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--  安全情報  --

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「航空安全」「ヒューマンファクター」の

第一人者が「トップダウン思考」

により様々な「社会問題」を考察・点検

 

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 本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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--- 目次 ---

 

 

 ヒューファク安全情報:思い込みの事故調査 2024-09-27

 ヒューファク安全情報:東北新幹線の連結器が分離 2024-09-19

 ヒューファク安全情報:NASAとボーイングが激論 2024-09-08

 ヒューファク安全情報:紛らわしい管制指示 2024-09-02

 ヒューファク安全情報:アエリアス航空 ATR72-500が墜落 2024-08-15 

 ヒューファク安全情報:音声警報が危険な理由 2024-08-09 

 ヒューファク安全情報:JR東海の保守用車が脱線 2024-08-07 

 ヒューファク安全情報:39年目の御巣鷹山事故 2024-07-28 

 ヒューファク安全情報:サウリヤ航空のCRJ-200が墜落 2024-07-25 

 ヒューファク安全情報:講演のご感想 2024-07-22 

 ヒューファク安全情報:ヒューマンファクタが国を変える 2024-06-29 

 ヒューファク安全情報:対策検討委員会が中間報告 2024-06-26 

 ヒューファク安全情報:作業者がエンジンに吸い込まれる 2024-05-31 

 ヒューファク安全情報:シンガポール航空便で乗客が死亡 2024-05-24 

 ヒューファク安全情報:ジェイエア機が緊急RTO 2024-05-16   

 ヒューファク安全情報:海自ヘリ2機が墜落(第2報) 2024-04-29   

 ヒューファク安全情報:海自ヘリ2機が墜落 2024-04-22   

 ヒューファク安全情報:民間ロケット落ち上げ失敗 2024-04-08   

 ヒューファク安全情報:ANA機どうしが接触  2024-02-26   

 ヒューファク安全情報:事故検証の続報を放映  2024-02-13   

 ヒューファク安全情報:対策検討委が発表  2024-02-03   

 ヒューファク安全情報:ハワイアン航空機が滑走路に侵入  2024-01-28   

 ヒューファク安全情報:YouTube番組の反響  2024-01-23   

 ヒューファク安全情報:アラスカ航空機で急減圧  2024-01-16   

 ヒューファク安全情報:ヒューマンファクターを考慮する  2024-01-08   

 ヒューファク安全情報:管制記録を公表  2024-01-06   

 ヒューファク安全情報:安全対策の検証  2024-01-04    

 ヒューファク安全情報:JAL機が海保機に衝突  2024-01-03    

 

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HuFac Solutions, Inc.

 思い込みの事故調査 

2024-09-27

 

Q: 表題はどういうことですですか?

 

A: 2022 年 4 月 23 日に北海道知床沖で観光船が沈没して 26 人が死亡した事故で、海上保安庁は運航 会社の社長を業務上過失致死などの疑いで逮捕しました。被疑者には、知床沖で観光船 KAZU 1 を 運航する際に、運航管理者として安全を確保すべき義務を怠った疑いが懸けられています。海上 保安庁は、被疑者の認否を明らかにしていません。KAZU 1 沈没の原因を、蓋を閉め忘れた甲板の ハッチからの浸水とみて捜査してきました。海上保安庁による逮捕は、運輸安全委員会(JTSB)によ る事故調査の中間報告に影響されているようです。弊社は、JTSB の中間報告に「思い込み」があ ると思っています。

図.1 JTSB による KAZU 1 の沈没イメージ

 

Q: JTSB の「思い込み」とは、どういうことですか?

 

A: 弊社のヒューファック理論は、「思い込み」を「デジタル情報を潜在意識でアナログ処理してしまうこと」と定 義しています。デジタル情報とは、複数の解釈ができる曖昧な情報です。顕在意識で慎重に処理しな ければ、誤った解釈をすることがあります。そのような安易な情報処理がボトムアップ思考です。トップ ダウン思考なら、遭遇した情報がデジタル情報ではないかという疑いをもって、顕在意識で慎重に処 理します。弊社は常々、「デジタル情報が氾濫する現代デジタル社会にあっては、ボトムアップ思考ではな くトップダウン思考で臨む必要がある」と説いています。

 

Q: ヒューファック理論によれば、JTSB の中間報告は「思い込み」といえるのですか?

 

A: そういうことになります。深さ 180 メートルの海底から引き上げられた KAZU 1 の甲板のハッチの蓋がヒン ジ部から破損してなくなっていることがわかっています。JTSB は、この状況を「蓋を閉め忘れた まま高波に煽られて、ヒンジ部が破損した」とボトムアップ思考で思い込んでしまったようです。です が、トップダウン思考で考えれば、この状況はデジタル情報であり、他の解釈もできることがわかります。いい換えれば、JTSB は「思い込み」をしている可能性があるといえます。

 

Q: 「他の解釈」とは、どういうものですか?

 

A: 蓋のヒンジ部はアルミ製です。金属疲労による亀裂(Crack)がなければ、蓋を閉め忘れて高波に煽られ ても、破損する可能性は低いといわざるを得ません。金属疲労による亀裂があったかどうかは、ヒ ンジ部の破面を電子顕微鏡で分析すればすぐにわかります。

 

Q: 金属疲労による亀裂がなくても、ヒンジ部が破損する可能性はあるのですか?

 

A: ハッチの蓋が閉められていれば、可能性があります。広い視野と深い洞察のトップダウン思考でなければ 思いつきません。ハッチの蓋が閉められたまま 19 気圧の海底 180 メートルまで徐々に沈んだ KAZU 1 を短 時間で引き上げれば、ハッチ内部に溜まった空気が途中で急激に膨張します。そうなれば、ハッチ内部の 気圧が急激に上昇して、蓋のヒンジ部やロック部の強度が耐えきれずに破損します。この現象は、深海 に生息する魚類を釣り上げる際に、魚類の胃袋などが膨張して破裂する様子に似ています。スキュー バダイビングでも、ダイバーが急激に浮上すれば肺や脳の細胞が膨張して潜水病になります。

 

Q: JTSBの事故調査が「思い込み」であるなら、真因は何が考えられますか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、船底の外板の破損が疑われます。KAZU 1の船底の外板は、最近流行り の繊維強化プラスティック(FRP)製です。事故の直前に破損して、修理されていました。FRPの外板の 修理には、高度の修理技術を要します。ですが、わが国ではFRP製船舶の修理で簡易的な修理方法が普及しています。引き上げられたKAZU 1の船底には、数箇所の破損が認められます。JTSB は、修理方法について深くは調べていないようです

 

Q: わが国では、他にも「思い込みの事故調査」があるのですか?

 

A: 衝撃的かも知れませんが、「枚挙に暇がない」といっても過言ではありません。ICAO は、事故防止 マニュアル(APM)で「事故調査にはトップダウン思考の人材を当てるべき」と規定して、事故調査担当者の 訓練を奨励しています。残念ながら、わが国では事故調査担当者の訓練が徹底されていません。そ のため、政府や産業界、医療界などの事故調査担当者の多くはボトムアップ思考で事故調査に当たっ ています。司法における犯罪捜査でも、まれに「思い込み」があるようです。

 

Q: 具体例をいくつか挙げていただけませんか?

 

A: 社会で広く知られている事例を挙げてみます。1つは、2003 年 11 月 29 日に種子島宇宙センター から打ち上げられた H2A ロケット 6 号機が、2 本の固体ロケットブースターのうち 1 本が分離できな くなって、予定高度に達する前に爆破された事故です。JAXA は、主ロケットとブースターの間の 隔壁に何らかの要因で孔が開いて、主ロケットの高熱噴流がブースターに流入したことが原因 と結論しました。ブースターは、主 ロケットとの結合部に仕掛けた爆薬に電気で点火すること で、打上げ直後に自動的に分離するように設計されています。このシステムが主 ロケットの高熱噴流で焼損したために ブースターを分離できなかったと考えられています。地上の計測シ ステムには、ブースター内部の温度が異常に上昇していたことが記録されています。H2A ロケット の関連部品が海中から回収できなかったために、JAXA の仮説は確認されていません。

 

図.2 H2A ロケットの ロケットブースター

 

Q: JAXA の仮説は、「思い込み」ということですか?

 

A: 否定はできませんが、その可能性もあります。これまでにわかっている状況はデジタル情報で、他の 可能性があります。最初に思いついた可能性だけに固執してしまうのは、「思い込み」ともいえま す。JAXA は、H2A ロケットの推進システムの地上試験で経験した同種トラブルに影響されて、「思い込み」をし ているようです。

 

Q: 「他の可能性」とは、何がありますか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、ブースター分離のための爆薬点火の電源として、 ブースター内部に大型 の リチウムイオン電池が装備されていることに気づきます。どのリチウムイオン電池にも、過充電や過 放電を防ぐための半導体内蔵の マイコンが組み込まれています。ブースターの構造には ボーイング 787 と同じような材質が採用されていて、内部が帯電しやすくなっています。リチウムイオン電 池の マイコンが EMI で誤作動すれば、発火する可能性があります。2013 年に、JAL と ANA、エジ プト航空の 787 のリチウムイオン電池が相次いで発火する事故が起きています。その後、FAA は原 因不明のまますべての 787 を半年にわたって運航停止にしました。

 

Q: H2A ロケット 6 号機の事故も、ボーイング 787 と同じようにリチウムイオン電池の発火が原因かも知れないと考 えられるのですか? 

 

A: そうです。ブースター構造の内部が帯電していれば、打ち上げの際に EMI で リチウムイオン電池が発火する可能性も否定できません。そうなれば、ブースター分離のための爆薬に点火できなく なる可能性があります。打上げ時にブースター内部の温度が異常に上昇したという地上の計 測 システムの記録とも符合します。

 

Q: EMI によるトラブルは、稀ではないのですか?

 

A: そうです。NASA が、これまでの宇宙開発で数多く経験しています。民間航空界でも、数多く経験 しています。民間航空界は積極的には公表しませんが、NASA は論文や報告書で公表しています。 EMI の問題は、トップダウン思考でなければ解決できません。

 

Q: 他にも、「思い込みの事故調査」がありますか?

 

A: 重要な事例があります。1985 年に起きた JAL123 便の御巣鷹山事故です。この事故の原因は、 「ボーイングによる後部圧力隔壁の修理ミスと JAL の点検 ミス」とされています。 ボーイング は、事故直後に下図のような自らの修理ミスを告白しました。わが国の事故調査委員会 や JAL、社会は、権威ある ボーイングの告白を正しいと思い込んでしまいました。

 

図.3 ボーイングが告白した修理ミス

 

Q: そうではないのですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、そうではないことが直ぐにわかります。まず、右図のような修理ミス は JAL の整備工場の施設では起こり得ません。左図のような修理も、圧力隔壁の強度を 担保できる正規の修理とはいえません。つまり、「左図のような修理であれば事故は起 こらなかった」という考えは「思い込み」ということになります。

 

Q: 最近も、「思い込み」の可能性がある事故調査があったようですね?

 

A: そうです。2024 年 9 月 19 日に JR 東日本の東北新幹線のはやぶさ・こまち 6 号の連結器が走行中 に分離した事故です。弊社は、事故発生当日に安全情報を発信して、原因が EMI の問題であることを示唆しました。ですが、最近になって、JR 東日本は「連結器分離のための電子機器がスイッチに 金属片が挟まって誤作動したことが原因」と発表しました。

 

図.3 JR 東日本による事故原因説

 

Q: JR 東日本による事故原因説をどう思いますか?

 

A: 可能性は否定できませんが、「思い込み」であると思います。ボトムアップ思考の JR 東日本の技術者 には、EMI による電子機器の誤作動が理解できないようです。EMI の問題を理解できなければ、「金 属片が挟まった」などという突飛な発想しかできません。過去にも、EMI の問題で同じような例が があります。EMI が疑われる事故で、電子回路の分岐器の近傍で金属製のコインが発見されました。 そのため、「分岐器の接点にコインが挟まったことが原因」と結論してしまいました。企業にとって は、国民の不安を早期に払拭できればどんな手段でもよいのかも知れません。

 

Q: 「思い込みの事故調査」を防ぐには、どうすればよいと思いますか?

 

A: ICAO が事故防止マニュアルに規定しているように、トップダウン思考の人材を事故調査に登用するか、人材 を養成するしかないと思います。弊社は、トップダウン思考を養成する訓練をビジネスにしている「世界 で唯一の企業」といえます。

 

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思い込みの事故調査
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HuFac Solutions, Inc.

 東北新幹線の連結器が分離 

2024-09-19

 

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2024 年 9 月 19 日午前 8 時 7 分ごろ、JR 東日本の東北新幹線上りのはやぶさ・こまち 6 号が、古 川-仙台間を走行中に連結器が分離して緊急停車しました。同社は、車両を点検して詳しい経緯 を調べています。乗客は合わせて約 320 人で、けが人はいませんでした。東北新幹線は、トラブル を受けて東京-新青森間の上下線で運転を見合わせました。秋田駅を出発したこまち 6 号(7 両) が、盛岡駅で同駅始発のはやぶさ 6 号(10 両)と連結していました。東京駅に向かって走行中に 連結器が外れたものです。非常ブレーキが作動して、古川駅を通過後約 6 キロ走行した地点で止まり ました。同社は、トラブル発生後の点検でいずれの車両も脱線していないことを確認しました。国 交省によれば、走行中の新幹線で連結器が外れるトラブルは国内で初めてとのことです。 

 

図.1 連結器が分離したはやぶさ 6 号

 

Q: 事故発生の当日ですが、原因を推測できますか?

 

A: トップダウン思考で考えれば推測できます。トップダウン思考では、新幹線の連結器のデザインに注目しま す。そして、航空や宇宙開発の分野にまで視野を広げて同種のトラブルがないかを考えます。今般 の新幹線の連結器の分離は、発生の状況から、宇宙開発における宇宙機帯電(Spacecraft Charging)と同じと考えられます。帯電で放電した電磁波で、分離のための電子機器が誤作動し たと思われます。ボトムアップ思考で考えている鉄道技術者には、原因を特定して対策を講じること は難しいかも知れません。

 

Q: 「新幹線の連結器のデザイン」とは、どういうものですか?

 

A: 1964 年に開通した東海道新幹線では、連結器が一新されました。連結器は通常はカバーで隠れてい て、一般乗客が目にできる機会はありませんでした。しかし、1992 年の東京 - 山形間での新在直通運転の開始で、営業運転中の新幹線列車が途中駅で分割・併合を行うことになりました。営 業運転で分割・併合を行うためには、乗務員室内の遠隔操作で連結器の分離・締結操作や連結器 カバーの開閉を行う分割併合装置が必要になりました。そのため、400 系や E2 系、E3 系、E4 系、 E5 系。E6 系の車両で、電磁式の分割併合装置が搭載されることになりました。これらは「新幹 線用密着連結器」と呼ばれ、電子機器により遠隔操作されるようにデザインされています。因み に、新幹線以外にも同種の電磁式連結器が用いられて私鉄車両があります。

図.2 新幹線用密着連結器

 

Q: 新幹線が高速で走行している時に、連結器が分離するとどうなるのですか?

 

A: 鉄道車両の連結器は、駆動力を伝達する以外にも、走行安定性の維持や振動の減衰など多くの役 割を担っています。運悪く連結器が分離した後でカーブなどに遭遇すれば、脱線する可能性も否定 できません。高速で走行する新幹線の連結器の分離は、決して楽観視すべきではありません。

 

Q: 「宇宙機帯電(Spacecraft Charging)と同様の現象」を防止する対策はあるのですか?

 

A: あります。この現象は航空や自動車、宇宙開発の分野でも起こり得ます。ご依頼いただければ、 弊社はコンサルティングを通じて防止策を詳細にアドバイスさせていただきます。

 

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東北新幹線の連結器が分離
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HuFac Solutions, Inc.

 NASAとボーイングが激論 

2024-09-08

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2024 年 6 月 5 日に NASA が打ち上げたスターライナー(Starliner)は、初の有人飛行試験(CFT: Crew Flight Test)として、2 人の宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)に送りました。しかし、ヘリウム 漏れやスラスター(推進装置)の故障により、宇宙飛行士を乗せての地球帰還を断念しました。スターライ ナーを無人で帰還させるという決断については、NASA とボーイングの間で激論が交わされたと報じら れています。NASA の関係者は、「ボーイングは、残りの飛行中のスラスターの劣化を予測するために作成 したモデルを過信していた」と語っています。「NASA のチームはそのモデルを見て、いくつかの限界を感 じた。それは、スラスターに信頼がおけるかどうか、そしてドッキング解除から軌道離脱燃焼までの劣化 をどの程度予測できるかということだった。」とも語っています。同関係者は、スターライナーは結局、 9 月 6 日に宇宙飛行士を乗せずに ISS を離れ、7 日に地球に帰還する予定と話しています。スターライ ナーで ISS に搭乗した 2 人の宇宙飛行士は、2 人体制で打ち上げられるスペース X の ISS 宇宙飛行士輸 送ミッション「Crew-9」として、2025 年 2 月に地球に帰還する予定です。6 月 6 日に ISS にドッキングし た時に、スターライナーに搭載された姿勢制御システム(RCS: Reaction Control System)の 28 基のスラスター のうち 5 基に不具合が発生したとされています。その後、何カ月にもわたる軌道上や地上での試 験、モデリングが行われました。しかし、根本的な原因の可能性があるスラスターの過熱が断熱材の脱落 につながる可能性があり、トラブルを起こさずに帰還できるという確証が得られませんでした。 NASA はボーイングと議論して、最終的に 2 人の宇宙飛行士をスターライナーに乗せるのはリスクが大きすぎる と判断しました。 

 

図.1 NASA が打ち上げたスターライナー

 

Q: NASA はボーイングに不信感をもっているようですが、どうですか?

 

A: スターライナーは、以前から数々の技術的問題に悩まされてきました。この宇宙機(Spacecraft)は、 NASAの商業乗員計画(Commercial Crew Program)の一環で、民間企業と提携して宇宙飛行士を ISSへ往復させる役割を担っています。スペースXのドラゴンカプセルは何年にもわたって宇宙飛行士を運 んでいますが、ボーイングはまだスペースXに追いついていません。NASAは、ボーイングが数々の技術的問題を解決できていないことに不信感をもっているようです。加えて、有人でのスターライナーの帰還を 提案したボーイングの人命軽視の姿勢にも不信感をもったようです。

 

Q: 「スターライナーで悩まされた数々の技術的問題」とは、どういうものですか?

 

A: 具体的に明らかにはされていませんが、推測はできます。NASA はこれまで、主にボーイングととも にロケットやスペースシャトル、惑星探査機などの宇宙機を開発してきました。その間、数々の技術的問題 を経験しています。NASA は、すべてを「NASA レポート」で率直に報告しています。NASA は国費で 運営されているために、経験を民間の技術開発にフィードバックする義務があると考えているようで す。報告されている技術的問題の中で最も特筆すべきものは、宇宙機帯電(Spacecraft Charging)という問題です。

 

図.2 宇宙機帯電の概念図

 

Q: 「宇宙機帯電」というのは、どのような問題なのですか?

 

A: 宇宙機は、宇宙の放射線やオーロラなど自然現象の影響で内部の空気がイオン化して帯電(Charging) します。帯電があるレベルに達すると放電(Discharging)して、電磁波を発生します。発生した 電磁波は電磁干渉(EMI: Electro-magnetic Interference)を及ぼして宇宙機の電子機器を機能 不全に陥らせることがあります。スターライナーの一部のスラスターが故障したのも、宇宙機帯電が原因では ないかとも疑われています。宇宙機帯電は、宇宙飛行士の健康被害をもたらすこともあります。

 

Q: 宇宙機帯電の問題は、解決できないのでしょうか?

 

A: 宇宙機帯電も、弊社が常々指摘している電磁干渉(EMI)の問題の1つです。EMIの問題は、顕在 化できず再現することもできません。これまで、技術者や研究者は実験で問題の存在と解決を確 認することで技術を発展させてきました。この従来からのやり方は、いわばボトムアップ思考の問題 解決といえます。EMIの問題は、ボトムアップ思考では解決できません。これまでとは異なる、トップ ダウン思考の問題解決が必要になります。ボーイングには優秀な技術者が多数いますが、多くはボトムア ップ思考であるために、EMIの問題を解決できていないのだと思います。

 

Q: わが国の宇宙開発でも、宇宙機帯電を経験しているのでしょうか?

 

A: マスコミは報じていませんが、経験していると思います。本年 1 月に JAXA が月探査機「SLIM」を月 面に着陸させましたが、残念ながら上下転倒して着陸しました。そのため、月の鉱物サンプルを地 球に持ち帰ることができなくなりました。原因は、SLIM の推進装置の1つが作動せず、姿勢制御 ができなくなったためと考えられています。SLIM の推進装置の故障も、宇宙機帯電に起因してい るのではないかと考えられます。以前にも、探査機「はやぶさ」が宇宙で制御不能となったこと があります。この制御不能も、宇宙機帯電が原因ではないかとも考えられます。EMI は証拠を残 さないために事後に確認することはできませんが、疑ってみる必要はありそうです。

 

図.3 月探査機「SLIM」

 

Q: 宇宙機帯電と同様の問題は、航空機の分野でもあるのですか?

 

A: 航空機でも、宇宙機と同じように高々度における放射線や低高度における被雷で帯電します。溜 まった電機を大気に放電する装置(Static Discharger)もありますが、最近の航空機にはうま く放電できない機種があります。2013 年に JAL と ANA のボーイング 787 のリチウムイオン電池が相次いで発 火しましたが、弊社は早くから宇宙機帯電と同様の問題ではないかと考えました。当時、弊社代 表がこの問題でマスコミの取材を受けましたが、証明ができないために「わが国のある企業の技術が 原因」という抽象的な表現に留めていました。「わが国のある企業の技術」とは、宇宙機帯電と 同様の問題を引き起こしやすい技術です。また、ボーイング 737MAX が失速防止のためのコンピュータ自 動化システムの誤作動で墜落した事故があります。ボーイングは、航空界を納得させられる根本的な原 因を究明できていません。737MAX にも「わが国のある企業の技術」が採用されています。弊社 は、宇宙機帯電と同様の問題が原因ではないかと考えています。

 

Q: 宇宙機帯電の問題はボトムアップ思考では解決できないということですが、NASA はトップダウン思考の問 題解決を模索しているのですか?

 

A: NASA は明言していませんが、その兆候がうかがえます。具体的には「ヒューマンファクターの取り組み」で す。ヒューマンファクターは、従来のボトムアップ思考の科学技術とは異なる、トップダウン思考の科学技術です。

 

Q: 「ヒューマンファクターの取り組み」というのもまだ抽象的ですが、どういうことですか?

 

A: NASA は、HEA(Human Error Analysis)と称するヒューマンファクター分析手法を開発して、航空宇宙業界に普及させようとしています。ボトムアップ思考の技術者のプライドを配慮して、それとなくトップダウン思考の科学技術であるヒューマンファクターを広めようとしているようです。

 

Q: 過去に、NASA が航空宇宙業界に「ヒューマンファクターの取り組み」を勧めたことはあるのですか?

 

A: あります。かつて、NASA に Earl Wiener 氏(故人)というヒューマンファクターの大御所がおられました。 氏が率いる NASA のヒューマンファクター研究グループが、最終段階に入っていたボーイング 777 の設計を審査し たことがあります。審査の結果、777 の設計が多くの点でヒューマンファクターの原則に則っていないこと がわかりました。ボーイングは NASA の指摘を率直に認めて、777 の設計を全面的に変更しました。 その時に NASA がボーインに指摘した設計の不備の一部は、FAA によるわが国の MRJ の型式証明の審 査でも指摘されました。

 

Q: ところで、SLIM の後に中国が打ち上げた月探査機は正常な姿勢で月面に着陸して鉱物サンプルを持 ち帰っていますが、中国は宇宙機帯電体の問題を解決しているのでしょうか?

 

A: 中国が宇宙機帯電体の問題を解決できているのか、たまたま不具合が出なかったのかはわかりま せん。ですが、中国がトップダウン思考の問題解決を模索して、ヒューマンファクターの研究を進めているとの 情報も得ています。いずれにしても、わが国は中国や韓国の宇宙開発の能力を過少評価すべきで はないと考えます。 

 

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NASAとボーイングが激論
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HuFac Solutions, Inc.

 紛らわしい管制指示 

2024-09-02

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2024 年 1 月 2 日に羽田空港の滑走路 34R で JAL516 便と海保機の衝突事故が起きまし た。その後、国土交通省の事故対策検討委員会が検討の中間報告をしましたが、事故 がなぜ起きたのかについては明らかにしていません。弊社は、事故の翌日の 1 月 3 日 に安全情報を発信して、管制官が海保機のパイロットに発した管制指示がデジタル情報であ るために紛らわしいということを示唆しました。ここでは、管制官が発した「紛らわし い管制指示」の詳細と背景について、ヒューマンファクターの観点から解説させていただきます。 

 

図.1 JAL516 便と海保機の衝突事故 

 

Q: 管制官は海保機のパイロットにどのような管制指示をしたのですか?

 

A: 下記のような「Taxi to holding point C5」という管制指示をしました。日本語に訳せば、「誘 導路 C5 の停止位置まで地上滑走するように」という内容です。

 

図.2 JAL516 便と海保機の衝突事故

 

Q: この管制指示が、なぜ「紛らわしい管制指示」といえるのですか?

 

A: ヒューマンファクターの観点からいえば、複数の解釈ができるデジタル情報だからです。デジタル情 報とは人類が造った人工的な情報で、便宜上、言語のように複数の意味を持たせてい ます。一方、人間の脳の潜在意識は「動物脳」ともいわれ、人類が創造した複雑なデ ジタル情報をうまく処理することができません。複数あるデジタル情報の意味のうち、直 感的にとらえた1つの解釈で行動してしまうことがあります。直感的な解釈が情報の 発信者の意図と一致していればよいのですが、違っていればエラーということになってし まいます。

 

Q: 講演などでは、「紛らわしい デジタル情報で エラーをしやすい」ということをどのように解説し ているのですか?

 

A: 下図を使って解説しています。下図の左上の絵は、明らかに男の絵であるとわかります。右下の 絵は、明らかに女の絵です。ですが、その間の絵はどちらとも判別しにくい絵です。左上と右下 の絵は、潜在意識でも判別しやすいアナログ情報です。対して、どちらとも判別しにくい中間の絵 は、人間が創作した紛らわしいデジタル情報です。創作者が男のつもりで描いたと主張すれば、女 だと判別した人はエラーをしたことになります。ユーザーにエラーをさせないシステム設計のコツは、曖昧なデ ジタル情報を極力排除して、わかりやすいアナログ情報を増やすことといえます。このことは、ヒューマンファクターの原則の1つといえます。

 

図.3 男と女の絵

 

Q: 管制官による「Taxi to holding point C5」という管制指示を例に説明していただけませんか?

 

A: 管制指示を受けた海保機のパイロットは、離陸前の忙しい状況の中で潜在意識で情報処理して行動し ています。いい換えれば、デジタル情報がもつ複数の意味を注意深く考えて判別できる余裕などな いといえます。「Taxi to holding point C5」という管制指示の「holding」と「point」という言葉に直感的に反応してしまいます。「C5」が誘導路を表わす言葉であることまでは考えません。

 

Q: 「holding」と「point」という言葉に直感的に反応すると、どうなるのですか?

 

A: 海保機のパイロットの潜在意識は「holding point」、つまり「停止位置」を意識します。海保機の パイロットが置かれた環境では、「停止位置」がもう1つ存在します。つまり、滑走路に進入して離 陸に備えるための「停止位置」です。海保機のパイロットが管制官の管制指示を「滑走路に進入して 停止位置で離陸に備えるように」と解釈しても、何ら不思議はありません。その証拠に、海保機 の搭乗者5人のうち生き残った機長は「他の搭乗者もそのように解釈していたと思う」と証言し ています。

 

Q: 管制官は、なぜ「Taxi to holding point C5」という不適切な管制指示をしてしまったのでしょ うか?

 

A: 必ずしも、当該管制官の「個人のエラー」とはいえません。背景となっている「組織のエラー」があり ます。つまり、この事故はわが国の航空界の「組織のエラー」により起きた事故といえます。

 

Q: 「組織のエラー」とは、どういうことですか?

 

A: 理解していただくには、1977 年にスペイン領テネリフェ空港で起きた KLM とパンナムのボーイング 747 どうしの 衝突事故にまで遡ってお話しなければなりません。この事故は、現在でも世界最悪の航空機事故 として記録されています。両機で 600 人以上の搭乗者が死亡しました。事故の原因は、両機のパイロットが「Clear Takeoff」という管制指示を「離陸の指示」と解釈して離陸を開始してしまった ことでした。パンナム機は、誘導路に他の多くの航空機が駐機していたために、KLM 機が離陸しよう としていた滑走路を誘導路として使っていました。

 

図.4 テネリフェ空港における航空機の衝突事故

 

Q: 「Clear Takeoff」は、「離陸の指示」ではないのですか?

 

A: 管制官には、パイロットに指示する権限はありません。この原則は、わが国の航空界でもほとんど理 解されていません。わが国の航空界でいう「管制指示」は、英語では「ATC Clearance」といい ます。「ATC Order」とか、「ATC Instruction」とはいいません。「ATC Clearance」とは、厳 密に翻訳すれば「管制承認」です。運航の最終的な決断は、すべてパイロットに委ねられています。 パイロットは、その場の状況をトップダウン思考で総合判断して、自らの責任で決断しなければなりませ ん。弊社も「管制指示」という用語を多用していますが、厳密には誤訳ということになります。

 

Q: テネリフェ空港の衝突事故を教訓として、世界の航空界はどのような対策をとったのですか?

 

A: ICAO が、「Clear Takeoff」という用語の使用を禁止しました。併せて、航空界で用いられてい る「紛らわしい管制指示」を洗いだして、分かりやすいアナログ情報の表現に変更しました。

 

Q: 「Taxi to holding point C5」という類の用語も変更の対象になっていたのですか?

 

A: その通りです。同じような管制用語として、「Taxi into position and hold」という用語があり ます。米国の FAA は、パイロットに滑走路への進入を承認する際に、この管制用語を推奨していまし た。ところが、ICAO のヒューマンファクター研究グループによるヒューマンファクター分析によれば、この管制用語を用 いていることで多くの Runway Incursion 事故が起きていることがわかりました。ICAO は対策と して、この用語を「Line Up and Wait」というアナログ情報の表現に変更するよう加盟国に勧告しました。FAA は、ICAO と NTSB の勧告を受けて、2010 年に「Taxi to holding point C5」という 管制用語を「Line Up and Wait」に変更しました。 

 

図.5 管制指示の統一

 

Q: 2010 年に FAA が管制用語を変更していたにもかかわらず、わが国の航空界はなぜ古い管制用語を 使っていたのでしょうか?

 

A: 弊社の分析によれば、わが国の航空界が ICAO によるヒューマンファクター分析や FAA の動向を理解してい なかったことが原因といえます。このことが、まさにわが国の航空界の「組織のエラー」といえま す。併せて、2010 年の FAA による管制用語の変更が FAA の内部に徹底されなかったことも原因と いえそうです。弊社によるインタビューでは、関係者は「FAA も古い管制王後を使っているから変更し なかった」と話しています。わが国の航空界では、まだ「Taxi into position and hold」とい う古い管制用語が推奨されています。

 

Q: この先、どうすれば同種事故の再発を防止できるのでしょうか?

 

A: 国交省の対策検討委員会と運輸安全委員会のメンバーに、ヒューマンファクタ-を理解して管制用語の統一を はかっていただきたいと思っています。併せて、管制官とパイロットの合同 CRM 訓練も必要です。そ のためにも、弊社の安全情報を参考にしていただきたいと願っています。Runway Incursion は、 今や航空安全の最重要課題の1つになっています。 

 

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HuFac Solutions, Inc.

 アエリアス航空 ATR72-500が墜落 

2024-08-15

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2024 年 8 月 9 日、ヴォーパス・リーニャス・アエリアス航空の 2283 便(ATR72-500)が、ブラジルのサンパウロ州ヴィンヘ ド近郊に墜落しました。この事故で、乗客 58 名全員と乗員 4 名が死亡しました。ネット上の動画で は、住宅地に衝突して炎上する前に、機体が前方にほとんど速度をもたず、完全にスピンしている様 子が映されています。同機は、標準時 14 時 58 分にサンパウロ・グアリーリョス国際空港に向けてカスカベル空 港を離陸しました。巡航高度 FL170(17,000 フィート)まで上昇した後、ADS-B のデータによれば、16 時 21 分に急降下しています。事故が起きた空域では、FL120 から FL210 の間の空域で、激しい着氷 を伴う気象状況になっていました。飛行記録(FDR)と操縦室音声記録(CVR)は回収されています。 

 

図.1 アエリアス航空の ATR72-500 と墜落直前の状況

 

Q: まだ詳細な状況がわからない段階ですが、何かコメントがありますか?

 

A: ATR72-500 といえば、2023 年 1 月 15 日にネパールのイエティ航空 YT691 便がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終進入段階で墜落しています。詳細はすでにヒューファク安全情報_23-01-17 でお知らせしてい ます。弊社は2つの事故は本質的に同種と考えています。

 

Q: イエティ航空 YT691 便の事故とは、どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 1 月 15 日、ネパールのイエティ航空 YT691 便(ATR72-500))がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終 進入段階で墜落しました。ポカラ国際空港は本年 1 月 1 日に開港しましたが、同便は以前の空港と の間に流れるセティ川の土手に激突して炎上しました。現地の報道によると、パイロットは最初に滑走路 30 への進入を準備した後で滑走路 12 への進入を航空管制に要求したとのことです。同空港の標準 計器到着方式(SIA: Standard Instrument Arrival procedure)によれば、同便は最初に旧空港 に設置されている POK VOR をイニシャル進入位置(Initial Approach Fix (IAF))として 087°の方位 角(Heading)で通過した後に、滑走路 12 に向けて右旋回しなければならないことになっていま す。新空港は旧空港の東南東に位置しています。その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着陸していました。1 月 12 日の YT677 便(ATR72)だけは、空港の北側を飛んだ後に滑走路 12 に着 陸していました。現時点では、搭乗者 72 名のうち 68 名の死亡が確認されています。

 

図.2 イエティ航空の事故機と同型機

 

Q: ヒューファク安全情報_23-01-17 の要旨は、どういうものだったのですか?

 

A: 事故のわずか2日後に、トップダウン思考で事故原因を「除氷ブーツ(Deicer Boots)のスイッチの入れ忘 れ」と推測して、第1報を発信しました。その後、飛行記録が解読されたことから、第2報で 「2 発のエンジンの両側のプロペラがフェザーリング状態になっていた」ことをお知らせしました。

 

図.3 ATR72 の除氷ブーツ

 

Q: 「プロペラのフェザーリング状態」とは、どういうことですか?

 

A: プロペラによる空気抵抗を最少にするために、プロペラの角度を気流と平行にセットすることです。パイロットが手動でセットする場合と、自動的にセットされる場合があります。両側のプロペラがフェザーリング状態に なれば、両側のエンジンの推力が低下して、機は失速して墜落します。

 

Q: その後、事故調査チームは原因をどのように結論したのですか?

 

A: 「パイロットによる操縦エラー」と結論しました。パイロットが誤って、両側のプロペラをフェザーリング状態にし てしまったというものです。エラーの要因は「パイロットの疲労(Fatigue)」としています。

 

Q: 事故調査チームの結論に納得できますか?

 

A: まったく納得できません。事故調査チームには、ネパールの航空当局だけでなく航空機メーカーや欧米の航 空専門家も参加しました。事故調査チームにはトップダウン思考によるヒューマンファクター分析を期待しました が、無理だったようです。

 

Q: 「トップダウン思考によるヒューマンファクター分析」とは、どういうものですか?

 

A: 広い視野と深い洞察力で、ヒューマンエラーの可能性も含めて墜落の原因を探求することです。航空工学 とヒューマンファクターの高度な知識が必要になります。両側のプロペラがフェザーリング状態になっていたのは 事実ですが、これは原因ではなく、結果かも知れません。プロペラは、エンジンの推力が 20%以下にな れば自動的にフェザーリング状態にセットされます。パイロットが誤ってセットしたのではなく、エンジン推力の低下で自動的にセットされた可能性もあります。そう考えれば、「除氷ブーツのスイッチの入れ忘れ」も視野 に入れなければならないことになります。

 

Q: 除氷ブーツのスイッチを入れ忘れれば、なぜエンジン推力が低下するのですか?

 

A: 次のような過程でエンジン推力が低下します。主翼前縁部分の着氷→主翼の揚力の低下→主翼の迎角 (Angle of Attack)の増加→エンジンの空気吸入口の閉塞(Choking)→エンジンの回転羽根(Blade) の失速→エンジン回転数の低下→エンジン推力の低下の順です。

図.4 主翼前縁部分の着氷とエンジンの空気吸入口 

 

Q: 「2つの事故は本質的に同じ」と考える理由は何ですか?

 

A: 今般のアエリアス航空の事故で、「事故の空域で、激しい着氷を伴う気象状況になっていた」と報じら れていることです。イエティ航空の事故では弊社が想像力を発揮して主翼前縁の着氷に注目しました が、この報道で、2つの事故には「主翼前縁の着氷」という共通点があることがわかります。、 今後の事故調査で、弊社の原因分析の妥当性が証明されると思っています。

 

Q: 「除氷ブーツのスイッチの入れ忘れ」は、どうすれば防止できるのですか?

 

A: コンピュータや AI による自動化技術では防止できません。離陸前のチェックリスト(Checklist)による確認 で防止しています。チェックリストに関わるエラーでは、これまで数多くの事故が起きています。ヒューマンファク ターには「チェックリストのヒューマンファクター(Human Factors in Checklist)」という研究分野があります。多 くのヒューマンファクターの研究者が熱心に議論しています。

 

Q: イエティ航空の事故が正しく調査されていれば、アエリアス航空の事故で多くの搭乗者が亡くなることも なかった可能性がありますが、どう思いますか?

 

A: 事故の再発防止には、的確な事故調査をすることが鍵になります。的確な事故調査をするには、 資質のある人材が必要になります。ICAO は、事故防止マニュアル(APM: Accident Prevention Manual)で事故調査や安全管理を担当する人材の資質を詳しく規定しています。わかりやすくいえば、「トップダウン思考でヒューマンファクターの分析ができる人材」といえます。米国の FAA は、ICAO の方 針を受けて、「航空会社の経営トップはトップダウン思考でヒューマンファクターを考慮できる人材であるべき」 という主旨の規定を法制化しています。FAA の指導でわが国の航空会社の社長も技術系の人材に なりましたが、理念はあまり理解されていないようです。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 音声警報が危険な理由 

2024-08-09

 

Q: 表題はどういうことですですか?

 

A: 2024 年 6 月 24 日に、政府の事故対策検討委員会(以下、対策検討委)が、羽田空港で起 きた JAL516 便と海保機の滑走路内衝突事故について中間報告を発表しました。原因に ついては明記していませんが、次のような対策を提示しています。

1. 管制交信に係るヒューマンエラーの防止

2. 滑走路誤進入に係る注意喚起システムの強化

3. 管制業務の実施体制の強化

4. 滑走路の安全に係る推進体制の強化

5. 技術革新の推進

 

すべての事故の原因は関係者の何らかのヒューマンエラーです。事故の再発防止では、ヒューマンファクター(Human Factors)を考慮する必要があります。ですが、対策検討委の対策には「ヒューマンファクター」という言 葉が一切使われていません。対策検討委のメンバーにヒューマンファクターの専門家がおらず、ヒューマンファクターの 必要性を感じていないからだと思います。中でも、2の対策はヒューマンファクターの原則に真っ向から反 しています。2の対策とは、航空機の滑走路誤進入を管制官やパイロットに音声で知らせる警報(Aural Warning)を追加する対策です。5の対策は、そのための「技術革新の推進」と思われます。視覚 による警報は、すでに管制室のレーダー画面に表示されています。残念ながら、事故時には活用されませんでした。対策検討委は、警報を音声にすれば問題が解決すると安易に考えているよ うです。ヒューマンファクターの研究では、この種の音声警報はかえって危険な事態をまねくとされていま す。研究には「音声警報のヒューマンファクター(Human Factors in Aural Warning)」という分野があり、 ヒューマンファクターの専門家が熱心に議論しています。ここでは、音声警報の危険性について、ヒューマンファクタ ーの観点からわかりやすく解説してみます。

 

Q: 「音声警報がかえって危険な事態をまねく」というのは一般常識では理解できませんが、どういう ことですか?

 

A: 音声警報といえば、多くの人は目覚まし時計を思い浮かべるでしょう。目覚まし時計は、生活する うえで便利な道具と思われています。寝覚め時の空ろな潜在意識で目覚まし時計のアラームを聞いて も、狼狽する人はほとんどいません。ここでいう音声警報とは、目覚まし時計とは性質が根本的に 異なるものです。

 

Q: 「性質が根本的に異なる」というのは、どういうことですか?

 

A: 目覚まし時計の警報は、ユーザーが明確な目的をもって意図的にセットします。ここでいう音声警報は、そうではありません。ユーザーが意図的にセットするものではなく、不意に作動します。ユーザーが潜在意 識で行動している時に聞けば、多くの場合狼狽します。

 

Q: 「潜在意識で行動しているユーザーが音声警報で狼狽する」という具体例はありますか?

 

A: あります。弊社代表が JAL の技術研究所に在籍時に、ある大手警備会社の安全担当役員の訪問を 受けたことがあります。訪問の目的は、警備会社におけるある深刻な事態について相談するため でした。警備会社は、顧客の会社や個人に火災や盗難を終日監視する警備システムを販売しています。 そのため、1人の社員を 24 時間 3 交替制で警備システムの監視に当てています。ある顧客の自宅で火 災が起きて、警備システムの音声警報が作動しました。疲労(Fatigue)と退屈感(Complacency)で半 ば居眠りしていた担当者は、不意に作動した音声警報で狼狽して、深刻なエラーをしてしまいました。 マニュアルでは火災の際に「消防→警察」の順序で通報する規定になっているのに、順序を間違えて先 に警察に通報してしまいました。悪いことには、、消防への通報を失念してしまいました。顧客の 自宅は全焼して、警備会社は顧客に莫大な賠償金を支払うことになってしまいました。こういっ た例はこの1件だけでなく、警備業界では頻繁に起きているそうです。「警備システムがあるのに自宅 が全焼してしまった」というニュースはよく耳にします。

 

Q: 警備会社の役員には、エラーの要因をどのように説明したのですか?

 

A: 警備システムの音声警報は人工的なデジタル情報です。「人間が潜在意識でデジタル情報を処理しようとす ればエラーをすることがある」と説明しました。いわゆる「潜在意識のエラー」です。

 

Q: 対策検討委が提示している、管制官やパイロットに滑走路誤進入を知らせる音声警報でも、同じよう な「潜在意識のエラー」が起きる可能性があるということですか?

 

A: そうです。可能性は低くないと思います。特に、着陸しようとする航空機のパイロットがエラーをすれ ば、深刻な事態をまねきます。

 

Q: 「深刻な事態」とは、どのような事態が予想されるのですか?

 

A: 羽田空港の事故を例に考えてみましょう。JAL 機(エアバス A350-900)は、フラップを最も深い着陸フラッ フまで下げて、エンジンをアイドル推力に落とし、オートパイロットの自動着陸モードで着陸しようとしていまし た。本来なら、自動着陸モードでもパイロットは滑走路に障害物がないか監視しなければなりません。と ころが、A350 のオートパイロットでは操縦桿(Control Stick)や推力レバーが動きません。オートパイロットのフ ィードバックがまったくないために、パイロットの目は計器類に釘付けになってしまいます。エアバスは、こ ういったパイロットのヘッドダウン(Head Down)を防ぐために、窓にヘッドアップディスプレイ(HUD)を装備して います。残念ながら、JAL のパイロットは HUD を活用できていませんでした。JAL は、「パイロットは事故 時に外を見ていなかったと証言している」ことを公表しています。操縦室音声記録(CVR)の会話 でさらに明らかになると思われますが、なぜかまだ公表されていません。このような状況でパイロットが不意に滑走路誤進入の音声警報を聞けば、パイロットは狼狽するというのが、「ヒューマンファクターの原則」 です。

 

Q: 本来なら、パイロットはどう行動すべきなのですか? A: 音声警報が着陸決心高度(DH: Decision Height、約 200 フィート)の以前であれば、進入復行(Go Around)をして衝突を避けなければなりません。

 

図.1 進入復行(Go Around)

 

Q: 進入復行をするには、どう操作すればいいのですか?

 

A: 手動で行なうには、オートパイロットを解除して、フラップを離陸フラップ位置まで上げ、ランディングギアを格納、 エンジン推力を最大連続推力(MCT: Maximum Continuous Trust)まで高める、という連続操作を短 時間で行なわねばなりません。この操作はパイロットにとっては大変です。幸いにも、A350 など最近 の航空機のオートパイロットには、TO/GA(Takeoff & Go Around)モードという便利な機能があります。推 力レバーの近くにある TO/GA スイッチを押しさえすれば、進入復行が容易にできるように設計されてい ます。

 

図.2 エアバス A350-900 の TO/GA スイッチ

 

Q: ということは、滑走路誤進入の音声警報が不意に作動しても、パイロットは TO/GA スイッチを押すことに より容易に進入復行できるのではないですか?

 

A: そのように安易に考えてしまうのが、ヒューマンファクターの知識がないボトムアップ思考の技術者です。恐ら く、対策検討委のメンバーも同じ考えなのでしょう。ところが、現実はそう甘くはありません。

 

Q: これまでの同種の重大インシデントの例では、滑走路に他機や車両がいても、着陸機が管制官の指示で 無事に進入復行できているのではないですか? A: 確かに、パイロットが管制官の指示で TO/GA スイッチを押してすことで無事に進入復行できています。そ れは、管制官の指示が肉声によるものだからです。

 

Q: 管制官の肉声で進入復行するのと音声警報で進入復行するのとでは、何が違うのですか?

 

A: 端的にいえば、管制官の肉声と音声警報の合成音に対するパイロットの信頼感の違いといえます。

 

Q: そのことを示す事例はあるのですか?

 

A: あります。地表や山への接近を警告する対地接近警報システム(GPWS: Ground Proximity Warning System)の例です。GPWS は、「Pull Up」という合成音でパイロットに機首上げを指示します。ところ が、パイロットが指示を無視するか、逆の行動をとるケースが少なくありません。そのために起きた事故 も数多くあります。航空界は、現在の男性の声の合成音を女性の声に変えようとしました。です が、本質的な解決ではないために、採用されていません。GPWS の他にも、空中衝突防止システム(TCAS: Traffic Alert Collision Avoidance System)で同じような事例があります。

 

Q: GPWS や TCAS では合成音の警報で妥協しているのに、滑走路誤進入の警告では音声警報を採用すべ きでないというのは、どういうわけですか?

 

A: GPWS では、管制官は関与できません。TCAS では管制官が関与できる余地もありますが、常に関与 できるとは限りません。対して、滑走路誤進入の警告はほとんどの場合で管制官が関与できます。 一足飛びに合成音の警報を採用するのではなく、CRM 訓練などで管制官とパイロットのコミュニケーションを充 実すべきという考えです。現に、航空界は滑走路誤進入の音声警報を採用していません。

 

Q: エアバスは SURF-A という音声警報システムを航空会社に売り込んでいますが、どう思いますか?

 

A: それには事情があることも見抜かなければなりません。エアバス機の設計理念では、ヒューマンファクターはあ まり考慮されていません。そのため、パイロットがヘッドダウンになる傾向が強く、滑走路誤進入による航 空機どうしの衝突の可能性も高かくなっています。そのため、エアバスは HUD でパイロットのヘッドダウンを 防ごうとしています。ですが、わが国など航空後進国のパイロットには HUD の使い方がよく理解され ていないようです。エアバスは苦肉の策として、SURF-A を航空会社に売り込もうとしています。欧米 航空先進国の航空会社が採用するとは思えません。欧米航空先進国は、技術でななく、管制官やパ イロットの CRM 訓練を優先して解決しようとしています。

 

Q: パイロットが不意の音声警報で狼狽すると、どうなるのですか?

 

A: TO/GA スイッチの操作が遅れて、DH を過ぎて進入復行しようとする恐れがあります。。DH を過ぎて進入復行すると、航空機には慣性(Inertia)があるために、機首を上げてもうまく進入復行できませ ん。オーバーシュートして地表や障害物に衝突することも考えられます。

 

Q: それを避けるには、どうすればよいのですか?

 

A: その場合に必要になるのが、着陸復行(Touch & Go)です。着陸復行は、進入復行とはまったく異 なる操作です。現代の航空機のオートパイロットにはプログラムされていません。パイロットによる手動操作が 必要になります。欧米の航空法では、進入復行と着陸復行をそれぞれ「Missed Approach」と「Missed Landing」とも称して、明確に区別しています。わが国の航空法では明確には区別されていません。

 

Q: JAL 機の場合、着陸復行はどう操作すべきだったのですか?

 

A: TO/GA スイッチを押さずに、オートパイロットを解除して、パイロットが手動で操縦する必要があります。着陸フラ ップのままでランディングギアを上げず、しばらくは海保機の上を低空飛行します。その先で一度滑走 路に接地して、再び新たに離陸操作を開始する必要があります。

 

Q: JAL のパイロットは、そのような難しい着陸復行をできるのでしょうか?

 

A: 率直にいって、できないでしょう。JAL だけでなく、わが国の航空会社のパイロットには難しいと思い ます。技量だけでなく咄嗟の判断と正しい決断が必要になるからです。本格的な CRM 訓練でなけ れば訓練できません。わが国の航空界では、パイロットは進入復行と着陸復行の違いすら明確には教 えられていません。わが国の航空法には、進入復行と着陸復行の判断基準は何ら規定されていません。

 

Q: 着陸復行が難しいのであれば、オートパイロットにプログラムを組み込んで自動化できないのですか?

 

A: プログラムを組み込むには、このケースだけでなく起こり得るあらゆるケースを想定しなければなりません。 事実上、それは不可能といえます。生成 AI など AI の技術で解決できるのではないかと安易に考 える技術者もいるようです。航空機の運航や AI の限界をよく理解できていない技術者です。航空 機の運航には、コンピュータや AI では絶対に自動化できないタスクが数多くあります。このことは、自動 車の運転でもあまり変わりはありません。世の中では、コンピュータや AI の能力が過信されています。

 

Q: 滑走路誤進入の音声警報を導入することによる「深刻な事態」を整理していただけませんか?

 

A: 「深刻な事態」は、2つ考えられます。① 着陸機が進入復行に失敗して、失速して墜落するか、 他機に衝突するケース、② 着陸機が着陸復行に失敗して、失速して墜落するケース、です。いずれの場 合も、搭乗者の大多数が死亡する可能性があります。

 

Q: 解決策は管制官とパイロットの本格的な CRM 訓練しかないということですが、世界の航空界はどこま で進んでいるのでしょうか?

 

A: CRM 訓練をさらに進化させた AQP(Advanced Qualification Program )が導入されています。AQP は、これまでの管制官やパイロットの訓練とは大きく異なるトップダウン思考のヒューマンファクター訓練です。こういった高度な訓練は、1977 年のテネリフェ空港における航空機どうしの事故を教訓として、欧米航空 先進国で開発されました。わが国の航空界は、そのことをまったく知らないようです。

 

Q: これまでのお話で「音声警報は危険」ということはわかりましたが、政府の対策検討委や運輸安全 委にこの件の有効な対策を立案する能力はあるのでしょうか?

 

A: 国民にとって重要なことなのであえて率直にいいますが、ないと思います。事故原因の分析と対 策の立案には、航空工学とヒューマンファクターの高度な知識が必要です。対策検討委や運輸安全委のメンバー など、狭い分野の学識経験者には難しいようです。先ずは、世界の航空界の趨勢を知ることから始 めるべきでしょう。

 

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 JR東海の保守用車が脱線 

2024-08-07

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2024年7月22日、JR東海の豊橋駅と三河安城駅の間の上り線において、東京方の豊橋保守基地に 向かう途中の保守用車(砕石運搬散布車編成)が、合流するために待機していた別の保守用車 (マルチプルタイタンパ(通称、マルタイ))に衝突して、砕石運搬散布車編成及びマルタイの一部の車軸が脱線 しました。その影響で、わが国の大動脈の都市間交通が大きく麻痺しました。 

図.1 事故のイメージ

 

Q: JR 東海は原因調査の結果を公表したのですか?

 

A: 2024年8月5日に調査結果を公表しました。公表された原因は下記のようなものです。

 

 

 軌道モーターカーに牽引された6両の砕石運搬散布車のうち少なくとも3両について、ブレーキ力が大きく 低下した状態で走行していました。このため、東海道新幹線では最大となる20‰の下り急こう配 区間において十分に減速することができませんでした。

 なお、軌道モーターカーのブレーキ力に異常はあ りませんでした。砕石運搬散布車のブレーキ力が大きく低下した状態で走行していたのは、ブレーキ力 が適正か否かを確認するための指標となるブレーキシリンダーーのストローク量(以下、ストローク量)が、本来な らば使用停止すべき値となっていたにもかかわらず、使用前にそのことを認識できなかったため です。その理由は、以下のとおりです。

 

(1)ストローク量を確認する際、最大圧力でブレーキをかけた状態で行うという保守用車メーカー想定の確 認方法を採っていなかったこと。

(2)ストローク量の調整要否の判定について、当社から保守用車メーカーに対して判定方法の確認を行 わず、両者の認識が異なり、結果的に誤った方法で判定していたこと。 その結果、使用停止とすべき砕石運搬散布車を「使用可能」と誤った判断をするに至りま した。なお、本来は当該保守用車の作業者が夜間作業の前にストローク量の確認を行うべきと ころ、7月20日の作業者は確認を行ったものの、7月21日の作業者は前日のストローク量をふまえ、確認を省略していました。

 

図.2 保守用車のブレーキシステム゙

 

Q: 公表された原因と対策を読んで、どう思いますか?

 

A: 率直にいって、わが国の代表的な企業の技術力の低さに今さらながら驚きました。JR 東海だけで なく JR 各社は、数多くの関連会社の技術を統率できていないようです。

 

Q: 衝撃的な発言ですが、その根拠は何ですか?

 

A: 事故やインシデントの原因分析をトラブルシューティング(Trouble Shooting)といいます。トラブルシューティングは ボトムアップ思考ではできません。広い視野と深い洞察力によるトップダウン思考が必要不可欠です。JR 東海や関連会社は、トップダウン思考のトラブルシューティングができていません。

 

Q: この事故の場合、ボトムアップ思考のトラブルシューティングとはどういうものですか?

 

A: まさに、JR 東海や関連会社による原因分析です。この分析では、原因を制輪子の磨耗とそれを見 逃した点検ミスと決め付けています。制輪子の磨耗がこの種の事故を引き起こすことは否定できま せんが、要因はそれだけではありません。むしろ、他の要因に真っ先に目を向けるべきです。

 

Q: トップダウン思考のトラブルシューティングなら、どのような要因に真っ先に目を向けるのですか?

 

A: トップダウン思考のトラブルシューティングでは、事故が起きた状況を冷静に見極めます。ブレーキの不作動は、 ① 複数の車両で起きている、② 真夏の高温時に起きている、です。この状況で真っ先に疑わな ければならないのは、ブレーキの油圧システムのキャビテーション(Cavitation)という現象です。

 

Q: キャビテーションとは、どのような現象ですか?

 

A: ひと言でいえば、液体の中に気泡ができて、さまざまな悪影響を及ぼす減少です。この事故の場 合には、ブレーキの油圧システムの油圧液(Hydraulic Fluid)の中の気泡が高温で膨張して、油圧システム の性能が著しく低下する現象です。キャビテーションは、人体の血管でも起きることがあります。脳の 血管中の気泡が高温で膨張して、弾けた際に発生する衝撃波でさまざまな脳障害を引き起こすこ ともあります。

 

Q: キャビテーションが事故を引き起こすことは理解できましたが、対策はどうすればよいのですか?

 

A: 航空機では設計で対策がとられていますし、キャビテーションに対応した整備方式もあります。世界で は、さまざまな分野で起きるキャビテーションにに対して相応の対策をとっています。

 

Q: わが国のメーカーは、キャビテーションの対策を知っているのでしょうか?

 

A: 知らないと思います。わが国の技術者には「おかしなプライド」がありますので、そのことを率直 には認めないでしょう。弊社代表は、これまでわが国の代表的なメーカーによる、誰もが知るプロジェ クトの評価をしたことがあります。そのプロジェクトが採用しているシステムの設計理念をメーカーから聞い て、驚きを隠せませんでした。キャビテーションに対する対策がまったくとられていないのです。

 

Q: キャビテーションの対策は、どうすればよいのですか?

 

A: 前述のように、わが国の技術者がキャビテーションの対策を知らないのは、トップダウン思考ができないか らです。キャビテーションの対策だけを教えれば解決するという、単純な問題ではありません。弊社 は、「設計エラー(Design Error)の防止」をテーマにこれから活動していこうと考えています。「設 計エラー」は、世界でも注目され始めています。これまでは、「設計者は優秀」という錯覚の下にタ ブー視されていました。ですが最近になって、設計者にもトップダウン思考やヒューマンファクターの考え方が 必要といわれ始めています。世界の航空界における ICAO や NTSB、FAA なども、「設計エラーの防 止」に向けた具体的な活動を開始しています。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 39年目の御巣鷹山事故 

2024-07-28

 

Q: どういうことですか?

 

A: 1985 年 8 月 12 日に、JAL123 便(ボーイング 747-100)が群馬県の御巣鷹山に墜落しました。この 8 月 12 日で、39 年目になります。事故では 520 名の方々が亡くなりましたが、いまだに成仏され ていないのではないかと残念に思っています。 

図.1 JAL123 便の事故現場

 

Q: 「いまだに成仏されていない」と思う理由は何ですか?

 

A: 理由は2つあります。① 事故の真因がまだ公にされていないことと、② 事故原因について社会 に流言飛語が飛び交っていることです。

 

Q: ①については、公式の事故調査報告書で明らかにされているのではないですか?

 

A: 事故調査報告書では、事故原因は図.2 のような、ボーイングの AOG(Aircraft On Ground)チームによ る後部圧力隔壁(Aft-pressure Bulkhead)の修理ミスとされています。本来は左図のように修理 すべきところ、右図のように修理してしまったというものです。 

 

図.2 ボーイング AOG チームによる修理ミス

 

Q: 修理ミスは、ボーイングが事故の数週間後に自ら公表したのではないですか?

 

A: その通りです。わが国の社会は、ボーイングによる公表をそのまま信じて、何ら疑いをもちません でした。ですが、わが国の刑事訴訟法では「被疑者の自白だけで有罪を判決してはならない」と 明確に規定されています。

 

Q: ボーイングの自白の裏づけをとるための処置はとられたのですか?

 

A: 当時の事故調査委員会は、メンバーをボーイングの本社に派遣して、修理ミスの実行者の供述をとろうと しました。ボーイングは、実行者への事情聴取を拒否するだけでなく、実行者の存在すら明らかに しませんでした。

 

Q: 刑事訴訟法の規定に照らせば、ボーイングの自白をそのまま信じて事故原因を結論づけるのは、問 題があるのではないですか?

 

A: 冷静に考えれば、そういうことになります。ですが、事故調査委員会のメンバーはそのことすら考 えませんでした。わが国には、異論を唱える法律の専門家もいませんでした。

 

Q: ボーイングはなぜ、事実とは違う自白をしたのでしょうか?

 

A: 弊社代表は、事故機が伊丹空港で尻もち事故を起こした 1978 年以来、この事故に深く係わって きました。尻もち事故では、原因調査のために現地に行きました。御巣鷹山事故では、JAL 経営ト ップの特命で当日に徹夜で原因究明に取り組みました。事故原因については当時から疑問をもっ ていて、組織とは別に個人的にボーイングに疑問を呈していました。ボーイングは、疑問に真剣に採りあってはくれませんでした。ボーイングが事実と違う自白をしたのは、ボーイングの設計思想の瑕疵を 議論の対象にしたくなかったからだと推測しています。ボーイングは、重量軽減の目的で、すべて の機種でドーム型の後部圧力隔壁を採用しています。

 

Q: ボーイングは、後部圧力隔壁の破損の本当の原因を知っているのでしょうか?

 

A: 知っていると思います。その根拠として、ボーイングは現在、破損した後部圧力隔壁の修理にまっ たく異なる手法を採用しています。

 

Q: わが国にも多くの航空の学識経験者や専門家、航空会社の整備技術者がいながら、後部圧力隔壁 の破損の本当の原因に気づけないのでしょうか?

 

A: 不思議かも知れませんが、気づいていないようです。航空機の構造の基礎を知っていれば、容易 に気づくはずです。事故調査に当たった学識経験者や専門家も、根本的に間違った報告書を作成 しています。図.2 の右図の修理ミスがあり得ないことも、JAL の整備技術者は気づくべきでした。 JAL は現在、後進の社員への教訓のために、事故機の後部圧力隔壁の残骸を社内に展示していま す。破損の本当の原因を知らなければ、本当の教訓を残せないはずです。

 

Q: 破損の本当の原因が知られていないためか、世間では②のようにさまざまな流言飛語が飛び交っ ていますが、どう思いますか?

 

A: 亡くなられた犠牲者の方々は無念に思っておられると思います。流言飛語の多くは、米軍機か自 衛隊機がミサイルで 123 便を撃墜したというものです。これは、まったくの思い違いです。犠牲者の 方々は、そんな流言飛語よりも本当の原因の公表を望んでおられると思います。

 

図.3 流言飛語の例

 

Q: 「事故の直前に周囲で戦闘機やオレンジ色のミサイルが飛んでいた」という写真やメモが残されています が、それでも「思い違い」なのですか?

 

A: 視野が狭く考えが浅いボトムアップ思考なら、流言飛語のようにしか考えられないでしょう。です が、広い視野と深い洞察力によるトップダウン思考で考えれば、まったく異なる光景を思い浮かべる ことができます。当然、当時の中曽根首相は「まったく異なる光景」を知っていたはずです。残 念ながら、首相も本当の理由を公言できずに「墓場まで持っていく」と話したまま他界しまし た。トップダウン思考で考えれば、戦闘機やミサイルはが別の目的で飛び交っていたことがわかります。 「別の目的」とは、決してやましいものではありません。国際的にも暗黙で認められている正当 な行為です。ですが、公表すれば社会に無用の混乱をまねく可能性もあります。首相は、そのこ とを懸念して公言しなかったものと思います。

 

Q: 流言飛語を飛ばしている人達には、何を望みますか?

 

A: それらの人達の目的はさまざまだと思います。今さら、「思い違い」を認めて改めるつもりはな いでしょう。ですが、流言飛語の流布が社会を事故の真因の探求から遠ざけています。流言飛語 を飛ばしている人達には、そのことも考えていただきたいと思っています。

 

Q: 事故の真因を公表するつもりはないのですか?

 

A: これまで事故に深く係わってきた弊社代表の立場では、公表を憚られます。第三者の方々に気づ いていただき、公表に導いていただきたいと願っています。間違った事故調査報告書のままで は、わが国の歴史に禍根を残すことにもなります。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 サウリヤ航空のCRJ-200が墜落 

2024-07-25

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2024 年 7 月 24 日、ネパールのカトマンズ空港の滑走路 02 から離陸したサウリヤ航空の CRJ-200ER が墜落し ました。機体は滑走路の中心線から 200 メートル右側に逸れて墜落、炎上しました。カトマンズ救助調整 センターによると、18 人が死亡しているのが確認されました。機長だけが生存しています。犠牲者 18 人全員が航空会社の従業員でした。事故発生直後のビデオ映像では、CRJ-200 が地面に激突し て炎上する前に、右翼を下げて降下する様子が映っています。初期情報によると、同機は整備 (C チェック)のためにポカラに向かっていました。搭乗者には、航空機の整備技術者や航空会社のスタッ フがいました。ネパー政府は、事故調査のために 5 名からなる調査委員会を設置しました。通信・ 情報技術大臣によると、水曜日午後に開かれた緊急閣議で調査委員会を設置することが決定され ました。委員会は 45 日間で報告書を作成することが求められています。

 

図.1 墜落したサウリヤ航空の CRJ-200ER

 

Q: 報道されている事故の状況から、事故原因を推測できますか?

 

A: 機長の証言を得ることもでき、飛行記録装置(FDR: Flight Data Recorder)からもかなりのこ とがわかると思います。ですが、現時点でもトップダウン思考である程度は推測できます。事故の状 況から、横および方向(Lateral & Directional)の操縦系統(Flight Control)の故障か操縦ミ スが原因と思われます。

 

Q: 横および方向の操縦系統とはどういうものですか?

 

A: 一般の航空機では、補助翼(Aileron)と方向蛇(Rudder)で横および方向の操縦を行います。 ですが、CRJ-200 では横および方向の操縦系統が一般の航空機とはかなり異なっています。

 

Q: どのように異なっているのですか?

 

A: まず、スポイラロン(Spoileron)という、スポイラー(Spoiler)と補助翼(Aileron)の機能を複合させ た特殊な操縦システムが装備されています。通常、スポイラーは飛行中のスピードブレーキや着陸後のグラウンド スポイラーとしてしか使われません。ですが、CRJ-200 では、左右のスポイラーを交互に立てることによ り補助翼と同じ機能をもたせています。補助翼の機能を補完するためです。このようなスポイラーの 使い方を、専門的にはダイレクトリフトコントロール(Direct Lift Control)と称しています。加えて、CRJ200 の補助翼は左右(機長側と副操縦士側)で別々に独立しています。機長が操縦輪(Control Wheel)を操作すれば、先に左側の補助翼が動いて、次に右側の補助翼が連動します。副操縦士 が操作した場合には左右逆の動きをします。CRJ-200 のメーカーであるカナダのボンバルディアは、「片側 の補助翼が固結(Jam)した場合に反対側の補助翼を活かすため」と説明しています。

 

Q: CRJ-200 が一般とは異なる横および方向の操縦系統を採用していることは、事故数を増加させて いるのですか?

