ヒューマンファクターの研究者がヒューマンファクター分析して対策を考案しています。弊社代表も、JAL の技術研究 所に在籍していた時に米国のバテル研究所と協力して分析に当たったことがあります。

 

Q: ヒューマンファクター分析の結果、どのような対策が考案されているのですか?

 

A: 対策は概ね2つあります。① 自動化システムをパイロットがエラーしても回復しやすい「人間中心の設計 (Human-centered Design)」にすること、② AQP(Advanced Qualification Program)というヒュ ーマンファクター理論に基づく革新的な訓練と資格付与制度を導入してパイロットや航空管制官にトップダウン思 考の問題解決能力をつけさせること、です。

 

Q: 人間中心の設計や AQP の内容はどのような形で航空界に周知されているのですか?

 

A: 国連の国際民間航空機関(ICAO)がヒューマンファクター訓練マニュアルを発刊して周知しています。わが国では 航空局(JCAB)と航空各社が協力してヒューマンファクター訓練マニュアルを和訳しています。その他、米国の FAA や欧州の EASA も解説書をインターネットに掲載しています。

 

Q: 人間中心の設計はともかく、わが国は AQP を採用しているのですか?

 

A: 以前は関心をもたれていませんでしたが、最近は航空局(JCAB)も AQP の必要性に気づき始めて いるようです。ヒューマンファクターに関する深い知識がなければ AQP の本当の意味を理解できません。入 手できる資料を見るかぎり、JCAB はまだ AQP の本当の意味を理解していないようです。それに、 JCAB が AQP の対象にしているのはパイロットだけで、航空管制官の AQP は考えていないようです。

 

Q: AQP は革新的な訓練と資格付与制度ということですが、どのような点が革新的なのですか?

 

A: わが国ではなかなか理解されないかも知れません。これまでの航空界では、わが国の教育制度と 同じようなボトムアップ思考の教育、訓練がされてきました。つまり、当局がパイロットや航空管制官を チェックして合格点に達していれば国家資格を付与する制度です。この制度では、100 点ではなく 70 点程度の技量や判断能力でもプロのパイロットや航空管制官としての資格が得られることになります。 航空のインシデントや事故は 70 点程度の技量や判断能力ではなくせません。航空安全を実現するには、 これまでのボトムアップ思考の教育、訓練を根本的に見直してトップダウン思考の教育、訓練で 100 点に 近い技量や判断能力のパイロットや航空管制官を養成する必要があります。AQP では、個人の能力や 性格に応じて最終的に 100 点に近い技量や判断能力をつけさせるトップダウン思考の教育、訓練がさ れます。合否の判断も、教官ではなく訓練生自身に委ねられます。革新的な AQP を採用するには、 これまでの制度を廃止しなければなりません。JCAB にはまだその覚悟がないようです。

 

Q: コメントの中に「海外でも都市上空に飛行経路を設定している国はたくさんあります」という表現が ありますが、どうなのですか?

 

A: その通りです。例えば、米国のニューヨークでは摩天楼上空の飛行が認められています。ですが、「ニュー ヨークの上空を飛べるのだから東京上空も飛べないはずはない」と考えるのは早計といえます。なぜ なら、米国とわが国では航空の安全管理のレベルがかなり異なるからです。 

 

Q: 「米国とわが国では航空の安全管理のレベルがかなり異なる」というのはどういうことですか?

 

A: 米国議会は「米国の大都市に他国の航空機が墜落することはミサイル攻撃を受けることに匹敵する」 と考えています。そのため、米国に乗り入れる航空会社の安全管理のレベルを厳しく監査(Audit) するよう FAA に命じています。監査に合格しない航空会社は米国への乗り入れを拒否されます。 FAA は、航空管制官にも AQP を適用して技量や判断能力を厳しく養成しています。残念ながら、 わが国の航空の安全管理のレベルは米国や他の航空先進国と同じとはいえません。

 

Q: 「都心上空のルートを以前の Rwy22、23 に戻すことも最早、政治的にも出来ないでしょう」というコ メントがありますが、どう思いますか?

 

A: わが国では、一部の政治家が航空安全を深く考慮することなくインバウンド旅客の増大政策などの経 済成長政策を安易に提唱する傾向があります。当局も、政治家に忖度して政策に真っ向から異を 唱えることはできません。米国などの航空先進国では、政治家は航空安全について勉強していて 航空安全に反する政策を推進することはありません。羽田への新進入ルートも、そのようなわが国の政治背景で安易に導入されてしまったともいえます。現場のパイロットが問題に気づいていても、政 府や諮問委員会の意向に異を唱えることはできません。現場のパイロットが当局のチェックに合格しなけ れば飛行を続けられない弱い立場に置かれているためと考えるのは、弊社だけではないようです。 このような現実が、わが国が航空後進国と称される所以ともいえます。

 

Q: わが国ではパイロットや航空管制官に AQP が導入されていないということですが、そのことがわかる 具体例がありますか?

 

A: あります。2015 年 4 月 14 日に広島空港で起きたアシアナ航空 162 便(エアバス A320)の着陸失敗事故で す。韓国の仁川国際航空を離陸した同便は、当初広島空港の滑走路 10 に ILS 進入方式で進入する 予定でしたが、天候の理由で寸前に航空管制から ILS 設備のない滑走路 28 への VNAV 進入を指示 されました。突然の指示に慌てた副操縦士は、VNAV での安定した進入(Stabilized Approach) を維持できずにオートパイロットを解除して手動操縦に切り替えました。その後、手動操縦でも姿勢を安 定できず、滑走路手前のローカラーザーのアンテナに接触して滑走路を左に逸脱させてしまいました。機体 は大きく損傷して、27 名が負傷しました。広島空港の滑走路 28 は航空母艦のような形状をして います。接地がもう少し手前であれば、深刻な大事故になるところでした。 

 

Q: 事故の原因は何だと思われますか?

 

A: 公式の事故調査とは見解が多少異なりますが、弊社は VNAV 進入方式の難しさが原因と考えていま す。当初予定された ILS 進入方式と突然に指示された VNAV 進入方式では、パイロットと自動化システム の関わり(Automation Interface)が根本的に異なります。AQP の訓練を受けていないアシアナ航空 の副操縦士が姿勢を安定できなかったのも無理もありません。このような状況はヒューマンファクターでは オートメーション サプライズ(Automation Surprise)と称されて、自動化システムの顕著な問題点とされていま す。広島空港の航空管制官が VNAV 進入方式の難しさを理解できていれば、レイダーベクターで木目細か く支援するなど、柔軟な配慮ができたのではないかと思われます。

 

Q: 結局のところ、羽田への都心上空進入ルートをどのように考えますか?

 

A: 羽田への都心上空進入ルートには、世界各国のさまざまなレベルのパイロットが参入します。現状のままで は、アシアナ航空 162 便と同様の事故が起きないとはいえません。わが国の航空管制官に AQP を導入 するとしても、養成には時間がかかります。このような考えから、弊社は羽田への都心上空進入 ルートを再考すべきと明確に提言させていただきます。わが国ではそのような提言が認められないことはよく理解しています。

 

Q: ところで、問題提起された新進入ルートの直下の住民の方からの反応はどうでしたか?

 

A: 概ね納得されたとのご返事がありました。下記に紹介させていただきます。

 

 

 この度はヒューファク安全情報に採り上げて頂き、誠にありがとうございました。冒頭で記述された、 「わが国における従来からのこのやり方は、まさに部分最適しか考えない「ボトムアップ思考の問題 解決」といえます。何が本当の国益であるか は、全体最適を俯瞰する「トップダウン思考の問題解決」 でしか把握できません。日本人は元来、「トップダウン思考の問題解決」が苦手です。声が大きい人や 力が強い人の意見が通る「ボトムアップ思考の問題解決」に何時までも終始していては、国民が不幸 に陥ることになります。」の部分、羽田空港増便の問題についてまさに符合していると思いました。 この国の舵取りを担う人たちには、千葉県との関係や首都圏第三空港のあり方、そして日本全体 での国際線受入れの姿など、全体最適を俯瞰して「何が本当の国益であるか」を考えて頂きたい と改めて感じました。本文の内容については、更に読み返していきたいと思いますが、AQP のこ とや、シカゴ条約付属書にある「人間の能力( Hu man Performance )と限界( Human Limitations ) を考慮すべき」というヒューマンファクターの要件などについて、更に勉強していきたいと思います。ヒューフ ァク安全情報の読者には政権中枢や政府、マスコミの方々が多くいらっしゃるとのことですので、「羽田 への都心上空飛行」の問題点がリマインドされることを願ってやみません。以上、取り急ぎ御礼申し 上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。  

 

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2022/06/16

HuFac Solutions, Inc.

羽田への都心上空飛行

2022-06-16

Q: 表題については以前にも採り上げましたが、何か進展があったのですか?

 

A: コロナ禍によるインバウンド旅客の減少も回復の兆しが見え始め、羽田空港への新進入コースが本格的に運 用されるようになりました。そんな折、このコースの直下に居住する読者の方から1通のメールが届き ました。新コース開設に関する弊社の感想を求める文章ですが、内容は悲痛な訴えともとれます。ご 本人の承諾を得ましたので、差し障りのある個人情報は省いて下記にそのままご紹介します。読 者の方々にこの問題に真摯に向き合っていただく切掛けになればと思っています。

 

 

 ○○○と申します。いつも『安全情報』を楽しみに拝読させて頂いております。私は、「羽田空港 への都心側からの着陸進入の件」で、2017 年頃面談させて頂いた者です。当時は、浜松町の○○ ○に勤めていましたが、今は定年退職して、週 3 日程、○○○という会社に参与として勤務して おります。自宅が山手線大崎駅西口近くなのですが、2020 年 4 月から、南風運用時 A 滑走路 16R への着陸機が、自宅マンションの真上を 450~500m で通過するようになってしまいました。1日 3 時間 余りではありますが、騒音は相当気になり、B777 や A350 などの大型機などでは、振動まで感じ られます。マンション室内で静かに過ごしていると、その最大音量に係わらず、暗騒音からの音の変化 が気になり、うっとうしさを感じさせます。

 そんな状況が既に 2 年以上続いていますが、先日 3 月 13 日(日)15 時半ごろ、渋谷区本町のテニスコートに、大きな音を伴って氷塊が落下しました。氷 のサイズは、割れた氷の量から推察すると、にぎり拳より少しい小さめの小石ぐらいだったようで す。その時間、A 滑走路に着陸進入中のデルタ航空機アトランタ発 A350-941 型機が上空を通過したこと が確認されています。近隣に超高層ビル(東京オペラシティ:高さ 230m)がありますので、その屋上か ら故意に投げられた可能性を否定できませんが、落下地点まで水平距離で 120mほどありますの で、大谷選手ぐらいでないと届かないように思います。なお、当時は、風速は弱く、地上で南南 西の風が 2~3m 程度だったようですし、天候は良く、雹が発生するような気象条件でもなかった とのことです。近くでプレイしていた方が驚き、直ぐに時刻入りの写真を撮られたものの、残念な がら氷は保存されず、国交省には翌日の夕方になってから渋谷区を通じて間接的に連絡が入った とのことです。この件に対して国交省航空局は、当該機を含む前後 8 便について航空会社にヒアリン グを行ったとのことですが、いずれからも「その痕跡は確認できなかった」との回答だったそう です。そして、航空局の見解としては、飛行した航路を GPS データで確認したところ、落下地点は 航路から 350m 離れているので、「航空機由来のものとは断定できない」と結論付け、「これ以上の 調査はしない」としました。

 その後の品川区議会での質疑応答を聞くと、区から国交省に問い合わせたところ、「風速 15m の風が吹いていないと 350m はずれないので、航空機由来ではない」と の回答があったそうです。このような中、5 月 18 日、超党派の国会議員が参加する「羽田新コース 問題に関する議員連盟」が、国交省にヒアリングする場が設定され、質疑が行われました。元日本航 空機長の○○○さんも同席されました。国会議員側から、横風 15m の件についても論理的な説明 を求めましたが、航空局は真正面からの回答を避けました。

 

 前置きが長くなりましたが、本件、 高度約 1,100m を 340km/h で飛行中の機体から、にぎり拳より小さめの氷塊が落下した場合、例え 横風が弱かったとしても、大型航空機の後方乱気流に巻き込まれれば、350m 程度横に吹き飛ばさ れることは十分想定されるのではないかと考えるのですが、本事案について、何かご感想はござ いませんでしょうか。ご負担のない範囲で結構です。どうぞ宜しくお願いいたします。

 

Q: このメールを読んで、どのように感じましたか?

 

A: 航空機が低高度で頻繁に飛行するコース直下の都心の住民の方々の悩みが生々しく伝わってきます。 一般的に政府の国策プロジェクトでは、推進派と反対派、無関心派に分かれます。推進派は政府や与 党政治家、審議会の学識経験者などで、反対派は弊害を被る住民や支援する野党政治家などです。 直接の被害がない大多数の国民は政府の方針に逆らうことを嫌って無関心派にまわるようです。 推進派と反対派はそれぞれ自己の利益のために行動します。マスコミは国民の意向を覗おうとします が、何が本当の国益であるかまでは把握しようとしません。

 わが国における従来からのこのやり 方は、まさに部分最適しか考えない「ボトムアップ思考の問題解決」といえます。何が本当の国益で あるかは、全体最適を俯瞰する「トップダウン思考の問題解決」でしか把握できません。日本人は元 来、「トップダウン思考の問題解決」が苦手です。声が大きい人や力が強い人の意見が通る「ボトムアップ 思考の問題解決」に何時までも終始していては、国民が不幸に陥ることになります。弊社はこの 問題でも「トップダウン思考の問題解決」を提案したいと思っています。

 

Q: ところで、羽田への新進入コースとはどういうものですか?

 

A: 図.2 の左図が従来の進入コースで、右図が新進入コースです。図示しているのは問題になっている南風 の時の進入コースです。新コースでは、航空機は都心の住宅と高層オフィスビルの密集地の上空を低高度で飛ぶことになります。新コースの直下では、メールに書かれているような騒音や氷塊や航空機部品など落 下物の問題が無視できません。メールで言及されている航空機が東京都心に墜落するリスクも念頭に置 く必要があります。

 

Q: 騒音問題についてはどんな対策がとられているのですか?

 

A: 通常の ILS 進入方式に替えて、騒音低減進入方式(Noise Abatement Approach Procedure)の1 つであるVNAV進入方式を採用しています。航空機の飛行管理システム(FMS: Flight Management System) に組み込まれている VNAV(Vertical Navigation)という航法プログラムを利用して、静止衛星によ る GPS 機能で航空機を自動制御で進入、着陸させます。ILS 進入方式は精密計器進入方式で、VNAV 進入方式は非精密計器進入方式です。図.3 からもわかるように、VNAV 進入方式は高度を高くとれ て、地表面の騒音を低減させることができます。 

 

Q: 落下物の問題についてはどんな対策がとられているのですか?

 

A: 航空機の進入段階では、降着装置(Landing Gear)やフラップ(Flap)、操縦舵面の操作で飛行形態 (Flight Configuration)が頻繁に変わります。政府は航空各社に飛行前の整備と点検の徹底を 要請していますが、落下物を完全になくすことは不可能といわざるを得ません。

 

Q: 航空各社やパイロットの団体は VNAV 進入方式についてどのような意見をもっているのですか?

 

A: VNAV は航空機の高度な自動化システムの1つです。高度な自動化に対して一般社会にさまざまな意見 があるように、VNAV に対しても航空界の各組織は立場によってさまざまな意見をもっています。 

  例えば JAL や ANA などの航空会社は、パイロットも含めて VNAV 進入方式に反対の意見を示していませ ん。むしろ、騒音の低減だけでなく安全性をも向上させるシステムと歓迎しています。新進入コースの開 設に関する政府の審議会には JAL のパイロット経験者も参画していますが、特に反対の意見は述べて いないようです。政府は、わが国の航空会社やパイロット経験者の意見を踏まえてプロジェクトを積極的 に推進しています。

 

Q: VNAV 進入方式については安全性に問題があるという意見もあるのですか?

 

A: わが国には「日本の常識は世界の非常識」という格言があります。VNAV 進入方式についても例外 ではないようです。VNAV や LNAV(Lateral Navigation)といった高度な自動化システムは、ボーイング 757 やエアバス A320 といったハイテク航空機の FMS に初めて組み込まれました。それ以来、VNAV や LNAV がもたらすヒューマンファクターの問題で数多くの事故やインシデント、ヒヤリハットが報告されています。ヒューマンファクタ ーの問題というのは、VNAV や LNAV の設計の複雑さでパイロットや航空管制官が深刻なヒューマンエラーを引き 起こすというものです。ICAO や IATA、FAA、EASA、NTSB といった世界の航空界の主要な組織は、 VNAV 進入方式に対して安全上の疑念をもっています。ボーイングやエアバスなどの航空機メーカーは問題が あるという立場をとっていませんが、システムを開発した立場では当然ともいえます。弊社代表は、 JAL の技術研究所や総合安全推進室に在籍している時にハイテク航空機の自動化システムのヒューマンファクター問 題を精力的に調査、研究しました。多くの情報を通じてわが国の航空界に報告しましたが、現在 の航空界では活かされていないようです。

 

Q: ICAO や FAA、EASA といった航空当局(Aviation Authority)は、ボーイングやエアバスなどの航空機メー カーに対して自動化システムに関する規制をしているのですか?

 

A: ICAO は、国際航空法ともいうべきシカゴ条約付属書(ICAO Annex 1~18)の全編に「人間の能力(Human Performance)と限界(Human Limitations)を考慮すべき」というヒューマンファクターの要件を追加して います。加盟国の航空当局である FAA と EASA も、これに呼応して自国の航空法を大幅に改訂しま した。今や、人間中心の考え(Human-centered Concept)でなければ民間航空機を製造すること も、運航することも、整備することも、管制することもできなくなっています。FAA とボーイングは、 ヒューマンファクターの要件を満足させるために AQP(Advanced Qualification Program)という革新的な 安全管理方式を開発しました。パイロットや整備士、客室乗務員、ディスパッチャー、管制官などの航空界 の要員にトップダウン思考による問題解決能力を付与するためです。高度で複雑な自動化システムに起因 するヒューマンファクターの諸問題は、トップダウン思考でなければ解決できません。

 

Q: 政府やわが国の航空界は AQP を念頭に置いたうえで新進入コースを開設したのですか?

 

A: 残念ながら、そうはいえません。つい最近、わが国の航空界で活躍する現役パイロット(機長)が弊 社を訪れました。目的は AQP について弊社の見解を詳しく聞くためです。優秀で意欲のあるパイロットで、2時間ほどの説明で AQP の主旨をほぼ理解していただけました。AQP の英文の文献は数多 くありますが、日本人の文化では主旨を理解しにくいようです。わが国の航空界は遅ればせなが ら AQP について学び始めていますが、トップダウン思考を促しているという主旨までは理解していな いようです。

 

Q: 政府がこのプロジェクトを積極的に推進する理由は何だと思いますか?

