緊急提言

 

2025年 6 月11日

社会サービス科学コンサルタント

株式会社環境システムプランニング 代表取締役 漆原清吉

 

この程の福島原発事故の二審判決に思う

「大地震、巨大津波は天災であるも福島原発事故は予見可能な人災である」

 

 本事故の半年後には既に同内容レポートを発信しておりますが、今回の裁判結果に対し下記、改めて 一提言を申し上げます。

 

はじめに

 

 福島原発事故から14年が経ちましたが未だ抜本的な解決には至っていない状況下においてこの程、東 京高裁は 1 審判決を覆し「巨大津波は予測できなった」との理由から東電旧経営陣の無罪判決が言い渡 されました。永久に論点は「巨大津波は予見できたか?否か?」ですが、そもそも「予見」「巨大津波」 の定義が明確になっておらず、この視点に関して専門家、メディア等から疑問視が出ていない事が不思 議でなりません。 

 

1.「予見」「巨大津波」とは何か?

 

 自然災害ゆえに「いつ、発生するか?」の完全予知は不可能です。しかしながら、過去の東北地方の 巨大津波は解っているだけでも①1896年、明治三陸津波、M8.5 38m ②1933年、昭和 三陸津波 M8.1 28m ③その他、江戸時代には先人が30m以上の山の中腹に「大津波が来た。 これより下に家を建てるな!」の注意書きが残されており(この重要な史実報道はいつのまにか消滅 されておりますが?)結論を言えば「巨大津波の時間予知は不可能でも予見は出来た」はずです。又、 津波の規模は単に大、小で分類されておりますが仮に規模が小さくて損害が大になる予測ならば「大 津波」として捉えるべきです。つまり、最も安全性を重視せねばならい原発施設は「津波規模の大小 の予見・予測」(いずれにしろ、正確な予知は不可能ゆえに)に捕らわれずに、最大限の安全基準・ 防災施策を整えておかねばならなかったのです。

 

2.最大限の安全基準・防災施策とは何か?

 

 原発の最大の安全課題は何か?それは急には運転停止が出来ない事です。一定時間、原子炉を冷却せ ねば安全な稼働停止は出来ないのです。

 では原子炉はどのように冷却するか? 用意している冷却水 をポンプで循環します。このポンプはどのようにして動くか? 常時ならば一般電源を用いますが大 地震等の要因により一般電源が停止した場合は備えている発電機からの非常用電源を使用します。 問題はこの非常用発電機に大津波により海水が被り非常用電源が使用できなくなってしまったのです。

 結果、電気が止まり原子炉は冷却できずに「メルトダウン」を起こし放射能が流出し取り返しのつか ない甚大な事故を引き起こしたのですです。

「電気品は水を被れば終わり」こんな簡単な理屈は小学生でも知っている事ですが「発電機は絶対に水を被らない」と言う非科学的な前提論理から基本的な 安全施策が整備された訳です。ゆえに、裁判論点は「大津波が予見できたか、どうか?」では無く 「何故、非科学的な論証による安易な防災施策になってしまったのか?」この意思決定プロセス検証 が重要であり、最終意思決定者の責任が問われるべきであると考えます。

 そして、今日でもさらに可笑しいと思う事は、地震が発生すると TV 等では「今回の地震により〇〇 原発は一時運転を停止しました」と報道します。本当ですか? 心臓部である原子炉は冷却もせずに 一瞬で稼働停止ができるのですか?この報道には非常な疑問を抱きます。何度も言いますが「原発は 急には止まらないから怖い」のです。

 

3.安全施策への前提課題

 

 今後の更なる詳細な安全施策については専門家に委ねますがその為の前提の議論課題が次の通りです。

 

①「想定外」の言葉の安易な使用が問題

 

 他の課題でも常に違和感を覚える言葉は「想定外」です。そもそも論理上は「事象を想定」をした 上での「外(無い)」であり全く意味不明な言葉ですが何故、この言葉が日常的に用いられるの か?はっきりしております。つまり、「想定」はされても諸事情から対応する事が困難な場合には 「想定外」を使用する事により責任回避が出来るのです。そうでは無く、そこで問題から目をつぶ って逃げるのではなく、もう一つの重要な社会用語である「現実論」を議論にぶつけるのです。

 具体的に言えば、大津波を「想定内」にすると議論は日本全土の海岸線に40M 級の「万里の頂上」 防波堤の設置必要論が生じます。しかし、現実論(物理的、予算的)としては無理です。しかし、 「想定内」と「現実論」の二つの事実を真剣にぶつけ合い議論をする事により「最重要施設の原発 施設(約50か所)だけならば40M 防波堤の設置は可能」(コスト負担議論は別途)なのです。 

 

②全面的に電気エネルギーを頼る今日の防災施策の問題

 

 福島原発事故は全てを電気エネルギーに頼った防災施策からの人災であると考えております。特に 今日の電気社会は電気が止まってしまうから大災害になるのです。繰り返しますが「水を被ったら 電気(非常用発電機)は使い物にならない」を知った上で原子炉の冷却をしようとしたのです。

 (私は以前より非常時に役立たないならば「非常用発電機」では無く「予備電源発電機」と名称変 更せよ!と提言をしております。)ゆえに、我々は今回の大災害の10年前から「原子炉冷却水循 環エネルギーは全てを電気に頼らず、揚水発電設備を併設し非常用発電機が停止した時は常時、高 台に揚水している水を自然落下エネルギーで循環させる施策」を提言しました。

 もちろんの事、こ のシンプルな提言だけ複雑な原発の安全性が担保できる訳でもありませんが何重もの防災システム です。伴い、今日、特に疑問視するのは非常時におけるスマホ等の活用です。さすがに大災害時に は電話機能の停止は想定内のようですがシンプルなショートメッセージの活用を呼び掛けてあって おります。

 しかしながら、例え自身のスマホ・バッテリー機能等は保持されていても基軸であるビ ル屋上等に設置している通信アンテナの崩壊、(特に電源・ケーブル切断)は問題無いのか? 逆 説的に言えば、街中でスマホ機能が保持していれば大災害では無いと言う事です。

 ゆえに今日は電 気エネルギーの崩壊状況も災害指数として設定すべきであると考えます。 何時起こるか解らない大災害に備え、今日の電気万能社会ゆえに国民の防災意識、国の防災施策は 電気が止まった場合を想定し、どうするか!常に考えておく必要があります。

 

以上

 

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