 

A: CRJ-200 の事故が他機種にくらべて多いのは統計からも事実です。弊社の主観ですが、横および 方向の操縦系統の特殊な設計と無関係とは思えません。ですが、公式の事故調査が設計に問題が あると客観的に結論づけているわけではありません。なぜなら、CRJ-200 は設計も含めてカナダの 航空当局や FAA など国際機関に承認されているからです。それに、設計と事故原因の因果関係を 実証するのは容易ではありません。

 

Q: 横および方向の操縦系統の故障には、どのようなものがあるのですか?

 

A: CRJ-200 の横および方向の操縦系統は、コントロールケーブルやプッシュロッド、油圧部品などの機械部分と、コ ンピュータや電線などの電気部分で構成されています。報道は、事故は「重整備後の試験飛行で起き た」とか、「重整備(C チェック)へのフェリー飛行で起きた」などまちまちです。前者だとすれば、「コント ロールケーブルやプッシュロッドなどの繋ぎ間違い」も考えられます。重整備では、これらの結合が外される からです。わが国でも、重整備後の試験飛行で起きた同様の事故があります。

 

Q: 横および方向の操縦系統の操作ミスとしては、何が考えられますか?

 

A: スポイラーによるダイレクトリフトコントロールでは、これまでも多くのパイロットエラーが起きています。操縦特性 (Handling Characteristics)が通常とは大きく異なるからです。パイロットは機種ごとの操縦特性 を潜在意識に記憶していて、操縦特性の変化はエラーの要因になります。

 

Q: スポイラーによるダイレクトリフトコントロールで操縦特性が大きく異なったために事故が増えた例は、他にもあ るのですか?

 

A: これも主観ですが、あると思います。三菱重工が設計した MU-2 の事例です。MU-2 は、横および 方向の操縦のために、補助翼の代わりにスポイラーを用いています。そのためか、これまでに 200 件 以上の事故を起こして 300 人以上を死亡させています。他機種にくらべて、多いといえます。米 国では、俗に「波乱万丈機」とか「Killer Jet(殺人ジェット機)」と揶揄されています。

 

Q: 「Killer Jet」はわかりますが、「波乱万丈機」とはどういうことですか?

 

A: 設計者の話ですが、FAA の型式証明(TC: Type Certificate)を取得する際に大変な苦労があっ たそうです。FAA の多くの指摘に対して、解決に1年以上の期間と多くの労力を要しました。

 

Q: ダイレクトリフトコントロールの航空機がパイロットエラーを誘発するということは、設計者には予測できないのです か?

 

A: 予測するには、航空工学に知識だけでなくヒューマンファクターの知識が必要になります。わが国の大学の 航空学科などでは教えられていません。

 

Q: CRJ-200 はわが国の航空会社も運航していますが、どうすればいいのですか?

 

A: 対策は、CRM(Crew Resource Management)訓練しかありません。ですが、わが国の航空界の CRM

訓練では、CRJ-200 の設計の特殊性や操縦特性については教えられていないと思います。指導者 にヒューマンファクターの知識がなければ教えられません。 

 

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HuFac Solutions, Inc.

 講演のご感想 

2024-07-22

 

Q: どのような講演の感想ですか?

 

A: すでにご案内しましたが、7 月 20 日に気象庁の講堂で開催された第 12 回航空政策セミナーで「滑走 路内衝突事故の原因と対策 – ヒューマンファクターの取り組みのすすめ - 」と題する講演をさせていただ きました。安全情報の読者の方々も何人か参加してくださいました。早速、皆さんにお礼のメール を差し上げたところ、お二人の方から早々とご返事をいただきました。客観的で深遠なご感想が 書かれていますので、以下にそのまま紹介させていただきます。

 

Q: お一人目はどのような方ですか?

 

A: JAL 在籍時にお付き合いいただいただいた先輩です。この方は、整備本部のスタッフ部門で働いてお られました。主に仕事以外のスポーツ大会などでのお付き合いでしたが、航空安全にも特段の関心 を寄せておられる方です。

 

 

昨日は。お疲れ様でした。国交労働組合の労働組合の労働組合他が、貴兄の理論に興味を持って耳を傾けよう としたことに意義があります。接点が出来たのですから、我慢をしながら、付き合ってください。 航空連や安全会議は、乗員が中心ですから独特の考えを持っていて、国交労働組合の方が少し柔 軟だと思います。いずれにしても、Runway Incursion については真剣に取り組もうとしているわ けですから、今後もあきらめず指導してください。講演と質問などをお聞きしていて、ヒューマンファクタ ー理論の中で、「中間発表」がヒューマンファクター分析がなされていないことと IT 化や自動化が、人間中心 でなければいけないということが、彼等には理解できていないような気がしました。又、労働組合 が、賃金などの労働条件だけでなく、安全問題に真剣に取り組もうとしていることは重要ですの で、重ね重ねですが、指導していただければと思います。貴兄の理論を理解してもらうには、時間 がかかる気がします。私も 80 才を過ぎ、体にガタが来ていますが、健康に留意しつつ頑張りたい と思います。貴兄も健康に留意され、益々のご活躍を祈念しております。

 

Q: 暖かいご感想ですが、「今後もあきらめず指導してください」というのはどういうことですか?

 

A: お礼のメールの中で、「航空界の事故への関心を知っていただこうと思っていましたが、当てがは ずれたようです」と弱音を吐いてしまいました。そのために「あきらめず」と励ましてくださっ たのだと思います。蛇足ですが、民間の立場で国交省の方々を「指導する」考えはありません。

 

Q: 「中間発表がヒューマンファクター分析がなされていない」と述べたそうですが、どういうことですか?

 

A: 講演の中で、羽田空港における事故の原因は「個人のエラー」ではなく「組織のエラー」と言明しまし た。図-1 に「組織のエラー」の詳細を示しています。政府の対策検討委員会の中間報告も、「組織 のエラー」と位置づけています。中間報告ではいくつかの対策が答申されていますが、いずれもヒュー マンファクターの考察がなされたとは思われません。中でも、滑走路の誤進入を音声で警告する警報を 追加する対策については、ヒューマンファクターの知識があれば、警報が「新たな深刻な事態」をまねく可 能性があることを容易に推測できます。この状況での警報の追加は、絶対に避けなければなりま せん。これまでの Runway Incursion の検討でも提案されたことがありますが、不採用になって います。別の機会に、詳しく解説させていただきます。

図-1 航空界の「組織のエラー」

 

Q: 「IT 化や自動化が、人間中心でなければいけない」と述べたそうですが、どういうことですか?

 

A: ICAO は、すでに国際航空法ともいえるシカゴ条約付属書(ICAO Annex 1~19)の全編に「人間の能 力と限界を考慮すること」という規定を追加しています。 ここでいう「人間の限界」とは、人 間がエラーを避けられないことであり、 「人間の能力」とは、コンピュータや AI にも優る人間の柔軟な トップダウン思考の問題解決能力を意味します。この規定によって、ICAO は「航空機の自動化は「技 術中心の自動化」ではなく、人間の能力を発揮させる「人間中心の自動化」でなければならな い」ということを明確にしています。それだけではなく、CRM 訓練や AQP(Advanced Qualification Program)といった人間の柔軟な問題解決能力を養成する訓練を義務化していま す。わが国の航空界では、このことがまったくといってもいいほど理解されていません。シカゴ条 約を批准しているわが国は、外交的にも ICAO Annex の諸規定を遵守する義務があります。遺憾にも、わが国の航空界ではほとんど無視されています。そのため、一般社会に対しても「航空機 に AI が採用されることは絶対にない」ということを明確に説明できていません。別の機会に、 具体的に解説させていただきます。

 

図-2 ICAO による航空界の変革

 

Q: 「労働組合が、賃金などの労働条件だけでなく、安全問題に真剣に取り組もうとしていることは重 要」と書かれていますが、付け加えることはありますか?

 

A: あります。米国には ALPA(Air Line Pilots Association)というパイロット組合があり、国際的に も IFALPA(International Federation of Air Line Pilots Association)があります。これら の組合は、パイロットの待遇改善を要求するだけでなく、航空安全の推進にも大きく貢献していま す。ICAO や FAA が規定を制定する(Rule Making)際には、必ず IFALPA や ALPA の意見を聞いて います。この方がおっしゃるように、わが国の航空の労働組合にも IFALPA や ALPA と同じように 航空安全に貢献していただきたいと願っています。因みに、わが国にも IFALPA の支部として ALPA-J という団体があります。

 

Q: お二人目はどのような方ですか?

 

A: 文面にもあるように、早稲田大学での航空研究会でお会いした方です。航空安全にもご関心があ り、社会で幅広い活動をされています。

 

 

 

昨日は誠に有難うございました。なるほど、管制官は外交に貢献しているのですね。貴兄には早稲 田大学での航空研究会ではじめてお目にかかりました。あの時のパイロットの方との懇親は貴重な経 験でした。管制官のお話を伺うのは昨日が初めてです。羽田の事故を受け興味が有りました。大変勉強になりました。昨日は受付で「組合ですか?報道ですか?」と聞かれました。組合から若手も 多く参加しているようで、彼らも私と同様、あの場では専門分野への質問は出来なかったのでは ないかと思っていました。「政治家や官僚、国民にその認識があるのか、疑問に思っています」。私 も一般参加者として感じるものがありました。潜在意識や過剰依存などヒューマンファクター理論をもっと 掘り下げていただきたかったからです。政治家や官僚や一般国民が、報道ベースの問題認識と対策 に追われていないか。AI に過剰な期待をしていないか。「潜在意識はデジタル情報を処理できない」 の理解が進むのか。気になります。あの場の質問にそぐわないので質問は致しませんでしたが、個 人的に二つのことが気になっています。私は MRJ による国産の民間旅客機の開発と運航に期待を していました。安全性基準を満たせなかったこと。その断念には大変がっかりしました。当時の社 長が型式証明を受けることの困難さを振り返っていました。「全く初めてのことなので・・・」と 仰っていました。AI は効率的なチケット販売は出来ても航空での安全運航に関わる未知の分野で正確 な力を発揮できるものではないですね。いずれにしても、国産旅客機の運航は、腰を据えて国家の 後押しのもと進めていただきたい事業です。もう一つは、自衛隊による度重なるヘリ墜落事故が気 になっています。重大な事故が増えているならばどこかに緊張感が欠けていやしないか。ハードの技術が進んでも足りない要素がありやしないか。組織の運用に問題は無いか。8 月 5 日は、終わっ たころに伺いますので宜しくお願い致します。一般市民向けの柔らかい番組ですので殆ど貴兄の ご紹介の場となると思います。安全には皆さん興味が有りますので初心者向けのお話を宜しくお 願い致します。

 

Q: 冒頭、「なるほど、管制官は外交に貢献しているのですね」とありますが、どういうことです か?

 

A: お礼のメールの中で、下記のような記述をしました。それに対するお感想だと思います。

 

 

 

講演の後の懇親会で、隣の女性管制官の方とよい話ができました。彼女曰く、「管制官は公務員 だが、日本国民のためだけでなく海外の航空会社のためにも働いている」とおっしゃっていまし た。まさにその通りで、管制官の皆さんは外交官の役割も果たしていると知りました。政治家や 官僚、国民にその認識があるのか、疑問に思っています。

 

Q: 「 AI は効率的なチケット販売は出来ても航空での安全運航に関わる未知の分野で正確な力を発揮で きるものではない」と書いておられますが、どう思いますか?

 

A: まさにその通りだと思います。社会では学識経験者が「AI のルールづくり」を検討しようとしてい ますが、ルールはすでにできています。ルールは到って簡単です。「人間の生命や財産の棄損に関わる 分野では採用すべきでない」というものです。AI を悪用した犯罪や世論操作にも留意しなければ なりません。そう考えれば、AI を採用できる範囲はごく限られてしまいます。

 

Q: 「 国産旅客機の運航は、腰を据えて国家の後押しのもと進めていただきたい事業です」と書い ておられますが、どう思いますか?

 

A: 航空機を国際市場で運航させるには、FAA と EASA の型式証明(TC)を取得しなければなりませ ん。FAA と EASA の耐空性基準は ICAO Annex 1~19 の規定に準拠して制定されています。多くの 規定がありますが、最も重要なものは「ヒューマンファクターの要件」です。前述のように、わが国の航空 行政は ICAO Annex の要件を重視していません。残念ながら、わが国における国産旅客機の製造 では「国家の後押し」は期待できないのが現状です。

 

Q: 「自衛隊による度重なるヘリ墜落事故」についても言及されていますが、どう思いますか?

 

A: わが国ではあまり知られていませんが、欧米各国の軍は国際民間航空法ともいえる ICAO Annex の規定を重視しています。そのため、軍用機の事故調査でもヒューマンファクターが考慮されています。翻 ってわが国の自衛隊は、事故調査や対策の立案でヒューマンファクターを考慮しているとは思われません。

 

Q: 最後に、「一般市民向けの柔らかい番組です」と書かれていますが、どういうことですか?

 

A: 弊社代表は、調布 FM のラジオ番組に出演させていただくことになっています。1時間の番組です が、航空安全というよりも弊社代表の生きざまについて聞かれるようです。自信はありません が、一般の方々にも興味深くお話させていただこうと思っています。

 

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 ヒューマンファクタが国を変える 

2024-06-29

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: かつて、ヒューマンファクターがニュージーランドの国家のあり方を大きく変えたというお話です。1979 年 11 月 28 日午後 12 時 50 分(現地時間)、南極観光飛行に当たっていたニュージーランド航空 901 便(ダクラス DC-10-30)が南極大陸のロス島にあるエレバス山の山腹に激突して、乗客 237 人と乗員 20 人の合わせ て 257 人全員が死亡しました。捜索活動は悪天候で難航しましたが、南極観測基地の協力を得て 可能な限りの遺体と遺品が回収されました。同国運輸省の事故調査委員会は、「不適切な低空飛 行を行ったパイロットの判断のミスが事故原因」と結論づけました。しかし、王立調査委員会は事故の 背景に複数の要因が関係していると判断して、事故調査委員会の結論に疑問を投げかけました。 王立調査委員会は新たに詳細な調査を行い、事故の隠れた要因 (Latent Failure)として航空当 局の航空行政と航空会社の安全管理に問題があることを突き止めました。王立調査委員会による 問題の指摘は、その後にニュージーランドの政治や行政、経済、学術の構造を大きく変革させました。 当時の政権は倒れ、内閣が総辞職しました。王立調査委員会による指摘の骨子は、航空界が安全 管理にヒューマンファクター(Human Factors)を採り入れていないということでした。この変革を切っ掛 けとして、ニュージーランドは国民にとって暮らしやすい、理想に近い民主主義国家に変身しました。 当時、わが国の政治や行政、経済のリーダーの多くが変革を学ぶためにニュージーランドを訪れました。 しかし、ヒューマンファクターが変革の切っ掛けであったということまでは気づかなかったようです。

 

図.1 南極のエレバス山

 

Q: ヒューマンファクターが変革の切っ掛けであったということは、どうして知ったのですか?

 

A: 弊社代表は、JAL に在籍時に航空局(JCAB)の要請で国連の国際民間航空機関(ICAO)のヒューマンファ クター研究グループのアドバイザーを務めていました。この研究グループの会合に招かれたニュージーランドの航 空当局の代表が、変革の詳細を話してくれました。当時のニュージーランドでは、航空当局や航空会社 はヒューマンファクターにまったく関心がなく、学識経験者にもヒューマンファクターの知識がなかったそうです。

 

Q: 「ヒューマンファクターの知識がなかった」というのは、具体的にどういうことですか?

 

A: 南極など極地の上空を飛行する際には、パイロットはホワイトアウト(White-out)という気象現象に遭遇す ることがあります。ニュージーランド航空 901 便の事故は、ホワイトアウトによるパイロットの操縦エラーが原因では ないかと疑われました。当時のニュージーランドの航空関係者は、ホワイトアウトについて気象学の知識しか もっていませんでした。つまり、「雪や雲などによって視界が白一色となり、方角や地形の起伏 が識別不能となる気象現象」と考えていて、あまり警戒していませんでした。気象学の知識は登 山者にとっては十分ですが、パシロットには十分とはいえません。ヒューマンファクターでは「単に見づらくな るだけでなく、近くの物が遠く見えてしまう、パイロットにとっては極めて恐ろしい錯覚」と理解さ れています。パイロットがこの錯覚に陥れば、雪や氷に覆われた山岳に近づいてもそのまま飛行を続 けてしまいます。さらに弊社のヒューファク理論では、「ホワイトアウトは潜在意識のエラーの一種であり、潜在 意識に関する知識がなければ効果的な対策を立てられない」と説いています。

 

図.2 山岳におけるホワイトアウト(White-out)

 

Q: 当時の ニュージーランドの航空当局や航空会社、学識経験者にヒューマンファクターの知識がなかったことが悲惨 な事故をまねいたというのはわかりましたが、なぜそれが国家の変革にまで発展したのですか?

 

A: 組織論を考えれば、当然の帰結といえます。国家や企業など組織の活動には、大別して「ゲインコン トロール(Gain Control)」と「ロスコントロール(Loss Control)」があります。ゲインコントロールとは、経済発 展により利潤を追求して、組織を豊かにする活動です。ロスコントロールとは、事故や財政破綻などによ る組織の損失を最少に留める活動です。どちらも人類の幸福を希求する活動ですが、人間はゲイン コントロールには熱心になれてもロスコントロールは苦手なようです。なぜなら、ゲインコントロールは成果を可視化で きるのに対して、ロスコントロールの成果は可視化できないからです。成果を可視化できるゲインコントロールは ボトムアップ思考でもできますが、成果を可視化できないロスコントロールはトップダウン思考でしかできませ ん。ヒューマンファクターはまさにトップダウン思考のリスクマネージメントですが、ニュージーランドの航空界はヒューマンファクター にあまり関心をもてませんでした。王立調査委員会は事故を通じてその事実を知りましたが、ヒューマンファクターの知識がなくトップダウン思考のロスコントロールができないのは政治や行政、経済、学術など国家 のリーダー達も同じでした。王立調査委員会はそのことを国民に強烈に指摘しました。ニュージーランド の国民は賢明であり、王立調査委員会の指摘を率直に受け止めました。これが国家の変革にまで 至った理由といえます。

 

Q: 南極観光飛行はニュージーランドのゲインコントロールの 1 つだったのですか?

 

A: その通りです。資源が乏しい島国であるニュージーランドは、南極に近いという地の利を活かした南極 観光飛行を外貨を稼ぐ観光資源にしようと考えていました。その際、ホワイトアウトという恐ろしい錯 覚を予想したロスコントロールはまったく考えていませんでした。その結果、海外からの観光客の 257 人 を一瞬にして死なせてしまったのです。ニュージーランドは、南極観光飛行を二度と再開しない決議を しています。

 

Q: ニュージーランドのリーダー達がボトムアップ思考のゲインコントロールしかできていなかったというのは、具体的に どういうことですか?

 

A: ボトムアップ思考は部分最適しか考えません。トップダウン思考は全体最適を目指します。人間はついつ い自身の利益や保身しか考えられず、ボトムアップ思考でしかできません。政治家は、選挙の票に結 びつかないロスコントロールには関心を寄せませんでした。行政の役人達も、出世のために政治家に追従 しました。経済人や学識経験者も同じです。特に、学識経験者の堕落ぶりは顕著でした。政府の 予算に群がりますが、難解なヒューマンファクターの研究や実践には意欲を示しませんでした。国会でも、 航空安全や労働災害、医療災害などが政治課題として議論されることはありませんでした。本来 の国家論でいえば、政治や行政、司法、経済、学術などのリーダ-は「優秀なリスクマネージャー」でなけ ればなりません。有効なリスクマネージメントを行なうには、ヒューマンファクターの知識が不可欠です。当時のニュー ジーランドのリーダ-はそのことすら知らずに、自身の出世と保身しか考えていませんでした。

 

Q: ニュージーランドの航空界では、具体的にどのような変革があったのですか?

 

A: さまざまな変革がありました。残念ながら、紙面の都合ですべてをお話することはできません。 主な変革は、①事故調査委員会など政府の諮問機関から、立身出世しか考えずにヒューマンファクターを学 ぼうとしない学識経験者を一掃した、②ヒューマンファクターの研究者と指導者を養成するために、政府の研究機関が設立された、③政府が ICAO のヒューマンファクターの研究活動に全面的に協力する姿勢に転じ た、④国営であった航空管制組織を民営化して、航空交通管制(ATC: Air Traffic Control)を 航空交通サービス(ATS: Air Traffic Service)と称することにした、などです。ニュージーランドはICAO のヒューマンファクター研究グループの正式メンバー国ではありませんが、20 世紀末から 21 世紀初頭にか けた「ICAO の「ヒューマンファクター 10 年計画」に多大な貢献をしました。

 

Q: これまでのお話を聞けば、わが国の航空界や社会は変革以前のニュージーランドの航空界や社会と酷似 しているといえるのではないですか?

 

A: その通りです。本年 1 月 2 日に羽田空港で起きた航空機の衝突事故に対する航空界の対応を見れ ば、なおさらそう思います。成熟した民主主義国家が本来の軌道から逸れ始める共通の状況とい えるかも知れません。この衝突事故は、世界の航空界が最重要視している Runway Incursion の 中でも最も深刻な事故の1つです。世界がわが国の航空界の対応に注目しています。ですが、当 初わが国の航空界は世界に向けて「管制官は海保機に離陸を許可していない」と発信しました。 ヒューマンファクターの知識が少しでもあれば、管制官が海保機に紛らわしい管制指示をしたことはすぐに わかります。米国の FAA は、同種のエラーを防ぐために管制指示を変更していました。ヒューマンファクター の知識がないわが国の航空界や学術経験者は、このことすら知らなかったようです。わが国でも Runway Incursion の重大インシデントが何件かありましたが、ヒューマンファクターの専門家がいない運輸安全 委員会(JTSB)は真因を解明できていません。理由は、わが国の社会が変革以前のニュージーランドの社会とほとんど同じだからです。解決策は、「ヒューマンファクターがニュージーランドの社会を変革させた」と いう歴史の事実から多くを学ぶしかありません。「ニュージーランドにも問題はある」などとネガティブ な言い訳をする人達がいるかも知れませんが、その余裕はありません。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 対策検討委員会が中間報告 

2024-06-26

 

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2024 年 6 月 24 日、本年 1 月 2 日に羽田空港の滑走路 34R で起きた JAL516 便と海上保安 庁の航空機の衝突事故を受けて国土交通省が設立した事故対策検討委員会が、検討の中 間報告をしました。(https://www.mlit.go.jp/koku/content/001750483.pdf

 

Q: どのような対策が答申されているのですか?

 

A: 下記のような対策が答申されています。

1. 管制交信に係るヒューマンエラーの防止

2. 滑走路誤進入に係る注意喚起システムの強化

3. 管制業務の実施体制の強化

4. 滑走路の安全に係る推進体制の強化

5. 技術革新の推進 このうち、対策検討委員会は2の対策をアピールしようとしているようです。.

 

Q: 報告書を読んで、どう思いますか?

 

A: ひと言でいえば、「予想通り」といえます。ヒューマンエラーの防止策を目指すのであれば、事故の適切 なヒューマンファクター分析が必要です。つまり、どんなエラーが関与しているのかを科学的に見極めなけれ ばなりません。報告書は、ヒューマンファクター分析について何も言及していません。それに、ゴーアラウンドしなかった JAL516 便のエラーも分析していません。このことは、答申された対策がヒューマンファクターの観 点からは必ずしみ適切とはいえないことを物語っています。ヒューマンファクター分析について書かれてい ないのは、対策検討委員会のメンバーにヒューマンファクターの専門家がいないからだと思います。

 

Q: マスコミは2の対策に注目しているそうですが、この対策をどう思いますか?

 

A: ヒューマンファクターの知識がない人が思いつく安易な対策だといわざるを得ません。ヒューマンファクターの概念か らは大きく乖離しています。

 

Q: それはなぜなのですか?

 

A: 安全管理(Safety Management)の歴史的な変遷からお話しなければなりません。従来から行な われてきた安全管理はテイラリズム(Taylorism)といって、フェレデリック・テイラーという学者が考案した科 学的管理法です。テイラーは、米国のフォード社が自動車工場の流れ作業で起きる労災事故を減らすた めに雇った学者です。彼は、エラーをする人間を機械に置き換えて、機械を人間に監視させればよ いと考えました。そのために必要になったのがマニュアルです。それでもエラーを減らせないために、最 近のテイラリズムは「機械に人間を監視させればよい」という考えに変わっています。ヒューマンファクターの 理論によれば、テイラリズムの安全管理では下図の「無作為エラー」や「系統的エラー」は減らせても、多 くの事故の要因となる「突発的エラー」は減らせません。弊社のヒューマンファクター分析によれば、羽田空 港の衝突事故は関係者の突発的エラーで起きています。テイラリズムの安全管理では再発を防止できませ ん。新たにヒューマンファクターの対策が必要になります。ヒューマンファクターの知識がない対策検討委員会が答申した1~5の対策は、いずれもテイラリズムの安全管理の域を出ていません。厳しい言い方になりま すが、航空会社や当局は、無駄な対策への投資と労力を強いられることになります。

図.1 エラーの種類

 

Q: ヒューマンファクターの観点からは、2の対策はなぜ好ましいとはいえないのですか?

 

A: 航空界で厳しい訓練と審査を経て仕事をしているパイロットや管制官、整備士、客室乗務員などは、 いずれもベテランとかプロと呼ばれる人達です。日常の業務を潜在意識で行なえるレベルになっていま す。弊社のヒューマンファクター理論によれば、潜在意識はアナログ情報は処理できてもデジタル情報をうまく 処理できません。当然、新たな「潜在意識のエラー」が生まれます。対策検討委員会が勧告しよう としている管制官やパイロットへの警報システムが発する警報は、明らかにデジタル情報です。管制官やパ イロットは、警報システムによる新たな「潜在意識のエラー」に悩まされる可能性があります。この種のエラー で現実に起きた航空機事故は少なくありません。近年の「グラスコクピット機」と呼ばれる航空機で は、安全のために警報類を減らした「Silent Cockpit(静かな操縦室)」になっています。対策 検討委員会の答申は、明らかにこの流れに逆行するものです。

 

Q: これまでのお考えを航空界に披露する機会はあるのですか?

 

A: 幸いにも、あります。きたる 7 月 20 日に、国土交通省の職員の団体からのご依頼で、弊社代表 が「滑走路内衝突事故の原因と対策 - ヒューマンファクターの取り組みのすすめ - 」と題する講演をする ことになっています。講演を通じて、国土交通省の皆さんにわかっていただこうと考えていま す。パンフレットを巻末に添付しますので、関心がある方は事務局に直接お問い合わせください。

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主 催 : 国 土 交 通 労 組

第12回航空政策セミナー

~航空行政における安全管理~

 

日 時:2024年7月20日(土) 14:00~18:00

場 所:気象庁講堂 ※オンライン併設内 容:

【基調講演】滑走路内衝突事故の原因と対策―ヒューマンファクターの取り組みのすすめ ―

      講師:佐久間秀武氏(株式会社ヒューファクソリューションズ)

【特別講演】『不適切にもほどがある!?』 日本の航空行政講師:牛草祐二氏(航空安全推進連絡会議)

【航空連講演】羽田事故の情報共有~運航乗務員の視点から~

【政策提言】Runway Safety Team の拡充とさらなる航空安全にむけて

 

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 作業者がエンジンに吸い込まれる 

2024-05-31

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2024 年 5 月 29 日午後、オランダ・アムステルダムのスキポール空港で KLM 航空 1341 便(エンブラエル ERJ-190STD) を離陸のためプッシュバックしている際に、空港作業者がエンジンに吸い込まれて死亡しました。KLM 航 空は目撃した乗客と他の従業員の精神的ケアに努めるとともに、事故の調査を進めています。

 

図.1 KLM のエンブラエル ERJ-190STD

 

Q: このようなことはよくあるのですかのですか?

 

A: 残念ながら、稀なこととはいえません。昨年にも、米国テキサス州サンアントニオで 27 歳の空港作業者が航 空機のエンジンに吸い込まれて死亡しています。

 

Q: これまでのところ、メディアや当局は目撃した乗客の証言から自殺と判断しているようですが、どう なのですか?

 

A: 複数の乗客が、作業者がエンジンに飛び込む様子を機内から目撃していたようです。この状況から、 メディアや当局は作業者がエンジンの吸引力で吸い込まれたのではなく、故意に飛び込んだものと判断 したようです。ですが、この外形的な状況だけで自殺と判断するのは性急すぎると思います。自殺 ではなく事故の可能性も十分にあります。捜査当局は、自殺と判断する前に遺書の存在や周辺の 人々の証言を捜査する必要があります。

 

Q: 自殺ではなく事故の可能性もあるといえる根拠は何ですか?

 

A: 弊社のヒューファク理論からそういえます。ヒューファク理論によれば、一時的にでも脳の顕在意識(人間 脳)が失なわれて潜在意識(動物脳)になれば、デジタル情報をうまく処理できずにエラーをするこ とがあります。つまり、潜在意識で動物の本能に近い習性が顕在化して、突発的エラー(Sporadic Error)をするということです。

 

Q: 空港の作業者が現場で顕在意識を失って潜在意識で行動する要因は何が考えられますか?

 

A: いろいろあります。例えば、疲労や睡眠不足で朦朧(もうろう)としているとか、何か突発的な 出来事に意識が一点集中するようなことが要因になり得ます。

 

Q: 作業者が衝動的にエンジンに飛び込みたくなる「動物の本能に近い潜在意識の特性」というのは具 体的にどういうことですか? A: 漁業で用いる定置網の仕組みを例に説明すればわかりやすいでしょう。定置網の「運動網」に入 った魚は、他の多くの魚が細く絞られた開口部に突進するのを見て、群れに飛び込みます。その 結果、すべての魚が次の「箱網」に誘導されてしまいます。因みに、定置網は「垣網」で魚の進 路を阻んだ後に「運動網」に追い込むように設置されます。危険を感じた魚は陸側ではなくより 深い海側に逃げようとする魚の習性(動物脳の特性)を利用しています。 

 

図.2 定置網の仕組み

 

Q: 空港の作業者は、なぜ吸気口に飛び込もうとするのですか?

 

A: 作業者は潜在意識の視覚と皮膚の触覚で大量の空気が狭い吸気口に吸い込まれるのを感じて、空 気の流れに飛び込もうとします。ヒューファク理論では「潜在意識はデジタル情報をうまく処理できな い」ということですが、このケースでは「物体の進路が徐々に狭まっている人工的な状況」がデジタ ル情報といえます。ネズミ取りや動物の罠なども、この原理を利用して獲物を捕獲します。デジタル 情報とは、いわば人工的に造られた罠や落とし穴ということができます。最近のデジタル社会に生 きる人間は、このことを深く認識しなければ思わぬリスクに遭遇することになります。

 

Q: 鉄道駅でも飛び込み事故が数多くあり、警察や鉄道会社はほとんどを自殺と処理していますが、 潜在意識のエラーによる事故もあるということですか?

 

A: そうです。自殺ではなく事故というケースも少なからずあると考えています。このケースでのデジタル情 報とは、高速で近づいてくる車両の車輪と線路の光景ということになります。

 

Q: 労災事故でも、同じような「潜在意識の特性」によるものがあるのですか?

 

A: 「挟まれ事故」や「引き込まれ事故」と呼ばれる労災事故が数多くあります。産業界や医療界、 厚労省は注意喚起やマニュアルの遵守、KYT(危険予知訓練)などで防止しようとしてきましたが、効 果はほとんどありません。

 

図.3 「挟まれ事故」と「引き込まれ事故」

 

Q: 何か効果的な対策はあるのですか?

 

A: あります。弊社の「ヒューファク安全管理」で、世界最新の安全管理手法です。「ヒューファク設計」でデジ タル情報を少なくする設計を目指して、不可能か難しければ「ヒューファク訓練」でカバーします。

 

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 シンガポール航空便で乗客が死亡 

2024-05-24

Q: 読者の方々から解説を要望されているそうですが、標件はどのような事故ですか?

 

A: 2024 年 5 月 23 日、ロンドン発シンガポール行のシンガポール航空 SQ321 便(ボーイング 777-312ER)が巡航中に 乱気流に遭遇しました。同便は緊急降下した後にタイのバンコクに経路変更して現地時間 15 時 45 分に 着陸しました。この事故で乗客 1 名が死亡して、他にも 6 名が脳と頭蓋骨の損傷、22 名が脊椎損 傷、13 名が骨や筋肉などの損傷で病院に搬送されました。搭乗者は 211 名で、18 名の乗員が搭乗 していました。 

 

図.1 SQ321 便の機内の惨状

 

Q: 事故の原因は乱気流とみられていますが、どうなのですか?

 

A: パイロットはレーダーで積乱雲を確認できなかったようで、ベルトサインを点灯していませんでした。揺れを 感じて慌ててベルトサインを点灯しましたが、間に合いませんでした。この状況から、原因を乱気流と 断定するのは時期尚早と思われます。1997 年に発生した JAL706 便(MD-11)の乱高下事故も、当 初は乱気流が原因とみられていました。ですが、事後に LSAS(Longitudinal Safety Augmentation System)という飛行制御コンピュータの誤作動が原因と判明しました。当時、MD-11 で同種トラブルが頻発 していたことを知っていた弊社代表は、乱気流とは限らないことをいち早く社内外に発信しまし た。この事故では、客室乗務員 1 名が跳ね上げられた機内サービスカートの下敷きになって意識不明に なり、1 年後に死亡しました。SQ321 便の事故でも、揺れが激しかったことからコンピュータの誤作動 も疑われます。原因が乱気流か飛行制御コンピュータの誤作動かは、ブラックボックスの飛行記録を詳細に解 析すればわかります。

 

Q: 飛行制御コンピュータの誤作動の原因は何が考えられますか

 

A: 考えられるのは、電磁干渉(EMI: Electric-magnetic Interference)です。EMI の要因としては、 ①乗客が使っている電子機器からの電磁波、②航空機の電子機器からの電磁波、③太陽表面の異 常活動による異常な宇宙線、などが考えられます。最近の太陽表面の異常活動から、弊社は③を疑 っています。

 

Q: SQ321 便の機材のボーイング 777-312ER は、EMI による飛行制御コンピュータの誤作動に対して対策を施し ているのですか?

 

A: ボーイングは、777 にフォールトトロレラント設計(Fault Tolerant Design)という新技術を採用して、宇宙線 などの電磁波による飛行制御コンピュータの誤作動に対処しているとしています。ですが、この新技術 が最近の異常な宇宙線に対応できているかはわかりません。それに、新技術の機能が故障してい た可能性もあります。ボーイングや米国の NTSB は、こういった観点からも調査するはずです。 

 

 図.2 ボーイング 777 のフォールトトトロレラント設計

 

Q: 原因が乱気流だとすれば、航空会社はどのような対策をとっているのですか?

 

A: 乱気流事故はまさに多くの関係者の努力がなければ解決できないヒューマンファクターの問題です。トップダウ ン思考でさまざまな要因を考察しなければ解決しません。弊社代表は、JAL の運航安全推進部に在 籍時に「タービュレンスに挑戦しよう」というプロジェクトを立ち上げて解決をはかりました。プロジェクトで は、弊社代表がパイロットや客室乗務員、ディスパッチャー、整備士などと協議して、協議の成果を「Flight Safety」という社内安全誌に 10 回にわたって連載しました。この連載により関係者の乱気流事故 に対する関心が高まって、JAL における乱気流事故は目立って減少しました。

 

Q: JAL におけるそれまでの乱気流事故では、何が問題だったのですか?

 

A: 航空機が乱気流に突入しても、搭乗者全員がシートベルトを締めてさえいれば事故にはなりません。乱 気流に突入しても、航空機は破壊もせず墜落しないように設計されています。

 

Q: パイロットは常時シートベルトを締めていると思いますが、乗客と客室乗務員はなぜシートベルトを締めないの ですか?

 

A: それには理由があります。主として、次のような悪循環によるものです。①パイロットに乱気流の予知 能力が不足しているためと、乱気流事故に遭遇した際にベルトサインを点灯していなければ当局や会社 から責任追及されることから、パイロットは常時ベルトサインを点灯するようになっていた、②いわゆる「狼 少年効果」により、乗客だけでなく客室乗務員までもベルトサインの点灯を軽視するようになっていた、 ③パイロットと客室乗務員の責任のなすり付け合いにより、両者が互いに不信感を抱いて対策に消極的になる組織風土になっていた、などです。

 

Q: プロジェクトではどのような解決をはかったのですか?

 

A: まず、パイロットに乱気流通過に対して自信をもってもらうために、乱気流通過の飛行技術を知らせ ました。また、航空機は乱気流で破壊することも墜落することもないという航空工学の基礎を知 らせました。PIREP という他機からのリアルタイムの情報を有効活用することも促しました。次に、ディ スパッチャーには乱気流の予知能力を高めてもらいました。このような対策により、パイロットは自信をも ってベルトサインの ON/OFF を判断するようになりました。客室乗務員には、パイロットの判断を信じて、 ベルトサインが点灯すれば乗客に率先して着席するよう促しました。乗客に目立つようにシートベルトを締 めてもらすようにもしました。

 

Q: 当局や会社の組織は、プロジェクトをどう思っていたのですか?

 

A: プロジェクトはそれまでのやり方を暗に批判していましたので、表向き支持を得ていたわけではあり ません。ですが、支持してくれた社員も多くいましたので、目立つ抵抗はありませんでした。内心、 面白くないと思う人達がいたかも知れません。

 

Q: JAL ではプロジェクトの理念が今でも継続していると思いますか?

 

A: JAL はその後に会社更生法を適用されましたので、理念は継続されていないかも知れません。それ は致し方ないと思っています。

 

Q: シンガポール航空はどうなのでしょうか?

 

A: 伝聞ですが、シンガポール航空の経営理念はいたってドライだと聞いています。典型的な例としては、経 営者は機材の整備にコストをかけるよりも、経年機を早期に売却して新機材を購入する選択をしてい るようです。宇宙線の影響やヒューマンファクターの研究に力を入れているとはあまり聞きません。

 

Q: この事故で航空界に訴えたいことは何ですか?

 

A: 最近、マスコミは「太陽表面の異常活動による電磁波で航空機の運航に支障をきたす可能性がある」と 報じています。ですが、航空界はこの報道を深刻にはとらえていないようです。深刻にとらえれ ば、乗客に常時シートベルトを締めるよう促す必要があります。それに、乱気流事故を効果的に防止す るにはヒューマンファクターの取り組みが不可欠であることを肝に銘じる必要があります。

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シンガポール航空便で乗客が死亡
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ジェイエア機が緊急RTO

2024-05-16 

 

Q: どのようなインシデントですか?

 

A: 2024 年5 月10 日午後0 時20 分ころ、福岡空港で福岡発松山行きのジェイエア 3595 便(乗客乗員48 人、エンブラ エル 170)が離陸に向け高速走行する滑走路に、福岡発羽田行きのJAL312 便(乗客乗員176 人、ボーイング 787- 8)が停止線を越えて誤進入しそうになるトラブルがありました。ジェイエア 3595 便は管制官の指示で緊急離陸中 断(RTO: Rejected Take-off)しました。負傷者はありませんでした。ジェイエア 3595 便は機材の整備点検の ためにキャンセルされました。国交省によれば、今回のトラブルは航空法の定める航空事故や重大インシデント、「安全 上の支障を及ぼす事態」には該当しないとのことです。ただ、日航機が停止線を越えた経緯に管制官とパイロ ットの「行き違い」があった可能性があるとして、録音済みの交信内容の確認や管制官とパイロット双方への聞き 取りを進めて再発防止を図るとしています。

 

図.1 インシデントのイメージ 

 

Q: 国交省はこのインシデントを重大インシデントに認定しないようですが、どう思いますか?

 

A: このインシデントは、1977 年にスペイン領テネリフェ島の空港で起きたKLM とパンナムのボーイング 747 どうしの滑走路内衝突 事故と本質的には同じです。この事故では、双方で583 名の搭乗者が死亡しました。世界最悪の航空事故と して記録されています。国交省は航空法の「安全上の支障を及ぼす事態」には該当しないと判断しているようですが、理解に苦しみます。ヒューマンファクターの観点から調査して、有効な再発防止策を講じていただきたいと 思っています。

 

図.2 テネリフェ島事故のイメージ 

 

 Q: このインシデントは、どのような点でテネリフェ島事故と本質的に同じといえるのですか?

 

A: どちらも、航空機が滑走路(Runway)を誘導路(Taxiway)として使用していたという点です。テネリフェ島事故 では、別のトラブルで多くの航空機が誘導路に密集していたために、やむなくパンナム機が滑走路を誘導路として 離陸のために走行していました。福岡空港でのJAL312 便も、他の航空機が誘導路を占めていたために滑走 路を走行するよう管制指示されていました。

 

Q: 航空機が滑走路を誘導路として使用することはよくあるのですか?

 

A: 離着陸の便数が増えて航空機が輻輳する最近の主要空港ではよくあります。それだけに、航空管制とパイロット の適正なコミュニケーションが必要になります。国際航空機関は、テネリフェ島事故をヒューマンファクターの最重要課題としてCRM 訓練などヒューマンファクターの対策を勧告しています。

 

Q: このインシデントの原因は何だと思いますか?

 

A: インシデントの経緯は図.1 で概略わかると思います。原因は、図.1 の②でJAL312 便のパイロットが「誘導路E6 の停 止線で停止するように」との管制指示を認識できなかったことです。

 

Q: JAL312 便のパイロットが重要な管制指示を認識できなかった理由は何だと思いますか?

 

A: 理由は図.1 の①の管制指示の出し方にあります。JAL312 便のパイロットが本物のCRM 訓練をされていれば、管 制指示を適切に解釈できたかも知れません。いずれにしても、「管制官とパイロットのどちらに責任があるの か」という観点からは有効な防止策は生まれません。国交省の航空局(JCAB)や運輸安全委員会(JTSB)に はヒューマンファクターの専門家がいないために、管制指示のどこが適切でないのか理解できないかも知れません。ヒュ ーマンファクターの知識がある専門家であれば、すぐにわかります。

 

Q: このままではこのインシデントの教訓が活かされませんが、どうされますか?

 

A: 幸いにも近々、弊社が関係者の方々に講演させていただく機会があります。その際、このインシデントの原因分 析ととるべき対策についてお話したいと思っています。 

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 海自ヘリ2機が墜落 (第2報)

2024-04-22
2024-04-29

 

第1報

 

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 防衛省の発表によれば、2024 年 4 月 20 日午後 10 時 38 分ごろ、伊豆諸島の鳥島の沖合で SH60K 哨戒ヘリコプター 1 機の通信が途絶え、そのおよそ 1 分後にこの機体から緊急信号を受信したという ことです。そのおよそ 25 分後の午後 11 時 4 分ごろ、同じ海域で別の SH60K 哨戒ヘリコプター 1 機の 通信が途絶えていました。現場周辺では機体の一部とみられるものが確認され、2 機は墜落した とみられています。2 機にはそれぞれ 4 人、合わせて 8 人が搭乗していました。このうち 1 人は 救助されましたが、その後に死亡が確認されました。SH60K 哨戒ヘリコプターは、主に護衛艦に搭載さ れて運用され、2 機は潜水艦を捜索する夜間の訓練を行っていました。2 機の所属は長崎県の大 村航空基地と徳島県の小松島航空基地です。海上自衛隊によれば、現場周辺に他国の航空機や艦 艇などはなく、「他国の関与はないと考えるのが適切だと思う」とされています。防衛省は墜落 した原因を調べるとともに、護衛艦と航空機で現場周辺の捜索を続けています。

 

図.1 SH60K 哨戒ヘリコプター

 

Q: 飛行記録装置(FDR: Flight Data Recorder)は回収されたのですか?

 

A: 2機とも、回収されています。現在、自衛隊の厚木基地で解析されています。海自のヘリコプターの FDR は、海上での事故を想定して機外に装備されています。海に墜落すれば、FDR が離脱、浮上 して位置を伝える電波を発信するように設計されています。陸自のヘリコプターではそうはなってい ません。

 

Q: 事故時には 2 機のヘリコプターはどのような訓練をしていたのですか?

 

A: 海上自衛隊によれば、ソナーを海中に垂らして潜水艦の位置と深さを探知する訓練をしていたそう です。訓練には3機のヘリコプターが参加していました。残りの1機が事故を目撃していたかどうか は明らかにされていません。 

 

図.2 対潜哨戒活動の訓練

 

Q: 事故の原因は何だと考えられますか?

 

A: FDR をまだ解析していない段階ですが、防衛省は2機のヘリコプターが空中衝突した可能性が高いとコメ ントしています。空中衝突したとすれば、2機の FDR は同時刻に大きな G を記録しているはずで す。高度維持の制御に失敗したことも考えられますが、2機のヘリコプターがほぼ同時刻に墜落して いることから、その可能性は低いと思われます。

 

Q: 空中衝突の要因としては何が考えられますか?

 

A: 「ヒューファク安全情報_24-02-26_ANA 機どうしが接触」でもすでにお話しましたが、「形状認識 (Profile Awareness)の喪失」が考えられます。形状認識とは、自動車の運転でいえば「車幅 間隔」や「車高間隔」に相当します。脳の潜在意識の情報処理の一部で、周囲の障害物との間隔 (Clearance)を的確に認識できる能力です。対潜哨戒活動では、ヘリコプターのパイロットは電波高度計 による精確な高度維持やソナーの操作、同僚機との間隔維持など、多くのタスクに意識を払う必要があ ります。そのすべてを潜在意識で行なえるようになる(Task Allocation)のが訓練ですが、そ の過程ではいずれかのタスクが疎かになることがあります。今般の事故では、それが形状認識の喪 失だったのだと思われます。

 

Q: 形状認識を磨くには、どうすればよいのですか?

 

A: 脳の潜在意識の特性を科学的に解説したうえで訓練するヒューマンファクター訓練しかありません。そのよ うな訓練をパイロットなど現場の要員にわかりやすく開発したものがCRM(Crew Resource Management) 訓練です。本物の CRM 訓練では、ヒューマンファクターの理論や手法も教えられます。

 

Q: 海上自衛隊や他の自衛隊では、本物の CRM 訓練が実践されていると思いますか?

 

A: 残念ながら、実践されていないと思います。民間航空界でも、本物の CRM 訓練は実践されていま せん。そのために、ANA の航空機どうしが伊丹空港のランプで衝突したのだと思います。

 

Q: 米軍など、他の国の軍はどうなのですか?

 

A: 弊社代表は、JAL の技術研究所に在籍時に米国ワシントンで開催されたヒューマンファクターの国際会議に出席し ていました。そこには、米国の FAA や NASA、NTSB、航空会社の代表が集まっていました。オブザー バーとして、米国の陸、海、空軍の代表も参加していました。彼らは、軍の戦闘能力を増強する ために CRM 訓練などヒューマンファクターの知識を学ぶために参加していると話していました。彼らが対潜 哨戒活動にもヒューマンファクターの知識を導入しようとしていたことは、想像に難くありません。米海軍 の対潜哨戒能力は世界一といわれています。

 

Q: この事故で対潜哨戒活動が難しいことは理解できますが、技術で難しさを克服しようという動き はあるのですか?

 

A: もちろん、あります。無人対潜哨戒ヘリコプターが研究されています。ですが、実戦に本当に適して いるかどうかは未知数です。有人による対潜哨戒ヘリコプターの訓練はまだなくせません。訓練時の 事故をなくすためにも、海上自衛隊には本物の CRM 訓練を導入することをお勧めします。

図.3 無人対潜哨戒ヘリコプター

 

第2報

 

Q: 両機の飛行記録(FDR)が解読されたのですか?

 

A: そうです。FDR には、両機が同じ高度で向かい合って飛行しながら衝突したことが記録されてい るそうです。そうだとすれば、第1報の内容を若干訂正しなければなりません。

 

Q: 訂正するのはどのような点ですか?

 

A: 第1報では衝突の原因を「形状認識(Profile Awareness)の喪失」と推定しましたが、これを 「衝突コース症候群(Collision Course Syndrome)」に訂正させていただきたいと思います。第1 報のその他の記述はまったく変える必要はありません。

 

Q: 衝突コース症候群とはどのようなことですか?

 

A: 図.4 のように、互いに接近する 2 機の航空機の片方あるいは両方のパイロットが近づいてくる相手の 航空機を視認すれば、恐怖心で脳の意識レベルが潜在意識に変って、視野が固定してしまいます。

い わゆる、「恐怖心による金縛り状態」です。視野が固定すると、パイロットは相手の航空機を追い続け ることしかできなくなります。その結果、両機は互いに接近して衝突してしまいます。このエラーは、 相手の航空機が大きいほど、つまりパイロットが抱く潜在意識の恐怖心が大きいほど顕著になります。 「形状認識の喪失」と同じように、脳の潜在意識で起きるエラーの一種(錯覚)です。これまでも多 くの航空機や船舶、鉄道車両、自動車どうしの衝突の原因になっている恐ろしい錯覚です。動物の 脳の防衛本能とも関連しています。もちろん、ヘリコプターどうしが接近して対潜哨戒活動をする際に も起こり得ます。 図.4 衝突コース症候群 Q: 衝突コース症候群は衝突防止システムなどのテクノロジーで防止することはできないのですか

 

図.4 衝突コース症候群

 

Q: 衝突コース症候群は衝突防止システムなどのテクノロジーで防止することはできないのですか?

 

A: 「潜在意識はデジタル情報を処理できない」というヒューマンファクターの原則があります。デジタル情報とい うのは人工的な情報のことで、衝突防止システムが発する警報もデジタル情報といえます。恐怖心とい う潜在意識に陥ってしまったパイロットは、デジタル情報である衝突防止システムの警報を無視してしまい ます。航空機にも TCAS(Traffic alert and Collision Avoidance System )という衝突防止システ ムが装備されていますが、パイロットが TCAS の警報を無視して起きた空中衝突は少なくありません。

 

Q: 「形状認識(Profile Awareness)の喪失」と同じと同じように、衝突コース症候群もやはり CRM 訓 練でしか防止できないということでしょうか?

 

A: その通りです。CRM 訓練といっても、弊社のヒューファク訓練のように脳の潜在意識にまで踏み込んだ 「本物の CRM 訓練」でなければなりません。弊社のヒューファク訓練を受講すれば、咄嗟の場合でも潜 在的な恐怖心を克服して冷静に行動できるようになります。 

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海自ヘリ2機が墜落 (第2報)
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 海自ヘリ2機が墜落

2024-04-22

 

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 防衛省の発表によれば、2024 年 4 月 20 日午後 10 時 38 分ごろ、伊豆諸島の鳥島の沖合で SH60K 哨戒ヘリコプター 1 機の通信が途絶え、そのおよそ 1 分後にこの機体から緊急信号を受信したという ことです。そのおよそ 25 分後の午後 11 時 4 分ごろ、同じ海域で別の SH60K 哨戒ヘリコプター 1 機の 通信が途絶えていました。現場周辺では機体の一部とみられるものが確認され、2 機は墜落した とみられています。2 機にはそれぞれ 4 人、合わせて 8 人が搭乗していました。このうち 1 人は 救助されましたが、その後に死亡が確認されました。SH60K 哨戒ヘリコプターは、主に護衛艦に搭載さ れて運用され、2 機は潜水艦を捜索する夜間の訓練を行っていました。2 機の所属は長崎県の大 村航空基地と徳島県の小松島航空基地です。海上自衛隊によれば、現場周辺に他国の航空機や艦 艇などはなく、「他国の関与はないと考えるのが適切だと思う」とされています。防衛省は墜落 した原因を調べるとともに、護衛艦と航空機で現場周辺の捜索を続けています。

 

図.1 SH60K 哨戒ヘリコプター

 

Q: 飛行記録装置(FDR: Flight Data Recorder)は回収されたのですか?

 

A: 2機とも、回収されています。現在、自衛隊の厚木基地で解析されています、海自のヘリコプターの FDR は、海上での事故を想定して機外に装備されています。海に墜落すれば、FDR が離脱、浮上 して位置を伝える電波を発信するように設計されています。陸自のヘリコプターではそうはなってい ません。

 

Q: 事故時には 2 機のヘリコプターはどのような訓練をしていたのですか?

 

A: 海上自衛隊によれば、ソナーを海中に垂らして潜水艦の位置と深さを探知する訓練をしていたそう です。訓練には3機のヘリコプターが参加していました。残りの1機が事故を目撃していたかどうか は明らかにされていません。

 

図.2 対潜哨戒活動の訓練

 

Q: 事故の原因は何だと考えられますか?

 

A: FDR をまだ解析していない段階ですが、防衛省は2機のヘリコプターが空中衝突した可能性が高いとコメ ントしています。空中衝突したとすれば、2機の FDR は同時刻に大きな G を記録しているはずで す。高度維持の制御に失敗したことも考えられますが、2機のヘリコプターがほぼ同時刻に墜落して いることから、その可能性は低いと思われます。

 

Q: 空中衝突の要因としては何が考えられますか?

 

A: 「ヒューファク安全情報_24-02-26_ANA 機どうしが接触」でもすでにお話しましたが、「形状認識 (Profile Awareness)の喪失」が考えられます。形状認識とは、自動車の運転でいえば「車幅 間隔」や「車高間隔」に相当します。脳の潜在意識の情報処理の一部で、周囲の障害物との間隔 (Clearance)を的確に認識できる能力です。対潜哨戒活動では、ヘリコプターのパイロットは電波高度計 による精確な高度維持やソナーの操作、同僚機との間隔維持など、多くのタスクに意識を払う必要があ ります。そのすべてを潜在意識で行なえるようになる(Task Allocation)のが訓練ですが、そ の過程ではいずれかのタスクが疎かになることがあります。今般の事故では、それが形状認識の喪 失だったのだと思われます。

 

Q: 形状認識を磨くには、どうすればよいのですか?

 

A: 脳の潜在意識の特性を科学的に解説したうえで訓練するヒューマンファクター訓練しかありません。そのよ うな訓練をパイロットなど現場の要員にわかりやすく開発したものがCRM(Crew Resource Management)訓練です。本物の CRM 訓練では、ヒューマンファクターの理論や手法も教えられます。

 

Q: 海上自衛隊や他の自衛隊では、本物の CRM 訓練が実践されていると思いますか?

 

A: 残念ながら、実践されていないと思います。民間航空界でも、本物の CRM 訓練は実践されていま せん。そのために、ANA の航空機どうしが伊丹空港のランプで衝突したのだと思います。

 

Q: 米軍など、他の国の軍はどうなのですか?

 

A: 弊社代表は、JAL の技術研究所に在籍時に米国ワシントンで開催されたヒューマンファクターの国際会議に出席し ていました。そこには、米国の FAA や NASA、NTSB、航空会社の代表が集まっていました。オブザー バーとして、米国の陸、海、空軍の代表も参加していました。彼らは、軍の戦闘能力を増強する ために CRM 訓練などヒューマンファクターの知識を学ぶために参加していると話していました。彼らが対潜 哨戒活動にもヒューマンファクターの知識を導入しようとしていたことは、想像に難くありません。米海軍 の対潜哨戒能力は世界一といわれています。

 

Q: この事故で対潜哨戒活動が難しいことは理解できますが、技術で難しさを克服しようという動き はあるのですか?

 

A: もちろん、あります。無人対潜哨戒ヘリコプターが研究されています。ですが、実戦に本当に適して いるかどうかは未知数です。有人による対潜哨戒ヘリコプターの訓練はまだなくせません。訓練時の 事故をなくすためにも、海上自衛隊には本物の CRM 訓練を導入することをお勧めします。

 

図.3 無人対潜哨戒ヘリコプター 

 

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 民間ロケット打ち上げ失敗

2024-04-08

 

 

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2024 年3 月13 日、宇宙開発ベンチャー企業「スペースワン」の小型ロケット「カイロス」初号機が同社の 発射場「スペースポート紀伊」から発射されましたが、わずか 5 秒後に何らかの異常が発 生して爆発しました。搭載した自律飛行安全システムが機体の状態や飛行に何らかの異常 が発生したと判断して、飛行経路や地上の安全確保のために機体を爆破させたとみら れています。搭載した政府の約 30 億円の小型実証衛星も失われました。爆発による 負傷者はいません。原因は不明で、飛行記録 データなどをもとに調査される予定です。 カイロスは日本の民間宇宙利用の先兵の1つとして期待されましたが、技術の壁を思い知 らされる結果になっったという見かたもされています。

 

図.1 カイロスの打上げ失敗

 

Q: カイロスはどのようなロケットなのですか?

 

A: カイロスは3 段構成の小型固体燃料ロケットで、全長約 18 メートル、重さ約 23 トンのロケットです。3 段燃 焼終了後、衛星の軌道投入精度を高めるために液体燃料の推進系「PBS(Post Boost Stage)」が搭載されています。因みに、政府の基幹ロケット「イプシロン」は全長約 26 メート ル、重さ約 95 トンの 3 段固体燃料ロケットで、PBS を搭載することが可能です。

 

Q: スペースワンはどのような会社なのですか?

 

A: キャノン電子、清水建設、三菱 UFJ 銀行、IHI エアロスペース(IHIA)などが約 70 億円を出資し て設立した ベンチャー企業です。特に IHIA は、 イプシロンをはじめ固体燃料ロケット開発や製造 に関与した経験があることから、一回り小さいカイロスにも技術経験を活かせる考えてい るようです。スペースワンの設立には、経産省やJAXA、宇宙関連企業のOB が参画しています。経産省事務官 僚OB の社長は事後の記者会見で、「失敗という言葉は使わない。1つひとつの試みの 中に新しいデータ、経験があり、すべてが新しい挑戦の糧といえる。ステップを明確にしてどこまで進むかを明確にしていきたい。これは会社の文化だ。諦めずに前に進 む。」と強調しました。

 

Q: わが国では最近、カイロスに限らず小規模民間ベンチャーのロケットやJAXA のイプシロン S、H-3 ロケットの打上げの失敗が続い ていますが、共通の原因があるのでしょうか?

 

A: それぞれ失敗の原因は異なると思われますが、トップダウン思考で考えれば共通の根本的な原因が見えてきま す。ボトムアップ思考でそれぞれの原因を「もぐら叩き」しているだけでは、何時まで経っても問題は解決しま せん。問題を抜本的に解決するには、トップダウン思考で根本的な原因を探って、抜本的な対策を講じる必要が あります。

 

Q: 抽象的でわかりにくいのですが、「根本的な原因」とは具体的にどういうことですか?

 

A: 「根本的な原因」とは、ひと言でいえば「政府や産業界、国民がわが国の航空宇宙技術の実力を過大評価し ていること」です。ロケットの使命は人工衛星や宇宙ステーションへのペイロードなどを所定の宇宙空間に精確かつ安全 に運ぶことです。それには、ロケットの姿勢制御(Attitude Control)が重要になります。航空機は空力的な操 舵翼(Control Surface)や安定翼(Stabilizer)で姿勢制御できますが、ロケットには基本的に操舵翼や安定 翼がありません。そのため、推進システムのノズルの向きや推力そのものを自動制御して姿勢を制御する必要があ ります。残念ながら、わが国の航空宇宙技術にはそのための自動制御の基本技術が欠けているといわざるを 得ません。

 

Q: ロケットの姿勢制御はどのように行なわれるのですか?

 

A: ロケットの重心位置に、ジャイロ(Gyro)という独楽(こま)の原理を応用した精密機器が装備されています。独楽 は自身の慣性(Inertia)により3次元空間で姿勢を維持できます。ジャイロは、この原理によりロケットの3軸方 向の角加速度を精確に検知することができます。3軸方向の角加速度を内臓の小型高性能コンピュータで積分す ることにより、ロケットの姿勢や位置が計算されます。ロケットの姿勢や位置の変化がわかれば、他のセンサーからの情 報を参考にして、推力の方向や大きさを変えることで姿勢を修正できます。航空機の姿勢制御も、基本的に は同じ方法で行なわれています。最近の航空機やロケットには、機械的なジャイロに換えて、より精密な光学的ジャ イロが採用されています。  

 

図.2 ジャイロの原理

 

Q: わが国には優秀な光学的ジャイロのメーカーがありますが、ロケットの姿勢制御はわが国が得意な技術分野といえるの ではないのですか?

 

A: 必ずしもそうはいえません。光学的ジャイロの技術などは「要素技術(Elemental Technology)」といわれてい ます。航空機やロケットの精密な姿勢制御は、優秀な要素技術だけでは実現できません。トップダウン思考による高度な「体系的技術(Integrated Technology )」が必要になります。体系的技術を実現するには、トップダウン 思考でシステム全般を俯瞰できる優秀な技術者の存在が必要になります。

 

Q: かねてから、「わが国には優秀な要素技術があるのに体系的技術に欠けている」といわれていますが、その ことを一般の人達も理解できるように、具体例で説明していただけませんか?

 

A: 身近なパソコンの技術を例にお話すればわかりやすいと思います。わが国にはパソコンを製造・販売しているメーカー がいくつかあります。そのことで、多くの国民は「わが国にはパソコンを国産できる技術がある」と誤解して いるようです。ですが、パソコンはハードウェアだけでは機能しません。OS(Operating System)やアプリケーションとい ったソフトウェアも必要になります。パソコンのOS は、マイクロソフト社のWindows とアップル社のMac に独占されているのが 現実です。わが国のメーカーがOS の分野に進出できる余地はほとんどありません。わが国にもかつて、Windows やMac に匹敵するOS を開発しようという試みがありましたが、残念ながら実現しませんでした。パソコンの OS の開発には、システム全般をトップダウン思考で俯瞰できる優秀な技術者が必要になります。残念ながら、わが 国にはそのようなIT 研究者や技術者はいません。同じように、フェイスブックやX(旧ツイッター)、ティックトック、ラインと いったSNS のプラットホームを開発できるIT 研究者や技術者もいません。ChatGPT のような生成AI の開発までに はさらに距離があるといえます。厳しい言い方かも知れませんが、ボトムアップ思考の教育で育ったわが国の技 術者には。欧米の要素技術を模倣する能力はあっても、体系的技術を開発できる能力はないというのが現実 といえます。

 

Q: パソコンの例はわかりましたが、航空機やロケットの姿勢制御の分野でも、わが国にはパソコンのOS に相当する技術 がないということですか?

 

A: その通りです。航空機やロケットの姿勢制御でパソコンのOS に相当する技術は、「制御則(Control Law)」とよ ばれています。制御則は、航空機やロケットの姿勢制御を全般的に管理する重要なプログラムです。メーカーが実験やシ ミュレーションを積み重ねて開発した高度な技術の結晶といえます。当然のことながら、各メーカーは最高企業秘密 (Top Secret)として他に公表しません。ボーイングやエアバスも、それぞれの機種ごとに独自の制御則を開発し ています。航空会社にも一切知らされていません。

 

Q: 「制御則は航空会社にも知らされていない」というのは意外ですが、具体例を話していただけませんか?

 

A: 制御則は飛行管理コンピュータ(FMC: Flight Management Computer)のプログラムに組み込まれています。FMC な ど各種制御コンピュータの状態は中央整備コンピュータ(CMC: Central Maintenance Computer )により飛行中に常時 モニターされています。飛行中に制御コンピュータの故障が検知されれば、自動的に地上の整備センターに報告されま す。地上で待機している整備士は、CMC の指示に従って故障したコンピュータをユニットごと交換して自社の装備工 場に搬送します。装備工場では、取り外したコンピュータを分解して故障原因を探求することは許されていませ ん。製造メーカー(ベンダー)にそのまま送って修理してもらうか、すでに修理された他のユニットをベンダーから受領 します。その間、航空会社の技術者は制御則の詳細に一切関与することができません。そのため、航空機に 搭載されている電子ユニットは一般に「ブラックボックス」とよばれています。

 

Q: 科技庁の宇宙開発事業団(NASDA)や後継のJAXA がこれまで打ち上げてきたH-2 ロケットなどでは目だった姿勢 制御の失敗を聞きませんが、その理由をどう考えればよいのですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、そのことこそが「政府や産業界、国民がわが国の航空宇宙技術の実力を過大評価 している」最大の要因といえます。わが国のほとんどの国民は、NASDA やJAXA、三菱重工(MHI)など関連 企業がH-2 ロケットなどを国産していると誤解しています。わが国でNASDA が設立された歴史を振り返れば、そ の誤解も解けると思います。

 

Q: 「NASDA が設立された歴史」とは、どういうことですか?

 

A: わが国のロケット技術は、東大の糸川教授によるペンシルロケットの研究に端を発しています。東大の宇宙航空研究所 と旧プリンス自動車が研究を続けていました、1970 年頃には、年間60 億円ほどの巨額の研究予算がつけられ ていました。当時のロケット研究では、姿勢制御の技術は重要視されていませんでした。そのことで将来性を危 ぶんだ政府は、米国のNASA とボーイングが開発した液体燃料のロケットの技術をそのまま供給してもらうという政 策に転換しました。そのためにに科技庁に新設された組織がNASDA です。つまり、NASDA やJAXA、MHI がこ れまでに打ち上げてきた液体燃料のロケットの技術は、わが国が独自に開発したものではないといえます。米国 から供与されたロケット技術には、ロケット本体を製造するハードウェア技術だけではなく、姿勢制御のための制御則な どソフトウェア技術も含まれていました。いわば、わが国はロケットを最初から開発する際の「産みの苦しみ」を経験 していないといえます。NASDA やJAXA、MHI によるこれまでのロケット打上げで目だった失敗がなかったのは、 わが国独自の技術の成果ではないと考えねばなりません。

 

Q: JAXA やMHI、IHI などの航空宇宙技術者は、ロケットの打ち上げに制御則が不可欠であることに気づいているの でしょうか?