 

A: ひと言でいえば、図.4 だと思います。図.4 は最近よく目にする図で、「最近 20 年の G7 各国の国 民1人あたりの GDP の推移」を表わしています。G7 の中でわが国の経済成長だけが低迷している ことがよくわかります。戦後、主に工業立国として経済発展してきたわが国は、その座を韓国や 中国、東南アジア諸国に奪われました。政治家や政府は、わが国を観光立国や金融の拠点として発 展させることで経済復興を目指そうと考えています。それにはわが国へのインバウンド旅客を増加さ せる必要がありますが、ボトルネックになったのが表玄関である羽田空港の発着枠の不足でした。羽田 空港の発着枠が不足している理由は他にありますが、政府はそれを無視して新進入コースの開設で発 着枠を増やそうと考えました。切掛けの1つが元東京都知事の「鶴の一声」でしたが、航空や経 済の専門家ではありませんので無理もありませんでした。

 

Q: 新進入コースを開設すればなぜ発着枠を増やせるのですか?

 

A: 図.2 の羽田空港の滑走路の形状を見ればよくわかります。従来の進入コースでは2本の滑走路が平 行ではないために平行進入(Parallel Approach )ができません。新進入コースではそれができます。 平行進入とは、2本の平行滑走路(羽田の場合には 16L と 16R)を同時に使って短時間間隔で航 空機を頻繁に進入、着陸させる管制方式です。発着枠を増やすために世界の主要ハブ空港のほとん どで行なわれている方式ですが、優秀な航空管制官が数多く必要になります。政府がそこまで考 えて新進入コースの解説を決断したかどうかは疑わしいとしかいえません。

 

Q: 政府の方針は、何か懸念されるのでしょうか?

 

A: これからが肝心な話です。「羽田空港の発着枠が不足している理由は他にあります」と前記しまし た。政府はこのことを無視して新進入ルートを開設しました。率直にいって、羽田空港の発着枠が海 外の主要ハブ空港にくらべて少ないのは、わが国の航空管制官の英会話能力だけでなく、トップダウ ン思考の問題解決能力に問題があるからと考えられてきました。さらに現代の航空管制官には、航 空機の高度な自動化システムに関する知識や問題の予知能力、早期の問題解決能力などが要求されて います。VNAV 進入方式と平行進入方式を同時に処理できる航空管制官を養成するには、従来のボ トムアップ思考の教育、訓練では難しいといえます。わが国の航空界には、AQP が従来のボトムアップ思 考の教育、訓練に代わる変わる、トップダウン思考の革新的な教育、訓練であるという認識がないよ うです。この責を航空界だけに負わせるのは酷かも知れません。わが国のこれまでのボトムアップ思 考の教育体系や人事システムを根本的に見直す必要がありそうです。

 

Q: そのことは図.4 にも現われているというのですか?

 

A: 弊社は図.4 について一般とは異なる見解をもっています。わが国以外の G7 のメンバー国は、すべて 民間航空機の製造に関わっている国です。安全な民間航空機を市場に出すには、FAA や EASA の型 式証明(TC: Type Certificate)の取得が不可欠です。それには、前出のシカゴ条約付属書にある 「人間の能力(Human Performance)と限界(Human Limitations)を考慮すべき」というヒューマンフ ァクターの要件を理解できなければなりません。残念ながら、わが国の知識人にはそれができません。 ヒューマンファクターの要件を理解して実践するにはトップダウン思考が必要だからです。つまり、わが国の経 済が他の G7 メンバーにくらべて低迷しているのは「わが国の国民がトップダウン思考の問題解決をでき ずに効率的な経済活動ができないから」といえます。

 

Q: わが国の経済の低迷を解決するにはどうすればいいのですか?

 

A: それは大変な難題といえます。政府の方針透りにこのまま新進入ルートを運用すれば、羽田空港は「世 界で最も危険な空港の1つ」という烙印を押されかねません。そうなれば、わが国は各国から敬 遠されてますます経済が低迷することになります。回避するには、わが国の航空界が AQP の主旨 を早く理解して羽田空港を安全な空港として世界にアピールするしかありません。新進入ルートを断念 することも選択肢の1つかも知れません。弊社を訪れたパイロットのように、優秀で意欲のある若い 人材がわが国を改革してくれることを期待しています。この方には、「AQP の勉強会」を創って航 空界に AQP の正しい概念を広める先鋒に立っていただきたいとお願いしました。 

本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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羽田への都心上空飛行
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2022/05/20

HuFac Solutions, Inc.

知床観光船が沈没

2022-05-20

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2022 年 4 月 23 日、乗客・乗員 26 人を乗せて斜里町ウトロを出港した観光船業者「知床遊覧船」の 観光船「KAZU1」が「エンジンが停止して船体前部が浸水して 30°近く傾いている」と通報したまま 知床半島の沿岸で沈没しました。現在、14 人の死亡が確認され、残り 12 名が行方不明になって います。通報があった場所の近くで船体が水深 120 メートルの海底に沈んでいることがわかり、国交 省が引き揚げを検討しています。事故当時の現地は波浪 3 メートルの悪天候でした。KAZU1 は前年の 5 月と 6 月にそれぞれ浮遊物との衝突と浅瀬への座礁を経験しています。

 

Q: 事故原因は何だと思いますか?

 

A: マスコミなどは事故を起こした観光船業者の安全管理(Safety Management)の杜撰さを指摘していま す。ですが、このような抽象的な指摘では適切な対策は生まれません。より具体的な表現をすれ ば、原因は「ボトムアップ思考の安全管理による失敗」といえます。

 

Q: ますますわかりにくくなりますが、もっとわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: それでは、順を追って説明します。事故には直接原因(Direct Cause)と間接要因(Contributing Factor)があります。直接原因は現況検分や事情聴取といった調査でわかりますが、間接要因を 知るにはヒューマンファクターや技術を含む事故調査のための専門知識が必要です。NTSB などの欧米先進国 の事故調査機関は間接要因まで調査して勧告しますが、わが国の事故調査機関は直接原因しか調 査しません。この事故でも運輸安全委員会(JTSB)が調査に当たっていますが、間接要因までは 調査しないと思われます。

 

Q: 事故の直接原因は何だと思いますか?

 

A: 船体を引き揚げて精査しなければわかりませんが、可能性はいくつか考えられます。① 前年の事 故で損傷した船体を不適切な修理方法で修理したために、高波による船体の曲げや捩じれで修理 箇所が開口してしまった、② 高波で岩礁と衝突して、新たな亀裂が生じた、③ 船体の損傷はな かったが高波で浸水した、などです。確率は低いと思いますが、④ 他国の潜水艦との接触で船体が損傷して浸水した、という可能性も完全には否定できません。業者が当初主張していた鯨との 衝突は考えなくてもよさそうです。

 

Q: ①が原因だとすれば、ボトムアップ思考はどのように関与するのでしょうか?

 

A: ボトムアップ思考とは視野が狭く浅い考え方です。KAZU1 の修理はボトムアップ思考による不適切な方法 で修理された可能性があります。現在の小型船舶や漁船の多くは、船体が繊維強化プラスティック(FRP: Fiber Reinforced Plastics)や CFRP(炭素繊維強化プラスティック、Carbon Fiber Reinforced Plastic)、 あるいはそれらを高分子接着剤で重ね合わせた複合部材(Composite Material)で造られていま す。これらの部材は軽重量ながら金属に優る強度があり、加工が容易であるためです。その半面 で修理が非常に難しいのですが、船舶の専門誌や Youtube ではオーナーでも DIY(Do It Yourself) でできる簡便な修理法が紹介されています。KAZU1 を修理した修理業者はボトムアップ思考でこの簡 便法で修理した可能性があります。最近では、航空機や宇宙ロケットにも CFRP や複合部材が使われて います。ですが、修理と点検が難しく電導性に難があるために、安全を重視する民間航空界は採 用に慎重でした。最初は安全にあまり影響しない操縦舵面などの2次構造(Secondary Structure) にしか採用しませんでした。主翼の桁や胴体といった主要構造(Primary Structure)に採用され たのはボーイング 787 が最祖です。航空機や宇宙ロケットの CFRP や複合部材には厳格な修理方法が規定 されています。小型船舶や漁船の修理をトップダウン思考で考えるなら、高波で大きな曲げや捩じり の応力がかかることを想定して航空機や宇宙ロケットで採用されている正規の修理法を採用すべきで す。可能性があるからです。船舶の専門誌や Youtube で紹介されている簡便な修理法を安易に信 じてしまうのはボトムアップ思考といえます。船舶の安全の監督当局がトップダウン思考で考えることが できたなら、事前に規制できたはずです。①が原因だとすれば、すでに簡便法で修理されている 多くの小型船舶や漁船にも影響が及ぶと思われます。

 

Q: ②とボトムアップ思考の関連はどうですか?

 

A: 船舶の船員、特に船長には障害物の監視義務があります。他の船舶や水面の浮遊物など、目に見 える障害物しか監視できないのが視野の狭いボトムアップ思考です。船長には、目に見えない水面下 の岩礁や浅瀬を見通す視野の広いトップダウン思考の監視が要求されます。目視が難しいなら、レーダ ーやソナーなどの技術を有効に活用できなければなりません。

 

Q: ③とボトムアップ思考の関連はどうですか?

 

A: 船舶は横波を受ければ浸水しやすくなります。予想できない高波に遭遇した場合には、横波を避 けながら航行する操船技術が必要になります。ヨットは逆に横風をうまく利用しながら風向に斜めに 航行します。ヨットの操船技術まで視野を広げられるのがトップダウン思考で、できないのがボトムアップ 思考です。船舶にはそれぞれ操船技術だけでは克服できない高波の高さがあり、「運用限界」とし て規定されています。運用限界と波浪注意報をうまく勘案できるのがトップダウン思考であり、でき ないのがボトムアップ思考です。

 

Q: ④とボトムアップ思考の関連はどうですか?

 

A: 現在のロシアによるウクライナ侵攻を考えると、ロシアの潜水艦が国境周辺海域を監視潜航している可能性が 皆無とはいえません。ハイワイにおける米原子力潜水艦とわが国の水産訓練船「えひめ丸」の衝突事 故の例もあります。そこまで考えられるのがトップダウン思考であり、考えられないのがボトムアップ思 考です。

 

Q: ①~④の間接要因としては何がありますか?

 

A: 社会には空運や陸運、海運など乗客の生命の安全を預かって営業している企業が数多くあります。 これらの企業や安全管理を指導監督する当局には、広い視野と深い洞察力のトップダウン思考で安全 をマネージできる人材が不可欠です。ですが、わが国にはそのような人材が決定的に不足していなす。 ボトムアップ思考で安全管理していることに気づかない人も多くいます。今般の KAZU1 の事故が、わ が国におけるそのような間接要因の存在を実証しています。

 

Q: 欧米先進国は安全管理をどのように考えているのですか?

 

A: 安全管理の考えが最も進んでいるのが欧米先進国の民間航空界です。国連の国際民間航空機関 (ICAO)はシカゴ条約付属書(ICAO Annex)を通じて世界の民間航空界に「トップダウン思考の安全管 理」を普及させています。わが国の民間航空界はそのことに気づいていません。

 

Q: ICAO が指導している「トップダウン思考の安全管理」とは、わかりやすくいえばどういうことですか?

 

A: 一言でいえば、「法規制による安全管理(Regulatory Safety)からの脱却」です。弊社代表はか つて、関西大学の法学研究所に招かれてこのテーマで講演をしたことがあります。

 

Q: 「法規制による安全管理」とはどういうことですか?

 

A: わが国がこれまでに行ってきた「マニュアル主義の安全管理」です。安全に必要な事項をマニュアルに規定 するとか法制化することで「一件落着」としてしまいます。マニュアルや法律の数を増やすだけで、現 場で実際に遵守されているかどうかは頓着しません。企業の組織づくりでも、安全推進部門を置 いて安全担当者を指名すれば安全が担保されると安易に考えます。形だけの安全推進部門が有効 に機能することはありません。わが国の安全行政でも、運輸安全委員会(JTSB)を法律で設置し て国立大学教授経験者を委員長に任命すれば格好がつくと安易に考えています。わが国の国立大 学の教授は企業の安全の現場からは最も遠い位置にいて、「トップダウン思考の安全管理」を指導する ことはできません。著名な経済学者である P.F.ドラッカー氏は、わが国の組織を「野球型の組織」と 称したことがあります。守備範囲外の業務には責任を感じないというボトムアップ思考の組織です。 これに対して組織の業務の全般に視野を広げて責任をもつ組織がトップダウン思考の組織です。ドラッ カー氏は「サッカー型の組織」と称しています。「法規制による安全管理」は明らかに「野球型の組織」 の安全管理といえます。

 

Q: ICAO は具体的にどのように「法規制による安全管理からの脱却」を指導しているのですか?

 

A: ICAO Annex 1 の「要員の資格要件(Personnel Licensing)」で、安全管理者やパイロット、整備士、客室乗務員、ディスパッチャー、航空管制官にはトップダウン思考の人材を採用すべきと規定しています。 「トップダウン思考の安全管理」を訓練するのが CRM(Crew Resource Management)です。米国や英 国はさらに革新的な AQP(Advanced Qualification Program)を開発して実践しています。もは や、「ボトムアップ思考の安全管理」のわが国の航空界で育ったパイロットや整備士は欧米先進国の航空会 社で職を得ることはできません。逆に、欧米先進国のパイロットはわが国の航空会社で数多く働いて います。

 

Q: ディスパッチャーという用語は耳慣れませんが、どのような要員ですか?

 

A: 気象予知や航空機の重量管理などの知識をもっていて、適切な飛行計画を作成して機長にアドバイ スする重要な任務を負っている要員です。 Q: ICAO が規定する Safety Officer の資質をわかりやすく解説している書類はありますか? A: あります。1984 年に刊行された ICAO 事故防止マニュアル(ICAO Accident Prevention Manual)です。 このマニュアルでは、トップダウン思考で組織の安全管理を指導できるリーダーの能力や資質が詳細に解説さ れています。Safety Officer に「法規制による安全管理からの脱却」を委ねていることは言うま でもありません。ICAO 事故防止マニュアルは現在、他のマニュアルに統合されたようですが、趣旨は今でも 活かされています。

 

Q: ICAO 事故防止マニュアルがわが国の航空界に普及しない理由は何だと思いますか?

 

A: 最大の理由は、トップダウン思考の意味がよく理解されないことだと思っています。元来、わが国の 国民は哲学や理念を理解することが苦手といわれています。トップダウン思考についても、「上意下達」 としか理解できないようです。必ずしも精確な説明とはいえませんが、ボトムアップ思考はキリスト教が 説いていた「天動説」で、トップダウン思考はコペルニクスが唱えた「地動説」と考えればわかりやすいか も知れません。

 

Q: 航空界における ICAO の活動は理解できましたが、海運界との繋がりはあるのですか?

 

A: 大いにあります。国連には ICAO の他にも国際海事機関(IMO: International Maritime Organization )という機関があります。これらの機関は国連の中で横の繋がりをもっていて、ICAO - 5 - の安全管理の考えは IMO にも伝えられています。IMO も当然、ICAO と同じ「法規制による安全管 理からの脱却」を目指しています。つまり、世界の海運界も「トップダウン思考の安全管理」を理解 して実践しなければならない状況になっているといえます。

 

Q: わが国の政府では、どこが IMO の活動をフォローしているのですか?

 

A: 海の安全は国交省の海上保安庁が担当していますが、IMO の活動は運輸安全委員会(JTSB)がフォロ ーしています。ですが、JTSB の活動からは JTSB が ICAO や IMO が指導方針を的確に理解している とは思えません。

 

Q: JTSB が IMO の指導方針を的確に理解できていないといえる根拠はどこにあるのですか?

 

A: いくつかありますが、安全管理の資質に乏しい知床遊覧船の社長を運航管理者に指名している点 が最もわかりやすい根拠です。ICAO や IMO は、ICAO 事故防止マニュアルで規定している Safety Officer の資質を有する人材を組織の安全責任者や運航管理者に指名して強い権限をもたせるよう指導し ています。そのために、わが国の航空会社の社長は統括安全責任者という肩書きをもっています。 知床遊覧船の社長も、当局から運航管理者に任命されて強い権限を与えられていました。当局は 知床遊覧船の社長の能力や資質を十分には確認していなかったようです。社長は安全について深 く考えずに利潤だけを考えて悪天候の予報下で KAZU1 を出航させてしまいました。船長も CRM 訓 練を受けていれば社長に異論を唱えられたはずですが、当局は船長に CRM 訓練を課していなかっ たようです。当局が ICAO や IMO の方針を正しく理解できずに社長を安易に運航管理者に指名した ことが、裏目に出てしまったようです。

 

Q: JTSB が事故の間接要因まで調べて、わが国の安全管理の変革を勧告すると思いますか?

 

A: 残念ながら、それは期待できません。ICAO や IMO は、各国の事故調査機関に当局から独立して中 立を保つよう求めています。米国の NTSB などとは異なり、わが国の JTSB は当局である国交省に 属しています。JTSB がトップダウン思考の安全管理を理解できていれば立場を超越することも不可能 ではありませんが、現実には望める状況にはありません。このままでは、わが国で同じような事 故の再発を防くことは難しいようです。

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2022/05/15

HuFac Solutions, Inc.

ロシアのウクライナ侵攻

2022-05-15

 

Q: 表題の出来事もトップダウン思考で解決できるのですか?

 

A: 解決にはまだ時間がかかると思いますが、トップダウン思考で冷静に分析すれば解決のための手掛か りを見つけることができます。本年1月に、弊社代表が読者のある方に誘われて大学の同窓会の 1つに参加しました。その同窓会は社会で活躍された方々の集まりのようです。社会の諸問題を テーマに参加者が交替で講演しているそうです。弊社代表は初参加の挨拶を求められましたので、ホ ームページで「世界で唯一、トップダウン思考による問題解決を提案している会社」を謳っている弊社の 活動を紹介させていただきました。その後、幹事の方から講演を依頼されましたので、4月に「ト ップダウン思考の問題解決 - リーダーに求められる能力 -」という演題で講演させていただきました。 講演の最後の部分で、「トップダウン思考で解決すべき問題」として「ロシアのウクライナ侵攻」を挙げました。 するとある方から、「トップダウン思考とはロシアのプーチン大統領のような考え方か?」という鋭い質問が 投げかけられました。もちろん「ノー」と応えました。加えて、1992 年のソ連崩壊は国連の ICAO が 1989 年にソ連のレニングラード(現在のセントペテルスブルグ)でソ連における初めての国際シンポジウムとして開 催した ICAO ヒューマンファクター国際シンポジウムが切掛けといえることを話しました。ICAO があえてレニングラー ドで国際シンポジウムを開催したのは、ボトムアップ思考の全体専制主義に喘いでいたソ連の社会にヒューマン ファクターというトップダウン思考の安全管理の新風を吹き込むためでした。当時レニングラードの副市長であ ったプーチン大統領は、大きな衝撃を受けるとともに敗北感を抱いたと思います。現在ウクライナで行な われている戦争は、トップダウン思考による政治体制の米国、英国、フランスなど西側自由主義諸国とボ トムアップ思考による政治体制のロシアや中国、北朝鮮など東側全体専制主義国家の争いともいえます。

 

Q: なぜ、西側自由主義諸国の政治体制がトップダウン思考で、東側全体専制主義国家の政治体制がボトム アップ思考といえるのですか?

 

A: トップダウン思考の安全管理であるヒューマンファクターの理念を例にとれば理解し易いでしょう。ヒューマンファクター は、「誰が正しいのか(Who is right?)」ではなく「何が正しいのか(What is right?)」を重視 します。航空機のパイロットや整備士のためのヒューマンファクター訓練である CRM(Crew Resource Management ) でも、「アドボカシー(Advocacy)」という用語の意味を重点的に教えます。アドボカシーとは「上司の考 えが間違っていれば、部下が勇気と信念をもって正しい考えを主張すべき」という意味です。わ が国の航空界ではアドボカシーを「決意の表明」などと訳していますが、これでは正しく理解されて いるとはいえません。わが国の社会では、「部下は上司の指示に逆らうべきではない」というボト ムアップ思考の組織風土が今でも色濃く残されています。ロシアでも、プーチン大統領の考えがおかしいと 批判できない雰囲気が社会を支配しているようです。トップダウン思考の政治体制である西側自由主 義諸国は、ボトムアップ思考の全体専制主義国家を勝たせてはならないと必死に抵抗しています。台 湾や香港の民衆も、全体専制主義の中国に支配されることを嫌って戦い続けています。わが国や 韓国の社会も、ロシアのウクライナ侵攻でようやく全体専制主義の怖さに気づいたようです。 

 

Q: ICAO はなぜ、トップダウン思考の安全管理であるヒューマンファクターを世界に広めているのですか?

 

A: それに応えるには、第二次世界大戦後に戦勝国である米国や英国、フランスが設立した国際連合 (United Nations)の歴史を話さねばなりません。ソ連と中国も戦勝国ですが、国連の設立にはあ まり関わっていません。米国や英国、フランスは、戦後の世界平和を実現するには民間航空の発展に よる各国の国際交流が不可欠と考えました。国連設立の直後に締結されたのがシカゴ条約であり、 国際民間航空機関(ICAO)はシカゴ条約により設立されました。国連や ICAO の設立の中心になった のが米国でニューディール派とよばれた人達でした。ニューディール派の人達はトップダウン思考による国家運営 を理想に掲げました。新日本憲法はニューディール派の人達が戦後のわが国で理想を実現するために制 定したといわれています。皮肉にも、ボトムアップ思考のわが国の一部の政治家や国民は、トップダウン 思考の考えによる理想的な新日本憲法に「息苦しさ」を感じ始めています。米国のニューディール派の 人達のトップダウン思考の考えは、バイデン大統領を中心とする米国民主党の政治家たちに受け継がれ ています。ICAO でヒューマンファクターを積極的に広めているのは ICAO ヒューマンファクター研究グループです。国際 航空法ともいえるシカゴ条約付属書(ICAO Annex)にヒューマンファクターの要件を追加するなど、航空界の 変革に積極的に取り組んでいます。ICAO ヒューマンファクター研究グループは安保理でいえば常任理事国に相 当する重要な存在です。当初のメンバーは米国と英国、フランス、カナダでした。安保理の常任理事国であ るロシアと中国は除外されていました。途中で日本にもメンバーに加わるよう勧誘があり、弊社代表が 航空局(JCAB)に進言してメンバーに加わることになりました。弊社代表はメンバーの補佐としてアドバ イザーを務めました。 

 

Q: ところで、ロシアのプーチン大統領はなぜウクライナに侵攻したのでしょうか?

 

A: その理由も、トップダウン思考でなければ分析できないでしょう。Youtube では、マスコミに登場してい るロシア問題の専門家と子供たちの対談が放映されています。子供たちも専門家に同じ質問をしてい ますが、ボトムアップ思考の専門家は「確定的な理由はわからない」としか返答できていません。トッ プダウン思考で考えれば、プーチン大統領が「米国や NATO(北太平洋条約機構)がロシアの安全を脅かし ている」という発言していることにヒントを見つけることができます。

 

Q: プーチン大統領の発言がなぜヒントになるのですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、発言の論理的な矛盾にすぐに気づきます。米国や NATO が何の理由もな くロシアの安全を脅かすはずはありません。同じ矛盾は、北朝鮮の金政権が核爆弾を開発する理由と している「米国が北朝鮮の安全を保障してくれないから」という発言にも見られます。米国が北 朝鮮という国家を占領しようとしているとは考えられません。プーチン大統領や金政権が恐れている のは国家の危険ではなく個人的な「身の危険」と考えれば、矛盾はすべて解消します。

 

Q: プーチン大統領や金政権が恐れている個人的な「身の危険」とは具体的に何でしょうか?

 

A: 残念ながら、弊社の立場ではまだ具体的に口にすることはできません。ですが、米国や西側諸国 は情報戦の一環として最近になって一部を徐々に公表し始めています。米国をこれまで世界のリー ダーに押し上げたトップダウン思考の指導者たちは、「Justice(公正と公明)」を何よりも重要視して います。全体専制主義体制国家の指導者の不正を決して許すことはありません。この考えは米国 の共和党よりも民主党が顕著といえます。プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたのも、米国の政権が 不正に寛容なトランプ大統領から厳しいバイデン大統領に替わったことが切掛けとも考えられます。

 

Q: わが国には「ウクライナの民間人の生命を護るためにはウクライナはロシアに早く降伏すべき」と主張する評論 家もいるようですが・・・?

 

A: プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めた理由を考えれば、この主張が如何に現実性に欠けるものかわか るはずです。米国や西側諸国は当然その理由を知っていますので、プーチン大統領を勝利させる形で 紛争を終息させることはありません。終息には時間がかかるかも知れませんが、世界は耐えてそ れを待つしかありません。わが国はその間にトップダウン思考とは何かを理解しなければ、世界のリー ダーになる機会を逃すことになります。 

 

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2022/03/27

HuFac Solutions, Inc.

中国東方航空機が墜落

2022-03-27

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2022 年 3 月 21 日、中国の昆明発広州行きの中国東方航空 5735 便(ボーイング 737-800)が広西チワン 族自治区・梧州付近で墜落しました。この便には乗客 123 名、乗員 9 名の 132 名が搭乗していま した。事故機は2015年6月に製造された機齢7年の機体です。エンジンはCFM インターナショナル製のCFM56-7B が搭載されていました。民間航空機の速度や高度、飛行経路をモニターしているフライトレーダー 24 の ADS-B データによれば、5735 便は梧州付近で 29,100 フィートの高度を巡航していました。3 月中の運航状況か ら判断すれば、事故機は梧州付近を通過後に降下するために降下の準備態勢に入っていたとみら れています。

 

Q: 墜落前の事故機の飛行状況はわかっているのですか?

 

A: 飛行記録装置(FDR)はまだ発見されておらず、発見された操縦室音声記録装置(CVR)もまだ解 読されていませんが、フライトレーダー 24 の ADS-B データからある程度の状況を推測できます。事故機は 現地時間 13 時 10 分に昆明を出発して 15 時 05 分に広州に到着する予定でした。フライトレーダー 24 の データには、事故機が離陸後に 8400 フィートまで上昇した 13 時 16 分から記録が残っています。11 分 後の13時27分に巡航高度の約2万9000 フィートに達しました。異変が起きたのは14時20分でした。 2 万 9100 フィートを飛んでいた事故機は 14 時 20 分 43 秒に高度を下げ始めて、21 分 55 秒に 7425 フィ ートまで降下しました。わずか 1 分 12 秒で 2 万 1675 フィート(約 6600 メートル)、1 秒あたり 301 フィート(91.7 メートル)を急降下したことになります。その後 22 分 5 秒に 8600 まで上昇して、再び 3225 フィートまで 急降下しました。22 分 35 秒で記録が途切れています。図.2 の右図は時間と高度のグラフですが、 距離と高度に換算すればほぼ垂直の急降下であることがわかります。

 

Q: SNS では事故機が地面に激突する寸前の映像が拡散されているそうですね?

 

A: 墜落現場から 1 キロ 離れた場所にある工場の監視カメラに記録された映像のようです。映像には、事 故機が機首を下に向けてほぼ垂直に急降下する様子が記録されています。

 

Q: 発見された CVR は解読できるのでしょうか?

 

A: FDR と CVR は 1000 G の衝撃にも耐えるように設計されています。墜落後の火災による熱でも損傷 することはありません。ですが、CVR に事故原因を明確に特定できる音声が記録されているかど うかは不明です。事故調査には中国航空当局の他に米国の FAA やボーイングが参加しています。

 

Q: わかっている情報で何か推測できますか?

 

A: トップダウン思考で推測してみます。巡航高度 2 万 9100 フィートから急降下をしていることから、14 時 20 分 43 秒に何らかの異常が起きたと推測できます。

 

Q: 異常とはどのようなものでしょうか?

 

A: 図.3 の工場の監視カメラの映像の事故機の部分を拡大すれば、ある程度推測できます。図.4 が拡大 した映像です。この映像からは事故機の尾部がなくなっていることがわかります。垂直尾翼 (Vertical Stabilizer)に描かれている中国東方航空のロゴマークがまったく確認できません。少なくとも、事故機の垂直尾翼はこの時点で離脱していたことになります。水平尾翼(Horizontal Stabilizer)も離脱しているように見えます。

 

Q: 垂直尾翼や水平尾翼はどの時点で離脱したのでしょうか?

 

A: それを解明できるヒントが、フライトレーダー 24 のデータからわかる「事故機が 7425 フィートまで急降下した後 に 22 分 5 秒に 8600 まで再び上昇した」という事実です。急降下の途中で事故機を上昇させるに は水平尾翼に付いている昇降舵(Elevator)が必要です。少なくとも、水平尾翼と昇降舵が離脱 したのは急降下の途中で上昇した 22 分 5 秒の後と推測できます。すなわち、事故機が巡航高度 2 万 9100 フィートから異常な急降下を開始したのは水平尾翼や昇降舵の異常が原因ではないといえま す。垂直尾翼が離脱した時点はわかりません。

 

Q: 消去法で考えれば、事故機が巡航高度 2 万 9100 フィートから急降下を開始した原因は垂直尾翼を離脱 させた何らかの不具合ということになりますか?

 

A: そういうことになります。垂直尾翼には方向舵(Rudder)が取り付けられていて、巡航時にはダ ッチロールや長周期振動を防ぐためのヨーダンパー(Yaw Dumper )として油圧で自動制御されます。ヨーダ ンパーの触れ幅は±5°程度ですが、方向舵が高速飛行時にこれを越える異常な動きをすれば垂直 尾翼が破損して離脱することがあります。いいかえれば、「方向舵の異常な動き」がこの事故の原 因である可能性が大きいと推測されます。

 

Q: 「方向舵の異常な動き」の要因としては何が考えられますか?

 

A: これまでのボーインク 737 の事故記録などから、2つ考えられます。① 方向舵の駆動システムの故障によ る方向舵の異常振動や暴走(Runaway)と、② パイロットのエラーによる方向舵の不意の作動です。

 

Q: ①はどういうことですか?

 

A: 方向舵は油圧作動筒(Hydraulic Actuator )で動かされます。過去に設計不良による油圧作動筒 の異常振動や暴走で垂直尾翼が離脱してボーイング 737 が墜落するという事故が続いたことがあり ます。ボーイングは FAA の耐空性改善命令(AD)ですべての 737 の油圧作動筒を新設計のタイプに交換 しました。新設計のタイプでも異常が起きた可能性を完全には否定できません。

 

Q: ②はどういうことですか?

 

A: 2011 年 9 月 5 日に ANA140 便(ボーイング 747-700)で起きた重大インシデントと同種の急降下が事故機で 再現した可能性があります。事故機も ANA140 便と同じように、梧州付近を通過後に降下するため に降下の準備態勢に入っていましたと推察されます。ANA140 便の重大インシデントでは、降下開始直 前にトイレを使用して操縦室に戻ろうとした機長のために操縦していた副操縦士が操縦室ドアを明け ようとしました。この時に、副操縦士がドアロックセレクター(Door Lock Selector)と間違えてラダートリム スイッチ(Rudder Trim Switch)を操作してしまいました。方向舵が不意に作動して、機体を錐もみ 状態(Spin)に陥らせました。ANA140 便は奇跡的に異常姿勢から脱出できましたが、事故機は脱 出に失敗して垂直尾翼と水平尾翼を離脱させた可能性もあります。ANA140 便では、機長は異常姿 勢から脱出まで操縦室に入ることができませんでした。最近の操縦室ドアは、ハイジャック防止のため にパイロット自身が開閉するように変更されています。

 

Q: 副操縦士がドアロックセレクター(Door Lock Selector)と間違えてラダートリムスイッチ(Rudder Trim Switch) を操作した原因は何だったのですか?

 

A: 2つのスイッチの操作方法は似かよっています。図.6 は操縦室の中央にあるペデスタル(Pedestal)と いう台に取り付けられた2つのスイッチの位置です。副操縦士が以前に乗務していた機種では右図のような位置でした。ところが、ANA の 737-800 では左図のようになっていました。そのために、 従来乗務していた機種のドアロックセレクターと似かよった位置に取り付けられている 737-800 のラダートリム スイッチを無意識に操作してしまいました。まさにヒューマンファクターの問題といえます。図.6 の右図のよう な位置では間違えやすいと考えた設計者が2つのスイッチの位置を変更したことがかえって新しいエラ ーを生んでしまいました。何とも皮肉な結果といえます。

 

Q: 中国東方航空の 737-800 では、2つのスイッチの位置はどうなのですか?

 

A: 詳細はわかりません。なぜなら、ペデスタルにおけるスイッチ類の位置はエアラインオプション(Airlines Option) といって航空会社の意向により異なるからです。中国東方航空のパイロットも、ANA のパイロットと同じ ような状況に置かれている可能性もあります。詳細は中国における公式の事故調査で明らかにさ れると思います。

 

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2022/02/20

HuFac Solutions, Inc.

みずほ銀行でシステム障害

2022-02-20

 

Q: どのような障害ですか?

 

A: 2021 年 2 月 28 日、みずほ銀行の全国の ATM(現金自動預け払い機)のうち約 8 割にあ たる 4300 台が稼働しなくなりました。キャッシュカードや預金通帳を取り出せなくなった顧客 取引は累計で 5244 件に達しました。その後も 3 月 3 日と 7 日に一部の ATM や インターネットバ ンキングが使えなくなったほか、11 日夜から 12 日にかけて外国為替のシステムで生じた不具 合で 263 件の送金手続きが滞るなど、ほぼ 2 週間で 4 回のシステム障害が続きました。金融 庁はすぐさま同銀行に検査に入りましたが、この時点ではまだ経営トップの辞任は必要な いのではないとの認識が庁内で優勢でした。しかし、その後も同銀行のシステム障害が 9 月まで断続的に発生しました。金融庁の検査は異例の 8 カ月にわたり、同銀行とみずほ ファイナンシャルグループの経営陣が責任をとって相次いで辞任することになりました。 

 

Q: この事態をどのように考えていますか?

 

A: みずほ銀行はバブル崩壊後に金融機関の強化の目的で第一勧業銀行と富士銀行、日本興 業銀行が統合されてできた銀行です。経済学では、このような企業どうしの統合を M&A (Mergers(合併) and Acquisitions(買収))といいます。欧米先進国の経済学では、M&A に 際してさまざまなヒューマンファクターの問題が生じることが知られています。システム障害は外形的には機器 や部品の不具合が原因と思われていますが、システムを設計して運用、整備、点検するのは人間 です。つまり、システム障害の原因はすべてヒューマンエラーということになります。ヒューマンエラーの裏 には背景要因があります。欧米先進国の経済学者はこれを「M&A のヒューマンファクター」と称して 対応策を研究しています。欧米先進国は経済を担うリーダーをビジネススクールで養成して MBA(経営 学修士)という資格を付与しています。欧米先進国の企業の経営トップの多くが MBA を取得してい ることはいうまでもありません。以前にもお話しましたが、欧米先進国のビジネススクールではヒューマンファクターが必須教課として教えられています。MBA の資格もヒューマンファクターの知識がなければ取得できま せん。わが国にも MBA を養成するビジネススクールがありますが、ヒューマンファクターは教えられていません。 それに、わが国の企業の経営トップには MBA の資格やヒューマンファクターの知識は求められていません。推 測ですが、みずほ銀行の経営トップや金融庁の幹部も「M&A のヒューマンファクター」という言葉があるこ とすら知らないと思います。みずほ銀行でシステム障害が起きている原因は「M&A のヒューマンファクター」 と無関係ではないと思っています。

 

Q: バブル崩壊後に統合した銀行はみずほ銀行だけではなく三菱 UFJ 銀行や三井住友銀行もあります が、なぜみずほ銀行だけでシステム障害が目立つのでしょうか?

 

A: 銀行業務の自動化には、銀行業務を熟知する銀行とコンピュータシステムの開発会社、システムの点検と整備を 担うシステム管理会社の連携が必要になります。銀行業務の自動化では効率と信頼性が求められるの は当然ですが、システムの安全性のための「情報の暗号化技術」といった守秘義務をともなう特殊な 技術も必要になります。みずほ銀行の前身の3行にはそれぞれ一流のシステムの開発会社とシステム管理 会社が伴っていたと思われます。みずほ銀行への合併の後では、それぞれ独自の理念と技術でシス テムの運用に関わっていた9つの一流企業が連携しなければなりません。それぞれが一流で誇りと 自信をもっているだけに、企業間の権威勾配(Authority Gradient)はフラットであると考えられま す。コミュニケーションを円滑にするには、権威勾配が大きすぎてもフラットでもなりません。関係者間の適度 な権威勾配が望まれます。三菱 UFJ 銀行や三井住友銀行でシステム障害が目立たないのは、たまたま 企業間の権威勾配がそれほどフラットではないからだと思います。「M&A のヒューマンファクター」を知ってい て適切なヒューマンファクターの対策を講じているからとは思えません。

 

Q: 欧米の民間航空界でも M&A が盛んに行なわれていますが、システム障害はあるのですか?