 

A: 気づいていないと思います。気づいていれば、JAXA やMHI、IHI などの技術者OB がスペースワンなどのベンチャー企 業を設立してロケットの打ち上げを事業化できるなどと安易に考えないはずです。技術者OB は、「何回か打ち 上げていればそのうちに成功するはず」と考えているのかも知れません。経産省や文科省などの事務官僚 OB が気づけないのは無理もありませんが、技術者OB は気づいて政府や経済界に真実を伝えるべきです。

 

Q: いくら「航空機やロケットの姿勢制御には制御則が不可欠」と話しても、わが国の技術者は理解できずに反発す ると思いますが、制御則の重要性を説得できる具体例はありませんか?

 

A: あります。米国の大手航空機メーカーであったマクダネルダグラス社(MDC)の倒産劇です。同社はかつてダグラス社(DAC) として DC-8 や DC-10 といった名機を製造していました。ところが、ダグラス社の経営方針が保守的で財政を 悪化させたことから、軍用機を生産するマクダネル社の傘下に入らざるを得なくなりました。マクダネル社の革新的 な経営方針で開発されたのがMD-9 やMD-11 といった機種です。MD-11 はDC-10 を踏襲した機種で、尾翼を小 さくするとともに空気抵抗が少ない翼型を採用することで燃費を大幅に改善しました。その反面、離着陸な ど低速時の安定性が悪くなり、LSAS(Longitudinal Stability Augmentation System)という制御則を組み 込んだ自動化操縦系統システムで安定性を補完せざるを得なくなりました。ところが、新規開発のLSAS には致命 的な欠陥があり、MD-11 は離着陸時だけでなく巡航時にも安定性に関わる多くの事故を引き起こすことにな ってしまいました。1997 年には、JAL のMD-11 も三重県志摩半島上空で乱高下事故を起こして、客室乗務員 1名が死亡しています。同事故を調査した運輸安全委員会(JTSB)は、LSAS の欠陥が事故原因とは特定でき ず、パイロットエラーと結論づけてしまいました。MD-11 は、着陸時にも深刻な転倒事故を何件か起こしています。

 

マクダネルダグラス社はLSAS の欠陥が原因と気づいていたのか、その後にMD-11 の製造を断念してボーイングの傘下 に入る選択をしました。MD-11 は現在も貨物専用機として飛び続けています。

 

図.3 フェデックス 14 便(MD-1 貨物機)の着陸時転倒事故

 

Q: 本年1月20 日にJAXA が月面に着陸させた月探査機SLIM が上下転倒しましたが、この件も姿勢制御の制御 則に関連しているのですか?

 

A: 大いに関連があると思います。JAXA が SLIM のプロジェクトで目指したものは、① 月面の所定位置に着陸させ る、② 太陽電池を活用して探査活動のための電力を得る、③ 探査活動で採集した鉱物サンプルなどを地球に持 ち帰る、などといわれています。JAXA のプロジェクト関係者は、①の目的が達成されたことで成果を 65 点と自 己評価しています。ですが、SLIM を上下転倒させたことで、②と③の目的は達成できていません。SLIM が上 下転倒したのは、SLIM の姿勢制御の制御則に問題があったためと思われます。JAXA の自己評価は甘すぎると いえるかも知れません。

 

図.4 月面に上下転倒して着陸した月探査機SLIM

 

Q: SLIM が上下転倒したのは、冗長性(Redundancy)を得るための2 発のプラズマジェットエンジンの1 発が故障した ためで致し方ないと評価する関係者もいますが、どうなのですか?

 

A: 厳しすぎると思われるかも知れませんが、この考えはリスクマネージメントの分野ではまったく通用しません。その 理由は、航空機を例に考えればわかりやすいと思います。航空機にも、冗長性を得るために複数のエンジンが 取り付けられています。例えば、2 発のエンジンの1 発が故障した際に姿勢を制御できなくなって図.3 のよう に上下転倒して着陸することになれば、どう評価されるでしょうかか?そのような航空機は当局の承認を得 られないばかりか、社会に受け入れられることもありません。トップダウン思考で考えれば、SLIM のエンジンの故 障は、姿勢をうまく制御できなかった結果ともいえます。

 

Q: SLIM は人間を搭乗させているわけではなく、そう厳しく考えなくてもよいのではないですか?

 

  A: それもわが国に独特の安易な考えといえます。同じように月探査プロジェクトを推進している米国や中国は、探 査機の姿勢制御を最重要視しています。SLIM の直後に米国が月面に着陸させた探査機は、正常な姿勢で着 陸しました。SLIM の前の中国の探査機も、正常な姿勢で着陸しています。

 

Q: SLIM の姿勢制御に問題があるとすれば、どのような理由が考えられますか?

 

A: ① 明確な理念にもとづく制御則が開発されていない、② 2 発のエンジンの1 発の不作動を想定したプログラムが 組み込まれていない、③ SLIM の光学的ジャイロの開発で、地球と月の「コリオリの力」の相違を考慮していな い、④ 宇宙の放射線などの電磁干渉(EMI)に対する対策がされていない、などが考えられます。

 

Q: ロケットや航空機、月探査機などの開発では「姿勢制御のための制御則」が最重要ということですが、わが国の 技術がこの問題を解決できる見込みはあるのでしょうか?

 

A: 前述のように、制御則はパソコンのOS と同じようなものです。これまでのボトムアップ思考の教育ではパソコンのOS を国産することが難しいように、わが国の技術で制御則を独自開発することは難しいでしょう。マイクロソフト社 やアップル社にWindows やMac の中身を聞いても教えてくれないように、ロケットや航空機、月探査機の制御則を 外国に聞いても教えてくれないでしょう。なぜなら、彼らが血の滲むような努力で開発した最高企業秘密だ からです。弊社は、わが国の技術者がパソコンのOS や航空機やロケットや航空機、月探査機の制御則を開発できな いことを卑下するつもりは毛頭ありません。また、その資格もありません。わが国の技術者がボトムアップ思考 からトップダウン思考への意識変革を決意さえすれば、難しい問題を解決できる可能性もあります。わが国の技 術者にはそのための潜在能力があると信じています。

 

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民間ロケット打ち上げ失敗
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 ANA機同士が接触

2024-02-26

 

Q: どのようなインシデントですか?

 

A: 2024 年 2 月 1 日午前 10 時 8 分ごろ、大阪空港の駐機場で松山に向けて出発しようとしていた ANA1637 便(ボンバルディア DHC8)と福岡から到着した ANA422 便(ボンバルディア DHC8)が、互いの右 主翼先端どうしを接触させるというインシデントが起きました。それぞれ 60 人余りの乗客がいました が、負傷した人はいませんでした。当時、出発機は誘導路に向かうために機体の向きを変えて停 止していました。到着機は、搭乗口に向かって走行していました。双方の翼の先端にわずかにこ すれたあとがありました。出発機は、別の機材に変更されておよそ 1 時間半遅れました。その 他、大阪空港を発着する ANA の 10 便が欠航ししました。

 

図.1 大阪空港で駐機する ANA のボンバルディア DHC8

 

Q: このインシデントの原因と対策は何だと思いますか?

 

A: 運輸安全委員会(JTSB)は事故調査官を現地に派遣したそうです。重大インシデントに認定するかど うかはわかりません。重大インシデントに認定したとじても、「原因は不注意、対策は注意喚起」で済 まされるのではないかと思われます。JTSB にはヒューマンファクターの専門家がいないために、適切なヒューマ ンファクター分析ができないからです。ヒューマンファクターの専門家がいれば、このインシデントの原因は「形状認 識の喪失(Loss of Profile Awareness)」であり、重要なヒューマンファクターの問題であることがわかる はずです。

 

Q: 「形状認識」というのは耳慣れない言葉ですが、どういうものですか?

 

A: 一般の人々には、自動車の教習所で習う「車幅感覚」とか「車高感覚」という方がわかりやすいか も知れません。教習所では「車幅感覚」や「車高感覚」は抽象的にしか話されず、科学的に説明されることはありません。「車幅感覚」や「車高感覚」は、自動車を安全に運転するうえで極めて重 要な脳の機能です。現在、わが国でも 75 歳以上の高齢者の運転免許更新で「車幅感覚」や「車高 感覚」の確認のための認知テストが行なわれています。

 

Q: 高齢者の運転免許更新で「車幅感覚」や「車高感覚」の確認が行なわれているというのは初耳です が、どのような認知テストですか?

 

A: 高齢者に図.2 のような 4 種類の絵を4セット(合計 16 枚)見せて、その後で何が描かれていたかを 思い出させます。このテストはわが国の認知心理学者が提案したとされていますが、オリジナルは欧米 先進国で開発されたものです。そのまま採用したわが国の認知心理学者は、この認知テストが「車 幅感覚」や「車高感覚」の検査のためであることを説明できていません。

 

図.2 高齢者運転免許更新の認知テスト 

 

Q: この認知テストが、なぜ「車幅感覚」や「車高感覚」の確認のためといえるのですか?

 

A: それには、「車幅感覚」や「車高感覚」が科学的にどのようなものかを説明しなければなりませ ん。弊社代表が 1998 年に考案した図.3 の「脳の情報処理行程」を用いれば、科学的に説明でき ます。つまり、自動車の運転者は車両の部分的な形状を見て短期記憶に記憶します。部分的な形 状を何回か見るうちに、短期記憶と長期記憶の間の情報交換を通じて、車両のどの部分であるか を無意識に判断しながら長期記憶に記憶します。長期記憶では、いくつかの部分的な形状をもと に車両の全体像を潜在意識で構築します。長期記憶で構築された車両の全体像を潜在意識でうまく取り出せる能力が「車幅感覚」や「車高感覚」です。それには、車両の全体像を体系的に長期 記憶に記憶できるかどうかが鍵になります。高齢者運転免許更新の認知テストでは、提示された 16 枚の絵を如何に体系的に長期記憶に記憶して取り出せるかが試されます。つまり、認知テストはま さに自動車の安全運転に不可欠な「車幅感覚」や「車高感覚」の確認のためといえます。

 

図.3 脳の情報処理行程 

 

Q: 「形状認識の喪失」は、疲労や業務の忙しさに関係するのですか?

 

A: 人間脳である顕在意識の情報処理は疲労や業務の忙しさで機能低下しますが、動物脳である潜在 意識の情報処理は低下しません。むしろ、短期記憶を如何に体系的に長期記憶に記憶できるかに 依存します。そのような能力を養成するのがヒューマンファクター訓練の目的の1つといえます。

 

Q: 表題のインシデントの原因が「形状認識の喪失」であり、自動車の運転でいう「車幅感覚」や「車高感 覚」の不足と同じであることは理解できましたが、航空機の場合はどういうことか具体的に説明 していただけませんか?

 

A: 航空機の運航では、出発前のウォークアラウンド・チェック(Walk-around Check)でパイロットが航空機の形状を 長期記憶に記憶します。ウォークアラウンド・チェックは、道交法などで規定されている自動車の始業点検に 相当します。わが国ではウォークアラウンド・チェックや始業点検は航空機や自動車の状態の点検としか教え られていませんが、パイロットや運転者が形状認識を確保するための重要な作業であるともいえま す。表題のインシデントでは、福岡から到着した ANA422 便のパイロットがウォークアラウンド・チェックで形状認識を 確保できていなかったことが原因といえます。本来の CRM 訓練ではこのような知識が教えられますが、わが国の航空界は本来の CRM 訓練を実施していません。わが国の航空界が本来の CRM 訓練 を実施していないことが、インシデントの間接的な原因ともいえます。

図.4 ウォークアラウンド・チェック

 

Q: 「形状認識」について、これまで海外の研究者などと議論したことがあるのですか?

 

A: 弊社代表の JAL 在籍時からの知己にエリック・ホルナゲル(Eric Hollnagel、1941~)氏というデンマーク生 まれの認知システム工学者がいます。氏はその分野では有名な方で、わが国の原子力業界や医療界で も指導されています。ある時に、氏から論文の草稿について意見を求められたことがあります。 論文というのは、トラックなどの大型車両が車体上部を橋梁などの障害物に衝突させるという事故に 関するものでした。残念ながら、論文は脳の潜在意識の情報処理にまで踏み込んだものではな く、「形状認識」についても言及されていませんでした。論文を真っ向から批判することは氏に 失礼と思い、特にコメントすることは控えました。海外でも「形状認識」に関する自動車事故が頻発 していて、氏も原因や対策を研究されていたようです。

図.5 エリック・ホルナゲル氏 

 

 Q: 「形状認識の喪失」について、何か有効な対策があるのですか?

 

A: あります。それがトップダウン思考による弊社の「ヒューファク訓練」です。「ヒューファク訓練」の有効性は、高 齢者の認知テストでも実証できます。認知テストの攻略法については YouTube などでも提案されていま すが、弊社の「ヒューファク訓練」はヒューマンファクター理論にもとづくより効果的なものです。75 歳以上の弊 社代表も、数日前に認知テストを受験してきました。制限時間 3 分のところ 1 分ほどで 16 枚の絵を すべて思い出すことができました。「ヒューファク訓練」は、パイロットの CRM 訓練でもまったく同じ手法を 提案します。

 

Q: 「形状認識」と似た「形態認識」という用語があるようですが、どういうことですか?

 

A: 英語では、「Configuration Awareness」といいます。例えば、パイロットが着陸時に降着装置(Landing Gear)が出ていないことやロックされていないことを認識できずに、そのまま着陸して起きる航空機 事故があります。原因は「形態認識の喪失」です。「形状認識の喪失」とは多少異なり、「脳の短期 記憶の限界」に関係しています。脳の短期記憶は、疲労にも関係しています。

 

Q: 「形態認識の喪失」が原因の、典型的な事故はありますか?

 

A: かつて、羽田空港の駐機場で ANA のタラップ車がタラップを上げたまま JAL のジャンボ機(JA8118)の下 を通過しようとしてジャンボ機の尾翼部分を大破させた事故があります。タラップ車の運転手がタラップ を上げていたことを認識できなかったという「形態認識の喪失」が原因です。この事故で、高価な ジャンボ機がスクラップ処理されてしまいました。この事例からも、空港における作業者にもヒューマンファクタ ー教育や CRM 訓練が必要であることがわかると思います。

 

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HuFac Solutions, Inc.

 事故検証の続報を放映

2024-02-13

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 先月 14 日に、Youtube ポリタス TV で「羽田空港における JAL 機と海保機の衝突事故」の検証の番 組を放映していただきました。番組の続報を期待される方が少なくなく、近々第 2 報が放映され ることになっています。第 2 報では、「関西空港におけるハワイアン航空機の滑走路誤進入の重大インシ デント」と「羽田空港における衝突事故」の類似性に焦点を当てて、「過去の重大インシデントを正し く調査できていれば今般の事故を防げたかも知れない」ことを強調します。視聴者の方々が知り たいと思われている話題についても、より掘り下げてお話します。番組の MC 兼ライターの方がうま く構成してくださっていますので、期待していただきたいと思います。収録はきたる 2 月 21 日 に予定されていて、その後の早い時期に放映される予定です。今回も、ポリタス TV のご好意でしば らくは無料で視聴できるようです。読者の方々には前もってご案内させていただきます。関心の ある方は Youtube で「ポリタス TV 弊社代表の氏名」を入力して検索してください。周囲に関心が ある方がいらっしゃれば、お知らせいただくようお願いいたします。

 

図.1 ポリタス TV

 

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HuFac Solutions, Inc.

 対策検討委が発表

2024-02-03

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2024 年 2 月 2 日、羽田空港における JAL516 便と海保機の衝突事故に対応するために政府が設置 した航空機運航や管制の専門家らによる対策検討委員会が、検討している再発防止策を発表しま した。事故の原因はまだ特定されていないとのことです。現時点では少なくとも 4 つの案が検討 されているそうです。1 つ目は、米国の企業が研究中の「SURF-A」と呼ばれる最先端システム「誤進 入防止装置」の導入です。衝突の危険性がある場合に滑走路上のパイロットに視覚と音声による警告 をして衝突を防ぐシステムで、実用化に向けて研究が進められています。他にも、誤解が生じない管 制用語の検討、着陸する航空機側が滑走路への誤進入を知覚するシステムの導入、アラームを出すことで 管制官が誤進入に気付く仕組み作りなどが挙げられています。 一方、これらの案には導入によ る弊害もあり、委員会は慎重に検討を行って夏ごろに中間取りまとめを行う方針とのことです。 

図.1 政府の対策検討委員会

 

Q: 対策検討委員会の発表をどう思いますか?

 

A: まず、事故原因がまだ特定されてい状況で対策まで発表するのは時期尚早との感を拭えません。 国民の関心が大きい問題が起きると専門家による諮問委員会を召集するのは政府の常套手段とい えます。厳しい言い方かも知れませんが、「やっている振り」の極みといわざるを得ません。多 くの場合、諮問委員会の委員は召集されるだけで、対策の原案は当局によりあらかじめ作成され ます。対策検討委員会の検討がこの程度に留まるというのは予測できていました。重要な政策を 形式的に諮問委員会に決めさせるというやり方は、わが国のほとんどの省庁が民主主義を装うた めに採用しています。欧米先進国では、重要な航空安全の政策がこのようなやり方で検討される ことはありません。わが国が真の先進国に脱皮するには、そろそろ見直されるべきです。

 

Q: 「検討がこの程度に留まる」というのは、具体的にどういうことですか?

 

A: Runway Incursion の防止には、ヒューマンファクターの分析が不可欠です。ですが、対策検討委員会の委員 や当局である航空局のスタッフにはヒューマンファクターの専門家がいません。ヒューマンファクターの知識に乏しい技術 者は、ヒューマンエラーの適切な防止策を知らないために技術で防止できると安易に考えてしまいます。 「SURF-A」のような警報システムを新たに導入する際には、「警報システムのヒューマンファクター(Human Factors in Warning System)」といわれるヒューマンファクターの難しい専門知識が必要になります。対 策検討委員会の委員や航空局のスタッフにはこの知識がなく、安易に導入を検討しているようです。

 

Q: 検討項目の1つ目にある「SURF-A」とは、どのような技術なのですか?

 

A: 空港の輻輳化による Runway Incursion の増加を契機にエアバスと米国のハネウェル社が開発している 「滑走路上衝突防止システム(Runway Incursion Avoiding System)」です。正式には「Surface Alert」といいます。多くの航空機が現在の位置や高度、速度などを知らせるために発信してい る ADS-B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast)という電波を利用しています。パイロッ トの前の計器表示と音声で警告するシステムです。2024 年に市場に投入されるといわれています。 「SURF-A」は、図.2 のように検討項目の1つ目と3つ目の両方の機能をもっています。

 

図.2 着陸時の「SURF-A」

 

Q: 「SURF-A」には、どのような弊害が考えられるのですか? 

 

A: ①ADS-B を発信している航空機に対しては機能するが、ADS-B の装置がない航空機や車両など他 の障害物に対しては機能しない、②パイロットや管制官に自動化システムへの過剰依存(Complacency) をさせてしまう、③突発的に警告することで、パイロットを狼狽させてしまう、④パイロットが故障によ る誤作動にうまく対応できず、思わぬ事故を起因する可能性がある、などが考えられます。

 

Q: 車両が滑走路に侵入するという Runway Incursion は実際に起きているのですか?

 

A: 空港の作業差が滑走路に侵入するインシデントはわが国でも頻繁に起きています。滑走路の灯火設備 の点検車が滑走路にいることを管制官が気づかず、着陸した航空機が車両の寸前で着陸復行 (Touch & Go)して辛うじて難を逃れたという重大インシデントもわが国で起きています。

 

Q: エアバスはなぜ、「SURF-A」の開発に熱心なのでしょうか?

 

A: 弊社の推測ですが、エアバスの設計理念に関連していると思われます。エアバス機は「技術中心の設計 概念(Technology-centered Design Concept)」で設計されているために、他にくらべてRunway Incursionの可能性が高いとエアバスが考えているようです。エアバス機がRunway Incursionの可能性 が高い理由については、後述のHUD(Head-up Display)の説明でお話します。エアバスは、Runway Incursionの防止策についても「技術中心の設計概念」で臨みたいようです。ハネウェル社は、エアバス が望むシステムの製造技術を開発しているに過ぎません。世界の航空会社が「SURF-A」の導入を望 んでいるとは限りません。飛行制御コンピュータの換装など、莫大な費用が見込まれるからです。

 

Q: 検討項目の2つ目にある「誤解が生じない管制用語の検討」をどう思いますか?

 

A: 誤解が生じない管制用語は、すでに ICAO や FAA、IATA などの国際機関で検討されて規定されて います。わが国の航空界がヒューマンファクターの知識がないために国際機関の動向を注視できなかっただ けです。事故時の管制官の指示は、海保機のパイロットに「離陸を許可された」と誤解されても致し 方ない表現でした。管制記録を詳細にヒューマンファクター分析すれば、それがわかります。

 

Q: 検討項目の4つ目にある「アラームを出すことで管制官が誤進入に気付く仕組み作り」をどう思いま すか?

 

A: このシステムはすでに羽田空港の管制室に試験導入されていました。事故時に活用されなかったこと は明らかにされています。平常時に潜在意識で情報処理している管制官の脳は、技術システムが出力 する警告表示のようなデジタル情報には反応しにくいからです。警告表示だけでなく音声で警告す るようにしても、基本的にはあまり変わりません。管制官に効果的に気づかせるためには、技術 システムの追加ではなく、パイロットと連携した CRM 訓練の導入しかありません。このことが、対策検討 委員会のメンバーには理解できないようです。

 

Q: 話は飛びますが、JAL516 便のエアバス A350-900 の操縦室の窓には HUD(Head-up Display)が装備 されていて、パイロットが滑走路をみにくかったと解説するパイロット出身者がいますが、この解説をど う思いますか?

 

A: パイロット出身者によるこの発言が、まさに「わが国のパイロットがヒューマンンファクターを理解できていない」 という事実の証左といえます。エアバス A350 のような「技術中心の設計概念」の航空機では、着陸 時にパイロットの目と意識が計器類に集中してヘッドダウン(Head Down)になる傾向があります。パイロッ トがヘッドダウンになることで起きる Runway Incursion が多いことから、ヒューマンファクターの専門家がヘッド ダウンを防ぐための HUD の開発を進言しました。HUD は、パイロットが滑走路の障害物を監視するため に目の焦点を遠方に置いていても、パネルに表示された速度や高度をモニターできるように設計されて います。「HUD に遮られて前方の滑走路が見えない」という発言は、HUD の目的や導入背景を知ら ない人物による言語道断の発言といわざるを得ません。本格的な CRM 訓練では、HUD の目的や正 しい使い方が実際に則して体得できます。パイロット出身者の発言は、わが国で本格的な CRM 訓練が 実践されていないという証左ともいえます。 

 

図.3 エアバス A350 の HUD 

 

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HuFac Solutions, Inc.

 ハワイアン航空機が滑走路に侵入

2024-01-28

 

Q: どのようなインシデントですか?

 

A: さる 2011 年 10 月 12 日 21 時 37 分ごろ、関西空港(KIX)の A 滑走路(06R)からホノルルに向けて 離陸しようとしていたハワイアン航空 HA450 便(ボーイング 767-300)が、滑走路に侵入(誤進入)して しまいました。折から、ANA NH8519 便(貨物便、ボーイング 767-300)が着陸許可を得て同滑走路 に着陸しようとしていました。管制官が HA450 便の滑走路侵入に気づいて NH8519 便に進入復行 (Go-around)を指示したため、辛うじて衝突事故を避けることができました。 

 

図.1 ハワイアン航空の 767-300 と関西空港の滑走路

 

Q: 運輸安全委員会(JTSB)がこのインシデントを調査したのですか?

 

A: 直後に、JTSB が重大インシデントに認定して調査を開始しました。2014 年 6 月 27 日に、調査報告書 を公表しています。報告書によると、ハワイアン航空の機長はじめコクピットの 3 名が管制官の「Hold position (待機せよ)」と指示を「Position and hold (滑走路上で待機せよ)」と聞きまちがえ たことが滑走路侵入の原因と結論しています。ハワイアン航空のコクピットの 3 名ともが同じ解釈をして いました。報告書は、「Position And hold」は米国など一部の国のみで使用された過去の用語 であり、日本では使用されないことをハワイアン航空の運航乗務員が十分に認識していなかったとし ています。

 

Q: 調査報告書の結論を受けて、どのような対策がとられたのですか?

 

A: ハワイアン航空に対して、乗務していた 3 名の運航乗務員に国際飛行方式に関する滑走路安全、標準 管制用語、管制方式、管制通信、CRM 訓練について再教育訓練を実施すること、他の国際線の運 航乗務員にも ICAO 用語の使用、コミュニケーション方法を指導すること、国際線飛行方式のコースを開設し て教育を行うことを勧告しています。航空局(JCAB)は、2012 年 5 月 3 日付の AIP(航空路誌)で管制承認、管制指示、管制許可に対するパイロットの復唱要領を記載し、待機指示は「Holding」、 「Holding short of」などの用語を省略せずに使用するよう明記しました。

 

Q: JTSB による調査報告書をどう思いますか?

 

A: このインシデントのような Runway Incursion の原因を究明するには、ヒューマンファクター分析が不可欠です。 ですが、この調査報告書では適切なヒューマンファクター分析がされていません。従って、正しい原因の究 究と適切な対策の勧告がされていないといわざるを得ません。適切なヒューマンファクター分析が行なわれ ないのは、調査をリードする JTSB の委員にヒューマンファクターの専門家がいないからだと思われます。

 

Q: 適切なヒューマンファクター分析を行なえばどうなるのですか?

 

A: 報告書は管制官の「Hold position (待機せよ)」という指示を HA450 便の機長が「Position And hold (滑走路上で待機せよ)」と聞きまちがえたとしていますが、違うと思います。2010 年以前 の米国では、「滑走路上で待機せよ」という意味の管制指示は「Taxi Into Position and Hold (TIPH)」でした。これが、2010 年の NTSB による勧告で ICAO が推奨する「Line Up And Wait (LUAW) 」に統一されました。ハワイアン航空は、かつて飛行中に胴体上部が離脱して客室乗務員 1 名が空中に放り出されるという事故を経験した後に、世界でも屈指の「安全を重視する航空会 社」に脱皮しています。もちろん、CRM 訓練や AQP も充実しているはずです。ハワイアン航空のパイロット は、NTSB の勧告と管制用語の統一を知っていたと供述しています。むしろ、わが国の管制官が 「Line Up And Wait」に統一されたことを知らずに「Taxi Into Position And Hold」に近い 「Position and hold」を使っているとハワイアン航空のパイロットが潜在意識で思ってしまったと考える のが妥当です。因みに、管制官が離陸直前に「Position and hold」と指示したのは適切ではあ りません。この指示は、「誘導路の途中でその場に留まれ」という意味で使われます。

 

Q: ハワイアン航空のパイロットは、管制官の指示に抗議しなかったのですか?

 

A: もちろん、抗議しています。下記に抗議のやり取りを含む管制交信記録と飛行記録の一部を抜粋 します。「タワー」は関西空港の地上管制で、「A機」はHA450便です。

 

 

21時36分53秒  タワーはA機に、私は「hold position(待機せよ)」と指示したはずなのに、あなた は滑走路に入ってしまっ

         たと伝えた。

    同37分01秒     A機はタワーに、あなたは「Position and hold(滑走路に入って待機せよ)」と言 ったと答えた。

    同37分04秒     これに対してタワーは、「taxi into position and hold(滑走路に入って待機せ - 3 - よ)」という意味ではな

                              く、私が言ったのは「hold position(待機せよ)」で あると伝えた。

    同37分12秒     A機は、「Position and holding(滑走路に入って待機する)」と復唱したはず だと答えた。

    同37分18秒     A機は、「And hold on the runway(そして滑走路上で待機した)」と付け加え た。

    同37分53秒     タワーは再びA機に、「Hold position that means to continue to hold short of runway(滑走路手前で待機を

                              続けよという意味で待機せよ)」と私は言ったはず だが、理解できなかったかと尋ねた。

    同38分08秒    A機はタワーに、我々全員は「Position and hold on the runway(滑走路に入り待 機せよ)」と聞いたと答え

                             た。

 

Q: ハワイアン航空のパイロットが管制官の指示を離陸許可ととってしまった要因は、他にもありますか?

 

A: あります。管制官は、HA450便がまだ誘導路を走行している早い時期に「Hold short of runway 06R(滑走路06Rの手前で待機せよ)」と指示しています。その後にまた、同じ意味で「Hold position (待機せよ)」という用語を使ってしまいました。ハワイアン航空のパイロットが後の指示を前の 指示とは異なるものと潜在意識で解釈したとしても、何ら不思議ではありません。ヒューマンファクターの 観点からいえば、同じ意味を2種類の用語で表現するのはエラーの大きな要因となります。JTSBは この点に注目すべきでしたが、調査報告書では何ら言及されていません。

 

Q: これまでのお話を聞いていると、ハワイアン航空のパイロットは特に悪くはないのではないですか?

 

A: そういうことになります。繰り返しますが、JTSB の委員に本物のヒューマンファクターの専門家がいれば、 調査報告書の結論のようにはならなかったと思われます。通常、事故やインシデントの調査報告書は 草稿(Draft)の段階で相手国の航空当局や航空会社に開示されます。米国の FAA や NTSB、ハワイアン 航空がなぜ了承してしまったのか、理解に苦しみます。管制に抗議していたハワイアン航空のパイロット も、調査報告書の結論に不満をもっているのではないかと思われます。

 

Q: この重大インシデントの原因は「管制官のエラー」で済まされますか?

 

A: 再発防止を重視するのであれば、それで済ますべきではありません。管制官のエラーの背景には、 わが国の航空界が重要な Runway Incursion の問題に真剣に取り組んでこなかったという「組織 のエラー」があります。「組織のエラー」を解消するには、JTSB や JCAB、航空会社のリーダーに適切なヒューマンファクターの教育と訓練を受けさせることから始めなければなりません。このことは、ICAO や FAA も推奨しています。

 

Q: JTSB がこの重大インシデントをヒューマンファクター分析できなかったということは、羽田空港における JAL516 便と海保機の衝突事故の調査にも影響すると思われますか?

 

A: 大いに影響があります。この事故は、5 名の尊い命と高額な機材が失われた事故です。幸運にも 緊急脱出できた乗客にも恐怖によるトラウマが残されています。是が非でも、事故の再発を許すべき ではありません。許すようでは、わが国の航空輸送システムが崩壊してしまいます。事故の再発防止 のためには、適切なヒューマンファクターの知識をもつヒューマンファクターの専門家による分析が不可欠です。JTSB には、このことを念頭に置いて再発防止に資する正しい原因分析と効果的な対策の勧告に努めて いただきたいと望みます。

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 YouTube 番組の反響

2024-01-23

 

Q: 本年 1 月 14 日の Youtube「ポリタス TV」の番組について、どんな反響があったのですか?

 

A: 番組では、弊社代表は羽田空港の滑走路における衝突事故についてあえて直接的かつ断定的な発 言をさせていただきました。ヒューマンファクターを理解できない既存の航空専門家や航空評論家、パイロット や管制官の経験者による問題を矮小化した発言を許していては、航空安全管理をミスリードする恐れ があると考えたからです。そのため、Youtube 番組の視聴者の中には反感をもつ人達がいても致 し方ないと考えていました。ですが、Youtube では数は多くはないものの質の高い好評価のコメント が投稿されています。ネットでは、弊社代表とほぼ同じ内容の発言を AI の仮想パイロットにさせている 組織もあります。SNS の X(旧ツイッター)でも、「番組を国交省の全員に視聴させるよう国交大臣に 進言した」とツイーットして下さっている方がおられます。手前味噌かも知れませんが、弊社代表の 発言は次第に社会に受け入れられているようです。そんな中、番組の視聴者のお 1 人からわざわ ざ弊社にメールが寄せられました。弊社代表の発言に大いに賛同できるという有難い内容です。こ の方は横浜市のある町内会の役員もされていて、町内会の皆さまに番組を紹介して下さったそう です。視聴者から寄せられたメールを、ご本人のご承諾のもとに個人情報を省いてそのまま下記に 紹介させていただきます。

 

 

 はじめてメールさせて頂きます。1 月 2 日の羽田空港衝突事件については、3 日以降にテレビ番組の報 道があまりに酷いので、不信感をもっておりました。ところが、YouTube でたまたま「ポリタス TV」で佐久間様のご説明を伺い、多くのことが腑に落ちるようになりました。町内会の役員に早 速このサイトをお知らせして、確認下さるようお願いいたしました。どうもありがとうございま す。初心者でもわかる、ヒューマンファクター関連の本を探して勉強しようと考えてます。佐久間様が JAL にご在職中に書かれたヒューマンファクター ガイドブックは国立国会図書館にしかないようで古本でも探して みたい気分です。これからも、お体に気をつけて頑張ってください。このサイトは多くの方の手掛 かりになるものと思っています。(小生 72 歳で町内会役員は皆このような年齢のものばかりです が、これから来る南海トラフのような災害に対しても防災を怠らぬよう、考えて行くつもりです) ありがとうございました、大変感謝しております。

 

 町内会役員の皆さまへ

 町内会役員の○○○です。下記の事故に関して個人的な疑問を述べたので、興味のある方だけお 読みください。1 月 2 日の羽田空港衝突事件については、3 日からの事故に関するテレビ番組での 説明を聞いて、腑に落ちないことばかりでした。感じたのは以下の事柄です。

 

 ① テレ ビ局を利用した、国土交通省と日本航空の責任回避に満ちた言い訳のように聞こえる。

 ② 何故、海保機は C 滑走路に侵入してしまったのか? 管制塔の指示は的確だったのか?

 ③ 管制塔は海保機の侵入をなぜ発見出来なかったのか? (テレビで言っていた、元管制官の発言 は公平な判断であるか?)  ④ JAL 機は進入時に C 滑走路に障害物(海保機)があることを発見出来なかったのか?

 ⑤ JAL 機は危険回避(進入復行・着陸復行)がなぜ出来なかったのか?(テレビで言っていた、航空 機の元機長の発言は

  公平な判断であるか?)

 ⑥ 様々な安全装置の器材(ハード・ソフト)が機能していないのはなぜか?

 ⑦ 羽田空港は安全な空港といえるのか?経済的優先度による危険性が増長されていたのか?

 ⑧ 航空機事故おける意図的な犯罪可能性のないと思われる事案で、何故すぐに犯人探しを行う のか? その体質とは?

 

 上記に関して、ズバッと判断できるようなサイト(You・Tube ポリタス TV)を発見して、かなり腑に 落ちるようになりましたので、ご参考にしてください。

 https://www.youtube.com/watch?v=qZrQhhEFijU

 発言者は日本航空で 30 年以上、航空機の安全利用におけるヒューマンエラーをなくすためにヒューマンファクター の研究をされて来た方です。そのヒューマンファクターの研究成果がまだ日本の航空機関では応用されてい ないことが原因のようです。この研究は、全ての災害における防災科学でも応用される極めて重 要なものであると思いましたのでこれから勉強したいと考えてます。

以上

 

Q: 視聴者の方からこのような好評をいただけたのはなぜだと思いますか?

 

A: 弊社代表は、JAL 在籍時からこれまで何回もの講演を通じて、航空界や他の産業界、医療界、教育 界などでヒューマンファクターの概念を紹介してきました。ですが、これほど具体的なご好評をいただいた のは恐らく初めてです。その理由は、①ポリタス TV のスタッフの番組企画能力が優れていたこと、②今 般の事故に危機感をもった弊社代表があえて歯に衣着せぬ直接的かつ断定的な発言をしたこと、 ではないかと思っています。わが国の国民は優秀です。リスクを包み隠さず開示して解決策を具体的 に提示すれば、多くの方々に理解していただけると自信を深めました。その反面、自身に不利益に なると警戒感をもつ人がいることも否定できません。このような人にも、ヒューマンファクターの実践によ る事故の再発防止が万人に利益をもたらすことを理解していただければと思っています。

 

Q: ①についてもう少し詳しく話していただけませんか?

 

A: 番組の聡明な女性MCは、あらかじめ弊社の安全情報に目を通してヒューマンファクターの概念や分析手法を 理解して下っていました。そのため、起承転結がわかりやすい番組を構成していただけました。

 老体に鞭打って出演した弊社代表は、女性MCのリードのおかげで思うように発言することができま した。音声やカメラワークを担当するスタッフの方々も優秀でした。将来のヒューマンファクターの普及を若い方々に 委ねることができると実感しました。

 

Q: ②の「今般の事故に危機感をもった」理由について詳しく話していただけませんか?

 

A: 番組でも発言しましたが、この事故は「予測されていた事故」といえます。その理由は、Runway Incursionがパイロットと管制官の合同CRM訓練でしか防止できないにもかかわらず、わが国の航空界 では本格的なCRM訓練が実施されていないからです。運航現場のパイロットや管制官のエラーの背景に は、わが国の航空界が本格的なCRM訓練を導入していないという「組織のエラー」があります。これ までのように運航現場の要員のエラーに注目するだけでは問題は解決しません。

 

Q: このまま「組織のエラー」を放置していると、何が予測されるのですか? A: Runway Incursionによる大事故は、1977年のテネリフェ空港におけるPAAとKLMのボーイング747どうしの 衝突事故があります。やはり、パイロットと管制官のコミュニケーション・エラーで起きました。この事故を契機 に、世界の航空界はヒューマンファクターを研究して本格的なCRM訓練を開発しました。ですが、わが国の 航空界は難解なヒューマンファクターの研究を避けて本格的なCRM訓練を開発していません。「組織のエラー」 を放置していたわが国の航空界では、今般の事故が起きることは予測されていました。このまま 「組織のエラー」を放置していれば、さらなる大事故もわが国の航空界で起こり得ます。その一例 が、番組でも述べた「東京上空での航空機どうしの衝突事故」です。

 

Q: 羽田への東京上空の進入はすでに行なわれていますが、事故防止についてどのように検討された のですか?

 

A: 羽田への東京上空進入ルートでは、RNP-ARという高度な管制方式を用いた並行進入(Parallel Approach)も計画されています。航空局は学識経験者を集めた審議会で安全を審議しましたが、 「1~2マイルの間隔をとれば問題はない」と結論したようです。ですが、この結論にはヒューマンファクター の知識が活かされていません。

 

Q: 「ヒューマンファクターの知識が活かされていない」とは、どういうことですか?

 

A: ヒューマンファクターの知識を活かせば、「衝突コース症候群(Collision Course Syndrome)」という恐ろしい 錯覚があることに気づくはずです。この錯覚を知っていれば、1~2マイルの間隔は決して十分とは いえないことがわかります。この錯覚と管制官やパイロットのエラーが重なれば、東京上空での航空機 どうしの衝突が起こり得ます。審議会に本物のヒューマンファクターの専門家が参画していないために、こ のような結論になるのだと思います。

 

Q: 羽田空港の国際化を考えれば、C滑走路における離陸と着陸の同時実施や東京上空の並行進入は 断念できないのではないですか?

 

A: 経済界や政界が羽田空港の国際化に期待しているのは事実です。そうであれば、航空界はヒューマンフ ァクターの概念を理解して本格的なCRM訓練を開発するべきです。それしか、わが国の航空輸送の活 路はありません。

 

Q: CRM訓練というのはそれほど革新的な訓練なのですか?

 

A: 運航現場の要員に対するこれまでの訓練は、資格を取得するためと維持するための訓練でした。 学校教育でいえば受験勉強に当たるもので、必ずしも現場でそのまま役に立つとは限りません。 対して、CRM訓練は現場で真に役に立つ訓練です。これまでの訓練はボトムアップ思考の訓練で、CRM 訓練は目的重視のトップダウン思考の訓練といえます。CRM訓練が真に航空安全に役立つ訓練である ことはいうまでもありません。CRM訓練とこれまでの訓練を並立させることはできません。その 意味では、CRM訓練は革新的な訓練といえます。米国はさらに革新的なAQPを実施しています。

 

Q: ヒューマンファクターの概念の理解の手始めとして、視聴者の方はJALの「ヒューマンファクター ガイドブック」に注目 されていますが、現在は入手できないのですか? A: 実は、「ヒューマンファクター ガイドブック」は一般に販売された書籍ではありません。JALの社内配布だけを 目的にした非売品です。国会図書館に勤務されている読者の方のご好意で、一冊だけ国会図書館 に所蔵されています。弊社は、社会のご要望があれば、弊社のヒューファク理論やヒューファク分析手法を追 加した新しいガイドブックを出版することも考えています。

図.1 JALの「ヒューマンファクター ガイドブック」 

 

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 アラスカ航空機で急減圧

2024-01-16

 

Q: どのようなインシデントですか?

 

A: 2024 年 1 月 5 日、米国オレゴン州ポートランドの南を飛んでいたアラスカ航空 AS1282 便(ボーイング 737MAX9) で、非常用のプラグ式客室ドアが離脱して急減圧を引き起こすインシデントが発生しました。同便は高度 12,000 フィートから緊急降下して、ポートランド国際空港に無事に着陸しました。当該機は 2023 年 10 月 15 日にボーイングから引き渡されたばかりて、同年 12 月 8 日に初の有償飛行(Revenue Flight)に 投入されていました。離脱した客室ドアは、本年 1 月 7 日に学校の校庭で教師により発見されまし た。搭乗者は乗客 171 名、乗員 6 名の 177 名で、全員が無事でした。

 

図.1 客室ドアが離脱したアラスカ航空の 737MAX9

 

Q: この種の急減圧で、搭乗者全員が無事だったことをどう評価します?

 

A: 搭乗者全員が無事だったのは奇跡ともいえます。客室ドアが離脱して急減圧が起きると、ドア付近 のシートベルトを締めていない乗客が機外に吸い出される可能性があります。客室乗務員が適切な CRM 訓練を受けていなければ、このような状況で乗客のシートベルト装着や酸素マスクの使用を確認して回ら なければならないと考えてしまいます。ですが、そのような客室乗務員の行動は非常に危険です。 過去に急減圧で確認に回っていた客室乗務員が機外に吸い出されたという事故があります。適切 な CRM 訓練では、そういった事故事例をもとに客室乗務員の臨機応変で冷静沈着な状況判断と行 動を促します。わが国でそこまでの CRM 訓練がされているとは聞いていません。全員が無事だっ たのは、アラスカ航空におけるパイロットと客室乗務員の CRM 訓練の賜物と思っています。

 

Q: 米国の航空当局である FAA はどのように対処しているのですか?

 

A: FAA はこのインシデントを最重要視しています。1 月 6 日に、全世界の 171 機の 737MAX を運航停止にし て客室ドアの緊急点検を命じました。同時に、緊急耐空性指令(EAD: Emergency Airworthiness Directive)を発効する旨を発表しました。EAD の点検には 4~8 時間の作業を要します。

 

Q: 全機の緊急点検では、異常は発見されているのですか?

 

A: ユナイテッド航空の 737MAX など、何機かでプラグ式客室ドアのラチェット(掛け金)のボルトの緩みが発見されています。

 

Q: 「プラグ式客室ドア」というのはどのようなドアなのですか?

 

A: 鉄道車両では引戸が一般的ですが、旅客機の客室ドアは開戸が一般的です。ただし、単純に外側に 向けて開く構造ではありません。気圧が低い高空を飛んでいても快適に過ごせるように、機内は 与圧されています。機内外に圧力差が生じるために、圧力差に耐える客室ドアの構造でなければな りません。ドアを開口部よりも大きく造っていれば、圧力差が生じてもドアが開口部に押しつけら れて、圧力に耐えることができます。ただし、ドアが開口部より大きければ外側に向けて開くこと ができません。そこで、ドアをいったん機内側に少し引っ込めて、斜めにしてから開くようにして います。ドアを支えるとともに開閉時の動きを制御するヒンジ部の構造は、普通の開戸と比べるとか なり凝ったものになっています。737MAX や 787 など最近の航空機のプラグ式客室ドアでは、そこま で凝った構造を避けて、外側に出てから横方向に移動して開くタイプになっています。そのため、単 にドアを閉めただけでは内外の圧力差でドアが外に吸い出されて開いてしまう可能性があります。 それを避けるために、閉めた時にラチェットでしっかり固定するように設計されています。ドアの側に 丸棒が付いていて、そこに機体側からラチェットをかけて固定します。今般のインシデントでは、このラチェット の取り付けボルトが緩んで外れたために起きたものと推測されています。

 

図.2 プラグ式客室ドアの構造

 

Q: わが国の航空会社は 737MAX を運航しているのですか?

 

A: JAL と ANA がオプション予約していましたが、受領はしていません。両社が予約をキャンセルしたかどうか はわかりません。そのためか、わが国のマスコミや航空関係者はこのインシデントにあまり関心をもってい ないようです。ですが、トップダウン思考で考えれば、ラチェットの取り付けボルトが早期に緩む原因によっ ては、わが国がこのインシデントと無関係とはいえなくなる可能性もあります。

 

Q: ラチェットの取り付けボルトが早期に緩む原因はわかっているのですか?

 

A: まだわかっていません。NTSB と FAA、ボーイングが懸命に調査しています。これらの組織がトップダウン 思考で調査しなければ、原因の究明は難しいでしょう。

 

Q: 「これらの組織がトップダウン思考で調査しなければ原因の究明は難しい」と考える理由は何ですか?

 

A: 広い視野と深い洞察力で考えなければ原因がわからないと思われるからです。2018 年から 2019 年 にかけて、インドネシアのライオンエア 610 便とエチオピアのエチオピア航空 302 便で 2 件の 737MAX の墜落事故が相 次いでいます。2019 年 3 月に、FAA は 737MAX の全機、約 370 機を運航停止にしました。紆余曲折 の末に 1 年 8 ヶ月後の 2021 年 11 月に運航停止が解かれましたが、根本的な原因は判明しません でした。弊社は、「ヒューファク安全情報_2021-04-14_737MAX 問題の総括」で詳細をお知らせしています。

図.3 運航停止になった 737MAX

 

Q: 「根本的な原因は判明していない」というのはどういうことですか?

 

A: 737MAX の墜落事故の原因は、機首部分に装備されている AOA(Angle Of Attack)センサーの誤信号で MCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)という自動化失速防止システムが誤作動 したことが原因であることまでは判明しました。パイロットが MCAS の誤作動にうまく対応できません でした。ですが、AOA センサーがなぜ誤信号を出力したのかはわかっていません。弊社はトップダウン思考 で、わが国の企業の「ある新技術」が要因になっていると大胆に推測していました。 

図.4 737MAX の MCAS 

 

Q: わが国の企業の「ある新技術」をなぜ公表できないのですか?

 

A: トップダウン思考では状況証拠しか提示できません。残念ながら、状況証拠だけでは社会を納得させ ることはできません。弊社は、2013年にJALとANAのボーイング787で起きた「リチウムイオン電池の発火事 故」も同じ原因ではないかと推測しています。そのことに気づいたのか、エアバスはその直後に 「ある新技術」のA350への採用を取りやめています。エアバスがその理由を公にすることはないと 思います。

 

Q: プラグ式客室ドアのラチェットの取り付けボルトの緩みは「ある新技術」と関連があるのでしょうか?

 

A: 弊社は関連があると思っています。NTSBやFAA、ボーイングがそれを明らかにできるかどうかわかり ませんが、そう考えなければ「ボルトの早期の緩み」は説明できません。「ある新技術」と737MAX の長期の運航停止の相乗効果かも知れませんが、詳細はわかっていません。

 

Q: ボーイングはこのインシデントにどう対処しているのですか?

 

A: ボーイングのCEOが世界に向けて直ちに謝罪しました。このインシデントは単に「ボーイングの品質管理の問 題」では説明できないと思っています。ボーイングはすでに何か気づいているのかも知れません。

 

Q: 羽田空港で衝突事故を起こしたA350やわが国の新技術を採用した737MAXが世界の航空輸送の主力 機になりつつありますが、そういった潜在的リスクにどう対応すればよいのですか?

 

A: 高度な効率を求める先進技術には潜在的リスクが付き物です。人類は、そのようなリスクを知ったうえ で先進技術にうまく対応する必要があります。そのための知識と手法を提示できるのは、トップダ ウン思考のリスクマネージメントであるヒーマンファクター(Human Factors)しかありません。実践的なヒーマンファクターの 訓練がCRM訓練です。

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 ヒューマンファクターを考慮する

2024-01-08

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 国際航空法ともいえる ICAO Annex のすべての章の冒頭に「ヒューマンファウターを考慮すること」という 内容の規定が追加されています。ですが、わが国の航空界ではその意味がまったくといっていい ほど理解されていません。弊社は JAL516 便と海保機の滑走路上衝突事故(Runway Incursion) についていくつかの安全情報を発信しましたが、読者の方々から「誘導路の停止位置の表示や灯 火装置はなかったのか?」とか「Runway Incursion を監視するシステムを活用できなかったのか?」 といったコメントが多数寄せられています。マスコミに登場しているパイロットの経験者も、「これからは人 間ではなく技術でヒューマンエラーを防がなければならない」などとコメントしています。このコメントは、ヒューマ ンファクターの観点からいえば不適切ではあり、航空安全管理をミスリードするものです。今回は、そうい える理由についてわかりやすく解説してみたいと思います。なお、弊社代表は「ポリタス TV」とい う Youtube のテレビ局からこの事故について取材されています。放映はきたる 1 月 13 日(土)あ たりに予定されています。優秀なスタッフが、弊社の安全情報をもとに資料をまとめて下さっていま す。弊社代表と聡明な女性 MC との対談形式で、Runway Incursion の原因と対策について語り合 う予定です。但し、「海保機のパイロットがなぜ管制官の指示を誤解して滑走路に侵入したのか?」 という事故原因の核心部分については、あえて解説しない予定です。関係者の責任追及に直接つ ながる恐れがあるからです。 

 

図.1 ICAO Annex 1~19 

 

Q: これまで ICAO Annex は 1~18 と聞いていましたが、図.1 を見ると 1~19 なのですか?

 

A: 最近、安全管理(Safety Management)の章が追加されたようです。これまで ICAO の安全哲学が 掲載されていた事故調査マニュアルが ICAO Annex の章に昇格したのではないかと思います。

 

Q: 羽田空港の誘導路(C5)には、停止位置の表示や灯火装置はないのですか?

 

A: 誘導路の停止位置は、実線と点線の組み合わせて表示されます。点線から実線への方向の進入は 無条件に許され、逆の方向の進入は管制官の指示に従うべきという表示です。C5 の停止位置には 灯火装置もありますが、事故当時は点灯されていませんでした。点灯されていないことは 年 12 月 25 日付けの「STOP-BAR-LGT FOR C1 THRU C14-U/S」という NOTAM(Notice to Airman) で周知されていました。海保機のパイロットも飛行前のブリーフィングでディスパッチャーから NOTAM を知らさ れていたはずですが、NOTAM を知っていれば事故を防げたとは必ずしもいえません。

 

Q: C 滑走路 34R には Runway Incursion を監視するシステムは設置されていないのですか?

 

A: メーカーや型式は不明ですが、設置されていたようです。航空機が不用意に滑走路に侵入すれば、管 制室のディスプレーで航空機が赤色で表示されます。警報音はありません。事故当時にも表示されて いたようですが、管制官は気づきませんでした。因みに、欧米の多くの空港では Indra 社の NOVA 9000 RIMCAS という Runway Incursion 防止システムが設置されています。

図.2 NOVA 9000 RIMCAS

 

Q: 誘導路の停止位置の表示や灯火装置、Runway Incursion を監視するシステムといった技術は必ずしも 事故防止に役立たないとおっしゃりたいのだと思いますが、なぜなのですか?

 

A: その理由をわかりやすく説明できるのは、弊社の「ヒューファク理論」しかありません。世界で最新か つ唯一のトップダウン思考のエラー理論であると自負しています。理論の肝は、脳の潜在意識 (Subconscious Mind)の領域にまで踏み込んでいる点です。パイロットなどプロといわれる運航現場 の要員は、情報を潜在意識で楽に処理できるように訓練を重ねています。潜在意識は短期記憶 (Working Memory)を使わないために、人工的なデジタル情報をうまく処理できません。技術システム が発する情報は、自然なアナログ情報ではなく、すべて人工的なデジタル情報です。誘導路の停止位 置の表示や灯火装置、Runway Incursion を監視するシステムといった技術が提供する情報は、残念な がら往々にして潜在意識で働くパイロットに無視されてしまいます。事故防止に役立たないのは当然 といえます。ですから、Runway Incursion の防止には管制官とパイロットのコミュニケーションが重要といえ るのです。管制官とパイロットのコミュニケーションを強化できるのは CRM 訓練しかありません。

 

Q: パイロットが潜在意識でデジタル情報を処理できないという例が他にもあるのですか?

 

A: 他にも多数あります。その1例が、パイロットが航空機が地面に接近した際の「Pull up!(操縦棹を 引いて機首を上げろ!)」という GPWS の警報を無視してしまうことです。GPWS の警報音は男性の 合成音ですが、パイロットの潜在意識には人工的なデジタル音としか聞こえず、無視してしまいます。合成音を男性ではなく女性の声にすればよいという意見もありますが、実現はされていません。

図.3 GPWS の警報

 

Q: 結局のところ、ヒューマンエラーの防止は「技術中心の概念(Technology-centered Concept)」ではな く「人間中心の概念(Human-centered Concept)」によらねばならないということですか?

 

A: その通りです。ですが、技術者にはなかなか理解できないようです。「人間中心の概念」はヒューマ ンファクターの核となる重要な概念です。他の重要な概念には、ヒューマンファクターはイディオロギーや宗教、性 別、年齢、階層などに関連しない人類にとって普遍的な考えということがあります。

 

Q: 最後に、テレビなどで JAL516 便のパイロットは滑走路にいる海保機を視認できないと解説するパイロット 出身の航空評論家がいますが、どう思いますか?

 

A: 率直にいって、航空安全管理をミスリードする由々しき発言だと思います。パイロットは、滑走路上の障 害物が見えるようになるまで凝視し続けなければなりません。(着陸)決定高度(DH; Decision Height、ほぼ 200 フィート)より高ければ、進入復行(Go-around)を決断する必要があります。DH 以下であっても、着陸復行(Touch & Go)すれば衝突を回避できる可能性があります。海保機を 視認できないという解説は、なぜかパイロットの言い訳にも聞こえます。

 

Q: 進入復行や着陸復行の実施は、現実にはパイロットにとって過酷な選択ではないのですか?

 

A: 実機では危険なため、訓練はできないでしょう。ですが、最近の航空機はオートパイロットで進入復行 や着陸復行をできるように設計されています。パイロットは TOGA(Takeoff & Go-around)スイッチを押 す決断をするだけでよいのです。JAL516 便のパイロットがなぜ TOGA スイッチを押す決断ができなかった のか、弊社はエアバス機の「技術中心の自動化」が関連しているものと考えています。本来の GRM 訓練では、シミュレータを使って進入復行や着陸復行を訓練することになっています。わが国の航空会 社が GRM 訓練で進入復行や着陸復行を訓練しているとは聞いていません。 

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 管制記録を公表

2024-01-06

 

Q: JAL516 便と海保機の衝突事故の管制記録が公表されたのですか?

 

A: そうです。2024 年 1 月 3 日、国土交通省が事故直前の管制塔(東京タワー)と日航機(JAL516)、 海保機(JA722A)、他の航空機との交信記録(実際は英語)を公表しました。他の航空機とは、 出発機2番目の DAL276、出発機 3 番目の JAL179、到着機2番目の JAL166 です。交信記録は下記 の通りです。

 

 

17:43:02 JAL516 :東京タワー、JAL516 スポット 18 番です。

                 東京タワー:JAL516、東京タワー こんばんは。滑走路 34R に進入を継続してください。風 320 度 7 ノット。出発機があ

                                   り ます。

17:43:12 JAL516 :JAL516 滑走路 34R に進入を継続します。

17:43:26 DAL276 :東京タワー、DAL276 誘導路上 C にいます。停止位置に向かっています。

                 東京タワー:DAL276、東京タワー こんばんは。滑走路停止位置 C1 へ走行してください。

                 DAL276 :滑走路停止位置 C1 DAL276。

17:44:56 東京タワー:JAL516 滑走路 34R 着陸支障なし。風 310 度 8 ノット。

17:45:01 JAL516 :滑走路 34R 着陸支障なし JAL516。

17:45:11 JA722A :タワー、JA722A C 誘導路上です。

                  東京タワー:JA722A、東京タワー、こんばんは。1 番目。C5 上の滑走路停止位置まで地上走 行してください。 17:45:19 JA722A :滑走路停止位置 C5 に向かいます。1 番目 。ありがとう。

17:45:40  JAL179 :東京タワー、JAL179 滑走路停止位置 C1 へ走行しています。

                  東京タワー:JAL179、東京タワー 3 番目。滑走路停止位置 C1 へ走行してください。

                  JAL179 :滑走路停止位置 C1 へ走行、離陸準備完了。

17:45:56   JAL166 :東京タワー、JAL166 スポット 21 番です。

                   東京タワー:JAL166、東京タワー こんばんは。2 番目、滑走路 34R 進入を継続してくださ い。風 320 度 8 ノット。出発 

                                     機あり。160 ノットに減速してください。

17:46:06   JAL166 :減速 160 ノット、滑走路 34R 進入を継続。こんばんは。

17:47:23    東京タワー:JAL166、最低進入速度に減速してください。

                   JAL166 :JAL166。

17:47:27 (3 秒無言)

図.1 JAL516 便と海保機の衝突事故 

 

Q: 交信記録を読んで、どう思いますか?

 

A: 率直にいって、愕然としました。国交省の当初の発表では「管制官は海保機に離陸許可を出して いない」ということでしたが、17:45:11の「JA722A、東京タワー、こんばんは。1番目。C5上の滑走 路停止位置まで地上走行してください」という管制官の指示は、海保機のパイロットが「滑走路に入 って離陸許可を待て」と誤解しても致し方ない表現です。海保機のパイロットは何も疑問をもたずに 復唱しました。管制官は、海保機のパイロットが復唱したことで了解したものと思い込んでしまった ようです。思い込んでしまえば管制官はMind Tunnelに陥って、レーダー画面の赤い警告に気づくこ とも、JAL516便のパイロットに着陸復行(Go-around)を指示することもできなくなります。

 

Q: 海保機のパイロットが誤解したのは、マスコミなどで云々されているように、管制官の指示に「1番目」 という言葉が含まれているからですか?

 

A: そうではありません。管制官の指示には、誤解を生むそれ以上の要因があります。

 

Q: 交信記録を読んで愕然としたということは、17:45:11 の管制官の指示が不適切であると直ぐにわ かったからですか?

 

A: そうです。トップダウン思考ができるヒューマンファクターの専門家であれば、直ぐにわかります。JAL516や他 の航空機には交信を傍受していたパイロットがいるはずですが、誰も不適切さに気づいて指摘しませ んでした。これらのパイロットが適切なCRM訓練を受けていれば、指摘することで事故を防げたと思 うと残念でなりません。CRM訓練では、「Advocacy」という「健全な不満や疑問(Healthy Discontent)をもって、勇気をもって躊躇わず改善を主張できる能力」が養成されます。

 

Q: 管制官が自身の指示の不適切さに気づくことができず、周囲のパイロットも指摘できなかったのは、 わが国の管制官やパイロットが適切な CRM 訓練を受けていないということになりますか? 

 

A: そういうことになります。事故に直接関連した管制官やパイロットだけでなく、マスコミに登場して いるパイロットや管制官の経験者も、管制官の指示の不適切さやパイロットたちの行動に誰も疑問を もっていないようです。CRM 訓練は、パイロットや管制官、整備技術者、客室乗務員、ディスパッチャ ーなど運航現場の要員に「トップダウン思考で短時間で問題を解決できる能力」を付与する訓練 です。今般の事故は、わが国の航空界では CRM 訓練の主旨がまったく理解されていないこと を示唆しています。事故に関連した他の航空機には、米国のデルタ航空も含まれています。デ ルタ航空のパイロットは FAA が規定する CRM 訓練やさらに進化した AQP(Advanced Qualification Program)を受けているはずです。管制官の指示の不適切を指摘してくれなかったのは残念 でなりません。FAA の CRM 訓練や AQP にも改善の余地があるのかも知れません。 

 

図.2 FAA の AQP

 

Q: 管制官の指示のどこが不適切なのですか?

 

A: IATA など世界の民間航空界は、この事故に大きな関心をもち始めています。世界の航空のヒューマンフ ァクターの専門家はすでに気づいているはずです。国交省も、気づいていながら責任追及されること を意識して発表できないのだと思います。早晩、いずれかの公的機関により詳細な解説が発表さ れるでしょう。弊社は、このような状況で安易に解説できる立場ではありません。

 

Q: この事故に関連した次の関心は何になりますか?

 

A: 弊社が考えているのは、「JAL516 便のパイロットがなぜ着陸復行を決意できなかったのか」と「羽田 空港の設計に問題がなかったのか」という問題です。空港の設計についても、ICAO Annex ではヒュ ーマンファクターを考慮するよう規定されています。 

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 安全対策の検証

2024-01-04

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2024 年 1 月 2 日に起きた JAL516 便(エアバス A350-900)と海上保安庁の航空機(ボンバルディア DHC8-300MPA)の衝突事故では、事故原因の1つとして海保機のパイロットが JAL516 便が着陸しようと する滑走路 34R に侵入してしまったという実行エラーが問題になっています。このエラーの要因として は、管制官と海保機のパイロットとの交信におけるコミュニケーションエラーが考えられます。コミュニケーションエラーの詳 細がわかる管制音声記録は一部が公表され始めています。わが国では、2010 年に類似の重大インシ デントが起きていて、運輸安全委員会(JTSB)が原因分析するとともに航空局(JCAB)が勧告にも とづいて対策を講じています。今回はこの対策を検証することにより、なぜ類似の事故が再発し てしまったのかを考えてみたいとと思います。

 

図.1 JAL516 便と海保機の衝突事故

 

Q: どのような重大インシデントですか?

 

A: 2010年12月26日、A社所属ボーイング737-400(A機)は福岡空港から金海国際空港(釜山)へ向け離 陸のために滑走路34に向かって地上走行していました。一方、B社のJTSB(B機)は滑走路34への 着陸許可を受けて福岡空港へ進入中でした。B機が最終着陸に入ろうとした時に、A機はなぜか滑 走路34に侵入してしまいました。そのことに気づいた航空管制は、B機に着陸復行(Go-around) を指示しました。そのおかげで、両機は寸前で衝突を回避することができました。A機には機長 ほか乗務員5名、乗客147名の計153名が、B機には機長ほか乗務員4名、乗客103名の計108名が搭 乗していました。両機とも死傷者はなく、航空機の損傷もありませんでした。

 

Q: JTSB は、A 機が誤って滑走路 34 に侵入した原因をどのように分析したのですか?

 

A: 管制官とA機のパイロットの交信記録を調査しました。管制官はA機が滑走路34に侵入する直前にパイロ ットに「Roger, hold short of runway 34 via W8(了解、誘導路W8 経由で滑走路34 の手前で待 機してください)」と指示していました。A機のパイロットは「Runway 34 via W8(誘導路W8 経由で 滑走路34)」と復唱(Read-back)しただけで、そのまま滑走路34に侵入してしまいました。 JTSBは、A機のパイロットが管制官のA: この分析は、JTSB が認定されている管制用語がヒューマンファクターを考慮して慎重に審議された世界共通 の用語であることを知らないという根本的な知識不足を世界に露呈しています。管制用語の言語 は英語と定められており、ICAO など国際航空機関における審議を経なければ変更できません。下 図のように、パイロットは「via W8」と誘導路を指示されりだけで容易に待機する位置をイメージでき ます。A 機のパイロットの誤認を助長させた要因にはなり得ません。JTSB の分析が国際航空機関を納 得させられるとは思いません。 指示の「hold short of」という部分を省いて復唱したことが滑 走路34に侵入してしまったエラーの要因と分析しました。

 

Q: JTSBは、「管制官が指示の中で「on」や「at」など待機すべき特定の地点を明示する用語ではな く走行経路を明示する「via」を使用したことがA 機のパイロットの誤認を助長させた」と分析して いますが、どう思いますが?

 

A: この分析は、JTSB が認定されている管制用語がヒューマンファクターを考慮して慎重に審議された世界共通 の用語であることを知らないという根本的な知識不足を世界に露呈しています。管制用語の言語 は英語と定められており、ICAO など国際航空機関における審議を経なければ変更できません。下 図のように、パイロットは「via W8」と誘導路を指示されりだけで容易に待機する位置をイメージでき ます。A 機のパイロットの誤認を助長させた要因にはなり得ません。JTSB の分析が国際航空機関を納 得させられるとは思いません。

 図.3 LUAW Procedure の説明図

 

Q: JTSB は、分析結果にもとづいてどのように対処したのですか?

 

A: 「滑走路誤進入防止対策検討会議」で審議して、対策の1つとして管制官とパイロット間のコミュニケーショ ンの齟齬を防止するための「管制交信に係るガイダンスマニュアル」を策定することが提言しました。

 

Q: JTSB の提言に対して、JCAB はどのように対応したのですか?