 

A: かつての米国の民間航空界では 100 社以上のエアラインが乱立していました。現在では、M&A の積み重ねで アメリカン航空とユナイテッド航空、デルタ航空の3社に集約されています。3社はそれぞれ、ワンワールドとスターアライアン ス、スカイチームというアライアンス(航空同盟)のリーダーでもあります。ここまでに至る過程では、システム障害によ る事故や重大インシデントが起きています。パンアメリカン航空と TWA という大手の航空会社どうしの合併では、 権威勾配がフラットな合併の弊害とも思えるボーイング 747 の燃料タンク爆発事故が起きて倒産に追い込まれま した。米国の民間航空界は早くから「M&A のヒューマンファクター」の重要性に気づいていました。弊社代表がメ ンバーになっていた米国 ATA(航空輸送協会)のヒューマンファクター・タスクフォースでも、「M&A のヒューマンファクター」が活発 に議論されていました。タスクフォースには FAA と NTSB などの国家組織も参加していました。FAA や NTSB は、 アライアンスの指導の下で世界のエアラインがヒューマンファクターを導入することを奨励しています。因みに、わが国の JAL と ANA もそれぞれワンワールドとスターアライアンスに属してアメリカン航空とユナイテッド航空に指導されています。

 

Q: 欧米先進国の経済学者が研究している「M&A のヒューマンファクター」でみずほ銀行のシステム障害の問題が解決する のでしょうか?

 

A: 残念ながら、それは保証できません。なぜなら、弱肉強食の欧米先進国の経済界で行なわれている M&A とそうとはいえないわが国の経済界で行なわれている M&A は必ずしも同じとはいえないからです。国 家ごとの文化や国民性の違いを考慮に入れない安易な手法の輸入が成功するとは限りません。

 

Q: みずほ銀行のシステム障害の問題を解決する方法はないのでしょうか?

 

A: 可能性がまったくないわけではありません。それは、トップダウン思考のヒューマンファクターを実践することです。 弱肉強食の欧米先進国の M&A だけでなく、わが国独特の M&A にも普遍的に適用できるはずです。

 

Q: 「トップダウン思考のヒューマンファクター」とはどういうことですか? 

 

A: M&A の影響は関係者の潜在意識にも深く及んでいると思われます。その影響が思わぬヒューマンエラーを生ん でいる可能性も否定できません。脳の潜在意識の領域まで踏み込むトップダウン思考のヒューマンファクター分析は 潜在意識のヒューマンエラーの背景要因を抽出することができます。そうすれば、組織のあり方の改善など効 果的な対策に結びつく可能性があります。また、トップダウン思考のヒューマンファクター分析は1つのヒューマンエラーか ら多くの類似のヒューマンエラーを予測することを可能にします。そうなれば、その場限りのリアクティブ(Reactive) な対策ではなく抜本的な解決に結びつくプロアクティブ(Proactive)な対策をとれるようになります。欧 米先進国の「M&A のヒューマンファクター」は、必ずしもこのようなトップダウン思考のヒューマンファクターを駆使していると は思えません。

 

Q: みずほ銀行がトップダウン思考のヒューマンファクターを実践するようになるでしょうか?

 

A: 弊社はホームページの冒頭で「世界で唯一、トップダウン思考の問題解決を提唱している会社」を謳っていま す。また、弊社代表が近々わが国のトップリーダー経験者が集うある会合で「トップダウン思考の問題解決 - リ ーダーに求められる能力 - 」と題する講演をさせていただくことになっています。みずほ銀行の関係者 がこのような弊社の活動に気づいてくれることを密かに期待しています。 

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2022/01/10

HuFac Solutions, Inc.

米国の苦渋の選択

2022-01-10

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2021 年 10 月 25 日に起きた米国ワシントンの 7000 系地下鉄車両の脱線事故に関して、これまでに「KHI 製地下鉄車両が脱線」と「技術立国に暗雲」と題するヒューファク安全情報を発信させていただきまし た。これらの安全情報では、①脱線した車両では車輪が車軸の外側にずれているという不具合が 見つかったが、不具合と脱線の因果関係はわかっていない、②これまでも何件か不具合があった が米議会には報告されていなかった、③不快感をもった米議会は少なくとも年末まで 7000 系車両 の運行を停止するよう求めた、④米市民の安全を重視する米議会は原因が解明されないままの 7000 系車両の運行復帰は認めないであろう、などとお話しました。ところが、2021 年の年末に米 国で予想外の事態の展開がありました。その概要についてお伝えしたいと思います。

 

 Q: 脱線の原因はまだわからないのですか?

 

A: わかっていません。7000 系車両で見つかった車輪の外側へのずれは、以前から使用されてる 6000 系車両でも見つかりました。6000 系はフランスのアルストム(Alstom)が製造した車両です。ワシントンの他、 米国のいくつかの都市でも使用されていますが、これまで脱線は1件も起きていません。車輪の 外側へのずれが脱線の直接の原因であるのかわからなくなっています。ワシントン首都圏交通局(WMATA) や川崎重工(KHI)も、このことが理解できずに事態を軽視して米議会に報告していなかったものと思われます。

 

Q: WMATA は今後の対応を検討したのでしょうか?

 

A: とりあえず、7000 系をアムストロム製の 6000 系に置き換えることを検討したようです。ですが、6000 系でも 7000 系と同じ不具合が見つかったことで断念したようです。そこで、車輪のずれを注意深 く点検しながら 7000 系の一部を需要に応じて運行に復帰させることを決めました。現在はコロナ禍 で地下鉄の利用者が減少していますが、経済を回復させるには地下鉄の供給体制を確保しておく 必要があると考えたようです。

 

Q: 「車輪のずれを注意深く点検しながら」とはいえ、7000 系の運行を継続するのはリスクがあるので はないでしょうか?

 

A: その通りです。ワシントンの地下鉄は東京の地下鉄とは大きく異なります。同列に考えるべきではあり ません。東京の JR や私鉄、地下鉄を合わせたような交通機関で、地上を含む長い路線を高速で走 ることもあります。利用者数はニューヨークに次ぐ全米第2位です。利用者にどのように周知するのか わかりませんが、脱線の可能性を知りながら利用するのは「ロシアンルーレット」といえるかも知れません。

 

Q: 米議会は WMATA の決定に納得しているのでしょうか?

 

A: 納得せざるを得なかったものと思われます。米議会は「ある背景」を踏まえて納得したものと推 察されます。

 

Q: 「ある背景」とは、どういうことですか?

 

A: 実は、WMATA はすでに 6000 系や 7000 系の後継として 8000 系の導入を計画していました。2021 年 3 月 17 日にわが国の日立製作所が 8000 系の納入を落札しています。日立の 8000 系には、ブ レーキ時に生じるエネルギーから電気を回収する回生ブレーキや改善された換気システム、リアルタイム情報 などを表示するデジタル画面、防犯のための高性能カメラが装備されます。首都ワシントンを走行 するという特性から、厳格なサイバーセキュリティー対策も施されます。WMATA は、日立の 8000 系を導入するまでの暫定措置として点検しながら 7000 系の運行を継続する選択をしました。米議会 もその選択に同意せざるを得ませんでした。

 

Q: KHI は 8000 系に入札しなかったのですか?

 

A: 入札に参加したかどうかさえも明言していません。一説には、WMATA が KHI の入札参加を敬遠し ていたという話もあります。KHI や WMATA は、見つかっていた 7000 系の車輪のずれから問題の深 刻さに気づいていたのかも知れません。

 

Q: 日立の入札には競争相手はいなかったのですか?

 

A: 中国の国有の鉄道車両メーカーである中国中車(CRRC)が意欲を示していました。CRRC は世界最大の 鉄道車両メーカーです。8000 系の入札では、先進 IT 技術によるデジタル化や炭素繊維強化プラスティクによ る軽量化を計ったハイテク車両を提案していました。

 

Q: 日立の 8000 系の導入で、脱線の可能性はなくなるのでしょうか?

 

A: 弊社は、脱線は鉄道車両の台車への炭素繊維強化プラスティック(CFRP)の大幅な採用と無関係ではな いとトップダウン思考で推察しています。その根拠は、同じように CFRP を大幅に採用している最近の ハイテク航空機でも予想しなかったさまざまな問題に遭遇していることです。KHI は 7000 系の台車を efWING と称していますが、これは同社が航空機製造の技術を採用しているためです。ですが、KHIは CFRP の採用が航空機にさまざまな問題をもたらしているということを知らないようです。日立 も同じような考えで 8000 系の台車の軽量化を計っていると思われます。日立の 8000 系でも、同 じような脱線の問題が起きないとはいえません。

 

Q: WMATA はなぜ CRRC の 8000 系を採用しなかったのでしょうか?

 

A: それには米国の安全保障の問題が関わっています。CRRC が力を注いだ「 ハイテク」が裏目に出た ようです。米議会は「中国製の鉄道車両に搭載された高性能 カメラや位置情報の追跡機器 によって、鉄道車両内の情報が中国側に監視される可能性がある」と指摘しました。「IT 産業におけるファーウェイ問題」の二の舞を懸念したようです。

 

Q: わが国は鉄道車両製造の先進国といわれているのではないでしょうか?

 

A: それは過去の一時期のことと思わねばなりません。鉄道車両の製造では台車の設計が重要とお話 しましたが、現代の台車の原型は英国で発明されました。英国で発明された台車は高速で走行す れば蛇行や異常振動を起こすために、走行速度が永く制限されていました。走行速度の壁を突破 したのが、200 キロ以上の営業運転を実現したわが国の新幹線でした。この偉業には松平精(ただ し)氏という航空技術者が貢献していました。同氏はその名のとおり徳川家の血を引く旧華族の 家柄の出身です。戦前は東大工学部を卒業して海軍の研究所で零式戦闘機(ゼロ戦)の設計にたず さわっていました。ゼロ戦は名機と称されていますが、実際にはテスト飛行段階で2件の空中分解を 起こしていました。そのうち1件で同期のパイロットを死なせた同氏は、空中分解の原因究明に心血 を注ぐことを誓いました。その結果わかったのがフラッター(Flatter)という1種の自励振動現象で す。終戦後には鉄道総合技術研究所(鉄道総研)に入って、ゼロ戦の経験と知識を新幹線の台車設 計に活かしました。新幹線の台車設計の成功が、わが国が鉄道車両製造の先進国といわれるよう になった発端です。同氏はまさに「新幹線の生みの親」といえます。因みに、弊社代表が属して いた大学の航空学科の研究室とも縁が深い方でした。

 

Q: 「過去の一時期のことと思わねばなりません」というのはどういうことですか?

 

A: 松平精氏が開発した新幹線の台車設計技術は、残念ながら最新の台車には適用できません。最近 の台車の構造やバネには CFRP が大幅に採用されています。わが国の技術者は軽量化のために金属 を CFRP に替えることを安易に考えていますが、それほど甘いものではありません。構造分析や振 動解析のやり方が大幅に変わります。不静定構造や有限要素法に関する理解がより必要になりま す。経年劣化による影響も考慮しなければならないために、整備や点検方式も理解しなければな りません。わが国の車両製造メーカーにそこまでの認識があるとはとても思えません。わが国の技術者は過去の栄光に何時までも浸っているのではなく、新たな技術開発に挑戦すべきです。

 

Q: 中国中車は新たな技術開発に挑戦しているのでしょうか?

 

A: 詳しくはわかりませんが、最近の中国では経済だけではなく技術開発でも目覚しい発展があるよ うです。金属から CFRP への転換でも、わが国の技術者ほど甘く見てはいないと考えるべきかも知 れません。日立の 8000 系で脱線の問題が解決されていないようなら、欧州にも頼れない米国は首 都ワシントンの地下鉄の製造を中国に依頼するかも知れません。中国中車が新たな技術開発に挑戦して いるのかどうか、安全保障の観点からも注視する必要がありそうです。

 

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米国の苦渋の選択
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2021/12/27

HuFac Solutions, Inc.

技術立国に暗雲

2021-12-27

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 去る 10 月 25 日に、「KHI 製地下鉄車両が脱線」と題するヒューファク安全情報を発信させていただき ました。この問題の解決のために、米国の国家運輸安全委員会(NTSB)やワシントン首都圏交通局(WMATA)、 鉄道車両メーカーである川崎重工(KHI)が全力を注いでいます。ですがまだ原因すらわからず、打開 策がまったく見えていません。問題が米国の政治の中枢である首都ワシントンで起きているために、こ のままでは米国とわが国の間に亀裂が生じるかも知れません。世界経済に影響を及ぼす可能性も あります。KHI はわが国の経済を牽引する企業の1つですが、この問題で技術力の低さを露呈す る恐れがあります。米国のマスコミは脱線事故を大々的に採り上げていますが、まだそこまでは言及 していません。技術力の低さの元凶は、KHI の技術陣がトップダウン思考で発想できないことにある と思われます。トップダウン思考で発想できないのは KHI の技術陣だけではありません。わが国の政 治や経済、学術などあらゆる分野の人材に同じ傾向が見られます。このままでは、「技術立国」 を自負するわが国の社会により一層の暗雲が立ち込めることになります。脱線事故の原因を科学 的に考えることを通じて、KHI やわが国の技術者がトップダウン思考で発想できていない実態を明ら かにしたいと思います。本来ならマスコミが警鐘を鳴らすべきですが、なぜか沈黙しています。

 

Q: 脱線事故の概要をあらためて話していただけませんか?

 

A: 2021 年 10 月 12 日、米国のワシントン郊外ロズリン駅付近のトンネル内で、ワシントン首都圏交通局が運営する地 下鉄車両が脱線しました。幸いにも乗客が脱出できたために、死傷者はありませんでした。米国 家運輸安全委員会(NTSB)は重大な事故につながる可能性があったとして調査を開始しました。 事故車両は川崎重工業(KHI)の米国現地法人である川崎レールカーが米国で製造した 7000 系地下鉄車 両です。同種車両では 2017 年以降 31 回のゲージ検査で不具合が見つかっていて、年々不具合が増 えていました。事故車両は事故直前にも 2 回脱線していてブレーキの一部が破損していました。WMATA は調査を理由に所有車両の 6 割にあたる 7000 系地下鉄車両の使用を一時停止しました。NTSB の 委員長は「システム上の問題があるかどうかを調べている」と述べて、同社製の車両を使用している 他の交通局に早急に検査を実施するよう要請しました。 

 

Q: 米国議会はどう対応しているのですか?

 

A: 少なくとも年末まで、KHI 製 7000 系地下鉄車両の運行停止を継続するよう求めています。WMATA がこれまで多数あった 7000 系の不具合を公表しなかったことも強く批判しています。事態を改善 するために、NTSB に 23 年間勤務していた David L. Mayer 氏をワシントン・メトロレール安全委員会の委員長 に指名しました。

 

Q: 原因が解明されないまま 7000 系を運行に復帰させることはあるのでしょうか?

 

A: それはあり得ないと思います。米国議会は与野党を問わず、米市民の安全を最優先に考えていま す。10 月 12 日の脱線事故で死亡者が出なかったのは幸運といえます。再び起きればそうはいか ないかも知れません。そんな不安が続けば、地下鉄車両の約6割が止まって、ワシントンの首都機能が 麻痺する可能性もあります。米国議会はその事態を懸念しています。

 

Q: Mayer 氏の起用で問題の解決が期待できるのでしょうか?

 

A: そう期待したいところですが、現実には難しいでしょう。なぜなら、Mayer 氏はわが国の技術者 が抱える「問題の根源」にまでは踏み込めないと思うからです。KHI の技術陣は「問題の根源」 に薄々気づいていると思います。ですが、KHI は製造者責任(PL)がある企業として軽々には公 言できないでしょう。ワシントン・メトロレール安全委員会が「問題の根源」にまで踏み込めるかどうか、今 後の動向を注視したいと思います。

 

Q: 「問題の根源」とは、どういうことですか?

 

A: 技術立国を自負するわが国にとっては非常に深刻なものです。この「問題の根源」がこれまでわ が国で多くの事故を誘発してきました。ボトムアップ思考ではなかなか理解できないと思います。トッ プダウン思考で考えれば、7000 系の脱線事故の原因は JAL の御巣鷹山事故の要因となった伊丹空港 における「尻もち事故」や JR 西日本の福知山線脱線事故などと本質的に同じといえます。これま でのボトムアップ思考の事故調査では「問題の根源」にまで迫れなかっただけでなく、まったく間違 った事故原因を公表してきました。「問題の根源」とは、わが国の技術者が数値解析などコンピュータ による問題解決に依存し過ぎて、物事の本質を考えようとしなくなっていることです。

 

Q: コンピュータや AI に過剰依存するという傾向は技術者だけでなく社会の潮流ともいえますが、7000 系 の脱線事故を例に具体的に説明していただけませんか?

 

A: 鉄道車両は車体と台車で成り立っています。安全の観点からは、とりわけ台車の設計が重要です。 KHI はすでに鉄道車両の世界シェアで他を圧倒していますが、他の追随を許さないために台車の思い 切った軽量化をはかりました。それが「efWING」という最新鋭の台車です。efWING では、軽量化 のために台車フレームや板バネに炭素繊維強化プラスティック(CFRP)を採用するとか、振動を防ぐためのダ ンパーを取り外すといった大胆な設計変更が行なわれました。もとより台車は不静定構造ですが、 CFRP を大幅に採用したことで弾性(Elasticity)を増して、不静定構造の度合いをさらに強めることになります。不静定構造の構造分析や振動解析には有限要素法(FEM: Finite Element Method) によるコンピュータ数値解析が必要になります。7000 系の脱線は車輪が外側にずれたことで起きたと みられています。これは明らかに台車の異常振動に因るものと思われます。KHI の技術者は、不 静定構造の度合いを増した efWING で異常振動が起きることを予測できなかったものと思われま す。予測できなかったのは、KHI の技術者が海外から購入した有限要素法のコンピュータソフトに依存し すぎていて、不静定構造の振動特性を本質的に理解できなかったためと推測されます。

 

Q: 不静定構造についてはこれまでも説明を聞きましたが、有限要素法とはどういうものですか?

 

A: わが国の学校教育では、高校までの数学で連立方程式の解法を学びます。連立方程式は、未知数 と方程式の数が同じでなければ解けません。ところが、現実社会で遭遇する諸問題では連立方程 式の数と未知数の数が同じとは限りません。しかも、方程式は高校までの数学で学ぶ単純なもの ではなく、非線形偏微分方程式などといった複雑なものです。複雑な方程式を数学的に解くこと は困難ですので、コンピュータで近似的に解く必要があります。そのために考案された近似解法の1つ が有限要素法です。有限要素法は今や産業界の多くの分野で用いられています。不静定構造であ る鉄道車両の台車や航空機、高層ビル、橋梁などの設計では、有限要素法が不可欠です。

 

Q: 技術立国であるわが国の技術者は不静定構造や有限要素法を熟知しているのではないですか?

 

A: 日本人としてそう思いたいところですが、現実にはそうではありません。大学の工学部の航空学 科や建築土木学科、機械学科などでは不静定構造や有限要素法についてひと通りの授業を受けま す。ですが、実社会における応用までは習いません。産業界でも、実用的な有限要素法のコンピュー タソフトを作成できる技術者はほとんどいません。コンピュータソフトのほとんどをドイツや米国など欧米先進 国から輸入しているのが現実です。コンピュータソフトを海外から購入していれば、難解な不静定構造の 原理を理解する必要はありません。コンピュータソフトの中身を理解しようとしても、利潤を追求する海 外のメーカーは企業秘密を盾に知らせてくれません

 

Q: 同じことは IT 業界全体でいえるのではないですか?