 

A: 「ATC コミュニケーション・ハンドブック」を作成して、滑走路誤進入防止や管制業務全般における管制交信の 指南として役立てるよう、管制官に配布周知しました。、AIP(Aeronautical Information Publication、航空路誌)に管制承認、管制指示または管制許可に対するパイロットの復唱要領を記 載して、待機指示については、「Holding」、「Holding short of」などの適切な用語を省略せ ずに使用して復唱するよう平成 24 年 5 月 3 日に公示しました。これに合わせて、管制方式基準 も改正して、パイロットからの復唱の確認について規定を加えました。特に滑走路手前における待機 指示については、「Holding」、「Holding short」などの用語による復唱が得られない場合、ま たは復唱内容が不明瞭な場合、待機指示の復唱を指示することとして、これに使用する管制用語 を新たに定めました。

 

Q: 総じて、JTSB と JCAB の重大インシデントに対する対応をどう思いますか?

 

A: わが国の文化や国民性では、政府や当局のやり方を批判することは嫌われる傾向にあります。で すか、安全問題ではそうも言っていられません。そのうえであえて JTSB と JCAB の対応を批判するとすれば、JTSB や JCAB などのわが国の航空当局は国際航空法ともいわれる ICAO Annex の主旨 をまったく理解できていないといえます。この重大インシデントはすでに世界の航空界でよく知られ ている安全問題です。わが国の航空当局がことさらに議論する余地はほとんどありません。航空 当局は何よりも世界の民間航空界に目を向けるべきでした。対策はすでに確立されています。

 

Q: 航空当局のどのような点が「ICAO Annex の主旨を理解できていない」といえるのですか?

 

A: ICAO Annex 1~18 のすべての冒頭に「人間の能力と限界を考慮すること(Human performance and limitations should be taken into consideration)」という規定が掲げられています。こ の規定は、航空当局による航空行政にも適用されます。わが国の航空当局はこの規定を理解でき ていないようです。

 

Q: なぜ、そう言えるのですか?

 

A: わが国では、事故や重大インシデントがあれば JTSB が事故原因を調査して、調査結果を学識経験者か らなる審議会で審議して、JCAB がガイドブックなどの出版物や行政通達で安全対策を運航の現場に 周知しています。ですが、パイロットや整備士、管制官などの運航の現場の要員がこれらの安全対策 を記憶して現場で実践できるとは限りません。ICAO や FAA、EASA などの世界の航空当局は、この ようなボトムアップ思考(マニュアル主義)の航空行政を否定して、すでにまったく異なるトップダウン思考 の航空行政を実践しています。

 

図.2 JCAB が推奨する AIP(航空路誌) 

 

Q: 「まったく異なるトップダウン思考の航空行政」 とはどういうものですか?

 

A: それこそが、手段よりも目的を重視するトップダウン思考のリスクマネージメントであるヒューマンファクタ-(Human Factors)です。ICAO や FAA、EASA などは、運航の現場が実践できない法規類やマニュアルではなく、 CRM 訓練などの実践的なヒューマンファクタ-訓練を航空会社に義務づけています。

 

Q: わが国の航空界にもヒューマンファクタ-の専門家がいて、ヒューマンファクタ-が実践されていないのですか?

 

A: 一応、JTSB や JCAB、航空業界にはヒューマンファクタ-の専門家がいることになっています。ですが、問 題は本物のヒューマンファクタ-の専門家かどうかということです。弊社にいわせれば、わが国の航空界に 本物のヒューマンファクタ-の専門家がいるとはいえません。パイロットや整備技術のベテランはいますが、ヒューマン ファクタ-の専門家とはいえません。多くの航空後進国でも人材不足で同じような体制をとっていま す。欧米の航空先進国はこの状況を「うわべだけの規定遵守(Cosmetic Compliance)」と揶揄 しています。わが国の航空界に本物のヒューマンファクタ-の専門家がいて運航の現場に CRM 訓練が徹底さ れていれば、本年 1 月 2 日の衝突事故は防止できたはずです。

 

Q: 本物のヒューマンファクタ-の専門家がいない JTSB の原因分析は、適切ではないのですか?

 

A: そう思います。A 機のパイロットが誤って滑走路 34 に侵入した要因を分析する際に、脳の情報処理に 焦点が当てられていません。

 

Q: 「A 機のパイロットの脳の情報処理」はどうだったと考えられますか?

 

A: 忙しい運航の現場では、ほとんどのパイロットは顕在意識ではなく潜在意識で情報を処理していま す。潜在意識では、脳の短期記憶(Working Memory)がうまく機能しません。短期記憶とは、英 語名のようにあらゆる作業で活用されている記憶です。

 

Q: 短期記憶がうまく機能しないと、どうなるのですか?

 

A: 「Roger, hold short of runway 34 via W8」という長い管制官の指示を短期記憶で記憶できなく なります。短期記憶は、情報の最新の部分、つまり後半の「runway 34 via W8」だけを記憶するこ とになります。A 機のパイロットは、後半の情報だけで「誘導路を通って滑走路 34 に入ってよい」と 判断していまったものと考えられます。

 

Q: そうなると、「A 機のパイロットは長い管制官の指示を復唱すべきであった」とする JTSB の分析とそれ にもとづく勧告は適切ではないことになりますか?

 

A: そういうことになります。 JTSB の委員にヒューマンファクタ-の専門家が参画しているといっても、上記の ようなヒューマンファクタ-分析はできなかったものと思われます。適切ではない分析結果と勧告にもとづ いて立案した安全対策は、根本から見なおされなければなりません。

 

Q: 「CRM 訓練が徹底されていれば、本年 1 月 2 日の衝突事故は防止できた」ということですが、CRM 訓練ではこの問題をどのように教えて、訓練するのですか?

 

A: わが国の航空界で実施されている形だけの CRM 訓練では教えられていません。本物の CRM 訓練で は、先ずパイロットと管制官に「Hold short of Runway XX」という管制指示は唯一の強制力をもつ 指示(Mandate)であることを教えます。管制指示にはいろいろありますが、他の管制指示はす べてパイロットに究極的な拒否権があります。次ぎに、A 機のパイロットが誤認した「Line Up And Wait (滑走路に入って待機せよ)」という管制指示と区別する方策が考えられていることを教えま す。それが、英語の頭文字をとって称されている「LUAW Procedure」です。パイロットや管制官に馴 染みやすい名称で記憶させることにより、「Hold short of Runway XX」と明確に区別させます。 ヒューマンファクターの知識では、背景要因やイメージ図(アナログ情報)とともに知識を記憶させれば有事に現 場で引き出しやすくなるとされています。

 

Q: JAL516 便と海保機の衝突事故では、国交省の管制部門と海上保安庁の言い分が違って混乱してい ますが、どう思いますか?

 

A: 「事故調査の目的は事故の再発防止であって、責任追及であってはなない」という ICAO の安全哲 学を想い起こせば、容易に解決します。管制官は「滑走路に入ることを許可していない」と、海保 機の機長は「離陸を許可された」と主張していますが、どちらの主張が正しいのかを判定すること は意味がありません。双方の認識のどちらにも誤りがある可能性がありますが、それを批判して は真実を知ることはできません。弊社の分析では双方にエラーがありますが、責任追及を避けて冷静 にエラー分析する必要があります。

 

Q: 海保機の機長のエラーは聞きましたが、管制官のエラーとはどういうものですか?

 

 A: CRM 訓練では、「コミュニケーションは相手が認識して納得できたことを確認して初めて成立する」と教えら れます。管制官は、指示を海保機の機長が認識して復唱したことを確認していません。海保機の機 長の復唱を確認しなければ、JAL516 便の着陸を許可すべきではなく、直ちに着陸復行を指示すべ きでした。重大インシデントでは、管制官がそれができて衝突を回避できました。

 

Q: 御社は「JAL516 便のパイロットが海保機を視認して着陸復行すべきであった」と話していましたが、 管制官が着陸復行を指示していないのなら致し方なかったのではないですか?

 

A: そうではありません。前述のように、例外を除いて運航の最終決定権は管制官ではなくパイロットに あります。管制官が着陸を許可していたとしても、パイロットが必要と判断すれば何時でも着陸復行 できますし、そうしなければなりません。

 

Q: 最新のマスコミ情報では「海保機は滑走路に入って 40 秒間待機していた」ことが問題視されています が。どう思いますか?

 

A: わが国の航空評論家はこの事実で「海保機のパイロットが離陸位置を間違えた」などと批評している ようですが、本質とはまったく関係がありません。そもそも、海保機のパイロットは管制官の指示を 「Line Up And Wait(滑走路に入って待機せよ)」と誤認したのです。この指示は「離陸が許可さ れれば直ちに離陸せよ」というもので、繁忙期には頻繁に出されます。海保機のパイロットが離陸許可 を待って滑走路内で 40 秒間待機していたのは、まったく不思議なことではありません。わが国の マスコミがこのようなことを大きく報じるようでは、わが国のマスコミの安全意識のレベルも疑われます。

 

Q: これまでのお話を総合すれば、わが国の航空界の安全対策はかなり遅れているといえますね?

 

A: その通りです。現在の民間航空のシステムは、ハード、ソフトとも高度に発達して複雑です。わが国の航空 界は、残念ながらそれについていけていません。特に、ヒューマンファクターという先進的なトップダウン思考の リスクマネージメントをほとんど理解できていません。弊社は改善に少しでも貢献したいと努力しています が、別のヒューマンファクターの要因でそれができていません。今般の事故を契機に、わが国の航空界が意識 を根本的に変えなければ、わが国の民間航空の信頼を大きく損なうことになります。 

 

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JAL機が海保機に衝突

2024-01-03

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2024 年 1 月 2 日、羽田空港の C 滑走路(34R)に着陸した JAL516 便(エアバス A350-900)が、滑走 路にいた海上保安庁の航空機(ボンバルディア DHC-8-300MPA)に衝突して炎上しました。海保機も大 破して炎上しました。JAL516 便には乗員 12 名と乗客 367 名が搭乗していましたが、全員が緊急 脱出できて無事でした。海保機には機長など 6 名が搭乗していましたが、機長は脱出できたもの の重傷を負い、残り 5 名の死亡が確認されました。海保機は能登半島地震の被災地に救援物資を 届ける任務を負っていました。 

 

図.1 炎上する JAL516 便と海保機

 

Q: この事故はどのようなカテゴリーの航空機事故になるのですか?

 

A: Runway Incursion といわれる航空機事故です。航空機が滑走路に侵入した他の航空機や車両、動 物、人などに衝突する事故です。因みに、航空機が滑走路を逸脱する事故を Runway Excursion といいます。Runway Incursion は、管制官のエラーやパイロットのエラー、あるいはその両方で起きます。 大都市の空港や離着陸数が増えた空港で度々起きています。

 

Q: 具体的にどのようなエラーですか?

 

A: 事故は実行エラー(Permission Error)と不実行エラー(Omission Error)の組み合わせで起きます。 この事故の場合、実行エラーとは海保機が JAL516 便の着陸の際に誤って滑走路に侵入してしまった ことです。これには管制官と海保機のパイロットの間のコミュニケーションエラーが関与しています。詳細は、羽 田空港の管制の音声記録を聞けば明らかになります。不実行エラーとは、JAL516 便が滑走路にいる 海保機を事前に視認して着陸復行(Go-around)できなかったことです。その詳細も、飛行記録 (CVR と DFDR)を解読すれば明らかになるはずです。管制記録や飛行記録が明らかになるまでは 予断を許しません。

 

Q: 管制官とパイロットのコミュニケーションエラーによる Runway Incursion といえば、1977 年にスペイン領カナリア諸島の テネリフェ空港で起きたパンナムと KLM のジャンボ機どうしの衝突事故がありますが、同じなのですか?

 

A: 似てはいますが、かなり違います。テネリフェ空港での衝突事故は、離陸しようとした KLM ジャンボ機 が同じ滑走路を誘導路(Taxiway)として使って反対方向に走行していたパンナムのジャンボ機に衝突 したものです。管制官と両機のパイロットの間のコミュニケーションは、公式の事故調査で詳細にヒューマンファクター 分析されています。

 

Q: 一般的に、Runway Incursion の対策には何があるのですか?

 

A: 原因がヒューマンエラーですから、ヒューマンファクターの対策しかありません。ヒューマンファクターの対策には2種類あり ます。① パイロットや管制官にヒューマンファクター訓練を施すことと、② ハードウェアやソフトウェアにヒューマンファクター設 計の知識を適用することです。どちらも人間のエラーを防ぐ対策です。

 

Q: この事故の場合、①のヒューマンファクター訓練は海保機のパイロットによる実行エラーを防ぐ対策ですか?

 

A: そうです。具体的には、パイロットや管制官に対する CRM(Crew Resource Management)訓練です。テ ネリフェの事故の公式事故調査でも、CRM 訓練の実施が勧告されました。国際航空法ともいわれる ICAO Annex でも、CRM 訓練の実施が義務づけられています。

 

Q: ②は JAL516 便のパイロットによる不実行エラーを防ぐ対策ですか?

 

A: そうです。具体的には、エアバス機の自動化システム設計を「人間中心の自動化」にすることです。エア バス機は、ボーイング機にくらべて「技術中心の自動化」になっています。そのため、パイロットは自動 化により注意散漫(Complacency)に陥って滑走路上の障害物に気づきにくくなります。それだ けでなく、パイロットが障害物に気づいてもゴーアラウンドしにくくなります。

 

Q: エアバス機の「技術中心の自動化」が、なぜパイロットを滑走路上の障害物に気づきにくくさせて、ゴ ーアラウンドしにくくさせるのですか?

 

A: 紙面の都合でここでは詳しく書けませんが、JAL516 便の飛行記録を解読すればわかるはずです。 但し、飛行記録のデータをボトムアップ思考で漠然と見ているだけではわかりません。飛行記録のデータ から操縦室内で起きている光景を洞察できるトップダウン思考の能力が必要になります。

 

Q: わが国では①の対策はできているのですか?

 

A: 弊社は、反論を覚悟で「わが国では本格的な CRM 訓練は実施されていない」と言い続けてきまし た。弊社が知る限り、運輸安全委員会(JTSB)によるこれまでの事故調査でヒューマンファクターや CRM 訓 練という用語が使われたことはありません。この事故の事故調査で、JTSB が本格的な CRM 訓練の 実施を勧告して航空会社が実践することを期待しています。

 

Q: エアバス機の自動化システムは「技術中心の自動化」ということですが、エアバス機を運航する航空会社は どうすればよいのですか?

 

A: 弊社代表は、2006 年に JAL を退社する際に経営トップに「JAL はエアバス機を購入すべきでない」と 進言しました。その理由は、エアバス機の自動化システムが「技術中心の自動化」だからです。です が、年月が経ち経営者も変わると、JAL はエアバス A350 を購入するようになりました。ANA はエアバス A320 の苦い経験でエアバス機を購入しない方針をとっていたようですが、ホノルル便の旅客数を増やす ためにエアバス A380 を購入しました。もはやエアバス機を放棄できなくなった両社は、「技術中心の 自動化」に特化した CRM 訓練を開発して実施するしか方策がありません。

 

Q: 世界で最も多い民間航空機はエアバス機のようですが、海外の航空会社もエアバス機の運航に苦労して いるのですか?

 

A: 必ずしもそうとは限りません。弊社は「日本人の脳はデジタル情報の処理に向いていない」とお話 したことがあります。「技術中心の自動化」のエアバス機をうまく運航するうえでも、デジタル情報 の処理が必要になります。ANA のパイロットが A320 の運航に苦労したのも、日本人の脳の特性と無関 係ではないと懸念してきました。

 

Q: これまでのお話の根拠を示せるのですか?

 

A: 根拠は、この事故の事故調査にヒューマンファクターの概念を導入すれば示せるはずです。残念ながら、現在 の JTSB にそれを期待するのは難しいかも知れません。ですが、この事故はまかり間違えば世界で も前例のない悲惨な死亡事故になっていたかも知れません。この事故がわが国で起きることは、 日本人の脳の特性を考えればある程度予測できました。このように複雑な事故は、これまでのボト ムアップ思考による表層的な分析では真因を解明できません。ここでお話したことはトップダウン思考の 分析ですが、わが国の航空界ではなかなか理解されません。この安全情報を参考にして、わが国の 航空界が高いハードルを越えてくれることを願っています。 

 

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デンソー部品でリコール

2023-12-27

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2023 年 12 月 8 日、自動車メーカーのホンダがデンソー製燃料ポンプを搭載した車両の全数リコール(無償修 理)に踏み切りました。本年 7 月に、デンソー製燃料ポンプを搭載したホンダ N-BOX が鳥取県の鳥取自 動車道のトンネルでエンストして後続車に追突されるという死亡事故が起きていました。ホンダは事故後に 車両の欠陥を認めずに後続車の前方不注意が原因と主張していました。ですが、諸般の事情から リコールに踏み切らざるを得なくなったものです。

 

図.1 鳥取自動車道での N-BOX の事故

 

Q: 「諸般の事情」とはどういうことですか?

 

A: 本年 5 月 26 日に、自動車メーカーのダイハツがムーブなど 18 車種で燃料ポンプの不具合により走行中にエン ストを起こす恐れあるとして、計 14 万 7042 台のリコールを国土交通省に届け出ていました。不具合と は、燃料ポンプにある樹脂製のインペラ(Impeller、羽根車)の成形が不適切なために樹脂密度が低 くなって、燃料により膨潤して変形するというものです。そのため、インペラがポンプケースと接触し て燃料ポンプが不作動となり、走行中にエンストに至る可能性があるというものです。デンソーによれ ば、2020 年 3 月からデンソー製燃料ポンプを採用した各自動車メーカーからリコールの申し出があったそうで す。今ではリコールの対象が約 1600 万台になり、混乱が世界の自動車業界に広がっています。

 

図.2 デンソー製燃料ポンプ 

 

Q: 自動車の燃料ポンプとはどのような役割を担う部品なのですか?

 

A: 自動車の燃料ポンプは、エンジンの燃料気化装置に燃料を送る役割を担っています。燃料タンクから燃料 を吸い上げて、燃料をエンジンのシリンダ内に噴霧する噴射口まで運んでいます。最近の自動車では、環 境問題や燃費の改善のために電子化された燃料噴霧装置(Electronic Fuel Injection)が採用さ れており、燃料ポンプによる安定した燃料の供給が要求されています。

 

Q: デンソーは燃料ポンプの不具合の原因について語っていますが、適切だと思いますか?

 

A: いいえ、そうは思いません。デンソーの説はあくまでも現時点での推測に過ぎません。この問題は デンソーが考えるよりもっと複雑で奥深い問題です。トップダウン思考でなければ解決できません。

 

Q: トップダウン思考でなければ解決できない「複雑で奥深い問題」とはどういうことですか?

 

A: ひと言でいえば、単に自動車の燃料ポンプだけの問題ではなく、ターボ機械(Turbomachinery)全 般の問題ということです。ターボ機械は、産業界や軍事など社会で広範に使われています。

 

Q: 「ターボ機械」とはどういうものですか?

 

A: 空気や液体などの流体を用いて、機械と流体の間でエネルギーを変換する機械を流体機械といい、羽 根車を回転させる形式と、ピストンのように往復運動をさせる形式があります。前者の、回転する 羽根車を介して流体のエネルギーと機械的エネルギーの間で連続的にエネルギー変換を行う形式をターボ機械と いいます。 私たちが日ごろ目にするファン、プロペラ、タービン、ポンプ、水車、風車、ジェットエンジンなど はすべてターボ機械です。

 

Q: 「ターボ機械全般の問題」とはどういうことですか?

 

A: インペラはターボ機械の中核部品です。そのため、インペラの性能向上と最適化はターボ機械の性能を左右 します。インペラに高性能材料と適切な製造工程を適用するとともに流体力学的に最適化することに より、ターボ機械の効率をめざましく向上させることができます。近年では、金属に比べて軽量で成 形しやすいポリマーやポリマー複合材料を用いる技術が注目されています。射出成形や積層造形などの ポリマーやポリマー複合材インペラの製造技術は、金属部品よりも高い経済性を提供することができます。 ですが、ポリマーやポリマー複合材に関する技術は難しく、よいことばかりとは限りません。用途によっ ては深刻な問題を引き起こすことがあり、さらなる慎重な研究開発が必要とされています。

 

Q: 「インペラを流体力学的に最適化する」というのはどういうことですか?

 

A: 2つの技術があります。①インペラの先端と燃料ポンプのケースとの間隙(Tip Clearance)を最小にする 技術と②インペラの断面の翼型特性を失速(Stall)しにくくする技術です。

 

Q: 今般の問題は、①の技術に失敗したために発生したというわけですか?

 

A: デンソーは「インペラの製造時に樹脂密度が低くなって、燃料により膨潤して変形した」として、①の技 術に失敗したかのように述べていますが、そうとは限りません。インペラの先端がケースに接触してエンス トを起こす原因としては②の技術の失敗も考えられます。インペラの先端とケースとの間隙が小さくなる 要因は他にもあります。燃料ポンプの作動時にはインペラに大きな遠心力が働きます。インペラの材質で あるポリマー複合材の引っ張り強度が不足していれば、遠心力に耐えられません。今般の問題を解決するには、高度な材料力学や流体力学など、広い視野と深い洞察力によるトップダウン思考が不可欠 といえます。従来のボトムアップ思考による研究では対処できません。

 

Q: 航空機でも同じような問題を経験しているのですか?

 

A: 航空機のターボ機械としては、ジェットエンジンやターボプロップエンジン、燃料ポンプ、油圧ポンプなどがあり ます。これらのターボ機械のインペラにも、ポリマー複合材や炭素繊維複合材が採用され始めています。 ジェットエンジンのブレードの先端がケースに接触してエンジンが停止する事故は多数経験しています。他に も、ポリマー複合材や炭素繊維複合材の採用による安全問題を多数経験しています。

 

Q: 航空機ではポリマー複合材や炭素繊維複合材の問題をどのように解決しているのですか?

 

A: 紙面の都合で詳細は割愛しますが、故障許容設計(Failure Tolerance Design)というトップダウン 思考の設計概念で解決しています。このような高度な設計概念はボーイングとエアバスにしかできませ ん。FAA の型式証明の取得が2社にしかできないという理由の1つです。まさに人類最高の叡智 といえます。

 

Q: この問題で、わが国の自動車業界はどうすればよいのでしょうか?

 

A: 弊社代表は永年にわたってわが国の自動車技術会の論文校閲委員を務めてきました。これまで、 論文の校閲を通じて何度も「トップダウン思考の問題解決」を提唱しています。米国の自動車技術会 (SAE: Society of Automotive Engineers)も、米国の航空業界とも連携して「トップダウン思考の 問題解決」を目指して研究しています。わが国の自動車業界も、意識を変えて SAE の研究成果を 参照する必要があります。わが国の技術者がトップダウン思考で世界に目を向けることは、まだまだ 難しいようです。わが国の自動車業界にだけ任せるのではなく、政治を含む社会全体の関心が必 要と思われます。そうしなければ、わが国の経済は大打撃を被ることになります。、

 

Q: この問題はレシプロエンジンに特有の問題と思えますが、EV にすればよいのですか?

 

A: 必ずしもそうはいえないと思います。EV にも難問が山積しています。中国はレシプロエンジンを避けて 最初から EV に注力していますが、最近は中国の EV も壁にぶつかっているようです。

 

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中国機が香港に飛来

2023-12-22

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2023 年 12 月 12 日、中国が開発したジェット機 ARJ21 と大型旅客機 C919 が相次いで上海浦東国際空 港を離陸して香港に飛来しました。2 機は香港に 6 日間停泊しました。2 機が香港に飛来したの は今回が最初で、香港国際空港は敬意や歓迎を表す「ウォーターサルート」で迎えました。

 

図.1 香港に飛来した C919 

 

Q: 香港は英国から中国に返還されたはずですが、中国機が自国の領土である香港に飛来したことが ニュースになるのですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば、大きな意味があることがわかります。香港が中国に返還される際に、 英国と中国の間で 50 年間は香港で「一国二制度」を採用するという約束が取り交わされまし た。中国はこの約束を守っていないとの批判もありますが、今般は中国がある目的でこの事実を 都合よく利用したものとみることができます。

 

Q: 「ある目的」とはどういうことですか?

 

A: 背景をお話しなければなりません。中国が開発した ARJ21 と C919 は、米国と欧州の航空当局で ある FAA と EASA の型式証明(TC: Type Certificate)を取得できていません。FAA と EASA は TC の付与で協定していて、FAA の TC を取得できなければ EASA の TC も取得できません。ある国が開 発した民間航空機を他国に飛ばすには、その国の航空当局の承認を得なければなりません。ほと んどの国の航空当局は、FAA と EASA の TC を取得できていない民間航空機の乗り入れを承認しま せん。そのため、中国の ARJ21 と C919 は中国以外の国に乗り入れることができない状況になっ ています。中国は、国家の威信から ARJ21 と C919 を他国に飛ばしたいと切望しています。今般 の香港への飛来は、「一国二制度」である香港を都合よく他国と見なして、他国への乗り入れの 実績をアピールしたつもりのようです。

 

Q: 中国の要人が外国に行く際に利用する政府専用機は国産機なのですか

 

A: いいえ、中国の政府専用機は米国製のボーイング 747-400 です。次期政府専用機としてもボーイング 747-8 が決定されていて、現在ドイツで改造されています。中国の政府専用機が米国製であること は、中国の威信を少なからず傷つけているものと思われます。

図.2 中国の政府専用機

 

Q: 今や世界第二位の経済および軍事大国となった中国は航空技術の分野でも進んでいると思います が、中国の民間航空機が FAA の TC を取得できないのはなぜですか?

 

A: 民間航空機を外形的に製造できるだけの航空技術では FAA の TC を取得できません。FAA の TC を 取得するには、人類最高の叡智ともいえる高度な航空技術が必要になります。世界でそれができ るのは、現在のところ米国のボーイングと欧州のエアバスに限られています。ボーイングとエアバスの機種が 世界の民間航空界を席巻しているといえます。

 

Q: 「高度な航空技術」というのは、具体的にどういうものですか?

 

A: 国際航空法ともいえるシカゴ条約付属書(ICAO Annex 1~18)の規定をすべて満足させられる航空 技術です。FAA の TC を取得する際に基準となるのが米国連邦航空規則(FAR: Federal Aviation Regulations)です。もちろん、ICAO Annex に則って制定されています。

 

Q: ICAO Annex とは、どういうものですか?

 

A: 1~18 の章で構成されていて、航空機の耐空性(Airworthiness)の要件をすべて網羅していま す。わが国では耐空性を乗員や乗客の安全を担保する要件と狭い意味で考える人が多いようです が、航空機の事故で被害をうけるのは乗員や乗客だけではありません。航空機が人口過密都市に 墜落すれば、地上で多くの人々が被害をうけます。航空機が原子力施設や軍事施設に墜落すれば 大変なことになります。ICAO Annex は、地上における被害や環境汚染などを含む広い意味で耐空 性を定義しています。FAA が米国や同盟国に乗り入れる可能性のある機種の耐空性を厳しくチェック しているのはそのためです。米国の議会や世論は、「耐空性がない航空機を米国や同盟国に乗り 入れさせることは、他国からのミサイル攻撃を許すことに等しい」と極めて厳しい目で見ています。

 

Q: ICAO Annex は、どのような原則で制定されているのですか?

 

A: いわゆる「4P の原則(4Ps Principle)」に則っています。4P の原則とは、物ごとを Philosophy (哲学)→ Policy(方針)→ Procedure(手順)→ Practice(実践)の優先順で考えるべきと いうものです。ICAO Annex は、航空機の耐空性を実現するうえで最も優先すべきものとして「安 全哲学(Safety Philosophy)」を挙げています。

 

Q: ICAO Annex が最優先する安全哲学とはどういうものですか?

 

A: ICAO Annex の付属文書である「ICAO 事故防止マニュアル(APM: Accident Prevention Manual)」に 明記されています。例えば事故調査については、ヒューマンファクター(Human Factors)の概念に基づいて「事故調査の目的は関係者の責任追及であってはならず、再発防止のための事故の真因の解明 でなければならない」と規定しています。

 

Q: 事故調査が関係者の責任追及を目的にすれば、なぜ事故の真因の解明ができないのですか?

 

A: 人間の脳には防衛本能が備わっています。事故の結果が重大であるほど、関係者は責任を回避す るために真実を隠そうとします。真実を知ることができなければ事故の真因を解明できません

 

Q: ICAO 事故防止マニュアルは、事故の真因を解明して効果的な再発防止策を立てるには何をすべきと書 かれているのですか?

 

A: 個人や組織、社会のすべてがヒューマンファクターの概念を理解して実践すべきと書かれています。そのた めに、ヒューマンファクターの概念を理解して実践できる有能な人材を育成して組織や社会のリーダーに任命 すべきと書かれています。

 

Q: 「ヒューマンファクターの概念を理解して実践する」という表現は抽象的ですが、ICAO Annex は具体的にど のように規定しているのですか? A: ICAO Annex 1~18 のすべての章の冒頭で「人間の能力と限界を考慮すべき(Human performance and limitations should be taken into consideration)」と規定しています。ヒューマンファクターの概 念については、ICAO はいくつかの解説書を発刊しています。弊社代表は、JAL 在籍時に「ヒューマンフ ァクター ガイドブック」を著して、わが国の航空界にヒューマンファクターの概念を普及させました。

図.3 JAL の「ヒューマンファクター ガイドブック」

 

Q: ヒューマンファクターの概念を理解しなければ FAA の TC を取得できないようですが、中国の航空技術者はヒ ューマンファクターの概念を理解できていないのでしょうか?

 

A: 弊社はこれまで、そのことに関心をもってきました。最近になって、「中国の航空技術者はヒューマ ンファクターの概念を理解できていないのではないか」と疑う出来事に遭遇しました。その出来事とい うのが中国山西省におけるビル火災です。

 

Q: どのようなビル火災ですか?

 

A: 2023 年 11 月 16 日朝、中国山西省呂梁市にある炭鉱会社の 4 階建てのビルで火災が発生して、こ れまでに少なくとも 26 人の死亡が確認されています。折りしも、米国サンフランシスコで世界の各国主脳が集う会合に出席していた中国の習近平国家主席は、この事故を重視して本国政府に緊急対応 を指示しました。指示の骨子は、①事故の真因を究明する、②事故の責任を明確にする、③事故 の責任者を厳正に処罰する、というものでした。わが国のマスコミは詳細には伝えていませんが、海 外のマスコミは世界に向けて大々的に発信しました。

 

図.4 中国山西省のビル火災 

 

Q: この出来事から、「中国の航空技術者はヒューマンファクターの概念を理解できていない」と読み取れるので すか?

 

A: 読み取れます。中国における習近平氏の権威は絶対的なものです。中国の航空技術者がヒューマンファク ターの概念を理解できているなら、習近平氏に「このようなニュースが世界に発信されれば、中国の安 全哲学が疑問視されて中国の民間航空機が FAA の TC を取得できなくなる」と勇気をもって進言 できるはずです。それができないとすれば、中国の航空技術者はまだヒューマンファクターの概念を理解で きていないということになります。

 

Q: 中国の航空技術者がヒューマンファクターの概念を理解できるようになれば、中国の民間航空機は FAA の TC を取得できるのですか?

 

A: 前述のように、合理的な安全哲学をもつことは ICAO Annex の 4P の原則の序章であり、FAA の TC 取得の必要条件に過ぎません。FAA の TC を取得するには、4P の原則の他の項目も満足させなけ ればなりません。中国にとってはまだハードルが高いかも知れません。

 

Q: 中国はともかく、わが国はどうなのでしょうか?

 

A: わが国の刑法には、今でも業務上過失致死傷罪という条文があります。この条文は、プロといわれ る自然人(現場の労働者)がエラーで事故を起こせば相応の罰に処せられるというものです。法人に は適用されません。明らかに ICAO の安全哲学とは相容れません。かつて外務省が ICAO Annex の 安全哲学を批准する際に、わが国の刑法との乖離に悩んだと聞いています。なぜなら、航空機のパ イロットや整備士を業務上過失致死傷罪の適用から除外しなければならなくなるからです。関係当局 間で議論した結果、現在は航空法に「ICAO Annex の規定に準拠する」という内容の文章だけが追 加されています。わが国の航空関係者がその真意を理解できているかどうかは疑問です。 

 

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テスラEVにリコール

2023-12-15

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2023 年 12 月 13 日、米電気自動車大手テスラが米国内で 200 万台超のリコール(無償修理)を届け出ま した。高度運転支援システム「オートパイロット」について当局が安全面の懸念を指摘したことを受けたも ので、誤使用防止機能を追加するとしました。リコール台数はテスラにとって過去最多で、米国内のテスラ 車のほぼ全てが対象になります。米道路交通安全局(NHTSA)は、テスラ車が停車中の緊急車両に衝 突する事故など 10 数件の事故が発生したとして、2021 年にオートパイロットの調査を開始していまし た。調査では、オートパイロット作動中に運転者が注意を払って運転しているのかに焦点が当てられま した。テスラはリコール届け出の中で、オートパイロットの機能が誤使用を防ぐのに不十分なために衝突のリスク を高めている可能性があると説明しました。カールソン NHTSA 局長代理は 13 日に米下院で開かれた公 聴会で、テスラ車の運転者はオートパイロット作動中に常に注意を払っていないことが調査で判明したと述 べて、同社がリコールに同意したことを報告しました。

 

図.1 テスラ EV オートパイロットの計器表示

 

Q: 報道だけでは事情がよくわかりませんが、どういうことですか?

 

A: テスラ EV のオートパイロットには、自動ハンドル操作(Auto Steer)と自動速度調整(Auto Speed Control)、自動制動(Auto Brake)といった機能があります。道路を走行する際に、運転者が 操作しなくてもレーンに沿って自動走行できるようになっています。テスラ EV のオートパイロットは自律システム (Autonomous System)ではありませんので、運転者が常時オートパイロットを監視していなければなり ません。ですが、人間である運転者が常時監視を続けることは不可能です。監視を怠ってオートパイ ロットの故障を見逃すとか、誤ってオートパイロットの操作に介入してしまうことがあります。そうなれ ば、EV はレーンを逸脱して他車や障害物、歩行者などと衝突して、深刻な事故を引き起こすことが あります。事故を防ぐには、オートパイロットに運転者の行動を監視してエラーを是正する機能(Safe Guard)を備える必要があります。ですが、テスラ EV のオートパイロットにはセイフガードがありませんでし た。テスラはリコールに応えて、オートパイロットのコンピュータのソフトにセイフガードを付加することを提案しました。 リコールの処置ではシステムの改修は必要なく、コンピュータのプログラムをアップデートするだけで済みます。

 

Q: テスラが提案したリコールの処置をどう思いますか?

 

A: 率直にいって「甘い」といわざるを得ません。なぜなら、自動車業界は航空機業界にくらべてヒュ ーマンファクターに関する認識が低いからです。オートパイロットにセイフガードを付加しても事故がなくならないことは、ヒューマンファクターの見識でいえば常識といえます。弊社はこれまで、一貫して自動車の自動運 転の可能性を否定してきました。その理由は、ヒューマンファクターを専門にする弊社が自動車の自動運転 でこのような事故が起きることを十分に予測できたからです。対策は自動車の運転者に対するヒュ ーマンファクター訓練しかありませんが、それが現実的に不可能なことも見通していました。

 

Q: このような事故を見通せるヒューマンファクターの見識とはどういうものですか?

 

A: それがトップダウン思考です。トップダウン思考とは、広い視野と深い洞察力で物事を見通すことです。 トップダウン思考で視野を広げれば、航空機のオートパイロットでもすでに同じような問題を経験している ことがすぐにわかります。航空機の分野では、よく知られたヒューマンファクターの問題です。

 

Q: 「よく知られたヒューマンファクターの問題」とは、どういうことですか?

 

A: わかりやすく言えば、人間は注意されても素直に従うような単純な存在ではないということで す。オートパイロットのセイフガードが運転者のエラーを発見して警告(Alert)しても、運転者が素直に受け 入れて対応できるとは限りません。むしろ、警告に従わないケースの方が多いでしょう。それどこ ろか、警告に逆らって逆の行動をとるとか、警報を切ってしまうこともあります。パイロットがコンピ ュータによる警告に従わないことで起きた深刻な航空機事故は数多くあります。

 

Q: 具体的に、どのような航空機事故があるのですか?

 

A: よく知られているのは、パイロットが対地接近警報システム(GPWS)の警報を無視して航空機を山や 地面に衝突させてしまう事故です。他にも、パイロットが衝突防止システム(TCAS)の指示に逆らっ て他の航空機に衝突させてしまう事故もあります。鉄道の分野でも、運転手が ATS(Auto Train Stop)の警報を無視して自動停止を解除してしまうインシデントが起きています。

 

図.2 対地接近警報システム(GPWS)

 

Q: 人間はなぜ、コンピュータによる警告に従わないのでしょうか?

 

A: それは人間の脳の特性に関連しています。人間の脳には、潜在意識(動物脳)と顕在意識(人間 脳)があります。人間の眼や耳が特定の周波数の光や音波しか認識できないように、顕在意識は 特定の量の情報しか処理できません。わかりやすく言えば、情報量が多すぎても(忙しい)、少 なすぎても(暇すぎる)顕在意識は情報を処理できず、潜在意識で処理することになります。古 い脳(動物脳)による潜在意識は、自然な情報であるアナログ情報しか処理できません。人工的な 情報であるデジタル情報を処理するには、新しい脳(人間脳)による顕在意識が必要になります。 パイロットが高度を下げて着陸態勢に入る際には、処理すべき情報量が最高レベルに達します。自動車 の運転者がオートパイロットで走行する際には、逆に情報量が少なくなります。つまりこのような状況では、パイロットや運転者はいずれも潜在意識で行動することになります。パイロットや運転者が人工的 なデジタル情報であるコンピュータの警報に正しく反応できないのは当然といえましょう。

 

図.3 潜在意識と顕在意識

 

Q: この説明は誰でも納得できると思われますが、航空界では一般的なのですか?

 

A: そうではありません。弊社独自の理論です。これまで、ヒューファク理論と称して企業秘密にしてきま した。ですが、「自動車の自動運転の可能性はない」ということを社会に納得していただくには 企業秘密などと狭い了見でいるべきではないと考えるようになりました。ヒューファク理論は間違いな く世界最新のヒューマンファクター理論といえます。ヒューファク理論を活用すれば、多くの難しいヒューマンファクターの 問題を解決できます。

 

Q: 航空界は、この種のヒューマンファクターの問題にどのように対処しているのですか?

 

A: ICAO や FAA といった国際的な航空当局が、航空会社にパイロットのヒューマンファクター訓練を義務づけていま す。具体的なパイロットのヒューマンファクター訓練が CRM(Crew Resource Management)訓練です。残念なが ら、CRM 訓練の必要性を裏づけるヒューファク理論のようなヒューマンファクター理論はまだ世界に普及されてい ません。残念ながら、わが国の航空界はまだ形骸的な CRM 訓練に甘んじています。

 

Q: 自動車の自動運転のヒューマンファクターの問題を解決するには、自動車の運転者にも CRM 訓練を義務づけ る必要があるということですか?

 

A: そういうことになります。ですが、CRM 訓練の実施には多大なエネルギーを要します。パイロットに義務 づけることはできても、自動車の運転者に義務づけるのは現実的にほとんど不可能といえます。

 

Q: 本当に安全を重視するのであれば、自動車の自動運転は断念すべきということですか?

 

A: その通りです。自動運転に AI を導入しても解決する問題ではありません。それができるなら、 航空界はとっくに航空機に AI を導入しています。このように明言しているのは、現在のところ 世界でも弊社だけかも知れません。世界の自動車業界がそのことに気づくまでに、何年の年月と 何人の犠牲者を要するというのでしょうか。テスラ EV のリコールというような「付け焼刃の対策」で解 決する問題ではないことを理解していただきたいと思います。 

 

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ChatGPTの理解不足

2023-12-12

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 先日、ChatGPT などの AI を企業化しようとするベンチャー企業が東京永田町の参議院会館で説明会を 開催しました。弊社にも案内があり、弊社代表が参加させていただきました。他の参加者の話し では、ベンチャー企業は企業化への投資を募る目的で説明会を開催したそうです。説明会では、ベンチ ャー企業の代表が ChatGPT の将来性について説明した後で質疑応答が行なわれました。参加者の多 くは、企業代表の説明で ChatGPT の将来性について納得したようです。弊社代表は ChatGPT の将 来性に疑問をもっていましたが、その場の雰囲気を乱さないために質問を差し控えていました。 ですが、「ここで何も言わなければ、社会の長期的な崩壊を放置することになる」との思いが 徐々に高まりました。質疑応答の終わり近くまで迷っていましたが、一念発起して最後に簡潔な 質問をすることにしました。簡潔な質問とは、「世界の何人かの著名な知識人が「ChatGPT は人類 を滅ぼす」と警告しているが、その理由は何だと思いますか?」というものでした。ベンチャー企業 の代表は理由を考えたこともないようで、応えに窮していました。その時、女性の司会者が助け 舟を出して「その警告は知っているが、走り出した列車に乗らないわけにはいかない」と苦しげ に応えました。わが国の政府も、同じような考えで ChatGPT の活用に前のめりになっているのだ と思います。わが国の AI 技術研究者は、国産のスーパーコンピュータ「富岳」を使って ChatGPT と同じ ような AI を開発しようとしています。ですが、これまでのところうまくいっていません。この ような状況はすべて、わが国の社会がまだ ChatGPT の本質を理解できていないからだと思われま す。ここでは、ChatGPT の理解不足を少しでも解消していただくために、トップダウン思考でヒューマンファ クターの観点からわかりやすく解説させていただきたいと思います。ChatGPT の本質を知れば、 「ChatGPT は人類を滅ぼす」という警告の意味も理解できて、ChatGPT の将来性に関する考えが 一変するはずです。 

 

図.1 ChatGPT のスクリーンショット 

 

Q: ChatGPT の本質とはどういうものですか?

 

A: ChatGPT の本質を知るには、コンピュータや AI とはどういうものかを考える必要があります。コンピュータ や AI は「電脳」とか「人工知能」などと訳されていますが、人間の脳とは「似て非なるもの」 です。多くの人達は、AI が人間の脳に近づいていると誤解しています。中には、AI がすでに人 間の脳を超越していると思い込んでいる人もいます。

 

Q: なぜ、コンピュータや AI は人間の脳とは「似て非なるもの」といえるのですか?

 

A: 主な理由は2つあります。①人間の脳は情報をアナログ処理するのに対して、コンピュータや AI はデジタル 処理しかできない、②人間の脳はプログラムがなくても情報を処理できるのに、コンピュータや AI はプロ グラムががなければ処理できない、です。そもそも、人間の脳の情報処理のメカニズムは現在でも完全に は解明できていません。コンピュータや AI は、まだ解明できていない人間の脳の情報処理を模倣しよ うとしています。両者が互いに「似て非なるもの」なのは当然といえます。

 

Q: コンピュータや AI が模擬できない人間の脳の情報処理とはどういうものですか?

 

A: 人間の脳の情報処理を説明するには、人間の脳の進化についてお話する必要があります。人間の 脳は、永い年代を経て大脳新皮質などの新しい脳(人間脳)が脳幹などの古い脳(動物脳)を覆 うように進化してきました。 

 

図.2 人間の脳の進化

 

Q: 人間脳とはどういうものですか?

 

A: 人間脳のうち、低位のレベルの情報処理がボトムアップ思考であり、高位のレベルの情報処理がトップダウン 思考です。ボトムアップ思考は、コンピュータや AI がプログラムがなければ機能しないように、参考にでき  る前例やルールがなければ情報を処理できません。対してトップダウン思考は、前例やルールによらず情報 を創造的に処理することができます。このような創造行動を可能にしているのが最新の人間脳で ある前頭葉(Frontal Lobe)です。脳に「生き甲斐を感じて生きる」という「人間らしさ」を付 与しています。

 

Q: コンピュータや AI は脳のボトムアップ思考しか模擬できないということですか?

 

A: その通りです。プログラムがなければ情報を処理できないコンピュータや AI は、未来永劫に前頭葉によ るトップダウン思考を模擬することはできません。コンピュータや AI は、人間の脳のように情報をアナログ 処理することもできません。

 

Q: 「情報をアナログ処理できない」というのはどういうことですか?

 

A: コンピュータや AI は、情報を 0 か 1 のピクセルに細分化してデジタル処理します。ピクセルが細かければ情報 が滑らかになって現実に近づきますが、大まかであれば現実に近づくことができません。情報を アナログ処理できずにデジタル処理した世界を「仮想現実(VR: Virtual Reality)」といいます。情 報をアナログ処理できていない仮想現実では、人間の脳は違和感だけでなく負担さえ感じます。

 

Q: 人間の脳が仮想現実で違和感をもつという身近な例がありますか?

 

A: デジタル社会では数多くあります。例えば、CD や DVD といったデジタル・メディアによる音楽に違和感を もつようになって、従来のアナログ・メディアの LP(Long Play)レコードに帰還する人々が増えていま す。また、Zoom などのオンライン会合も、参加者にある種の違和感を感じさせるようです。最近ではリ アル会合を好む人達が増えています。

 

Q: ChatGPT が情報をアナログ処理できないということが「ChatGPT は人類を滅ぼす」という主な理由 とはいえないのではないですか?

 

A: その通りです。「ChatGPT は人類を滅ぼす」の語源(英語)は「ChatGPT will destroy humanity」です。わが国の知識人はここでもちょっとした誤訳をしています。Humanity は人類と も訳せますが、ここでは人間性と訳すべきです。つまり、「ChatGPT は人間性を損なわせる」と いうわけです。ここでいう人間性とは、図.2 に示されている前頭葉による創造行動であり、「生 き甲斐を感じて生きる」ということです。前頭葉による創造行動には、情報の真偽性や論理性、 倫理性などを判断するという高度な情報処理も含まれます。ChatGPT を使っていれば前頭葉によ る創造行動ができなくなることが、「ChatGPT は人間性を損なわせる」最大の理由といえます。 そうなれば、人間社会が崩壊してしまうことは想像に難くありません。

 

Q: ChatGPT が前頭葉による創造行動を阻害する理由をうかがう前に、ChatGPT による情報処理の原 理を説明していただけませんか?

 

A: 実は、ChatGPT のメーカーである Open AI 社は ChatGPT の原理を公表していません。ChatGPT は、す でに原理が公表されている GPT-3 や Instruct GPT などの大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の一種でとも、Chatbot(対話型ロボット)やインターネット検索エンジン、言語翻訳ソフトなど身近な AI の発展型とも考えられます。ここでは、大規模言語モデルの一種と考えてみます。AI は情報をデジ タル処理しかできませんので、言語や文章を細分化して 0 と 1 の並びのデジタル情報に変換します。 これをエンコード(Encode)いい、半導体などの素子が使われます。変換されたデジタル情報を数次元 のベクトルとか行列として数理統計解析します。解析では、前後や周辺の言語や文章との整合性 (文脈)や最適な並びの蓋然性などが計算されます。計算で得られた結果をアナログ情報に戻すこ とがデコード(Decode)です。この処理は、言語や文章だけでなく音楽や画像などにも広く応用す ることができます。GPT は Generative Pre-trained Transformer の略で、学習機能を含む本格的 な生成 AI であることを意味します。生成 AI とは、人間脳の高位のレベルの情報処理である前頭葉 の創造行動を模擬しようとする AI です。ですが、前述のように AI は人間の脳とは「似て非なる もの」であることから、生成 AI が文筆家や芸術家、音楽家などの創造能力を本当に模擬できて いるとはいえません。

 

Q: なぜ、ChatGPT は前頭葉による創造行動を阻害するのですか?

 

A: その説明は難しくありません。人間の身体や脳は、訓練や教育といった努力によらなければ成長 しません。成長しても、活用しなければ次第に退化していきます。例えば、ワープロを利用するよ うになれば手書きの文章が書けなくなります。生成 AI は前頭葉による創造行動を模擬できてい るとはいえませんが、人間が生成 AI を利用するようになれば前頭葉を使わなくなります。そう なれば、人間はこれまで脳の進化に貢献してきた前頭葉の機能を鈍らせることになります。

 

Q: 前頭葉の機能が鈍れば、人間社会にどのような弊害を及ぼすのですか?

 

A: 訓練や教育で成熟した人間は、前頭葉の機能で情報の真偽性や論理性、倫理性などを判断できる ようになります。ですが、ChatGPT などの生成 AI を利用するようになれば、前頭葉の機能が低下 して情報の真偽性や論理性、倫理性などを判断できなくなります。いい換えれば、社会にボトムアッ プ思考しかできない人間が氾濫して、トップダウン思考による健全な政治や経済、司法などの社会活 動ができなくなります。因みに、ChatGPT には情報の真偽性や論理性、倫理性などを判断できる 機能はありません。

 

Q: 現実にそのような弊害が懸念される具体例がありますか?

 

A: わかりやすい例で説明しましょう。ChatGPT の出現に際して、国会審議での野党質問書の回答作 成に利用できると期待する官僚経験者がいます。わが国では、優秀な官僚が野党から前日に提出 された国会答弁質問書の回答を徹夜で作成しています。官僚経験者は、ChatGPT を利用できれば 官僚が徹夜しなくともよくなると期待しています。野党議員も、質問書の作成に ChatGPT を利用 するかも知れません。そうなれば、国権の最高機関である国会での与野党の議論が茶番劇になる ことは必至です。国家や国民のための政策が論じられることは期待できなくなります。裁判官 も、判例の調査や判決文の作成に ChatGPT を利用するようになるかも知れません。ChatGPT の台 頭で懸念される社会的弊害は、他にも枚挙に暇がありません。。

 

Q: ChatGPT の国産化はうまくいっていないそうですが、なぜだと思いますか?

 

A: 理由はいくつか考えられます。わが国の AI 研究者が、①ChatGPT はスーパーコンピュータのような高性能 コンピュータでなければ機能しないと誤解している、②ChatGPT が日本語処理する際にデータとしてインター ネットの日本語情報を利用していると誤解している、③ChatGPT の学習機能を理解できていない、な どです。ChatGPT のメーカーである Open AI 社は ChatGPT の原理を公表していませんので、想像力に 欠けるわが国の AI 研究者が国産化に苦慮するのはむしろ当然といえます。

 

Q: 最近、Open AI 社の CEO が解任されて Microsoft 社に移り、わずか 5 日で Open AI 社に復帰したと いう報道がありますが、どういうことだと思いますか?

 

A: Microsoft 社の創業者であるビル・ゲイツ氏は、「ChatGPT は人間性を損なわせる」と警告する知識人 の1人です。Open AI 社の CEO も同じ警告をしています。ですが、Microsoft 社の現役の経営者は ChatGPT など生成 AI の開発に積極的で、すでに莫大な額の投資をしています。一方、Open AI 社 の取締役の多くは ChatGPT など生成 AI の将来に懐疑的であるそうです。そのような状況で、Open AI 社の CEO と他の取締役の間で生成 AI の将来をめぐる激論が交わされたと思われます。Open AI 社の CEO に何らかの逡巡があったことは明らかですが、詳しくは伝えられていません。ともかく も、Microsoft 社がすでに莫大な額の投資をしているという現実の下で、関係者が妥協案に落ち着 いたということのようです。妥協案が正解であるかどうかは、遠くない将来にわかるはずです。 

 

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MH370 便事故の裁判開始

2023-12-01

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: マレーシア航空 MH370 便は旧マレーシア航空所有のボーイング 777 型機で、2014 年 3 月 8 日にマレーシアのクアラルンプー ルから北京に向かう途中で消息を絶ちました。搭乗者 239 人のうち、154 人が中国人乗客でした。 2015 年 1 月 29 日、マレーシア民間航空局は MH370 の墜落で搭乗者 239 人全員が死亡して、事故原因は 不明であると発表しました。この航空運送損害賠償責任訴訟が 27 日、北京市朝陽区人民法院で 開廷し審理が始まりました。乗客約 40 人の家族が訴訟を起こしており、北京の朝陽法院で 27 日 から 12 月 6 日にかけて、それぞれ法廷が開かれて審理が行われます。乗客家族の代理人弁護士 によると、訴訟を起こした 40 人以上の乗客家族の要求はそれぞれ異なるものの、主に審理を通 じて MH370 便の消息不明の真相究明を求めることと、賠償問題の 2 点に集中しているということ です。この訴訟の被告は、マレーシア航空など 5 社です。まず再編前のマレーシア航空、次に再編後の新マレ ーシア航空、さらに航空機の製造元である米ボーイング社、航空機エンジン製造元の英ロールスロイス社、マレーシア 航空に保険を提供した独アリアンツ社です。乗客遺族が提起した民事賠償額は 1000 万~8000 万元(2 億 880 万~16 億 7000 万円)です。賠償額の大部分は精神的損害に対する慰謝料で、高いもので は 3000 万~4000 万元(6 億 2600 万~8 億 3500 万円)となっています。今回、北京朝陽法院に訴 訟を起こした 40 人余りの乗客家族のほか、110 人余りの乗客の家族はいずれも既に被告 5 社と和 解しています。受け取った金額は 250 万~300 万元(5220 万~6260 万円)ということです。 

図.1 訴訟に備える乗客遺族と弁護士

 

Q: MH370 便事故とはどのような事故ですか?

 

A: 2014 年 3 月 8 日、乗客 227 名と乗務員 12 名を乗せたクアラルンプール発北京行きのマレーシア航空 MH370 便 (ボーイング 777-200)が消息を絶ちました。当局や報道などによる事故の経緯を時系列で整理する と次のようになります。(時刻はマレーシア現地時間)

 

00:41 MH370便がFL350(巡航高度35,000フィート)を目指してクアラルンプール国際空港の滑走路32Rを離陸 する。その後の飛行経路はウェイポイントIGARI(注.1)に向けた25°の方向(図.2の赤線)。 

 

01:01 巡航高度35,000フィートに到達。

 

01:07 30分毎に送信されるACARS(注.2)の最後のメッセージを受信。

 

01:19 マレーシア航空管制との最後の交信。機はIGARIに接近しており、副操縦士が「All right, good night」(注.3)と口頭で管制官に挨拶。

 

01:21 IGARIで経路変更した後の北緯6°55′15″東経103°34′43″(図.2の赤丸)でマレーシア航空 管制の2次レーダー(注.4)がトランスポンダー(注.5)からの最後の電波を受信。

 

01:22 トランスポンダーからの電波が途絶えたことを確認。

 

01:30 ベトナム航空管制の求めに応じて他機がMH370便に呼びかけたが、意味不明の音声と無線の雑 音が聞こえるのみであった。

 

01:37 30分毎のACARSのメッセージが届いていないことを確認。

 

02:11 インマルサット-3 F1 人工衛星を経由した最後のACARSメッセージ以後の7回のPing信号(注.6)のう ちの1回目を受信。

 

02:15 マレーシア軍の1次レーダー(注.7)がMH370便をペナン島の北西200マイル(320キロメートル)の位置で最後 に捕捉。

 

06:30 MH370便が所定時刻に到着しないことを北京空港当局が確認。

 

07:24 マレーシア航空がMH370便の消息途絶を正式に報道発表。

 

08:11 インマルサット-3 F1 人工衛星を経由した最後のPing信号を受信。

 

注.1 : この辺りは戦前に日本が統治していた関係から、ウェイポイントに日本語の名称が多く付けら れている。IGARI(猪狩?)もその一つ。

注.2 : 空地デジタル・データリンク・システムとして、必要な運航情報をAIRINCの通信網を介して航空機か ら地上へ、または地上から航空機へ自動的に提供するシステム。出発・到着時刻や出発地・ 目的地、便名、搭載燃料などのデータはデータリンクの無線通信系を介して地上のACARS無線局 に送信される。

注.3 : この種の挨拶は通常でもパイロットと管制官の間でよく交わされる。後にマレーシア航空が関係者 の感情を慮って若干修正じたが、本質には影響しないので当初の発表を表示する。

注.4 : 物体の反射電波を受信して映像化するタイプのレーダーを1次レーダーというのに対して、トランス ポンダーがレーダーからの電波を増幅して中継した電波を映像化するタイプのレーダーをいう。

注.5 : 2次レーダーが発した電波を受信して、航空機のデータを追加するとともに増幅などしてレーダ ーに応答する航空機の通信中継機器。

注.6 : インマルサット社が航空機や船舶の所在を確認するためにインマルサット衛星を通じて定期的に(このケースでは1時間毎)航空機や船舶に送信している電波信号。航空機や船舶からの電波との 照合を行うことから「Handshake(握手)」ともよばれる。 注.7 : 物体の反射電波を直接受信して映像化する一般的なレーダーをいう。

 

図.2 MH370 便の飛行経路

 

Q: 当局は原因不明と結論しましたが、これまでどのような可能性が云々されたのですか?

 

A: これまで原因を特定できるような機体残骸や飛行記録装置(FDR と CVR)が回収されていないこ とから、さまざまな可能性が唱えられました。そのうち主なものは、機材故障説、乗員によるハイ ジャック説、リチウムイオン電池などの搭載物の発火による火災説などです。いずれも確定的な原因とは確 認されていません。フライトレーダー 24 が音信不通の直後のわずかな時間に南方への方向転換を記録し ていることと、軍関係者の情報などから、関係者は MH370 便がインド洋に向かってしばらく飛行を 続けたものと考えてしまったようです。

 

Q: 事故調査にはマレーシアの事故調査当局だけでなく多くの航空技術専門家が関わったと思いますが、 事故原因を特定できなかった最大の理由は何だと思いますか?

 

A: 航空機のシステムは複雑であり、事故原因を特定するのは極めて難しいといえます。そのため、近年 の航空機には飛行記録装置(FDR と CVR)の搭載が義務づけられています。この事故では、残念 ながら広範囲の海中捜索にもかかわらず機体残骸と飛行記録装置を回収できませんでした。ボトム アップ思考の分析しかできなければ、機体残骸や飛行記録装置のような物的証拠がなければ真実を 究明できません。それどころか、情報を誤解してしまう可能性もあります。この事故の調査に関 わった航空技術の専門家がボトムアップ思考の分析しかできなかったことが、事故の真因を特定でき なかった最大の理由ではないかと思っています。

 

Q: 御社はトップダウン思考の分析で事故原因を特定できたのですか?

 

A: 真因と断定できるわけではありませんが、事故発生直後の 2014 年 4 月 11 日にかなり説得力があ ると思える原因を導きだしています。

 

Q: 紙面の都合で分析の詳細をここで披露することはできないかも知れませんが、その一端だけでも 話していただけませんか?

 

A: 先ず、トップダウン思考の観点から「MH370 便はインド洋方面にしばらく飛行を続けた」という誤解を払 拭しました。そして、関係者の間で唱えられていた原因説が蓋然性をもたないを 1 つひとつ説明 しました。その後、誰もが納得できると思われる可能性を導きだしたのです。それは、パイロットによ る「ある些細なエラー」が MH370 便をスピン(錐揉み旋回)に陥らせてウェイポイント IGARI 近辺の海にほぼ 垂直に墜落させたというものです。この分析は、これまでの関係者の推測をすべて根底から覆す ドラスティックなシナリオといえます。海中捜索はインド洋を中心に行なわれましたが、もし IGARI 近辺の南シ ナ海を重点的に行なわれていれば、事故機の残骸や飛行記録装置を回収できたかも知れません。

 

Q: MH370 便事故の裁判は今後どのように展開すると思いますか?

 

A: 中国人の乗客の遺族は、当局の結論にまったく納得していません。そのため、中国では乗客の遺 族によるデモすら行なわれています。中国の裁判がわが国のように証拠重視主義であれば、物的 証拠が何も得られていない現状では裁判所も判決に苦慮するかも知れません。中国の裁判が米国 のように陪審員制度を採用しているとは思えませんが、状況証拠を積み重ねて物的証拠を補完す るには弊社のようなトップダウン思考の分析能力が必要になります。中国の司法関係者や知識人にそ のような能力があるのか、弊社は関心をもって今後を注視しています。中国がトップダウン思考の分 析ができる能力を発揮できるのであれば、航空安全に貢献できるものと期待しています。

 

Q: トップダウン思考の分析ができる航空の専門家が裁判に関与できる可能性はあるのですか?

 

A: 米国をはじめ欧米先進国には訴訟支援(Litigation Support)という職業があり、多くのコンサルタン トが裁判に関与しています。技術や知的所有権などの専門知識が必要な訴訟では、法律を主に学 んだ弁護士では審理に適切に対応できないからです。弊社代表も、かつて米国における裁判に専 門家として関与して勝訴に貢献したことがあります。わが国の技術者がコンサルタントとして訴訟支援 に関与するには、トップダウン思考の分析能力が不可欠といえます。 

 

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医療のデジタル化

2023-11-06

 

Q: 医療のデジタル化とはどういうことですか?

 

A: 医療のデジタル化とは、コンピュータや AI などのデジタル技術を活用することにより、医療従事者の業務 負担(Workload)の軽減や医療業務の効率化、患者へのサービスの向上などをはかることです。デ ジタル技術の発達の兆しが見え始めた現在、社会は産業界だけでなく医療の分野にもデジタル化を拡 げて人々の福利(Wellbeing)に資することを望んでいます。米国のアマゾン社やマイクロソフト社創始者 のビル・ゲイツ氏、テスラ社 CEO のイーロン・マスク氏なども、この分野へのビジネス進出を目指しています。わ が国にも、医療のデジタル化を積極的に推進している民間医療機関がいくつかあります。 

 

図.1 医療のデジタル化

 

Q: わが国の医療のデジタル化の歴史はどういうものですか?

 

A: わが国では、医療のデジタル化が意外に早く始まっています。1980 年代には、診療報酬請求業務の 効率化のためにレセプトコンピュータ(レセコン)が普及し始めました。1990 年代になると電子カルテが登場し て、1999 年には当時の厚生省が電子カルテのガイドラインを作成しています。政府が 2000 年に IT 基本 戦略を発表すると、わが国も世界的なデジタル化・IT 化に追従し始めました。それ以降、医療現場 ではデジタル化が加速しています。厚生労働省の調査によると、2020 年の電子カルテの一般病院での 普及率は 57.2%でした。2008 年には 14.2%でしたので、12 年間でデジタル化が 4 倍まで進んだこ とになります。

 

Q: わが国では主にどのような分野で医療のデジタル化が進んでいるのですか?

 

A: 主に下記のような分野でデジタル化が進んでいます。

・ 電子カルテ

・ オンライン診療やオンライン問診票

・ システムのクラウド化

・ 患者データの共有

・ スマホなどを活用した予防医療

 

Q: 医療のデジタル化は今後どのような方向に向かいますか?

 

A: 1つ考えられるのは、デジタルツイン(Digital Twin)というデジタル化技術の採用です。この技術 は、人体のように安全に実験がしにくい対象に対して、特性を数学的に数値化することにより解 析を容易にする技術です。航空工学や建築・土木工学、原子力工学などの分野でも、リスクが大き い実験を避けるために数値解析という名称で活用されています。AI が発達している現在では、数 値解析やデジタルツインの応用範囲がますます広がっています。

 

Q: わが国の医療のデジタル化は欧米先進国にくらべてどうなのですか?

 

A: 残念ながら遅れているといわざるを得ません。その理由は、わが国の国民性と保守的な医療制度 に関係しているといえます。

 

Q: わが国の国民性とはどういうことですか?

 

A: わが国では、医療のデジタル化だけでなく、マイナンバー制度やデジタル貨幣の普及なども諸外国にくらべ て遅れています。専門家は理由を明確に指摘しませんが、弊社は日本人の脳の特異性と無関係で はないと考えています。あえて反論を恐れずにいえば、日本人の脳はデジタル情報の処理にはあま り向いていないといえます。

 

Q: 日本人の脳がデジタル情報の処理に向いていないといえる根拠はあるのですか?

 

A: 理論的な根拠を示すのは難しいのですが、具体的な事例で示すことができます。かつて、わが国 でもデジタル腕時計が流行ったことがあります。米国などの欧米先進国でも同じでした。ですが、 現在では日本人の多くがデジタル腕時計に馴染めずにアナログ腕時計に戻っています。欧米先進国で も同じかというとそうではありません。弊社代表が米国における会議で出席者に聞いてみたとこ ろ、出席者の半数以上がまだデジタル腕時計を使っていました。この状況からも、日本人の脳が欧 米人のそれにくらべてデジタル情報の処理に向いていないといえそうです。 

 

図.2 アナログ腕時計とデジタル腕時計 

 

Q: 他にも事例があるのですか?

 

A: より顕著なのは、数量の表現の違いです。米国製の航空機では、長さや重量の単位にメートル制では なくフィートポンド制が採用されています。例えば、設計図面や整備マニュアルでは部品や装備品の長さを 表わすために 1/2 インチとか 1/4 インチ、1/8 インチといった二進法の表現が多く用いられています。米国 の通貨でも、25 セント(1/4 ドル)という十進法では半端な通貨が多用されています。このことは、 米国人の脳が十進法よりも二進法、つまりデジタル情報を好む傾向にあることを示しています。

 

Q: 逆に、日本人の脳がデジタル情報処理よりもアナログ情報処理を好むという事例があるのですか?

 

A: あります。漢字は朝鮮半島を経て中国から日本に伝わりましたが、現在では元来の漢字を使って いる国民は日本人だけといわれています。元来の漢字は象形文字の一種でありアナログ情報です。 対して、アルファベットやハングルなどの多くの文字は表音文字でデジタル情報です。このことからも、日 本人は他の民族にくらべてデジタル情報よりアナログ情報を好む民族といえそうです。

図.3 象形文字に由来する漢字

 

Q: わが国の保守的な医療制度で医療のデジタル化が遅れているというのはどういうことですか?

 

A: 医療だけなく、社会でデジタル化を推進するには論理的で合理的な制度が不可欠です。ですが、保 守的なわが国は論理的で合理的な制度とはいえません。例えば、わが国の金融や財政の政策で は、政府は資本主義の根幹である複式簿記を採用していません。複式簿記が保守的なわが国の諸 制度に馴染まないことが理由の1つともいわれています。わが国では、技術者や医療関係者が保 守的な医療制度に頓着せずに医療のデジタル化を進めようとしているようです。

 

Q: わが国が医療のデジタル化を推進するうえで、どのようなリスクが予想されますか?

 

A: デジタル化が最も進んでいる産業分野は民間航空業界といえます。民間航空業界は、早くからデジ タル化のリスクを予想して対策を研究してきました。その対策が、トップダウン思考のリスクマネージメントである ヒューマンファクター(Human Factors)です。ヒューマンファクターは、FAA を中心とする米国の民間航空業界が世界 をリードしています。米国の医療界も、FAA が推進するヒューマンファクターの政策を参考にして医療のデジタ ル化を推進しています。航空システムのデジタル化で FAA や米国の民間航空業界が予想している主なリスク は以下のようなものです。 

 

  ① デジタル機器が発生する電磁波や外部からの電磁波により、デジタル機器が誤作動する。

  ② システムに関与する人間が、潜在意識でデジタル情報を処理してエラーをする。

  ③ システムに関与する人間が、デジタル情報の影響で機能低下ないしは機能不全に陥る。

 

Q: ①はどういうことですか?

 

A: 航空技術者は、以前は機器の電磁シールドや光ファイバーの採用などで電磁波の影響を防げると考えて いました。ですが、その後の研究で電磁波の影響を完全に防ぐことは不可能であることがわかり ました。そこで発想を変えて考え出したのがフォールトトレランス設計(Fault Tolerance Design)という ヒューマンファクターの新技術です。わが国の医療デジタル機器の技術者がこの技術を理解して実践できてい るかどうかは不明です。

 

Q: ②はどういうことですか??

 

A: 「潜在意識でデジタル情報を処理してエラーをする」ということはあまり知られていません。わが国 におけるマイナンバー制度の普及などで現場の担当者が経験しているエラーの多くはこのエラーです。このエ ラーを防ぐ新しい手法が弊社が開発したヒューファク訓練です。現在、米国の医療研究者からも関心が寄 せられています。

 

Q: ③はどういうことですか?

 

A: 元来、人間の脳は自然界に存在するアナロク情報しか処理できないようにできています。人間の脳が 慣れないデジタル情報を処理しようとすれば、さまざまな精神的や身体的な弊害が顕在化するのは 当然のことです。例えば、医師が AI による医療の自動診断に過度に依存するようになれば、医 師としての思考能力が低下していきます。それだけでなく、医師が自動化による潜在的なストレスで 精神異常に陥る可能性もあります。この分野の改善にもヒューファク訓練が役に立ちます。

 

Q: 医療のデジタル化によるさまざまなリスクが予想されることはわかりましたが、社会はどうすればよ いのでしょうか?

 

A: 医療のデジタル化には多くのメリットがあり、人類が諦めることはもはや不可能でしょう。医療のデジ タル化を健全に進める手段はヒューマンファクターしかありません。ヒューマンファクターは、人間とコンピュータや AI との 調和を目指して「人間中心の自動化設計」を提唱しています。弊社は医療界にもヒューマンファクターを理 解していただくべき努力してきましたが、なかなか難しいのが実情です。 

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ビル建設現場で転落事故

2023-10-06

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 9 月 19 日午前 9 時 20 分ごろ、JR 東京駅の八重洲口から約 200m 離れたビル建設現場で、 作業員 5 人が鉄骨とともに落下する事故が発生しました。現場周辺は、オフィスビルや飲食店などが 建ち並び、人通りもかなり多い場所です。 警視庁と東京消防庁によると、事故当時 5 人の作業 員が、ビルの 7 階部分で、はりにあたる鉄骨の組み立て作業を行っていました。 警視庁による と、鉄骨は長さ 30m、重さは 15t ほどです。作業員 5 人は、クレーンのワイヤで吊るされた鉄骨の上に 乗って作業を行っていたとみられます。 その際、ワイヤで固定されていた鉄骨が何らかの原因で外 れ、作業員とともに約 20m 下の 3 階部分に落下しました。 この事故で作業員 2 人が死亡、3 人が 負傷しました。上空から事故現場を撮影した映像を見ると、いくつもの大きな鉄骨が倒れ、足場 らしきものが散乱しているのがわかります。

 

図.1 上空から見た事故現場

 

Q: 事故発生時にはどのような作業をしていたのですか?

 

A: 警察当局がマスコミに図.2 で事故の発生状況を説明しています。

 

図.2 事故の発生状況

 

Q: 図.2 はどういうことですか?

 

 A: ① クレーンで吊り下げた鉄骨を土台の骨組みに合わせて、鉄骨に乗った作業者が仮止めします。② 鉄骨には「玉がけ」作業者も乗っていて、仮止めを確認した後にクレーンの吊り下げワイア(Sling)を 外します。③ その直後、鉄骨が骨組みから外れて落下し、乗っていた作業者も転落して死傷し ました。その際、他の箇所の鉄骨の仮止めも外れて骨組みが崩壊しました。

 

Q: 事故の原因は何だと思いますか?

 

A: 図.2 の①および②の作業が確実に実施されていれば、転落事故が起きるはずはありません。事故 の原因は、①の仮止めが確実に実施されていなかったためであると考えられます。警察当局も、業 務上過失致死の嫌疑でその点を捜査しています。

 

Q: ①の作業で鉄骨の仮止めを失念したという可能性はないのですか?

 

A: その可能性はないと思います。なぜなら、鉄骨の仮止めを失念していればクレーンのワイアが張っていて 鉄骨から外せないからです。

 

Q: 鉄骨の仮止めとはどのようなものですか?

 

A: 最近のビル建設では、図.3 のように鉄骨どうしをボルトで結合して、さらに溶接で接合します。従 来は、ボルトの一部を緩いトルクで締めて仮止めしていました。仮止めでねければ全体の骨組みが最 終的にうまく組めなくなる可能性があるからです。すべてのボルトは、骨組みがうまく組めること を確認した後に規定のトルクに増し締めされます。 

 

図.3 従来の仮止め作業(イメージ)

 

ですが最近では、作業の簡便化と工期の短縮のために、図.4 のようにボルトを仮ボルト不要接合治具 (クランプ)で代行する簡便法を採用する建設会社が増えているようです。

 

図.4 最近の仮止め作業(イメージ) 

 

Q: 事故を起こした建設会社が図.4 の仮止め作業を採用していたことは確認されているのですか?

 

A: 警察当局による捜査の詳細がまだ公表されていませんので、確認はできていません。ですが、 図.3 のようにボルトで仮止めされていれば外れる可能性が低いことから、図.4 の仮止めが採用さ れていた可能性が大きいといえます。そうであれば、他の箇所の鉄骨も同じように仮止めされて いた可能性があります。

 

Q: トップダウン思考のリスクマネージメントであるヒューマンファクター(Human Factors)では、このような事故をどのよ うに考えているのですか?

 

A: 「利潤や効率、快適性を優先させて安全を軽視する技術は事故や災害を生むことがある」と考え ています。安全を優先するための具体的な方策がトップダウン思考のリスクマネージメントです。

 

Q: 御社はこれまで、建設業界にトップダウン思考のリスクマネージメントを提唱したことはあるのですか?

 

A: あります。建設業界の団体や建設会社の依頼で、弊社代表がトップダウン思考のリスクマネージメントであるヒ ューマンファクターに関する講演を何回か行っています。

 

Q: 講演の内容は概ねどういうものだったのですか?

 

A: 先ず、わが国における労災事故の状況を図.5 で説明しました。1970 年頃までは、産業界では不 幸にも毎年約 6,000 名もの労働者が労災事故で死亡していました。その後、機械化や自動化、省 力化などの技術開発や発展途上国への工場の移転で死亡者数は大幅に減少しています。その間、 建設業の死亡者は常に産業界で最も多い数になっています。

 

図.5 労災死亡事故者数の推移

 

Q: 建設業の死亡者数が多い理由は何だと説明したのですか?

 

A: 建設業における作業は他の産業界とは異なり、マニュアルは適用しにくい非定型的な作業が多いから と説明しました。定型的な作業はマニュアルを重視するボトムアップ思考でもできますが、非定型的な作 業な作業ではトップダウン思考が必要になります。事故や災害を効果的に防ごうと思えば、トップダウン 思考のリスクマネージメントであるヒューマンファクターの知識が不可欠と説明しました。

 

Q: この事故を効果的に防ぐには、どのようなヒューマンファクターの知識が必要なのですか? 

 

A: 図.4 のように仮止めの簡便法が適用されていたとすれば、クランプの取り付けに細心の注意を要す るという知識です。クランプの取り付けが不適切であれば、僅かな衝撃で外れてしまいます。クランプ を適切にかけようと思えば、作業環境や作業性にも配慮しなければなりません。作業環境や作業 性を研究する学問がエルゴノミクス(Ergonomics)です。わが国では欧米先進国にくらべてこの分野の 研究と啓蒙が大きく遅れています

 

Q: 仮止めのやり方については警察当局も捜査していると報じられていますが、警察当局の捜査に期 待できるのですか?

 

A: 残念ながら、あまり期待できません。なぜなら、警察の捜査は責任追及を目的とするというボトム アップ思考だからです。事故の調査は、再発の防止を目的にするトップダウン思考が必要になります。 警察は、責任者を特定して検察への送致を検討することを職務としていて、再発防止のために建 設業界に本格的なヒューマンファクターの導入を勧告することは求められていません。

 

Q: 建設業だけでなくわが国の産業界は、なぜ本格的なヒューマンファクターの導入に消極的なのでしょうか?

 

A: 産業界だけでなく学界までもが、トップダウン思考のリスクマネージメントを理解できないからだと思いま す。例えば、かつてわが国でヒューマンファクターの先駆者を自認していたある学者(故人)は、「ヒューマンフ ァクターは ABC である」と公言して憚りませんでした、つまり、「当たり前のことを(A)、ボンヤリせ ずに(B)、ちゃんとやる(C)」ことが事故防止の極意であると信じていたようです。この考え は、「マニュアルを守っていればエラーもなく事故もない」というボトムアップ思考の産業界には歓迎されま した。ですが、ボトムアップ思考は定型的な作業が少ない建設業では通用しません。現在、この事故 の原因や対策が不明であることで全国のビル建設作業者の多くは不安感を抱いています。この状 況は、わが国の経済にとって決して好ましいことではありません。弊社は、わが国の建設業界に 対して、本格的なヒューマンファクターを導入して作業者の不安感を速やかに払拭するよう、是非ともお勧 めしたいと思っています。 

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読者からのご質問

2023-08-17

 

Q: 読者の方から質問をいただいたのですか?

 

A: ヒューファク安全情報_23-08-12_御巣鷹山事故の謎解き を読まれた読者の方から、質問をいただきまし た。弊社がかつてお世話になった航空界のある重鎮の方(故人)から、この方に安全情報を配信す るよう依頼されていました。この方は、公的な研究所で活躍された後に、現在は大学で航空工学の 教授を務めておられます。このような方でも弊社の情報に疑問をもたれるのですから、読者の多 くの方々も同じような疑問をもっておられるのではないかと思います。下記にメールをそのまま引用 させていただき、質問にできるだけ応えさせていただきたいと思います。

 

 

 いつも有益な記事をお送りいただき感謝申し上げます。 今回の「御巣鷹山事故の謎解き」につ いて、納得できない個所があるので3つ質問いたします。 公式の事故調査報告に4つの疑問が あり、原稿にはその内容が記されています。特に②では、「7000メートルの高度で急減圧が起これば 人間は5分と生存できないのに、事故機の搭乗者は30分近く意識を保って生存できた」とありま す。 つまり事故機は、「急減圧が起こらなかった」ことを意味しています。 ここで疑問です。 では、事故機は何故垂直尾翼の先端部を失ったのでしょうか。 この破壊のメカニズムを説明頂けま せんでしょうか。 また、疑問④の回答として、文中には「墜落前に戦闘機が周辺を飛んでいた とか、ミサイル飛行物体が飛び交っていたというのは、おそらく事実だと思います」と記されて います。 青山透子氏の著「日航123便墜落の新事実」によれば、非番の自衛隊員や多くの市民の 証言によると、ファントム2機が事故機に追尾し墜落を確認にして、埼玉方向に飛び去ったことが記 されています。 墜落現場の特定と救助隊到着に14時間以上費やしました。自衛隊のファントム機は現 場を確認しているのですから、これほどの時間はかかるはずはありません。もっと迅速な救助が できたらもっと尊い生命が救われたはずです。 ここで疑問です。時間がかかった理由は何でし ょうか。 「おそらく事実だと思います」に対して、「これらは事故原因とはまったく関係あり ません」と断言されています。 最後の疑問は、関係ないないことを確信している根拠をご存じ なのでしょうか。「別の目的」のためのようですが、差し支えない範囲で回答をお願いします。 以上です。よろしくお願いいたします。

 

Q: 「つまり事故機は、「急減圧が起こらなかった」ことを意味しています」と書かれていますが、そ うなのですか?

 

A: それは違います。この方は「事故機の搭乗者は 30 分近く意識を保って生存できた」という事実を もとに「急減圧が起こらなかった」と考えておられるようです。弊社の説明が足りなかったのかも知れませんが、急減圧は確かに起こりました。ただし、これまで知られている急減圧とはまったく 異なる急減圧です。急減圧が起きた証拠として、搭乗者が残した機内の写真があります。非常用酸 素マスクが落下している様子が明確に映されています。非常用酸素マスクは、急減圧が起きて機内の気 圧が規定値以下にならなければ絶対に落下しません。

 

図.1 酸素マスクが急減圧で落下した写真

 

Q: 「事故機は何故垂直尾翼の先端部を失ったのでしょうか」、「この破壊のメカニズムを説明頂けません でしょうか」という質問にはどう応えますか?

 

A: 事故調査報告書は、図.2 のように、「圧力隔壁が破損して漏れた空気が胴体後部を膨らませて破壊 するとともに、垂直尾翼へのアクセス口を通じて垂直尾翼に流入して垂直尾翼を破壊した」と説明し ています。ですが、弊社の分析はまったく異なります。つまり、圧力隔壁が爆発的に破損した際に 発生した衝撃波が、胴体後部を一気に吹き飛ばし、胴体後部に結合されている垂直尾翼も破壊し たと分析しています。衝撃波にはそれほど強大な破壊力があります。垂直尾翼の桁は、胴体後部の フレームにしっかりと結合されています。ですが、垂直尾翼の桁は軽量化のために先端ほど弱く造ら れています。そのため、胴体後部のフレームより後ろの部分と垂直尾翼の桁より後ろの部分と先端部 分が吹き飛ばされたものと分析しています。 

図.2 事故調査報告書が説明する破壊メカニズム 

 

Q: 「時間がかかった理由は何でしょうか」という質問にはどう応えますか? 

 

A: 自衛隊のファントム機が出動したのは、墜落地点の確認ではなく「別の目的」であったと考えられます。 自衛隊機のパイロットは命じられた任務の遂行に忙殺されていたと思われます。墜落地点を目視でき たとしても、目的が異なっていたために、地理学的に精確な場所や詳細な緯度・経度を確認して報 告することは難しかったと推測されます。それに、当時の御巣鷹山に夜間に登ることは極めて困 難でした。弊社代表も事故後まもなく捜索担当の役員とともに御巣鷹山に登りました。道のない 急斜面を登るのに大変な思いをしました。悪条件の下で、救助活動の開始までに 14 時間を要した のは致し方なかったと思っています。

 

Q: 最後の「(事故原因とは)関係ないないことを確信している根拠をご存じなのでしょうか」という 質問にはどう応えますか?

 

A: 申し上げておきますが、弊社が政府中枢から「別の目的」を聞いているわけではありません。トップ ダウン思考で広い視野と深い洞察力で考えれば、「別の目的」はすぐにわかります。なぜか、世界の 各国はそれを明らかにしようとはしていません。安全情報に書いたように、正当で必要な対応で あるにもかかわらずです。各国の政府中枢でも、「別の目的」を承知している人物はごく限られて いると思います。従って、弊社が文章にすることは残念ながらできません。読者の方々のご推察に 委ねたいと思います。ただ、「別の目的」は事故原因とはまったく関係がないということだけはあ らためて強調させていただきます。 

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御巣鷹山事故の謎解き

2023-08-12

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 1985年8月12日にJAL123便(ボーイング747-100SR)の御巣鷹山事故が起きました。早いもので、本日で 38年になります。弊社代表は、切っ掛けとなった伊丹空港でのいわゆる尻餅事故からこの事故に 深く関わりました。事故当日に経営トップの特命で徹夜で原因究明に当って以来、永年にわたって 事故の真因を探り続けてきました。その結果、事故の真因は、尻餅事故で損傷した後部圧力隔壁 (Aft Pressure Bulkhead)を修理する際にJALの整備技術陣がトップダウン思考で判断できなかった ことであることがわかりました。このことは公式の事故調査報告書には書かれていません。公式 の事故調査にはわが国の多くの科学技術者が関わりましたが、トップダウン思考で調査できなかった ために多くの疑問が残されています。そのため、事故調査の結論に納得できずに「米軍と自衛隊に よるミサイル実験か戦闘機の実機訓練で誤って撃墜された」などという陰謀論を唱える人がいます。 陰謀論はインターネットやSNSをにぎ合わせるだけでなく、書物でも出版されて多くの人々に読まれてい ます。この事故は単独では世界最悪の航空機事故です。この事故の事故調査に多くの疑問を残し ていることは、国家としても好ましいことではありません。亡くなられた多くの搭乗者の方々も、 安らかには眠れないのではないかと思われます。事故後38年を迎えるにあたって、人々の疑問を すべて晴らしてみたいと思います。 

 

図.1 事故現場の惨状

 

Q: 公式の事故調査にはどのような疑問があるのですか?

 

A: 次のような疑問が投げかけられています。

 ① ボーイングが事故直後に率先して自社の AOG(Aircraft On Ground)チームの修理ミスを公表したのに、 ボーイングは修理ミスの

  詳細を具体的に説明していない。

 ② 高度 7,000 メートルの上空で急減圧が起きれば人間は 5 分と生存できないのに、事故機の搭乗者は 30 分近く意識を

  保って生存できた。

 ③ 通常の急減圧なら白い霧が発生することはないのに、生存者の証言と残された写真によれば、 事故機の客室では

  白い霧が発生していた。 ④ 墜落の直前に戦闘機が周辺を飛んでいたとか、ミサイルと思われる飛行物体が飛び交って

  いたとい う情報があるのに、事故調査報告書はまったく触れていない。

 

図.2 乗客が残したメモ

 

Q: トップダウン思考では、これらの疑問にどう応えるのですか?

 

A: 先ず、④の疑問に応えたいと思います。墜落の直前に戦闘機が周辺を飛んでいたとか、ミサイルと思わ れる飛行物体が飛び交っていたというのは、おそらく事実だと思います。ですが、これらは事故原 因とはまったく関係がありません。別の目的によるものです。

 

Q: 「別の目的」とはどういうことですか?

 

A: 残念ながら、「国家のハイレベルのリスクマネージメントによる政治判断」としか言えません。条約のように明文 化はされていない、「暗黙の国際的取り決め」です。最終的な決断は各国の政治のトップに委ねられ ています。当時のわが国の首相は、マスコミの取材に「墓場までもっていく」と応えたまま他界しまし た。「別の目的」とは、決して陰謀などではありません。国民の生命と財産、つまり国益を守るう えで正当かつ必要な対応といえます。海外ではこの目的が現実に遂行されたこともあります。

 

Q: 陰謀論は①~④の疑問があるから生まれるのでしょうか?

 

A: そう思います。先ず②と③の疑問を解くには、超音速空気力学と大脳生理学の知識をトップダウン思 考で融合させる必要があります。

 

Q: 「超音速空気力学の知識」とは、どのような知識ですか?

 

A: 高々度で圧力隔壁が爆発的に破損すれば、衝撃波(Shock Wave)が発生してその背後に膨張波 (Expansion Wave)が伝播するという知識です。わが国には数多くの超音速空気力学の専門家や 研究者がいますが、そのことに気づいた人はいないようです。

 

Q: 衝撃波の発生と膨張波の伝播が、なぜ②と③の疑問を解くことにつながるのですか?

 

A: 自衛隊の航空医学実験隊ではパイロットの急減圧訓練が行なわれています。この訓練では、衝撃波が発生することはなく、②と③の現象も起きません。つまり、事故機で起きた急減圧は通常の急減圧 とは異なるといえます。いわば、「人類が有史以来初めて体験した急減圧」といえます。具体的に は、人類が初めて衝撃波の背後の膨張波に晒された体験です。弊社が目にした最新の大脳生理学 の研究論文に、「人間は膨張波の中では比較的長く生存できる」と説くものがあります。

 

図.3 衝撃波と膨張波の伝わり方

 

Q: その論文には、人間が膨張波の中で長く生存できる根拠が書かれているのですか?

 

A: 残念ながら、書かれていません。弊社は次のように推測しています。つまり、太古に起きたといわ れるビッグバン(Big Bang)では、隕石の衝突や火山爆発で発生した衝撃波で多くの人類が死滅しま した。ですが、洞窟の中に潜んでいて膨張波にしか晒されずに生き残った人類もいるはずです。本 来、人類の DNA には膨張波に対する耐性があるからと考えられます。ビッグバン以後、人類が膨張 波に晒されたことがないために、そのことに気づかなかったものと思われます。この事故の急減 圧でほとんどの搭乗者が 30 分近く生存できたことが、何よりの根拠といえます。

 

Q: 衝撃波が発生したと考えれば、③の現象の白い霧も説明できるのですか?

 

A: 説明できます。超音速空気力学では、膨張波の中で断熱膨張が起きて、水蒸気が凝結して白い霧に なることが知られています。因みに、弊社代表は大学院で超音速空気力学を専攻していました。

 

Q: これまでの説明は圧力隔壁の爆発的な破損で衝撃波が発生することを前提にしていますが、衝撃 波が実際に発生したといえる根拠はあるのですか?

 

A: 根拠は2つあります。①事故機で異常が発生した時刻に、駿河半島の東岸にいた人がたまたま爆 発音を録音していたことと、②ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。修理 断面図は事故調査報告書にも掲載されています。

 

Q: ①がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 大気の密度は低空ほど蜜になります。通常の音波であれば、高度 7,000 メートルから地上に届くまで に減衰してしまいます。地上で録音された爆発音は通常の音波ではなく、俗にソニックブーム(Sonic Boom)といわれる衝撃波であったと考えられます。

 

Q: ②がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 図. 4が、ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。ボーイングは「新しい下半分の 圧力隔壁を古い上半分の圧力隔壁に結合する際に、図.3 の左図のように指示したのに、修理チーム が誤って右図のように結合してしまった」と説明しています。ですが、トップダウン思考で深く洞察 すれば、右図のような修理は現実には考え難いことがわかります。つまり、事故機の圧力隔壁は 左図のように指示通りに修理されていたのに破損したと考えざるを得ません。

 

図.4 圧力隔壁の修理断面図 

 

Q: その論文には、人間が膨張波の中で長く生存できる根拠が書かれているのですか?

 

A: 残念ながら、書かれていません。弊社は次のように推測しています。つまり、太古に起きたといわ れるビッグバン(Big Bang)では、隕石の衝突や火山爆発で発生した衝撃波で多くの人類が死滅しま した。ですが、洞窟の中に潜んでいて膨張波にしか晒されずに生き残った人類もいるはずです。本 来、人類の DNA には膨張波に対する耐性があるからと考えられます。ビッグバン以後、人類が膨張 波に晒されたことがないために、そのことに気づかなかったものと思われます。この事故の急減 圧でほとんどの搭乗者が 30 分近く生存できたことが、何よりの根拠といえます。

 

Q: 衝撃波が発生したと考えれば、③の現象の白い霧も説明できるのですか?

 

A: 説明できます。超音速空気力学では、膨張波の中で断熱膨張が起きて、水蒸気が凝結して白い霧に なることが知られています。因みに、弊社代表は大学院で超音速空気力学を専攻していました。

 

Q: これまでの説明は圧力隔壁の爆発的な破損で衝撃波が発生することを前提にしていますが、衝撃 波が実際に発生したといえる根拠はあるのですか?

 

A: 根拠は2つあります。①事故機で異常が発生した時刻に、駿河半島の東岸にいた人がたまたま爆 発音を録音していたことと、②ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。修理 断面図は事故調査報告書にも掲載されています。

 

Q: ①がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 大気の密度は低空ほど蜜になります。通常の音波であれば、高度 7,000 メートルから地上に届くまで に減衰してしまいます。地上で録音された爆発音は通常の音波ではなく、俗にソニックブーム(Sonic Boom)といわれる衝撃波であったと考えられます。

 

Q: ②がなぜ衝撃波の発生の根拠になるのですか?

 

A: 図.4 が、ボーイングが事故直後に公表した圧力隔壁の修理断面図です。ボーイングは「新しい下半分の 圧力隔壁を古い上半分の圧力隔壁に結合する際に、図.3 の左図のように指示したのに、修理チーム が誤って右図のように結合してしまった」と説明しています。ですが、トップダウン思考で深く洞察 すれば、右図のような修理は現実には考え難いことがわかります。つまり、事故機の圧力隔壁は 左図のように指示通りに修理されていたのに破損したと考えざるを得ません。

 

図.4 圧力隔壁の修理断面図

 

Q: 左図のように指示通りに修理されていても、破損した際に衝撃波が発生するのですか?

 

A: 発生します。なぜなら、左図のように修理しても、圧力隔壁の本来の構造強度を復元できていな いからです。圧力隔壁に限らず、航空機の与圧構造はフレームやストリンガー、スティフナーといった骨構造で 一次的に内圧に耐えるように設計されています。外板は二次的に内圧に耐える構造部材に過ぎま せん。左図の修理のように外板を結合するだけでは、元の骨構造は復元されません。外板の結合 が分離すれば、圧力隔壁の構造が一気に破損して衝撃波が発生することになります。

 

Q: そうであれば、冒頭の①の疑問、つまり「ボーイングが事故直後に率先して自社の修理チームの修理ミス を公表した」という理由も理解できる気がしますね?

 

A: その通りです。ボーイングは、指示通りの左図の修理で圧力隔壁が破損したことを知って驚愕した と思います。自社の修理チームに航空機の与圧構造の基本に反する修理を指示していたことが誤り であったことに気づいたからです。当時のボーイングは、この根本的な誤りをそのまま公表するこ とが世界の民間航空界を大混乱に陥らせると考えたと思います。世界の民間航空界は、ボーイング やエアバスなどに絶大な信頼を寄せています。その信頼を失うことは、大局的には民間航空界にと って好ましいことではありません。当時のボーイングが大混乱を避けるために①のように行動した としても、致し方なかったのかも知れません。ボーイングは、今では圧力隔壁の部分的な修理はやめて、圧力隔壁全体を交換するようにしています。わが国の航空関係者は、誰も当時のボーイング の苦悩を理解できませんでした。

 

Q: 陰謀論を唱える人達がこれまでの説明を聞いて、陰謀論を棄てると思いますか?

 

A: 人間はそれほど理性的で柔軟ではないと思っています。ですが、陰謀論を唱える人達には「真実 を知って再発防止を目指す」という原点に立ち戻っていただきたいと願います。真実とは、「世 界の民間航空界の信頼を集めるボーイングといえども、根本的な考え間違いをすることがある」と いうことです。当時の JAL 技術陣はボーイングを盲目的に信頼していました。航空機の技術を深く 考えることもなく、ボーイングの考えやマニュアルに従順に従うだけでした。

 

Q: 冒頭の「圧力隔壁の修理の際に JAL の整備技術陣がトップダウン思考で判断できなかった」というの はどういうことですか?

 

A: 航空会社がボーイングやエアバスに信頼を寄せることは必要ですが、「彼らが根本的な考え間違いをす るはずはない」と盲信するのはボトムアップ思考です。航空会社の技術者としても独自に航空技術や 航空安全を深く考えて、ボーイングやエアバスの誤りを指摘できるのがトップダウン思考です。トップダウン思 考で考えれば、圧力隔壁を部分的に修理するだけでは済まないと容易に気づいたはずです。

 

Q: 事故後の JAL では、トップダウン思考を目指す試みはされたのですか?

 

A: 技術部門の上層部に、航空会社としては世界で初めての技術研究所を設立する構想が生まれまし た。ボーイングを盲信するだけのボトムアップ思考ではなく、トップダウン思考で独自に航空技術や航空安 全を深く考えられる人材が必要という考えです。その考えは一部で数十年前から唱えられていま した。その構想が事故後に実現されたわけですが、現実はそう甘くはありませんでした。技術研 究所の本来の設立趣旨は外部はおろか所内でも理解されず、技術研究所はわずか 10 年で消滅し ました。改革が難しいことは単に一企業の問題ですが、疑問の多い事故調査報告書をそのまま後 世に残してよいかどうかは国家的な問題といえます。読者の中でも「38 年も経って、何を今さ ら」と眉をひそめる人が多いと思います。ですが、この問題に勇気をもって正面から対峙できな ければ、停滞したわが国の社会を活性化させることも難しいと思います。航空界の現役の皆さん の勇気と決断に期待しています。

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御巣鷹山事故の謎解き
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HuFac Solutions, Inc.

暗中模索の米航空界

2023-07-18

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 順を追って説明しますが、先ずは読者の方からのメールを紹介させていただきます。「ヒューファク安全 情報-23-07-06_自動運転で事故急増」を読まれて、下記のようなメールを寄せてくださいました。 世界を代表する航空宇宙技術の雑誌である AWST(Aviation Week & Space Technology)の記事を 引用されています。この方は、航空界の要職で活躍された後で、現在も大所高所から航空宇宙技 術の動向に関心を注いでおられます。

 

 

 いつも楽しみに、かつ考えさせられながら読んでおります。今回の自動運転事故については、こ んなところが原因になっているとは知りませんでした。根が深いですね。先日の AWST に貴兄の 言う「人間のための自動制御」への取り組みが出ていました。(AWST April 24 Moving Target) 機械が故障したときに、パイロットがどう反応し、それに対して機械がどう対応すべき か。Manual Control でもいろいろ人により定義が異なり、どう対応すべきか。真面目な議論です が、大変だなあと思いました。貴兄が言っていることが、やっと世界中で議論され始めたという ことでしょうか。日本は、ますます対応が遅れ、TC(弊社注: Type Certificate、型式証明)ど ころの話しでは無くなります。AWST April 24 Digital Divide で AI を使った自動制御の話が 出ていますが、経営者は One-man Operation に行くのでしょうね。制御が駄目になったとき、パ イロットはどうすべきか(反応も含めて)の解析が出来ないうちに、機械化されるようで、空恐ろし いです。現在 AI はどうして、そういう結論になったかわからないので、尚更です。ため息が出 ます。頑張ってください。 

 

図.1 AWST 誌の記事の一部

 

Q: AWST というのはどのような雑誌ですか?

 

A: 米国で出版されている航空宇宙技術の専門誌です。わが国にも似たような雑誌がいくつかありま すが、内容のレベルの高さと信頼性においては AWST に遠く及びません。世界の航空宇宙界で活躍する政府機関や企業のリーダー、研究者、学生などに広く愛読されています。紙の出版物だけでな く、インターネットでも一部を読むことができます。

 

Q: AWST の記事によれば米航空界の FAA やボーイングが「人間中心の自動化」に関心を持ち始めている ようですが、わかりやすく解説していただけませんか?

 

A: FAAやボーイングが「人間中心の自動化」に関心を持たざるを得なくなった切っ掛けは、ボーイング 737MAX の安全問題です。図.1 の AWST 誌の記事にある「MOVING TARGET(弊社注: 移り行く目標)」という 表題は、航空機の設計や安全対策の目標をこれまでの「技術中心の自動化」から「人間中心の自動 化」に変えるという意味です。737MAX の安全問題は2件の悲惨な墜落事故で顕在化しました。そ のうちの1件では多くの中国人が犠牲になりました。そのため、中国が米国に事故原因の究明と対 策を強く要求しました。そのせいか、FAA は直ちにすべての 737MAX(約 370 機)を運航停止にしま した。この問題については、添付の「ヒューファク安全情報_21-04-14_737MAX 問題の総括」で詳しく解 説しています。  

 

図.2 長期停留されている 737MAX

 

Q: 添付の安全情報にも書かれていると思いますが、737MAX の墜落事故の原因分析を要約していただ けませんか?

 

A: 原因分析を要約すると、次のようになります。

 ① 機首の胴体部分に取り付けられている迎角(Angle of Attack)センサーが誤信号を出力した。

 ② 迎角センサーの誤信号により、737MAX の MCAS(Maneuvering Characteristics Augmentation System)という

  自動化失 速防止システムが暴走(Run-away)した。

 

図.3 737MAX の MCAS

 

 ③ MCAS が「技術中心の自動化」であるために、パイロットが暴走にうまく対応できなかった。

 

Q: FAA やボーイングが「人間中心の自動化」に関心をもち始めたということを、上記の「原因分析の要約」に照らし合せて説明していただけませんか?

 

A: FAA やボーイングが「原因分析の要約」の②に関心をもち始めたということです。MCAS が「技術中 心の自動化」であるためにパイロットが暴走にうまく対応できなかったことに気づき、MCAS を「人間 中心の自動化」にすべく研究を開始したということです。また、パイロットが「人間中心の自動化」 にどのように対処すべきかという研究も始めました。

 

Q: FAA とボーイングが「人間中心の自動化」の研究を急いでいる理由は何だと思いますか?

 

A: 米国の航空界が置かれている現在の状況に因るものです。ボーイングの 737 シリーズは、エアバスの A320 シリーズと並んで世界で最も多く運航されている民間航空機です。ボーイングはエアバス A320Neo に対抗 して 737MAX を開発しました。ところが、就航後間もなく 737MAX の深刻な安全問題が顕在化して しまいました。米国の国益のためにも、ボーイングは安全で信頼される 737 シリーズを製造し続けなけ ればなりません。FAA も 737 シリーズの製造を支援しなければならない立場にあります。そのため に、これまで敬遠してきた「人間中心の自動化」を目標とする決断をせざるを得なかったものと 思われます。

 

Q: FAA とボーイングの方針転換を「暗中模索の米航空界」と表現していますが、どういうことですか?

 

A: 上記の「原因分析の要約」で説明すればわかりやすいと思います。737MAX の事故を防止するには ①~③の事象の連鎖(Chain of Events)をどこかで断ち切ればよいのですが、FAA とボーイングは ③の事象を解消しようと考えたようです。そのためには、「人間中心の自動化」を目指す必要が あります。ですが、「人間中心の自動化」を目指すのは容易ではありません。常識で考えれば、 事象の連鎖の根源である①を解消することが優先されるべきです。

 

Q: FAA とボーイングはなぜ①の事象の解消を目指さないのでしょうか?

 

A: 「目指さない」というよりも、「目指せない」のだと思います。なぜならば、ボトムアップ思考では ①の事象の原因が解明できないからです。

 

Q: 添付されている「ヒューファク安全情報_21-04-14_737MAX 問題の総括」には①の事象の原因が書かれて いますが、トップダウン思考で原因を解明したということですか?

 

A: その通りです。トップダウン思考で解明すれば、①の事象の原因は電磁干渉(EMI)ということにな ります。EMI を発生させる原因は、737MAX に採用されているわが国の一流企業の「ある技術」と 考えています。

 

Q: ボーイングは 737MAX の安全問題に悩まされているようですが、エアバスはどうなのですか?

 

A: エアバスも過去に同じ問題に悩まされました。トップダウン思考で考えれば、737MAX の墜落事故は本質 的に 1994 年に名古屋空港で起きた中華航空のエアバス A300-600 の墜落事故とまったく同じといえ ます。この事故ではわが国の政府事故調査委員会が調査を担当しました。ですが、パイロットエラーと 結論するだけで、「技術中心の自動化」の失速防止システムや EMI の発生源にはまったく言及できま せんでした。A300-600 で EMI の発生源となった「ある技術」は、737MAX のものとは別のわが国 の一流企業が開発したものでした。エアバスがこのことに気づいているかどうかはわかりません。エ アバスは当初 A350 にも「ある技術」を採用していましたが、設計の最終段階で採用を取りやめま した。すでに「ある技術」を採用している A380 でも、製造を早期に中止しました。弊社代表は、「ある技術」の採用を予定していた A350 と「ある技術」を採用していた A380 の購入を控え るよう退職前に懇意の JAL 経営トップに密かに進言しました。JAL は「ある技術」を断念した A350 を運航していますが、A380 は購入していません。判断は間違っていなかったと自負しています。

 

Q: 「ある技術」とは何かを明確にしてほしいという要望があるのではないですか?

 

A: 読者の何人かの方からそのような要望を聞いています。ですが、「残念ながらそれはできませ ん」と丁重に断っています。EMI は再現性がなく証拠を一切残さないために、「根拠のない誹謗中 傷」と誤解される恐れがあるからです。

 

Q: 世界の航空界が悩まされている「ある技術」がよりにもよってどちらもわが国の一流企業のもの というのは、どう考えればよいのでしょうか?

 

A: 弊社も永年にわかってその理由を考えてきました。結局のところ、行き着いたのが「日本人の国 民性ではないか?」ということです。日本人は、狭い視野と浅い洞察力による考えを無批判に実 行に移してしまい、途中で修正あるいは断念することがなかなかできないようです。「考え出し た技術」だけでなく、「模倣した技術」でも同じです。この安全情報でも指摘してきましたが、 「自動車の自動運転」や「ChatGPT の導入」、「マイナンバー制度の導入」がその実例です。わが国の技 術者は、これらが「ある技術」と同じように社会構造や文化、ひいては経済までも棄損すること を理解できないようです。わが国の「ある技術」が米航空界を暗中模索に陥らせていることは、 決して「対岸の火事」と看過すべきではありません。その影響は必ずわが国にも及びます。対策 は、日本人の考え方をボトムアップ思考からトップダウン思考に変えていくことしかありません。その変 革は社会のリーダーが率先すべきです。弊社は永年にわかって、トップダウン思考ができるリーダーの養成 の必要性を社会に訴え続けています。  

 

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繫華街でガス爆発

2023-07-07

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 7 月 3 日、東京都港区新橋のビルの 2 階に入る飲食店で爆発があり、店内で開店準備をし ていた男性店長と女性従業員、それに通行人の男性がやけどや飛散したガラスで大けがをしたほ か、別の通行人の男性が軽いけがをしました。この店はガスの契約をしておらず、店長が「調理 の際は電気を使っていた」と説明していることがわかっています。その後の調べで、1 つ上の 3 階にある歯科医で内装工事が行われていて、作業者がガス管の蓋を外そうとしたところ、床下の 都市ガス配管の接続部分がずれてガスが漏れる状態になっていたことがわかっています。

 

図.1 新橋の繁華街でのガス爆発

 

Q: この事故の原因をトップダウン思考で分析するとどうなりますか?

 

A: 現在、警察当局が原因を調査していると思います。警察はボトムアップ思考で調べると思いますの で、弊社のトップダウン思考の分析とは結論がかなり異なると思います。

 

Q: ボトムアップ思考による警察当局の結論はどうなると思いますか?

 

A: 警察は刑法の業務上過失傷害罪を視野に入れて調査します。調査の対象はガス漏れをまねいた作業 者と作業監督者で、刑法の性格からも調査の目的は責任追及になると思われます。

 

Q: トップダウン思考の分析はどう異なるのですか?

 

A: トップダウン思考の分析では、対象は人ではなくエラーという行為とその背景要因です。分析の目的 は、責任追及ではなく事故の再発防止です。

 

Q: トップダウン思考でこの事故を分析するとどうなりますか?

 

A: これまでの情報をもとに事故の態様を図示すると図.2 のようになります。

 

図.2 事故現場でのガス配管 

 

作業者は内装工事のために床板を撤去する必要があると考えたようです。床板を撤去するにはガ ス管の蓋が障害になります。ガス管の蓋のネジ(図.2 のネジ部 A)をレンチで反時計周りに回して外そう としましたが、錆で固着しているせいか、ネジを緩めることができませんでした。作業者はさら に力を込めて蓋に何度もトルクをかけてみました。ですが、そのトルクは蓋ではなくガス分岐管を回し てしまい、床下のネジ部 B を緩めることになってしまいました。床板があるために、ネジ部 B が緩 んだことは作業者にはわかりませんでした。ネジ部 B が緩んだために、ネジ部 B からガスが漏れ出 しました。ネジ部 B と作業者の間は床板があったために、運悪くガスの臭いは作業者の鼻には届か なかったようです。

 

Q: 作業者は、ガス管の蓋と知りながら、なぜ外そうとしたのでしょうか?

 

A: おそらく、「階下の飲食店ではガスは使われていない」という情報を作業者が誤解してしまった ものと思われます。作業者は「階下の飲食店のガス管にはガスが通っていない」と思っていたと供 述しています。ところが実際には、飲食店のガス管にはガスが通っていて、ガス分岐管の末端が蓋 されて使えなくなっているだけでした。

 

Q: ガス分岐管をレンチで抑えて回らなくすることはできなかったのでしょうか?

 

A: 通常はそうします。そのためのパイプレンチという大きいレンチもあります。ですが、蓋と床板の間隙 が小さいために、パイプレンチが使えなかったのだと思います。

 

Q: 作業ミスの態様はよくわかりましたが、これで作業者と作業監督者の責任を問えるのでしょうか?

 

A: わが国の裁判では、検察は業務上過失傷害罪を問うと思われます。ですが、陪審員制度を採用し ている米国の裁判では別の責任が問われると思います。それは、製造者責任(PL: Product Liability)です。米国の陪審員や裁判官は、わが国のようなボトムアップ思考ではなくトップダウン思 考で判断します。作業者の責任を問うよりも、製造者、つまりガスの配管の設計者の責任を問う 方が事故の再発を防止するうえで効果的であるからです。

 

Q: 「ガスの配管の設計者の責任」とはどういうことですか?

 

A: ひと言でいえば、図.2 のガスの配管にはヒューマンファクター設計が施されていないということです。

 

Q: ますますわかりにくくなりましたが、「ヒューマンファクター設計」とはどういうことですか?

 

A: この事故のように、ガス爆発という深刻な事態をまねくようなエラーが起きる可能性をあらかじめ想 定して、それを極力防げるように設計することです。そのためには、トップダウン思考のリスクマネージメン トであるヒューマンファクターの知識が必要になります。

 

Q: ここで必要な「ヒューマンファクターの知識」とは具体的にどういうことですか?

 

A: わが国ではあまり知られていませんが、逆ネジ(逆タップ)という技術です。欧米では一般的な技 術です。図,2 のネジ部 A とネジ部 B を互いに逆ネジにすれば、ネジ部 A を不用意に緩めてもネジ部 B が緩むことはありません。欧米で設計、製造される航空機の油圧系統や燃料系統、高圧空気(ニュ ーマティック)系統には、逆ネジの技術が採用されています。逆ネジのようなヒューマンファクター設計がなされて いない航空機は、FAA や EASA の型式証明を取得することは難しいといえます。

 

Q: 逆ネジという技術は、わが国では一般的でないのですか?

 

A: ヒューマンファクター設計のような斬新な技術の話をすると、「わが国でも同じような技術を採用してい る」と言い訳する技術者がいます。わが国で一般的な逆ネジとは、固着したネジやヘッドがなくなっ たネジを外すためにネジの内側に逆のネジを切ることであったり、ナットの緩みを防ぐためにもう1つ 逆ネジのナットを追加するダブルナットのことです。上記のように作業者のエラーの防止を目的とした逆ネジ は、わが国ではほとんど採用されていません。

 

Q: ヒューマンファクター設計を採用していないのはガスの配管だけではなく、気体や液体を輸送するあらゆる 種類の配管も同じといえませんか?

 

A: すべての配管にヒューマンファクター設計を採用するのは現実的ではありませんが、作業者のエラーで深刻な 事故が起きる箇所を選んで優先的に採用すべきと思います。

 

Q: わが国の企業が海外で同じような事故を起こした場合、わが国のように作業関係者の業務上過失 傷害や過失致死では済まないということですか?

 

A: その通りです。米国の陪審員裁判で製造者責任と判決されれば、青天井の賠償額を請求されま す。賠償額の支払いで困窮するのは製造者だけではありません。保険会社にも相応の被害が及び ます。欧米の大手の保険会社は、クライアントにヒューマンファクターの手法をアドバイスするために、ヒューマンファクター の専門家を雇用するとか、ヒューマンファクターのコンサルタントと契約しています。 

 

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自動運転で事故急増

2023-07-06

 

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2023 年 6 月 22 日、高速道路の工事現場で衝突事故が多発しているとして、NEXCO 中日本が事故 発生時の映像を You Tube に公開しました。「走行中は前を見て運転してください」と警鐘を鳴 らしています。映像は工事現場に配置された作業車両に取り付けられたカメラが記録したもので、 現場手前に置かれている矢印が描かれた表示板を吹き飛ばしながら迫る車両や、ノーブレーキで作業 車両に衝突するトラックなど、高速道路上で発生した交通事故の瞬間がまとめられています。事故の 多くは「前方不注意」が原因とみられ、スマホなどを見ながら運転していた「ながら運転」による 事故のほか、自動車に搭載されている運転支援機能(ACC など)を過信しすぎて事故を起こした 人も多いとしています。実際に映像を確認してみると、案内板に接触した直後に慌ててハンドルを 操作しているような車両が目に付きます。NEXCO 中日本は「ACC などの運転支援機能は、工事規 制材箇所の矢印板に反応しませんので、運転の補助機能として活用し、走行中は前を見て運転し てください」と呼びかけています。

 

図.1 NEXCO 中日本が公表した事故映像

 

Q: ACC とはどのような自動運転ですか?

 

A: 一般的には Auto Cruise Control の略ですが、Adaptive Cruise Control を指す場合もありま す。Adaptive Cruise Control とは、Auto Cruise Control に自動でブレーキがかけられる機能を追 加した自動運転です。どちらも、前を走る車両との間隔を検知してアクセルやハンドルを自動制御する ことで、衝突を回避する機能ももっています。「レベル 2 の自動運転」に分類されています。

 

図.2 ACC の概念図

 

Q: NEXCO 中日本による映像の公表をどう思いますか?

 

A: 自動運転の普及にともなう高速道路管理会社の嘆きとも聞こえます。これまで、わが国のマスコミや 知識人はこぞって自動運転を礼賛してきました。テレビに頻繁に出演するあるコメンテーターは、「自動運 転こそがわが国が目指すべき自動車の安全技術」とまで礼賛しています。ですが、弊社はこれまで 一貫して、自動運転の可能性を否定してきました。今般の NEXCO 中日本の嘆きは、弊社の主張の 妥当性を裏づける物語のほんの序章に過ぎません。

 

Q: 自動運転には多少の問題があっても、よく整備された高速道路なら安全に利用できると予測する 専門家も多いようですが、どうなのですか?

 

A: そのような専門家は自動車の自動運転、ひいてはシステムの自動化の本質をよく理解できていないと いえます。おそらく、「航空機も自動操縦を活用できているのだから、自動車も自動運転ができ ないはずはない」などと安易に考えているのだと思います。

 

Q: 航空機の自動操縦はうまくいっていないのですか?

 

A: 自動操縦の実態をよく知らない一般の人々がうまくいっていると誤解するのも無理はありませ ん。航空会社の社員でさえも、自動操縦の実態を知っている人はあまりいません。運航現場で は、自動操縦に関わる深刻な事故やインシデントが数多く起きています。そのほとんどは、「自動化シ ステムに関わるヒューマンファクターの問題」に起因するものです。

 

Q: 「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」とは、わかりやすくいえばどういうことですか?

 

A: システムの自動化とは、人間の脳の機能の一部をコンピュータに代行させることです。自動化のやり方に は大別して2種類あります。技術しか考えずに人間の脳とのバランスを無視する「技術中心の自動 化(Technology-centered Automation)」と、技術と人間の脳の最適なバランスを目指す「人間中 心の自動化(Human-centered Automation)」です。脳の視覚や聴覚が限られた周波数の範囲の 光や音しか感じられないように、脳が顕在意識で処理できる情報量(ワークロード)の範囲は図.3 の ように限られています。ワークロードが過大あるいは過少であれば、脳は顕在意識で情報を処理でき ずに潜在意識で処理します。そうなると、エラーしやすくなります。ワークロードが過大であると、多く の技術者は自動化でワークロードを減らしてエラーをなくそうとします。ですが、そのやり方が「技術中 心の自動化」であると、ワークロードを減らし過ぎて再び脳を潜在意識にしてしまいます。ヒューマンファクタ ーでは、そのような状況を退屈(Boredom)とか警戒心の欠如(Complacency)と称しています。 これが「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」です。この問題を解決するには、自動化のやり 方を「人間中心の自動化」にして、人間が顕在意識で行動できるようにするしかありません。 

 

図.3 自動化による意識レベルの変化

 

Q: 現在の航空機の自動操縦は「人間中心の自動化」とはいえないのですか?

 

A: 残念ながら、そうはいえません。世界のヒューマンファクターの専門家は、現在の自動操縦を「技術中心の 自動化」と考えています。そのため、国連の国際航空機関(ICAO)は新造の航空機を「人間中心 の自動化」の原則で設計することを義務づけています。わが国の航空界にはヒューマンファクターの専門家 がほとんどいないために、航空機の自動操縦に問題があることや、ICAO が「人間中心の自動化」 を義務づけていることは知られていません。

 

Q: ICAO が「人間中心の自動化」を義務づけているということは、「人間中心の自動化」を意識せず に設計された航空機は承認されないということですか?

 

A: その通りです。「人間中心の自動化」を意識して設計しているかどうかは、審査国の当局が設計 責任者に面接して、「人間中心の自動化」の原則を理解しているかどうか確認して判断します。

 

Q: 自動車の自動運転が航空機の自動操縦を模して開発されているとすれば、「技術中心の自動化」 ということになるのですか?

 

A: そういうことになります。世界最大の自動車技術の団体である SAE(Society of Automotive Engineering)では、航空のヒューマンファクターの専門家も交えて自動車の自動運転のあり方を議論して います。ヒューマンファクターの専門家は自動運転も「人間中心の自動化」にするよう提唱していますが、 現実には受け入れられていません。世界の主要自動車メーカーは、ヒューマンファクターなど無視して自動車の 電動化や自動運転の開発を競っています。今般の NEXCO 中日本の嘆きの根源は、「技術中心の自 動化」の自動運転にあるといっても過言ではありません。

 

Q: 航空機の自動操縦には「自動化システムに関わるヒューマンファクターの問題」があるということですが、具体 的な事例でわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: わかりました。ただし、それにはタブーを破るための若干の勇気が必要になります。多くの航空会 社が、乗客に不安感を持たせないために運航の実態の公表を躊躇しているからです。

 

Q: 「運航の実態」とはどういうことですか?

 

A: 以前は2人のパイロットを「機長(Captain)」と「副操縦士(Co-pilot)」と称していましたが、自 動化が進んだ最近の航空機では「操縦パイロット(PF: Pilot Flying)」と「監視パイロット(PM: Pilot Monitoring)」と称するようになっています。多くの人は、2人のパイロットが PF と PM を交互に務 めながら自動操縦を運用していると思っているでしょう。ですが、現実は少し違います。「技術 中心の自動化」である現在の自動操縦が、パイロットに激しい退屈感と眠気を及ぼしているからで す。パイロットの多くは、巡航中に2人で談笑するとか、交替で仮眠をとりなから何とか飛行を続け ています。中には2人のパイロットの脳が潜在意識になる場合もあります。中華航空のボーイング 747SP では、前縁フラップの故障で 90 度傾いたまま飛行していることに気づかず、空中で機体を大破させ たこともあります。危うく墜落するところでした。欧米のある航空会社は、最終の着陸段階で顕 在意識を維持できなければ極めて危険であるとの考えから、「管理された仮眠(Controlled Nap)」という現実的な制度を導入しています。この問題については、ここでは文章にできない事 例もいくつかあります。

 

Q: 「技術中心の自動化」の問題を解決するには「人間中心の自動化」を目指すしかないということ ですが、これまでそれを自動車業界に訴えたことはあるのですか?

 

A: もちろん、あります。弊社代表が JAL に在籍していた 1997 年に、愛知県豊田市のトヨタ技術研究所 でわが国最大の自動車技術学会である自動車技術会(JSAE)の創立 50 周年大会に招請されて、 基調講演をさせていただきました。その際、自動車の自動運転を「人間中心の自動化」にする必 要があると切に訴えました。その後も、JSAE の論文校閲委員として、論文の校閲の際に同じこと を訴え続けました。残念ながら、弊社代表の切実な訴えは自動車業界には届いていないようで す。自動車技術会の上部組織である SAE の研究者とは、これまで何度も議論してきました。

 

Q: 「人間中心の自動化」が必要という局面は、他にもあるのですか?

 

A: 自動化とかデジタル化という局面では、常に「人間中心の自動化」が必要になります。ホットな事例 としては、政府が目指している「マイナンバーの導入」と「ChatGPT の導入」があります。どちらもデ ジタル化であり、広義の自動化といえます。「マイナンバーの導入」では、関与する人間の意識や自動 化の対象を考慮しなかったために、さまざまなエラーが起きています。「ChatGPT の導入」では、わ が国の技術者や知識人は ChatGPT が「人間中心の自動化」ではないことに気づいていません。近 い将来に多くの深刻な問題に遭遇すると予測されます。いずれにしても、わが国にとっては「ヒュ ーマンファクターの導入」が国益のための喫緊の課題といえます。 

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HuFac Solutions, Inc.

潜航艇が行方不明 第二報

2023-06-21
2021-06-25

第1報

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 6 月 18 日、1912 年に氷山に衝突して沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を海底に見に行 く観光用ツアーの潜水艇タイタンが行方不明になりました。現在、米国やカナダの当局が北大西洋を捜索 しています。ツアー会社は海底探査やツアーなどを企画する米国のオーシャンゲート社で、搭乗者は操縦士含 む 5 人でした。うち 1 人は英国人実業家です。ツアーは 1 人当たり 25 万ドル(約 3500 万円)で、カナ ダ東部ニューファウンドランド島のセントジョンズから南へ約 700 キロの海底約 3800 メートルにあるタイタニック号の残 骸を探索する予定でした。未確認情報として、海中で 30 分ごとに物を叩くような音が聞こえる との情報があります。タイタンは内側からは開けることができず、内部の酸素量は限られています。 

 

図.1 行方不明になった潜航艇タイタン

 

Q: 難しいとは思いますが、これまでの情報で事故の態様と原因を推測できますか?

 

A: 信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下では故障樹分析(FTA; Fault Tree Analysis) と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)が行なわれます。この事故につ いても、トップダウン思考で FTA と FMEA を行なえば、事故の態様と原因をある程度推測することがで きると思います。

 

Q: FTA を行なえば、事故の態様はどのように推測できますか?

 

A: タイタンの構造が水圧で破壊された可能性も否定できませんが、海中で物を叩く音が聞こえたという のが事実であれば除外できます。タイタンは高性能電池(おそらくリチウムイオン電池)を電源として4つ のスクリューで海中を移動します。母船を離れた後には、台座を兼ねたバラストを錘として海中に沈みま す。浮上する際にはバラストを切り離します。異常事態には緊急に浮上する必要があるために、バラ ストを自動的に切り離す安全装置も装備されています。タイタンには操縦士が乗務して、ソニーのゲーム機

「プレーステーション」のコントローラーを使って移動やバラストの切り離しなどを操作します。そこで考えられる のは、機器の故障でバラストを切り離せなくなる事態です。水深 3800 メートルでそのような事態になれ ば、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。水深 3800 メートルでは電波通信はできませんが、母 船が真上にいればソナーによる通信は可能なようです。ですが、バラストの機器の故障と同じ原因でソナ ー通信もできなくなれば、タイタンは行方不明ということになってしまいます。ただ、生存する搭乗 者がタイタンの外壁を叩けば、音波が地上の約 10 倍の速度で海中を伝わる可能性はあります。

 

Q: FMEA を行なえば、事故の原因はどのように推測できますか??

 

A: 操縦士の操作や安全装置の作動はすべて電気的に行なわれます。当然、電気系統には半導体を用 いたマイクロコントローラー(Micro Controller)が組み込まれています。バラストを切り離すマイクロコントローラーの 半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動(この場合には不作動)すれば、バラストを切り離せなくなっ て、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。この事故原因は、JAXA の H3 ロケットの打ち上げ失敗 や米国スペース X 社のスペースシャトル打上げ失敗、北朝鮮の監視衛星打ち上げ失敗と共通しています。

 

Q: なぜ「共通している」といえるのですか?

 

A: 弊社が常々言っていることですが、わが国の大企業が開発した「ある技術」がすべての事故に関 連しているからです。「ある技術」は驚くほどの勢いで世界に広がっていて、わが国に莫大な外 貨をもたらしています。

 

Q: なぜ、ここで「ある技術」を明らかにできないのですか?

 

A: 「ある技術」で発生しやすくなる EMI には再現性がなく、証拠を一切残さないからです。「ある 技術」が世界で否定されることになれば、わが国は甚大な経済的損失を被ることになります。弊 社とて、確たる証拠なしに事故原因と断定することはできません。読者の方々には、独自に想像 して判断していただきたいと思います。

 

第2報

 

Q: 他の無人潜航艇による探索でタイタンの破片らしきものが見つかったそうですが、第1報での推測に 変化はありますか?

 

A: 特にはありません。なぜなら、第1報での推測は FTA でさまざまな可能性を考慮しうたうえでの 推測だからです。

 

Q: タイタンのプロジェクトでは、過去に関係者の1人が「のぞき窓の強度が水深 1300 メートルでの水圧しか保 障されていない」ことを指摘していたそうです。のぞき窓が水圧で壊れたことが事故原因とは考 えられませんか?

 

A: 第1報での FTA では、のぞき窓だけでなくタイタンの構造のどこかが疲労による経年劣化で壊れた可 能性も考慮しています。ですが、構造が水圧で壊れる前には何らかの兆候があります。兆候が認 められた際には、操縦士はバラストを手動で切り離して直ちに浮上することになっています。タイタン の潜航は観光だけでなく試験潜航の目的も兼ねています。操縦士や他の搭乗者がそういった兆候 を見逃したとは思えません。

 

Q: 操縦士や搭乗者も人間ですので、兆候を見逃すこともあるのではないですか?

 

A: その可能性は否定できません。兆候を見逃さなくても、直ちにバラストを切り離して浮上する決断 をできなかった可能性もあります。そのために、兆候を自動的に感知してバラストを自動的に切り 離す自動化安全装置が装備されています。

 

Q: 安全装置はのぞき窓や構造の破壊の兆候をどのように感知するのですか?

 

A: タイタンの設計を確認してはいませんが、常識的には、破壊の兆候が予想されるのぞき窓や構造の部 分に歪みセンサー(Strain Sensor)を取り付けます。センサーがある閾値(しきい値、Threshold)以上 の歪みを感知すれば安全装置が自動的に作動するようにします。一般的に、歪みセンサーはごくわず かな歪みでも敏感に感知できます。 

 

図.2 歪みセンサー

 

Q: のぞき窓や構造の破壊は事故の直接の原因ではないということですか?

 

A: 事故の原因ではなく、結果ではないかと考えています。事故調査でよく見られるエラーに、事故の 結果を原因と考えてしまうエラーがあります。先日わが国で起きた知床遊覧船の沈没事故でも、運 輸安全委員会(JTSB)は「ハッチの蓋のヒンジ部分の破壊が事故原因」と半ば結論づける初期報告を 公表しました。ですが、ヒンジ部分の破壊は脆性破壊であり、事故以前から進行していた疲労破壊 ではないことは確認されています。つまり、ヒンジ部分の破壊は事故の原因ではなく結果に過ぎな いといえます。最近になって、JTSB は初期報告の結論を考え直そうとしているとの情報を得てい ます。JTSB が公式の報告を訂正するというのは異例の事態ですが、その勇気を示していただきたいと思っています。タイタンの構造の破壊も、事故の原因ではなく結果に過ぎない可能性もありま す。事故当局には慎重に調査してもらいたいと願っています。

 

Q: 第1報で推測されている原因でタイタンが 3800 メートルの深海で身動きがとれなくなっていれば、構造 が破壊される可能性はあるのですか?

 

A: 身動きがとれなくなっているだけでは、直ちには構造は破壊されません。ですが、その時間が長 くなれば可能性はあります。先ず、構造の最も弱い部分が破損します。その破損が急激であれ ば、周辺の空気の流れが音速を超えて衝撃波が発生します。その衝撃波が構造内部に伝播して、 構造を一気に破壊します。衝撃波にはそれほど膨大なエネルギーがあります。この破壊モードは疲労破 壊ではなく脆性破壊ですので、タイタンの残骸を回収して破面分析すれば確認できます。

 

Q: 第1報の推測の根拠として「ほぼ 30 分の間隔で物を叩くような音を感知した」という情報があ りますが、どう考えていますか?

 

A: 海中にはさまざまな音源があると思います。ですが、「ほぼ 30 分の間隔で」という情報に注目し ています。この情報が真実であれば、搭乗者は一定の時間内で生存していたことになります。そ の真偽については、さらなる情報を待ちたいと思っています。

 

Q: タイタンにわが国の大企業の「ある技術」が採用されていると推測していますが、その根拠は何です か?

 

A: タイタンのプロジェクトを進めているオーシャンゲート社が米国ワシントン州のエベレットにあるということです。同地に はボーイングの本社と主要工場があります。ボーイングは「ある技術」を航空機やロケットに全面的に採用 しています。タイタンの設計、製造に際して、オーシャンゲート社がボーイングの影響を受けている可能性は否 定できません。そうだとすれば、ボーイングはオーシャンゲート社に設計に関するさまざまなアドバイスをし た可能性があります。ですが、ボーイングも「ある技術」と EMI の関わりまではアドバイスできなかっ たと思っています。もしかしたら、タイタンの事故の真因は「オーシャンゲート社のボーイングに対する過 信」、さらには「ボーイングのわが国の技術に対する過信」なのかも知れません。弊社はこの問題を さらに深堀りしていこうと考えています。

 

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潜航艇が行方不明

2023-06-21

 

Q: どのような事故ですか?

 

A: 2023 年 6 月 18 日、1912 年に氷山に衝突して沈没した英豪華客船タイタニック号の残骸を海底に見に行 く観光用ツアーの潜水艇タイタンが行方不明になりました。現在、米国やカナダの当局が北大西洋を捜索 しています。ツアー会社は海底探査やツアーなどを企画する米国のオーシャンゲート社で、搭乗者は操縦士含 む 5 人でした。うち 1 人は英国人実業家です。ツアーは 1 人当たり 25 万ドル(約 3500 万円)で、カナ ダ東部ニューファウンドランド島のセントジョンズから南へ約 700 キロの海底約 3800 メートルにあるタイタニック号の残 骸を探索する予定でした。未確認情報として、海中で 30 分ごとに物を叩くような音が聞こえる との情報があります。タイタンは内側からは開けることができず、内部の酸素量は限られています。

 

図.1 行方不明になった潜航艇タイタン

 

Q: 難しいとは思いますが、これまでの情報で事故の態様と原因を推測できますか?

 

A: 信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下では故障樹分析(FTA; Fault Tree Analysis) と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)が行なわれます。この事故につ いても、トップダウン思考で FTA と FMEA を行なえば、事故の態様と原因をある程度推測することがで きると思います。

 

Q: FTA を行なえば、事故の態様はどのように推測できますか?

 

A: タイタンの構造が水圧で破壊される可能性も否定できませんが、海中で物を叩く音が聞こえたという のが事実であれば除外できます。タイタンは高性能電池(おそらくリチウムイオン電池)を電源として4つ のスクリューで海中を移動します。母船を離れた後には、台座を兼ねたバラストを錘として海中に沈みま す。浮上する際にはバラストを切り離します。異常事態には緊急に浮上する必要があるために、バラ ストを自動的に切り離す安全装置も装備されています。タイタンには操縦士が乗務して、ソニーのゲーム機 「プレーステーション」のコントローラーを使って移動やバラストの切り離しなどを操作します。そこで考えられる のは、機器の故障でバラストを切り離せなく事態です。水深 3800 メートルでそのような事態になれば、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。水深 3800 メートルでは電波通信はできませんが、母船が 真上にいればソナーによる通信は可能なようです。ですが、バラストの機器の故障と同じ原因でソナー通 信もできなくなれば、タイタンは行方不明ということになってしまいます。ただ、生存する搭乗者が タイタンの外壁を叩けば、音波が地上の約 10 倍の速度で海中を伝わる可能性はあります。

 

Q: FMEA を行なえば、事故の原因はどのように推測できますか??

 

A: 操縦士の操作や安全装置の作動はすべて電気的に行なわれます。当然、電気系統には半導体を用 いたマイクロコントローラー(Micro Controller)が組み込まれています。バラストを切り離すマイクロコントローラーの 半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動(この場合には不作動)すれば、バラストを切り離せなくなっ て、タイタンは海底で身動きがとれなくなります。この事故原因は、JAXA の H3 ロケットの打ち上げ失敗 や米国スペース X 社のスペースシャトル打上げ失敗、北朝鮮の監視衛星打ち上げ失敗と共通しています。

 

Q: なぜ「共通している」といえるのですか?

 

A: 弊社が常々言っていることですが、わが国の大企業が開発した「ある技術」がすべての事故に関 連しているからです。「ある技術」は驚くほどの勢いで世界に広がっていて、わが国に莫大な外 貨をもたらしています。

 

Q: なぜ、ここで「ある技術」を明らかにできないのですか?