 

A: その通りです。典型的な例がコンピュータの OS(Operating System)です。コンピュータの OS は Microsoft の Windows と Apple の Mac に代表されます。どちらも、わが国の IT 技術者には中身の詳細が知ら されていません。わが国でも競合する OS の作成が試みられましたが、うまくいきませんでした。コンピュータソフトにも「トップダウン設計」という用語がありますが、わが国の IT 技術者にはトップダウン思考 のシステム設計ができないようです。

 

Q: 有限要素法のコンピュータソフトの問題で、卑近な例はありませんか?

 

A: あります。わかりやすい例が、数年前にマスコミを賑わせたいわゆる「姉歯事件」です。高層ビルなど の建造物はほとんどが不静定構造です。設計には有限要素法による構造分析や振動解析が必要に なります。そのためのコンピュータソフトはわが国の建築土木技術者には作れません。欧米先進国が作っ たものを建築会社や設計技師、当局が購入して利用しています。わが国の技術者にとっては、有 限要素法のコンピュータソフトは「ブラックボックス(Black Box)」といえます。そのブラックボックスの入力をある 民間の設計技師が訳のわからないまま変更してしまいました。その事実を知った当局は、設計技 師が設計したすべての建物の建て替えを指示しました。当局もブラックボックスの中身を知らなかった ために、設計技師による建物が地震で倒壊する可能性があると判断したものです。ところが皮肉 にも、建て替えられていなかった設計技師の建物は 3.11 の大地震でも1つも倒壊しませんでした。 設計技師もブラックボックスの中身を知らなかったはずですので、単なる幸運としかいえません。

 

Q: JAL も有限要素法の問題で苦労したそうですね?

 

A: そうです。伊丹空港におけるいわゆる「尻もち事故」とは別に、営業外の企業活動である HSST(High Speed Surface Transport)の開発で苦労しました。JAL の技術陣は、本業の航空機整備だけでは 飽き足らず、HSST という磁気浮上(牽引)鉄道の開発に手を染めました。弊社代表はまったく関 わっていませんが、有限要素法の問題で苦労したと聞いています。HSST の構造は図.3 のようなも ので、不静定構造であるために振動解析には有限要素法が必要になります。有限要素法のコンピュー タソフトはやはりドイツから購入していました。HSST の走行実験中に、高速でカーブを曲がる際に異常振 動を経験しました。HSST の技術陣には HSST が不静定構造であるという認識はあまりなかったよ うです。有限要素法のコンピュータソフトが自前でないこともあり、異常振動の原因を掴めませんでした。 その後、HSST は名古屋鉄道などに売却されましたが、通常の営業運転には至りませんでした。 

 

Q: JAL の HSST でも有限要素法の問題があったということは、磁気浮上(牽引)のタイプは異なりますが、JR 東海のリニアモーターカーでも同じような問題が懸念されるのではないですか?

 

A: 弊社は最初からその懸念をもっています。リニアモーターカーは JR 東海の技術陣による開発と思われてい ますが、大半は鉄道総合研究所(鉄道総研)の研究によるものです。弊社代表は以前から鉄道総 研の研究者と交流をもっていますが、鉄道総研には鉄道車両の台車や磁気浮上(牽引)のメカニズム が不静定構造であるという認識はあまりないようです。有限要素法のコンピュータソフトも自前では開発 できていないと思います。JR 東海はリニアモーターカーの実験走行を永年にわたって行なってきましたが、 営業運行では実験走行で経験できなかった異常振動に遭遇することもあります。

 

Q: まさに、技術立国として生きていかねばならないわが国の技術に暗雲が立ち込めているといえま すが、どうすればよいのでしょうか?

 

A: わが国の技術者に2つのことを要望したいと思います。どちらも、ボトムアップ思考からトップダウン思 考への変革といえます。① コンピュータや AI などによる表層的な数値解析に頼るのではなく、基礎理 論を学んで物事の本質を見極めることと、② 事故やインシデントを徹底的に調べて、責任追及や自己 保身に走るのではなく、真因を包み隠さず公表することです。当たり前のことのように思えます が、ボトムアップ思考のわが国の技術者には極めて難しいといえます。

 

Q: ワシントンにおける脱線事故の顛末はどうなると思いますか?

 

A: 政治やマスコミは軽視していますが、看過すればわが国の鉄道技術だけでなく技術全般に対する評価 を低下させることになります。わが国の技術者がそこからどう這い上がるか、注視していきたい と思います。

 

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2021/12/25

HuFac Solutions, Inc.

危機が炙り出す社会の不条理

2021-12-25

 

 人類を悩ましているコロナ禍や地球温暖化といった問題は、現代社会のさまざまな不条理を炙り 出しています。その典型が、深刻な問題が豊かで快適な生活を追求する人間の活動の結果である にもかかわらず、人々がそれに気づかずに旧態依然とした考え方で臨んでいることです。コロナ禍 についても、経済活動のための人間の活発な移動が感染を広げていることは否定できません。各 国政府は航空機などによる移動を闇雲に抑制していますが、このままでは経済を萎縮させて逆効 果にもなりかねません。地球温暖化も、CO2 の増加による温室効果が最大の原因といわれています が、CO2 排出の抑制も経済を萎縮させて人間の活動を不活性化することになります。

 

 これまでは、人々が豊かで快適な生活を追求することが経済活動であり、それに伴う生命や健 康、財産のリスクを減らすのが安全推進活動と考えられてきました。この考えでは、経済活動と安 全推進活動は二律背反の目標であり、両立は難しいということになります。わが国の政府も、コロ ナ禍の対策として国民の経済活動を抑制する緊急事態宣言とその緩和を繰り返すだけでした。こ れでは真の「経済と安全の両立」とはいえません。経済と安全を二律背反の目標としか考えられ ないのは、国民や政府が「経済」の本当の意味を理解できないからだと思われます。

 

 「経済」は英語では Economy です。Eco と Nomy は、それぞれギリシャ語の Oikos(オイコス)と Nemu (ノモイ)に由来するといわれています。Oikos は環境の中で人間が生きることであり、Nemu は規 律とかルールという意味です。つまり Economy は、「人間が環境の中でうまく生きていく方策」とい うことになります。わが国でも、すでに江戸時代に「経済」という言葉が生まれていました。中 国の古典にある「経世済民」に由来していて、「世を経めて(治めて)民の苦しみを済う(救う)」 という意味があるそうです。本来の「経済」や Economy には、財政や金融、投資、通商といったお 金に関する意味はありません。お金は「経済」や Economy の手段の1つに過ぎません。 わが国の総合大学や経済の単科大学には経済学部があります。そこでは「経済」や Economy の 本来の意味は教えられていないようです。

 

 わが国の文部行政は経済学(Economics)を法学や工 学、医学といった他の学問と同等に扱っています。「経済」や Economy の本来の意味を教える学 問は、我々が考える経済学ではなくヒューマンファクター(Human Factors)です。ヒューマンファクターという言葉 がわが国に入ってきた当初、知識人は意味を理解できずに「人的要因」とか「人間要素」などと 誤訳していました。JAL の技術研究所にいた筆者は、正しい意味を普及させるためにヒューマンファクター を「環境の中で生きる人間をあるがままにとらえて、その行動や機能、限界を理解し、その知識 をもとに人間と環境の調和を探究して改善すること」と明確に定義しました。

 

「経済」や Economy の本来の意味が理解されないように、わが国ではヒューマンファクターも理解されていま せん。筆者はその理由をボトムアップ思考の教育が中心の学校教育にあると考えています。ボトムアップ思考 とは、すでに実証されている知識や手法にこだわって、狭い見識で問題解決を計ろうとする発想方法 です。得られた解決策が本当に目的に適っているかどうかは頓着しません。それと対極にある発想方法がトップダウン思考です。用いる知識や手法が実証されているか否かにこだわらず、広い視野と深い洞 察力で問題の本質を見抜いて、真に目的に適った解決策を模索します。米国の学校教育ではトップダウン 思考による問題解決を奨励しています。経済学修士(MBA)や弁護士の資格試験でも、合格要件として ヒューマンファクターの知識を要求しています。

 

 わが国の国民が本来の経済学やヒューマンファクターを理解できていない現実は、ノーベル賞の受賞者数にも表れ ています。ノーベル賞には物理学賞、化学賞、医学生理学賞、文学賞、平和賞、経済学賞がありますが、 日本人は経済学賞だけまだ受賞できていません。早計かも知れませんが、筆者はその理由を日本人が 本来の経済学を理解できないからだと思っています。財政や金融、投資、通商などに詳しい学者や 専門家はわが国にも多数いますが、世界レベルの経済学となるとハードルが高いようです。先進国の指標 の1つといわれる民間航空機の製造や運航の分野でも、FAA や EASA などの欧米航空当局は「経済」の 本来の意味を理解したうえで臨んでいます。FAA や EASA は航空輸送による世界経済の健全な発展を振 興する組織ですが、「経済」の本来の意味を理解できない国家や航空機メーカー、航空会社に対しては厳し く対応しています。

 

 トップダウン思考で考えれば、国民の自由な行動を抑制する緊急事態宣言とその緩和を繰り返すだけの 政府のコロナ感染対策は適切とはいえません。ヒューマンファクターの観点からいえば、合理性に欠ける行動や思考 の抑制が人間の免疫力を著しく低下させるからです。地球温暖化の問題でも、トップダウン思考は地球温 暖化の原因を CO2 の増加だけに限定しません。原子力や再生可能エネルギーの利用も、発電段階では CO2 を排出しないものの、トータルとして大量の熱を大気や海洋に放出するからです。地球温暖化を少しでも 防ごうと思えば、エンタルピーやエントロピーも視野に入れたトップダウン思考でエネルギーの合理的な利用を考える必 要があります。

 

 「経済と安全の両立」という言葉ほど、曖昧で無責任な言葉はありません。人々はこの言葉を 免罪符にして難題の解決を後回しにしています。これまでの話からもわかるように、安全の追求 はすでに「経済」の目的の1つに含まれています。「経済」の本来の意味を理解しなければ、真 の「経済と安全の両立」は実現できません。そのための近道は、ヒューマンファクターの知識や手法を活用し てトップダウン思考で社会の不条理を解消していくことです。人間の脳には、進化の過程で前頭葉とい う他の動物にはない創造的な脳の機能が備わっています。この機能こそがトップダウン思考の源泉と いえます。人類はまだその機能を十分に活用できていません。国民と政府が一丸となってトップダウン思 考で人類の平和と幸福に貢献できる国家こそが、真の先進国といえそうです。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 

Social Absurdities Revealed by The Crisis

Dec.25, 2021

 

  The problems that plague humanity, such as the corona disaster and global warming, reveal various absurdities of modern society. A typical example of this is the fact that serious problems are the result of human activities in pursuit of affluent and comfortable lives, but people are unaware of this and continue to adopt the same old ways of thinking. With regard to the corona disaster, it cannot be denied that the active movement of people for economic activities is spreading the infection. Governments have been suppressing air travel in the dark, but if this continues, it may have the opposite effect of shrinking the economy. Global warming is also said to be caused by the greenhouse effect due to the increase of CO2, but excessive control of CO2 emissions will also atrophy the economy and inactivate human activities.

 

  Until now, economic activities have been thought of as people's pursuit of affluent and comfortable lives, while safety promotion activities have been thought of as reducing the risks to life, health, and property associated with these activities. According to this view, economic activities and safety promotion activities are two contradictory goals, and it is difficult to achieve both. As a countermeasure to the Corona disaster, the Japanese government has only repeatedly declared a state of emergency to restrain the economic activities of the people and then eased the emergency. This is not a true "balance between economy and safety. The reason why the economy and security can only be considered as two opposing goals is that the people and the government do not understand the true meaning of "economy".

 

  The word "economy" in English is said to be derived from the Greek words "oikos" and "nemu"."oikos" means human life in the environment, and "nemu" means discipline or rules. In other words, economy is "a way for humans to live well in the environment. In Japan, the word "Keizai (economy in Japanese)" was already born in the Edo period. The word " Keizai " is derived from the Chinese classic "Ching Se Je Min", which means "to save the suffering of the people by governing the world". The original word " Keizai " or "economy" does not have any meaning related to money, such as finances, investment, or trade. Money is just one of the means of "Keizai" or economy.

 

  Universities and colleges of economics in Japan have Economics departments. It seems that the original meaning of "economy" and "economics" is not taught there. The Japanese educational administration treats economics as if it is same as another discipline such as law, engineering or medicine. The study that teaches the true meaning of "economy" or "economics" is not economics as we think of it, but Human Factors. When the term "Human Factors" first came to Japan, intellectuals did not understand its true meaning and misinterpreted it simply as "human factors" or "human elements". The author, who then worked at the R&D Department of JAL, clearly defined the human factor as "to understand the human beings living in the environment as they are, to properly understand their behavior, functions, and limitations, and to use this knowledge to explore and improve the harmony between humans and the environment.

 

  Just as the original meaning of the word "Keizai" or economy is not understood in our country, Human Factors is not understood in Japan. I believe this is caused by school education in Japan, which is mainly based on bottom-up thinking. Bottom-up thinking is a way of thinking that tries to solve problems with a narrow perspective by only focusing on knowledge and methods that have already been proven. It does not care whether the solution obtained is really suitable for the purpose or not. The other way of thinking is top-down thinking. It does not care whether the knowledge and methods used are proven or not, but rather seeks solutions that are truly suitable for the purpose by seeing through the essence of the problem with a broad perspective and deep insight. School education in the U.S. rather encourages problem solving through top-down thinking. In qualifying a Master of Business Administration (MBA) or a lawyer, knowledge of Human Factors is included in the requirements for passing the examination.

 

  I believe that the people of Japan need to understand the true meaning of economics and Human Factors. The fact that Japanese people do not presently understand their true meaning can be seen in the number of Nobel Prize winners. The Nobel Prizes are awarded in Physics, Chemistry, Physiology or Medicine, Literature, Peace, and Economics, while the Japanese have yet to win the Prize in Economics. It may be too early to say, but I believe the reason for this is that Japanese people do not understand economics as it should be understood. There are many scholars and experts in Japan who are knowledgeable about finance, investment, trade, etc., but hurdles to world-class economics seems to be so many and too high. In the field of commercial aircraft manufacturing and operation as well, which is said to be one of the indicators of a developed country, western aviation authorities such as FAA and EASA are doing jobs understanding the right meaning of "economy". FAA and EASA are organizations that promote the sound development of the world economy through air transportation, so they are very strict with nations, aircraft manufacturers and airlines that do not understand the right meaning of "economy".

 

  From a perspective of top-down thinking, the government's measures against coronary infections are not appropriate, as they repeatedly declare a state of emergency that restricts people's freedom of action and then relaxes it. From the perspective of Human Factors, unreasonable suppression of actions and thoughts can significantly lower human immunity. In the issue of global warming, top-down thinking does not consider the increase in CO2 emissions the increase in CO2 emissions as only cause of global warming. The use of nuclear power and renewable energies does not emit CO2 in the power generation stage, but it may release a large amount of heat into the atmosphere and oceans in total. If we want to prevent global warming as much as possible, we need to think about the rational use of energy from a top-down perspective that includes enthalpy and entropy.

 

  There is no more vague and irresponsible phrase than "balancing economy and safety". People often use this phrase as an excuse to put off solving difficult problems. As you can see from what I have said so far, safety is already part of the purpose of "economy". Without understanding the right meaning of "economy", we will not be able to achieve a true "balancing economy and safety". A shortcut to the goal is to use human factor knowledge and methods to resolve the absurdities of society through top-down thinking. In the process of evolution, human beings obtained a creative brain function called the frontal lobe, which is not found in other animals. This function is the very source of top-down thinking. Human beings have not yet been able to fully utilize this function. A truly advanced nation is one where the people and the government can work together to contribute to the peace and happiness of mankind through top-down thinking.

 

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2021/11/23

HuFac Solutions, Inc.

読書の秋へのお誘い

2021-11-23

 

Q: どのようなお誘いですか?

 

A: 弊社代表の高校時代の同期生である川崎一郎氏から、嬉しいメールが届きました。同氏は富山大学や 京都大学防災研究所で地球科学の教授を務められた第一線の地震学者です。このたび、これまで の研究活動の集大成として「立山の賦-地球科学から-」と題する著書を出版されたそうです。「立 山の賦」とは、万葉集における大伴家持の作品でもあります。メールの内容を下記にそのまま紹介さ せていただきます。併せて、ご自身による著書の紹介文を末尾に添付させていただきます。

 

 同窓の皆さま 同窓会にもろくに出席せず,こんな時にだけメールを送ることをお許しください。 このたび,富山の地元の桂書房から『立山の賦-地球科学から-』を上梓しました。 このような書名を付けた理由の一つは,かねがね,早月川の歌などは早春の立山周辺の自然の躍 動感を切り取った素晴らしい歌だと思っていました。ところが,伝統的な家持歌論や万葉歌論で はほとんど無視されています。それは,伝統的な歌論が都中心史観に立脚しているので,奈良盆 地では経験できない立山周辺の季節感などは意味希薄に見えただけではないかと言いたかったこ とです(第 13 章) また,人工地震探査,同位体年代学,GPS など関連分野の成果を総動員して,立山がチバニアン期以 降に急速隆起してきたという新しい隆起像を提起できたと思っています(第 16 章)。 近畿地方と立山周辺を比較しながら話を進めています。奈良盆地が陸になったり海になったりし た話も出てきます(§8-4)。早い話,「文」と「理」に架橋することを目指しています。 定価は 3000 円,税込み 3300 円とやや高いですが,新書 3 冊分くらいの中身があると思って頂ければ幸いです。 地方の出版社の本ですので,東京や大阪の本屋の書店には並ばないかも知れません。書店から注 文を出して頂くとうれしいです。 よろしくお願い申し上げます。

 

Q: 同氏の著書を紹介したいと思ったのはなぜですか?

 

A: 弊社代表が若い頃に、東京における同氏の講演を聴きに行ったことがあります。もちろん、講演 の内容は地震学に関するものでした。久しぶりの再会でしたので、講演の後に2人で懇談しまし た。その際、同氏が「今の地震学では地震を予知することはできない」と明言していたことをよ く憶えています。マスコミに登場する地震学者の多くは、いわゆる「大陸プレートや海洋プレートの潜り込 み説」を引用して地震や地殻変動のメカニズムを説明します。ですが、地震が起きる時期や場所を明 確に予測できる人はいません。研究予算を確保したいためか、そのことを率直に認めようとする 地震学者は少ないようです。川崎一郎氏は、ユーラシアプレートと北米プレートの境界に位置するというだけ で立山・黒部の隆起を説明しようとはしていないようです。立山・黒部に近い富山市に永住を決め て、現場感覚と歴史認識を駆使して隆起の真因を探ろうとしてきました。しかも、文理融合とい う斬新な手法で研究の成果をまとめているようです。この考えは、弊社が標榜する「トップダウン思 考による真実の探求」に通じるところがあります。同氏が一般の地震学者とは異なる感覚と考え で地震学の研究に取り組んでおられることが、読者の方々にご紹介したいと思った理由です。 

 

Q: テレビでは「日本沈没」という小松左京氏の SF 小説がドラマ化されて放映されていますが、ドラマのよ うに地震学者が AI で地震や地殻変動の場所や時期を予測できるようになるのでしょうか?