 

A: 「ある技術」で発生しやすくなる EMI には再現性がなく、証拠を一切残さないからです。「ある 技術」が世界で否定されることになれば、わが国は甚大な経済的損失を被ることになります。弊 社とて、確たる証拠なしに事故原因と断定することはできません。読者の方々には、独自に想像 して判断していただきたいと思います。

 

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原発再稼働の条件

2023-06-18

 

Q: 政府は 3.11 の災害で停止していた原発を原子力規制委員会による安全確認の後で順次再稼働す る方針ですが、規制委員会の再稼働の条件に問題があるということですか?

 

A: その通りです。詳細について述べる前に、ある方からのメールを下記に紹介させていただきます。 この方は、本年 3 月 31 日に弊社代表がある会合で講演した際に聴講された方です。わが国を代 表する企業の研究所に勤務された後に、大学教授や民間の研究所所長、コンサルタントなどで活躍され ています。メールの公表については、ご本人の承諾を得ています。

 

 

○○と申します。さる 3 月 31 日の「デジタル化社会のリスクマネージメント」と題する講演で質問させてい ただきましたが、追加のコメントをさせていただきます。それは福島第一原発に関わることです。国民 全体が事の真相を正しく認識すべき歴史的大事故であるにもかかわらず、事故原因調査すら曖昧 模糊という情けない事態を放置してよいはずはありません。講演は、刺激の多いレクチャーであり、考 えさせられることが多々ありました。中でも最も印象に残った話題を採り上げ、感じた事を申し ます。

 

■ 福島第一原発のメルトダウン:

 

   この原因について 2019 年 9 月に文芸春秋に公表された現場の技師による暴露記事があります。お 読みになったかも知れませんが、注目すべき記事と考えるので、添付します。(弊社注:著作権の 関係で記事の添付は控えます) 投稿者は事故当時福島第一の現場の「炉心屋」と呼ばれる技術者 として働いていた木村俊雄氏です。木村氏によれば、4 つの事故調査団が出した報告書はいずれも 事故の真相解明に至っていません。文春の記事では、ジェットポンプ計測配管破損⇒燃料棒冷却用水 自然循環停止⇒気泡発生⇒冷却不能⇒ドライアウト⇒メルトダウンという経過で炉心破壊に至ったとありま す。つまり炉心メルトダウンの切掛けは、地震発生1分 30 秒後の冷却水循環系統の破損であり地震動 そのものの最初の衝撃で起こっている。これは「想定外の津波被害に基づく電源喪失によるメルトダ ウン」という東電の公式発表とは大違いである。そしてこれは、原子炉の設計不備であり、大地震の 振動そのものに耐えられない脆弱な構造であったということなので、全ての原子炉に共通する設 計欠陥であり、明確な人為ミスということ。原子炉内微細配管系統の安全確保の設計変更が必要で あり、これは巨額のコストとなり実現不可能と断じている。つまり、原発にはもともと無理があると いうのが経験豊富な現場技師の認識。「想定外の津波被害による過失致死」の裁判で東電幹部の刑事責任が問われることはなく無罪となった。たいへん多くの国民に甚大な被害を与えた人為ミスに よる事故の訴訟において無罪になったという「茶番劇」と言える。何重にも積み重なった嘘の上に 居座る会社幹部の姿は、死神とも貧乏神ともつかない情けないものであった。ただひたすら「多大 な迷惑を掛けて申し訳ない」と形式的に言い続ける姿が馬鹿々々しい。3.11 以前にも度重なる原 発事故において、東電は嘘の報告を平気で行うことを繰り返し、その隠蔽体質は公然の秘密と言 える。リスクマネージメントもへったくれもないなあというのが筆者の印象です。「人は嘘をつく」、「人は真 実を突き詰めない」、「人は嘘にまみれて平気で暮らす」というリスクをどうやって遮断できるであろ うか?以下は蛇足ながら・・・。貴兄の内容豊富で重い講演内容に対して、質疑応答時間が余りに も不足、十分な討議ができなかったのが残念でした。

 

Q: このコメントを読んで、どのように感じましたか?

 

A: わが国の知識人の方々が福島第一原発の事故に対する政府や東電の対応に激しい不満をもってお られることがわかります。弊社代表の講演を切っ掛けとして、本音のコメントを寄せてくださったこ とに感謝しています。この方は、東電の原発現場で「炉心屋」と呼ばれる技術者である木村俊雄氏 の記事を読んで、「原発にはもともと無理がある」と考えておられます。ですが、そう断言する前 に事故の真因を精査する必要があると思います。弊社の分析によると、炉心メルトダウンは必ずしも原 発の設計不備が原因とはいえず、東電の技術者が原発の設計理念(Design Concept)を理解してい なかったことによる「致命的なエラー」が原因と考えられます。

 

Q: 「原発の設計不備が原因ではない」といえる根拠は何ですか?

 

A: 原発の設計理念を考えてみる必要があります。すべての原発は、信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の下で入念に故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)と故障モード・影響分 析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)を実施したうえで設計されます。FTA では、原発 の構造が地震や津波、航空機の墜落、ミサイル攻撃などで破損して炉心冷却の全電源が失われること は十分に予測されています。そのため FMEA による対策として、電源なしでも炉心を冷却できる 緊急炉心冷却装置(ECCS: Emergency Core Cooling System)が装備されています。ECCS は、ま さにトップダウン思考のフォールトトレラント(Fault Tolerant)設計の理念に基づく装備といえます。福島第 一原発1号炉では「非常用復水器(IC: Isolation Condenser)」と称されていました。全電源 喪失が起きても、東電の運転員が非常用復水器をうまく活用できていれば、最悪の炉心メルトダウン は回避できました。木村氏は「全電源喪失の原因は地震による原発内部の破損」と考えています が、必ずしもそうはいえないことがわかります。原子力の分野では、トップダウン思考のリスクマネージメントである信頼性監視体制は MORT(Management Oversight and Risk Tree)と称されています。 MORT を有効に実践するには、ヒューマンファクター(Human Factors)を含む科学技術の幅広い知識をも つ、FTA や FMEA の分析をできるトップダウン思考の人材が必要になります。国連の国際原子力機関 (IAEA)は、福島原発事故の前に加盟国に MORT の実践を強く勧告していました。それなのに、 わが国の政府原子力組織と東電は「すべて実施済み」と回答して無視していました。

 

図.1 福島第一原発1号炉の非常用復水器(IC) 

 

Q: 「全電源喪失の原因は地震による原発内部の破損ではない」といえる根拠は何ですか?

 

A: 実は、事故直後の 2011 年 5 月 16 日に、東電が原発敷地内の盛土斜面に建てた送電鉄塔(図.2 の 「夜の森線」の No.27 鉄塔)が地震で倒壊したことを公表しています。送電鉄塔の倒壊が全電源 喪失の主原因であることは間違いありません。木村氏が言うように原発内部の破損があったこと は否定できませんが、主原因ではないと思われます。地震による送電鉄塔の倒壊が原因となると 都合が悪いのか、政府と東電はその後に「津波が事故原因」と強調するようになりました。送電 鉄塔倒壊の現場は放射能レベルが高いために、事故調査団は精査しなかったようです。木村氏も送 電鉄塔の倒壊を知らないようです。原発への送電鉄塔は数多くあります。送電鉄塔の倒壊で全電 源喪失が起きる可能性は決して小さいとはいえません。送電鉄塔の倒壊以外にも、全電源喪失に つながる要因はいくつかあります。

 

図.2 地震で倒壊した原発敷地内の送電鉄塔(No.27) 

 

Q: 「東電の技術者が原発の設計理念を理解していないための致命的なエラーが炉心メルトダウンの原因」と いうのはどういうことですか?

 

A: 事故後の2011年12月9日に毎日新聞がある記事を載せています。下記のような記事です。

 

 

 東京電力福島第一原発事故で、1 号機の原子炉を冷却する非常用復水器(IC)が津波襲来から 1 時間 以内に再稼動した場合、炉心溶融に至らなかつたことが 8 日、原子力基盤安全機構(JNES)の解析 で分つた。IC は電源が失われても動く唯―の冷却装置だが、IC につながる配管の弁が閉じ、機能 を果たせなかった。迅速に弁を開ける方法を準備していれば、炉心溶融は避けられた可能性があ る。(中略)電源喪失に伴ない弁がすべて閉まるよう設計されており、地震発生後は断続的に動い たが津波後に開じた。2 時間 40 分後の午後 6 時 18 分、蓄電池が復旧して弁が開き 7 分だけ稼動し たものの、運転員が IC の冷却水不足を懸念し手動で停止、再稼動はさらに 3 時間後だつた。

 

Q: 「(IC は)電源喪失に伴ない弁がすべて閉まるよう設計されており」とはどういうことですか?

 

A: トップダウン思考で考えれば理解できます。原発は原子力平和利用の1例です。ウランやプルトニウムなどの 核分裂で発生する膨大なエネルギーを、核兵器としてではなく、臨界を巧妙に避けることで発電に利 用しています。いわば原発は、コンピュータで核反応を自動制御するための「巨大な自動化システム」と いえます。コンピュータは電力がなくなれば使えなります。システム工学では、コンピュータが電力喪失で使え なくなる事態を想定して手動バックアップを準備するのは常識とされています。それに、手動バックアッ プは自動ではなく人間の意思で開始されなければならないというのもシステム工学の常識です。ECCS や非常用復水器はまさに原発の自動化システムの手動バックアップといえます。そのため、自動ではなく 人間の意思で弁を開けて作動開始されるように設計されています。

 

Q: 「東電の技術者が原発の設計理念を理解していなかった」といえる根拠は何ですか?

 

A: 毎日新聞の記事に「迅速に弁を開ける方法を準備していれば、炉心溶融は避けられた可能性があ る」と書かれています。つまり、東電の運転員は非常用復水器の弁を(手動で)迅速に開ける方法 を準備していなかったといえます。弁を手動で開ける方法を準備していなかったことが、「原発の 設計理念を理解していなかった」根拠といえます。実は、弁は全電源喪失でも手動で開けられるよ うに設計されています。弁を手動で開けるには、放射能レベルが高い原発建屋内部にある手動用ハン ドルにアクセスする必要があります。それに、炉心を通った 400℃の高温水で加熱された手動用ハンドルを 開けるには専用のツールが必要です。残念ながら、東電の運転員には手動用ハンドルを操作する勇気と 準備がありませんでした。東電の技術者が原発の設計理念を理解できていれば、事前に訓練で準備できたと思います。航空界ではその種の訓練を CRM(Crew Resource Management)訓練と称して しています。

 

Q: 毎日新聞の記事には詳しく書かれていませんが、東電の運転員が最終的に非常用復水器の弁を閉 じてしまった「致命的なエラー」とはどのようなエラーですか?

 

A: 全電源喪失の後で、東電の運転員は非常用復水器が作動しているかどうか不明のため、通称「豚 の鼻」と称される水蒸気排出口を点検してみました。その時、排出口からは水蒸気が出ていませ んでした。運転員はその状況を見て、復水器の水がすでに蒸発してしまったと思い込んでしまい ました。「空焚き」のままでは復水器が破損して放射能漏れをまねくと恐れた運転員は、慌てて 僅かに残る蓄電池の電力で弁を閉じてしまいました。直後に電力が完全になくなり、弁を再び開 けられなくなってしまいました。それが「致命的なエラー」ですが、その後のわが国の運命を大き く変えることになってしまいました。実は、「豚の鼻から水蒸気が出ていない」という現象には 2つの意味があり、曖昧なデジタル情報といえます。2つの意味とは、①水が沸騰してすべて蒸発 してしまったか、②水がまだ沸騰せず水蒸気が出ていない、ということです。「人間が非常時に 曖昧なデジタル情報を潜在意識で処理すれば、エラーしやすい」というのはヒューマンファクターの定説です。 東電の技術者にヒューマンファクターの知識があれば、「致命的なエラー」を防ぐことができたはずです。

 

図.3 通称「豚の鼻」の水蒸気排出口

 

Q: 他にも「東電の技術者が原発の設計理念を理解できていない」といえる根拠があるのですか?

 

A: あります。木村氏が文春の記事の中で「炉心冷却のための自然循環」と書いていることです。ここ でいう「自然循環」とは非常用復水器のことです。非常用復水器を「自然循環」と称している木村 氏は、非常用復水器が自然に(自動的に)作動するものと誤解しているようです。しかも、「自然 循環が地震で破損して使えなくなった」と書いています。非常用復水器はいたって単純なシステムで あり、地震では容易に破損しません。非常用復水器を「自然循環」と誤解していたのは木村氏だけ でなく、東電の技術者の多くも同じ誤解をしていたものと思われます。

 

Q: 文春の記事の中で木村氏は「4 つの事故調査団が出した報告書はいずれも事故の真相解明に至っ ていない」と書いているそうですが、どう思いますか?

 

A: 原発事故に限らず、関連分野の専門家が適切な事故調査をできるとは限りません。適切な事故調 査を行なうには、関連分野の知識だけでなくヒューマンファクター(Human Factors)を含む幅広いリスクマネージ メントの知識が必要です。米国の南カルフォルニア大学や英国のクランフィールド大学などには、各国政府や民間企 業の事故調査担当者を対象とした事故調査のスキルの養成講座が設けられています。福島原発事故を 調査した 4 つの事故調査団には、事故調査のスキルがある学識経験者や技術者が参加していなかった ようです。木村氏自身も、適切な事故調査のスキルをもっているとは思えません。

 

Q: 「適切な事故調査」とは、どういうものですか?

 

A: 事故の真因を的確に解明できて、同種事故の再発を確実に防止するための有効かつ現実的な対策 を引き出すことができる事故調査のことです。適切な事故調査はボトムアップ思考ではできません。ト ップダウン思考による綿密な分析が必要になります。

 

Q: トップダウン思考で福島第一原発事故を分析すると、原因と対策はどうなりますか?

 

A: 直接原因は、①崩れやすい盛土斜面に建てた東北電力からの送電鉄塔が地震で倒壊したこと、② ディーゼルエンジンによる非常用電源が使えなかったこと、③最後の手段である非常用復水器を有効に 活用できなかったことです。間接原因は、①東電の技術者が原発の設計理念を理解していなかっ たこと、②トップダウン思考のリスクマネージメントである信頼性監視体制(原子力の場合には MORT)を構築 できていなかったこと、③内閣と東電経営幹部が原発を廃炉にしてでも炉心メルトダウンを防ぐ決断 をできなかったことです。とるべき対策は、IAEA が勧告する MORT を実践するための人材の養成 と体制の構築を急ぐことです。そのことが「原発再稼働の条件」ということになります。。

 

Q: 「MORT の実践のための人材の養成と体制の構築」はわが国では難しいのではないですか?

 

A: 率直にいって、ボトムアップ思考のわが国の原子力関係者や学識経験者には極めて難しいと思います。 福島第一原発の事故の前に、わが国の政府原子力組織と東電が IAEA の勧告を無視していたことは 前述しました。勧告に対する回答は、その場を繕うだけのいわゆる「やっている振り(Cosmetic Compliance)」でした。事故を防ぐことができなかったことからもそれは明らかです。ですが、わ が国には「難しいからできないでは済まされない」地政学上の事情があります。

 

Q: 「難しいからできないでは済まされない」地政学上の事情とはどういうことですか?

 

A: 炉心メルトダウンの影響をトップダウン思考で考えれば理解できます。偏西風の関係から、炉心メルトダウンに よる放射能拡散の影響は原発の西側よりも東側が深刻です。福島第一原発事故では、幸か不幸 か、放射能のほとんどが東側の太平洋に拡散しました。そのため、放射能拡散によるわが国の被害は比較的軽微で済みました。ですが、わが国の西側の中国では 100 基以上、韓国では 10 基程 度、台湾でも数基の原発が稼働しています。これらの原発の1基でも炉心メルトダウンを起こせば、 わが国にはより深刻な影響が及ぶことになります。国民の健康被害以外にも、経済的に想像もで きない被害が予想されます。そのような国難を防ぐには、わが国は MORT を理解して各国と協力 して炉心メルトダウンの防止に努めるしかありません。

 

図.4 原発事故による放射能拡散の影響

 

Q: わが国が原発を再稼働するかどうかに関わらず、MORT を理解して実践する必要があるというです が、何かそのための活動をしていますか?

 

A: 弊社にできる活動は限られていますが、微力ながら活動しています。本年 1 月 26 日に日本学術 会議が原子力安全に関するシンポジウムを開催しましたが、弊社代表が出席しました。わが国の原子 力安全の主要な学識経験者が一同に会すると案内されたからです。ですが、各講演者の講演の内 容があまりにも現実とかけ離れていることに落胆させられました。事故の唯一の再発防止策であ る MORT に関して講演をする人は誰もいませんでした。原子力規制委員会に関係する講演者もお られましたが、このままでは上記のわが国の地政学上の国難を効果的に防げるとは思えません。 弊社には、MORT の実践に必要な人材の育成と体制の構築について詳しく解説させていただく用意 があります。 

 

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原発稼働の条件
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HuFac Solutions, Inc.

イエティ航空 ATR72-500 が墜落 第2報

 

第1報 2023-01-17
第2報 2023-05-10
第1報
Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 1 月 15 日、ネパールのイエティ航空 YT691 便(ATR72-500))がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終 進入段階で墜落しました。ポカラ国際空港は本年 1 月 1 日に開港しましたが、同便は以前の空港と の間に流れるセティ川の土手に激突して炎上しました。現地の報道によると、パイロットは最初に滑走路 30 への進入を準備した後で滑走路 12 への進入を航空管制に要求したとのことです。同空港の標準 計器到着方式(SIA: Standard Instrument Arrival procedure)によれば、同便は最初に旧空港 に設置されている POK VOR をイニシャル進入位置(Initial Approach Fix (IAF))として 087°の方位 角(Heading)で通過した後に、滑走路 12 に向けて右旋回しなければならないことになっていま す。新空港は旧空港の東南東に位置しています。その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着 陸していました。1 月 12 日の YT677 便(ATR72)だけは、空港の北側を飛んだ後に滑走路 12 に着 陸していました。現時点では、搭乗者 72 名のうち 68 名の死亡が確認されています。 

図.1 イエティ航空の事故機と同型機 

 

Q: これだけの情報では事故原因を推察するのは難しいと思いますが、何か手掛かりになる情報があ りますか?

 

A: その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着陸していたというのに、YT691 だけが滑走路 30 へ の進入を準備した後で滑走路 12 への進入を要求したという情報が気になります。直前の便も滑走 路 30 に着陸したのですから、風は滑走路 30 の向かい風だったはずです。それなのにあえて追い 風となる滑走路 12 への進入を要求したというのは、大きく回り道して滑走路 30 に着陸する余裕 がなかったからだと推測されます。つまり、パイロットは滑走路の変更を要求した時点ですでに何か 操縦の困難性を認識していて、滑走路 12 にそのまま緊急着陸したかったのだと思います。

 

Q: ところで、滑走路の数字は何を意味するのですか?

 

 A: この数字は滑走路の指示標識といいます。航空機の進行方向(離着陸方向)から見た滑走路の方角 を表しています。離着陸時の航空管制とのやりとりなどで使われます。航空機の運航に重要な情 報です。例えば、滑走路 12 は真北を 0°とする時計回りの方向(120°)に向けた滑走路を意味し ます。滑走路 12 と滑走路 30 は同じ滑走路で、向きが 180°異なるだけです

 

Q: パイロットはなぜ航空管制に緊急事態を宣言しなかったのでしょうか?

 

A: 推測ですが、当日の YT691 便が置かれていた特殊な状況に関連している気がします。

 

Q: 「特殊な状況」とはどういうことですか?

 

A: 公式には確認されていませんが、当日の YT691 便では年配の女性副機長の機長昇格チェックが行われ ていたという地元消息筋の情報があります。チェックされていた副機長が操縦していたとすれば、原 因不明の操縦の異常を感じても大袈裟に緊急事態を宣言しにくかった可能性があります。副機長 が操縦の異常を審査教官に話していたとしても、プライドが高い審査教官が大袈裟に振舞うことを 躊躇した可能性もあります。副機長が操縦の異常を感じたのは、滑走路の変更を要求した時点よ りそれほど前のことではないと思われます。

 

Q: 航空機が進入時に遭遇する事故としては CFIT(Controlled Flight Into Terrain)がよく知られ ていますが、この事故は CFIT とは考えられないのですか?

 

A: CFIT とは、パイロットの錯視や錯覚といった脳の潜在意識(Subconscious Mind)で起きる事故で す。パイロットが航空管制に明確に滑走路の変更を要求している状況からは、パイロットが潜在意識で行 動していたとは考えられません。CFIT の可能性はないと思われます。

 

Q: 事故原因が CFIT でないとすれば、航空機を墜落させる原因は他に何があるのですか?

 

A: 主翼の失速(Stall)が最も疑われます。主翼を失速させる要因は2つあります。①主翼の空力 形状の異常と②パイロットによる誤操作です。

 

Q: トップダウン思考の事故原因分析では、その先どのように事故原因を絞り込むのですか?

 

A: トップダウン思考とは、事象を広い視野と深い洞察力で考えて問題解決を探ることです。広い視野で ATR 社製の機種に注目してみれば、ATR42 シリーズや ATR72 シリーズはこれまで主翼前縁(Leading Edge) の着氷が原因で何件か失速による墜落事故を起こしていることがわかります。

 

図.2 ATR72 の主翼前縁の着氷 

 

Q: ATR42 や ATR72 では、主翼前縁の着氷を防ぐ対策はとられていないのですか?

 

A: 主翼前縁の除氷ブーツ(Deicer Boots)など、さまざまな防除氷装置が装備されています。除氷ブ ーツは、主翼前縁の着氷をセンサーで感知してエンジンからのニューマティック(高温高圧空気)でゴム製のブーツを 自動的に膨らませることで着氷を除去する装置です。ところが、これまでの米国の国家運輸安全 委員会(NTSB)による事故事故調査で、ATR42 や ATR72 の除氷ブーツが機能不足であることがわか りました。主翼前縁における除氷ブーツの長さが設計時の2倍必要であるとのことです。FAA は直 ちに ATR42 シリーズと ATR72 シリーズに対して耐空性改善命令(AD)を発効して、改修と設計変更を指 示しました。

 

図.3 ATR42 と ATR72 の防除氷装置

 

Q: 事故機では AD の改修が実施されていたのですか?

 

A: 事故機は 2007 年 8 月に登録されて、その後にいくつかの航空会社で転売されています。AD の改 修が実施されていなければ転売はできません。AD の改修は実施されていたと思います。

 

Q: それなら、他に何が事故原因として考えられるのでしょうか?

 

A: 2つ考えられます。①AD の改修内容がまだ不十分であるか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入 れ忘れていた、ということです。②の原因による事故は現実に何件か起きています。

 

Q: 除氷ブーツがうまく機能しなければ、航空機の操縦にどのような影響があるのでしょうか?

 

A: NTSB による過去の類似事故の調査では、「補助翼の逆効き(Aileron Reversal)」という深刻な 操縦不能に陥ると指摘されています。

 

Q: 「補助翼の逆効き」とはどのような操縦不能ですか?

 

A: 補助翼が取り付けられている主翼部分の前縁に着氷があれば、空気の流れが乱れて後方の補助翼 の揚力に影響を及ぼします。極端な場合には、操縦輪(Control Wheel)を回して補助翼を操作 しても機体が思う方向とは逆に旋回するという現象が起きます。

 

Q: 「補助翼の逆効き」が起きると、パイロットはどのような心理になるのですか?

 

A: ヒューマンファクターの専門家はよく知っています。操縦輪を回せば航空機が所望の方向に旋回するという 現象などは、専門的には制御則(Control Law)といわれています。制御則は訓練の成果として パイロットの脳の潜在意識に刷り込まれます。パイロットが緊急時に潜在意識に反して行動することは容 易ではありません。ほとんどの場合、「補助翼の逆効き」が起きるとパイロットはパニックに陥って航 空機を失速させてしまうと考えられています。

 

Q: 報道されている一般人がスマホで撮影した映像では、機体が失速で錐揉み状態(Spin)になってい るようには見えないのですが、これはどういうことですか?

 

A: 通常は、航空機が失速すると錐揉み状態に陥って墜落します。これも推測ですが、パイロットがポカラ の市街地に墜落しないよう必死に努力していたのではないかと思います。人口が密集する市街地 に墜落すれば、地上で甚大な被害がでることになります。弊社が羽田空港の東京都心上空進入ルー トに懸念をもつのも、東京都心で同じような事故が起きる可能性があるからです。

 

Q: パイロットが除氷ブーツのスイッチを入れ忘れたとすれば、乗客が乗る通常便でパイロットがチェックされることと 関連がないのでしょうか?

 

A: 無関係とはいえないと思います。弊社代表が勤務していた JAL でも、パイロットのチェックをしていた DC-8 による通常便で進入時に空港の着陸灯に脚を接触させるという事故がありました。事故の詳 細は、公式の事故調査報告書でも報告されていて秘密ではありません。チェック飛行では、パイロットが 緊張するだけではなく飛行前の点検作業の分担が乱れる可能性もあります。このことがパイロットの エラーを誘引しないとはいえません。

 

Q: チェック飛行にパイロットのエラーを誘引する要因があるのなら、多くの乗客が搭乗する便でなぜ行なわれ るのでしょうか?

 

A: パイロットのチェックは頻繁に行なわれています。最近は一部がシミュレータで行なわれるようになっています が、機長昇格チェックのように路線の習熟度を確認するチェックはシミュレータでは行なえません。チェックだけの ために飛行させることは多大な経費を要します。それだけに、チェック飛行におけるヒューマンファクターの研 究は重要といえます。JAL における事故の調査では、この点は特に勧告されませんでした。

 

Q: ATR72 や ATR42 はわが国でも使われているのですか?

 

A: ATR72 や ATR42 は世界のコミュータ航空業界でも人気のあるリージョナルジェット機の1つです。わが国のコミュー タ航空会社もすでに使っていますし、今後も導入の計画があるようです。それだけに、わが国の航空界や社会もこの事故に関心をもつ必要があります。

 

Q: これまでのお話はすべて推測の域を出ないと思いますが、この事故の公式調査は今後どのように 行なわれるのでしょか?

 

A: シカゴ条約の付属書(ICAO Annex 13)に則って、ネパールの航空当局とフランス航空当局が事故調査を主 導します。これまでの経験から、米国の NTSB も協力すると思われます。フランスや米国の当局にはトッ プダウン思考ができる人材が揃っているはずです。これから回収される飛行記録の調査から、これ までのお話とは異なる事故の真因が明らかになる可能性もあります。ですがそうだとしても、こ れまでのお話は今後の航空安全の推進のために決して無駄にはならないと思っています。

 

 

第2報

 

Q: 事故調査に進展があったのでしょうか?

 

A: 事故機のブラックボックス(CVR と FDR)が回収され、事故調査チームにより解読されました。事故調査チーム は、本年 2 月 13 日に解読結果を含めた初期報告書(Preliminary Report)を公表しています。初 期報告書の pdf は下記 URL からダウンロードできます。

 https://www.flightradar24.com/blog/wp-content/uploads/2023/02/Yeti-Airlines-15-Jan2023-Preliminary-Report.pdf

 

Q: 初期報告書には、第1報に書かれていない事実が書かれているのですか?

 

A: 第1報に書かれていない主な事実は、降下の終盤でフラップを 30 位置に下げようとした際に、両側エ ンジンの回転数が 25%まで低下してトルクがほとんどゼロになってしまったことです。その時点で、FDR によれば両側エンジンのプロペラがフェザーリング状態に切り替わっています。その直後に、機体が急激に 左旋回するとともに失速警報(Stick Shaker)が作動するという異常が始まっています。

 

Q: 「プロペラのフェザーリング状態」とはどういうことですか?

 

A: プロペラによる空気抵抗を最小にするために、プロペラの角度を気流と平行にセットすることです。パイロ ットが手動で切り替える場合と自動的に切り替わる場合があります。

 

Q: 事故調査チームは何か原因の手がかりを把握できているのでしょうか?

 

A: まったく把握できていないようです。今後は下記の項目を重点的に調査するそうです。 ① 両側エンジンのプロペラがフェザーリング状態に切り替わった経緯(弊社注:手動か自動か?) ② ヒューマンファクター(弊社注:パイロットに何らかの操作エラーがあったのか?) ③ ポカラ国際空港を国内空港と同時運用する際の目視進入方式に問題はないか?

 

Q: 初期報告書には、第1報で推測された事故原因を否定する内容が含まれているのですか?

 

A: 弊社は事故発生のわずか 2 日後に、トップダウン思考で事故原因を①AD の改修内容がまだ不十分であ るか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入れ忘れていた、と推測しました。つまり、原因を「事故機の主翼前縁部分に図.2 のような着氷があった」ことと推測しました。初期報告書は、「事故機の 両側エンジンの推力が同時に低下した」と報告しています。このような特異な現象の原因は、「主翼前 縁部分の着氷」としか考えられません。つまり、初期報告書の内容はむしろ弊社の推測を裏づけて いるといえます。

 

Q: 主翼前縁部分に着氷があれば、なぜエンジン推力が低下するのですか?

 

A: 次のような経緯でエンジン推力が低下します。主翼前縁部分の着氷→主翼の揚力の低下→主翼の迎角 (Angle of Attack)の増加→エンジンの空気吸入口の閉塞(Choking)→エンジンの回転羽根(Blade) の失速→エンジン回転数の低下→エンジン推力の低下の順です。

図.4 ATR72-500 のエンジンの空気吸入口

 

Q: 事故調査チームはなぜ原因の手がかりを把握できないのでしょうか?

 

A: 第1報では、欧米の事故調査専門家がトップダウン思考で原因を推測できるのではないかと期待して いました。ですが、残念ながらそうはならなかったようです。第1報にも書いたように、トップダウ ン思考では「パシロットは着陸直前になぜあえて追い風の滑走路 12 に変更したのか?」ということに 着目します。そして、その理由を「パイロットが主翼前縁部分の着氷による操縦感覚の異常を感じて、 できるだけ早く最寄の滑走路 12 に着陸したいと考えた」と推測します。事故調査チームにそのよう なトップダウン思考ができなければ、この事故は「迷宮入り」するかも知れません。弊社は、事故調査 チームの専門家などにもトップダウン思考を広めていきたいと思っています。

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2023/05/04

HuFac Solutions, Inc.

日本人のDNA

2023-05-04

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 先日、「ANA 松山沖事故の真実」と題する安全情報を発信して、わが国の航空業界が信頼性監視体 制(Reliability Monitoring System)を構築しないまま YS-11 を設計したことで事故が起きた ことをお話しました。さらには、政府や原子力関係者が原子力の信頼性監視体制を構築しないま ま原発を再稼働、新設すれば、福島第一原発の炉心メルトダウン事故と同じような事故が起きる可能 性があるとも警告しました。その安全情報を読まれた読者のお一人が、その日のうちに早々と下 記のようなコメントを寄せてくださいました。この方はすでに現役を引退していますが、優秀な航空 技術者でした。コメントは「日本人の DNA」についても言及しています。そこで今回は、このテーマにつ いてさらに深堀りしてみたいと思います。

 

 

ご無沙汰しております。いつも配信頂きありがとうございます。唐突な返信をお許しください。ひ と言だけです。今回の安全情報の最後の4フレーズに全く同意いたします。最近、いろいろな報道で 「世界最大(級)の・・・」とか「世界初の・・・」といった、別に言わなくてもよい、もしくは 完全には確認されていない、このような修飾語をつけたがる日本人が多いことに気づきました。 これまでの Made in Japan 品質や小型・軽量化を実装する日本製品の独特性を誇りに思うことから 飛び出て、世界を知らない島国根性の発例ではないかと思っています。「TV がきれいに映るから日 本の原発は安全だ」などと飛躍してしまって、世界の原発がもっと安全上進化していたことに気 づかなかったのがあの原子力安全委員会の体たらくだったと思っています。老体に鞭打ってあえ てコメントさせていただきます。

 

Q: コメントには「Made in Japan 品質や小型・軽量化を実装する日本製品の独特性を誇りに思う」という 表現がありますが、どう思いますか?

 

A: つい最近、まさに思い当たる経験をしました。弊社の考えや活動を支援してくださる方から、「ソニ ーの DNA」という言葉を聞かされました。どうやら、「ソニーのヒット商品であるウォークマン(Walk Man)はソ ニーの DNA でしか発想できなかった」ということのようです。ウォークマンはエンジン音がうるさい航空機内 でも音楽などを楽しめるようにとの社員の発想で開発されたそうです。ソニー創業者の1人である井 深大氏の経営哲学の体現でもありました。ソニーの社員は今でも、その哲学を「ソニーの DNA」として引 き継いでいるそうです。ウォークマンに纏わる別の逸話を知っている弊社は、その話を聞いても俄かに は同意できませんでした。失礼とは思いましたが、「日本人がそういったDNAを乗り越えなければ、 日本のこれ以上の発展は望めません」とまで言ってしまいました。 

 

図.1 初期のソニーのウォークマン 

 

Q: 日本人のほとんどがウォークマンに誇りをもっていると思いますが、御社にそこまで言わせた「ウォークマン に纏わる別の逸話」とはどういうことですか?

 

A: 以前にもお話しましたが、ボーイングはボーイング 757 と 767 に初めて、小型軽量の高性能コンピュータで高 度な自動操縦を可能にできる飛行管理システム(FMS: Flight Management System)を採用しました。 ライバルのエアバスも、続いて同様の FMS をエアバス A320 に採用しました。いわゆる「ハイテク航空機時代の 始まり」です。ところが、ハイテク航空機の導入直後から深刻なトラブルが相次ぎました。電磁波の影響 (EMI)による FMS の誤作動です。トラブルの内容は、操縦室の計器類の突然の消失(Black Out)と いう程度のものから、航空機墜落事故の原因と疑われるものまでさまざまでした。EMI は一般的に は確認が困難ですが、中には明確に確証が得られたものもありました。EMI の発生源として最初に 確認されたのが、乗客が機内で楽しんでいたソニーのウォークマンでした。機長の指示でウォークマンを OFF にし たところ、トラブルが直ちに解消しました。それ以来、世界の航空界では水面下で「ウォークマンに気をつ けろ」という悪評が広まってしまいました。EMI を発生する電子製品はウォークマンだけではありません が、人気のあるウォークマンが象徴的に槍玉にあげられてしまったといえます。これらはすべて英語に よる専門的な情報ですので、わが国の航空界で知る人はほとんどいません。ソニーはウォークマンを「売れ る商品」として誇りに思っているようですが、これも世界の情勢に疎い「日本人の DNA」といえる かも知れません。ソニーは「安全な商品」を目指す DNA も後世に伝えていただきたいと思っています。

 

Q: 現在も EMI によるトラブルは続いているのですか?

 

A: 世界の航空界は、EMI によるトラブルを経験した直後に機内での電子機器の使用を厳しく規制しまし た。わが国の航空界は「ウォークマンの逸話」などを知らないために、航空会社には電子機器の規制に 激しく抵抗する技術者もいました。現在では、スマホなどの電子機器に「機内モード(Air Mode)」が 設けられたことや、FMS にフォールトトレラント設計が施されたことでトラブルは減少しています。規制も緩和 されています。ソニーや航空会社の技術者が「ウォークマンの逸話」を知らないのも、世界の情勢に疎い 「日本人の DNA」といえそうです。

 

Q: コメントには「世界の原発がもっと安全上進化していたことに気づかなかった」という表現がありま すが、どう思いますか??

 

A: このコメントは非常に重要です。弊社は安全情報の中で「わが国の航空業界や原子力業界は信頼性監 視体制を構築できていない」と指摘しました。ですが、読者の方々はわが国の技術が世界標準に どれほど遅れているのかをまだ実感できていないと思います。政府や政党、民間の事故調査チーム が福島第一原発の事故の真因をまだ分析できていないことも、その一因かも知れません。原子力 の関係者が信頼性監視体制を理解できていれば、福島第一原発の事故は間違いなく防止できてい ました。残念ながら、わが国はそれができずに現在の苦境を余儀なくされています。

 

Q: 「福島第一原発の事故を間違いなく防止できた」というのはどういうですか?、

 

A: GE などの欧米の原発メーカーは、信頼性監視体制の下、故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)で 地震や津波、ミサイル攻撃などで原発が破損して全電源喪失に至ることを予測できていました。FTA で予測される全電源喪失で炉心のメルトダウンが起きるのを防止するために、故障モード・影響分析 (FMEA: Fault Mode & Effect Analysis)で対策を考えていました。それが、緊急炉心冷却装置 (ECCS: Emergency Core Cooling System)です。ECCS は、電力がなくとも炉心を継続的に冷却 できます。福島第一原発の1号炉の型式では「非常用復水器」と称されています。ところが、わが国の原子力関係者や東京電力(TESCO)は「非常用復水器」が信頼性監視体制で考案された 「原発の命綱」であることを知りませんでした。そのため、「非常用復水器」の使い方を熟知せ ず、全電源喪失で間違って弁を閉めてしまいました。「非常用復水器」を使ってうまく時間を稼 いでいれば、廃炉はさけられないものの、海水などを使ってメルトダウンを避けることができまし た。世界の原子力業界は、ECCS に重点を置いて設計と訓練方式の改善に努めています。因みに、 1号炉と同じ型式の原子炉を運用している台湾の電力会社は、「非常用復水器」の重要性を熟知 して現場の運転員の訓練を重ねていました。

 

図.2 福島第一原発1号機の非常用復水器 

 

Q: わが国の原子力規制委員会が原発再稼働の条件にしている安全項目には信頼性監視体制の構築は おろか ECCS の訓練も含まれていませんが、どう思いますか?

 

A: これも「日本人の DNA」としか言いようがありません。原子力規制委員会の学識経験者は、原発の 信頼性監視体制などまったく念頭に置いていないようです。政治家や官僚、マスコミがそのことを批 判できないのも、「日本人の DNA」といえます。「日本人の DNA」は、無知を指摘して恥をかかせる ことや、他者の領分を侵すことを極端に嫌うようです。このような状況に甘んじなければならな いわが国の国民は、不幸といわざるを得ません。不幸に気づこうとしない国民の DNA も、やはり 「日本人の DNA」といえそうです。

 

Q: ところで、信頼性監視体制の先駆者である世界の航空界は、具体的に信頼性監視体制をどのよう に実践しているのですか?

 

A: それを知れば、わが国の航空界が世界標準から如何に遅れているかを実感することになります。 米国の FAA は、1964 年にすでに CASS (Continuing Analysis and Surveillance System、継続的 な分析による監視制度)という信頼性監視体制を法制化しています。CASS とは、熾烈な競争にさら されている民間航空業界で生き残るための唯一の経営戦略と考えられています。利潤追求だけで なく、事故防止などの安全推進や運航実績の向上、運航費用の削減といった広範な課題をトップダウ ン思考で解決できなければ、民間航空業界では生き残れません。CASS を実践できない航空会社や航 空機メーカーは、厳しい民間航空業界の中で淘汰されていきます。因みに、CASS を実践できないわが 国の JAL と ANA は、それぞれアメリカン航空とユナイテッド航空の傘下で指導されています。監督官庁であ る航空局(JCAB)も、二国間航空安全協定(BASA: Bilateral Aviation Safety Agreement)を通 じて FAA に指導されています。1964 年といえば、わが国で最初の東京オリンピックが開催された年で す。わが国の YS-11 が FAA の型式証明を取得しようとしていた頃には、FAA はすでに科学的で合理 的な信頼性監視体制の構築を考えていたことになります。CASS はその後に高度に進化していますが、国家や航空機メーカーが最新の CASS を理解できなければ FAA の型式証明を取得できないことは当 然といえます。  

 

図.3 FAA の CASS

 

Q: 最近話題のChatGPTについての見解がわが国の政府と諸外国の政府で異なるのも、「日本人のDNA」 のせいといえそうですか?

 

A: まさにそう思います。ChatGPT については、メーカーである Open AI の元開発者や著名な AI 研究者が 「核兵器に匹敵する危険な存在」と厳しく評価しています。トップダウン思考ならその意味がわかり ますが、ボトムアップ思考のわが国の政府や国民には理解できないようです。ここでは紙面の都合で 詳しい解説を割愛しますが、今後は ChatGPT に対する厳しい意見が増すものと思われます。日本 人がトップダウン思考で ChatGPT を正しく評価できないのも、「日本人の DNA」といえそうです。

 

図.4 Open AI の ChatGPT

 

Q: 「日本人の DNA」が現実にわが国の国益を棄損しているといえるのですか?

 

A: 多くの局面で国益を棄損しているといえます。ですが、「日本人の DNA」はそのことすら気づこう としません。例えば、JAXA と MHI の H3 ロケット打ち上げ失敗、米国のスペース X 社のロケット打ち上げ失 敗、古くはボーイング 787 のリチウムイオン電池の発火、ボーイング 737MAX の墜落事故には「ある共通点」が あります。そのことは「日本人の DNA」と無縁とはいえません。「ソニーのウォークマン」に似た、わが国 のある一流企業の稚拙な技術が関係しています。そのことが明らかになれば、わが国の技術は著 しく信用を失って、わが国の経済が多大な打撃を被ります。弊社とて、そのことを明らかにする ことはできません。わが国の国民が「日本人の DNA」を克服して、EV の将来やエネルギー問題など、 わが国の将来について自由闊達に議論できる日が来ることを願うばかりです。

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2023/04/29

HuFac Solutions, Inc.

ANA松山沖事故の真実

2023-04-29

Q: かなり昔の航空事故のようですが、どのような事故ですか?
A: 1966 年 11 月 4 日、大阪国際空港発松山空港行きの ANA533 便(YS-11)が松山空港へ陸側から着 陸しようとしていました。当日は雲が低く垂れ込めていたうえに霧雨が降っていた状況で、視界 も含め天候がよくありませんでした。そのうえダイヤが乱れていたことで、533 便の着陸は松山空 港の運用終了時間である午後 8 時を過ぎようとしていました。そのため 533 便は、滑走路の照明 が再点灯されるのを待つために、広島の呉上空からではなく山口の岩国上空を経由して少し遠回 りしていました。午後 8 時 28 分になり着陸しましたが、1,200 メートルの滑走路の半ば(滑走路端か ら 460 メートル地点)付近に接地したためにオーバーランの危険が生じてしまいました。そのため着陸をや り直す着陸復行をしましたが、フラップとランディングギアを格納した後の 533 便の上昇は通常より鈍く、 高度 230~330 フィートまで上昇した後に降下に転じて、左旋回の姿勢のまま空港沖 2.2 キロメートルの伊予 灘(瀬戸内海)に墜落しました。この事故で、運航乗務員 2 名、客室乗務員 3 名、乗客 45 名の計 50 名全員が死亡しました。機体は海面激突時の衝撃で粉砕されました。 
図.1 ANA533 便の墜落事故

Q: 事故から 50 年以上が経った今、なぜこの事故を話題にするのでしょうか?

 

A: 現在、地球温暖化防止のために CO2 を発生しない再生可能エネルギーや原子力の利用に期待がかけら れています。ですが、わが国は深刻な原発事故を経験したことから、原発の再稼働や新設には根 強い抵抗があります。原発の再稼働や新設をどうしても実現しようとすれば、政府や原子力業界 は国民に合理的で科学的な安全対策を示して納得させなければなりません。それができるのは、 「信頼性監視体制(Reliability Monitoring System)の構築」しかありません。2011 年の福島 第一原発の事故は、わが国の原子力業界が IAEA が推奨する信頼性監視体制を構築できていなかっ たことで起きました。そのことをわかっていただくには、信頼性監視体制がどういうものかを具 体的に説明する必要があります。民間航空界でも、国連の ICAO や米国の FAA、欧州の EASA は信 頼性監視体制の構築を要求しています。50 年前のこの事故は、まさにわが国の航空業界が FAA が要求する信頼性監視体制を理解できていなかったことで起きたといえます。そのことを具体的に 説明することが、信頼性監視体制を理解するうえで格好の「反面教師」になると考えた次第です。 信頼性監視体制を理解することが原発の再稼働や新設を検討するうえで必要と考えています。

 

Q: 当時の事故調査の結論はどうだったのですか?

 

A: 当時は専門の事故調査組織がなかったために、運輸省航空局の事故調査チームが調査に当たりました。 事故機にはブラックボックス(FDR と CVR)が搭載されておらず、調査は難航しました。エンジンの故障を 疑う航空専門家もいましたが、事故調査チームの公式の結論は「原因不明」でした。最近、弊社代表 が航空局のトップを務めた方とこの事故について話す機会がありましたが、航空局内では「パイロット のミスによる」という説が流布されているそうです。

 

Q: 事故調査チームは、調査に当たって信頼性監視体制を念頭に置いていなかったのですか?

 

A: 当時のわが国の航空界では信頼性監視体制がよく理解されていませんでしたので、それも無理は ありません。また、合理的なトップダウン思考の事故調査もできなかったようです。

 

Q: 信頼性監視体制とは、概略どういうものですか?

 

A: 人類はこれまでシステムを構築して生存、発展してきました。システムには人類にとってメリットもあります が、ディメリットもあります。ディメリットの代表的なものがシステムの不備による事故です。信頼性監視体制 は先ず、システムを対象に故障樹分析(FTA: Fault Tree Analysis)と故障モード・影響分析(FMEA: Failure Mode & Effect Analysis)を行ないます。FTA とは、どのような事故が起こり得るかを推測する 分析です。FMEA とは、FTA で推測される事故をどのような対策で防止できるかを考える分析です。 とるべき対策は、システムの設計、製造、品質管理、運用、整備点検、訓練などに反映させます。重 要なことは、システムの不備を常に監視して、必要な対策をシステムにフィードバックすることです。最近では、 ヒューマンファクターを考慮した対策を盛り込むことも要求されています。

 

Q: 信頼性監視体制はコンピュータや AI で代行できるのですか?、

 

A: できません。信頼性監視体制には人間にしかできないトップダウン思考が要求されます。コンピュータや AI にはトップダウン思考はできません。コンピュータや AI はあくまでもツールとして活用されます。

 

Q: それでは早速、人間にしかできないトップダウン思考の分析を始めていただけませんか?

 

A: 当時の事故調査チームはボトムアップ思考であったために、ブラックボックスの飛行記録がなければ原因がわか りませんでした。ですが、トップダウン思考なら広い視野でさまざまな情報をもとに原因を洞察でき ます。この事故は、事故機が 1,200 メートルの滑走路の半ば付近に接地したためにオーバーランの危険が生 じたことを切っ掛けに起きました。天候やパイロットの技量も要因として考えられますが、YS-11 の 飛行特性も要因として疑ってみなければなりません。その理由は後述することにします。

 

Q: 「YS-11 の飛行特性の要因」とは具体的にどういうことですか?

 

A: 航空機が低速で滑走路の定点に接地するには、適度な速度安定性(Speed Stability)が必要にな ります。速度安定性がマイナスやゼロ近辺の値であると、パイロットがエンジン出力を増しても速度が逆に減るという制御則(Control Law)の逆転現象が起きます。こうなると、パイロットはエンジンの操作で速 度を微調整できなくなります。低速における航空機の速度安定性は航空機の信頼性の重要な要素 の1つであり、信頼性監視体制で厳しく監視されなければなりません。FAA は、連邦航空規則(FAR) の中に速度安定性に関する厳しい基準を設けています。後述しますが、YS-11 の設計ではこの基 準が無視されていた可能性があります。余談ですが、かつての科技庁航空技術研究所(NAL、現在 の JAXA)が国産の C-1 輸送機を改造して試作した短滑走路離着陸実験機「飛鳥」でも、速度安定 性がマイナスであったためにコンピュータによる自動化システムが導入されました。このような自動化システムは安 定性補助システム(SAS: Stability Augmentation System)とよばれていますが、「飛鳥」の場合には パイロットに不評で実験は実を結びませんでした。

 

Q: 次ぎに分析で着目するのはどういうことですか?

 

A: 事故機が着陸復行(Touch & Go)した後で直進飛行できず左旋回してしまったことです。航空機 が旋回すれば重力加速度(G)が増してさらに失速しやすくなります。パイロットは、低速で旋回すれ ば失速の可能性が増すことはよく知っています。航空局内で流布されている「パイロットが低速で旋 回するミスをした」という説はまずあり得ません。低速における左旋回は、やはり YS-11 の飛行特 性が要因と疑われます。

 

Q: YS-11 の飛行特性が要因と疑われる理由は何ですか?

 

A: YS-11 の主幹メーカーである日本航空機製造(NAMC)が FAA の型式証明(TC: Type Certificate)を 取得する際に、VMCA(Minimum Control Speed in Air)の値が基準を満たしていないことを指摘 されていました。VMCAとは、片側のエンジンが停止した際に 5°以下の傾きで直進飛行できる最低の 速度です。航空機の離陸速度や着陸速度を設定するうえで重要な基準となる速度です。

図.2 VMCA(Minimum Control Speed in Air)

 

Q: VMCAの値が基準を満たさない原因は何が考えられるのですか?

 

A: 通常は、方向舵(Rudder)の効きが悪いのではないかと疑います。そこで、NAMC は YS-11 の方向舵の設計変更を試みました。ですが、思うように改善しませんでした。

 

Q: 事故機が左旋回したことと、VMCAの値が基準を満たさなかったことは関連があるのですか?

 

A: 大いに関連すると思っています。VMCA の値が基準を満たさない原因は、「方向舵の効き」以外に もう1つあります。それは、「両側の主翼の空力特性が対象になっていない」ことです。左右の主 翼の空力特性が対象でなければ、低速時にどちらかの主翼が先に失速して、機体が不意に旋回し てしまいます。YS-11 の設計ではそこまで配慮されていなかった可能性があります。

 

Q: YS-11 はそれでも型式証明を取得できたのですか?

 

A: 結論からいえば、取得できたことになります。ですが、詳細はベールに包まれています。当時、YS-11 の初号機オリンピア号は東京オリンピックの聖火運搬機として使われることを期待されていました。そこで 何らかの政治的配慮があったのではないかとも思われています。YS-11 の設計責任者であった T 氏は、晩年になって雑誌に「当時は VMCAなどの規定が FAR にあることは知らなかった」と率直に 寄稿しています。

 

Q: 設計責任者の T 氏すら VMCAの規定を知らなかったのはなぜでしょうか?

 

A: 驚くかもしれませんが、わが国の航空界には「ICAO や FAA が信頼性監視体制の構築を強く要求し ている」という認識がほとんどありません。そのため、大学の航空学科では ICAO Annex や FAR について詳しく教えられていません。わが国の航空法が ICAO Annex や FAR に準拠していないこと も、国際的に問題視されています。T 氏や NAMC の設計者は、FAA の型式証明を取得するために不 可欠な FAR や関連重要書類を参照せずに YS-11 を設計していたと考えざるを得ません。

 

Q: わが国の国民は「YS-11 は航空大国である日本が自慢できる名機」と信じていますが、これまで の話だけでは到底納得しないのではないですか?

 

A: そう思います。一般国民だけでなくや航空技術者までもそう信じ込んでいるのは、YS-11 の客観 的な安全実績が広く知られていないからだと思われます。

 

Q: 「YS-11 の客観的な安全実績」とはどういうものですか?

 

A: 世界の民間航空機の安全実績はすべて公表されています。下記が YS-11 の安全実績です。

 

 

               製造機数      180 機

               全損機数        28 機

               全損事故数    25 件

               事故死者数    254 人

 

Q: YS-11 の安全実績をどう思いますか?

 

A: 製造機数が 180 機と少ないにも関わらず、全損事故数と事故死者数がそれぞれ 25 件と 254 人とい うのは、率直にいって異例としかいいようがありません。わが国における評判にあるような「名 機」とは到底いえません。事故原因の詳細については精査する必要がありますが、信頼性監視体制の構築なしに、つまり FAR の規定を遵守せずに設計されたことが関係していることは否定でき ません。

 

Q: わが国では原子力についても「世界最高レベルの原子力技術」と自画自賛していますが、この風潮 をどう思いますか?

 

A: わが国特有の文化といえばそれまでですが、原子力業界も航空業界とまったく同じといえます。 原子力学科で原子力の専門家を育てている大学もありますが、航空学科と同じで、信頼性監視体 制などの世界標準のリスクマネージメントは教えていません。50 年前のこの事故は、わが国の技術者が信 頼性監視体制の重要さに気づくチャンスでしたが、残念ながら活かせませんでした。わが国の政府や 原子力業界が信頼性監視体制を構築しないまま原発の再稼働や新設を強行すれば、福島第一原発 と同じような炉心メルトダウン事故が再発することは必至と思われます。わが国の国民や政府は、日本 が世界最悪の原発事故を起こした国であることを謙虚に自覚する必要がありそうです。

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ANA松山沖事故の真実
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2023/04/06

HuFac Solutions, Inc.

保津川下りで水難

2023-04-06

 

Q: どのような水難ですか?

 

A: 2023 年 3 月 28 日、京都府亀岡市の保津川の急流で観光客 25 名と船頭 4 名を乗せた観光船が岩に 衝突して転覆しました。観光客 25 名は何とか助かりましたが、船頭 2 名が死亡しました。船が 岩に衝突したのは、後方で舵取りを担当していた船頭がいわゆる「舵の空振り」でバランスを失っ て船から転落したためと報道されています。死亡した船頭 1 名のライフジャケットは開いていない状態 で発見されました。運輸安全委員会(JTSB)が事故調査に当たっています。

 

図.1 保津川下りの水難

 

Q: わが国には急流の川の景勝地が多く、「急流の川下り」がわが国の観光資源の1つにもなっていま すが、安全対策はこのままでいいのでしょうか?

 

A: 「急流の川下り」は一般の観光とは異なり、観光客が景色を楽しむだけでなくスリルを楽しんでい る側面もあることは事実です。観光客は観光業者が相応の安全対策を講じてくれているとの信頼 の下にスリルを楽しんでいます。ですが、「急流の川下り」の事故は少なくありません。保津川下 りだけでも、過去に少なくとも 3 件の事故が起きています。事故の発端は、船頭による「舵の空 振り」というエラーと伝えられています。その結果、船が岩に激しく衝突して FRP(繊維強化プラスティ ック)製の船体がいとも簡単に損壊しました。船頭のエラーと船体構造の脆弱さは決して看過できる ことではありません。ですが、これらの問題を完全に解決することは難しく、だからといって 「急流の川下り」を禁止することは現実的ではありません。

 

Q: どうすることが現実的なのでしょうか?

 

A: 船頭のエラーをなくすことと船体を頑強にして岩に衝突しても壊れないとうにすることは、それぞ れエラーレジスタンス(Error Resistance)とフォールトレジスタンス(Fault Resistance)とよばれる安全対策で す。どちらも現実には不可能に近い対策といえます。これらに代わり現実に採られている安全対 策がエラートレランス(Error Tolerance)とフォールトトレランス(Fault Tolerance)です。完全にはなくせない人間のエラーや構造の損壊、システムの故障を許容して「最後の砦」として人命だけは守ろうという、ト ップダウン思考(目的重視型)の安全対策です。

 

Q: 水難事故に対しては、具体的にはどのように対策するのですか?

 

A: 船や航空機にライフジャケット(Life Jacket)やライフラフト(Life Raft)を装備します。装備するだけで なく、設計や製造、操作方法、整備点検についても配慮します。「急流の川下り」ではライフラフトは 使われませんので、ここではライフジャケットについてだけお話します。

 

図.2 ライフジャケットとライフラフト

 

Q: ライフジャケットとはどういうものですか?

 

A: 安全器具として国際的に承認されているものは、身体に装着して有事の際に付属のボンベに充填さ れた不活性ガス(炭酸ガスや窒素)で膨張させて身体の浮力を補完するタイプです。補完できる浮力は 10kg 程度で、大人を 24 時間ほど水に浮揚し続けることができます。

 

Q: ライフジャケットを膨張させるシステムはどのようなメカニズムになっているのですか?

 

A: 手動タイプと自動タイプがあります。手動タイプは、ヒモを手で引いてボンベに穴をあけて膨張させま す。自動タイプは、内臓の水感知センサーが水の浸入を自動的に感知して、縮めておいたバネを開放し てボンベに穴をあけます。自動タイプは手動でも膨張させることができます。

図.3 ライフジャケットの膨張システム

 

Q: 膨張システムは定期的に交換する必要はないのですか?

 

A: ボンベのガスの自然漏洩とか水感知センサーの劣化がありますので、1 年ほどで交換します。

 

Q: 水感知センサーはどのようなものですか?

 

A: 電流の変化で水を検知するために、一般のものは半導体(集積回路)と電池で構成されていま す。最近は電池を必要としないタイプも開発されているようです。

 

Q: 膨張システムには何か問題があるのですか?

 

A: いくつかの問題があります。①人間は水に放置された際にパニックになるため、手動の膨張システムで はライフジャケットをうまく膨張させられないことがある、②水感知センサーがわずかな水の浸入で反応し て、ライフジャケットを誤膨張させることがある、③水感知センサーの半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動 して、ライフジャケットを誤膨張させることがある、④水感知センサーの電池(リチウムイオン電池など)の半導体 が EMI で誤作動して、電池を過放電させることがある、などです。ただし、EMI の特性から③と ④は確認することができません。

 

図.4 ライフジャケットの誤膨張(上記②か③)の事例 

 

Q: これまでの知識をもとにこの事故をトップダウン思考で分析すれば、どのようなことが推測されるの ですか?

 

A: 先ず、観光客 25 名全員が無事に救助されていることから、観光客は自動タイプのライフジャケットを装着 していて、問題なく膨張したものと推測されます。助かった 2 名の船頭については、詳しい情報 がありません。ライフジャケットが膨張ぜずに死亡した船頭については、ライフジャケットが自動タイプでもうま く膨張しなかったか、手動タイプでパニックで膨張させられなかった可能性があります。前者だとす れば、上記②か③の理由によるかも知れません。舵を担当していて死亡した船頭については、死 因がわかっていません。もしかしたら、この船頭は「舵の空振り」でバランスを失っったのではな く、心臓疾患などに襲われたのかも知れません。死因は法医学解剖で判明するはずです。

 

Q: ライフジャケットが膨張せずに死亡した船頭が手動タイプのライフジャケットを装着していたとすれば、理由は何 が考えられるのですか? 

 

A: 船頭はプロの資格保持者ですから、上記①の問題を知らないはずがありません。それに、「急流 の川下り」の船頭は多量の水しぶきを浴びるために、水が自動タイプのライフジャケットの膨張システムに浸 入して誤膨張させやすいことを知っているかも知れません。そのために、船頭はあえて自動タイプ ではなく手動タイプのライフジャケットを装着していたかも知れません。

 

Q: 「これまでの話はあくまでも仮定の推測に過ぎない」と思う読者の方もいるのではないですか?

 

A: むしろ、そのような読者の方が多いかも知れません。ですが、そう考えるのはボトムアップ思考で す。確定的な事故原因は JTSB の事故調査を待たねばなりませんが、これまでの経験では、公式 の発表まで1年以上待たねばなりません。わが国には「急流の川下り」が数多く、その間に同種 の事故が再発するかも知れません、トップダウン思考では、「仮定の推測」にかかわらず、蓋然性が あれば何らかの対策を勧告します。それが最新の安全対策である「事前防止型対策(Proactive Countermeasure)」です。2013 年の福島第一原発の炉心メルトダウン事故は、わが国の原子力業界が 原発の全電源喪失を「仮定の推測」と軽視したために起きました。因みに、従来のボトムアップ思考 の対策は「事後処理型対策(Reactive Countermeasure)」といいます。

 

Q: 「急流の川下り」では、具体的に何を勧告すればよいのですか?

 

A: 「急流の川下り」の船頭が上記②の現象を嫌って手動タイプのライフジャケットを装着していたとして も、非難できません。ですが、知識と経験が少ない船頭は、水に放り出された際にパニックになっ て上記①のように手動タイプのライフジャケットをうまく膨張させられないかも知れません。これを防ぐ には、「急流の川下り」の船頭にもヒューマンファクターの訓練をする必要があります。また、上記②と③ のような問題を防ぐために、ライフジャケットを電磁波の影響が少ない場所に保管する必要がありま す。膨張システムの定期的な点検と交換が不可欠なことはいうまでもありません。 

 

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2023/04/02

HuFac Solutions, Inc.

罪深い半導体の誤動作

2023-04-02

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 順を追ってお話します。3 月 30 日の午後、ある会合で「デジタル化社会のリスクマネージメント」と題する 講演をさせていただきました。会場いっぱいの聴講者は、社会で十分な経験を積まれた方々やこ れからの日本を背負う若い方々です。皆さん、レベルの高い方々ばかりでした。講演の内容は、主 に電磁干渉(EMI)による半導体の誤作動の可能性と原因に関するものでした。幸い、皆さんか ら好評をいただき、質疑応答も大いに盛り上がりました。その日の夕刻、たまたま NHK の BS プレ ミアムで放映された「エラー 失敗の法則 - 真相 ハドソン川の奇跡」と題する航空事故解説番組を視聴し ました。NHK の番組のホームページには、概要が「失敗を恐れずに前に進む処方箋として“失敗の歴 史”を紹介する。今回は、離陸直後に全エンジンが停止した状況で、死者ゼロという結果を残した飛 行機事故“ハドソン川の奇跡”を探る。この奇跡の陰には、ある事故の失敗が関係しているとい う。“ハドソン川の奇跡”を生んだ、もう一つの知られざる事故に迫る。」と案内されています。オ リジナルは米国のテレビ局が制作したもののようで、NHK が日本人の解説者を交えて日本語版に編集し ています。番組の後半では、JAL が航空事故対策として導入している CRM(Crew Resource Management)訓練が紹介されていました。 

 

図.1 NHK の航空事故解説番組

 

 

Q: 番組の概要にある「ハドソン川の奇跡」とはどういうことですか?

 

A: 安全情報でもこれまでに紹介したことがありますが、2009 年 1 月 15 日に米国のニューヨークで起きた US エアウェーズ(現アメリカン航空)1549 便(エアバス A320-200)のハドソン川への不時着水事故のことです。離 陸してから着水までわずか 5 分間の出来事ですが、パイロットの優れた判断で乗員・乗客全員を無事 に生還させることができました。当時のニューヨーク州知事が「ハドソン川の奇跡(Miracle on the Hudson)」と称して賞賛しました。トム・ハンクス主演の映画にもなっています。

 

図.2 US エアウェーズ 1549 便の不時着水事故

 

Q: 番組の概要にある「ある事故の失敗」とはどのような事故のことですか?

 

A: 1978 年 12 月 28 日に米国オレゴン州ポートランド近郊で起きたユナイテッド航空 173 便(ダグラス DC-8-61)の 燃料切れ墜落事故です。乗員・乗客合わせて 10 人が死亡しました。着陸のために車輪を出した際 に、ランディングギアのダウンロックを示す青色ライトが正常に点灯せず点滅していました。パイロットは空中待 機(Holding)する間に故障探求と緊急着陸の手順の検討などに専念しました。その間、残燃料 が少なくなっていることに気づかず、機を燃料切れで墜落させてしまいました。事故調査に当た った米国国家運輸安全委員会(NTSB)は、パイロットの注意がランディングギアの故障に一転集中したこ とが燃料切れを失念してしまった原因と結論づけました。併せて、運航乗務員(機長と副操縦 士、航空機関士)間のコミュニケーションがよければ事故を防止できたとして、運航乗務員のコミュニケーション能 力を養成する CRM 訓練の実施を勧告しました。ユナイテッド航空は、NTSB の勧告を受けて航空会社と して世界で初めて独自の CRM 訓練を開発しました。JAL は、御巣鷹山事故の後にユナイテッド航空の CRM 訓練を購入しました。当時のユナイテッド航空の CRM 訓練は、わが国の企業も社員教育に採用して いたグリッド理論(Grid Theory)をパイロット訓練に応用したもので、内容は稚拙でした。

 

図.3 UAL173 便の墜落事故

 

Q: 番組の概要にある「ある事故の失敗が関係している」とはどういうことですか?

 

A: オリジナルの番組に登場している米国のパイロット出身の航空学専門家は、「US エアウェーズ 1549 便の機長と 副操縦士は、ユナイテッド航空 173 便の事故を教訓としてハドソン川に無事に不時着水できた」と解説し ています。別の言い方をすれば、「US エアウェーズ 1549 便のパイロットはユナイテッド航空 173 便の事故を教訓としてコミュニケーションを密にできたから死亡者を出さずに済んだ」というわけです。

 

Q: 米国の航空学専門家によるこの解説には賛同できないのですか?

 

A: 「ハドソン川の奇跡」と賞賛されている US エアウェーズ 1549 便の機長と副操縦士は、単なるコミュニケーション 能力としては表現できない優れた資質をもっていると思っています。そのため、米国の航空学専 門家の解説には違和感をもちました。弊社は、従来から「事故を防止できるパイロットの能力は抽象 的なコミュニケーション能力などではなく、具体的な問題解決能力」と考えています。「具体的な問題解 決能力」というのがトップダウン思考です。そこで、ユナイテッド航空 173 便のパイロットがなぜ墜落事故を 防ぐことができなかったのかを弊社なりにあらためて分析してみることにしました。その結果、 ユナイテッド航空 173 便のパイロットが「ある重要な技術知識」をもっていれば墜落事故を防ぐことがで きたという結論に達しました。NTSB の事故調査では、そのことはまったく指摘されていません。

 

Q: 「ある重要な技術知識」とはどのような知識ですか?

 

A: ユナイテッド航空 173 便の事故のヒューマンファクター分析を通じで説明します。パイロットは着陸準備のためにラン ディングギアを降ろした時点で初めて異常に気づきました。大きな異音がして、ランディングギアのダウン ロックを示す青色ライトが点滅し始めたのです。機長は当初、ダウンロックの指示ライトの故障ではないかとの 疑いをもったようです。

 

Q: 実際にダウンロックされていないのか、単に指示ライトの故障なのかを確認する手段はあるのですか?

 

A: あります。ランディングギアが実際にダウンロックされていれば、主翼の上面に金属棒が突起するように設 計されています。ユナイテッド航空 173 便では、航空機関士が客室に行って窓から金属棒の突起を確 認していました。

 

Q: それでも、機長はランディングギアがダウンロックされていないのではないかと疑ったのですか?

 

A: 結果からいえば、そう思わざるを得ません。機長が疑いを棄てられなかった理由は、ヒューマンファクターの 見地からは青色の指示ライトの故障モードにあると考えられます。つまり、指示ライトがまったく点灯し ていなければ、機長は断線など機械的な理由による指示ライトの故障と納得したかも知れません。で すが、実際には指示ライトは点滅を繰り返していました。機長は、指示ライトには電気が通じていると考 えて、断線などの機械的な故障を否定したはずです。いい換えれば、機長は自身では想定できない 指示ライトの故障モードに遭遇して大袈裟にいえばパニックに陥ったといえます。

 

Q: ヒューマンファクター分析では、その時の機長の心理状態を推定できるのですか?

 

A: ある程度、推定できます。人間がパニックに陥るということは、ヒューマンファクターでは脳の顕在意識が失 われて潜在意識で判断せざるを得なくなると考えます。潜在意識は顕在意識のように理性的で論 理的な判断はできません。当時の機長は潜在意識でしか判断できなくなって、航空機関士が金属 棒の突起でダウンロックを確認したという報告を納得できなくなっていたと考えられます。機長の脳 裏にはランディングギアがダウンロックされていないのままの着陸の光景が浮かんで、パニックの悪循環から ますます抜けられなくなっていた可能性があります。

 

Q: 人間が非常事態でパニックに陥ってうまく行動できなかった事例は他にもあるのですか?

 

A: 数多くあります。福島第一原発1号機の炉心メルトダウン事故もその1例です。この事故では、東電 の運転員が地震による全電源喪失でパニックに陥って、電力なしでも炉心を冷却できる非常用復水 器をうまく使えませんでした。そのため、炉心のメルトダウンをまねいてしまいました。

 

 図.4 福島第一原発1号機の非常用復水器

 

Q: 指示ライトが点滅するという故障モードの原因は何だと考えられるのですか?

 

A: 原因は「半導体の誤作動」と考えられます。ランディングギアのダウンロックの指示システムには、電気的なセン サー(Sensor)があります。このセンサーは、俗に知られているリミットスイッチといった機械的な接触型スイッチ ではありません。プロキシミティセンサー(Proximity Sensor)とよばれる非接触型センサーです。非接触型セン サーは相手の金属の接近を電磁場の変化で感知する電子部品で、内部に半導体(集積回路)が組み 込まれています。ユナイテッド航空 173 便の事故では、この半導体が電磁波干渉(EMI)で誤作動した ために指示ライトが点滅したものと考えられます。当時、機長や他の運航乗務員にその技術知識が あれば、ダウンロックの指示ライトの誤作動であると判断できてパニックから脱出できたはずです。表題に あるように、このことがまさに「罪深い半導体の誤作動」というわけです。

 

図.5 典型的な航空機のダウンロック・センサー 

 

Q: EMI はどのような原因で発生したと考えられますか? 

 

A: NTSB の事故調査では、ランディングギアをゆっくりと降ろすための油圧システムのボルトが腐食で折れてい たことが判明しています。このボルトが折れて油圧システムが正常に作動しなければ、ランディングギアが 急速に降りてダウンロックに激しく衝突します。この金属どうしの衝突で、火花と電磁波が発生して 周囲に伝播します。EMI はその時の電磁波の発生によるものと推測されます。

 

Q: 運航乗務員がそこまでの技術知識を習得するのは難しいのではないですか?

 

A: 一般の航空技術者も EMI を十分に理解できないのですから、運航乗務員に EMI の発生源の特定ま で要求するのは無理があるかも知れません。ですが、「電子部品に使われている半導体が EMI の 影響で誤作動することがある」ことは、デジタル化社会では一般の人々にも要求される知識です。 大勢の生命を預かるパイロットにとって、決して厳しすぎる要求とはいえません。本物の CRM 訓練と は、航空機の運航で遭遇するさまざまな難問をトップダウン思考で速やかに解決する能力をパイロットに 付与する具体的な訓練でなければなりません。単にコミュニケーション能力を養成するだけの抽象的な訓 練であってはなりません。米国では、FAA が航空会社にトップダウン思考のヒューマンファクター訓練である AQP(Advanced Qualification)の実施を要求しています。「ハドソン川の奇跡」と賞賛されている US エアウ ェイス 1549 便の二人の優秀なパイロットは、十分な技術知識をもっていて、常に冷静に判断して パニックに陥ることはありませんでした。まさに AQP を実践できていたといえます。

 

Q: ところで、講演の概要はどのようなものだったのですか?

 

A: 図.6 のような概要で問題提起させていただきました。

 

図.6 講演における問題提起の概要 

 

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罪深い半導体の誤動作
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2023/03/13

HuFac Solutions, Inc.

H3ロケット打上げ失敗

2023-03-13 

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 3 月 7 日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げよう とした H3 ロケット 1 号機が打ち上げに失敗しました。2 段目ロケットのエンジンに点火できなかったために 失敗したものです。ロケットは安全のために爆破されました。今回の失敗は、日本にとってスペース X 社が先行する宇宙開発領域での大きな挫折と指摘する声もあります。日本政府は、打ち上げ失敗 は大変遺憾との表明をしています。 
図.1 H3 ロケットの打ち上げ失敗
Q: JAXA は原因不明としていますが、原因を推定できますか?
A: 一言でいえば、わが国の宇宙開発技術者がトップダウン思考でプロジェクトを推進できなかったことが原 因といえます。直接の原因は、2 段目ロケットのエンジン点火を制御する半導体が電磁干渉(EMI)で誤 作動したことと考えられます。トップダウン思考ができなかったわが国の宇宙開発技術者は、EMI に よる半導体の誤作動を予測できなかったものと思われます
Q: なぜ、EMI による半導体の誤作動と考えられるのですか?
A: 数日前、打上げ準備のテストでブースターロケットのエンジン点火の不具合が発見されて打上げが中止されてい ました。実施されたテストは、BIST(Built-In Self Test)とか BITE(Built-In Test Equipment) とよばれる電子機器類のテストです。システムに組み込まれている半導体などをそのままでテスト用コンピュー タで検査するものです。航空機の整備でも頻繁に実施されています。当日の打上げ前にも同じテスト が実施されたはずです。その時には異常が検知されませんでした。その事実から、EMI による半 導体の誤作動ではないかと疑われるのです。なぜなら、EMI は偶発的にしか発生せず、テストをすり 抜けることがあり得るからです。トップダウン思考ができない技術者には、EMI のこのような特性が 理解できないようです。数日前の打上げ準備のテストで発見されたブースターロケットのエンジン点火の不具合も、EMI による半導体の誤作動であった可能性があります。偶々、EMI がテストの時に発生していた と考えられなくはないからです。
図.2 航空機の BITE テスト 

Q: H3 ロケットの前の H2A ロケットでは 98%の打上げ成功率を達成していたのに、後継の H3 ロケットでなぜ EMI による半導体の誤作動が起きたのでしょうか?

 

A: 原因は2つ考えられます。どちらも衛星打ち上げ競争に勝つための技術開発に関連しています。 2つの原因とは、① 打上げ経費節減のために自動車用の安価な半導体を採用したこと、② ペイロ ード増加のために「わが国のあるメーカーが開発した技術」を積極的に採用したことです。実は、か つて H2A ロケット 6 号機でブースターロケットを切り離せなかった事故が起きた時にも、弊社はトップダウン思考 で EMI によるリチウムイオン電池の半導体の誤作動を疑っていました。当時、JXA とロケットのメーカーの三菱重 工(MHI)は主エンジンの高熱噴流の漏れによる点火システムの焼損と結論づけて、EMI による半導体の 誤作動を疑ってみることはしませんでした。

 

Q: ① がなぜ、EMI による半導体の誤作動の原因になるのですか?

 

A: ハイブリッド車や EV では、EMI による半導体の誤作動による暴走事故が頻繁に起きています。自動車 用の安価な半導体には、EMI 対策としてのフォールトトレランス設計が採用されていないからです。JAXA や MHI が自動車用の半導体を H3 ロケットに採用したのは、安易なボトムアップ思考といえます。

 

Q: ② がなぜ、EMI による半導体の誤作動の原因になるのですか?

 

A: 「わが国のあるメーカーが開発した技術」が EMI 発生の確率を高めるからです。ボーイング 787 や 737MAX にも同じ技術が採用されていて、EMI による半導体の誤作動による事故が起きています。 JAXA や MHI は、そこまで視野を広げるトップダウン思考ができなかったようです。

 

Q: わが国と同じ東アジアの中国や韓国も人工衛星の打上げビジネスに参入していますが、どうなってい るのでしょうか?

 

A: 人工衛星の打上げビジネスの競争にわが国ほどは「前のめり」になっていないようです。今後、わ が国と同じように「前のめり」になって①や②を採用することがあれば、打上げ失敗を経験する かも知れません。

 

Q: わが国の宇宙開発業界が国民の夢に応えるには、これからどうすればよいのでしょうか?

 

A: 人工衛星の打上げビジネスの成果を焦るよりも、わが国の宇宙開発技術を地道に育てることに専念 すべきです。それには、これまでのボトムアップ思考を棄ててトップダウン思考の技術開発を学ぶ必要が あります。最新の技術であるフォールトトレランス設計は、トップダウン思考でなければ実現できません。

 

Q: これまでに宇宙開発の分野にトップダウン思考を広めようとしたことがあるのですか?

 

A: 弊社代表が JAL 在籍時に2度あります。1度目は、JAXA の前身である宇宙開発公団(NASDA)か ら国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟(JEM)の独立評価委員を委嘱された時です。評価に際し てわが国のメーカーから JEM の設計理念を聞きましたが、民間航空機にくらべて遅れていることに驚 きました。民間航空機に採用されている先進的なトップダウン思考の設計を参考にしていただくよう 進言しました。メーカーにはほどんど聞き入れられませんでしたが、評価会議に同席していた若い宇 宙飛行士3名からは「船外活動の安全など、宇宙飛行士の安全を真剣に考えてくれる人にこれま で会ったことがなかった」と感謝されました。2度目は、独立評価委員を務めた縁で JAXA のグル ープ会社から講演を依頼された時です。トップダウン思考によるヒューマンファクター設計の重要性を力説しま した。残念ながら、JAXA 本体には届かなかったようです。 

 

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H3ロケット打上げ失敗
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2023/03/03

HuFac Solutions, Inc.

ギリシャで列車が正面衝突

2023-03-03 

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 2 月 28 日、ギリシャの首都アテネから北に約 380 キロのギリシャ中部のラリサ近郊の町テンピ付近で、旅客 列車と貨物列車が正面衝突する事故が起きました。旅客列車は、首都アテネを出発して北部にある 第二の都市テッサロニキに向かっていた途中で、同じ線路を逆方向から走ってきた貨物列車と衝突しま した。旅客列車には 352 人余りが乗っていて、脱線大破した後に火災が発生しました。少なくと も 57 人以上が死亡して、多数が負傷しました。現地の警察はラリサ駅の駅長を逮捕して事情を聞い ています。
図.1 ギリシャでの列車の正面衝突事故
Q: ギリシャでは政府の鉄道近代化の遅れを批判するデモが起きるなど大騒ぎになっていますが、原因に ついてどのように考えますか?
A: 当時、自動の運行管理システムが故障していて、駅員が手動で線路のポイント切り替えなどを行ってい たとの情報があります。ギリシャの鉄道が運行管理の自動化を採用していなかったわけではなく、 必ずしも近代化が遅れていたとはいえません。自動化システムが故障した際の人間のバックアップ体制に 問題があったと考えられ、ヒューマンファクターの問題といえます。鉄道のヒューマンファクターの問題に備えなかっ たのは鉄道当局や鉄道会社の経営の責任であり、現場の駅長を逮捕するのは不当といえます。
Q: ヒューマンファクターでは、この問題をどのように考えるのですか?
A: 自動化システムには半導体や電気回路が使われています。電気回路は経年劣化しますし、半導体は電 磁干渉(EMI)で誤作動することがあります。自動化システムの故障は避けられないと考えていなけ ればなりません。一方、自動化システムの便利さに馴れた人間の手動能力は時とともに劣化します。 また、自動化システムの能力と耐久性を過信した人間の監視能力は劣化します。このような事態にど う対処すればよいのか、ヒューマンファクターの専門家は永年にわたって研究してきました。
Q: 研究の結論はどうなったのですか?
A: 研究の結論は、①自動化システムの経年劣化や EMI による誤作動は避けられず、人間による監視 (Monitor)と制御(Control)が不可欠、②自動化システムは人間による監視を容易にするように設 計すべき、③自動化システムは人間による制御を容易にするように設計すべき、④自動化システムが不作 動や誤作動に陥った際に適切に監視と制御ができるように人間を訓練すべき、というものです。 ①~③が人間中心の自動化設計(Human-centered Automation)で、④がヒューマンファクター訓練です。
Q: ギリシャの鉄道当局や鉄道会社が①~④の対策を実践できなかったことが事故の原因といえるよう ですが、航空界はどうなっているのですか?
A: 航空界でも、航空機だけでなくさまざまなシステムで高度な自動化システムが採用されています。①~④ の対策は航空界のさまざまな分野で必要です。航空の国際的な組織である ICAO や IATA、FAA、 EASA は、①~④の対策を各国の航空当局や航空会社に強く求めています。ですが、わが国の航空 当局や航空会社は①~④の対策の意味を深く理解できず、外形的な実践を装っています。ヒューマンフ ァクターの問題が原因の事故やインシデントが起きても、わが国の事故調査当局である JTSB はヒューマンファクター の調査を行なう能力がありません。そのために、わが国の航空界では体系的なヒューマンファクターの対策 が実践される見込みはまったくありません。言い換えれば、旧態依然とした安全対策に甘んじて いるといえます。
Q: 鉄道界に①~④の対策を進言したことはあるのですか?
A: 2002 年に東京で開催された国際鉄道安全シンポジウムで弊社代表が基調講演を依頼された際に、①~ ④の対策を世界の鉄道当局と鉄道会社に紹介しました。ギリシャの代表も参加していたと思います が、①~④の対策を理解して実践できていれば今般の事故は避けられたと思われます。
Q: わが国の鉄道界の反応はどうだったのですか?
A: まったく反応がありませんでした。そもそも、わが国の鉄道界はヒューマンファクターにほとんど関心がな いようです。
Q: つい最近、JR 東日本の川越線で単線に2つの列車が同時に進入して 600 メートルの間隔で正面衝突し そうになったという報道がありますが、どう思いますか?
A: このインシデントは、わが国でもギリシャと同じような事故が起こり得ることを示唆しているといえま す。ヒューマンファクターの対策が遅れているという点では、ギリシャもわが国も同じです。報道によれば、 川越線ではポイントの自動切換えは正常に行なわれたものの、赤信号が正常に点灯されなかったよ うです。鉄道の運行管理では、ポイントの自動制御と信号の自動制御が別々の半導体で行なわれて います。それぞれの半導体に EMI による誤作動の可能性があり、どちらかの半導体が誤作動すれ ば列車の衝突が起こり得ます。わが国の鉄道界は、EMI による半導体の誤作動の可能性をまった く考えていないようです。そのためか、鉄道の自動化システムにはフォールトトレランス設計が採用されていません。川越線のインシデントでは、赤信号不点灯の原因が EMI による半導体の誤作動であっても、JR 東日本の技術陣は認識できずに「原因不明の信号故障」て済ましてしまうと思われます。
Q: わが国の鉄道界でも、自動化システムについて特段の考えをもつ鉄道会社があるのですか?
A: 京浜急行がその鉄道会社です。弊社代表が京急の技術系トップの方と会議で同席した際に感心した ことがあります。京急蒲田駅は現在ではかなり変わっていますが、かっては羽田空港から品川に 向かう列車と三崎行きの列車が同じホームを共用していたことがありました。線路のポイント切り替え を間違えれば、ホームで列車が正面衝突する可能性がありました。京急の技術系トップの方は、「京 急はそのリスクをよく認識していて、あえてポイントの切り替えを自動ではなく手動で行なうよう駅員 を訓練している」と話していました。経営トップが自動化システムのリスクを真摯に考えていることが京 急に事故が少ない理由の1つかも知れません。残念ながら、技術系トップの方からは①~④のヒューマ ンファクターの対策に関心をもっているということを聞くことはできませんでした。

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ギリシャで列車が正面衝突
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2023/03/01

HuFac Solutions, Inc.

意見交換会の開催

2023-03-01 

Q: どういうことですか?
A: 2023 年 2 月 13 日に「加熱する半導体競争」と題する安全情報を配信しました。安全情報では、世 界の各国が半導体の集積度を上げて高性能化すれば電磁干渉(EMI)による誤作動の可能性が高ま ると警鐘を鳴らしました。安全情報の発信は、読者のある方からトップダウン思考に関する解説を求 められたことに端を発しています。やり取りを聞いていた他の読者の方も講演会の開催に協力を 申し出て下さいました。その後、講演会の構想はトントン拍子に進んで、弊社は主催者の方から講演の 演題と要旨を求められました。弊社は下記のような演題と要旨を提案しました。コロナ禍が多少は落 ち着いているとはいえ、講演は短時間で効率的にする必要があります。弊社代表の講演時間は質 疑応答を含めて1時間 30 分となり、議論を充実させるために意見交換会にしようということにな りました。その趣旨に合わせて、安全情報で関係者の方々に講演内容を事前にお知らせることに した次第です。意見交換会は 3 月末に都内で開催されます。
演題: デジタル化社会のリスクマネージメント
要旨: 電導物質と絶縁物質の中間の性質をもつシリコンなどの半導体が発見され、トランジスタやダイオード、 集積回路(IC)など広義の半導体が発明されたことで、人類社会はコンピュータや AI を活用す るデジタル化社会に突入しています。世界は半導体の集積度など効率のみを追求して競争し ていますが、半導体には電磁両立性(EMC)という避けることができない問題があり、半導 体の集積度の増大とともに顕在化します。この問題を解決できなければ、高性能の半導体 を航空や鉄道、船舶、自動車、医療といった人命を預かる産業分野で安全に利用すること はできません。この難問の解決のために、やはりなくせないヒューマンエラーに対処するエラートレランス (Error Tolerance)をヒントに、フォールトトレランス(Fault Tolerance)というトップダウン思考の手法 が考えられています。本講では、半導体などデジタル技術の普及で避けることができない EMC の問題とそれを効果的に解決するためのフォールトトレランスについてわかりやすく概説します。
Q: 安全情報について読者の方々からコメントがあったのですか?
A: いくつかありました。その中の1つを下記にご紹介します。ご質問に対する回答を通じて、半導体 と EMC の問題についてさらに理解を深めていただけると思います。コメントを寄せて下さった方は、 わが国の鉄道業界で永年にわたって鉄道安全に貢献された方です。それだけに、コメントとご質問に は重みがあります。
ヒューファク安全情報を受講させていただいている○○です。此度は、「加熱する半導体競争」をあり がとうございました。これを読ませていただき、初めて半導体の問題点の真相を知りびっくりし ました。それは、半導体が集積度を増せば、EMI の危険性が増すということのようですが、
① 半導体の過熱競争で、何ナノくらいの集積度からが危険水域か、線は引けるのですか?
② ボーイング 737MAX はリチウムイオン電池に問題があり、池袋のプリウス事故もブレーキとアクセルの踏み間違い で、半導体の半の字も出てこなかったことは、EMI は痕跡も証拠もないので、誰も言いだせ なかったということなのですか?
③ 集積度増大競争下で EMI を無くすのは、ご主張のトップダウン思考によるフォールトトレランスがあるとし ても、現実には EMI の危険は究明されることなく増え続ける恐れがあるということになるで しょうか?
④ 半導体製造の品質管理について日本の現状は如何なのでしょうか? いずれにしても、大変重要な問題をご指摘いただきありがとうございました。また、関連事項に ついて、ご講義をお願いします。
Q: ① についてはどう応えますか?
A: 「何ナノくらい」という明確な線は引けません。集積度を上げた半導体での EMI の問題は、米ソの 宇宙開発競争で顕在化しました。ソ連の人工衛星が行方不明になる事故がありましたが、科学技 術者は EMI による半導体の誤作動が原因と考えました。2 進法の 1 と 0 で構成されるデジタル情報 の 1 と 0 がある箇所で EMI により入れ替わって、情報が一変してしまったと考えられています。 その後、米国のスペースシャトル計画でも数多くの EMI による事故やトラブルを経験しました。NASA はこれ らの経験を報告書にまとめています。報告書は、「EMI の問題を認識できたことは宇宙開発の大 きな成果で、教訓を産業界などで活かさねばならない」と提言しています。
Q: 民間航空界でも EMI の問題を経験しているのですか?
A: ボーイングが 757 と 767 に初めて飛行管理システム(FMS: Flight Management System)を導入してか ら、EMI の問題が顕在化しました。エアバスが開発した 320 でも、EMI による FMS のトラブルが相次ぎ ました。トラブルの多くは民間航空界が独自に導入している匿名安全報告制度で報告されました。 EMI による事故も数多く経験しています。FMS は、精密な飛行制御で燃料消費を低減させるため と、航空機関士(Flight Engineer)の業務を代行させるために開発されました。高集積度の半 導体の開発で可能になった小型軽量のコンピュータシステムです。EMI による事故やインシデントに危機感を抱 いた ICAO や IATA、FAA などは、人間と自動化システムのインタフェースを最適化するヒューマンファクター(Human Factors)の研究に期待をかけました。研究の成果が「人間中心の自動化設計」と「AQP などのヒュ ーマンファクター訓練」です。どちらもフォールトトレランスの概念の具現化といえます。 
図.1 航空機の FMS
Q: わが国の航空界は世界の航空界の動向に追随できているのですか?
A: まったくできていません。それどころか、わが国の航空技術者は EMI の存在すら的確に認識でき ていません。その理由は、技術者がボトムアップ思考しかできないからといえます。ボトムアップ思考の教育で育ったわが国の技術者が可視化できない EMI の問題の存在を理解できないのは無理もあり ません。
Q: ② についてはどう応えますか?
A: 先ず、「 ボーイング 737MAX はリチウムイオン電池に問題があり」というのは少し違います。737MAX の墜落 事故の原因はリチウムイオン電池の発火ではなく、MCAS という失速防止システムの EMI による誤作動です。 わが国の国民がボーイング 737MAX や 787 の事故、池袋におけるプリウスの暴走事故の原因を理解でき ないのは、やはりボトムアップ思考しかできないからといえます。そのために、公式事故調査の結論 や裁判の判決に対して自信をもって異論を唱えられないようです。
Q: 池袋の暴走事故の裁判では、EDR の記録が「動かぬ証拠」になったのですか?
A: そのように聞いています。EDR(Event Data Recorder)の記録が「動かぬ証拠」となったのは、裁 判官や検事、弁護士などの司法関係者がボトムアップ思考しかできないからと考えています。ボトムアッ プ思考では、EDR の仕組みを深く考えることなく事実を忠実に記録できる装置と誤解してしまいま す。ハイブリッド車や EV は「Drive By Wire」といって、アクセルやブレーキ、ハンドルなどの動きをトランスデューサ ー(Transducer)で電気信号に変換してパワー半導体に伝達します。EDR はそれらの電気信号を記録 しているだけで、アクセルやブレーキ、ハンドルの動きを忠実に記録しているわけではありません。
Q: トップダウン思考ではどのように考えるのですか?
A: トップダウン思考は、事実を的確に把握して論理的に判断します。EDR がアクセルの電気信号の急激な上 昇を記録していても、それが運転者によるアクセルペダルの踏み込みによるものか、EMI によるパワー半 導体の誤作動によるものかは判別できないと考えます。わが国の司法は「疑わしきは罰せず」と いう推定無罪の原則を採用しています。推定無罪の原則によれば、EDR の記録だけで被告を有罪 にする「動かぬ証拠」にはできません。米国やカナダでは、プリウスの暴走事故による裁判が数多く 提起されています。弊社が知る限り、運転者が刑事罰に処せられた事例は1件もありません。トッ プダウン思考で判断できないわが国の司法や科学技術は、欧米にくらべて大きく遅れているといわ ざるを得ません。
Q: ③ についてはどう応えますか?
A: 世界の IT 業界や民間航空界では、すでにフォールトトレランス設計が実践されています。わが国のメーカーが 製造できないパーソナルコンピュータ(PC)の CPU(Central Processing Unit)には、フォールトトレランス設計が 採用されています。CPU の製造はインテルなど米国のメーカーに限られていて、フォールトトレランス設計は企業秘 密にされています。民間航空機でも、フォールトトレランス設計はすでに採用されています。FMS が航空機 に採用された当初には、携帯電話や電子機器の機内における使用が厳しく禁止されていました。 フォールトトレランス設計が採用されるにつれ、その規定が徐々に緩和されました。
Q: EMI で発火するリチウムイオン電池でもフォールトトレランス設計が採用されでいるのですか?
A: リチウムイオン電池ではフォールトトレランス設計の採用が遅れています。その代わりに、民間航空会は運用でカバ ーしています。航空機の乗客がリチウムイオン電池やリチウムイオン電池を内蔵する電子機器類を携行して搭乗 するのを禁止することはできません。民間航空会社の団体である IATA は、それらを貨物室に搭 載することを厳しく禁止しています。その代わりに、手荷物として機内に持ち込むことは容認し ています。リチウムイオン電池が客室内で発火しても客室乗務員が何とか消火できるからです。この措
置は、リチウムイオン電池の半導体が EMI で誤作動しても深刻な火災に結びつけないというフォールトトレランス の考えによる「苦肉の策」といえます。
Q: ④ についてはどう応えますか? A: これは鋭いご質問ですが、真摯にお応えします。わが国における半導体の品質管理は、欧米にく らべて遅れているというよりも、むしろゼロといっても過言ではありません。わが国の半導体メーカ ーと IBM の合弁事業でも、わが国のメーカーは半導体の品質の中核である制御部分の製造を担当でき ません。制御部分にはコンピュータの CPU と同じフォールトトレランス設計が採用されているからです。残念な がら、わが国の技術レベルではフォールトトレランス設計ができません。半導体の日米合弁事業では、わが国 は IBM の下請けに甘んじることになります。やはり半導体の制御部分を製造できない台湾の TSMC も、米国に工場を置いて米国の傘下に入るようです。
Q: わが国の技術レベルではトップダウン思考によるフォールトトレランス設計ができないのであれば、わが国の技術 者がトップダウン思考を理解する必要はないのではないですか?
A: それは違います。EMI の問題を解決するには、フォールトトレランス設計だけでは不十分です。半導体による 自動化システムを現場で取り扱う要員にも、トップダウン思考が必要になります。現場の要員がトップダウン 思考で判断できるようにする訓練がヒューマンファクター訓練です。ヒューマンファクター訓練では、現場の要員にも EMI の問題やフォールトトレランス設計について理解してもらいます。
Q: コメントを寄せていただいた方は「関連事項」についても解説を期待されていますが、航空機の運航に 最近話題の人工知能(AI)を採用する可能性はあるのですか?
A: それは絶対にあり得ません。AI は人間の脳神経ネットワーク(Neural Network)を模したコンピュータプログ ラムですが、科学技術者が考える脳神経ネットワークの概念モデルは人間の脳の機能をすべて表現できてい るわけではありません。人間の脳には、コンピュータのプログラムなどでは模擬できない高度な機能があ ります。それがトップダウン思考です。コンピュータのプログラムが模擬できできるのはボトムアップ思考に限ら れています。航空機の通常時の運航はパイロットのボトムアップ思考や AI でもできますが、異常時には パイロットによるトップダウン思考が必要になります。人間の脳のトップダウン思考は、最新の脳科学でも解 明されていません。世界の航空界では「航空機のパイロットはゼロにできないばかりか、永久に 2 名 のままである」というのが定説になっています。世界の民間航空界は、ゼロにできないパイロットとハ ードウェアやソフトウェア、環境との調和を考えるヒューマンファクターの重要性を認識しています。AI による無人航 空機の出現などは議論すらされたことがありません。 
図.2 人間の脳神経ネットワークの概念モデル
Q: 話題になっている ChatGPT も、人間のトップダウン思考までは模擬できないのですか?
A: その通りです。弊社は、本年 1 月 15 日に起きたネパールのイエティ航空 ATR72-500 の墜落事故の原因を トップダウン思考で即座に「主翼前縁の防除氷装置のスイッチの入れ忘れ」と推定しました。現在、事故 機の飛行記録装置(DFDR)が回収されて、両側のターボプロップエンジンが停止してプロペラがフェザーリング 位置(注:フェザーリングとは、空気抵抗を減らすためにプロペラの羽の断面を気流に平行にセットするこ と)になっていたことが判明しています。この事実をボトムアップ思考で考えれば、両側のエンジンが 停止したことが原因と考えてしまいます。ですが、両側のエンジンが同時に停止する確率は極めて 低く、事故調査団も事故原因を特定しかねているはずです。トップダウン思考で「主翼前縁の防除氷 装置の入れ忘れ」が原因と考えれば、すべてが論理的に説明できます。両側のエンジンの停止は事 故の「原因」ではなく「結果」であることに気づくはずです。読者の中に関心がある方がおられ れば、ChatGPT に「イエティ航空 ATR72-500 の事故の原因は何か?」と尋ねてみてください。ボトムアッ プ思考しかできない ChatGPT は何も応えられないか、あるいは「両側のエンジンの停止による推力 不足が原因」としか応えられないはずです。事故原因分析のようなトップダウン思考を要する緻密な 作業は AI にはできません。
Q: 計画されている意見交換会では、以上のような事柄について忌憚のない議論ができると期待して いるのですか?
A: その通りです。最近の社会情勢の変化で、弊社が永年にわたって提唱してきたトップダウン思考が理 解されるチャンスがめぐってきたと思っています。意見交換会では、我々が避けることができないデ ジタル化社会を敏感に感じとれる有志の方々と忌憚のない議論ができることを期待しています。 

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意見交換会の開催
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2023/02/18

HuFac Solutions, Inc.

プリウスがまた暴走

2023-02-18 

Q: どういうことですか?
A: 2023 年 2 月 11 日、福岡県北九州市で 70 歳代の男性が運転するトヨタプリウスが暴走して、複数の車に 衝突を繰り返しました。 車を運転していた男性は警察の調べに対して「パニックを起こして操作を 誤った」と話しているとのことです。 衝突された車に乗っていた男性 2 人が首の痛みなどを訴え ていて、警察は過失運転致傷の疑いで捜査しています。
図.1 暴走するトヨタプリウス 
Q: 運転者本人が供述しているように、原因は「運転操作の誤り」ということではないのですか?
A: そうではありません。わが国の世論やマスコミはすべて「運転操作の誤り」という見解で一致していま すが、これはボトムアップ思考の典型といえます。わが国の国民がボトムアップ思考でしか判断できない のは、これまでのわが国のボトムアップ思考の教育の結果といえます。
Q: ボトムアップ思考ではなく、トップダウン思考で考えれば原因はどうなるのですか?
A: 間違いなく、原因は電磁干渉(EMI)によるプリウスの電子機器の誤作動です。プリウスのようなハイブリッ ド車や電動自動車(EV)にはパワー半導体というマイコン(Micro Controller)が装備されています。パ ワー半導体は EMI の影響を受けやすく、これまでにも数多くのハイブリッド車や EV の暴走を引き起こし ています。2019 年に池袋で起きたプリウスの暴走事故も、本当の原因は EMI によるパワー半導体の誤作 動です。
図.2 自動車のパワー半導体
Q: 運転者本人が「運転操作の誤り」と供述しているのに、なぜそうではないと断定できるのですか?
A: そうではないと断定できるのがトップダウン思考の真骨頂です。運転者は、運転の途中である出来事 に遭遇しました。その出来事というのが EMI によるプリウスのパワー半導体の誤作動です。これまで の事故情報などから、パワー半導体の誤作動がアクセルを急激に操作してエンジンの回転数を上昇させる ことがわかっています。一方、アクセルが制御できなくなったことを感じた運転者の脳は、顕在意識から潜在意識に急激に変化します。理性をともなう顕在意識なら、「アクセルが制御できなくなれば ブレーキを踏めばいい」という知恵が働きます。ですが、理性をともなわずに感性だけで反応する 潜在意識は、「制御できなくなったアクセルを何とかしよう」と無意識のうちにもがきます。それだ けではなく、手を無意識に動かしてクラッチをバック位置に入れて事態を打開しようともします。こう いった運転者の潜在意識における一連の行動が、俗にいうパニック(Panic)です。
Q: 運転者の年齢が 70 歳代ということも、パニックに陥りやすいといえるのですか?
A: そういえます。一般的に、人間は高齢になるほど顕在意識を維持しにくくなります。若ければ顕 在意識で理性を働かせて冷静に行動できますが、高齢者は有事の際に冷静に行動できなくなりま す。航空機のパイロットに年齢制限があるのはこういった理由からです。わが国ではこれまで、高齢 者による同種の自動車の暴走事故はすべて「アクセルとブレーキの踏み間違い」で済まされています。
Q: 自動車の運転免許でも 70 歳を超えると認知能力の検査がありますが、ヒューマンファクターの観点からは 適切といえるのですか?
A: 適切とはいえません。現行の認知能力の検査は顕在意識を維持できる能力を知るものではありま せん。顕在意識を維持できる能力には大きな個人差があります。特殊な訓練によりその能力を向 上させることもできます。それがトップダウン思考のヒューマンファクター訓練です。わが国の科学者はヒューマンフ ァクターを学んで交通機関の運転者の健康管理を見直す必要があります。
Q: このままでは EMI によるハイブリッド車や EV の暴走が続くことが予測されますが、どうすればよい のでしょうか?
A: 難しい問題です。なぜなら、資源のないわが国の経済は主に自動車産業の輸出に依存しているか らです。中でも、トヨタのプリウスは CO2 削減の観点から欧米で売れていて、莫大な外貨を稼いでいま す。そのため、マスコミをはじめわが国の社会にはトヨタのハイブリッド車の欠陥を表立って指摘できる人 はいません。ですが、このままではこの問題が EV にも波及することは必至です。EV の暴走が顕 在化して世界の人々が EV を敬遠することになれば、わが国の自動車産業だけでなくわが国の経 済そのものが崩壊することになります。打開策は1つしかありません。ハイブリッド車や EV を断念 するか、あるいはトップダウン思考のフォールトトレランス設計を採用して、パワー半導体などの電子機器が EMI にさらされても誤作動しにくくすることです。フォールトトレランス設計を実現するには技術者の不屈の努 力が必要です。弊社代表は以前から自動車技術会などを通じて自動車業界に発想の転換を提唱し ていますが、残念ながらまったく耳を傾けてもらえていません。この安全情報がトヨタなど自動車 業界に届くことを願っています。  

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プリウスがまた暴走
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2023/02/17

HuFac Solutions, Inc.

AIの能力と限界

2023-02-17 

 

Q: どういうことですか?

 

A: 読者のある方から、弊社が提唱している「トップダウン思考」について現在話題になっている ChatGPT に問い合わせてみたというメールをいただきました。ChatGPT の回答は、弊社にとっても驚くべきも のでした。ChatGPT はトップダウン思考について意外なほど的確に理解しています。AI 技術がここま で発達したのかと感心しました。その半面、予想通りの AI の限界も感じています。読者の方々に とって参考になると思われますので、メールのやり取りを時系列でご紹介します。

 

図.1 ChatGPT のスクリーンショット

 

Q: ChatGPT とはどういうものですか?

 

A: OpenAI という IT 企業が 2022 年 11 月 30 日に公開したチャットのための AI(チャットボット)です。幅広い 分野の質問に柔軟に回答できるから注目を集めています。柔軟で的確と思える半面で事実とは異 なるという批判があるのも事実です。ChatGPT の公開の後で、OpenAI の時価総額は 290 億米ドルと なって、公開から 2 か月でユーザー数は 1 億人に達しています。

 

Q: 読者の方からは最初にどのようなメールが寄せられたのですか?

 

A: 下記のようなメールが寄せられました。

 

 

トップダウン思考について AI チャットボット「ChatGPT」に聞いてみました。かなりまともな回答のように 思えますが、如何でしょうか?

 

質問1: トップダウン思考とは?

 

回答: トップダウン思考とは、大局的な視点から問題を捉え、その目標に向けて必要な戦略や手段を考えて いく思考方法です。つまり、全体像を把握し、その目標に向けて具体的な行動計画を立てるとい う手法です。トップダウン思考は、組織やビジネス戦略の策定、プロジェクトマネジメント、政策決定など、多くの分野で使 用されます。この手法は、問題解決のプロセスにおいて、問題の核心を正確に捉え、最も効率的な 解決策を導き出すのに役立ちます。 トップダウン思考は、問題解決のための手法として重要なものである一方で、全体像を見ることがで きる人材や視点を持つことが必要とされます。また、トップダウン思考だけでなく、ボトムアップ思考と いう下からのアプローチも併せて活用することで、より効果的な問題解決が可能となります。

 

質問2: ヒューマンファクターとトップダウン思考との関係は?

 

回答; ヒューマンファクターとトップダウン思考は、密接な関係があります。ヒューマンファクターとは、人間の特性や行動を理 解することで、システムの設計や改善に反映させることを指します。つまり、人間の能力や制限を考 慮し、設計や改善を行うことで、より使いやすいシステムを実現することができます。 一方、トップダウン思考は、大局的な視点から問題を捉え、その目標に向けて必要な戦略や手段を考 えていく思考方法です。トップダウン思考においては、システム全体を俯瞰し、問題点を洗い出し、解決 策を導き出すことが求められます。 つまり、ヒューマンファクターを考慮したシステム設計や改善は、トップダウン思考の一環として行われます。人間 中心の設計や改善は、ユーザビリティや生産性の向上など、システムのパフォーマンスに直結するため、トップダウ ン思考において欠かせない要素となっています。 したがって、ヒューマンファクターとトップダウン思考を両方活用することで、より優れたシステムの設計や改善を 実現することができます。

 

質問3; トップダウン思考を教育・普及させるたには?

 

回答: トップダウン思考を教育・普及させるためには、以下のような取り組みが考えられます。

 

1. 教育機関での啓蒙活動:学校や大学で、トップダウン思考の重要性や方法について教育すること で、若い世代に普及することができます。

2. 専門的な研修プログラムの提供:企業や組織で、トップダウン思考の研修プログラムを提供すること で、ビジネスや組織の現場で活用できる人材を育成できます。

3. メディアでの情報発信:ビジネスニュースや専門誌、SNS などを活用し、トップダウン思考について情報発 信することで、多くの人々に知ってもらうことができます。

4. 実践事例の共有:成功事例を共有することで、トップダウン思考の重要性や有効性を訴えること ができます。

5. ワークショップの開催:実際にトップダウン思考を実践しながら学ぶことができるワークショップを開催する ことで、参加者がトップダウン思考の手法や重要性を体感できます。 これらの取り組みを積極的に行うことで、トップダウン思考を教育・普及させることができます。

 

Q: このメールに対してどのような返事をしたのですか?

 

A: 下記のような返事をさせていただきました。

 

 

ChatGPT は現在話題になっていますが、これだけの回答を引き出すには具体的にどのような聞き方 をされたのでしょうか?英語版の ChatGPT に英語で聞いて回答を和訳されたのでしょうか?いず れにしても、かなりいい線をいっています。ですが、AI の限界も見られます。例えば、「トップダウ ン思考だけでなく、ボトムアップ思考という下からのアプローチも併せて活用することで、より効果的な問 題解決が可能となります。」というのは明らかに間違っています。数学の問題を解く際に演繹法と 帰納法を併用することと混同しているようです。トップダウン思考に移行するには、ボトムアップ思考と 明確に決別しなければなりません。なぜなら、トップダウン思考こそが人類の真の進化の方向といえ るからです。悲しいことですが、ChatGPT を引用すれば私の説明などより信用されるというのも現 実です。この ChatGPT の回答を利用させていただければという「邪まな考え」も持ち始めていま す。そのために、この回答を引き出した経緯の詳細をお知らせいただければ幸いです。よろしくお 願いします。

 

Q: 読者の方からはどのような返事があったのですか?

 

A: 下記のような返事がありました。

 

 

返信ありがとうございます。今回の回答を ChatGPT から引き出すためにやったことは、今回の質 問の文をいきなり ChatGPT に入れただけです。ChatGPT の回答が自分の質問の意図を知ってるかの ようでしたのでびっくりしました。今回の質問の意図は、ChatGPT の能力を知りたかったことと、 貴方がいうトップダウン思考を自分流で解釈したのがどうかと思っていたためです。今の ChatGPT は 誤ったこともいうし、2021 年以降の最新情報はまだ学習してないそうですから、ChatGPT の回答 を参考にする支援ツールとしては使えるように思いました。最後は人間がチェックするというふうに。基 本的に ChatGPT も含め今の AI には誤った情報を識別できる能力は十分ではないとか。OpenAI は ChatGPT の回答をチェックするツールも作ったが不完全だそうです。

 

Q: 他の方からも 何か感想がありましたか?

 

 A: メールのやり取りを聞いていた方から、下記のような感想が寄せられています。

 

 

○○さん(注:弊社代表)のご返信も拝読させて頂きましたが、大変に僭越ながら私が想定したご 回答の様でした。又、この ChatGPT に対しても○○さんと同様の感想です。それにしても、凄い時 代になりましたね!今までは、私等はちょっと調べる時は Wikipedia を見てましたが。

 

Q: ChatGPT がトップダウン思考やヒューマンファクターについて的確に回答していることについて、どのような感 想をもっていますか?

 

A: 率直にいって、驚いています。グーグルなどがサーチエンジンなどの AI 技術を駆使して世界のインターネットや メール交換を検索していることは知っていました。グーグルの AI は早くから弊社の活動に注目してく れていて、弊社の存在をグーグル検索の上位に位置づけてくれています。まだ確認できていません が、ChatGPT も自動的に弊社の活動に注目してくれているのだと思います。

 

Q: トップダウン思考やヒューマンファクターの重要性を提唱している存在が他にもあるのですか?

 

A: それはないはずです。以外かも知れませんが、トップダウン思考の意味を深く理解して世界に提唱し ているのは現在のところ弊社だけと自負しています。ヒューマンファクターの重要性はすでに世界で認めら れていますが、ヒューマンファクターをトップダウン思考と関連づけて説明しているのは弊社以外にはありませ ん。ChatGPT が弊社の考えを的確に伝えてくれているのは驚きというしかありません。仮に弊社 と同じような組織が他にあるのなら、それは力強く大変喜ばしいことです。

 

Q: ChatGPT の回答を寄せてくれた読者の方は、トップダウン思考の理解者にくれると期待できますか?

 

A: この方はトップダウン思考を理解しようと考えておられるから、ChatGPT に質問されたのだと思いま す。トップダウン思考の強力な支援者になっていただけるものと信じています。現在、世界はさまざ まな難問を抱えて混沌としています。難問はトップダウン思考でしか解決できません。わが国の国民 が早くトップダウン思考を理解して、世界のリーダーに加わることを期待しています。ChatGPT などの AI はそのための強力な助けになりますが、主役はあくまでも人間です。

 

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2023/02/13

HuFac Solutions, Inc.

過熱する半導体競争

2023-02-13 

 

Q: どういうことですか?

 

A: 世界におけるわが国の半導体シェアは図.1 のように凋落し続けています。この事態を打開してわが国 の経済成長を促すために、政府は米国の IBM との合弁で新たに立ち上げた国産半導体製造会社に 予算 700 億円を投じることを決定しました。半導体競争は米国と中国の間でも熾烈化していて、 台湾の半導体製造会社の TSMC をめぐって国家間の紛争すら起きようとしています。ですが、この ような半導体競争で各国が軽視している重要な問題があります。今回は、この問題について世界 に先駆けてトップダウン思考で迫ってみたいと思います。

 

図.1 世界におけるわが国の半導体シェア

 

Q: そもそも、半導体とはどういうものですか?

 

A: 物質は電気を通す電導体(Conductor)と電気を通さない絶縁体(Insulator)に分類できます。で すが、両者の中間の性質をもつとか、両者の性質を併有する物質があることが発見され ました。それが シリコン、 ゲルマニウム、 カリウムなどの半導体(Semiconductor)とよばれる物質です。 半導体には、マイナス(-)の電荷をもつ n 型半導体とプラス(+)の電荷をもつ p 型半導体があります。 近年では、これら 2 種類の半導体を組み合わせたダイオード(Diode)やトランジスター(Transistor)、集 積回路(IC: Integrated Circuit)などを半導体と総称するようになっています。

 

図.2 ダイオード(左)とトランジスター(右) 

 

Q: ダイオードやトランジスターにはどのような機能があるのですか?

 

A: ダイオードには、電気を一方向にしか流さない機能があります。その他に、光を発する発光ダイー ド(LED)や光を電気に変えるダイオード(太陽光発電)もあります。トランジスターには、電圧を増 大させる増幅機能と電流の ON/OFF を切り変えるスイッチ機能があります。これらを基板上に集積し た半導体には計算機能や記憶機能、制御機能などがあり、高度な半導体は人工知能(AI)などに 利用されています。

 

Q: 世界の各国は半導体のどのようなことで競争しているのですか?

 

A: さまざまなことがありますが、主に集積回路の集積度(Scale of Integration)で競争していま す。集積度とは、限られたスペースにどの程度の機能を収納できるかということです。わが国の半 導体製造技術では「10 ナノ」レベルの集積度しか達成できていません。台湾や米国のメーカーは「2 ナノ」 レベルの集積度を実現しています。これからは「1 ナノ」レベルの競争になるようです。

 

Q: 半導体の集積度を増大させると、どのようなメリットがあるのですか?

 

A: 集積度を増大させると、記憶容量が増し、計算速度が増大して、複雑な制御が可能になるなどの メリットがあります。高度な AI にはこれらのメリットが欠かせません。高度な AI が開発できると、人類 のさまざまな夢を実現できるようになります。

 

Q: 各国が半導体の集積度で競争する理由がわかりましたが、冒頭で述べられている「各国が軽視し ている重要な問題」とはどういうことですか?

 

A: 半導体のような電子部品には電磁両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility )が要求されま す。EMC とは、電子部品が他の部品に電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference)を及ぼさ ず、また他の部品から電磁干渉を受けても正常に動作する耐性を持つことで互いに共存できる状 況を指します。集積度が増して電子部品が互いに接近すれば、EMI の可能性が増します。今後、各 国の競争が過熱して半導体の集積度が増せば、EMC がますます問題になることになります。

 

Q: 電子部品が EMI を受けると、具体的に何が起きるのですか?

 

A: ダイオードやトランジスター、IC などの半導体が誤信号を出して、電子機器に誤作動を起こさせます。半 導体を用いた電子機器は、今や社会のさまざまな分野で利用されています。EMI が原因と思われ る深刻な事故もすでに起きています。

 

Q: 「EMI が原因と思われる」というのは、EMI が原因とは特定できないということですが?

 

A: 残念ながら、そういうことになります。EMI は、発生しても一切の痕跡を残しません。それに、 確認のために EMI を再現させることもできません。電子機器の誤作動で事故が起きても、その原 因が人間の誤操作によるものか、EMI に因るものかを判定することはできません。そのため、証拠重視主義のわが国の裁判では EMI が証拠として認められることはありません。マスコミなどでも、 事故の原因として EMI が取り沙汰された例を聞いたことがありません。

 

Q: EMI の要因は科学的に解明されているのですか?

 

A: 意外かも知れませんが、現代の科学でも解明されていません。解明するには、原子や電子などの 量子物理学にまで踏み込まねばなりません。いわば、万有引力や磁力の要因を解明できないのと 同じで、人類永遠の課題の1つといえます。EMI を根本的になくす方法も開発できていません。

 

Q: EMI が原因と思われる事故を例示していただけませんか?

 

A: 身近な例でいえば、2013 年に JAL と ANA のボーイング 787 で相次いで起きたバックアップ電源用のリチウムイ オン電池の発火事故があります。わが国の運輸安全委員会(JTSB)や米国の国家運輸安全委員会 (NTSB)、ボーイング、電池メーカーの GS ユアサが原因を調査しましたが、まったく解明できませんでした。 当時、弊社代表はいくつかのテレビ局に要請されて取材に応じました。新聞社や雑誌社からもコメント を求められました。

 

図.3 リチウムイオン電池の発火で緊急着陸したボーイング 787

 

Q: リチウムイオン電池の発火原因を解明できていたのですか?

 

A: 通常の思考では解明できませんが、トップダウン思考で解明できていました。リチウムイオン電池は高性能 電池の1つです。高性能電池には、過電流や過電圧を防ぐためにマイコン(Micro Controller)とい う半導体が内蔵されています。リチウムイオン電池のマイコンが EMI で誤作動して過電流を防げなくなった ことが発火の原因といえます。詳細は割愛しますが、787 には EMI が発生しやすい要因がありま す。JAL と ANA の 787 で起きたのは。わが国特有の気象状況にも関係しています。

 

Q: テレビや新聞社、雑誌による取材で、なぜ本当の原因を説明しなかったのですか?

 

A: 前述のように、EMI は一切の痕跡を残しませんし、確認のための再現もできません。証拠がなく実 証できないことを公の場で述べるのはかえって混乱をまねくと考えて控えました。ただ、米国の FAA が 787 の運航停止を半年後に解除した際には、新聞社の取材に対して「原因が不明のままの解 除には問題が残る」とコメントしました。ボーイングはその後、主力機として期待していた 787 の製造を 停止しました。ボーイングは本当の原因に気づいて、対応が困難であると悟ったようです。

 

Q: 2019 年に池袋で起きたプリウス暴走事故も EMI が原因と話していましたね? 

 

A: そうです。プリウスなどトヨタのハイブリッド車は、欧米で数多くの暴走事故を起こして提訴されています。 そういった情報に疎いわが国の社会や司法界は、池袋の事故の原因を「ブレーキとアクセルの踏み間違い」 としか判断できませんでした。年老いた運転者は現在も実刑に服しています。弊社は、諸状況をト ップダウン思考で考えて EMI 以外の原因はないと思っています。ハイブリッド車や電気自動車(EV)には、 電動モーターなどを制御するパワー半導体(Power Semiconductor)が採用されています。パワー半導体が EMI で誤作動すれば、ハイブリッド車や EV が暴走することは大いにあり得ます。

 

図.4 自動車のパワー半導体

 

Q: 最近、「グーグルが哲学者を経営トップに迎える」という報道がありましたが、これも何らかの関連 があるのですか?

 

A: その報道は読者の中の IT 技術者の方から知らされました。大いに関連があります。IT 業界では 報道にある「哲学者」をカントやデカルトのような哲学者と考えているようです。ですがそうではな く、「ヒューマンファクターの専門家」という意味です。弊社は 2016 年に「マイクロソフトの CEO が人間中心の AI を目指している」という内容の安全情報を発信していました。いい換えれば、マイクロソフトがヒューマンファ クターを本格的に重要視するようになったということです。それ以前に、グーグルとテスラの EV が自動 運転で暴走による死亡事故を起こしていました。マイクロソフトの CEO は、グーグルとテスラの EV が暴走事 故を起こしたのは経営トップがヒューマンファクターの原則を知らなかったためと悟ったようです。その後、 グーグルもマイクロソフトと同じようにヒューマンファクターの重要性に気づいたのだと思います。テスラの CEO はまだ 気づいていないようで、EV の販売を続けています。テスラの EV は最近、中国で相次いで暴走事故を 起こしています。

 

Q: 2019 年にボーイング 737MAX が相次ぐ墜落事故で運航停止になりましたが、この事故の原因も EMI に 関係があるのですか?

 

A: その通りです。NTSB や FAA、ボーイングは事故原因を明らかにしていませんが、EMI 以外には考えら れません。事故の切っ掛けは MCAS という失速防止のための操縦特性補助システムの誤作動であること がわかっています。MCAS は、高性能の半導体を用いた自動化電子システムです。EMI を受ければ MCAS が誤作動することがあり得ますが、それを実証することはできません。737MAX にも、EMI を発生させるボーイング 787 と同じ要因があります。FAA は、737MAX の型式証明を直ちに取り消して世界中 の 370 機以上の 737MAX を運航停止にしました。

 

図.5 運航停止になったボーイング 737MAX 

 

Q: EMI をなくすことができないのなら、どうすればいいのですか?

 

A: EMI と同じように、絶対になくすことができないものがあります。それがヒューマンエラーです。ヒューマンファ クターでは、なくせないヒューマンエラーに対処するためのエラートレランス(Error Tolerance)というトップダウン思 考の手法があります。因みに、なくせないヒューマンエラーをなくそうとする無駄な手法がボトムアップ思考 のエラーレジスタンス(Error Resistance)です。EMI に対しては、エラートレランスをヒントとしたフォールトトレランス (Fault Tolerance)というトップダウン思考の手法が適用できます。わが国の電子機器メーカーが採用 している EMI 防止策はすべてボトムアップ思考の対策です。フォールトトレランスで EMI に対処するには、IT 技 術者がトップダウン思考やヒューマンファクターを理解できなければなりません。フォールトトレランスを考慮しないで半 導体の集積度増大競争を続ければ、半導体は、航空や鉄道、船舶、自動車、医療といった人命を 預かるシステムには採用できなくなります。

 

Q: フォールトトレランスは現実に採用されているのですか?

 

A: ボーイングやエアバスは最新の航空機の飛行管理システム(FMS: Flight Management System)に採用して います。インテルなどが独占的に製造しているコンピュータの CPU にも採用されています。これらの企業 がフォールトトレランス設計の詳細を開示しないのは、企業秘密という理由だけではありません。コア技術に エラーがあることが明らかになれば、製造者責任(PL: Product Liability)を負わねばならなくな るからです。これらの技術は俗に「ブラックボックス(Black Box)」といわれています。わが国の技 術者はこれまでのように欧米の真似をするのではなく、トップダウン思考で考えて独自にフォールトトレランス 設計を開発できるようになる必要があります。 

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2023/01/27

HuFac Solutions, Inc.

JR 西が寒波で立ち往生

2023-01-27   

Q: どのような出来事ですか?
A: 2023 年1月 24 日午後7時ごろ、JR 西日本の京都線や琵琶湖線などで線路のポイントが切り 替わらなくなるという事態が起きました。京都府向日市にある向日町駅の構内に続き、 山科駅や京都駅の構内あわせて 21 か所でポイントの切り替えができなくなりました。その 結果、あわせて 15 本の列車が動けなくなって乗客が降りるまで最大でおよそ 10 時間か かったということです。同社では予想降雪量が 10 センチを超えた場合、線路の ポイントの雪 をとかす装置を使うことにしていますが、京都駅周辺では 8 センチ程度の降雪予想があっ たため、装置を使う準備をしていなかったということです。実際には想定を上回る雪が 急激に降った結果、ポイントに雪が挟まるなどして切り替えられなくなり、列車の立往生 が発生しました。また、およそ 7000 人が一時車内に閉じ込められたことについては、 乗客を駅で降ろすためにポイントを復旧させる作業を優先したものの、想定以上に時間が かかったことが要因だとしています。

図.1 寒波で立ち往生する JR 西日本 

 

Q: 線路のポイントとはどのような装置ですか?

 

A: 分岐する線路において列車の進行方向を変える装置です。一般的には電気で作動され、遠隔操作 か自動操作されます。分岐器ともいいます。ポイントの誤作動や不作動に気づかなければ、最悪 の場合、列車どうしが衝突します。ポイントを作動させても着氷や石などによるブロックがあれ ば、誤作動と同じことになります。 

 

図.2 線路のポイント

 

Q: JR 西日本は社内のマニュアルで「(気象庁の)予想降雪量が 10 センチを超えた場合に線路のポイント の雪をとかす装置を使う」と規定しているそうですが、この規定は適切ですか?

 

A: いいえ、適切ではありません。降雪量とポイントの着氷の間には科学的な相関関係がないか らです。降雪量が 10 センチ以下でも、ポイントの着氷の可能性はあります。マスコミなどで鉄道 の専門家が「降雪量の規定値を見直すべき」と コメントしていますが、この コメントも適切で はありません。鉄道会社は考え方を根本的に変える必要があります。

 

Q: そういえる根拠は何ですか?

 

A: 例えば、航空機でも地上で駐機中に主翼面などに着氷するという深刻な安全問題があります。離 陸前にエチレングリコールなどの除氷液で除氷する必要がありますが、その際の作業基準が ICAO の防除氷 マニュアルに規定されています。防除氷を開始する要件には降雪量は含まれていません。つまり、 ICAO は降雪量が機体の着氷と科学的な相関関係があるとは考えていないといえます。

 

図.3 ICAO の防除氷作業マニュアル

 

Q: 降雪量が着氷と関係がないとすれば、何が関係するとされているのですか?

 

A: ICAO の防除氷作業マニュアルでは、①気温、②湿度、③雪、霜、霧、雨などの気象現象、④着氷面の 温度、⑤風の方向と強さ、などが着氷に影響するとされています。状況の組み合わせによって は、氷点よりかなり高い気温でも着氷することがあると書かれています。

 

Q: 航空機の防除氷作業の開始と完了はどのように決定されるのですが?

 

A: 航空機の防除氷作業は、一般的に航空会社が地域の専門業者に委託しています。気象状況は空港 当局が空港に近い場所でリアルタイムで観測しています。気象庁の予報によるわけではありません。ボ ーイングやエアバスなどの航空機メーカーが ICAO の防除氷マニュアルを参考にして防除氷作業のマニュアルを作成し て航空会社に提供しています。各航空会社はそのマニュアルを参考にして独自のマニュアルを作成して、航 空当局の承認を得ています。航空機を安全に離陸させることをディスパッチといいますが、その権限 と責任は機長にあります。機長は整備確認者(Completer)を通じて防除氷作業業者の意見を聞 きながら決定します。機長と整備確認者は、それぞれ運航マニュアルと整備マニュアルに記載された防除氷 作業の詳細を学んで国家資格を取得しています。近年の航空界では、防除氷作業の有効時間 (Holdover Time)が重要であることに気づいて厳しく規定しています。

 

Q: 鉄道技術者が ICAO の防除氷作業マニュアルの規定を参照するのは難しいのではないですか?

 

A: そうでもありません。民間の国際標準化組織である ISO(International Organization for Standardization)が同様の防除氷作業に関する基準を規定しています。鉄道技術者は何時でも ISO の規定を参照することができます。

 

Q: JR や私鉄などの鉄道会社が国際的にもよく知られている ISO の規定を遵守しないことがあるので しょうか?

 

A: 弊社は、JR のいくつかの会社の経営トップと交流させていただいたことがあります。その際、航空 界の技術と経験や国際的な基準を参考にしていただくよう進言したことがあります。ですが、残 念ながらほとんど聞き入れていただけませんでした。

 

Q: 聞き入れていただけない要因は何だと思いますか?

 

A: 概ね2つあると思います。①島国であるわが国の鉄道技術者は国際的な航空と違って独自に技術 を発展させてきた側面があるために、よい意味でも悪い意味でも自信とプライドをもち過ぎてい る、②わが国の鉄道会社の事業効率と採算性が思わしくないために、鉄道会社が採算性のよいサー ビス事業や不動産事業に力を入れて本業の鉄道事業を疎かにしている、などです。最近の JR 東日 本の非鉄道事業の売り上げは5割を超えています。因みに、JAL が会社更生法を適用された際に は非航空事業のほどんどから撤退を余儀なくされました。

 

Q: 今後、どうすればよいと思いますか?

 

A: 先ずは、今般の社会的混乱の責任を痛感して、根本的な原因を科学的に分析すべきです。JR 西日 本や鉄道の専門家は「8センチという積雪量の規定を見直す」などというコメントに留めていますが、 この考えは科学的に論理性があるとはいえません。鉄道関係者は、広い視野と深い洞察力による トップダウン思考に意識を変革する必要があります。そうしなければ、次は社会的混乱だけでなく鉄 道事故をまねくことにもなりかねません。 

 

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2023/01/24

HuFac Solutions, Inc.

中国が民間航空機を開発

2023-01-24   

Q: どういうことですか?
A: 2023 年1月9日、中国の航空機メーカーである中国商用飛機(COMAC)が初の国産大型旅客機 C919 の 初号機を航空会社大手の中国東方航空(China Eastern)に引き渡しました。約 15 年間にわたる 開発が完了したことになります。中国メディアによると、中国東方航空は今後 C919 の運航現場での 確認作業を進めて、2023 年春にも実運航を始めるとのことです。COMAC は、2016 年に座席数 78 ~90 席のリージョナルジェット機 ARJ21 を国内都市間の運航に投入しています。C919 は 158~192 席と一 回り以上大きく、旅客需要がより大きな路線での運航が見込まれています。C919 の開発は、中国 共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会が 2007 年に正式承認してスタートした国家プロジェク トです。欧米メーカーがほぼ独占する民間航空機市場に楔を打ち込むための戦略機ですが、現時点で は国外での安全認証を取得できておらず、当面は主に国内向けに生産していくことになるようで す。新型コロナウィルスの流行後に厳しい感染対策を敷いた中国では、旅客市場の低迷が続いて中国東 方航空など大手航空会社も財務に打撃を受けていました。習近平(シー・ジンピン)指導部は足元で 移動制限などを大幅に緩和していて、旅行や出張需要の回復に期待しています。  

 

図.1 COMAC が開発した C919 

 

Q: C919 は ARJ21 とどこが違うのですか?

 

A: 一般的には、ARJ21 はリージョナルジェット機とよばれる中型旅客機で、C919 はボーイング 737 やエアバス A320 と同じような本格的な大型旅客機と説明されています。ですが、この説明は専門的ではありませ ん。専門的には、ARJ21 は米国 FAA の航空規則や欧州 EASA の航空規則の Part 135 で承認されるべ き航空機で、C919 は Part 121 で承認されるべき航空機です。「承認されるべき」と表現している のは、両機ともまだ FAA や EASA の型式証明(TC: Type Certificate)を取得できていないからで す。Part 121 の安全規則は Part 135 のそれよりさらに厳しくなっています。

 

Q: 中国は「欧米メーカーがほぼ独占する民間航空機市場に楔を打ち込みたい」と思っているようです が、どんな国家戦略をもっているのですか?

 

A: 中国は、スポーツの分野ですでに欧米を凌駕していて、政治や経済、軍事、宇宙開発、IT 技術など の分野でも欧米に迫っています。ですが、中国がどうしても欧米を越えられない分野がありま す。それが、世界に信頼される本格的な民間航空機を製造することです。本格的な民間航空機と して世界に信頼されるには、現実には FAA や EASA の型式証明を取得できなければなりません。 現在、そのような民間航空機を製造できるのは米国のボーイングと欧州のエアバスに限られています。 ロシアや中国も民間航空機を製造していますが、FAA や EASA の型式証明を取得できていません。そ のために、ロシアや中国の民間航空機は世界市場でほとんど普及していません。両国とも主に自国 内で運航しています。中国は、世界に信頼される民間航空機を製造できなければ真の先進国とは いえないことに気づき始めています。今や、本格的な民間航空機を製造することは中国の「国家 的な夢(National Dream)」になっているといっても過言ではありません。

 

Q: FAA や EASA の型式証明を取得するには何が必要なのでしょうか?

 

A: あまり知られていませんが、FAA や EASA の型式証明を取得するにはトップダウン思考ができる優秀な 技術者が多数いなければなりません。民間航空機は、人類最高の叡智による創造物といえるから です。さまざまな要素技術を集めた高度で複雑なシステムですが、製造にはそれぞれの要素技術を効 果的に統合(integrate)できる、広い視野と深い洞察力が必要になります。それを可能にする のがまさにトップダウン思考です。FAA や EASA は、民間航空機に型式証明を付与する際にトップダウン思 考で設計されているかどうかを審査します。

 

Q: 「トップダウン思考で設計されているかどうか」というのは、具体的にどういうことですか?

 

A: 民間航空機のような高度で複雑なシステムは、生半可な知識や技術では製造できません。ヒューマンファクター (Human Factors)でいう「4P の原則(4P’s Principle)」に則った体系的な考え方が必要にな ります。4P とは、Philosophy(理念)- Policy(方針)- Procedure(規則)- Practice(実 践)のことです。4P の原則とは、「これらを高位のレベルから低位のレベルに向けてすべて首尾一貫 させること」です。トップダウン思考の語源は、高位のレベルを優先させる 4P の原則にあるともいえ ます。逆に、「4P の原則に則らない非論理的で非効率な考え方」がボトムアップ思考です。民間航空 機がトップダウン思考で製造されているかどうかは、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部の考え方 を審査すればすぐにわかります。

 

図.2 4P の原則 

 

Q: FAA や EASA は、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部の考え方をどのように審査するのですか?

 

A: FAA や EASA には、型式証明の審査に際して意見を聴く外部諮問委員会があります。諮問委員会 は、シカゴ条約付属書(ICAO Annex 1~18)の規定に精通した航空業界のさまざまな組織や団体か らの代表で構成されます。FAA や EASA の審査担当者は、製造国の航空機メーカーや航空当局の幹部と の面接を行って、トップダウン思考で民間航空機の製造を指揮できる能力と資質があるかどうかを見 極めます。結果は諮問委員会に報告され、委員たちにより大所高所に立った審査が行なわれま す。審査に係わった委員や審査内容の詳細は公にはされません。

 

Q: 型式証明の審査の結果は、製造国の航空機メーカーや航空当局にどのように通知されるのですか?