 

A: ドラマはあくまでも空想(SF)の世界です。トップダウン思考では、AI は永久に地震や地殻変動の詳細を予測できないと考えられます。弊社代表は同氏の著書をまだ読んでいませんが、著書にはわが 国の地震学者が AI にはできない地道な活動を続けている様子が書かれていると思います。地震や 地殻変動の予測の将来を見通すためにも、同氏の著書は大いに参考になると思います。

 

Q: 著書を購入するには、どのような方法が最善なのでしょうか?

 

A: 弊社も購入を希望していますので、同氏に同じ質問をしてみました。同氏はあくまでも「著者の 立場での要望」としたうえで、「地域の大きな書店で注文してほしい」と回答されました。大きな 書店に注文すれば、同じ書籍を2冊仕入れて1冊を書店に置いてくれるそうです。そうすれば、 書籍は多くの人の目に触れることになります。弊社は、同氏の著書ができるだけ多くの人に読ま れて、わが国の国民が地震学に希望を持てるようになることを願っています。弊社は、東京駅北 口にある「丸善書店」に注文しようと考えています。読者の方々にも関心をもっていただければ と願っています。

 

原文は「PDFファイル」を参照。

 

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021/11/05

HuFac Solutions, Inc.

JR西福知山線脱線事故の真実

2021-11-05

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2005 年 4 月 25 日午前 9 時 18 分ごろ、兵庫県尼崎市にある福知山線塚口駅-尼崎駅間の右カーブ(曲 率半径 304m)で、宝塚発 JR 東西線・片町線(学研都市線)経由同志社前行き上り快速の前 5 両 が脱線しました。うち前 4 両は線路から完全に逸脱、先頭の 2 両は線路脇の分譲マンションに激突して 大破しました。この事故により 106 名の乗客と運転士 1 名が死亡しました。さらに、562 名の乗 客と付近を通行していた 1 名が負傷しました。航空・鉄道事故調査委員会(現在の運輸安全委員 会の前身)は報告書の中で、原因を「脱線した列車がブレーキをかける操作の遅れにより、半径 304m の右カーブに時速約 116 km で進入し、1 両目が外へ転倒するように脱線、続いて後続車両も脱線し た」と結論づけました。

 

Q: 事故調査委員会による結論が間違っているのですか?

 

A: 率直にいえば、間違っているといわざるを得ません。間違っているのは、脱線の原因を「急カーブ に急速で進入したこと」と結論づけている点です。急カーブに急速で進入するのは確かに異常な行 動ですが、車輪を線路から離脱させる何らかの要因がなければ、半径 304m のカーブに時速 116km で進入しても脱線はしません。車両故障があったと考えるのが妥当です。事故調査委員会には鉄 道工学の専門家だけでなく航空工学や人間工学の専門家も参画していました。これらの知識人は ボトムアップ思考の教育で育ったために、トップダウン思考でさまざまな可能性を模索することができな かったものと思われます。事故調査委員会がボトムアップ思考で出した結論は、車両故障への関心を 封じ込めてしまっただけでなく、「運転士の異常な行動は精神疾患が原因」という間違った印象 を社会に与えてしまいました。死亡しているために運転士は抗弁できませんが、裁判であれば冤 罪事件にも匹敵する不条理を生んでしまったといえます。

 

Q: 事故調査委員会が運転士の精神疾患に関心をもった理由は何だと思いますか?

 

A: トップダウン思考で車両故障の可能性まで視野を拡げられなかったことが主な理由だと思いますが、 運転士の精神疾患を疑わせる情報もありました。運転士は直前の伊丹駅で停止位置をオーバーランして いました。始発の宝塚駅でも、「下り」から「上り」に折り返す際に車両を円滑に停止できませんでした。駅の定位置で車両を精確に停止する技量は、運転士にとって最も基本的なものです。 それができないのは恥ずかしいことで、運転士は車掌に相談して会社には「8m のオーバーラン」と偽 って報告していました。事後の車掌の証言で、実際には「40m 近くのオーバーラン」であったことがわ かっています。このような情報があったことから、事故調査委員会は「運転士は精神疾患をもっ ていた」と安易に判断してしまったようです。事故調査委員会の判断を鵜呑みにした社会や関係 者は、運転士の精神疾患の原因を「JR 西による日勤教育」と決めつけてしまいました。

 

Q: 「運転士の異常な行動は精神疾患によるものではない」といえる根拠はあるのですか?

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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JR西福知山線事故の真実
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2021/10/25

HuFac Solutions, Inc.

KHI製地下鉄車両が脱線

2021-10-25

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2021 年 10 月 12 日、米国のワシントン郊外ロズリン駅付近のトンネル内で、ワシントン首都圏交通局(WMATA: Washington Metropolitan Area Transit Authority)が運営する地下鉄車両が脱線しました。 幸いにも乗客が脱出できたために、死傷者はありませんでした。米国家運輸安全委員会(NTSB) は重大な事故につながる可能性があったとして調査を開始しました。事故車両は川崎重工業(KHI) の米国現地法人である川崎レールカーが米国で製造した 7000 系地下鉄車両です。同種車両では 2017 年以降 31 回のゲージ検査で不具合が見つかっていて、年々不具合が増えていました。事故車両は 事故直前にも 2 回脱線していてブレーキの一部が破損していました。WMATA は調査を理由に所有車両 の 6 割にあたる 7000 系地下鉄車両の使用を一時停止しました。NTSB の委員長は「システム上の問題 があるかどうかを調べている」と述べて、同社製の車両を使用している他の交通局に早急に検査 を実施するよう要請しました。

 

Q: NTSB や WMATA、KHI によるこれまでの調査では何かわかっているのですか?

 

A: 一部の車輪が車軸方向に外側にずれていたことがわかっています。車輪が外側にずれると、スイッチ (線路分岐器、ポイントともよばれる)を通過する時に線路に乗り上げて脱線することも考えられま す。ですが、その現象が脱線の原因であるかどうかはわかっていません。車輪が外側にずれる現 象は他の同種車両でもゲージ検査で確認されています。車輪が外側にずれる原因はまだわかってい ません。一般の鉄道車両では油圧システムで車輪のずれを防いでいます。事故車両で防止システムが機能 していたのかも今後の調査の対象になると思われます。

 

Q: WMATA は所有車両の 6 割にあたる 7000 系地下鉄車両の使用を一時停止したそうですが、この事態 はどのような影響を及ぼすと考えられますか?

 

A: 大げさにいえば「未曾有の非常事態」といえます。米国の首都であるワシントンの都市機能は地下鉄交 通網に依存しています。その機能が長期間にわたって麻痺すれば、米国の政治や経済に多大な影 響を及ぼします。ひいては世界経済にも少なからず影響することになります。わが国に及ぼす影 響はそれだけではありません。100 年にわたる鉄道車両製造の実績がある KHI は、鉄道車両の供給で大きな世界シェアを占めていて、鉄道車両の技術開発でも世界をリードしています。KHI がこの事 故の原因を早急に把握して問題を解決できなければ、技術大国を自負するわが国の信頼は著しく 失墜することになります。近年、わが国の技術は他の分野でも信頼を失いつつあります。わが国 はその状況に拍車がかかって成長戦略にも影を落とすことを懸念しなければなりません。

 

Q: KHI は世界の鉄道車両の技術開発をリードしているとのことですが、WMATA に納入している 7000 系 地下鉄車両とはどのような車両なのですか?

 

A: WMATA7000 とよばれる、KHI が誇る最新技術の車両です。KHI は設計にフロントローディング(Front Loading) という斬新な設計概念(Design Concept)を採用しています。フロントローディングとは、初期工程(Front) に重点を置いて集中的に資源を投入(Loading)することで問題点を早期把握して、開発プロセス を円滑に進める設計概念です。納期短縮と品質向上、不要コストの極小化が可能になります。

 

Q: KHI はなぜフロントローディングを採用したのですか?

 

A: WMATA はワシントン DC を中心にメリーランド州、バージニア州にまたがる 6 路線で鉄道を運営していて、1000 系から 6000 系の 6 種類の約 1, 300 両の車両を保有していました。1000 系から 6000 系は運用開 始時期がそれぞれ異なるものの、併結営業運転を可能にする互換性がありデザイン的にも統一さ れていました。KHI が WMATA の新規受注を獲得するには、WMATA の要請に柔軟に対応する必要が ありました。それためにはフロントローディングを採用するのが最善と考えたようです。フロントローディングで は、鉄道の安全性や経済性、製造工程の効率化、地球温暖化の防止などという目標が掲げられて、 斬新な技術が大胆に採用されました。

 

Q: NTSB はそのような斬新な技術が事故に関連していると考えているのですか?

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/10/06

 

HuFac Solutions, Inc.

高性能電池の正体

2021-10-06

 

Q: 「トヨタ自動運転車が人身事故」と題する安全情報についてコメントをいただいた方から、またコメントをい ただいたそうですね?

 

A: 高性能電池の危険性に関するコメントをいただきました。この問題は高性能電池を多用するこれから の高度技術化社会にとって非常に重要です。弊社が発信する情報を通じて、この方はトップダウン思 考でなければ難問を解決しないことを理解しておられるようです。以前にも紹介しましたが、こ の方は永年にわたって公的な研究機関を率いて活躍された方です。退職後も大所高所から産業界 に助言しておられます。コメントを下記に引用させていただきます。

 

 

たまたま見ていたら面白い記事にあたりました。EV の電池火災です。水を掛けても消火できない というものです。

相次ぐ EV 火災の「消えない火」 バッテリー冷やせず再燃する | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

非常に危険な状態です。B787 の火災を思い出しました。結局何も解決されず、今に至っている。 これが自動車にも波及してきたということです。どういう風に消火するか。どのくらい水がいる か。どう消火に対する安全を確保するか。消火後の水をどう処理するか。消火用のために、電池 をどのように配置するか。いろいろ問題がありそうです。ヨーロッパが EV に舵を切りましたが、ここ は見過ごしているようです(知っていて?)。まだまだ、自動運転を含めて EV は不安全な気がし ます。技術がそこまで追いついていない。政策にも「トップダウン思考」が必要と痛感した次第です。 流れが止められないのが悔しいです。

 

Q: 仰々しい表題ですが、どういうことですか?

 

A: リチウムイオン電池など高性能電池の危険性についてはこれまでも度々強調してきました。ですが、社会 はそれほど実感していないようです。そこで今回はあえて仰々しい表題にしました。

 

Q: 「高性能電池の正体」というのはどういうことですか?

 

A: 高性能電池にはいろいろありますが、リチウムイオン電池が代表的です。リチウムイオン電池は軽重量で大きな エネルギーを長時間にわたって出力できるために、現代社会では多くの分野で利用されています。今 や携帯電話は人々の生活にとって欠くことのできない存在ですが、内蔵されているリチウムイオン電池の 爆発で人命が失われている事実はあまり知られていません。電話を耳にあてている最中にリチウムイオ ン電池が爆発して、頭蓋骨が割れて即死したという悲惨な事故もヨーロッパで起きています。航空機で も、2013 年に JAL と ANA のボーイング 787 のバックアップ電源のリチウムイオン電池(充電可能)の発火、エチオピ ア航空の 787 の緊急位置通報装置のリチウムイオン電池(充電不可能)の発火という事故が相次いで起き ています。その後、FAA は 787 を 6 ヶ月にわたって運航停止にしました。

 

Q: 787 がリチウムイオン電池を採用した最初の航空機なのですか?

 

A: そうです。航空機では一般的に鉛電池やニッケルカドミウム電池が採用されています。航空輸送ではリチウム イオン電池が危険物(DG: Dangerous Goods)に指定されているからです。火薬やガソリンなどの爆発物 と同じ扱いです。携帯電話やコンピュータで用いられていますのでやむなく客室への持ち込みを許可し ていますが、チェックイン荷物や貨物として搭載することは厳禁されています。ボーイングはそれを無視し て蛮勇を奮ったことになります。理由としては①運航の現場でリチウムイオン電池が危険物として扱われ ていることをボーイングの技術者が知らなかった、②リチウムイオン電池のエネルギー源としての魅力に負けて しまった、などが考えられます。

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/09/18

 

HuFac Solutions, Inc.

ANA羽田沖事故の真実

2021-09-18

 

Q: かなり昔の航空事故ですが、どのような事故ですか?

 

A: 1966 年 2 月 4 日。北海道の千歳空港を 17 時 55 分に離陸して羽田空港に向かった ANA 60 便(ボー イング 727-100)が羽田沖の東京湾に墜落しました。同便は 18 時 59 分頃に千葉市上空で計器飛行 方式(IFR: Instrument Flight Rule)を取り消し、有視界飛行方式(VFR: Visual Flight Rule) で羽田空港に進入していました。その直後、「現在、ロングベースを飛行中」と航空管制に通報した まま 19時 00分頃に東京湾に墜落しました。乗客126名と乗員 7名の搭乗者全員が死亡しました。 当時は世界最悪の航空機事故でした。  

 

Q: 事故調査の結論はどうだったのですか?

 

A: 当時は航空機の事故調査機関がなかったために、運輸省に大学の航空学科教授を団長とする航空 事故調査団が急遽組織されました。事故機にはブラックボックス(FDR と CVR)がなかったために、調査 は困難を極めました。事故原因としてはパイロットエラー説や機材故障説、エンジン故障説など諸説が唱え られましたが、公式の結論は原因不明とされました。 Q: ボトムアップ思考の公式事故調査では原因不明でしたが、トップダウン思考のヒューマンファクター分析では真実が わかるということですか? A: その通りです。事故機にブラックボックスがあれば事故の経緯がかなり明らかになりますが、手掛かり は航空管制との交信記録しかありませんでした。ボトムアップ思考の事故調査団のメンバーは手も足も出 せなかったといえます。ですが、トップダウン思考のヒューマンファクター分析を行なえば航空管制との交信記 録だけで原因を推定できます。

 

Q: 事故調査団には団長の教授の他に別の大学の教授も参加していて、2人は事故原因をめぐって激 しく対立したそうですね?

 

A: そのように報じられていました。団長の教授と別の大学の教授はともに東京大学航空学科の同期 生でした。どちらもわが国の航空工学の分野で「大御所」といわれる存在でした。団長の教授は パイロットによる高度計読み取りエラー説を、別の大学の教授はスポイラー故障説をそれぞれ主張して対立し ました。その他にも何人かの航空専門家が参加していて、さまざまな原因説を唱えました。残念 ながら、トップダウン思考のヒューマンファクター分析を思いつく人は誰もいませんでした。

 

Q: トップダウン思考のヒューマンファクター分析を思いつくことができなかったのはなぜでしょうか?

 

A: わが国の学校教育ではトップダウン思考の教育がされていないからだと思います。そのために、学生 や研究者がヒューマンファクターを学ぶ機会がありません。一方、欧米の大学ではトップダウン思考の科学技術 であるヒューマンファクターが教えられています。例えば、米国の航空宇宙界に優秀な人材を多数輩出して いる名門のオハイオ州立大学航空学科では、学生や研究者の半数以上がヒューマンファクターを学んでいます。 ヒューマンファクターを知らなければ効率的で安全な航空機や宇宙ロケットを設計することができないからです。

 

Q: ヒューマンファクター分析なら、この事故の原因をどう分析するのですか?

 

A: ブラックボックスのデータがありませんから、航空管制との交信記録だけで事故機の飛行経路を推定しま す。推定の結果が図.2 です。事故機は、木更津 VOR を通る通常の進入経路ではなく、それに直交 する「ロングベース」と呼ばれる進入経路を飛んでいて墜落したと推定できます。×印が墜落地点で す。位置は精確ではありませんが、事故原因の推定に支障はありません。

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/09/12

 

HuFac Solutions, Inc.

読者からのコメント

2021-09-12

 

 

Q: 「トヨタ自動運転車が人身事故」と題する安全情報で、読者からコメントが寄せられたそうですね?

 

A: 有意義なコメントをいただきました。この方は永年にわたって公的な研究機関を率いて活躍された方 です。退職後も大所高所から産業界に助言しておられます。コメントをそのままご紹介します。

 

 

ご無沙汰しています。お元気ですよね。トヨタ自動運転車の事故は、まだまだ自動運転の未来は先だ なあと感じました。貴兄の言われる「人間中心の自動化」については全然異論はありませんが、 今回の事故はそれ以前のような気がします。つまり、トヨタのものづくりの技量が落ちていることに よるものと考えます。これは、ほとんどの日本の大製造企業が陥っている蟻地獄ですが。要は、 経費を削減するため、引き入れ外注を増やし、正社員は管理とか、調整業務、ベンダー(弊社注: 部品供給会社)管理、部品調達管理、仕様書作成などの仕事が本業になっていることが問題だと 思います。トヨタも然りです。

 

INSIDE TOYOTA #54|ボスになるな リータ ゙ーになれ トヨタ春交渉 2020 第 2 回|ト ヨタ イ ムス ゙ (toyotatimes.jp)

 

若手技術者の退職に悩むトヨタ、在宅勤務で情熱は生まれるか(2 ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

部品が造れなくなる日 「図面品質の劣化」がトヨタにまで | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

要は、ものを知らず、システム設計が出来なくなっているのだと思います。状況、車について詳しく は知りませんが、今回の e-Palette を現仕様のままなぜパラ会場で使おうとしたのでしょう。耳の 聞こえない人、目の見えない人、背丈の低い人(車椅子等で)、歩く速度がゆっくり、早い人等が 混在している中で完成形のまま試用しようというのは無理です。そこをトヨタのプロジェクトリーダーは、 まず認識しなければならなかったのでは。パラで使うためには、補助運転者は、車以上に情報(な ぜ止まったのか、回りの状況はどうか等々)を HUD(弊社注:Head-up Display)かゴーグルかアナンシ エーター等で貰わなければいけない、また、状況に合わせ、緊急に対処できる教育を(バスの運転手の ように)受けていなければいけないと思います。図で見ると、運転補助者には、なにも計器類は 無いような感じです。おまけに、補助者の左には大きなピラーがあり、視界を遮っているような感 じがします。トヨタのプロジェクトリーダー以下は、本格的な設計、開発を自分でやっていないので、車を 知らないということです。今までの延長で設計しているだけだと思います。それ以外の轍を外れ たことには、頭が回らないのだと思います。そういう人達に、「人間を中心とした設計」といって もわからないでしょうね。MRJ も本来の設計者がやっていれば、あそこまでにはならなかったと思います。トヨタの事故に関し、一感想です。

 

Q: どのように回答しますか?