 

A: 明文化はされていませんが、一般の試験や審査と違って不合格通知はされません。審査に合格し た時にのみ報告されます。審査に合格できる見込みがない場合には、製造国の航空機メーカーや航空 当局は時機をみて取得を断念して経費を節減する必要があるようです。

 

Q: 中国は C919 の型式証明を EASA に申請しているそうですが、取得できる見込みはありますか?

 

A: 中国が EASA に申請しているのは、C919 がエアバスの A320neo を意識して設計されているからだと思 います。C919 はボーイングの 737MAX とは違って、操縦システムに A320neo と同じようなサイドスティック (Sidestick)を採用しています。欧州連合(EU)が経済の面で中国に友好的であることも理由 の1つかも知れません。ただし、C919 が EASA の型式証明を取得するには越えにくい高いハードルが あります。

 

Q: 高いハードルとはどういうものですか?

 

A: FAA と EASA が型式証明の付与に関して相互承認協定(Harmonization)を結んでいるということ です。かつては、ボーイング機が操縦棹と操縦輪を採用しているのに対してエアバス機がサイドスティックを 採用するなど、FAA と EASA の間では航空機の設計方針に関する抜き差しならない対立がありまし た。そのため、米国の航空会社がエアバス機を運航できないなどという経済的な弊害を生んでいま した。FAA と EASA が技術的な対立を棚上げにして政治的に妥協したのが相互承認協定です。この 協定により、EASA は FAA の承諾なしに単独で C919 に型式証明を付与しにくくなっています。

 

Q: FAA が C919 の型式証明を審査するとすれば、どのように審査するのですか?

 

A: 4P の原則に則って、最初に中国の航空機メーカーや航空当局の幹部の Philosophy(理念)を審査す ると思います。ここでいう Philosophy とは、幹部が民間航空機の乗客や乗員、ひいては地上の 住民の生命の保護を重視する理念をもっているかということです。第二次世界大戦直後に国連の 設立とほぼ同時に制定されたシカゴ条約の付属書(ICAO Annex 1~18)は、このような Philosophy にもとづいて制定されています。FAA の外部諮問委員会が型式証明の審査に際して中国の航空機メ ーカーや航空当局の幹部の Philosophy を重視することはいうまでもありません。

 

Q: 第二次世界大戦の戦勝国でもあり国連の安保理の常任理事国でもある中国が、シカゴ条約の底流と なっている Philosophy を理解していないことがあるのでしょうか?

 

A: 安保理の常任理事国がシカゴ条約の Philosophy を理解しているとは限りません。このことは中国 自身が十分にわかっていると思います。中国のリージョナルジェットである ARJ21 が FAA の型式証明を取 得できていないことも、中国は納得していると思います。同じように、安保理の常任理事国であ るロシアの民間航空機も、これまで FAA の型式証明の対象になったことがありません。中国やロシアが 完全な民主主義ではなく専制主義に近い体制であることとも、けっして無関係とはいえません。

 

Q: 次の、Policy(方針)についてはどうでしょうか?

 

A: ICAO Annex 1~18 では、「技術中心の考え(Technology-centered Concept )」ではなく「人間 中心の考え(Human-centered Concept )」を優先する方針が貫かれています。かつてボーイングが 777 の型式証明を取得する際に、NASA のヒューマンファクターの専門家が「人間中心の設計」になっていな いことを指摘したことがあります。ボーイングは 777 の設計の全面変更を余儀なくされました。 C919 は「技術中心の設計」であるエアバス A320neo の模倣とも揶揄されています。C919 が「人間中 心の設計」であるかどうかは、ICAO や FAA が大いに関心をもっていると思います。

 

Q: Procedure(規則)についてはどうですか?

 

A: 中国はこれまで、エアバス機やダグラス機の下請け製造や JAL と ANA との合弁整備会社の設立を経験 しています。これらの経験を通じて、欧米の民間航空機の設計図面や製造工程、材料に関する情 報を入手しているはずです。これらの情報でエアショーに出展できる程度の民間航空機を製造するこ とは可能ですが、長い期間の運航に耐える安全で持続可能な機体を製造できるとは限りません。 FAA は、中国が ICAO Annex に準拠した航空法を制定しているかどうかを審査すると思います。

 

Q: 最後の、Practice(実践)についてはどうですか?

 

A: 安全で持続可能な民間航空機を製造するには、航空機メーカーと航空当局が民間航空機の運航方式や 整備方式、品質管理方式、要員の訓練方式についても十分な経験と知識をもっていなければなり ません。加えて、航空会社に対する航空機メーカーの支援体制も必要です。中国がこの分野で実力が あるかどうかは未知数です。FAA はこの分野でも厳しく審査するはずです。

 

Q: その他、中国に関して特筆すべきことはありませんか?

 

A: あります。我々が目にする視野の範囲で中国を侮ることは決してできないということです。現在 の中国は、ICAO 事務局長という ICAO のトップの職責に女性職員を派遣しています。これは、中国 がシカゴ条約の理念を理解して世界の航空界をリードしたいという意欲の現われとも考えられます。 それに、ボーイング 737MAX がたて続けに 2 件の墜落事故を起こした際にも、中国は世界に先駆けて 737MAX の耐空性(Airworthiness)の欠如を指摘しました。その後、FAA は 737MAX を運航停止せ ざるを得なくなりました。私見ですが、中国が民間航空機を製造して世界をリードできる真の先進 国になるには、トップダウン思考を極めなければならないと思っています。なぜなら、トップダウン思考 は「究極の民主主義の理念」といえるからです。その時は中国が専制主義から民主主義の国に脱 皮する時であり、平和を望む世界が期待していると思います。

 

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中国が民間航空機を開発
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2023/01/19

HuFac Solutions, Inc.

マイクロソフトCEOの記者会見

2023-01-19   (2016-12-10作成)

Q: 読者の方から貴重な情報が寄せられたそうですね?

 

A: 先日、この安全情報で、弊社代表が安全工学会で「人間中心の自動化」に関する講演をするとい うお知らせをさせていただきました。その関連と思われますが、航空界で永年活躍された方から 下記のような情報をいただきました。先ずはそのまま紹介させていただきます。

 

 

 今日の日経のインターネット情報で、添付の記事が出ていました。マイクロソフトは、最近の、特に自動運転車 の開発に対して、社会的な責任を前もって表明する必要を感じたと思っています。グーグルは自動 運転車の実験で事故を起こしましたが、「やられた」と感じているのではと想像しています。日経 のインターネット情報のコピーを添付します。

 

Q: 日経のインターネット情報とはどういうものですか?

 

A: 下記にそのまま紹介させていただきます。

 

 

 人間中心の AI めざす 「代替」より「能力拡張」

米マイクロソフト CEO に聞く2016/11/29 付

 人工知能(AI)の開発レースで先頭集団の一角を占める米マイクロソフトが今夏に公表した独自の開発原則 が注目されている。人間の「置き換え」ではなく「能力の拡張」を目指す立場を鮮明にし、開発 企業としての説明責任の明確化やプライバシーの保護、偏見の排除などを掲げた。狙いや課題は何か。 英紙ファイナンシャル・タイムズ(FT)との共同インタビューに応じたサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)に聞いた。 

 

図.1 マイクロソフトのナデラ CEO

 

なぜ開発原則を作り、公表したのですか。

 

「AI の開発を進めるにあたり、北極星のように動かない原則た。AI はパソコンや携 帯電話、インターネットに匹敵する『ネクスト・ビッグ・シング』だ。すべての人々、あらゆる産業を大きく変え る力がある。だが、社内には技術や応用例に関する資料はあっても、AI をどうとらえるべきかと いった高い次元で書かれたものがなかった。我々が AI を巡るすべての課題の答えを知っているわ けではもちろんないが、議論のきっかけになればと思い、公表した」

 

AI で何を目指しますか。

 

「AI の研究者は人間の『置き換え』を目指すのか、それとも『能力の拡張』を目指すのかを選択 しなければならない。我々は後者にすべてを懸ける。能力を拡張するといっても、あらゆるシステム を動かすのにいちいち人間が関わるという意味ではない。自律型のシステムは今後ますます増えてい く。人間の幸福とは何かを考え、その増進に役立つ『人間中心』の発想を核に設計するという意 味だ」

「重要なのは人間が必要と判断すれば、いつでもシステムを止められるようにすること。予想外のトラ ブルにも対応できるように、AI がどのような仕組みで動くのかを把握することも大切だ」

 

― 「人間中心」というと聞こえはいいですが、テクノロジーが得意なのは自動化。つまり、機械によ る人間の置き換えです。顧客が AI を導入するのもコスト削減が目的ではないですか。

 

図.2 マイクロソフトの AI 開発項目 

 

 「ある仕事が機械に置き換わり、コストが削減された場合、そこには余剰が生まれる。1つの解決策 はその余剰に課税し、最低収入保障として再配分する方法がある。一方で、新たに生まれる仕事や、 機械には簡単には置き換えられない仕事もある。医療の世界でいえば、“医師”の仕事は自動化で きたとしても、看護師や介護福祉士などは人が足りない。AI が普及した社会で一番希少になるの は、他者に共感する力を持つ人間だ」

 

「いつの時代も、新技術が登場すると雇用への影響が議論されてきた。今回は 2 つの点でこれまで と違う。1つは対象がホワイトカラーであること。もう1つは変化が次の世代ではなく、いまの世代が現 役の間に起きることだ。どの国も企業も抽象論ではない雇用対策や職業訓練の議論を今から始める 必要がある」

 

― IT(情報技術)業界だけで解決できない課題も多いです。

 

Q: この記事の背景をどう読みますか?

 

A: トップダウン思考で大局的に考えなければ、この記事の背景を的確に読めないと思います。従来から のボトムアップ思考で考えると、グーグルやテスラモーター、わが国の自動車メーカーが推進している技術中心の自 動運転の実験車が死亡事故を含むいくつかの事故を起こしていることから、マイクロソフトは今後の AI の開発方針を変更すると言っているとも解釈できます。その解釈は必ずしも間違っていませんが、 トップダウン思考で考えれば、もっと大きな背景が浮かび上がってきます。 

 

図.2 グーグルの自動運転実験車の事故

 

Q: ナデラ CEO は「人間中心の発想」という言葉を使い、「社内には技術や応用例に関する資料はあって も、AI をどうとらえるべきかといった高い次元で書かれたものがなかった」と述べていますが、 マイクロソフトにはこれまで「人間中心の自動化」の発想がなかったのでしょうか?

 

A: ナデラ CEO は記者会見でそのように述べたのかも知れませんが、それには謙遜の気持ちも含まれて いると思われます。彼は、欧米の報道機関を前にした別の記者会見の場で、「人間中心の自動化」 の原則の歴史を詳しく説明しています。その説明を披露する前に、ナデラ CEO が発表した「マイクロソフ トの AI 開発 10 原則」を原文のまま下記に引用することにします。これは、航空のヒューマンファクターの分 野ですでに広まっている「人間中心の自動化」の原則そのものといえます。 

 

 

・ AI must be designed to assist humanity.

・ AI must be transparent.

・ AI must maximize efficiencies without destroying the dignity of people.

・ AI must be designed for intelligent privacy.

・ AI needs algorithmic accountability so humans can undo unintended harm.

・ AI must guard against bias.

・ It’s critical for humans to have empathy.

・ It’s critical for humans to have education.

・ The need for human creativity won’t change.

・ A human has to be ultimately accountable for the outcome of a computer-generated diagnosis or decision

 

Q: 「人間中心の自動化」の原則の歴史は古いのですか?

 

A: 少なくとも 1990 年代には、ヒューマンファクターや AI の研究者の有志が熱心に議論していました。彼等は、 それまでに推進されていた「技術中心の自動化」に疑念を抱いていました。マイクロソフトの創始者であ るビル・ゲイツやアップルの中興の祖であるスティーブ・ジョブズもその一員か、少なくともその影響を受けて いるはずです。

 

 ビル・ゲイツは、インド系の研究者とも協力して、「ウィンドウズ(Windows)」というヒューマン ファクターの原則に合った OS(Operating System)を開発して、マイクロソフトを世界的な大企業に押し上げ ました。ウィンドウズは「人間中心の自動化」を実現したコンピュータと人間のインタフェースといえます。スティー ブ・ジョブズは、生前に自ら語っていますが、ヒューマンファクターの専門家です。考え方の違いで一度はアッ プルを追放されましたが、再び戻って「i-phone」という「人間中心の自動化」の原則に合ったモバ イル端末を開発しました。つまりは、ナデラ CEO はこういった先人の方針に沿って「人間中心の自動 化」の必要性を世界に訴えたとみることもできます。

 このように、「人間中心の自動化」の企業化 で大成功をおさめた企業もありますが、産業界の多くは頑なに「技術中心の自動化」に邁進して います。現在、自動車の自動運転を推進しているグーグルやテスラモーター、わが国の自動車メーカーも、その 部類に入っているといえます。

 

Q: これまで、ヒューマンファクターは事故や災害の防止といったリスクマネージメントに役立つだけのものと思っていま したが、それだけではないのですね?

 

A: 産業界の技術者や経営者がヒューマンファクターの定義や原則をよく理解できないから、ヒューマンファクターの活動 に消極的なのだと思います。理解できないことには関わりたくないというのは、人間の悪い性癖 の一つです。プライドが高い技術者や経営者は特にその傾向が強いようです。

 

Q: わが国の政府は自動車の自動運転を成長戦略の一つに掲げていますが、これは間違いなのです か?

 

A: 弊社は、これまで一貫して現在の「技術中心の自動化」による自動車の自動運転を否定してきま した。ロボティックスなどの AI の推進も同じです。政府が推進すべき真の成長戦略は、「技術中心の自 動化」ではなく「人間中心の自動化」といえます。米国社会や世界も、今般のマイクロソフト CEO の発言 でやっと気づかされるのではないかと思っています。

 

Q: ところで、「人間中心の自動化」の原則は、なぜ実践されてこなかったのですか?

 

A: 原則の記述が抽象的でわかりにくいために、技術者が現実のシステム設計に反映できないからだと思 います。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズはそれを克服して企業化に成功しました。彼等と一般の技術 者との違いは、「技術中心の自動化」から脱却できるかどうかだと思います。

 

Q: 「技術中心の自動化」から脱却するにはどうすればよいのでしょうか?

 

A: 脳の機能をよく理解して、人間の能力がコンピュータにはるかに優ることを知ることから始まります。 そうすれば、「技術中心の自動化」が如何に理に適わない自動化であるかがわかります。現代社会 は、あまりにもコンピュータの能力を過信しています。

 

Q: 御社の代表はそのことについて安全工学会で講演したのですか?

 

A: 3 名の講師によるセッションでしたので、1人あたりの講演時間が 30 分と短かく、下記のような航空 界における自動化の動向を話すだけでした。それでも、話の冒頭にマイクロソフト CEO の記者会見の話を しておきました。

 

 

 コンピュータの高性能化と軽量化によって、現代の大型民間航空機は高度に自動化されている。だが、 これまでの自動化は技術中心の自動化(Technology-centered Automation)であるために、パイロ ットとのインタフェースにおいてさまざまな安全問題を惹起している。理由は、技術中心の自動化がパイロッ トを自動制御のループの外に置いているために、パイロットの脳が不活性化して新たなエラーが生まれてい るためである。世界の航空界のヒューマンファクターの専門家は以前からこの問題に気づいており、対策と して人間中心の自動化(Human-centered Automation)への転換を提唱している。しかし、その概 念がまだ抽象的にしか示されていないために、現実の航空機設計には十分に反映されていないと いえる。本稿では、脳の潜在意識にまで踏み込んだ新しいヒューマンファクター(Human Factors)の理論を 展開することにより人間中心の自動化の概念を具体的に解説するとともに自動化設計の指針にも 言及してみたい。この試みは航空機の分野だけでなく他の産業分野の技術者にも参考になるはず である。

 

Q: 安全工学会での皆さんの反応はどうだったのですか?

 

A: 極端な言いかたをすれば、わが国の研究者や技術者のほとんどが、エラーをする人間を自動化でコンピ ュータに置き換えれば安全になると考えています。つまりは、「技術中心の自動化」しか視野に入れ ていないといえます。そのために、弊社の考えに拒否反応があると思っていましたが、皆さんの 評判はそう悪くはありませんでした。さらに議論を深めたいという方もおられますので、今後に 期待しています。

 

Q: 御社は、今後どのように「人間中心の自動化」を世に広めようと考えているのですか?

 

A: とてつもない目標ですので、弊社のような一企業では難しいと思っています。ですが、今般のマイ クロソフト CEO の発言は有力な追い風となります。「人間中心の自動化」を目指そうという企業や団体 が増えれば、弊社が具体的な推進のやり方をアドバイスさせていただきたいと思っています。

 

Q: 「人間中心の自動化」の原則は、システムの自動化だけではなく、他の分野にも応用できるのですか?

 

A: 現代社会では、あらゆる分野で広い意味の自動化がなされています。一例をあげれば、マニュアルで規 定した標準手順による生産の「流れ作業」があります。その中では、作業者によるさまざまなエラ ーで問題が起きて効率が低下しています。わが国の企業は「一人屋台方式」などという工夫で対処 しようとしましたが、理論的な裏づけがないためにうまくいっていないようです。結局は、ISO9001 などのマニュアル主義の管理手法に戻っています。弊社は、すでに企業の生産工程に「人間中心の自動 化」の原則を応用する試みを開始しています。

 

Q: 「人間中心の自動化」でないために起きた事故が実際にあるのですか?

 

A: 事故例をあげれば数限りありません。わかりやすい例をあげれば、福島第一原発の核燃料メルトダウ ンがあります。意外かも知れませんが、原発は「巨大な自動化システム」です。人の手をほとんど借り ずに、主にコンピュータによる自動化システムで電力を生産しています。運転員は主に異常時のために配置 されているという、典型的な「技術中心の自動化」です。福島第一原発の事故では、地震による 全電源喪失で狼狽した運転員が誤って非常用復水器の弁を閉じてメルトダウンが起きました。被害額は とてつもない額にのぼっています。福島第一原発を「人間中心の自動化」にしていれば防げたか も知れないと思うと、やり切れない気持ちになります。原発の再稼働の議論がされていますが、 その前にそのことを冷静に考えてみなければなりません。残念ながら、「人間中心の自動化」の原 則で設計されている原発は、世界に1基も存在しません。自動車の自動運転の延長線にも多くの 深刻な事故が予想されますが、政府や自動車業界が世の中の潮流の変化に早く気づくことを願っ ています。 

 

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2023/01/17

HuFac Solutions, Inc.

 イエティ航空 ATR72-500 が墜落

2023-01-17

Q: どのような事故ですか?
A: 2023 年 1 月 15 日、ネパールのイエティ航空 YT691 便(ATR72-500))がポカラ国際空港の滑走路 12 への最終 進入段階で墜落しました。ポカラ国際空港は本年 1 月 1 日に開港しましたが、同便は以前の空港と の間に流れるセティ川の土手に激突して炎上しました。現地の報道によると、パイロットは最初に滑走路 30 への進入を準備した後で滑走路 12 への進入を航空管制に要求したとのことです。同空港の標準 計器到着方式(SIA: Standard Instrument Arrival procedure)によれば、同便は最初に旧空港 に設置されている POK VOR をイニシャル進入位置(Initial Approach Fix (IAF))として 087°の方位 角(Heading)で通過した後に、滑走路 12 に向けて右旋回しなければならないことになっていま す。新空港は旧空港の東南東に位置しています。その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着 陸していました。1 月 12 日の YT677 便(ATR72)だけは、空港の北側を飛んだ後に滑走路 12 に着 陸していました。現時点では、搭乗者 72 名のうち 68 名の死亡が確認されています。

図.1 イエティ航空の事故機と同型機

 

Q: これだけの情報では事故原因を推察するのは難しいと思いますが、何か手掛かりになる情報があ りますか?

 

A: その日の YT691 の前の便はすべて滑走路 30 に着陸していたというのに、YT691 だけが滑走路 30 へ の進入を準備した後で滑走路 12 への進入を要求したという情報が気になります。直前の便も滑走 路 30 に着陸したのですから、風は滑走路 30 の向かい風だったはずです。それなのにあえて追い 風となる滑走路 12 への進入を要求したというのは、大きく回り道して滑走路 30 に着陸する余裕 がなかったからだと推測されます。つまり、パイロットは滑走路の変更を要求した時点ですでに何か 操縦の困難性を認識していて、滑走路 12 にそのまま緊急着陸したかったのだと思います。

 

Q: ところで、滑走路の数字は何を意味するのですか?

 

A: この数字は滑走路の指示標識といいます。航空機の進行方向(離着陸方向)から見た滑走路の方角 を表しています。離着陸時の航空管制とのやりとりなどで使われます。航空機の運航に重要な情報です。例えば、滑走路 12 は真北を 0°とする時計回りの方向(120°)に向けた滑走路を意味し ます。滑走路 12 と滑走路 30 は同じ滑走路で、向きが 180°異なるだけです

 

Q: パイロットはなぜ航空管制に緊急事態を宣言しなかったのでしょうか?

 

A: 推測ですが、当日の YT691 便が置かれていた特殊な状況に関連している気がします。

 

Q: 「特殊な状況」とはどういうことですか?

 

A: 公式には確認されていませんが、当日の YT691 便では年配の女性副機長の機長昇格チェックが行われ ていたという地元消息筋の情報があります。チェックされていた副機長が操縦していたとすれば、原 因不明の操縦の異常を感じても大袈裟に緊急事態を宣言しにくかった可能性があります。副機長 が操縦の異常を審査教官に話していたとしても、プライドが高い審査教官が大袈裟に振舞うことを 躊躇した可能性もあります。副機長が操縦の異常を感じたのは、滑走路の変更を要求した時点よ りそれほど前のことではないと思われます。

 

Q: 航空機が進入時に遭遇する事故としては CFIT(Controlled Flight Into Terrain)がよく知られ ていますが、この事故は CFIT とは考えられないのですか?

 

A: CFIT とは、パイロットの錯視や錯覚といった脳の潜在意識(Subconscious Mind)で起きる事故で す。パイロットが航空管制に明確に滑走路の変更を要求している状況からは、パイロットが潜在意識で行 動していたとは考えられません。CFIT の可能性はないと思われます。

 

Q: 事故原因が CFIT でないとすれば、航空機を墜落させる原因は他に何があるのですか?

 

A: 主翼の失速(Stall)が最も疑われます。主翼を失速させる要因は2つあります。①主翼の空力 形状の異常と②パイロットによる誤操作です。

 

Q: トップダウン思考の事故原因分析では、その先どのように事故原因を絞り込むのですか?

 

A: トップダウン思考とは、事象を広い視野と深い洞察力で考えて問題解決を探ることです。広い視野で ATR 社製の機種に注目してみれば、ATR42 シリーズや ATR72 シリーズはこれまで主翼前縁(Leading Edge) の着氷が原因で何件か失速による墜落事故を起こしていることがわかります。

 

図.2 ATR72 の主翼前縁の着氷

 

Q: ATR42 や ATR72 では、主翼前縁の着氷を防ぐ対策はとられていないのですか? 

 

A: 主翼前縁の除氷ブーツ(Deicer Boots)など、さまざまな防除氷装置が装備されています。除氷ブ ーツは、主翼前縁の着氷をセンサーで感知してエンジンからのニューマティック(高温高圧空気)でゴム製のブーツを 自動的に膨らませることで着氷を除去する装置です。ところが、これまでの米国の国家運輸安全 委員会(NTSB)による事故事故調査で、ATR42 や ATR72 の除氷ブーツが機能不足であることがわか りました。主翼前縁における除氷ブーツの長さが設計時の2倍必要であるとのことです。FAA は直 ちに ATR42 シリーズと ATR72 シリーズに対して耐空性改善命令(AD)を発効して、改修と設計変更を指 示しました。

 

図.3 ATR42 と ATR72 の防除氷装置

 

Q: 事故機では AD の改修が実施されていたのですか?

 

A: 事故機は 2007 年 8 月に登録されて、その後にいくつかの航空会社で転売されています。AD の改 修が実施されていなければ転売はできません。AD の改修は実施されていたと思います。

 

Q: それなら、他に何が事故原因として考えられるのでしょうか?

 

A: 2つ考えられます。①AD の改修内容がまだ不十分であるか、②パイロットが除氷ブーツの作動スイッチを入 れ忘れていた、ということです。②の原因による事故は現実に何件か起きています。

 

Q: 除氷ブーツがうまく機能しなければ、航空機の操縦にどのような影響があるのでしょうか?

 

A: NTSB による過去の類似事故の調査では、「補助翼の逆効き(Aileron Reversal)」という深刻な 操縦不能に陥ると指摘されています。

 

Q: 「補助翼の逆効き」とはどのような操縦不能ですか?

 

A: 補助翼が取り付けられている主翼部分の前縁に着氷があれば、空気の流れが乱れて後方の補助翼 の揚力に影響を及ぼします。極端な場合には、操縦輪(Control Wheel)を回して補助翼を操作 しても機体が思う方向とは逆に旋回するという現象が起きます。

 

Q: 「補助翼の逆効き」が起きると、パイロットはどのような心理になるのですか?

 

A: ヒューマンファクターの専門家はよく知っています。操縦輪を回せば航空機が所望の方向に旋回するという 現象などは、専門的には制御則(Control Law)といわれています。制御則は訓練の成果として パイロットの脳の潜在意識に刷り込まれます。パイロットが緊急時に潜在意識に反して行動することは容 易ではありません。ほとんどの場合、「補助翼の逆効き」が起きるとパイロットはパニックに陥って航 空機を失速させてしまうと考えられています。

 

Q: 報道されている一般人がスマホで撮影した映像では、機体が失速で錐揉み状態(Spin)になってい るようには見えないのですが、これはどういうことですか?

 

A: 通常は、航空機が失速すると錐揉み状態に陥って墜落します。これも推測ですが、パイロットがポカラ の市街地に墜落しないよう必死に努力していたのではないかと思います。人口が密集する市街地 に墜落すれば、地上で甚大な被害がでることになります。弊社が羽田空港の東京都心上空進入ルー トに懸念をもつのも、東京都心で同じような事故が起きる可能性があるからです。

 

Q: パイロットが除氷ブーツのスイッチを入れ忘れたとすれば、乗客が乗る通常便でパイロットがチェックされることと 関連がないのでしょうか?

 

A: 無関係とはいえないと思います。弊社代表が勤務していた JAL でも、パイロットのチェックをしていた DC-8 による通常便で進入時に空港の着陸灯に脚を接触させるという事故がありました。事故の詳 細は、公式の事故調査報告書でも報告されていて秘密ではありません。チェック飛行では、パイロットが 緊張するだけではなく飛行前の点検作業の分担が乱れる可能性もあります。このことがパイロットの エラーを誘引しないとはいえません。

 

Q: チェック飛行にパイロットのエラーを誘引する要因があるのなら、多くの乗客が搭乗する便でなぜ行なわれ るのでしょうか?

 

A: パイロットのチェックは頻繁に行なわれています。最近は一部がシミュレータで行なわれるようになっています が、機長昇格チェックのように路線の習熟度を確認するチェックはシミュレータでは行なえません。チェックだけの ために飛行させることは多大な経費を要します。それだけに、チェック飛行におけるヒューマンファクターの研 究は重要といえます。JAL における事故の調査では、この点は特に勧告されませんでした。

 

Q: ATR72 や ATR42 はわが国でも使われているのですか?

 

A: ATR72 や ATR42 は世界のコミュータ航空業界でも人気のあるリージョナルジェット機の1つです。わが国のコミュー タ航空会社もすでに使っていますし、今後も導入の計画があるようです。それだけに、わが国の航 空界や社会もこの事故に関心をもつ必要があります。 

 

Q: これまでのお話はすべて推測の域を出ないと思いますが、この事故の公式調査は今後どのように 行なわれるのでしょか?

 

A: シカゴ条約の付属書(ICAO Annex 13)に則って、ネパールの航空当局とフランス航空当局が事故調査を主 導します。これまでの経験から、米国の NTSB も協力すると思われます。フランスや米国の当局にはトッ プダウン思考ができる人材が揃っているはずです。これから回収される飛行記録の調査から、これ までのお話とは異なる事故の真因が明らかになる可能性もあります。ですがそうだとしても、こ れまでのお話は今後の航空安全の推進のために決して無駄にはならないと思っています。

 

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イエティ航空 ATR72-500 が墜落
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2023/01/06

HuFac Solutions, Inc.

 ボトムアップ思考の事故調査

2023-01-06

Q: 表題はどういうことですか?

 

A: 2022 年 12 月 15 日、北海道・知床沖で同年 4 月 23 日に起きて乗客乗員 20 人が死亡、6 人が行方 不明となっている知床観光船 KAZU I の事故で、運輸安全委員会(JTSB)は事故調査の経過報告 書を公表しました。報告書は、船の甲板と船底をつなぐハッチ蓋がしっかりと閉まっていなかった ことから揺れによって蓋が開き、高い波を受けた際に海水が船底部分に入り込んだと考えられる としています。船底部分はエンジンが置かれた機関室など 4 つの隔室に分かれていますが、それぞ れを区切る壁に穴が開いていたために海水が船底全体に広がって沈没に至ったと分析していま す。やがてハッチ蓋が外れて客室の窓ガラスが割れたことも、さらに大量の海水が流入した原因と考 えられるとしています。ハッチ蓋がしっかり固定できなった状態だったことについては、事故の 2 日前に行われた救命訓練の際に他の観光船運航業者の社員が認識していたとしています。JTSB は、ハッチ蓋が閉まらないまま出航した原因や改善策を検討する必要があると指摘しています。 

 

図.1 引き揚げられた KAZU I の状況 

 

Q: この経過報告書の内容が「ボトムアップ思考の事故調査」というわけですか?

 

A: そうです。JTSB が事故原因を結論づけた思考過程には著しい論理性の欠如がみられます。事故の 真因は論理的な分析によらねば探れません。そのために、事故調査には論理的なトップダウン思考が 求められます。どうやら、JTSB にはトップダウン思考で事故を分析できる適任の人材がいないようで す。この事故に限らず、JTSB による事故調査はほとんどが非論理的なボトムアップ思考で行なわれて いるように思えてなりません。

 

Q: 経過報告書の結論はどのような点で論理性に欠けているといえるのですか?

 

A: 船を転覆させた船体への浸水の原因を「船の甲板と船底をつなぐハッチ蓋がしっかりと閉まってい なかったため」と結論づけている点です。経過報告書にあるハッチ蓋の損傷状況からトップダウン思考 で分析すれば、「ハッチ蓋は閉められていた」と推定されます。

 

Q: 経過報告書では、ハッチ蓋の損傷状況はどうだったとされているのですか? 

 

A: 経過報告書の 41 ページに、外れて行方不明になったハッチ蓋のヒンジの船体に残された部分の破断面 の写真が掲載されています。破断面の状況から、JTSB はヒンジ部分の破断を「脆性(ぜいせい)破 壊」と分析しています。

 

図.2 ハッチ蓋のヒンジ部分の破断面 

 

Q: 脆性破壊というのはどのような現象ですか?

 

A: 固体材料に力を加えると変形して、加える力を大きくしていくと破壊します。材料の変形には、 力を取り除くと元の形に戻る弾性変形と、力を取り除いても変形したままの形を保つ塑性変形が あります。塑性変形を生じず瞬間的に壊れる現象を脆性破壊(Brittle Fracture)といいます。

 

Q: ヒンジ部分が脆性破壊したという JTSB の分析は納得できるのですか?

 

A: 納得できます。図.2 の破断面は典型的な脆性破壊の様相を呈しています。ですが、脆性破壊の原 因に関する JTSB の分析は納得できません。JTSB は、悪天候下の波浪でハッチ蓋がハッチ蓋煽られてヒン ジ部分のストッパーが何回か打ち付けられたためと考えているようです。

 

Q: JTSB が考えるような原因では脆性破壊は起きないのですか?

 

A: ヒンジ部分はアルミ合金で造られています。ハッチ蓋が波でストッパーまで煽られても、ヒンジ部分にアルミ合金 の弾性限界を瞬間的に超えるほどの大きな力が加わるとは思えません。JTSB が考える原因でヒンジ 部分が壊れたとすれば、破断面に何らかの痕跡が残るはずです。

 

Q: 波浪による力以外に、アルミ合金の弾性限界を瞬間的に超えさせる要因があるのですか?

 

A: JTSB が思いついていない要因が1つあります。それは、船体の内外の圧力差が大きくなることで 起きる爆発に近い現象に因るものです。そのような現象が起きたとすれば、ハッチ蓋は閉められて 部分的にでもロックされていたと考えねばなりません。JTSB が考えるようにハッチ蓋がロックされていな かったのであれば、ヒンジ部分が脆性破壊することはなかったといえます。。

 

Q: JTSB の見解とは真っ向から異なりますが、確信があるのですか?

 

A: 弊社の分析の根拠は、図.2 のヒンジ部分の破断面だけではありません。経過報告書の全体をトップダ ウン思考で俯瞰すれば、さまざまな根拠からハッチ蓋が閉められていたと考えざるを得ないことがわ かります。残念ながら、紙面の都合ですべての根拠を挙げることはできません。

 

Q: ヒントとして、大きな圧力差というのはどの程度か教えていただけませんか?

 

A: アルミ合金の弾性限界を瞬間的に超えさせるのですから、かなり大きな圧力差といえます。数値で いえば、何十気圧というレベルです。ここまでお話すると、勘の鋭い読者の方は大きな圧力差の要 因が何かイメージできるはずです。

 

Q: JTSB の分析と違ってハッチ蓋がしっかりと閉められていたとなると、海水はどのような経路で船体 に浸入したのですか?

 

A: 船底の外板破損部分からの浸水と考えざるを得ません。経過報告書では、図.3 に示す 7 箇所で船 底の外板破損が認められたとされています。JTSB は、上からの注水試験でいずれの破損も船体内 部に通じていないことを確認して、外板破損部分からの浸水はなかったをしています。

 

図.3 船底の外板破損箇所

 

Q: JTSB の分析に納得できるのですか?

 

A: 納得できません。船体内部に通じていた外板破損が少なくとも1箇所はあるはずです。過去形で 表現しているのは、JTSB の調査の前に船体内部に通じる経路が塞がってしまった可能性があるか らです。実は、トップダウン思考で考えれば図.3 からも船体の内外に大きな圧力差が生じたことがわ かります。理由については、やはり紙面の都合で割愛させていただきます。

 

Q: 「この事故に限らず、これまでの JTSB による事故調査はほとんどが非論理的なボトムアップ思考で 行なわれている」と述べていますが、類似のケースは他にもあるのですか?

 

A: 最近あった例をお話します。2008 年 6 月 23 日、千葉県犬吠埼沖 350 キロの海で福島県いわき市の まき網漁船第 58 寿和丸(135 トン)が転覆・沈没して、3 人が救助されたものの 4 人が死亡、13 が 行方不明になった海難事故があります。JTSB は事故の 3 年後に「波による転覆」と結論しました が、潜水艦衝突説が浮上するなど、関係者は現在でも JTSB の結論に納得していません。

図.4 第 58 寿和丸の海難事故

 

Q: 潜水艦衝突説についてはどう思いますか?

 

A: 事故が起きた海域では、どこかの国の潜水艦が秘密裏に潜航していた可能性も否定できません。 ですが、潜水艦を保有するほどの国が悲惨な死亡事故を黙秘しているとは考えられません。

 

Q: 関係者が JTSB の結論に納得しないのはどのような理由からですか?

 

A: いくつかあります。① 波が原因なら海水が甲板に溢れるはずですが、生存者はそのような事実 はなかったと証言している、② 生存者は事故直後に大量の燃油が水面に漂っていて泳ぎずらか ったと証言している、③ 事故当時に波はあったが、船を転覆させる三角波は認められていな い、④ 船は波の進行方向とは逆に傾いて転覆している、⑤ 生存者は事故時に構造物が壊れる音 を聞いたと証言している、などです。

 

Q: JTSB が関係者や社会を納得させる結論を出せない現実をどう思いますか?

 

A: 国連の国際民間航空機関(ICAO)は、事故防止マニュアル(Accident Prevention Manual)の中で、「政 府や航空会社は事故調査や安全管理の部署にトップダウン思考ができる優秀な人材を配置すべき」と 規定しています。トップダウン思考ができる人材しか責任追及を避けて再発防止を優先させる事故調 査や安全管理ができないからです。トップダウン思考ができる人材なら、KAZU I や第 58 寿和丸の事故 の原因が船底の外板の破損であることに気づくはずです。ICAO の事故防止マニュアルと同様のマニュアルは、 船舶の分野でも国連の IMO が発効しています。結局のところ、わが国の JTSB は国際標準(Global Standard)のレベルの事故調査をできていないといえます。JTSB が第 58 寿和丸の事故をトップダウン思 考で調査できていれば、KAZU I の事故を防止できたと残念に思えてなりません。

 

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2022/12/12

HuFac Solutions, Inc.

 増え始めた理解者

2022-12-12

 

Q: 表題はどういうことですですか?

 

A: 弊社は 2006 年に設立以来、一貫して「トップダウン思考の問題解決」を社会に提唱してきました。そ の理由は、弊社代表が JAL に在籍時に、トップダウン思考で判断できていれば JAL 御巣鷹山事故など のわが国における航空機事故の多くを防止できたという思いに至ったからです。その後、トップダウ ン思考は国家間の紛争やウィルス感染問題、憲法改正に代表されるわが国の安全保障、統一教会などの 宗教問題、地球温暖化問題などといった社会的難問の解決にも必要不可欠であることに気づきま した。そのためにヒューファク安全情報を発信してトップダウン思考の重要性を解説してきましたが、現実 には思うように理解されていません。現在、世界の科学技術者は量子コンピュータによる人工知能(AI) を社会的難問の解決に役立てようとしています。ですが、スーパーコンピュータにも優る量子コンピュータでさ えエラーが不可避であることに気づき、エラー許容ロジック(Error-tolerant Logic)の開発に躍起になっ ています。トップダウン思考とは、人間がエラーと共存して「安全で豊かに、生きがいをもって」生きて いくための人類最高の知恵といえます。人類がトップダウン思考を理解して判断、行動できれば、社会 的難問を解決するうえで量子コンピュータの開発を待つよりはるかに現実的であると考えています。最 近になって、このような弊社の考えに関心をもってトップダウン思考を真剣に理解したいと願う方々 が増えてきました。これらの方々は、弊社にトップダウン思考のさらなるわかりやすい解説を期待し ています。そこで今回は、多くの人々にとって身近な事例を引用することで、トップダウン思考とボト ムアップ思考の違いをよりわかりやすく解説してみたいと思います。蛇足ですが、トップダウン思考とは わが国の社会で流布されている「上意下達(じょういかたつ)」という意味ではありません。

 

Q: 「トップダウン思考を真剣に理解しようと願う方々」とはどのような人たちですか?

 

A: 読者のお一人から安全情報を転送されて関心をもたれた鈴木昌則氏とお仲間の方々です。鈴木氏 は、最近の安全情報を自身が主催するインターネットのサイト( https://www.it-news-pro.com/ の「安全 情報」)で多くのお仲間に拡散して下さっています。この度、同氏から下記のようなメールをいただき ましたのでご紹介します。なお、同氏のお名前の公表についてはあらかじめ了承を得ています。

 

 

いつも興味深い内容ありがとうございます。いつも「トップダウン思考」とは何かと思い読んでいます が、Google で「トップダウン思考」を検索したら、下記のような記事がありました。

*仕事が遅い人は「ボトムアップ思考」のワナに陥っている。“行き当たりばったり” が遠回りになる 理由。

 

ボトムアップ思考に対して、まず最初にゴールを確認し、そのゴールへ最速で到達するための方法、つま り “最良のルートを策定してから仕事を始める” という思考があります。これが「トップダウン思 考」です。先ほどの「求められている商品案の方向性をまずは上司に確認する」という仕事の進 め方が、こちらに該当します。では、どうしてトップダウン思考は、ボトムアップ思考よりも的確な方法 で、効率的に仕事をこなすことができるのでしょうか。トップダウン思考による問題解決を提案して いる、株式会社ヒューファクソリューションズは、トップダウン思考の必要性を次のように説明しています。 実社会の問題は、学校で習う問題のように「正解が一つだけ必ず存在する」というものとは限り ません。(中略)コンピュータやマニュアルでは代行できない脳の高度な情報処理がトップダウン思考であり、 実社会で必ず必要になる局面があるのです。 (引用元:株式会社ヒューファクソリューションズ|用語の解説-トップダウン思考とボトムアップ思考)

 

Q: 鈴木昌則氏とは、どのような方ですか?

 

A: わが国の某一流企業で活躍された技術者とうかがっています。退職後も情熱を失うことなく、社 内外のお仲間を集って最新の技術や経済に関する情報を社会に広く発信されています。このよう な優秀な方に弊社のトップダウン思考に関心をもっていただき、光栄に思っています。

 

Q: 鈴木氏からのメールの内容をどう思いますか?

 

A: トップダウン思考に関する弊社の考えを的確に理解していただいていると思います。ボトムアップ思考が 手段重視型であるのに対して、トップダウン思考は目的重視型と考えてビジネス活動に活用していただ いても差し支えありません。ですが、以下の「多くの人々にとって身近な事例」による解説を聞 いていただければ、トップダウン思考とボトムアップ思考の違いがさらに深く理解できると思います。

 

Q: 「多くの人々にとって身近な事例」とは、どのような話ですか?

 

A: 空港のチェックインカウンターで見かける、機内持ち込み手荷物(Carry-on Baggage)に関する航空会社担 当者と乗客とのやり取りの1例です。弊社代表が JAL の技術研究所で刊行したヒューマンファクター・ガイド ブックでも、トップダウン思考の説明のために引用しています。

 

図.1 空港のチェックインカウンターでの光景

 

乗客 :長さ 70cm の棒ですが、機内持ち込み手荷物として預けられますか?

担当者 :機内持ち込み手荷物の大きさはタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm と規定されています。 申し訳ありませんが、お預かりできません。

乗客 :それなら、棒をタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm のダンボール箱に入れてもらえば預かって もらえるのではないですか?

 

Q: このやり取りは、「トップダウン思考とボトムアップ思考の違い」とどのような関連があるのですか?

 

A: まず言えることは、この航空会社担当者はトップダウン思考ではなくボトムアップ思考でしか仕事をでき ていないということです。「機内持ち込み手荷物の大きさの上限はタテ 40cm、ヨコ 25cm、高さ 55cm」という国際民間航空輸送協会(IATA)の規定や航空会社の運送約款を紋切り型に乗客に伝 えるだけで、乗客に対するサービスについてはあまり配慮していません。

 

Q: 「棒をダンボール箱に入れれば規定をクリアできる」というアイディアを申し出た乗客は、トップダウン思考で 考えているといえないのですか?

 

A: そうとはいえません。なぜなら、機内持ち込み手荷物の大きさの規定ではそのようなアイディアを想 定していないからです。

 

Q: 結局のところ、航空会社担当者と乗客の両方とも、規定の本来の目的を知らないためにトップダウン 思考ではなくボトムアップ思考といえるのですか?

 

A: その通りです。ですが、規定の本来の目的を知らないのは必ずしも航空会社担当者と乗客の責任 とはいえません。なぜなら、わが国の航空界では規定の目的が現場に広く周知されていないから です。規定の目的が周知されていないのは、わが国の航空界にトップダウン思考の人材がいないから といえます。

 

Q: そもそも、「規定の本来の目的」とはどういうものですか?

 

A: 機内持ち込み手荷物に関する規定は、ある航空機事故を契機に厳格化されました。その事故と は、1985 年 8 月 22 日に英国のマンチェスター空港で起きたブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便(ボーイング 737-200)の 火災事故です。 

 

図.2 ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故

 

Q: この火災事故は、どうして機内持ち込み手荷物の厳格化に結びついたのですか?

 

A: 同便は、マンチェスター空港からの離陸滑走中に左側エンジンからの出火で離陸を中止しました。直ちに空 港の駐機場に戻りましたが、その途中でさまざまな失敗が続いて搭乗者をうまく緊急脱出させら れませんでした。搭乗者 137 名中 55 名が死亡しています。死亡者の多くは、火災による火傷で はなく、燃えた機内備品から発生した有毒ガスによる麻痺で脱出できませんでした。脱出を妨げた要因の1つとして、真っ暗な機内で通路に散乱した手荷物が通路の脱出誘導灯を見えにくくし たことが指摘されています。脱出誘導灯は、緊急時に向かうべき脱出ドアの方向を指示できるよ うに設計されています。乗客は、有毒ガスを避けるために低い姿勢で脱出誘導灯を頼りに通路を 這い進まなければなりませんでした。

 

Q: 英国の事故調査では、どのような勧告がされたのですか?

 

A: それまでの世界の航空界は、航空機からの緊急脱出(Emergency Evacuation)に関してあまり現 実感をもっていませんでした。航空機の型式証明を取得する際にはいわゆる「90 秒ルールの証明」 が必要ですが、火災の際の有毒ガスの発生は想定されていません。この事故で衝撃を受けた英国 の事故調査当局(AIB)は、火災時の緊急脱出に関して多くの勧告をしました。その1つに「機 内持ち込み手荷物は、頭上の収納庫に収納するか前席の下に置くこと」という勧告があります。 勧告の目的は、緊急脱出の際に機内持ち込み手荷物を通路に散乱させないことです。

 

図.3 機内持ち込み手荷物の収納場所

 

Q: ここまで聞けば乗客のアイディアもボトムアップ思考であることがわかりますが、そうなのですか?

 

A: その通りです。多くの乗客がこのようなアイディアで棒の機内持ち込みを要求すれば、頭上の収納庫 の容量が不足してしまいます。そうなれば、機内持ち込み手荷物に関する規定の目的が損なわれ てしまいます。つまり、乗客の機転が利いたアイディアもボトムアップ思考ということになります。

 

Q: 結局のところ、どうすることが機内持ち込み手荷物の規定に関するトップダウン思考の対応といえる のですか?

 

A: 規定の本来の目的をよく理解して、目的に沿って対応することです。目的をよく理解するために は、航空当局や航空会社の安全担当者がブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故の事故調査報告書を 丹念に読んで、航空界の現場にわかりやすく解説できなければなりません。

 

Q: わが国の航空界はそれができているといえるのでしょうか?

 

A: 必ずしもそうはいえません。一般の国民が頭上の収納庫に収納できない手荷物を前席の下に置か ねばならない理由を航空関係者に聞いても、ほとんどの航空関係者は「緊急脱出の際に手荷物が 歩行の障害になるから」としか回答できないでしょう。ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故の調 査報告書の内容を的確に一般国民に説明できるトップダウン思考の航空関係者がいないからです。

 

Q: 「わが国の航空界にはトップダウン思考の人材がいない」といえる根拠は、他にもあるのですか?

 

  A: 多々ありますが、空港や機内における対応に「深刻な誤り」があることもその根拠といえます。 それは、① 空港の検査場で液体入りのペットボトルなどを一律に没収していることと、② 機内サービ スで飲み物をコップで提供していることです。①については、海外の空港では早くからペットボトルの 中味の検査器が導入されています。②は、日本人の木目細かいサービス精神によるものと思われま す。例外もありますが、海外の航空会社はペットボトルで乗客に飲み物を提供しています。わが国の 航空界も最近は変わっていますが、①と②に疑問をもつ人はほとんどいませんでした。

 

Q: ①と②がなぜ「深刻な誤り」なのですか?

 

A: ブリチッシュ・エアツアーズ 28M 便の火災事故を精査すればわかります。生存者の多くは、手持ちのペットボト ルの飲み物を染み込ませたハンカチやタオルを口に当てて有毒ガスを防いでいました。①や②の状況で は、乗客はそれができなくなります。①をやめればサービスが低下するとか、②をやめればハイジャック 対策が疎かになると指摘する人がいるかも知れません。ですが、火災による緊急脱出の際には有 毒ガスを防げるかどうかが生死を分ける分岐点になります。世界の航空界は、航空安全とサービスや ハイジャック対策を両立させる方策を真剣に模索しています。わが国の航空界も、先ずは①と②が 「深刻な誤り」であることを率直に認めて改革を進める必要がありそうです。

 

Q: これまでの解説でトップダウン思考が奥の深い考えであることがわかりましたが、冒頭の「トップダウン 思考は社会的難問の効果的な解決にも必要不可欠である」ということをもう少しわかりやすく説 明していただけませんか?

 

A: ここで挙げた国家間の紛争やウィルス感染問題、憲法改正に代表されるわが国の安全保障問題、統一 教会などの宗教問題、地球温暖化問題などについては国会の予算委員会などで与野党が討議して います。ですが、いずれも国民の誰もが納得できる解決案には至っていません。その理由を考え るには、与党を図.1 の事例の航空会社の担当者に、野党を機転を利かせた乗客にそれぞれ例えれ ばわかりやすいと思います。2つの例で共通しているのは、当事者のどちらもがボトムアップ思考で 臨んでいるためにトップダウン思考の解決ができていないということです。

 

Q: そのことを1例を挙げてわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: 憲法改正問題を例に挙げて説明します。現在、与野党は憲法 9 条の解釈をめぐって対立していま す。法律の専門家である憲法学者でさえ意見が二分しています。概していえば、憲法 9 条は太平 洋戦争の敗戦国であるわが国の武力の行使と戦力の保持を制限しています。一方、憲法 25 条は 国民の基本的人権である生存権を保障しています。政府与党は、この事実をもって自衛のための 先制攻撃が認められるとして、それを明確にするための憲法改正を主張しています。憲法改正が 戦争の抑止効果を発揮するとも主張しています。野党は、先制攻撃が憲法 9 条が禁じる武力の行 使に該当するとして憲法改正に反対しています。憲法改正が国家間の対立を助長するとも主張し ています。双方の主張がともにボトムアップ思考であるために、現在のところ国民が安心して納得で きる結論には至っていません。

 

Q: トップダウン思考で得られる「国民が納得できる結論」とはどういうものですか?

 

A: 結論を先にいえば、現行の日本国憲法を改正する必要はないということです。憲法改正より必要 なことは、憲法の目的をよく理解して正しく運用することです。それには、生存権を保障する憲 法 25 条に準じて刑法 36 条が正当防衛を認めていることに着目する必要があります。被害を受け る立場の者の行為が正当防衛か過剰防衛かについては、すでに司法界で議論されて一定の結論が 得られています。この議論を与野党が対立する先制攻撃の解釈に援用すればよいのです。正当防 衛か過剰防衛かの判断を支援する技術開発が必要になるかも知れません。

 

Q: 理解者が増えれば、トップダウン思考は社会に広まるのでしょうか?

 

A: そう楽観的には考えていません。トップダウン思考を広めるには、これまでのボトムアップ思考の学校教 育を改革することも必要です。それには大変な時間と労力を要します。この解説でトップダウン思考 の理解を深めた鈴木昌則氏とお仲間の方々がその切っ掛けをつくって下さることを願っています。 他にも弊社がトップダウン思考について出版することを提案される方もおられますが、当面は現行の やり方で理解者を増やしていくことに専念したいと思っています。

 

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2022/11/22

HuFac Solutions, Inc.

 航空ショーで空中衝突

2022-11-22

Q: どのような出来事ですか?

 

A: 2022 年 11 月 12 日、米国テキサス州ダラスの空港で航空ショーに参加していた P63 戦闘機と B17 爆撃機が 空中で衝突して墜落しました。連邦航空局(FAA)によりますと、いずれも第二次世界大戦時に製 造された古い機体ということです。退役したパイロットが両機を操縦していました。両機には合わせ て 5 人から 6 人が乗っていた可能性があります。 全員が死亡しました。事故を受けて航空ショーは 中止され、国家運輸安全委員会(NTSB)が事故の原因を詳しく調べています。 

 

図.1 衝突後に空中分解する両機

 

Q: 航空ショーという特殊な状況で、しかも古い機体どうしの空中衝突であるのに、なぜことさらにここ で話題にするのですか?

 

A: この空中衝突の原因は衝突コース症候群(Collision Course Syndrome)という錯覚で、典型的な潜在 意識のエラーといえます。事故時の映像からは、P63 戦闘機が後方から B17 爆撃機に接近して衝突し たことがわかります。NTSB が調査を担当するようですが、衝突コース症候群が原因であることを特定 して的確な対策を勧告できるかどうかは未知数です。潜在意識のエラーというのはそれほど現代の科 学技術でも理解しにくいエラーといえます。NTSB も理解できないのですから、わが国の航空界の科学 技術者はなおさら理解できないといえます。考えてみれば、エラーのほとんどは無意識の領域、つま り脳の潜在意識で起きていることがわかります。空中衝突に限らず、潜在意識のエラーを理解して的 確な対策を立てなければ、事故を確実に防止することはできません。今回はこの空中衝突を題材 にして、わが国の航空界や社会が目指すべき正しい安全管理についてわかりやすく解説してみた いと思います。

 

Q: 衝突コース症候群というのはどのようなエラーですか?

 

A: 図.2 のように、互いに接近する 2 機の航空機の片方あるいは両方のパイロットの脳の潜在意識で起き るエラーです。相手の航空機が近づいていることをパイロットが視認すると、恐怖心で脳の意識レベルが顕 在意識から潜在意識に変って視野が固定してしまいます。いわゆる、「恐怖心による金縛り状態」 です。視野が固定すると、パイロットは相手の航空機を追い続けることしかできなくなります。その結 果、両機は互いに接近して衝突してしまいます。このエラーは、相手の航空機が大きいほど、つまり パイロットが抱く恐怖心が大きいほど顕著になります。誰もが経験するエラーといえます。

 

図.2 衝突コース症候群

 

Q: 脳の意識レベルはどのような状況で顕在意識から潜在意識に変るのですか?

 

A: 脳の情報処理量(ストレス)が多すぎる状況と少なすぎる状況の両方で顕在意識から潜在意識に変り ます。俗にいえば、「忙しすぎても」、「暇すぎても」脳は潜在意識になります。人間の脳は、あ る量の情報量しか処理できないように進化してきたといえます。 

 

図.3 情報処理量と意識レベル

 

Q: 「誰もが経験する」ということは、日常生活でもよく経験するエラーということですか?

 

A: その通りです。狭い道で人と人が行き交う際にも経験します。一方の人がどちらかに避けようと すると、もう一方もそれにつられて同じ方向に動こうとします。子供が遊ぶ「あっち向いてホイ」 というゲームでも、子供は目の前で動かされる指と同じ方向に顔を動かしてしまいます。どちらも 衝突コース症候群によるエラーの実例といえます。

 

Q: 衝突コース症候群の原因は科学的に解明できるのですか?

 

A: 潜在意識の特性を理解できれば解明できます。ですが、現代の科学技術者の多くは潜在意識の特 性を理解できないようです。

 

Q: 一般的に科学技術者は明晰な頭脳の持ち主のはずですが、なぜ潜在意識の特性を理解できないの でしょうか?

 

A: 弊社もその理由がわからず、永年にわたって考え続けてきました。どうやら、潜在意識の特性はボ トムアップ思考では理解できず、トップダウン思考でしか理解できないためのようです。潜在意識の存在 は 19 世紀にオーストリアの精神科医のフロイト(Sigmund Freud)により発見されました。彼は当時のヨーロッ パ社会には理解されず、生涯にわたって迫害され続けました。人類がまだトップダウン思考で考える ことができなかったからだと思います。現代社会でも、トップダウン思考で考えられる人はあまりい ません。現代社会では、デジタル技術や自動化技術の発達で人々の脳が顕在意識でデジタル情報を処理してエラーをする機会が増えています。潜在意識のエラーによる事故を防ぐためには、科学技術者がト ップダウン思考で顕在意識の特性を理解して安全な社会を構築する必要があります。

 

Q: 現代の科学技術者がトップダウン思考で顕在意識の特性を理解できていないといわれても、人々を納 得させるには具体的な実例が必要ではないのですか?

 

A: 具体的な実例はあります。1971年7月30日に岩手県の雫石町上空で起きたANA 58便(ボーイング727- 200)と自衛隊の戦闘機(F-86F)の空中衝突事故です。この事故でも、22歳の自衛隊の訓練生が 操縦するF-86F戦闘機がANAの727-200に後方から接近して衝突しました。今般の空中衝突と状況 が似ています。この事故では事後に事故調査と裁判が行なわれましたが、訓練生が衝突コース症候 群に陥ったことを指摘する科学技術者は誰もいませんでした。航空事故の調査結果は国連のICAO や米国のNTSBにも報告されますが、やはり同じでした。潜在意識のエラーである衝突コース症候群が原 因とわかっていれば、事故調査と裁判の結果はかなり違っていたはずです。わが国の科学技術者 がトップダウン思考で顕在意識の特性を理解できていない証左といえます。

 

図.4  ANA 雫石事故の新聞記事

 

Q: 欧米の航空先進国では、衝突コース症候群についてパイロットに教えているのですか?

 

A: 教えているようです。カナダの航空当局が発刊しているヒューマンファクターの教科書には、衝突コース症候群に 関する説明が掲載されています。ですが、衝突コース症候群が潜在意識のエラーの一種であるというこ とまでは説明されていません。意外かも知れませんが、「潜在意識のエラー」という言葉を用いている のは世界でも弊社だけです。

 

Q: 世界の航空界は航空事故の原因が潜在意識のエラーであることにまだ気づいていないのですか?

 

A: おぼろげながら気づき始めているようです。そのことは、国際航空法ともいわれるシカゴ条約付属 書(ICAO Annex)の全編(Annex 1~Annex 18)の冒頭に「人間の能力と限界(Human Performance and Limitations )を考慮すること」という記述が追加されていることからもわかります。この 記述は、深く考えれば「潜在意識のエラーについても考慮すること」と同じ意味といえます。

 

Q: 世界の航空界では具体的な変化が起きているのですか?

 

A: もちろん起きています。航空安全は航空機のハードウェアとソフトウェアの両面で実現されますが、ハードウェア では「人間中心の設計」、ソフトウェアでは「プロフィッシェンシー(Proficiency)を重視する訓練」という新し い概念が生まれています。

 

Q: 「人間中心の設計」はともかく、「Proficiency を重視する訓練」とはどういう訓練ですか?

 

A: Proficiency は「習熟度」と和訳されますが、これだけではよくわからないと思います。欧米の航空界では、パイロットに望ましい能力をこれまで Competent と称してきました。Competent とは「知識 とスキルを総合的に兼ね備えた能力」という意味で使われてきました。ですが、このような能力だけ では潜在意識のエラーを防げないことがわかってきました。潜在意識のエラーまで防げる能力として注 目され始めているのが Proficiency という新しい概念の能力です。Competent は顕在意識で知識 とスキルを活用して問題解決できる能力ですが、Proficiency は潜在意識でも知識とスキルを活用して 問題解決できる能力です。Proficiency を養成するために開発された訓練方式が Proficiencybased Training で、米国が開発した AQP(Advanced Qualification Program)もこの種の訓練方 式です。パイロット訓練の本来の目的は潜在意識のエラーを克服して航空機事故を防ぐことですので、 Proficiency-based Training は「トップダウン思考の訓練」といえます。これに対して、潜在意識の エラーを克服できない従来の Competent-based Training は「ボトムアップ思考の訓練」といえます。今 や、世界の航空界は AQP のような Proficiency-based Training を目指しています。

 

Q: 世界の航空界の状況はわかりましたが、わが国の航空界はどうなのですか?

 

A: 弊社代表が JAL の技術研究所にいた時に、当時の航空局(JCAB)と航空 3 社(JAL、ANA、JAS)の 技術系首脳陣を前に本格的なヒューマンファクターの導入を進言したことがあります。本格的なヒューマンファクター の内容を具体的に説明するために、ヒューマンファクター・ガイドブックを発刊しました。

 

図.5  JAL のヒューマンファクター・ガイドブック 

 

Q: 技術系首脳陣を前にした進言は理解されたのですか?

 

A: 理解されたかどうかはわかりません。ですが、その後に JAL の内部で組織改革があり、技術研究 所にあったヒューマンファクターの担当部門が本社の総合安全室に移されて全社的なヒューマンファクターの活動を担 当することになりました。わが国の航空界でも、JCAB が航空輸送技術研究センター(ATEC)という外 郭組織を設立してヒューマンファクターの調査研究を開始することになりました。ATEC の活動には、わが国 の航空会社だけでなく航空機メーカーや航空機関連会社も多数参加することになりました。

 

Q: ATEC では、進言通りに本格的なヒューマンファクターが研究されているのですか?

 

A: 物事がそう期待通りに運ぶとは限りません。弊社がいう「本格的なヒューマンファクターの研究」とは、潜在 意識のエラーにまで踏み込んだヒューマンファクターの研究です。かつて潜在意識の存在を発見したフロイトがヨーロッ パで理解されなかったように、潜在意識の概念はわが国の航空界の科学技術者にも理解されませんでした。残念ながら、ATEC では今でも本格的なヒューマンファクターは研究されていません。

 

Q: ATEC が本格的なヒューマンファクターを理解していないといえる根拠はあるのですか?

 

A: あります。前述のように、米国の FAA はこれまでの Competent-based Training に換えて Proficiency-based Training である AQP を開発して世界の航空界に推奨しています。JCAB もこの ことを認識していて、ATEC に AQP に関する調査研究を委託しています。ところが、ATEC は現在も Proficiency-based Training ではなくこれまでの Competent-based Training を研究し続けてい ます。Proficiency-based Training について研究するには潜在意識を理解できなければならない からだと思われます。これでは本来の AQP を理解できているとはいえません。JCAB もそれを容認 しているようです。恐らく、ATEC の研究者は今般の空中衝突の原因を衝突コース症候群と指摘するこ ともできないでしょう。

 

Q: わが国の航空界が AQP のような Proficiency-based Training を正しく導入できねければ、どのよ うな影響があるのでしょうか?

 

A: 潜在意識のエラーは衝突コース症候群だけではありません。先進的なデジタル技術や自動化システムが航空界 に導入されれば、パイロットや整備士、航空管制官などはデジタル情報をうまく処理できずに潜在意識 でエラーをする機会が増えてきます。そうなれば、これまでとは異なる複雑で対処しにくい航空機事 故が増えて、航空界は高度に自動化された先進技術の恩恵を享受できなくなります。このことは、 わが国の国益の逸失にもつながりかねません。

 

Q: 御社のヒューファク訓練も Proficiency-based Training の一種と思われますが、その効果の一端だけで もわかりやすく説明していただけませんか?

 

A: ヒューファク訓練には潜在意識におけるエラー(錯覚や錯視)を克服できる効果があります。一例を挙げれ ば、潜在意識でぼんやりと見ていれば湾曲してみえる図.6 の平行線が、ヒューファク訓練で直線に見え るようになります。もちろん、衝突コース症候群にも効果があります。

 

図.6 錯視図

 

本情報に関する連絡先: ㈱ヒューファクソリューションズ 

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E-mail: info@hufac.co.jp

 

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航空ショーで空中衝突
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2022/10/31

HuFac Solutions, Inc.

 揺れ動く航空界

2022-10-31

Q: 表題はどういうことですですか?
A: 前々政権による経済成長のためのインバウンド旅客増加政策に呼応して、国交省航空局(JCAB)は 2020 年に東京都心上空の進入ルートを開設しました。インバウンド旅客はコロナ禍で減少しましたが、それでも JCAB は新進入ルート活用の方針を変えようとしませんでした。ところがここにきて、JCAB は方針を 大きく変えようとしています。9 月 21 日の日本経済新聞がその状況を淡々と報じています。です がトップダウン思考で考えれば、実態はそれほど単純ではなく航空界が揺れ動いていることがわかり ます。先ずはその記事を下記に紹介することにします。
 
 国土交通省は羽田空港を発着する航空機について、東京湾の上空を通る新たな飛行ルートを設定す る方針だ。2020 年に導入された都心の上空を飛ぶルートは騒音や安全性に関係自治体の懸念があ る。新たな飛行システムを導入して海上からの発着を増やし、陸地の上を通過する航空機を減らす。 都心の騒音問題を和らげ、訪日客受け入れ拡大の体制を整える。海上を飛ぶ新たなルートは 23 年度 中に方針をまとめる。数年内の運用開始を目指す。羽田空港では国際線の発着数を増やすため に、東京湾上空を飛ぶ主力ルートに加え、都心の上を飛ぶ複数ルートの運用を 20 年 3 月に始めた。騒 音の問題が千葉県などに集中するのを避ける狙いもある。
 ただ、騒音や落下物を心配する住民の 声は多い。国交省は羽田の飛行ルールの見直しや飛行システムの改良を進め、海上を通る新ルートを設け る。ドイツなど世界 17 カ国以上が導入している「RNP-AR」の導入などがシステム改良時の候補とな る。航空機を測位衛星からの信号をもとに自動操縦する仕組みで、多数の航空機が円滑に発着で きるようになる。
 22 年度から航空会社と連携して安全性などを検証する。関係者間の調整を経て 23 年夏~秋にもルート設計や運用に関する素案をまとめる。新しい海上ルートの運用開始後は都心の上 空を飛ぶ航空機をできる限り減らし、海上ルートに移していく。政府は首都圏空港の国際競争力を 高めるため、羽田空港と成田空港の機能強化を進めている。20 年時点の年間発着容量は計約 83 万回で、20 年代後半には計 100 万回に増やす。120 万回前後の米ニューヨーク圏や英ロンドン圏に次ぐ規 模になる。 

 

図.1 都心上空の進入ルート 

 

Q: 記事にある RNP-AR とは何ですか?

 

A: Required Navigation Performance−Authorization Required の略で「測位衛星(GPS: Global Positioning Satellite)からの信号をもとに、航空機に搭載されたコンピュータ(FMS: Flight Management System)が自機の位置を把握しながら計算して飛行する、精度の高い曲線経路を含む 進入方式」のことです。図.2 に、従来からの ILS(Instrument Landing System、計器着陸方