 

A: この方にはとりあえず、「おっしゃることにはすべて賛成です。弊社がいう「人間中心の自動化」 は同じことです。」と回答しました。コメントを引用させていただくことも承諾いただきました。読者 の方々にはこのコメントの方が具体的でわかりやすいかも知れません。

 

Q: 「「人間中心の自動化」は同じこと」とはどういうことですか?

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/09/01

 

HuFac Solutions, Inc.

トヨタ自動運転車が人身事故

2021-09-01

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2021 年 8 月 26 日午後 2 時頃、東京都中央区晴海のパラリンピック選手村内で、トヨタの自動運転車「e パ レット(e-Palette)」がパラリンピック出場選手と接触して負傷させました。トヨタは東京オリンピックとパラリン ピックのメインスポンサーであり、大会期間中に選手村内でデモンストレーションを兼ねた e パレットの実証試験を行っ ていました。e パレットは選手や大会関係者のための選手村内での「移動の足」として利用されてい ます。e パレットが T 字路を右折する際、横断歩道の手前で自動停止しました。同乗する補助運転者 がジョイスティックを操作して再スタートさせたところ、パラリンピック出場選手に接触して転倒させたものです。 選手はその後、選手村内のメディカルセンターで精密検査を受け、徒歩で選手村内の宿泊施設に戻りまし た。選手は日本の柔道男子 81 キロ級の選手(30)で、8 月 28 日に参加予定の狭義を欠場しまし た。トヨタは警察などと事故原因について調査を行っていましたが、経営トップの判断で e パレットの運 用を中止しました。自動運転の見直しも視野に入れているようです。 

 

Q: 事故の原因は何だと思いますか?

 

A: ずばり、トヨタがヒューマンファクターを理解できずに自動運転で「技術中心の自動化」を推進していることだ と思います。事故はある程度予想できました。弊社が常々話しているように、自動車では SAE が 規定する「レベル 3 以上の自動運転」は実現できません。米国ではテスラやいくつかのベンチャー企業はま だ続けてしていますが、アマゾンやマイクロソフト、アップルといった大手はヒューマンファクターの専門家のアドバイスを 尊重してすでに自動車の自動運転を断念しました。トヨタは相変わらず続けていて、静岡県裾野市の 「スマートシティー構想」も展開しています。「人間中心の自動化」を目指すと宣伝してはいますが、理解 できていないようです。

 

Q: e パレットの自動運転がなぜ「技術中心の自動化」なのですか?

 

A: この事故が証明しています。補助運転者はジョイスティックで一旦停止した自動運転を元に戻しました。 ヒューマンファクターではこれを自動化システムの「モード変換(Mode Change)」と称しています。モード変換は補 助運転者が行ないますが、通行者の存在の確認を e パレットの画像認識に任せてしまっています。ト ヨタの技術者が画像認識システムの能力を過信(Over Reliance)しているからで、補助運転者には権限 (Authority)はまったく与えられていません。これが「技術中心の自動化」です。ヒューマンファクター の研究では、自動化システムのモード変換ではさまざまなエラーが起きることがわかっています。

 

Q: 技術者が画像認識システムの能力を過信するのはなぜですか?

 

A: 「コンピュータや AI による画像認識は人間の脳の状況認識能力を永遠に超えることができない」こと を理解できないからです。同じ理由で、技術者は社会のさまざまな分野でコンピュータや AI を活用し た「技術中心の自動化」を推進して、多くの事故を起こしています。

 

Q: トヨタほどの一流企業がなぜそんなことに気づかないのですか?

 

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2021/08/25

 

HuFac Solutions, Inc.

コロナ禍からの脱却➁

2021-08-25

 

Q: 現在の新型コロナウィルス(COVID-19)感染対策はボトムアップ思考ということですが、トップダウン思考で考え るとどこが違うのですか?

 

A: ひと言でいえば、トップダウン思考の科学であるヒューマンファクターを考慮するかどうかです。人体は 30 兆個 以上の細胞で構成されています。細胞の染色体とミトコンドリアには DNA(デオキシリボ核酸)という二重 螺旋階段状の遺伝物質があります。同じように COVID-19 にも RNA(リボ核酸)という DNA に似た 遺伝物質があります。ここまでは医学や薬学、感染症学の専門家も解説しています。ですが、DNA や RNA を化学や生理学で考えるだけでは COVID-19 の感染防止策が見えてきません。細胞の DNA と COVID-19 の RNA には情報処理(Information Processing)のためのプログラムが組み込まれてい て、互いに近づけば情報交換します。ここでいう情報交換とは共存のためではなく生存のための 情報戦です。COVID-19 のようなウィルスは生物の細胞内でしか生存できません。人間の細胞に近づい て生存のために内部に侵入しようとします。細胞の DNA にはそれを防ぐための天賦の情報処理プ ログラムがあります。それが免疫力です。ですが、DNA が情報処理を誤れば COVID-19 の侵入を許し てしまうことになります。それが感染です。感染を防ぐには DNA の情報処理にエラーをさせないこと です。そこで、エラー防止理論などのヒューマンファクターの手法が COVID-19 の感染防止にも役立つことにな ります。こう考えるのが COVID-19 の感染防止のためのトップダウン思考のアプローチです。

 

図.1 DNA と RNA

 

Q: 医学や薬学、感染症学の専門家も「細胞の DNA や COVID-19 の RNA には情報処理のプログラムがある」 と考えているのではないですか?

 

A: そうかも知れません。ですが、その先の考察はできていないと思います。上述のように、COVID-19 の感染は細胞の DNA の情報処理のエラーと考えられます。航空事故も近年のヒューマンファクターの研究ですべてが人間のエラーに起因していることがわかっています。しかも、多くは人間が意識できない潜在意 識の領域で起きるエラーです。DNA の情報処理のエラーも同じです。「潜在意識のエラー」に対する対処は 医学や薬学、感染症学の専門家にはできません。もちろん、航空事故の防止でも必ずしも満足に できているわけではありません。「潜在意識のエラー」に対する対処は既存の自然科学や社会科学の 知識では難しいからです。ですが、COVID-19 の感染で多くの人々が死んでいる現状を考えると、 この難問を避けるわけにはいきません。COVID-19 の感染を防止するにはエラー防止理論等のヒューマンファ クターの手法しかないということを後述の説明で理解していただけると思います。

 

Q: DNA や RNA に組み込まれている情報処理プログラムとはどういうものですか?

 

A: DNA の情報処理は人間の脳と同じようなものです。図.2 がその概念図です。実線が意識できる「顕 在意識」で、点線が意識できない「潜在意識」です。30 兆個以上の細胞の DNA のすべてに情報処 理プログラムが組み込まれています。DNA の情報処理が健全に行なわれていることが「細胞が生きて いる」ことです。DNA が情報処理できなくなった細胞は爪や髪の毛のように淘汰されます。脳細 胞や心臓細胞など生存に不可欠な細胞が死滅すれば人間は死にます。DNA の情報処理が生物にと って如何に重要かわかると思います。一方、COVID-19 の RNA にも単純ですが同じような情報処理 プログラムがあります。ですが、COVID-19 が生物かどうかはまだわかっていません。RNA の特性がわ からなければ、COVID-19 を駆逐することは難しいようです。

 

図.2 人間の脳の情報処理

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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コロナ禍からの脱却➁
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2021/08/15

 

HuFac Solutions, Inc.

コロナ禍からの脱却①

2021-08-15

 

Q: 読者の方から「御巣鷹山事故の真実」に対して質問が寄せられたそうですね?

A: この方は JAL の技術部門で共に働いた同僚です。数多い JAL の優秀な社員の中でも、特に物事を 深く考える人材の1人でした。安全情報に書いた「事故の真実」と「トップダウン思考の必要性」を よく理解していただけたようです。その上で、トップダウン思考の「コロナ禍からの脱却」への応用につ いて質問しているのだと思います。強いて苦言を呈させていただければ、問題を自身で深く考え る前に解答を知りたいと思うのが「ボトムアップ思考の教育の弊害」といえます。受験重視のわが国 の教育制度では、問題を深く考えていては時間が足りなくなり試験に合格しません。参考書の末 尾にある解答を覗いて暗記することが「合格のコツ」とされています。この「合格のコツ」をうまく 活用できずに受験に失敗した優秀な人材もわが国には数多くいます。そういった人達の多くは、 「自身で深く考える力」を活用してその後の人生で成功しています。苦言はこの程度にして、下 記に質問をそのままご紹介することにします。

 

 

いつもヒューファク安全情報を興味深く読ませて頂いております。ところで、現況のコロナ禍は一年半も続 いておりますが、一向に解決の兆しが見えません。トップダウンの考えから見て、どのように対処す ればよいのか、お考えを聞かせていただければと思います。よろしくお願い申し上げます。

 

Q: この質問にどう回答するのですか?

A: 回答は簡単です。「発想を根本的に変えること」です。もう少し具体的にいえば、「トップダウン思考 の科学であるヒューマンファクター(Human Factors)を学んで活用すること」です。残念ながら、現在コロナ 感染対策を率いているボトムアップ思考の指導層には難しいと思っています。

 

Q: それだけでは抽象的すぎて全貌を理解できる人は少ないのではないですか?

A: そう思います。そこで、弊社代表が 1998 年に JAL の社内安全誌に寄稿した「O-157 とヒューマンエラー」 と題する記事を添付しますので、先ずは一読していただきたいと思います。外国人の読者もおら れますので、英語版も添付します。この記事では、「医療界の O-157 への対応」を「ヒューマンエラーの防 止」でも参考にすべきと提唱しています。今般は逆に、「ヒューマンエラーへの対処」を「コロナ禍からの脱 却」でも参考にすべきと提唱したいと思います。この記事を一読いただければ、感染症対策とヒュ ーマンエラー対策の類似性を漠然とでも理解していただけます。文中の「O-157」を「コロナウィルス」に置き 換えていただければ、何かを感じとれるはずです。もちろん、この記事の説明だけで十分とは思っていません。これからの表題のシリーズを通じて徐々に具体的に解説していきたいと思っています。

 

Q: ところで、英語版にコメントを寄せてくれた「エリク・ホルナーゲル(Erik Hollnagel)」という人物はどのよ うな人なのですか?

A: ヒューマンエラー防止やヒューマンファクターの分野で世界的に活躍している北欧の著名な学者で、弊社代表の海外 の友人の1人です。ヨーロッパのいくつかの大学で教授を務めました。わが国の原子力業界をはじめ、 産業界や医療界の研究者にも陶酔を受けた人が多くいます。最近では「レジリエンス(Resilience)」 という新しい概念をわが国の医療界や産業界に広めています。「困難な状況にもかかわらず、しな やかに適応して生き延びる力」 という意味のようです。確認はしていませんが、レジリエンスの概念 は弊社代表の寄稿記事の内容に似ている気がします。概念レベルで参考にしていただくのは喜ばし いことですが、重要なのは「概念を実践できるか?」ということです。彼とは JAL 在籍時に大い に議論しました。話題はいつも「机の上で考えただけの理論では航空の現場では通用しない」と いう弊社代表の苦言で終始しました。彼は、耳の痛い苦言でも正論であれば笑顔で聞いてくれる 広い度量を備えていました。彼のレジリエンスが世界のコロナ禍からの脱却に貢献してくれればと心から 願っています。同時に、「弊社のヒューファクが元祖であり、負けてはいられない」という度量の狭い対 抗心も心のどこかでもっています。読者の方々には、冷静な目で両者を比較していただきたいと 思っています。

 

以下(「O-157 とヒューマンエラー」)は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/08/12

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

御巣鷹山事故の真実

2021-08-12

 

Q: 航空事故調査をはじめ、わが国の事故調査は真実を解明しているものがほとんどないということ ですが、JAL の御巣鷹山事故も例外ではないということですか?

A: 「例外ではない」というよりも、「真実を解明していない典型」といえます。ボトムアップ思考の教育 で育ったわが国の指導層には、「沈黙は金」とか「真実と太陽は眩しすぎる」などといって真実を 解明することを嫌う人が多くいます。真実を知って沈黙を守るなら美徳ともいえますが、真実を 解明する意欲と能力がないというのが実態のようです。それを恥と思う人もいません。現在の新 型コロナウィルス(COVID-19)への対応の行き詰まりも、わが国の指導層がボトムアップ思考しかできないこ とと無関係とはいえません。「御巣鷹山事故の真実」を語ることで、わが国の指導層が如何にボト ムアップ思考しかできないかを具体的に知っていただけると思います。

 

Q: 事故を忘れかけている人がいるかも知れませんので、概要を話していただけませんか?

A: 本日で事故から 36 年になります。1985 年 8 月 12 日の夕刻、羽田発伊丹行きの JAL123 便(ボーイン グ 747-100SR)が、飛行中の後部圧力隔壁(Aft Pressure Bulkhead)の破損が原因で群馬県上野 村の御巣鷹山に墜落しました。乗員と乗客 520 人が死亡、乗客 4 人が重傷を負いました。当時の 運輸省航空事故調査委員会は、事故の 7 年前に伊丹空港で起きた「尻もち事故」後の圧力隔壁の 修理でボーイングの AOG(Airplane On Ground)チームが修理ミスをしたことが原因と結論しました。 

 

Q: 事故調査委員会の事故調査で何か不備があるのですか?

A: 「不備がある」というよりも、「真実をまったく解明していない」といえます。この事故は単独で は世界最悪の航空機事故でありながら、これでは国家の恥とさえいえます。そのせいか、今でも 事故調査の結論に疑問をもつ人が数多くいます。主な疑問点は次のようなものです。

 

① 事故が 7 年前の伊丹空港の「尻もち事故」に関連していることは明らかなのに、「尻もち事故」 の原因や圧力隔壁の修理を決定した経緯について何も調査していない。

② 修理ミスを自ら告白したボーイングが修理ミスの詳細について供述を拒んでいるのに、ボーイングの告 白を鵜呑みにしてしまった。

③ 圧力隔壁破損後の急減圧で乗員と乗客が酸素マスクなしに墜落まで30分以上生存していたのに、その理由を科学的に解明していない。

④ 「圧力隔壁破損の際に白い霧状のものを見た」と生存者が証言しているのに、その原因を科 学的に解明していない。 ⑤ ボーイングの告白を確認するために行なった修理ミスを模した実験が、実態を忠実に模擬している とはいい難い。

⑥ 「事故機が迷走飛行した際に戦闘機やミサイルを見た」と乗客がメモを残しているのに、その事実 について何も言及していない。

 

Q: 今でも事故調査の結論に強い疑いをもつ人達がいることについてどう思いますか?

 

以下は原文(PDFファイル)を参照。

 

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2021/07/27

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

欧州北西部で洪水

2021-07-27

 

Q: どのような災害ですか?

 

A: 2021 年 7 月 14 日から欧州北西部で 4 日間にわたって降り続いた豪雨で、多くの河川が大規模な 氾濫を起こしました。ドイツやベルギーを中心に 300 人以上の死者と 2000 人近くの行方不明者が出て います。被害は小さな川でより顕著と伝えられています。ドイツでは、政府のこれまでの異常気象 対策に国民の批判が向けられています。

 

Q: 「ドイツ政府のこれまでの異常気象対策に国民の批判が向けられている」というのは、どういうこ とですか?

 

A: 欧州北西部の国々は、ライン川など長い距離を比較的緩やかに流れる川の氾濫に悩まされてきました。 ドイツ政府は CO2 増加による海水温の上昇が異常気象の主因と考え、CO2 削減対策で世界をリードす るとともに莫大な国家予算を投じてきました。その分、河川の治水対策は疎かにされてきたとい えます。この洪水の被害の甚大さにより、メルケル首相の CO2 削減に偏った政策に国民の批判が向け られているものと思われます。

 

Q: 河川氾濫の態様はさまざまと思いますが、「被害は小さな川でより顕著」というのはなぜだと思い ますか?

 

A: 技術先進国のドイツの土木建築技術者といえども、①河川の様相を平常時で判断して異常時(大量 降雨時)を想定しなかった、②「ベルヌーイの定理」を理解して治水対策や住民の避難計画に活かせ なかった、などが原因と思われます。

 

Q: ①はどういうことですか?

 

A: 図.3 は、平常時と異常時(大量降雨時)の河川の流れの違いです。平常時には水は内堤防の内側 を穏やかに流れます。大量降雨時には、流量が増すだけでなく外堤防にも直接水圧をかけること になります。異常時を想定して外堤防の強度計算を重視すべきというのがリスクマネージメントの基本です が、ボトムアップ思考の土木建築技術者には難しいようです。例えば、阪神淡路大震災の際に阪神高 速道路の高架部分が簡単に倒壊したのも、土木建築技術者が共振現象による動的荷重を想定でき なかったためと考えられます。数年前の茨城県常総市の洪水でも、土木建築の専門家は「小さな 河川の流れが大きな河川の流れにブロックされて逆流するため」と安易に解説していました。流れが 逆流するだけでは流れと平行の外堤防にはあまり負荷がかかりません。小さな河川の洪水は河川 の合流による水圧上昇で起きることを強調すべきでした。 

 

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2021/07/23

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

的を射たご質問

2021-07-23

 

Q: 「熱海で土砂崩れ」と題する安全情報について、読者の方から「的を射たご質問」をいただいた のですか?

 

A: そうです。この方は、大学の法学部を卒業して民間企業のトップや外交官(ヨーロッパの大使)として 活躍された方です。文科系の方だけに、理科系の人間では思いつかない鋭いご質問をされます。 驚くとともに、むしろ新鮮な思いがしています。ご質問を下記にご紹介します。

 

 

ご無沙汰しています。ベルヌーイの定理の速度の部分は、昔学校で簡単に習ったことが直感的にも合 う(狭い方が早くないと流れにならない)ので覚えていて、貴兄の記述はたまたまのミスだろうと 思っていました。この記述の後にある図では狭い方が速度は速いと図示されていますから、何の 問題もないと思います。分からないのは圧力の違いです。直感的には、狭いところの方が周囲に 強い力をかけながら早く流れそうな気がしますが、断面積が広いところの方が周囲に強い力がか かるのでしょうか?

 

Q: どのように回答しますか?

 

A: 理科系の人には、

 

{\frac {1}{2}}v^{2}+{p \over \rho }+gz={\mathrm {constant}}

 

というベルヌーイの定理の方程式を引用すれば一応は納得していただけると思います。

この方程式は 一様重力のもとでの非粘性、非圧縮流体の定常な流れに対して成り立つものです。ただし、v は 速さ、p は圧力、ρは密度、g は重力加速度、z は高さで、第1項は「運動エネルギー」、第2項は「圧 力」、第3項は「位置エネルギー」です。「運動エネルギー」と「圧力」、「位置エネルギー」の総和が一定なの ですから、断面積が大きい部分で流れが遅くなれば、圧力が高くなります。 

 

Q: ベルヌーイの定理で、「運動エネルギー」と「圧力」、「位置エネルギー」の総和はなぜ一定なのですか?

 

A: 理科系の人には「エネルギー保存の法則」と説明すれば一応は納得してもらえます。ですが、質問さ れている読者の方にはそれだけでは納得していただけないと思います。

 

Q: 「エネルギー保存の法則」が科学的に説明できないということですか?

 

A: そういうことになります。物質のエネルギーの根源は、物質を構成する分子間の引力や地球の万有引 力と考えられています。「運動エネルギーや圧力、位置エネルギーとは何か?」という質問は、「分子間の 引力や地球の万有引力とは何か?」という質問と本質的に同じなのです。人類は現在でもその質 問に応えられません。とどのつまりは、読者の方の「的を射たご質問」にはうまく応えられない ということになります。

 

Q: 子供が「飛行機はなぜ飛ぶことができるの?」と大人に聞いた時に、大人は「ベルヌーイの定理」や 「翼型理論」を引用して尤もらしく説明しますが、これは間違いなのですか?

 

A: 残念ながら、そういうことになります。世界の航空工学の最先端の研究者は、量子力学などを持 ち出してそのことを熱く議論しています。ですが、納得できる答えができる人はいません。それ も当然といえます。「分子間の引力」や「地球の万有引力」を誰も説明できないからです。説明で きる人がいれば、物理学部門のノーベル賞をすぐにでも受賞できます。「重力遮断装置」を造って燃 料のいらない航空機を飛ばすことも夢ではありません。

 

Q: 「エネルギー保存の法則」は、「地球温暖化」や「異常気象」とも関係があるのですか?

 

A: もちろんです。「エネルギー保存の法則」や「エンタルピー一定の法則」、「エントロピー一定の法則」などを正し く説明できない人類は、「CO2温暖化説」などという中途半端な考えから脱出できず、異常気象の 本当の原因を見いだすことができません。

 

Q: 結論はどういうことになりますか?

 

A: これまでの説明のように、現実社会には人間の脳では解けない数多くの難問が存在します。脳の 限界を「あるがままに」認めて、謙虚にあくなき努力を続けて現実的な問題解決を模索すること がトップダウン思考の「ヒューマンファクター(Human Factors)」です。

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2021/07/20

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

熱海で土砂崩れ

2021-07-20

 

Q: どのような出来事ですか?

A: 2021 年 7 月 3 日午前 10 時 30 分ごろ、静岡県熱海市の伊豆山地区で土砂崩れが起きて、中腹や裾 野の民家などが押しつぶされて 30 名近くの住民が死亡あるいは行方不明になりました。山上に投 棄した産業廃棄物を含む盛土が土砂崩れの起点とみられています。 

 

Q: マスコミなどは「土石流」と伝えていますが、あえて「土砂崩れ」と称する理由は何ですか?

A: 「土石流」という表現は、自然に存在する地形が豪雨などで崩れたという印象を与えます。です が、この件は人為的に盛られた土砂が梅雨期の長雨で崩壊した可能性が高いといえます。マスコミは 早くから「土石流」と決めつけて今でも修正していません。ある種の意図が感じられます。ここ では、天災ではなく人災という意味で「土砂崩れ」と称することにします。

 

Q: 「土砂崩れ」の原因は何だと思いますか?

A: 厳しすぎるかも知れませんが、ひと言でいえば「ボトムアップ思考の教育で育った産業界や学界、行 政の関係者の発想力の乏しさ」といえます。ヒューマンファクター(Human Factors)の概念を理解してトップ ダウン思考で考えることができれば、この人災は防止できたと思います。

 

Q: 以前にも聞きましたが、「ヒューマンファクターの概念」をあらためて説明していただけませんか?

A: わが国のいわゆる知識人は、欧米の安全管理の分野で注目され始めたヒューマンファクターの意味をよく理 解できず、当初は「人的要因」とか「人間要素」などと誤訳していました。理解できないのは、 ヒューマンファクターがわが国のボトムアップ思考の教育では教えない「実学」だからです。これでは安全管理 の発展が望めないと考えた弊社代表は、JALの技術研究所にいた1995年に「ヒューマンファクター・ガイドブック」 を発刊してヒューマンファクターの解説に努めました。その時に考えたヒューマンファクターの定義が、「環境の中で生 きる人間をあるがままにとらえて、その行動や機能、限界を理解し、その知識をもとに人間と 環境の調和を探究して改善すること」というものです。この定義は英訳して世界の航空界や鉄道界にも紹介しています。ガイドブックはわが国の航空界で広く読まれましたが、残念ながら十分に理 解されているとはいえません。そこで、ヒューマンファクターの定義をこの事例に当てはめながら、あらた めてヒューマンファクターの概念をわかりやすく解説してみたいと思います。

 

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2021/07/08

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

新幹線運転士が離席

2021-07-08

 

Q: どのようなインシデントですか?

A: 2021 年 5 月 16 日午前 8 時 15 分ごろ、東海道新幹線の熱海―三島駅間を時速約 150 キロで走行中の ひかり 633 号で、男性運転士(36)がトイレを使用するために約 3 分間運転席を離れました。腹痛が 理由だったと報じられています。ひかり 633 号には乗客約 160 人が乗っていました。運転士は不 在時の対応を運転資格のない車掌に依頼していました。

 

 Q: JR東海はどのように話しているのですか?

A: マスコミ取材に対して、①体調不良などを感じた場合は指令所に連絡して指示を仰ぐよう規定してい る、②運転士は「停車させて列車を遅らせたくなかったという気持ちと、申告することが恥ずか しいとの思いから、指令所に連絡できなかった」と話している、③事態を国に報告して、運転士 の処分の指導があれば従う、などと話しています。JR 東海の内規では、体調不良などで列車を遅 らせても処分の対象にはしないようになっているそうです。

 

Q: このインシデントを採り上げた理由は何ですか?

A: このインシデントを問題視しないわが国の社会の反応は、国民のボトムアップ思考によるものです。ボトムアッ プ思考は、「誰が正しいのか(Who is right?)」を重視する、権威に弱い考え方です。対してトップ ダウン思考とは、広い視野で「何が正しいのか(What is right?)」を粘り強く洞察する考え方です。 1985年に起きたJALの御巣鷹山事故も、ボトムアップ思考のJAL技術陣がボーイングの権威を盲信して間違った判断をしてしまったことが原因でした。高速鉄道の乗務編成も、ボトムアップ思考で間違った判 断をすれば、その弊害は無視できるものではありません。ここでは、高速鉄道の乗務編成の重要 性をあらためてトップダウン思考で検証してみたいと思います。

 

Q: 高速鉄道の乗務編成をトップダウン思考で考えるというのはどういうことですか?

A: 高速鉄道というのは、時速250キロ以上で営業運転する鉄道です。このような高速走行は、もはや運 転士の手動運転ではできません。

 

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2021/06/18

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

世界二大富豪の確執

2021-06-17

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 現在の世界では、米国アマゾン社のジェフ・ベゾス CEOとテスラ社のイーロン・マスク CEO が突出した大富豪である といわれています。二人はともにIT技術者出身の米国人であり、果てなき野望を抱いて人生を勝 ち抜いて現在の地位を築いたという共通点をもっています。ですが、最近の米国メディアは二人の間 に抜き差しならない確執があることを伝えています。俗にいえば、二人は「犬猿の仲」というこ とです。わが国のマスコミや経済評論家は、二人の共通の夢である宇宙開発をめぐる競争心によるも のではなかと解説しています。ですが、事実はそれほど単純ではないようです。弊社は以前から 二人の間に技術開発をめぐる考え方に大きな違いがあることに気づいていました。今回はそのこ とついてお話するとともに、今後の世界の動向をトップダウン思考で洞察してみたいと思います。 

 

Q: 二人の考え方の違いとはどういうものですか?

 

A: 技術者である二人にとって、莫大な財を築くということは人生の夢を実現するための手段に過ぎ なかったようです。二人の共通の夢は宇宙開発です。二人はすでに私財を投じて宇宙開発に向け た行動を開始しています。宇宙開発に関する二人の考え方も違うようですが、そのことにだけ目 を向けていては、二人の考え方の本質的な違いは理解できません。

 

Q: トップダウン思考で考えれば、本質的な違いがわかるのですか?

 

A: もっと広い視野で二人のこれまでの言動を洞察する必要があります。宇宙開発の成功の鍵は、コンピ ュータやAIを駆使したシステムの自動化です。二人は宇宙開発の前段として自動車の自動運転に挑戦しま した。当初は二人ともレベル3の自動運転に挑戦したのですが、ある時点でジェフ・ベゾスは自動運転に 対する考え方を大きく変えました。 

 

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2021/05/14

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

 プリウス運転者が証言

2021-05-14

 

Q: 表題は「池袋におけるプリウスの暴走事故」に関するものだと思いますが、情報の発信については少々 悩んだそうですね?

 

A: そうです。この事故についてはすでに刑事裁判が始まっています。どのような切り口で発信すべ きか悩みました。ですが、読者からのコメントで背中を押されました。この方はある大学で学生を指 導するとともに、学界や産業界でも活躍されています。最近は世界を舞台にますます活躍されて いるそうです。このような読者の方々の参考になればと思い、あえて情報を発信します。

 

 ご無沙汰しております。車の自動運転など、参考になるお言葉の数々ありがとうございます。「池 袋におけるプリウスの暴走事故」についても、関心を持っておりますので期待しております。近況で すが最近、欧州の未来の車の開発に携わっております。

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2021年4月27日、東京・池袋で車が暴走、親子が死亡した事故で、I被告(89)が過失運転致死傷 の罪に問われた裁判で、I被告に対する被告人質問が初めて行われました。 I被告は、「車が制御 できないことを非常に恐ろしく感じました。パニック状態になったと思います。」と供述しました。旧 通産省工業技術院の院長であったI被告は、2019年に池袋で自家用のプリウスを暴走させて、横断歩 道に突っ込んで31歳の母親と3歳の娘を死亡させるとともに、9人に怪我をさせた罪に問われまし た。I被告は無罪を主張しています。 27日の被告人質問でI 被告は、事故当日については、「走る 前に車のブレーキをチェックしましたが、異常はありませんでした」と応えました。事故当時の状況につ いては、「アクセルを踏んでいないのに、エンジンが高回転になりました。」と説明して、「車が制御でき ないことを非常に恐ろしく感じました。パニック状態になったと思います。」と述べました。

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2021/05/06

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

 

 読者のご質問

2021-05-05

 

Q: 「テスラ EV が死亡事故」という安全情報に関して、読者の方から質問が届いたそうですね?

 

A: 下記のような質問が届きました。この方は謙遜されていますが、わが国を代表するエネルギー開発会 社を率いて海外でも活躍され、高度成長期のわが国の経済を牽引されたと聞いています。退職さ れた現在でも、社会貢献活動を続けておられます。頭脳は極めて明晰な方です。だからこそ、弊 社の情報で自動運転に危機感をもって、このような的を射た質問をされるのだと思います。

 

 

  車の自動運転はどこまで進むのか?進めるべきか?と疑問を抱いている、錆付き始めている私の 脳細胞を、貴兄の報告書は激しく活性化し、楽しく読ませていただきました。ありがとう。刺激 を受け活性化した細胞を鎮静化させるため、以下の二点に応えてください。

 

1.「人間中心の自動化」の概念を設計に実践できている「あるシステム」とは?

2.電磁干渉(EMI)についての分かり易い説明と事故例。

 

宜しくお願いします。

 

Q: 冒頭の「車の自動運転はどこまで進むのか?進めるべきか?」という疑問については、どう応え ますか?

 

A: 先ず、自動運転のレベルの話から始めるのがわかりやすいと思います。図.1は、米国の自動車技術 会(SAE: Society of Automotive Engineers)が定義している「自動運転のレベル」です。自動車 業界が目指しているのはレベル3~レベル5の自動運転で、自律的自動化(Autonomous Automation ) とよばれています。

 

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2021/04/29

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

テスラEVが死亡事故

2021-04-26 

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2021年4月17日、米国の電気自動車(EV)大手テスラのセダン(モデル S)が、運転席に誰も乗っていな い自動運転で死亡衝突事故を起こしました。この事故で半自動運転システムの安全性が厳しく問われ、 この分野の規制監督の曖昧さが改めて浮き彫りになっています。 事故があったテキサス州ハリス郡の警 察は、モデル Sはカーブを曲がりきれず木にぶつかって炎上して、助手席にいた人と後部座席の自動 車オーナーが死亡したと説明しています。 テスラのイーロン・マスク CEOは、モデル Sは車線維持や自動ブレーキとい った「オートパイロット」と呼ばれる半自動運転システムが作動しておらず、より高度な「フルセルフドライビング(FSD)」 は装備していなかったと語っています。 こうしたオートパイロットやFSD、他のメーカーが製造している類似 の機能こそが、自動車と道路の安全に責任を負う当局者に課題を突きつけています。 米道路交通 安全局(NHTSA)は、オートパイロットのような半自動運転システム、もしくは完全自動運転車(AV)向けの 特別な規制ないし性能基準をまだ導入していません。そうしたシステムが必ず意図通りに使われるよ うにとか、運転手が間違った使い方をしないようにメーカーに要求するルールもありません。唯一存在す るのは、車両へのハンドル装備と人間によるコントロールを義務付ける連邦規則だけです。 性能や技術に ついての基準がないために、オートパイロットのようなシステムは規制面でのグレーゾーンに置かれています。 オ ートパイロットが作動していたテスラ車による衝突事故は、以前にも多数あります。テスラは昨年10月以降、 FSDのベータ版を約2000人の顧客向けに提供していて、実質的に公道における機能の試験を可能にし ています。 ハリス郡の警察は現在、テスラのデータに対する捜索令状を請求していて、今回の事故の被害 者も車両の自動運転機能を試そうとしていたという目撃者情報を公表しています。 

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2021/04/20

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

CO2消火設備が誤作動

2021-04-19 

 

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2021年4月15日、東京都新宿区下落合のマンション地下駐車場内で、天井の張り替え工事中にCO2 が充満して男性作業員4人が酸欠で死亡しました。CO2消火設備の誤作動が原因と見られています。 この種の消火設備を取り扱う消防設備士などの資格者は現場に配置されていませんでした。総務 省消防庁は資格者の立ち会いを求める通知を出していました。同設備は、CO2を放出して空間内の 酸素濃度を下げて火が燃え広がるのを防ぐものでした。工事の元請け建設会社の幹部は「通知は 把握していたが義務ではなく、事故を想定していなかった」と述べています。ただ、現場責任者 は作業の前に「CO2消火設備があるから気をつけて」と注意喚起していたそうです。警察によると、 地上にある起動ボタン付近の防犯カメラには、ボタンが押される様子は映っていませんでした。地下で作 業中に設備に接触した可能性があるとみられています。地下1階にある立体駐車場の天井が水漏れ により腐食したため、石こうボード約200枚の張り替え工事が朝から行われていました。地下1階に 住民が入ることはありませんが、作業員は専用のはしごで下りていました。工事の1日目の作業を 終えて片付けをしていた午後5時ごろ、「火災が発生しました。消火剤を噴出します」とのアナウンス と警告音が流れて、CO2が噴出しました。警告音を聞いて自力で逃げた30代の男性は「天井にある センサーのカバーを取り付ける作業をしている時に警告音が鳴った」と話しています。

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2021/04/14

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

 737MAX問題の総括

2021-04-14

 

Q: コロナ禍のこの時期に、ボーイング 737MAX の問題を総括してみようという理由は何ですか?

 

A: 737MAXは、2018年から2019年にかけて相次いで起きたインドネシアのライオンエア610便とエチオピアのエチオピア航 空302便の墜落事故で、2019年3月にFAAにより運航停止されていました。紆余曲折の末に1年8ヶ月 後の2021年11月に運航停止が解かれましたが、事故の真因はまだ十分には解明されていません。 737MAXの運航停止でボーイングは多大な経営上の打撃を被り、米国経済も少なからぬ影響を受けまし た。このことが、FAAが事故の真因を明確にできないまま運航停止を解かざるを得なかった一因で はないかと思っています。ボーイングは、737MAXの運航復帰と製造再開に向けて経営体制の刷新と企 業文化の変革を発表しました。ですが、事故の真因を明確にできなければ説得力をもたないこと は明らかです。世界の航空界や世論が今般のFAAの措置やボーイングの改善策をどのように受け取る かは予断を許しません。わが国の航空会社も737MAXの導入を計画していた経緯があり、この問題 は無関係とはいえません。弊社のトップダウン思考による分析と見解が今後の航空安全の発展に些か でも貢献できることを願っています。

 

  本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

  URL: http://www.hufac.co.jp  

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737MAX問題の総括
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2021/04/06

 

外村孝史氏から:

 

HuFac Solutions, Inc.

 

 インドネシア航空機が墜落②

2021-03-31

 

Q: 第1報から何か進展があったのですか?

 

A: 事故は 2021 年 1 月 9 日に起きましたが、インドネシアの事故調査当局は 2021 年 2 月 10 日に事故調査 の中間報告(Preliminary Report)を公表しています。

 

Q: 中間報告の概要をお聞きしたいのですが、その前に第1報で伝えられた事故の概要をあらためて 聞かせていただけますか?

 

A: 2021年1月9日、スリウィジャヤ航空182便(ボーイング737-500)がインドネシアのジャカルタ(スカルノーハッタ)国際空港 を離陸直後に海に墜落しました。56人の乗客と6人の乗員全員が死亡したと思われます。182便は パンカルピナンを出発後に現地時間12時11分にジャカルタ国際空港に到着していました。その後、13時40 分に再離陸しました。附近で雷雨が発生していたため、空港の天候は大雨と低雲をともなう悪天 候となっていました。そのために離陸が遅れて、14時18分に滑走路25Rへの離陸滑走(Taxing) が許可されました。滑走路35Rからの離陸は14時35分に開始されました。離陸後、上昇しながら 右旋回を開始しました。14時37分に29,000フィートまでの上昇を許可されました。「フライトレーダー24」の ADS-B追跡データによれば、同便は高度約11,000フィートに到達した後に急速に降下しています。最後 の記録は14時40分で、空港からほぼ19 km、海岸の北7 kmのジャワ海上空でした。航空管制は、同 便が飛行計画通りに方位075°に向かうのではなく北西の方向に飛んでいることに気づいていま した。インドネシア政府の救難チームが海域の捜索に当たり、ダイバーが海深23mで残骸の一部を発見しま した。それ以前にも、金属部品やケーブル、救難スライドなどの浮遊物が見つかっていました。最新の 報道によれば、当局は操縦室音声記録(CVR)と飛行記録(FDR)の電波を検知しており、位置を 特定しているとのことです。CVRとFDRは互いに離れた場所に沈んでいるようです。

 

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インドネシア航空機が墜落②
ヒューファク安全情報_21-03-31_インドネシア航空機が墜落② (003).
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